彼の者を起こすな

作者:洗井落雲

●螺旋の暗躍と目覚める妖精
「お前達の使命は、このコギトエルゴスムにグラビティ・チェインを注ぎ復活させる事にある」
 女が、そう告げた。
 フードを被った女である。女は、足元にかしずく犬のような生き物たちの首に、宝石のようなものはめ込んだネックレスをかける。それは、女の言葉通り、コギトエルゴスムだ。
「本星『スパイラス』を失った我々に、第二王女ハールは、アスガルドの地への移住を認めてくれた。妖精八種族の一つを復興させ、その軍勢をそろえた時、裏切り者のヴァルキュリアの土地を、我ら螺旋忍軍に与えると」
 女が――螺旋忍軍、『ソフィステギア』がそう告げるのへ、配下の犬のような螺旋忍軍たちは、静かに頷いた。
「ハールの人格は信用に値しない。しかし、追い込まれたハールにとって、我らは重要な戦力足りうるだろう。そして、ハールが目的を果たしたならば、多くのエインヘリアルが粛清され、エインヘリアルの戦力が枯渇するのは確実となる」
 ソフィステギアは一呼吸、置いてから、続けた。
「我らがアスガルドの地を第二の故郷とし、マスタービースト様を迎え入れる悲願を達成する為に、皆の力を貸して欲しい」
 その言葉に、配下の螺旋忍軍たちは、静かに頭をたれ、恭順の意を示したのであった。

 それから、ずっと後の事である。
 人が、食われていた。
 人気のない、深夜の路地である。
 一人、夜の家路を行く女性は、突如として4人の螺旋忍軍に襲われ、その命を散らした。
 途端、その首に飾られたコギトエルゴスムが揺れ、次の瞬間には、半人半馬の、甲冑を着た女性が姿を現した。この女性こそが、コギトエルゴスム化していたデウスエクスだ。食い殺された女性のグラビティチェインを得て、力を取り戻したのだろう。
「これは……何事だ?」
 半人半馬のデウスエクスが、混乱した面持ちであたりを見やる。突然の復活に、状況が理解できていない様子の彼女は、次に螺旋忍軍たちへと視線をやった。
「私を復活させたのは……貴公らか。まずは、礼を」
 深く頭を下げる半人半馬のデウスエクスへ、螺旋忍軍たちは一鳴き、吠えると、その首を振って、ついてこいというジェスチャーをした。
「ふむ……なるほど。わかった。貴公らに従う事にしよう」
 彼女がそう言うのを確認して、螺旋忍軍たちは歩き始める。半人半馬のデウスエクスは、そのあとを追うのであった。

●グランドロンの影響
「集まってくれて感謝する。では、今回の事件について説明しよう」
 アーサー・カトール(ウェアライダーのヘリオライダー・en0240)は、集まったケルベロス達に向けて、そう言った。
 曰く、リザレクト・ジェネシスの戦いの後、行方不明になっていた『宝瓶宮グランドロン』だが、そのグランドロンにつながる予知がなされたという。
「動物型の螺旋忍軍たちによる襲撃事件が発生するのだが、どうもその螺旋忍軍が『コギトエルゴスム』を装飾品として身に着けているようなんだ。そして、コギトエルゴスムは螺旋忍軍に襲われて死亡した人間からグラビティチェインを奪い取り、その結果、人馬型のデウスエクスが姿を現すんだ」
 状況から、このコギトエルゴスムが『妖精八種族』のものであることは間違いないだろう。
「動物型の螺旋忍軍たちを撃退して、襲われる人を救ってほしい」
 そして、その副産物として、妖精八種族のコギトエルゴスムを回収する。これが、今回の作戦であるのだ。
 さて、今回予知された事件の現場は、深夜の路地である。仕事が長引き、帰宅が遅くなってしまった女性が、一人、人気のない夜道を歩いているところを、螺旋忍軍たちに襲撃される……という状況らしい。
「事前に女性に状況を説明し、避難してもらえば……と思うかもしれないが、そうなってしまえば、螺旋忍軍たちは別の犠牲者を探すだけだ。そうなれば、予知の範囲外になり救出が難しくなる。危険ではあるが、この女性が襲撃されたところに救援に入るのが、最善だろうな」
 さて、そうなると、ケルベロス達は『女性を守りながら、螺旋忍軍たちを撃退』しなければならない。
 螺旋忍軍たちは、『ケルベロスに近接単体グラビティで攻撃されたターンは、一般人を攻撃しない』という。どうもこれは、近接単体グラビティで邪魔をされると、一般人を殺害することはさておき、コギトエルゴスムを復活させるために必要な行動がとれないためのようだ。
 もし、近接単体攻撃による攻撃が行わなかった場合は、その攻撃を受けたり、かいくぐったりしながら、一般人を殺害、人馬型のデウスエクスを復活させてしまうだろう。
「つまり、『近接単体攻撃で螺旋忍軍たちを足止めしながら戦う』必要がある、という事だ。今回襲撃を仕掛けてきた螺旋忍軍の数は、4体。これをブロックしつつ、戦わなければならない」
 なお、もし人馬型のデウスエクスが復活してしまった場合は、突然の復活に混乱し、戦場から撤退するようだ。螺旋忍軍の目的は、どうもこのデウスエクスの復活のようであるので、人馬型のデウスエクス復活後の螺旋忍軍たちは、その撤退を手助けするように、ケルベロス達を足止めするように攻撃してくる。
 なお、撤退する人馬型のデウスエクスは、撤退までに全力で集中攻撃を仕掛ければ撃破することはできるかもしれないが、捕縛することは不可能だ。加減をした攻撃をしている間に、逃げられてしまうだろう。
「もっとも、重要なのは襲われている女性の命だ。君たちなら、人馬型のデウスエクスが復活するような事態には陥らないと信じているよ」
 そう言ってアーサーは、ひげを撫でた。
「妖精八種族のコギトエルゴスムは、できるだけ多く我々が確保できれば、グランドロンの探索でも有利になるだろう。螺旋忍軍が妖精八種族のコギトエルゴスムを手に入れた経緯も判らない以上、切り札は多く奪っておいた方がいいからな。では、作戦の成功、そして君たちの無事を、祈っているよ」
 そう言って、アーサーはケルベロス達を送り出した。


参加者
霧島・奏多(鍛銀屋・e00122)
シヴィル・カジャス(太陽の騎士・e00374)
ノル・キサラギ(銀花・e01639)
ラティクス・クレスト(槍牙・e02204)
フィスト・フィズム(白銀のドラゴンメイド・e02308)
アリシスフェイル・ヴェルフェイユ(彩壇メテオール・e03755)
霧島・絶奈(暗き獣・e04612)

■リプレイ

●夜闇の魔犬
 深夜、時計の針が12時を指し示すか否か、と言った時間帯。その女性は、一人家路を急いでいた。
 長引いた残業に疲労の残る体であったが、それでも夜の一人歩きは恐ろしい。それに今日は何か、犬の遠吠えも聞こえて、なんだか恐怖をあおるのだ。このあたりに、犬を飼っている家はないはずだから、野良犬の類だろうか。しかし、今日日、野良犬が居るというのも。
 女性がびくり、と体を震わせ、足を止めたのは、ウウ、といううなりを声を聞いたからだ。女性の前方、月の光に照らされて、4匹の犬が、そこにいた。
 女性は思わず、短い悲鳴を上げた。立ちはだかる犬たち、そのある種の愛嬌を感じられる顔は、今は明確な敵意――いや、殺意に染まっていた。
 自らに向けられる悪意。それは一般人である彼女が無自覚に察するほど、強いものである。女性が思わず、一歩、足をひくと、犬たちは再び、ウウ、と唸った。
 大きな犬だ。いわゆる大型犬か……いや、もしかしたら、それよりも大きいのかもしれない。女性は、浮かぶ恐怖も手伝い、犬たちを大きく、とても恐ろしいものと理解した。そしてその認識は、正しい。
 犬の一匹が、じり、と背を低くした。飛び掛かろうという前兆だ。女性は瞳を見開いた。どうする、どうすればいい。このままでは、きっと、間違いなく……。
「犬のデウスエクスが4匹も雁首並べて、仲良く散歩とでもいったところか?」
 女性の絶望的な思考を吹き飛ばすように、声が響いた。
 同時に犬たちと女性、その間に天から何かが飛来する。それは、夜の闇を切り裂く太陽――。
「そうであるなら、猟犬(ケルベロス)である私たちもぜひ混ぜてもらうとしよう」
 シヴィル・カジャス(太陽の騎士・e00374)は手にした『黒天』の刃を突き付け、高らかに、そう声をあげた。
 されに、それを追うように、仲間たちが一気に駆けつける。
 ケルベロス。その言葉に、女性の表情に驚きと、希望の色が宿った。
「遅くなって済まない。あなたを助けに来た、ケルベロスだ」
 霧島・奏多(鍛銀屋・e00122)はリボルバー銃の銃口と己の視線を鋭くデウスエクスたちへと向けつつ、女性へと、自分たちがケルベロスである旨を伝えた。
「冷静に……というのは難しいかもしれないが、あなたは必ず守り抜く。どうか信じてほしい」
 落ち着いた、静かな声音は、女性の精神をいくらか落ち着ける事への役に立った。女性を背後に、ケルベロスたちは、デウスエクスへと対峙する。
 犬型のデウスエクス……『アブランカ・オダマキ』、『アブランカ・ククリ』、『アブランカ・カメリア』たちは、ケルベロス達を警戒するように唸り声をあげる。その身体には、輝く装飾品が飾り付けられており、そのうちのいくつかが、月光を受けて妖しく輝いた。
「あれが……妖精八種族のコギトエルゴスムなのか……?」
 フィスト・フィズム(白銀のドラゴンメイド・e02308)が、輝く『宝石』を見て声をあげる。予知の情報通りならば、あの中のいずれかが、『人馬型のデウスエクス』のコギトエルゴスムなのだろう。
「八妖精がうち一つのコギトエルゴスムは螺旋忍軍が確保していたか……こうなると、他の勢力がすでに残りの種族を確保している可能性は高そうだな……!」
「螺旋忍軍……ハールと手を組んでいるようですが、お互いにお互いを利用し合う関係のようですね」
 霧島・絶奈(暗き獣・e04612)は、静かに微笑んだ。それは、彼女の常なる顔、ポーカーフェイスである。
「急ごしらえの同盟などに、私達が後れを取ることはない。それを教えてあげましょう――それに、ええ。今回の件、些か不快でもありますし」
 絶奈は微笑みを絶やさない。だが、その胸の内に、どのような思いを秘めているのだろう。その主の思いを知ってか知らずか、絶奈のテレビウムは、こくこくと頷いた。
「残りの種族たちの事件に対応するためにも、まずは彼の女性を助けなければいけませんね」
 レフィナード・ルナティーク(黒翼・e39365)が穏やかに言った。背後に控える女性の姿を意識する。できるだけ不安がらせぬように、そして確実に守り通せるように。
「そして――あの人馬の妖精も」
 ノル・キサラギ(銀花・e01639)が、続けた。
「誰かに殺されたり、利用されたり……そんなことは、許される事じゃない」
「ええ、もちろんです」
 ノルの言葉に、レフィナードは静かに頷いた。
 ケルベロスたちにとって、この戦いはすでに、襲われる女性を守る、それだけの戦いではないのだ。グランドロンをめぐる大きな戦い。その中の一つに、この事件は組み込まれている。そして、その一つ一つの事件に対するケルベロスたちの行動が、戦いの趨勢を決めていくはずだ。
「あのコギトエルゴスムの妖精だって、敵対するって決まったわけじゃないんだから」
 アリシスフェイル・ヴェルフェイユ(彩壇メテオール・e03755)が言った。コギトエルゴスムに眠る人馬型の妖精、それらが敵対するか否かは、現時点では全く不明なのだ。
 しかし、もし今彼らを起こす事になってしまえば、倒すことで対応せざるを得なくなる。もちろん、敵対することになるかもしれない。だが、明日の友人となれるかもしれない可能性を持つ者たちを、訳の分からぬまま消滅させてしまうのは、やはり、嫌だ。
「彼の者を起こすな――よ。今は、まだ、ね」
 ガウ、と『オダマキ』が吠えた。残る三匹のデウスエクスたちが、それに応じたように、唸り声をあげながら姿勢を低くする。この群れでは、『オダマキ』が司令塔なのだろう。そして、デウスエクスたちの視線の先には、ケルベロス、そして背後に控える女性の姿があった。
「……ったく、あくまで目標はあの女の人、って事か」
 ラティクス・クレスト(槍牙・e02204)は、少しむっとした様子で言った。戦い、相対する相手に、そちらは優先度が低い、と言われたようなものだ。相手の目的を加味しても、面白くはない。
「まぁ、今は良いぜ。それでな。すぐに目を離せなくしてやるよ」
 携えるは『雷槍《インドラ》』。雷神の名を冠するその武器は月光に輝き、闇夜に鋭い光を走らせる。仲間たちもまた、ラティクスに続き、武器を構えた。
 『オダマキ』が鋭く吠えて、デウスエクスたちもまた、全身に力をみなぎらせる。
 にらみ合う両者。まさに一触即発――その均衡を破ったのは、背後に控える女性が、緊張故に思わず落としたバッグの落着音であった。
 深き夜の闇の中、多くを守るための戦いの火ぶたが、静かに切って落とされた。

●戦いの犬を野に放て
 デウスエクスたちが一斉に駆け出す。目指すのは当然のように、ケルベロスたちに守られた女性だ。ケルベロスたちの包囲網、その突破を目指し走るデウスエクスたちだが、ケルベロスたちがそれを見逃すはずがない。
「予定通りに行こう、みんな!」
 シヴィルが声をあげ、『黒天』を手に駆ける。狙うは『ククリ』の内一体。
「太陽の騎士シヴィル・カジャス、ここに見参! 力なき人々を守る騎士として、女性たちに手出しは絶対にさせない!」
 放たれる、月光の如き弧を描く刃が、『ククリ』へと迫った。たまらず足を止めた『ククリ』の前に、シヴィルが立ちはだかる。行動を妨害された『ククリ』が、シヴィルを睨みつけ、唸った。
「私は別に、犬が嫌いというわけではないが」
 シヴィルが言う。
「罪なき人に害をなすのであれば、別だ!」
 一の矢の失敗――だがデウスエクスたちには、続く二の矢、三の矢がある。どうにかケルベロス達の隙を付こうと足搔くデウスエクスたち。しかし突破を試みる『カメリア』の足元へ、『蒼い槍』が突き刺さる。爆発するように迸る光――生命の蒼に、『カメリア』は足を止めざるを得ない。
「――『銀の雨の物語』が紡ぐ生命賛歌の力」
 その攻撃の主は、絶奈だ。浮かべるのは、狂笑、というべき笑み。『DIABOLOS LANCER=Replica(ディアボロスランサーレプリカ)』、その力を行使するための詠唱、それによって浮かべる、絶奈の本質。
「あなたには触れることすらできないでしょう。生命の力、それによってあなたにもたらされる死――畏れぬのなら、どうぞ」
 次の瞬間には、静かな微笑を浮かべる。圧倒的な威圧感を伴い、絶奈は立ちはだかる。
「お前の相手は、私だ」
 一方、フィストは群れのリーダー、『オダマキ』へと立ちはだかる。携えるは『ドラゴンスレイヤー』、その雷の如き一閃。『オダマキ』は、とっさに飛びずさって回避するが、その斬撃は堅い毛皮へと一筋の傷を残した。『オダマキ』は唸り声をあげつつ着地。そのまま異なる道を探そうとするが、フィストに阻まれてそれもかなわない。
「竜戦士たる私の鎧……そう簡単に突破できると思うな」
 その剣を構え、竜の戦士は高らかに謳う。一切の隙を見せず立つその姿は、ある種不動なる山をイメージすらさせる。自身のウイングキャット、『テラ』へと、フィストは目くばせをする。白い猫は、応じるように一声、鳴くと、残る仲間達を援護するために羽ばたき、飛んだ。
 女性を狙うデウスエクス、その尽くを、ケルベロス達はカバーしていた。残るはもう一匹の『ククリ』であったが、ケルベロス達もまた、戦力を充分に残している。デウスエクスたちも、これを突破することはできない。残された『ククリ』が一瞬、仲間のデウスエクスへと視線を移し、なおも女性をターゲットにとらえようとするが、
「よそ見してる暇なんてないと思うのよ、ほら」
 力強く放たれるアリシスフェイルの『餞刃-origo-』による一撃。巨大な鋏のような刀身が、荒々しく吠え猛る雷のように突き出され、『ククリ』の体を切り裂いた。
「かなくん!」
 アリシスフェイルの呼び声に、奏多は静かに、だがどこか、確かな温かさをもって、
「ああ、任せてくれ」
 と応えた。引き絞る妖精弓。放たれた祝福の矢は、仲間たちへと向かい、その武器に破魔の力を与える。
「アリスも、皆も――誰も傷つけさせやしない」
「あの女性は、戦えない人……こんなことに巻き込まれて、怯えているはずだ」
 ノルは呟き、その右手を掲げた。静かに呟く。『コードX-0、魔術拡張(エクステンド)』。それは、自身の生命力を魔力へと変換するプログラム。増幅されし生命の力は、蒼銀の電撃となって、その手を輝かせる。
「だから、時間をかけていられない……最初から、全力だ! 蒼雷を纏え! 『雷刃結界(カラドボルグ)』!」
 ノルの右腕がブレード状へと変形する。ノルはブレードを、蒼銀の電撃と共に『ククリ』へと叩きつけた。瞬間、爆発するように迸る雷が、蒼の十字架となって『ククリ』を打ち据え、拘束する。そしてその拘束が成った瞬間には、もうラティクスは『ククリ』へと接近していた。言葉も、合図もいらない。お互いを知っているが故にこそ可能な、間断なき連携攻撃!
「貫け《雷尖》!」
 ノルのそれとは、また違った雷が迸る。それは、ラティクスの『闘気』だった。己の闘気を雷へと変え、手にした槍、そして自身へと纏う事で実現する、神域の高速攻撃。
「叢雲流牙槍術、壱式・麒麟!」
 麒麟の牙は、雷は、邪悪なるものを決して逃がしはしない。二つの雷の猛攻に晒された『ククリ』は、この攻撃を耐えることはできなかった。荒れ狂う雷が去った後には、その屍をさらすのみ。
 仲間の死を理解したデウスエクスたちが、悔しげな声をあげる。ケルベロス達へと反撃、そしてその隙をついた女性への攻撃を試みるが、ケルベロス達の防壁が崩れることはない。
「あなた達も必死なのでしょうが……」
 レフィナードがバスターライフルを構え、もう一体の『ククリ』へと、氷の光線を放つ。文字通りに『身を斬る様な』冷気が、『ククリ』の体を打ち据える。
「それでも、あなた達の企みを、そして女性の危機を。見逃すわけにはいきません」
 ケルベロス達は、『ククリ』へと一斉攻撃を仕掛けた。
「行かせてたまるものですか」
 アリシスフェイルの巨大な鋏は、急所を狙った激しい斬撃を加え、続いたノルが『ヘリクリサムの礎』から放たれる急降下蹴撃をお見舞いする。
「まったく、貴様らがただの犬であれば、私はいまごろ貴様らを愛でていたのだろうが」
 シヴィルが嘆息しつつ、裏腹に激しい斬撃を見舞った。『黒天』の刃が目にもとまらぬ抜刀切りを放ち、トドメ(フィニッシュ)の一撃とする。
 一方、
「……ふっ」
 と、息を吐きながら絶奈が無造作に放つ『『親愛なる者の欠片』』、そのスライムの大口が、『カメリア』へと噛みついた。切り裂き、その動きを阻害する一撃が『カメリア』を拘束。テレビウムはダメ押しとばかりに、凶器で思い切り『カメリア』を殴りつける。
 それに続いたのは、レフィナードだった。呪われし武器、その呪詛を載せた斬撃が、『カメリア』を切り裂き、その息の根を止めた。
「ご無事ですか?」
 レフィナードが尋ねるのへ、
「ええ、問題なく」
 絶奈は肩をすくめて見せた。
 さて、群れのすべてを失った『オダマキ』に、起死回生の手段は残されてはいない。悪あがきを見せる『オダマキ』ではあったが、当然ながら、ケルベロス達が、それで倒れるようなことはなかった。
「ダメ押しだ。とどめを刺してくれ」
 奏多の放つ祝福の矢の後押しを受けて、フィストは『ドラゴンスレイヤー』を振るった。激しい一撃が『オダマキ』の体を切り裂き、『オダマキ』が小さくうめく。
「これで、終わりだ」
 フィストの呟き――それを合図にしたように、『オダマキ』はふらりとゆらめいて、次の瞬間には地に倒れ伏した。それから、最後に深く息を吐くと、そのまま動かなくなった。ケルベロスたちが、勝利を手にした瞬間であった。

●守り、得たもの
「お怪我はありませんか」
 穏やかに尋ねるレフィナードへ、女性は頷いて、何度も礼を言った。
「気にしないでほしい。これも私たちの役目だ」
 うん、と頷き、笑うシヴィルである。
「デウスエクスは撃退したけれど、それでも夜道は危険ですから。どうか、お気をつけて」
 ノルは微笑んで、女性を見送った。
 一方、デウスエクスたち残した装飾品を確認したケルベロスたちは、その中から2つの宝石を見つけ出していた。
「コギトエルゴスム……か」
 奏多が呟くのへ、
「半人半馬の妖精、かぁ……」
 アリシスフェイルが静かに頷いて、続けた。
「どんな奴なんだろうな。強いのかな?」
 コギトエルゴスムを眺めつつ、ラティクスが言うのへ、
「良くも悪くも、きっと近いうちにわかるだろうな」
 と、フィストが答える。
「何れにせよ、我々は一枚、カードを得たわけですが――」
 絶奈が言った。
 そのカードがもたらすものが何なのか、今はまだわからない。
 宝石はただ静かに、月の光を浴びて輝いていた。

作者:洗井落雲 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年2月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。