僕らは鉄観音

■リプレイ

●たいやきの甘い誘惑
　現地に着いたケルベロス達はヘリオンから降り立ち、倉庫ばかりの殺風景な道を話しながら行く。
「またダモクレスか……って流石に突っ込むのも飽きてきたな。それでもやることは変わらないよ」
「たい焼きは縁起物の鯛の形にして売れ始めたらしいのだ。そんな人気者を作り出す機械が悪さをしたら、縁起パワーが下がっちゃうから、皆で止めるぞ！」
　食べ物系のダモクレスの依頼が続いていた影守・吾連（影護・e38006）は倒す意思を明らかにしながらも珍しく辟易した表情を見せていた。鉄・千（空明・e03694）は吾連にたいやきトリビアなど披露しながらやる気を奮い立たせようとしている。
「たい焼きは幸せの味……冬に食べるとまた美味しイ。人々に、親しまれている味覚なのですネ」
　エトヴァ・ヒンメルブラウエ（フェーラーノイズ・e39731）はそんな二人の様子に、柔らかい笑みを白銀の瞳にたたえた。
「皆に愛されたから心残りもあるのかな」
　エトヴァの言葉にそう返すのは家族であるジェミ・ニア（星喰・e23256）。
「愛着ある店に被害が出ないうちに休ませてあげないとね……。だって、ダモクレスになっても鉄観音の店の名を覚えてるくらいだもん」
「今までいっぱいいっぱい頑張って色んな人を喜ばせてきたたい焼き台さんを攻撃しなきゃいけないのは気が引けるけど……。このままほっといたら人を襲っちゃうんだもんね。人に愛されたまま眠れるように、止めてあげないと！」
　フィー・フリューア（歩く救急箱・e05301）と月鎮・縒（迷える仔猫は爪を隠す・e05300）は顔を見合わせながらうんうんと頷きあった。
「私は定番のこしあんかつぶあんが一番好きです。でも、カスタードや他の種類もおいしいと思いますし、やっぱり好きです。たい焼き台に悪い印象を持って欲しくありません。頑張りましょう」
「確かに、沢山の人を楽しませてきたたい焼き台が人を傷つけるのは見たくはないしな……ここできっちり俺達が止めてみせる！」
　朝倉・ほのか（フォーリングレイン・e01107）のあんこやカスタードに負けず劣らずの甘い声に鏑木・郁（傷だらけのヒーロー・e15512）が決意を新たにしたところで、目的地にたどり着いた。

●まいにち鉄観音
『鉄観音！！！　鉄観音！！！』
　そのダモクレスは、四つの足をよちよち動かしながらもといた店の屋号を叫んでいた。
「やはりお店の名前を呼ぶのですネ、……あなたをお止めするのハお店とともに歩んできた人々の、思い出を守る事なのかもしれまセン！」
　そう語りかけながら、ハンマーを変形させたエトヴァが竜砲弾を放つと、たい焼き台ダモクレス、通称鉄観音（暫定的にこう呼ぶ）はケルベロス達に気がついたようだ。
「戦いを始めます……、全てを破壊します！！」
『鉄観音！！』
　冷静に宣言したほのかが不可視の虚無球体を放つが、よちよち歩きの鉄観音はものすごい高速で足をシャカシャカと動かすと球体を器用に避け、向かってきた！！
「任せてくれ！！」
　魚の形を刻印された鉄板が開きほのかに向かって熱光線が発射されるが、飛び出してきた郁が両手をクロスさせ、光線を受けた！！
「魚型のくぼみをカパカパするよちよち歩きの箱……、カパカパされたら撃たれるんだから困ったモンだよ」
　地面にケルベロスチェインを展開したフィーが前列に盾を付与しながら、郁の火傷を癒す。
「付喪神的なものになるのもわかるけど、ここは世のため人のため、成仏して下さい！」
「おっと、遅れを取ってる場合じゃないな！」
　郁が治療されている間にジェミが流星の煌きと重力を乗せた蹴りを撃ち込み、一拍遅れて郁の轟竜砲が放たれた。
『鉄観音！』
　連続した攻撃に、鉄観音が抗議の声を上げる。
「仲良したくさんで今日はいつもよりやる気なのだ！！　行くぞおさかな鉄板！！　じゃなかった来い鉄観音！！」
　そこに角と羽根を丸出しにした千が指天殺を見舞った。
「みんな頑張って！」
　縒がメタリックバーストで前衛の命中を上げる。
「人々の生活と俺達のたい焼きタイムのために、眠ってもらうよ、鉄観音！」
　バンと翼を広げた吾連が雷撃を放った。
『鉄観音！！』
　鉄観音ダモクレスはふるふると震えながら鉄板を開けたり閉じたりパカパカしている。戦いは始まったばかりだ。

●連携攻撃だ！！
「ほのか！　連携でいこう！」
「合わせます、一気に畳み掛けましょう！」
　ほのかのディスインテグレートが再び奔り、郁のクイックドロウの後を追っていく。銃撃を避けた鉄観音ダモクレスに、虚無球体が喰らいついた！！
『鉄観音！！』
　攻撃を受けた鉄観音ダモクレスはほのかに向かって再び意識を向ける。魚型の並ぶ鉄板をカパカパすると、エネルギー光弾が射出された。
「千にお任せなのだ！！　あわわっ攻撃しづらくなった」
　飛び出した千が光弾を受け止めたが、武器封じをくらってしまったようだ。
「たい焼きが飛んできたら危ないところでした……」
　何の心配なのか、言いながらほのかが千の肩をぽんと叩く。
「バスターライフル、食らうと結構いやーなもんだね」
　そんな二人を見ながら、フィーが再び前列に盾を付与、千の傷も癒した。
「足止めを強化しまス！」
「タンデムと行こうか」
　エトヴァの飛び蹴りが鉄観音ダモクレスの機動力を奪いにかかる。足止めのエトヴァを飛び越し、ジェミの戦術超鋼拳が装甲を砕いた。
『鉄観音！』
　ダモクレスはまた鉄板をカパカパさせる。効いているようだ。
「吾連ー！　千達も連携するのだ！　千ちょっと当たりづらくされちゃったから吾連にフォローしてもらうのだ！」
「うん、行くよ千！」
　吾連の怒號雷撃が奔り、敵を麻痺させている間に、千の指天殺がふたたび命中した。
「縒ちゃん！　背中は見てるから縒ちゃんも思いっきり行っちゃって！」
「猫の牙だからって侮ったら後悔するよ……！」
　フィーの応援に奮い立ち、獅子にも負けぬ気迫をこめて縒が放ったグラビティが目に見えぬ獣となって敵に喰らいつく！！

●昇天
　激しい攻防戦が続いた。やられ続けていた鉄観音ダモクレスも後半は反撃に出たが、双方ともに傷つき、戦いは収束に向かっていた。
「Sehen Sie sich an……きっと、大切に使い込まれてきたのですネ。人々に、沢山の笑顔をもたらしたたい焼き台サン……敬意を表しマス。もうお休みになってくだサイ」
　エトヴァが急速に間合いを詰め、ダモクレスの前面を覗き込む。どこで見ているのかはわからないが、見せられた幻影にダモクレスは足を止めた。
「物を大切にするのは大事なことです。それなのにこんな風に暴れてしまったら……ロックオン！」
　ほのかの追尾矢がすかさずそこを狙い撃つ。
『鉄……観音！！』
　魚の鉄板が全開に開き、ギィィ……ンと音を立てる。目を灼く閃光とともに前衛に巨大な魔力の奔流が迸った！！
「そうはさせないぞ！」
「吾連！！　伏せるのだ！」
　ほのかと吾連を守った郁と千、また攻撃にさらされたジェミが麻痺を受けた！
「メディックの出番だね！」
　フィーのサークリットチェインで前衛の傷は癒される。完璧な協力体制だ。
「伊達に傷だらけを名乗ってないね」
　先ほどの攻撃でもっともダメージを受けていた郁は、しかし手の甲でぐいと顔をぬぐい、敵の熱を奪う冷却光線を放つ。鉄観音ダモクレスはパキパキと短い足を凍らされた。
「餮べてしまいます、よ？」
　かつての捕食者であったジェミが、発生させた漆黒の矢が変幻自在に相手を貫き、奪い取る。
「重いの一気に行くよ！」
　ファミリアロッド『黒猫のチロちゃん』を縒が射出、今まで付与されていた悪い効果がズンと鉄観音ダモクレスにのしかかる。
「よし！　行こう吾連！　『ごんた！　いただきます！』」
「行くぞ行くぞ行くぞ！！」
　吾連の打撃で吹っ飛んだところを、千の召喚した巨大ワニぬいの『ごんた』がハムハムと咀嚼した。
『鉄観音……鉄……観音……おいしいよ……』
　もふもふのお口に揉まれるダモクレスの声はだんだんと小さくなり、巨大なワニが消えるとそこには物言わぬ鉄の塊が残されていた。
　戦いは終わった！

●まいにちたいやき鉄観音
「吾連怪我ないか？　だいじょぶか？」
「千こそ大丈夫？」
「鉄板さん、ご苦労様でした」
　ジェミの黙祷に合わせてみんなで拝んだあと、周辺やお互いへのヒールと後片付けをする。後片付けをしながらみんなの頭の中に去来する想いは……。
『たい焼き食べたくない？』
　ダモクレスの宣伝はケルベロス達に絶大な効果をもたらした。誰が言うわけでもなく向かったのは『まいにちたいやき鉄観音』である。
　しょっぱいのはあるかなあ、つぶあんとこしあんどっちかなあ。そんな会話をしながらたどり着いたその店は、小さく味のある佇まいの店舗だった。若い女性が切り盛りしている。
「いらっしゃいませ～」
「こんにちは！　世の中のたい焼きにはカレーとかチーズとか甘くないのとかもいっぱいあるらしいけどここのお店のはどうなのかな！　いろいろ食べ比べたいのだ！」
「おじいちゃんがやってたときはあんこ一択だったんだけどね～、あたしが回すようになってからいろいろ味増やしたよ。チョコとカスタードと抹茶あん、甘くないのならチーズだね！」
　千の質問にお姉さんは笑顔で教えてくれた。
「ん、たい焼きおいしいです！　私は定番のあんこが好きですけど、他の味もやっぱり美味しいと思います」
　最初に食べ始めたほのかの反応を見て、他のケルベロス達もわっと食べ始める。
「お腹……尻尾……やはり、ここは頭かラ。生地にぎっしりあんこ……厚みがすごいのデス。それに愛敬のあるお顔ですネ」
「本当だね。目がくりっとして可愛い。はふ。程良い甘さで皮もぱりぱり。これぞ冬のおやつって感じだね」
　お互いのたい焼きを見比べて笑い合うエトヴァとジェミ。わけっこなどして仲良しだ。
「吾連、あんこ、つぶあんかこしあんか賭けないか？　千はこしあんにこのクリームたい焼きを賭けるぞ」
「面白そうだね。じゃあつぶあんにチョコたい焼きを賭けようかな……」
「うちのはおじいちゃんこだわりのつぶあんだよ！」
　千と吾連は結局クリームとチョコを半分こして交換していたようだった。
「ねえねえ折角だしお土産も買ってこうかー？　千ちゃんちの家族ぶんと、出入りしてる茶庵のお茶請けと……」
「やっぱりたい焼きはあんこだよねー。頭と尻尾を持ってお腹にかぶりつくのがうちんち流。あ、猫舌だからちょっとだけ冷めるの待ってからね！」
　フィーと縒の会話を皮切りにケルベロス達のたいやきどこから食べるのか談義が始まった。
「俺は頭から思い切りいきたい派だな」
「千は頭からいくぞ！」
「千も頭から食べる派なんだ。俺も頭から派、おそろいだね！」
「僕は頭から食べる派です」
　郁、千、吾連、ジェミが次々と頭からを主張し始める。
「ふふふ、談義になりませんね」
　そんなみんなを見ながら、ほのかが艶めいた笑いを上げた。
「友達にもお土産で買って帰ろう、みんなで食べると一層美味しい気がするからな」
「ありがとうございました！」
　郁に大きな袋を渡すお姉さんはとってもいい笑顔で、ケルベロスたちはダモクレスがこの店の名前を忘れなかった理由がわかったような気がしたのだった。

作者：星野ユキヒロ	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2019年2月21日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 0／感動した 0／素敵だった 7／キャラが大事にされていた 0
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