●
追われている、と七宝・瑪璃瑠(ラビットバースライオンエンド・e15685)が理解した時には、既に追い詰められていた。
「なんで……っ、追いかけてくる、のかな!」
息を切らして駆ける瑪璃瑠。
曲がりくねった道へ入って撒いたと思っても、追手はすぐに追いつく。
やがて瑪璃瑠は追い詰められ、路地の一角に追い込まれる。
「……何か、用なのかな?」
瑪璃瑠はようやく、追手であるドリームイーター『ユーオー・シャンゴ』と向き直る。
「用、かぁ――そうだな」
ユーオー・シャンゴは瑪璃瑠の瞳を覗き込むようにして。
「なんだか、嘘の匂いがするみたいだから、かなぁ」
そう言って、瑪璃瑠へと笑いかけるのだった。
「瑪璃瑠さんが襲撃を受けることが予知された」
高田・冴はそのように切り出した。
冴は予知の後すぐに瑪璃瑠と連絡を取ろうとしたのだが、既に連絡はつかなくなっていたのだという。
「急いで瑪璃瑠さんの救援に向かってほしい」
言って、冴は地図を開く。
「瑪璃瑠さんがドリームイーター、ユーオー・シャンゴと交戦しているのはこの裏路地の辺りだ」
夜と言う時間帯、そして地理上の問題から、一般人を巻き込む危険性はないだろうと冴。
「敵は機動力を生かし、狼のように鋭い爪で攻撃を仕掛けてくる」
どういった理由からか逃げ出そうとはしないようだが、用心するに越したことはないだろう。
「瑪璃瑠さんを助けるために、どうか力を貸してほしい」
そう言って、冴はケルベロスたちに頭を下げるのだった。
参加者 | |
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ソロ・ドレンテ(胡蝶の夢・e01399) |
リーズレット・ヴィッセンシャフト(慕情を喰らわば世界まで・e02234) |
新条・あかり(点灯夫・e04291) |
一之瀬・瑛華(ガンスリンガーレディ・e12053) |
月杜・イサギ(蘭奢待・e13792) |
七宝・瑪璃瑠(ラビットバースライオンエンド・e15685) |
比嘉・アガサ(のらねこ・e16711) |
瑞澤・うずまき(ぐるぐるフールフール・e20031) |
●
ユーオー・シャンゴと七宝・瑪璃瑠(ラビットバースライオンエンド・e15685)、金色の視線が交錯する。
「そっか。君がユーオー……」
呟く瑪璃瑠へと、じり、とユーオー・シャンゴは近づいて。
「嘘の匂いがするよ。君の嘘を知りたいなぁ」
獣の瞳を向けるユーオー・シャンゴは、瞬時に瑪璃瑠へと肉薄――、
だが、比嘉・アガサ(のらねこ・e16711)は縛霊手でユーオー・シャンゴの行く手を阻む。
「目には目を、歯には歯を」
軋む縛霊手からこぼれ落ちた紙片はそれぞれが意志を持つかのように踊りだし、そのたびアガサらケルベロスたちに加護が養われる。
「そして嘘には嘘を……ってか」
呟く内に戦場へ飛び込んだ月杜・イサギ(蘭奢待・e13792)は、瑪璃瑠の姿を隠すように背中へ。
「瑪璃瑠に、近寄るな」
ユーオー・シャンゴの紅き爪が、忌まわしきモザイクに満ちた体が瑪璃瑠に触れようとした――それだけでイサギの血は冷え、凍るようで。
月の美しい夜、傷つき疲れ果てて墜落したイサギは瑪璃瑠と出会った……昨日のことのように思い出せるあの時のことが、イサギの心を満たしている。
あの時から片時も離れずに年月を重ねてきたイサギと瑪璃瑠。
(「私は君と出会うことで、『私』になれたのだ」)
だから、瑪璃瑠の心にも体にも、一筋の掻き傷だって付けさせはしない。
無骨なる刃と殺気を、イサギはユーオー・シャンゴへと向けながら問う。
「瑪璃瑠、『あれ』は斬ってもいいモノかい?」
「斬って、兄様!」
叫ぶような瑪璃瑠の言葉に、イサギは迷いなく刃を引いた。
「――嘘は、どんな香りがするのかな?」
新条・あかり(点灯夫・e04291)の手にする仄明るいランプは、嘘と真の境をぼかすかのように曖昧な光。
「きっと、この上なく優しく甘い香りだと思うのだけれど?」
蜂蜜色の瞳を揺らして問いかけても、否、とユーオー・シャンゴは首を振る。
「暴きたくて仕方ない、我慢できない匂いなんだ」
特に、瑪璃瑠のは――とでも言いたげに、飢えた視線を向けるユーオー・シャンゴ。
そんな視線を遮るかのようにタケミカヅチの雷光が走り、壁となって瑪璃瑠とユーオー・シャンゴを分かつ。
一之瀬・瑛華(ガンスリンガーレディ・e12053)はあかりの言葉に微笑をこぼしながら、静かに殺気を広げて黒檀のヌンチャクを握る。
「蠱惑的で、良い香りだと嬉しいですね」
嘘だらけでも、真実だけが正義ではないのだから。
瑛華の差し出すヌンチャクによる一撃は、甘い嘘の中にユーオー・シャンゴを沈めようとするかのように叩きつけられるもの。
稲妻の輝きをミラーボールに代えて舞い踊る紙兵たちのダンスホール。
ソロ・ドレンテ(胡蝶の夢・e01399)はからくりの四肢でそこに躍り出ると、ユーオー・シャンゴの喉笛めがけて切っ先を突きつける。
後退することでユーオー・シャンゴは刺突そのものは回避するが、襟首から覗く膚に薄く赤い線が滲む。
そんな中、駆け付けたリーズレット・ヴィッセンシャフト(慕情を喰らわば世界まで・e02234)は戦場に立つ瑪璃瑠の姿に安堵しながら癒しの光を振りまいて。
「良かった! 間に合った!! 大丈夫か!?」
「ボクは大丈夫だよ。リズさん、ありがとう」
力強い返答に、よかったと表情を和らげるリーズレット。
そんなリーズレットに、ユーオー・シャンゴの本当の気持ちは分からない。
(「けれど、どうか彼も……瑪璃瑠さん達も納得のいく結末が迎えられますように……」)
どうしてか湧き起こるこの感情のために、リーズレットはドレスの裾を煌かせながら戦場に立つ。
そんなリーズレットの脇をかすめてユーオー・シャンゴへ接近するのはウイングキャットのねこさん。
ねこさんの爪はユーオー・シャンゴの爪をかいくぐってひっかき傷を負わせ、瑞澤・うずまき(ぐるぐるフールフール・e20031)は縛霊手から呼び起こした御業によってユーオー・シャンゴを掴み、痩躯を締め上げる。
大切な友達が傷つくところは見たくないから――絶対に助ける、と赤い瞳に力を籠め、うずまきは敵を見据える。
暴かれようとする真実を、秘するために。
●
しつこく振り上げられる爪は、丁寧に真実をラッピングする嘘を剥がす乱暴な手つき。
跳躍を伴って攻撃を行うユーオー・シャンゴを見上げるような恰好になる瑪璃瑠を見るたび、ユーオー・シャンゴの顔が笑みに歪む。
月を見上げる少女を思い出しているのだということすら自分では理解できないユーオー・シャンゴの爪はケルベロスたちを苛み、隠された真実のうち、傷痕だけを抉り出す。
「見せて。みんな、全部、嘘の奥の本当を見せてよ」
続く戦いの中、ユーオー・シャンゴはそればかりを繰り返す。
(「僕の、嘘は――」)
だから、あかりは自分の秘めた嘘を想ってしまう。
愛する人と千年先まで共にいたいのに、明日にでも天罰が下って消えてしまえば良いと、好きな人の好きな人を手に掛けたあかりはそんな嘘を身の内に潜ませている。
この嘘がなければ、あかりの心は大きく穴が開いてしまうから――満月を覆う雲のように、優しい嘘がなければいけないから。
鎖についた鈴はちりちり響いて、広がる様は蔦が這うかのよう。傷を覆い隠すように満ちる蔦の鎖に足を取られながらも、ユーオー・シャンゴは何度目かも分からない攻撃を瑪璃瑠へ向ける。
「――!」
イサギの紅瞳に殺意が宿り、瑪璃瑠の体からこぼれた血がイサギの白い頬を汚した瞬間、イサギの刃はユーオー・シャンゴを捕えて肉の内側に刃を埋め込んでいた。
瑪璃瑠がこぼしたより遥か多くの血がユーオー・シャンゴの口からこぼれ出る。それでも瑪璃瑠を求めるかのように延べられたユーオー・シャンゴの手をイサギが阻めば、イサギの肉が削られた。
「お前、彼女の『過去』の誰であるかなど興味が無い」
脳を止めるのではないかと思えるほどの痛みは肉体の負った傷だけでなく、内側に抱える傷痕へもユーオー・シャンゴが至ったがために。
メリーとリルの二人が側から無くなると思うだけで、こんなにも――端正な美貌には少しの翳りもなく、刀握る手にのみ示される怖れに、一体誰が気付いただろうか。
「瑪璃瑠の何を知っていると?」
それでもイサギは、ユーオー・シャンゴへとそう告げた。
『今』を生き、これからも成長する瑪璃瑠に必要であれば全て受け入れる。
そんな覚悟、イサギは出会った時にとうに決めていた――出会う前のことは尋ねないということも、また。
ユーオー・シャンゴの視線は依然として瑪璃瑠へ。凝視するユーオー・シャンゴの口からは、違う、という言葉がひとつ漏れた。
「同じ顔なのに違う? 昔の瑪璃瑠と? どうして君は今も昔も“彼女”を追うの?」
その言葉に問いを連ねる瑪璃瑠に、ユーオー・シャンゴはかぶりを振るばかり。
何を訊こうとも答えようとしないユーオー・シャンゴに、傷を負ったイサギにと瑪璃瑠の焦燥は募るばかり。
最期に下すべき攻撃の手こそ決断していた瑪璃瑠だったが、どう戦うべきかには考えが至らず。そのために傷を深めていくイサギ。
「大事なお友達をなくすワケにはいかないのでな……」
危ういほどにダメージを受けているイサギを、リーズレットは青と紫の光を差し伸べることで救い出す。
体の奥底を乱されたイサギの心が鎮まっていく……ねこさんが翼を打って作り出した風がバトルオーラ『BubLevi』をゆったりと広げれば、負ったはずの傷がたちまち癒える。
「ありがとな、ねこさん!」
言いながらも、リーズレットの内側には『嘘』という響きに含まれる不穏なものが残る。
何度もユーオー・シャンゴの言う『嘘』という言葉が、リーズレットにはメリーとリルのことを指している気がして――そして、それがダメなことだとリーズレットには否定が出来なくて。
(「だって、私は」)
彼女達がとても好きで、大事で。
一緒に過ごした時間は本物だから。
神様も許してくれる『優しい嘘』だって、世の中にはあるはずなのだから。
「リルの何があんたを引きつけるのか分からない。だからといってリルを傷つけようとするのは絶対に見過ごせない」
悪意に満ちた嘘と優しい嘘。
どちらの存在もアガサは知っていて、ユーオー・シャンゴが昔の瑪璃瑠の何かを求めているのだろうということも分かっている。
でも、そんなのはどうでもいいこと。
「あたしにとってはメリーとリル。それだけで充分」
癒しの色彩に青が増したのは、アガサの癒しがリーズレットの光に重なったから。
青と紫の光に、青と青が連なる中、アガサは思う。
(「あたしは出来れば嘘はつきたくない」)
それでも、黙っていることで本当を語らないことだってあるのだから。
――そして、嘘を否定できないのはうずまきも同じ。
辛い本当よりも、優しい嘘の方がうずまきは好き。
虚勢であっても笑顔を浮かべていれば元気になれることだってあるはず、と思いながら、うずまきは白衣を翻してユーオー・シャンゴの元へ。
「しまい込んだ想いがどこにいくのかはわからないけど……さ」
優しくない嘘は嫌いだけれど、とうずまきは九尾扇を振り上げる。
「ボクの友達はそんな嘘は吐かないと思う――だから護りたいって思うんだ……!」
強烈な一撃と共に、ユーオー・シャンゴへと凍気を叩きつけた。
嘘も、真実も、ソロは決して否定しない。
(「私は、弱い自分を偽って今日まで生きてきた」)
誰にも弱いと言わせないために、強くなるために、そして奴等を討ち滅ぼすために。
崩れそうになった時も、強がりと怒りがソロの体を支えてきた。
「だから私は嘘を否定しない。嘘も信じていればいつか真実になる」
それを証明するために、ソロは魔力制御を解放。
からん、足元で高下駄が鳴り、青い髪が大きくなびく。
なびいた毛先を追いかける魔蝶はランプの光を呑んで闇に輝き、ユーオー・シャンゴへと群がる。
ユーオー・シャンゴの姿そのものすら呑もうとするかのように羽ばたいては消えゆく蝶。
「真実も嘘も表裏一体だ。誰かを騙すための嘘とは限らない。弱い自分を偽って、いつか真実にするための嘘もあるんだよ」
自分の中の心にある、本当に欲しいものこそが答えのはずなのだから――乱舞する胡蝶の輝きを瞳に映しながら、ソロはユーオー・シャンゴへ宛ててそう呟いた。
言葉になる想いも、ならない想いも。
数多が交錯する中であっても瑛華は彼ら彼女らの想いを邪魔せぬように唇を閉ざし、己の持つ力を鎖の形に具現化。
「女の嘘を暴こうなんて……見た目と同じく、若いですね」
くすくすと艶っぽい微笑は、果たして真実なのか偽りなのか。
真実をと乞おうとしたを縛り上げる鎖を引き寄せると、瑛華はユーオー・シャンゴの体に弾丸を撃ち込んだ。
「まさか君は“彼女”を……違うんだ」
呟く瑪璃瑠の元にあるのは、双子座の力。
「ボクの嘘の先に“彼女”はいない、だからもう立つな!」
叫びと共に瑪璃瑠がユーオー・シャンゴへ迫れば、瑪璃瑠の姿が二重に変じ、詠唱が口から零れ出る。
「ユ、メは、泡沫……え」
瞠目した瞳の色は、ユーオー・シャンゴのみが見ていた。
瑪璃瑠の頷きは瑪璃瑠自身へ宛ててのもの。
夢現十字撃の蹂躙に、ユーオー・シャンゴは抗う術はない。
「今は、ボクたちが瑪璃瑠だ」
●
「ユーオー」
消えたユーオー・シャンゴの名を、瑪璃瑠は呼ぶ。
「誰にも知られず消えた瑪璃瑠を覚えていてくれてありがとう」
呟きを虚空へ溶かす瑪璃瑠の頭をアガサはくしゃくしゃっと撫でて、そっと瑪璃瑠から離れる。
うずまきはねこさんと共にヒールをしながらも瑪璃瑠の方をちらちらと気にしている。
「リルさん、無事に済んで何よりですね」
そんなうずまきへ微笑みかけるのは瑛華。
瑛華もまた癒しを施して、静かな夜を平和に仕立て上げる。
あかりは己の中にある嘘を覗き込むかのようにうつむいて、ランプの照らす辺りに傷を残さないよう蔦鎖を伸ばしていく。
――癒しのあらかた済んだあたりで、リーズレットは空を見上げる。
「夜空がとても綺麗だな」
うつし世はゆめ、夜の夢こそまこと……なんて。
思いを馳せる仲間たちから、静かにソロは離れていく。
胸には闘いへの決意。
ケルベロスとして生きる限り続く戦いへの気持ちを新たに、静かにソロは立ち去った。
イサギは静かに、瑪璃瑠の隣に立って。
心を捧げると決めた彼女『達』へと寄り添い続けた。
作者:遠藤にんし |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2019年2月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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