ミッション破壊作戦～モザイクまみれの地へ

■リプレイ

●破壊作戦結構直前
　現場に向かうヘリオン内。
　どうやら、ケルベロスの中で行先はギリギリまで纏まらなかった部分もあったようだ。
「場所は決まったので、退路を把握しておかなければな」
　藍色の短髪、目面・真（たてよみマジメちゃん・e01011）が現地の情報の収集に当たる。
「譲っていただいて、ありがとうございます」
　真ほどではないが、こちらも藍色の髪をショートヘアにし、ベレー帽を被ったジュスティシア・ファーレル（エルフの砲撃騎士・e63719）が仲間達へと感謝の言葉を口にしていた。
「いえ、大丈夫ですわ」
　東京六芒星決戦に同行した先輩であるジュスティシアの言葉に、ゴシック服に丸眼鏡着用のルーシィド・マインドギア（眠り姫・e63107）も少しだけ申し訳なさそうに頭を下げる。
　候補として挙がっていたのは、富山県氷見市。
　しかしながら、結果的には、すでに２度作戦が決行されている群馬県高山村をヘリオンは目指す。
「ロックハート城！　今でも、結婚式とかやってるのかしら？」
　白い狼のウェアライダーである板餅・えにか（萌え群れの頭目・e07179）は自身の暢気な一言に対し、占領されているんだからいないかとセルフツッコミを入れる。
「人の心の傷に付け込んで攫う、か……狡い奴らめ」
　人派ドラゴニアンの女性、フレイア・アダマス（銀髪紅眼の復讐者・e72691）は、凛々しい顔をやや顰めて。
「人々が安心して旅行を楽しめるようにするためにも、排除せねばな」
　そんなフレイアの言葉に、えにかもこくこくと頷く。
　その時、現地上空到着のアナウンスがあったことで、準備を始めるケルベロス一行。
　ルーシィドはミッション破壊作戦が初めてとあって、緊張を見せている。
　そこで、同じ寮で生活を共にする大親友である、リリエッタ・スノウ（小さな復讐鬼・e63102）がそっと彼女の手を取って。
「ん、リリもまだ２回目だけど、ルーと一緒なら安心」
　――ドリームイーターなんて、さっさと追い出すもん。
　淡々とした口調で語るリリエッタの存在は実に頼もしい。
　２人は手を繋いだまま、仲間達に続いてヘリオンから降下していくのだった。

●思いの丈を小剣に込めて
　メンバー達の真下には、復元されたスコットランドの英雄王の居城、ロックハート城がそびえ立つ。
　そこで口を開いている強襲型魔空回廊を破壊すべく、メンバーは高空から襲撃をかける。
　まず、３人がほぼ同時に降下し、光る小剣グラディウスでドーム型に展開していたバリアを切っていった。
「全くおちおち旅行にも行けやしないし、美味しいものを食べる暇もなくなるし……」
　そのうちの１人、青髪ツインテールのリューイン・アルマトラ（蒼槍の戦乙女・e24858）が叫びかける。
「何より、私は行かねばならないところがあるの！」
　そして、今チーム唯一の男性、黒い狼のウェアライダーの伏見・万（万獣の檻・e02075）。
　ＳＮＳ映え、お洒落な観光地に興味を抱かぬ彼だが、夢喰いがナメくさった所業を働くなら話は別だ。
「人の夢だの気持ちだのなんだのは、てめェらの餌でも玩具でもねェよ」
　そして、フレイアも気合を入れて。
「観光名所に巣食い、心の傷に付け込んで人々を攫うとは狡い奴らめ！」
　３人の刃が同時に輝き、同時に叫びかける。
「だから、あんた達は邪魔！！　ここから消えやがれ！！」
「返すモン返して、とっとと消えやがれ！」
「人々が安心して訪れ、楽しめる場所にするためにも、この回廊は破壊する！」
　３本の刃が魔空回廊へと突き刺さり、強烈な閃光が周囲を包み込む。
　そこで、えにかが飛び込んでいく。
　バレンタインというイベントの後、浮ついた旅行者がいたことだろうと彼女は前置きして。
「その裏でもう一つ、夢破れた人々の傷心旅行の書き入れ時なわけですよ！」
　よそ様のシマで勝手に商売など、許されるはずもない。
「てめーらのモザイクじゃ、ショバ代にならねーんじゃー！」
　えにかのグラディウスが光り輝く。
「地球の礼儀をグラディウスに乗せ！　無礼なモザイクをえにか板餅が斬り開く！」
　彼女の一撃は魔空回廊へと深く突き刺さり、大きな爆炎が巻き起こる。
　この場のドリームイーター達を焼いていき、動揺しているのがケルベロス達にも伝わってきた。
　さらに、２人が刃を手に飛び込む。
「人なら、誰もが持ち得るささやかな感情につけ込むあなた達を、見逃す訳には行かない」
　しかも、夢喰いどもが傷心した女性の傷口に塩を塗り込んですらいる状況を、ジュスティシアは許すことができない。
　――人の傷ついた心につけ込んで、攫って行くという不届き者。
　真はこの場の夢喰いをそう表現して。
「感情を持たぬ者にはとても分かるまい。人の心は傷つき壊れやすいと」
　そして、２人の刃が煌めいた。
「今すぐ彼女達を全員返しなさい。そして、そのけったいなキャンドルの炎で全身燃え尽きなさい！」
「そんなオマエにも思い知らせてやろう。その燃える頭を溶かし尽くすようにしてな！」
　突き刺さる刃から濃いスモークが噴き出し、辺りを包み込む。
　そこに、最後の２人が飛び降りてくる。
「心が弱った人を……傷ついた心を癒しにきた人を狙うなんて絶対許せないよ」
　傷心の人々はここで元気を分けてもらい、新たなスタートを切れたかもしれない。
　リリエッタは普段、感情を表に出さないが、一生懸命グラディウスに思いを託す。
「お前達みたいな人を惑わすドリームイーターは絶対、リリが全部やっつけてやる！」
　合わせるように、ルーシィドもグラディウスに想いを込める。
　先日、彼女はパッチワークの魔女の暗躍……妖精を信じる気持ちを利用された子供を助ける仕事を受けていた。
　命を守る為とはいえ、子供の夢を破らねばならなかったやるせなさを、ルーシィドはこの場の夢喰いにぶつける。
「あなたがたは、いつも人の思いを道具にする」
　夢喰いはいつも自らの為の夢に溺れ、人の夢を踏みにじることしかしない。
「悪夢から醒めることなく、人をその中に取り込もうとするのなら……」
　親友同士、２人の小剣が光り輝く。
「だから、まずはこのお城は返してもらうよ！　ここから出ていけぇぇぇぇぇ！」
「……消えてもらいます。悪夢はいずれ醒めるものなのですから」
　最後にその２本のグラディウスが突き刺さり、雷光と爆炎が一際大きく巻き起こった。
　着地するケルベロス達は、強襲型魔空回廊をしばし注視する。
　…………。
　…………。
　残念ながら、今作戦での破壊は叶わず。
　ひびが入りながらも、強襲型魔空回廊は稼働を続けるのだった。

●ドリームイーター、Ｍｒ．キャンドル
　ケルベロス一行は動き続ける魔空回廊を見て考える。
　もし、行先がすんなり決まっていて、かつ想いを十分に込められたなら、破壊は叶っただろうか。
　そんな可能性も考えながら、メンバー達は悔しさを滲ませる。
　ともあれ、この場の敵が群がってくる前に離脱の準備をすべく、フレイアやジュスティシアは用意したホルダーにグラディウスを収納、固定した。
　万はリューインのアイテムポケットへと託した後、取り出したスキットルの中身を煽る。
　同じく、リリエッタは自身とルーシィドの分のグラディウスを合わせ、アイテムポケットへと格納していく。
　便乗して託していたえにかは、こちらに向けられた殺気を感じて。
「邪魔なやつだけとっとと倒して撤収よー」
　スモークの中で燃え上がる炎。
　それが近づいてきて、一行の前へと現れたのは、臙脂のスーツを纏った蝋燭頭のドリームイーター、Ｍｒ．キャンドルだ。
「…………」
　一礼したそいつは早速、炎を燃え上がらせてくる。
「時間はかけていられない、さっさと片付けてやる」
　すぐに真が飛び出し、高く跳び上がった。
「これ以上、城の奥へ案内できなくしてやろう。それっ！」
　真が強くろうそくの頭を蹴りつけると、彼女の箱竜翔之助がブレスを吐き掛けて、夢喰いの態勢を崩そうとする。
　畳みかけるように、ジュスティシアもコンバットブーツで強く一蹴すると、えにかも応戦の為に霧の中で揺らめく不気味な炎を操って。
「何が物言わぬ蝋燭かー！　声出して挨拶せんか、ワレー！」
　叫びながらも、えにかは相手に不吉な感情を植え付けようとしていく。
　とはいえ、相手は表情もなければ、言葉も発せぬ蝋燭の頭。
　攻撃が効いているのかどうか、外目にはわかりづらい。
　ただ、攻撃態勢はとったまま。そいつは頭上の炎を大きく燃え上がらせ、ケルベロス達へと自身の罪と罰を見せつけてくる。
　すでに、前線メンバーが相手の炎を目の当たりにしてしまい、トラウマを目にし始めていた。
　すぐさま万はゾディアックソードを手にして地面に描いた守護星座を煌めかせて、仲間達にトラウマに耐える守護の力を与えていく。
　その時、ビハインドのアミクスが相手の背後から切りかかり、敵を怯ませる。
「いいよ、その調子！」
　親友の攻撃にリューインは嬉々とし、手にする魔槍ゲイ・ジャルグに空の霊力を纏わせる。
　リューインは正面から飛び掛かり、Ｍｒ．キャンドルのスーツを切り裂いていた。
　さらに、チームの火力となるリリエッタがフェアリーブーツで、理力のオーラを蹴りこみ、相手のスーツをより大きく破っていく。
　一方で、ルーシィドが次なる夢喰いの攻撃に備え、トラウマを呼び起こされた仲間へとオウガ粒子を飛ばす。
　回復役となっていたこと彼女が放つその粒子は、前衛陣を正気に戻していく。
「こんなところで、私は、私達は――負けるわけにはいかんのだ！」
　――負けるわけにはいかない。
　そんな気概でフレイアは叫び声を上げ、仲間達を奮起させる。
　彼女の呼びかけに箱竜ゴルトザインも応え、目の前の夢喰いにブレスを吐き掛けていた。
「…………」
　だが、目の前のＭｒ．キャンドルはスーツが乱れ、殴打を受けてもなお、一切言葉を語ることなく。
　そいつは不気味に、頭上の炎を怪しく揺らめかすのである。

●その灯火を消す為に
　物言わぬ蝋燭頭、Ｍｒ．キャンドルはただ炎を揺らめかせ、ケルベロス達を自らの罪と罰に向き合わせようとしてくる。
　ロックハート城で姿を消した者達の捜索の為、この夢喰いを倒して当たりたいところだが、他にも多数の配下がいるはず。
　魔空回廊破壊が叶わぬ今回は、ケルベロス達もこいつを倒して大人しく引き下がる他ない。
「燃え上ってみるがイイ！」
　箱竜、翔之助がブレスを吹きかけた直後、真は燃え上がる蹴りを敵の腹へと浴びせかける。
「…………」
　体に炎を燃え上がらせ出した夢喰いはまたも、頭上の炎を怪しげに揺らす。
　狙われたのは、布陣中央に位置する万だ。
「うっ……」
　それは、自らの体を構成する黒い無数の獣。
　内側から自身が食われて、自我を失ってしまう……そんな幻。
　己のおぞましい姿をトラウマとして見ていた万を助けようと、ルーシィドの袖から緑の茨が溢れ出して。
「ご安心下さい　茨の棘に刺されても　あなたがたは決して死にません　ただ眠り続けるだけ」
　茨は万を包み込んで癒しの残滓だけを残し、彼の精神を正常にした上で跡形もなく消えてしまう。
　その間も、フレイアが降魔の拳で殴りかかり、箱竜ゴルトザインが相手目掛けてタックルを繰り出す。
　フレイアは次こそしっかり仲間を庇おうと身構え、夢喰いの炎に対する。
「凍り付かせてあげます」
　構えたJ＆W2000 対物狙撃銃から、ジュスティシアは凍結光線を掃射していく。
　相手の体が少しでも凍り付けば、えにかも殺神ウイルスを投擲して、夢喰いの回復阻害をはかる。
　ダメージが重なってきているＭｒ．キャンドルが一礼しようとも、これなら満足に回復できぬはずだ。
　一方で、我に返った万が仲間の状態を見つつ、手にするゾディアックソードで敵へと切り掛かる。
「よくもやりやがったな、数倍にして返してやンぜ」
　喧嘩殺法を使う万だ。仲間のつけた傷跡を大きく切り広げるその攻撃は容赦などまるで感じさせない。
　多少、相手が炎を燃え上がらせてこちらのトラウマを呼び起こそうとも、ケルベロスの手数が勝る。
　ビハインドのアミクスが金縛りを使い、夢喰いの体を縛り付ければ、主のリューインは相手の隙を突いて簒奪者の鎌を投げ飛ばす。
「いっけえ！」
　その刃はＭｒ．キャンドルの体を大きく裂き、その傷口からモザイクが零れ落ちる。
「もう一息かしら。炎の勢いも弱まってきているよ！」
　そこで、リリエッタはルーシィドに視線を送る。
「ルー、力を貸して！」
「はい、リリちゃん。いきましょう」
　手を繋いだ２人は互いの魔力を循環させていく。
　限界以上の魔力を漲らせた魔弾が２人の手から放たれ、Ｍｒ．キャンドルへと食らいつき、浴びせかけられる。
「…………！」
　それでも、手にする鍵を構えて耐えようとする敵目掛け、真が飛び込んで。
「オレの足癖に付き合ってもらおうぞ。破ッ！」
　間合いに入った敵の体を強く蹴りつけた。
　大きく吹っ飛ぶＭｒ．キャンドル。頭上の炎が消え、全身がモザイクに包まれていった。
「…………」
　スモークの中へと消えていく敵の姿。
　その討伐は確認できなかったものの、Ｍｒ．キャンドルがこの場でメンバー達の前に姿を晒すことはもうなかった。

●速やかに撤退を
　ドリームイーター、Ｍｒ．キャンドルを退けたケルベロス達。
「オツカレサマ。速やかに撤退だ」
「こっち」
　真が仲間達へとそう促すと、事前に周辺の地理を把握していたリリエッタが撤退ルートを示す。
「……はい、では後ほど」
　ジュスティシアはミッション攻略中のケルベロスと連絡をとり、援護を要請する。
「煙幕が晴れないうちに撤退しましょう」
　普段の口調に戻ったリューインも、仲間達へと急ぐよう声を掛け、この場を離れる。
　スモークで城がほとんど見えなくなってしまっているが、えにかは観光地で戦闘など、ロクでもないと考えて。
「解放したら、ヒールしに来なきゃ」
　次こそはと考えながらも、彼女は仲間を追って城を離れていくのである。

作者：なちゅい	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2019年2月26日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 10／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 1
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