遠吠えが嘶きを呼ぶ

作者:のずみりん

「お前達は、このコギトエルゴスムにグラビティ・チェインを注ぎ復活させる事にある」
 集まった部下たちに螺旋忍軍の女忍は言った。
「本星『スパイラス』を失った我々に、第二王女ハールは、アスガルドの地への移住を認めてくれた。妖精八種族の一つを復興させ、その軍勢をそろえた時、裏切り者のヴァルキュリアの土地を、我ら螺旋忍軍に与えると」
 訝しさを露わにする彼女の部下に人の言葉はない。傍から見れば唸り吠える猛犬に囲まれたはかなき美女にも見える螺旋忍軍『ソフィステギア』だが、彼女が臆することはない。
「ハールの人格は信用に値しない。しかし、追い込まれたハールにとって、我らは重要な戦力足りうるだろう。そして、ハールが目的を果たしたならば、多くのエインヘリアルが粛清され、エインヘリアルの戦力が枯渇するのは確実となる」
 得々と、淡々と説く。牙を収めた『アブランカ』たちの瞳には確かな知性があった。
「我らがアスガルドの地を第二の故郷とし、マスタービースト様を迎え入れる悲願を達成する為に、皆の力を貸して欲しい」
 言葉に頭を下げた獣たちへ、ソフィステギアは手にした輝きを飾り付けていく。
 耳に、首に、頭に、コギトエルゴスムを手にした忍犬たちは夜の闇へと駆けだしていった。

 深夜、首都郊外の間道に遠吠えが響いた。
「あ……?」
 遅くなった帰り道を中年サラリーマンに、十の瞳が襲い掛かる。五つの牙が突き立てられる。
 気づく間もなく食いちぎられる喉笛、空気の抜けるような声が彼の断末魔となった。
 薄い髪と対照的な濃い血とグラビティチェインが飛び散り、呼び水にコギトエルゴスムが変化を始める。
「な、ココは……なンだコレ……!?」
 現れた姿は馬の下半身に人の身体。復活と状況に戸惑うデウスエクスへ、螺旋忍軍の獣たちは吠え声と仕草で示す。
『ついてこい』
 と。
 人馬のデウスエクスは逡巡したが、彼らが復活の恩人である事は間違いない。
 駆け出していく獣たち、それに導かれるように人馬の者は夜道へ蹄をならした。

「リザレクト・ジェネシスの戦いの後、行方不明だいた『宝瓶宮グランドロン』に繋がる予知が見えた。絡んでいるのは螺旋忍軍だ」
 集まったケルベロスたちにリリエ・グレッツェンド(シャドウエルフのヘリオライダー・en0127)はいう。
 予知されたのは動物型の螺旋忍軍による襲撃事件。その主犯たる螺旋忍軍は『コギトエルゴスム』の装飾品を身に着けているという。
「予知では襲撃によって死亡した人間のグラビティチェインを奪い、コギトエルゴスムは人馬型のデウスエクスになる……このコギトエルゴスムが妖精八種族のものであるのは間違いないだろう」
 襲撃による被害は勿論、螺旋忍軍が新手のデウスエクスと組むのは放置できることではない。
 だが、またこれは同時にチャンスでもある。襲撃される一般人を守り、螺旋忍軍を撃破できれば妖精八種族のコギトエルゴスムを手に入れる事ができるだろう。
 妖精八種族のコギトエルゴスムの確保は、グランドロンの探索でも優位を得ることにつながるはずだ。

「事件の被害者は深夜、郊外で帰宅途中の中年男性。襲撃者は動物型の螺旋忍軍……言うならば螺旋忍犬が五体。事前の避難は予知がずれてしまうため、襲撃される瞬間に割り込んで救出、迎撃するのが最善だ」
 この際に重要なのは男性を殺させないことだ、とリリエは言う。
「敵は最優先で被害者を狙ってくる。妨害するには間なく攻撃を仕掛けていくしかないが……運動性は非常に高い。有効なのは単騎狙いの接近戦だけだろう」
 具体的には近接攻撃かつ単体攻撃のグラビティ。これでしか獣は止められない。遠距離攻撃や、近接範囲攻撃はダメージを与えることができても、妨害しきれず一般人は殺されてしまう。
 少なくとも避難が完了するまでは、五体全てを妨害し続ける必要がある。
「幸い、デウスエクスたちの防御力はさほどでもない。強力な攻撃に注意は必要だが、短期決戦で倒せるだろう」
 敵は黒毛の『アブランカ・ククリ』、茶毛の『アブランカ・オダマキ』が二体ずつと、やや強力な白毛『アブランカ・カメリア』が一体。
 防御型の『ククリ』がディフェンダー、攻撃力に優れる『オダマキ』がクラッシャー、四体を中衛から『カメリア』が援護する布陣だ。
「攻撃は螺旋掌や居合切りのような鉤爪での斬撃と分身術。またカメリアは更に螺旋竜巻地獄のような強力な回転突撃を使ってくる」
 見た目は動物そのもののアブランカたちだが、知能も高く連携も得意だ。一つ間違えばケルベロスたちすら喉笛を食いちぎられかねないだろう。

「螺旋忍軍が妖精八種族のコギトエルゴスムを手に入れた経緯は不明です。ただ、これまでの経緯からエインヘリアルの第二王女ハールや、関係したデウスエクスの策略なのかもと、ソフィアは思います」
 これらの調査のためにも、今回の事件は重要だとソフィア・グランペール(レプリカントの鎧装騎兵・en0010)は力を込める。
 コギトエルゴスムの去就はグランドロンの探索に、そして事件の究明へと繋がっていくはずだろう。
「全てを守り、解き明かすために、参りましょう」


参加者
神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)
ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)
フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)
マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)
ダリル・チェスロック(傍観者・e28788)
豊田・姶玖亜(ヴァルキュリアのガンスリンガー・e29077)
ウルトレス・クレイドルキーパー(虚無の慟哭・e29591)
阿賀野・櫻(アングルードブロッサム・e56568)

■リプレイ

●猟犬と番犬
 深夜、首都郊外の間道に遠吠えは響いた。
「あ……へっ?!」
「無法はそこまでです。螺旋忍軍」
 哀れな中年男性を襲う閃光が、新たな輝きにはじき返される。
 爛々と輝く十の瞳、五つの牙持つ野獣を男は見た。街灯もまばらな暗い夜道を鮮やかに照らしたのは、フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)の掲げた紫水晶に乱反射する、豊田・姶玖亜(ヴァルキュリアのガンスリンガー・e29077)の『ベルト付高輝度LEDライト』の光。
「こいつは驚いた……野良犬が着飾って、ダンスパーティーにでも繰り出すのかい?」
「差し詰め猟犬と番犬……狩る側と護る側、いい戦闘(ライブ)になりそうだ」
 クイと『カントリーガンナーズハット』を持ち上げる姶玖亜にあわせ、ウルトレス・クレイドルキーパー(虚無の慟哭・e29591)が『BIC4003/UC Model』ギターを短くつま弾く。
 返答は沈黙。吠えるでなく襲うでない、値踏みするような摺り足が着飾った野犬たちが唯の獣でないことを言外に示している。
 それは取り残された中年男性が狼狽えるに十分なプレッシャーで、彼は明かりの主に知らず助けを求めた。
「あ、あの……これは……」
「夜分に失礼。私は神崎・晟、ケルベロスの一人として、及ばずながら貴方を守るため伺いました」
 神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)は丁寧に、しかし堂々と正体と用件を伝え、庇う行動で示していく。
 一端の士官として勤めあげた蒼竜の声は頼もしく、回り込まんとする白犬を遮り振るわれる『蒼竜之錨鎚【溟】』の竜頭の如き錨槌が、その実力までをも裏付ける。
「ラグナル、彼を頼む。ここで食い止めるぞ」
「ソフィアさん、彼の退路を……っ」
 言葉半ば、執着が繋ぎ止めた阿賀野・櫻(アングルードブロッサム・e56568)の心が殺意に震わせた喰霊刀がガキリと手ごたえ。
「ダメです、既に囲まれ……櫻殿っ!」
「グァアッ!」
 アブランカ・オダマキの牙が捩じ上げる腕にソフィア・グランペール(レプリカントの鎧装騎兵・en0010)が悲鳴。彼女の技では追い付くこともできない速さ、ラグナルと共に男を守るのが守るのが精いっぱいだ。
「このぉっ!」
 咄嗟、逆手に抜いたドラゴニックハンマーより闘気を噴射、迎撃。
 無理な姿勢からの反撃は双方に姿勢転換を敷いたが、櫻は半回転して何とか片膝で着地した。
「仮にも動物の姿と戦うのは気が引ける……と言いたいところだけど!」
「こいつらは一流の兵士だ……SYSTEM COMBAT MODE!」
 ヴァルキュリアブラストで機動するダリル・チェスロック(傍観者・e28788)に応え、マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)の戦闘システムが起動。展開された『PS8000』プラズマチェーンソードが包囲を裂き、光と化したダリルと黒の螺旋が激しくぶつかりあった。
 アブランカたちはけしてひるまない。それは生に貪欲で臆病な獣ではなく、命を賭して任務を果たす特殊部隊、心の内の刃が見えた。
 送られてくる情報を分析・予測し、マークは『LU100-BARBAROI』クローラーを激しく駆動させる。
「敵がどうであれ、何がおこるのであれ、やることは変わらない……違うか!」
「ごもっともだ……!」
 シルクハットに白髪を押し込み、ダリルはティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)の情熱に静かな賛同をしめした。
 ティーシャの『Iron Nemesis』シューズが燃え上がらせる炎をダリルの旋刃が巻き上げ、マークの鋼を加熱する。
 ケルベロスたちの三様に蹴り上げる軌跡が螺旋をまとう猛犬たちと激突した。

●機動防御戦
 激しいグラビティ・チェインのぶつかり合い、双方は弾かれるように距離を取った。
 闇に紛れこもうとするアブランカの毛並みをティーシャの下ろした『R.F.NVゴーグル』が補正し、デウスエクスたちを執念深く追跡する。
 各部機能低下、相殺したが、螺旋のプレッシャーは拭い難く打ち込まれている。
「初撃は凌げたが、厄介な連中だ」
「手練の忍軍猟犬どもだ、さすがにいい動きをする……が」
 縦横無尽に駆け回るアブランカたちへ、ウルトレスはベースギターを唸るように鳴らした。
 攻防、そしてロックの要たる腕は守りぬいたが、愛用する『イエテボリスタイル』の黒Tシャツには赤黒い湿り。触るまでもなく、相当深くえぐられている。
 アブランカの得意とするクロスレンジから離れたポジションのウルトレスだが、自ら姿を変えたカメリアの大竜巻は易々と彼の脇腹を抉ってきた。
「き、キミ! 大丈夫かね!?」
「お気に召さるな、こちらも番犬稼業は長いもんでな――ノリが良いのは結構だが、少し黙ってろ」
 狼狽する中年男性に微笑み、ひときわ大きなうねりが響く。声は男にではなく、しぶといアブランカへだ。
 突き出したエレキベースのヘッド先端が奏でる『Punish My Heaven』、過大増幅に歪む音が執拗に迫るカメリアの回転を中和し、純白の毛皮に突き立てられる。
「いざという時は彼を頼むぞ」
「は……一命に変えても」
 踏み出すウルトレスにソフィアが頷き、力なく寄りかかる男を支える。彼を守ることこそケルベロスたちの目的だが、それは同時に反抗への重しにもなる。
「ダメだね……まるで怯みやしない。頼んだよ!」
「なに、いつもの事だ」
 姶玖亜は愛用のリボルバーを収め、身にまとう相棒のオウガメタルから晟たちへ『メタリックバースト』を放たせる。銃撃を得意とする彼女にとって、この状況はかなり不得手だ。
「やることは変わらない、とはいえ……ちぃっ」
 一般に動物たちはおしなべて銃撃、硝煙の匂いに身を引くものだが、このアブランカたちは突き立つ銃撃の牙も恐れず使命を果たさんと向かってくる。
 ティーシャのスカルブレイカーがオダマキを捕らえるが、浅い。速度と分身の術を駆使した機動戦は、ケルベロスたちでもなかなかに捕らえがたい。
「ここは変わろう。戦力増強のためには手段を選んでいられないのはわからんでもないが、やり方を肯定するのは土台無理な話だなっ」
 腰だめに構えた『蒼竜之戟【淌】』を身体ごとぶち当てる晟の稲妻突きへ、命知らずのアブランカたちも散会を選ぶ。
 かの命知らずのデウスエクスでも、接近戦の圧倒的パワーにだけはかなわない。わかっているから、アブランカたちは即座に攻め方を変えた。
『敵デウスエクス、ウルフパックを試行。保護対象の生命に危機、包囲の迅速な破壊を推奨』
「上からっ、マークさん!」
「ROGER!」
 戦術システムAIのはじき出す予測、フローネの警鐘に彼女を担ぎマークは飛んだ。
 アームドフォートを介して接続された肩部『メインブースター』は機動性と瞬発力を補い、2.0を超える推力比で空中機動戦を可能とする。
 道路標識を三角飛びして乗り越えようとする茶のオダマキへフローネが二段飛びすると同時、マークは宙にのけぞるほど片足を振り上げた。
『姿勢制御』
「ATTACK!」
 鋼鉄の踵落としが庇いかかるククリの黒を叩き落す。『R/D-1』戦術システムの制御で推力偏向するハイパワーブースターでの空中戦はさながらスカイダイビングの空だ。
「GOOD JOB」
 戦闘システムの両翼、火器管制を担う『エクスガンナーシステム ver.β』は超接近戦に対応しきれていないが、こなれてきた戦闘AIの丁寧なサポートは補って余りある。
「ガアァ……ッ」
 履帯に美しい毛皮を削られながらも暴れるククリ。一回転して着地するマークの上空では、オダマキとフローネがまだ激しい剣戟戦を繰り広げていた。
「新たな種族との邂逅を……戦端を開かせない為にも、落としてみせます!」
 翠晶剣と蒼玉槍を接続した『アメジスト・ブレイド』がオダマキの加え抜いた忍刀を一合にして跳ね飛ばす。だが刃を失いつつも、オダマキは空中を跳ねた。忍びの、螺旋の力の応用だろうか?
 懐を飛びぬければ体格と武器の差で優位……それはただの獣にない高度な判断力だったが、今回に限っては裏目に出た。
「なに知らん顔しているのよ……Look at me! Look at me! Look at me……!」
 呪詛のような櫻の声……否、執着心の具現化した『執着の魔眼』は言葉以上の呪詛だった。ただ見つめられた身体がが動かない。
 超至近距離で硬直するオダマキに、フローネはブレイドから話した片腕を振るった。
「明鏡止水……ココロを澄ませて」
 時間にすればごくわずか、しかしそれで十分。振るわれた手刀から伸びるのは既に盾ではない。纏った『アメジストシールド』を薄長く伸ばした『紫閃』。
「まず一つ……!」
 毛皮ごと装飾の鎖がちぎれたコギトエルゴスムをダリルが掴み、確保する。ヴァルキュリアであり記憶を失くした彼にとって、この人馬の種族の姿はあり得た可能性だ。
 奪回せんと飛びかかるククリへ降魔真拳を叩き込み、丁寧に懐へとしまい込む。握りしめたネクタイピンの共生者『銀纏歯車』のように、かの者たちと共に歩む時はくるのだろうか?
 ふとよぎるダリルの思いに、歯車を飾ったネクタイピンは温かい静で応えた。

●反撃を鳴らす
 一体のオダマキが落とされた瞬間、アブランカたちの包囲は一点ケルベロスへ優位となった。
「ソフィアさん!」
「承知しました、こちらへ……!」
 ドラゴニックハンマーを横薙ぎする櫻に応え、抱き上げた中年被害者とソフィアは一気に包囲を突破する。一転突破への対処は数で劣る包囲の弱点だ。それでも螺旋忍軍の技は執念深く追いかけてくるが、備えていたケルベロスは包囲の内側だけではなかった。
「ポンちゃん、白いのをお願い。みんな、みんな護りたいの……ようやく「全て」とは何かが、わかりつつあるから」
 カメリアの螺旋竜巻が新手の白犬に弾かれた……いや犬ではない。それは駆け付けた愛柳・ミライの相棒、ボクスドラゴン『ポンちゃん』のタックルだ。
 ミライの『「KIAIインストール」』が奏でられる中、属性をまとう体当たりがカメリアと相殺しあい跳ね飛びあう。
「本当は……このまま安全なところまで飛べればよかったのだけど」
「ううん、十分助かったから……大丈夫、後は任せて」
 礼と奮起のシャウトをあげ、櫻は打ち込まれた螺旋を振り払う。完全な離脱は難しかったが、それは大きなチャンスとなった。
「あんたらの任務は失敗だ。が……このまま逃げ帰れるなんて思っちゃないね?」
 今こそ反撃の鐘を鳴らす時だ。万全の状況をもって姶玖亜は『セレスティアル・ベル』の撃鉄を起こし、逆手を開く。
「お手も、おまわりもできるとは大したもんだ。次は死んだフリでもしてくれるかい? フリじゃ済まなくなっても、恨みっこなしだけどね!」
 練達の38口径拳銃から放たれる『ダンシングショット』が次々と突き刺さり、カメリアの毛皮を朱に染めていく。
 本来は足止めを狙う地上掃射だが、怯まぬアブランカ相手なら遠慮は無用。射撃戦でアブランカを止めるのは困難といえ――殺しきってしまえば何ら問題はない。

●嘶きは聞こえたか?
「残り三……いや、二だ!」
 カメリアの後を継ぎ、陰に突破しようとするククリだが、それはティーシャが許さない。『全て破砕する剛腕』は黒犬の尾を掴み、引きずりよせ、万力の如く締め上げる。
 破砕アームの接触部から打ち込まれる螺旋掌が『アームドフォートMARK9』を揺るがすのも構わず、舗装路めがけて叩きつける。
「しぶといな……頼む、晟」
 なおもがく黒い毛皮を晟の吹きかけた蒼炎『旋焔』の息吹が一瞬にしてローストした。
「相手は手負いの獣だ、このまま気を抜かず掃討するぞ」
 白はなく、残りは茶と黒が、ククリとオダマキが一体ずつ。
「始めるか、ラストワン」
 レプリカント以外に不可能なスパイラルアーム奏法……プログレッシブなウルトレスの回転ベースが夜風に響き、ククリの毛皮を抉っていく。
 いや、そのようによけたのだ。コギトエルゴスムを守り、新たなデウスエクスを引き入れる使命を完遂するために。
「その任務への忠誠は……ですが!」
 フローネは痺れの消えぬ腕で、下がりそうになるアメジストブレイドの切っ先を横薙ぐ。溜め込んだ力を吐き出した一打が跳ね上がるククリを遂に両断した、が。
「いかん、追えるか!?」
「YES Sir.OVER BOOST ON」
 またも囮だ! ククリの分身と重ねあうように飛んだ最後のアブランカ、茶のオダマキがフローネを蹴り飛ばして駆け出すのに、晟が叫び、マークがクローラーとブースターをフル稼働する。
 被害者の傍らにはソフィアが構えているが、死力を振り絞った一撃に耐えきれるだろうか? そしてマーク自身の推進剤はもつのか?
「間に合わせますよ……天地の理、遡及せし……!」
 ダリルの声が『Albus Alas』を唱えた。特徴的な階調の詠唱が、時を巻き戻し進める。遍く知と技と人理外の力が消耗したマークに再びの力を与えてくれた。
「BUNKER DISCHARGE!」
 最後は『DMR-164C』ライフルの銃下部パイルバンカーを伸ばし、強引に間合いを詰める。同時、打ち込まれるバスターライフルのバースト射撃。
「助かったわ、これで……やっと見てもらえる」
 ねじ曲がった、しかしなお息の合ったオダマキの顔が櫻の『執着の魔眼』に見つめられる。
 引き抜かれるバンカーから、固くなったオダマキの死体が落ちた。

「ありがとうございます……大丈夫、ですか」
「えぇ。そちらも大事ないようですね」
 力尽き果てた様子の中年男性を支えるソフィアらの声に、ダリルはアブランカから回収したコギトエルゴスムを見せる。
「予知じゃあ復活の恩義で螺旋忍軍についていったんだっけ。まだ話す余地はあるかもね」
「人馬の種族、セントール……だったか」
 姶玖亜に頷き、ウルトレスは事件の終わりを告げるように弦を抑え爪弾く。低く、高く、地を叩く蹄のように。
「今は起きるべき時ではない……コギトエルゴスムのまま、――今暫くは眠っていてくれ。必ず、必ず自由になれる世界が待っているから」
「その時は、きっと」
 ダリルと、後を継いだフローネの言葉に、星明かりを写すコギトエルゴスムが小さな光を見せた。

作者:のずみりん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年2月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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