「お前達の使命は、このコギトエルゴスムにグラビティ・チェインを注ぎ復活させる事にある」
その手に在るのは美しい宝飾、否、コギトエルゴスム――女は足元から見上げてくる鋭い視線を、1つ1つ見返していく。
「本星『スパイラス』を失った我々に、第二王女ハールは、アスガルドの地への移住を認めてくれた。妖精八種族の1つを復興させ、その軍勢を揃えた時、裏切り者のヴァルキュリアの土地を、我ら螺旋忍軍に与えると」
女の名は、ソフィステギア。数多の忍犬を従える螺旋忍軍が一。
「ハールの人格は信用に値しない。しかし、追い込まれたハールにとって、我らは重要な戦力足りうるだろう」
そして、ハールが目的を果たしたならば、多くのエインヘリアルが粛清され、エインヘリアルの戦力が枯渇するのは確実となる。
「我らがアスガルドの地を第二の故郷とし、マスタービースト様を迎え入れる悲願を達成する為に、皆の力を貸して欲しい」
ソフィステギアの演説は、如何様に獣の心に響いたか。コギトエルゴスムの装飾品を与えられた犬型の螺旋忍軍達は、一斉に首肯した。
キャァァァ―――。
深夜の裏通り。響き渡った悲鳴は唐突に途切れる。
喉を食い千切られ、血の海に沈んでいるのは若いOL。残業の末、終電に間に合おうと近道を急いだ挙句の不幸は、余りに大きい。
――……う……あ……?
1頭の忍犬の首輪の石が光を放つや、影に変じる。上半身は人型、下半身は馬の胴体という姿の、恐らくは妖精。
「……君達、が……?」
頭を振って周囲を見回した妖精は、こちらを見据える3頭の大きな犬達に気付く。己がどんな状況に在るか、全く見当もつかず混乱の極みにあったが、1つだけはっきりしているのは。
「私を、復活させてくれたのか?」
返答はなかったが、少なくとも敵ではない。石から復活させてくれたのだから、寧ろ味方だろうと判断した。
「……これから、どうすべきだろう?」
やはり返答はなかったが、ついて来いという素振りで、犬達は踵を返す。これに続いた妖精の姿も、程なく夜闇に消えていった。
「リザレクト・ジェネシスの戦いの後、行方不明になっていた『宝瓶宮グランドロン』に繋がる事件が、ヘリオンの演算により察知されました」
定刻となり、徐に説明を始める都築・創(青謐のヘリオライダー・en0054)。
「動物型……犬の姿をした螺旋忍軍の襲撃事件です」
犬型の螺旋忍軍は『コギトエルゴスム』の装飾品を着けている。食い殺した人間よりグラビティ・チェインを奪い、コギトエルゴスムを復活させるのだ。
「復活したデウスエクスは、半人半馬の姿をしています。妖精八種族であるのは間違いないでしょう」
『セントール』という呼称を、ヘリオンの演算は弾き出している。
「まず、襲撃される一般人を守り、螺旋忍軍を撃破して下さい。首尾よく倒せば、妖精八種族のコギトエルゴスムが入手出来る筈です」
事件は終電間際の深夜――とあるオフィス街で起こる。駅への近道で裏通りを通ったOLが襲われるようだ。
「襲撃される方を先に避難させても、別の人が襲われるだけです。救出がより難しくなりますので、襲撃された時点で救援するのが最善でしょう」
犬型の螺旋忍軍は3頭。白、黒、茶色の毛並で、何れも大型だ。
「白がアブランカ・カメリア、黒がアブランカ・ククリ、茶色がアブランカ・オダマキと呼称されているようです。カメリアは螺旋手裏剣、ククリは螺旋忍者、オダマキはウェアライダーの技に似たグラビティを使います」
裏通りは人気こそないが、電灯はあるので深夜でも夜目には困らない。道幅も車が対面通行出来るくらいはあるので、戦闘するのに支障はないだろう。
「ただ、些か難点なのは、螺旋忍軍の狙いは『セントールの復活』が最優先である事です」
具体的な例を挙げれば――攻撃されなかったり、遠距離攻撃や近接範囲攻撃を被る場合は、その攻撃を受けたり掻い潜ったりしながら、一般人を殺してセントールを復活させてしまうのだ。
「そして、どうやら『ケルベロスに近接単体グラビティで攻撃された』螺旋忍軍は、一般人を攻撃しないようですね」
一般人はひどく打たれ弱い。螺旋忍軍はいつでも一般人を殺せるが、近接単体グラビティで邪魔されると、セントールの復活させる手順を行えないようだ。
「コギトエルゴスムが復活した場合、混乱の極みに在るセントールは戦闘を避けるように逃走しようとします。螺旋忍軍は、ケルベロスの足止めに回るでしょう」
それでも、逃走を図るセントールに集中攻撃をすれば撃破は出来ようが……捕縛の余裕はないと見て良い。
「そもそも、一般人を殺させない事が重要です。その点をしっかり踏まえた上で戦うようにして下さい」
螺旋忍軍が妖精八種族のコギトエルゴスムを入手した経緯は判然としない。或いは、他のデウスエクスの思惑が動いているかもしれない。
「妖精八種族のコギトエルゴスムを、こちらで確保出来れば、グランドロンの探索でも有利になるでしょう……皆さんの健闘を祈ります」
参加者 | |
---|---|
据灸庵・赤煙(ドラゴニアンのウィッチドクター・e04357) |
峰谷・恵(暴力的発育淫魔少女・e04366) |
ノチユ・エテルニタ(夜に啼けども・e22615) |
アリャリァリャ・ロートクロム(悪食・e35846) |
尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130) |
堂道・花火(光彩陸離・e40184) |
金剛・小唄(ごく普通の女子大学生・e40197) |
遠野・篠葉(ヒトを呪わば穴二つ・e56796) |
●忍犬見参
深夜も近い時刻――オフィス街のビルは夜闇に沈み、街灯がポツポツと道路を照らすのみ。
カツカツと響くヒールの音はテンポが速く、先を急いでいるのが窺えた。その足音が、唐突に途切れる。
「ひっ……!」
野良犬などほとんど見かけなくなった昨今。それが、道路を塞ぐように大型犬が3頭、何れも唸り声1つ上げず、しかし、牙を剥き出し睨めつける異様。
「ギヒヒ、おいしそうなイヌ!」
だが、OLが悲鳴を上げる前に、犬目掛けて小柄な影が急降下!
(「……残念、結構素早いナ」)
チェーンソー剣の一撃を寸での所でかわされ、アリャリァリャ・ロートクロム(悪食・e35846)はそのまま得物を振り回して威嚇する。
「離れネーように気を付けろヨ」
「え……え?」
「大丈夫、恐れる事は無いよ」
その言葉は、混乱していたOLの耳に酷く沁みた。澱みない足取り路地裏から姿を見せたノチユ・エテルニタ(夜に啼けども・e22615)は、彼女に微笑みすら浮かべて庇うように割って入る。
「貴女は、助かるから」
眼前には3体もの螺旋忍軍。その全てを、確実に攻撃し続けていれば良いだけだ。駆け付けたケルベロスは8人、更にサーヴァントが1体。ほら、きっと簡単。
「犬型の螺旋忍軍なんてのがいるんスね……びっくりッス」
興味津々な口調は、堂道・花火(光彩陸離・e40184)だ。警戒も露に身構える忍犬らは、何れも大型故に可愛いというより寧ろ獰猛そう。
(「やろうとしてる事は見た目以上に凶悪、ちゃんと倒すッス!」)
何より、人命優先。一般人を守るべく、花火はバトルガントレットの拳を固める。
「螺旋忍軍も生き延びるために必死のようですな」
ふらりという風情で姿を現したのは、据灸庵・赤煙(ドラゴニアンのウィッチドクター・e04357)。物腰穏やかな風情ながら、人命が懸っている以上、勿論、手加減する気はない。
「イグニスに良いように巻き込まれて、ゲート潰れた割にしぶといね」
峰谷・恵(暴力的発育淫魔少女・e04366)の言葉はもっと辛辣。まだ、冬とも呼べる時季ながら、黒のビキニにケルベロスコートを羽織っただけの姿で、冷ややかに黒い眼を眇めている。
「人を生贄に人馬を召喚だなんて、呪いの儀式じゃない!」
ピコリ、と大きな狐耳を揺らし、遠野・篠葉(ヒトを呪わば穴二つ・e56796)は憤慨の声を上げる。
(「裏通りでゾンビ犬……じゃなかった、忍者犬に襲われるとか怖すぎでしょ。ばっちり呪ってやっつけちゃうわよ!」)
篠葉にとって、攻撃もヒールも呪いで十把一絡げだ。
「呪い呪えば穴二つよ。安易な呪いには相応の対価が伴うってこと、その身を以て教えてあげるわ!」
メディックの位置で庇う事は叶わぬが、安心させるようにOLの傍に寄添う。
「人、馬……?」
篠葉の言葉に小首を傾げるのはゴリラ……のウェアライダー、金剛・小唄(ごく普通の女子大学生・e40197)。
(「蝶といい魔人といい、妖精って本当になんでもあるよね……」)
光物が好きなウイングキャットの点心は、茶色い忍犬――アブランカ・オダマキの首輪が気になる様子だ。
「もしかして、あれがコギトエルゴスム? とりあえず、デウスエクスに悪用はさせないね!」
「ま、俺は壊すしか能がねえからなあ」
仲間に先んじて、尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)の拳が唸りを上げる。ドラゴニック・パワーを噴射し、加速したハンマーの如く敵を叩き潰さんと。
(「命中率は全部同じ、って事は……」)
「茶色はジャマーだぜ、きっと!」
列の違いも併せて、逸早くオダマキのポジションを特定する。だが、前衛と思しき白と黒に、撃破を優先すべきディフェンダーはいるのか?
ポジションを撃破順位の基準にするケースはよくある。だが、ポジション判明まで、何処から攻撃するかまで定めていない場合も、これ又多い。敵が同程度の強さであれば、キャスター以外は命中率も変わりなく、順位を定める基準には弱い。
「……しゃあねぇ、俺は白殴っとくぜ」
殊、今回は敵が動く前に兎に角攻撃せねば、即一般人が餌食となる。敵が今しも飛び掛からんとしたギリギリの所で、広喜は白のアブランカ・カメリアに初撃を浴びせた。
●盾を潰す
「では、私は黒ですな」
初手が決まれば、後続は速やかに。広喜に息を合わせ、間髪入れず動いた赤煙は黒い忍犬、アブランカ・ククリに接近する。
「ここは通しませんぞ」
的確に殴り付けると同時、縛霊手より網状の霊力を放射し、敵を緊縛せんと。だが、茶色いオダマキへ奔った花火のスターゲイザーが、ククリに阻まれたのは幸か不幸か。
「よし、黒はディフェンダーで確定だね」
すかさず、恵はオダマキにマインドソードを一閃! 理力に秀でる恵は、クラッシャーの位置から確実に光刃で斬り払う。これで、3体全てに攻撃が命中し、ケルベロス達の標的はククリに集中した。
「夜はお前達の味方じゃない。1度でも目にしたなら、もうお前に進む術はない」
一瞥で黒犬の足を止めるノチユ。とは言え、流石に初手から全ての攻撃を命中させるには至らない。
「チィッ!」
スターゲイザーを弾かれ舌打ちしたアリャリァリャを見て取り、篠葉は狙撃の呪い、もとい、メタリックバーストを前衛へ。点心に清浄の翼を頼みながら、小唄もオウガ粒子を放出する。
――――!!
案の定、敵はケルベロスの排除を優先する。デウスエクスも眼力を具えれば、命中率から実戦経験の程を量られる。かつ、点心と魂を分け合う小唄が狙われたのは忍びの合理性か。
「……っ」
カメリアより螺旋の刃を撃ち込まれ、グッと歯を食い縛る小唄。続くククリの氷結の螺旋が呵責なく穿つも。
「……白は、クラッシャーです!」
被ダメージの差異で、残る敵のポジションが読めたのは幸いだった。
――女の子って何でできてるの? お砂糖とスパイス、そして素敵ななにもかも♪
オダマキの突撃はアリャリァリャに遮られたのを幸いに、小唄は無理せず女子力フルチャージ。祈るゴリラ少女の周囲をメルヘンチックな幻影がクルクルと踊る。
ちなみに、ディフェンダーの庇う挙動は反射的で、特定の攻撃を見越したり、誰かを目して庇う余裕はない。更に庇える率は3割程度。一般人を守り切るには、敵に近距離攻撃し続ける事が何より重要と言えよう。
尤も、その点はケルベロス達も抜かりない。スナイパー3名と、攻撃の命中に主眼を置いた編成だ。どの犬担当と定めず、動ける者から順に穿っていく。目まぐるしい攻防の中での臨機応変は、声を掛け合い全員で連携を心掛けるからこそだ。
「かったいッス」
黒犬の傷口を裂かんとして、チェーンソー剣の切り応えに呆れた面持ちの花火。
確かに、動く盾は脅威。それでも、ディフェンダーの撃破から優先した事で、打たれ強いククリを倒すまで苦しい戦いになった。
最低限のダメージなど物ともせず、螺旋力込めた毛針を放つカメリア。オダマキは時に爪牙の重撃を、時に凶的なエネルギー球で同胞の武威を増す。
「有象無象の御霊よ、此処に在れ」
クラッシャーの火力とジャマーのエフェクトは侮れず、篠葉は序盤より回復に専念した。神籬を振って有象無象の御霊を共鳴させるヒールは、確かにながら……癒された者の背中が若干涼しくなったのは、多分季節の所為ではない。
「おっと残念、そこでストップです」
分身纏ったククリに、すかさず赤煙の竜爪撃が奔る。幻影を吹き飛ばした所に突き刺さるノチユのスターゲイザー。
「さっさとぶっ壊してやれ!」
いっそ嬉々として忍犬らへ突っ込んで行く広喜の掛け声に、はいはいと言わんばかりの表情の恵は、一転冷ややかにククリを見据える。
「うん、今なら行けそう……リバースナンバー5から6000まで展開。砲撃術式構築。加速魔法陣三重設置」
恵の矢継ぎ早の宣告に呼応し、これでもかと魔力回路を積載したサキュバスの翼を展開。術式で編み上げた砲身に魔力を収束させる。
「オープンファイア!!」
格納魔術回路展開・巨人穿ち――対大型デウスエクス用試作砲撃魔法。3つの魔法陣を貫き奔る鮮やかな血色のビームは、大型犬程度のククリを圧倒的火力でねじ伏せ、けし飛ばした。
●喰らうもの、砕くもの
――――!!
慟哭が轟く。同胞を喪ったオダマキの雄叫びは悲嘆し、憤怒し、ケルベロスらの動きを鈍らせる。
「点心、頑張って!」
「呪いなら私も負けないわよ!」
ウイングキャットの清浄の翼と同時に、大地に塗り込められた「惨劇の記憶」から魔力を抽出する篠葉。ゴーストヒールは歴としたヒールグラビティだが……篠葉が使うと、更に胡散臭く妖しげになる不思議。
「次は白犬ッス」
「今度こそ、喰ってイイカ?」
ククリの撃破は先を越され、残念そうに眉根を寄せていたアリャリァリャは、花火の言葉に金の眼を炯炯と。
自身を剣と定義するアリャリァリャは、戦闘自体が好きだ。相手が自分を殺害し得るならそれも良し。存在意義を満たし己の血肉となる者に敬意を払い、無暗に貶すのを良しとしない。
アリャリァリャの視線に意図するものを感じたか、カメリアは殺気も露に毛針を放つ。その毒滴る射線を遮ったのは、小唄。
「私がお相手しますよ」
敵には拳で語る。仲間は身体を張って庇う。小唄が両のバトルガントレットを打ち鳴らせば、胸筋もしなやかに躍動する。
ウオォォォォッ!!
猛獣とは目力と咆哮と筋肉とオーラで勝負! 猛々しくもジェットエンジンで急加速した重拳撃を放つ。
「お、オレも負けてられないッス」
小唄の気合に呑まれるのも束の間、気炎万丈、花火の両腕の地獄の炎が燃え上がる!
「火力全開、手加減なしッス!」
地獄の炎は、力任せに燃やすだけが取り柄じゃない! 全力で振り被った炎腕が旋風を描く。燃やすより斬り付けるように白犬の胴を抉った。
「ハウス!」
ガウワゥゥッ!
「痛たた……やはり、帰ってはくれませんか」
オダマキには、赤煙が拳撃と蹴打で戯れてくれている間に――ケルベロス達の攻撃は、アブランカ・カメリアに殺到する!
一気に接近した恵の蹴りがその四つ脚を払うように刈れば、よろめく白犬の頭蓋を砕かんばかりに、高々と跳躍したノチユがルーンアックスを頭上から叩き付ける。
「美味しい!」
それは歓喜だ。肉ごと忍犬の魂を食い千切り、咀嚼し、嚥下する。アリャリァリャに敵を貶める意図はない。殺した相手をおいしく食べるのは礼儀だから。
――――!!
それでも、まだ息ある内から喰われる激痛に、カメリアの絶叫が轟く。白い毛皮が血色に斑に染まる光景に、流石に刹那、顔を顰めた広喜は溜息を吐いて拳を握る。
「俺もてめえらも、壊れるまで任務を遂行する。おそろいだな」
その横顔はもう笑顔だ。全身の回路に青い地獄の炎を充填させ、演算速度を強制的に上昇。回路に掛った急激な負荷も構わず、只管、真直ぐに。
「解析完了、ぶち壊す」
瞬時に看破した構造的弱点を、強拳が穿つ。文字通り吹き飛ばされた白い体躯は、アスファルトの上を滑るように何度がバウンドして、動かなくなった。
●人馬目覚める前に
残るは、茶の毛並のアブランカ・オダマキ1体。
グルルル――。
体勢低く、ケルベロス達を睨み付けるが、逃亡の意思はなさそうか。
「そう、そんなに呪いたいのね」
諦める様子の無い敵の視線からOLを庇い、睨み返す篠葉。カメリアを倒すまで、オダマキの攻撃引き受けていた赤煙に神籬を振って呪う、もといヒールする。
「やれやれ、もう一息ですな」
ホッとした面持ちながら、赤煙の攻撃は変わらず淀みない。
「では、取って置きを……よく噛んでお召し上がりください」
いっそ飄然と、吠え掛かるオダマキの口中に一口大の餅を突っ込む赤煙。
「……え?」
マインドソードで斬り掛かった恵は、眼前の光景に拍子抜けの声を上げるが。
ぐ……がぁ……っ!?
喘鳴し、茶色の忍犬はびくびくと仰け反る。効いている。
ガ、ガァァァッ!!
苦しみ紛れか、広喜に喰らい付くオダマキだが、当人の笑顔は消えない。
「俺が壊れる分には問題ねえ」
不敵を嘯き、広喜は腕部換装パーツ伍式を思い切り振り抜く。尖った先端が毛皮を突き破り、鮮血が飛び散った。
ここまで来れば、回復より一気に攻撃を!
「オレ達の戦いに、妖精を勝手に巻き込むんじゃないっす!」
正義感を叫び、達人も斯くやの一撃を繰り出す花火。小唄のセイクリットダークネスの軌跡を追い、点心のキャットリングが弧を描く。
「必殺、円形脱毛症になる呪いを喰らいなさい!」
多分、プレッシャーを与える獣撃拳だ……多分。
「さぁ、じゃんじゃん呪っていくわよー!」
今回の儀式を呪いと認識して、勝手に同業者認定して対抗意識を燃やしていた篠葉。ネクロオーブを掲げて、ノリノリだ。回復に専念していた時より生き生きしている……多分。
「ダイ、コン――おろーし!!!!」
摩り下ろすが如きアリャリァリャの猛烈な連撃は、撒き上げた破塵に着火、顕現した地獄の窯で魂までこんがりと――それは、炎と重力が織りなす至高の一皿。
「ギヒヒヒ、いただきまス!」
「まだ、息があるよ」
舌なめずりせんばかりに少女が食らい付く寸前、前に出たノチユは尚も戦意衰えぬオダマキを見下ろす。
「僕が気に入らないのは……蘇らせるために命を消費することだ」
断罪の声音は淡々として。
「喩えそれが等価交換でも。僕達に咎める権利がないように、お前達にも奪う権利はないんだよ」
漆黒の髪に星屑が揺らめくように――翼の炎を得物に移す。
「お前達の復活のやり方を、僕は認めない」
生を尊び死を悼む――故に、無闇と苦しみは長引かせない。ノチユの炎撃は、鮮烈に的確に、最後の忍犬に引導を渡した。
「何か、呪い足りなーい」
篠葉の物騒な呟きを、鉄面皮で黙殺してのけるノチユ。
「災難でしたな。もう大丈夫ですぞ」
「あ、ありがとうございました」
一方、OLに大きな怪我はなく、赤煙は救急セットで応急処置する。
そして路上に残されたのは、アブランカ・オダマキの首輪に光っていた石が1つ。小唄はウイングキャットを労いながら、石の方に目を向ける。
「綺麗だね、点心」
「オイシソウ」
「ええっ!?」
やはり物騒に呟くアリャリァリャが飴玉宜しく嚙り付く前に、恵が回収。
「この妖精と話し合うチャンスもあればいいんスけど……」
「セントールだっけ? 侵略の意志がないデウスエクスだったら良いんだけどね」
一安心の様子の花火に対して、敵味方の境が明確な恵は何処か冷めた表情だ。
「仲良くやれっといいなあ」
慎重に伸ばした広喜の機械の手の中で、コギトエルゴスムは密やかに煌めく。守り切れたという充足感に、満面の笑みが零れた。
作者:柊透胡 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2019年2月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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