美緒の誕生日―雪遊び温泉郷

作者:柊透胡

「今年は暖冬って話だけど……雪が積もってる処は、しっかり積もってるわよね」
 雪遊びしたいなぁ――なんて、ぽそりと呟く結城・美緒(ドワっこ降魔巫術士・en0015)。
 冬の陽射しを見上げる横顔は何処か夢見るようで、ふんわりとした砂糖菓子のような雰囲気だ。
 ……もうすぐ成人するんだけどね。そこは、まあ、ドワーフだし。
「北陸の高原に、雪遊びが楽しめるスキー場があるようですよ。温泉もあるそうです」
「ほんと!?」
 マネージャー宜しく、都築・創(青謐のヘリオライダー・en0054)はタブレットでネット検索したHPを見せる。
 ――そのスキー場は、スキーやスノーボードを思いっきり楽しめる美しいゲレンデだけでなく、存分に雪遊び出来る「スノーパーク」があるという。
 安全対策として網で囲まれたスペースは広々として、スキーやスノボデビューしたての人向けの練習場や、そり用のゲレンデ、雪遊びのエリアには遊び道具も完備している。
「雪合戦や雪だるま作りも出来そうですね」
 存分に雪遊びした後は、温泉でほっこり。「熱の湯」とも呼ばれる弱食塩泉の湯にゆったり浸かりながら、雪見も満喫できる露天風呂。大きな窓から外の景色を楽しめる内風呂は源泉かけ流しだ。
「あらあら。貸切風呂では、桶酒も楽しめるのね」
 貴峯・梓織(白緑の伝承歌・en0280)も興味津々だ。ちなみに、桶酒は地酒だけでなく、地ビールや地ワインも選べるようだ。
「桶酒は、私は駄目だけど……ご飯も美味しそうね」
 囲炉裏を囲んでの里山料理は、素朴にして滋味豊か。山の幸の炭火焼きは絶品だ。
「よし! 皆も誘って遊びに行くわよ!」
 グッと拳を握り、美緒は即断即決。
「一生に1度の二十歳の誕生日よ! 思い切り素敵にしたいじゃない!」
 そう、2月26日は、結城・美緒20歳の誕生日。本人は、賑やかに楽しく過ごせればそれで十分のようだけど。
「そうね、今年もお祝いしたいわねぇ」
 早速、タブレットからネット予約する美緒を見詰めながら、梓織は悪戯ぽく笑み零れる。
「そうですね。二十歳の『サプライズ』は、特別でしょうから」
 綺麗なもの、可愛いもの、甘いものが大好きな美緒。サプライズには、きっと照れながらも喜んでくれるだろう。


■リプレイ

●雪山白景
 北陸の高原スキー場――晴れ渡った空の下、美しいゲレンデは眩いばかりの銀世界。
「スキーは久し振りだ」
(「うりるさん、最高の笑顔!」)
 ウリル・ウルヴェーラのテンションに釣られ、リュシエンヌ・ウルヴェーラはきゃっきゃとはしゃいでペアリフト。だけど、気が付けば……急斜面に身に竦む。
「う、うりるさん……麓が見えないのよ? 上過ぎない?」
「大丈夫、大丈夫。早く滑ろう」
 山頂まで連れて来られたら、自力で滑り切るしかない。
「ゆっくり大きく滑ればいいよ。緊張せずに、ほら」
 お手本を見せるように、手を振って先に滑るウリル。
「だいじょぶ? ホント?」
 華麗なフォームに見惚れる場合ではない。先を行く背中を見失わないよう、リュシエンヌも必死に滑り出す。
(「ま、待って……にゃ!?」)
 すってーん!
「……しまった、調子に乗り過ぎたか」
 滑るのに夢中になってついスピードを上げてしまったか。ハッと妻の姿を探して狼狽えるウリルの脇を、リュシエンヌが転がるように……否、雪玉のように転げていく。
「ルル! 怪我はない?」
 幸い、雪の小山に突っ込んで止まった彼女を、ウリルは慌てて抱き起す。
「ごめん、次は合わせるから」
「ん……だいじょぶっ。温泉でのんびりしたら復活するの」
 精悍な抱擁に甘えるように頬寄せて、リュシエンヌは安堵の笑みを浮かべる。
「だから夜も、滑りに来ようね」

 麓のスノーパークに、楽しげな歓声が響く。安全対策として網で囲まれたスペースは広々として、雪遊びの道具も豊富に用意されているようだ。
「童心に返って雪だるまでも作ろうか」
 咲宮・春乃に手を伸ばし、柔らかに微笑むアラドファル・セタラ。
「折角だから、みーちゃんみたいな雪だるま。春乃の大切な相棒だし」
「みーちゃんは相棒と言うか家族と言うか……でも、作って貰えるなら嬉しいよっ」
 いつも一緒のウイングキャットを想い、春乃も笑み零れる。
「基本は猫さんに似てるから……」
 最初は猫型からと、雪をころころ転がして集める2人。ふわふわ感の表現は難しそうだけど、耳と尻尾で似てくるだろうか?
「この枝はお髭になりそう」
「じゃあ、目は……木の実……?」
「うーん、目は窪みを作れば影でそれっぽくなるか?」
 2人一緒なら、試行錯誤も楽しい。
「よし、猫耳完成……ひゃっ!」
「ふふ、油断した?」
「あ、も~。アルさん、めっ!」
 雪猫(翼付)の影からの不意打ちの雪玉に、春乃が頬を膨らませるのも束の間。
「これは、春乃。可愛いところがそっくり」
「じゃあ、わたしも!」
 雪のみーちゃんの傍に、それぞれを見立てた雪兎が並べば、自然と笑みも零れるというもの。
「みーちゃんに見せてあげような」
「ふふー、あとでアルさんにも送るね?」
 写真として残せば、春が来ても思い出は溶けない。

「ぼくも、もう少ししたら20歳だから。今年はちょっと、新しいことに挑戦してみたくてね」
「俺様もウインタースポーツは初めてだ! 一緒に『ゲレンデデビュー』と行こうではないか!」
 初心者用の方なら多分大丈夫。ワクワクした表情でスノーボードを抱えるクローネ・ラヴクラフト。プレゼントされた手袋と帽子をしっかり着けたレッドレーク・レッドレッドもボードを選んだ。何となくカッコいい気がする。
(「……っと、と、バランスを取るの、難しい」)
 体重移動で舵をとるスノーボードは、慣れるまでは頻繁に尻餅をついては雪まみれ。
「わー! クローネ、大丈夫か!?」
 慌てて雪を描き分けるレッドレークも、覚束ない足取りだ。それでも、少しずつ出来るようになってくると楽しくて。
(「……あ、あれ? ちょっと、スピード付きすぎ!」)
「うむ、思い切って滑ると爽快――」
「レッド、避けて、避けてっ!」
「クローネ!? よし、俺様がしっかり受け止めるぞ!」
 ドンッ! バサァッ!!
 派手に雪煙が舞う。勢い余って転んだ2人は、この日1番の雪まみれ。
「この後、温泉で温まるのも良いかもね」
「ああ、そっちも楽しみだ、冬だけの贅沢だな!」
 倒れたまま、仲良く笑い合った。

「美緒さん、20歳の誕生日おめでとうございます!」
 そろそろホテルにとスノーパークを出た結城・美緒(ドワっこ降魔巫術士・en0015)目指して、ターン鋭く滑走してきたのはイッパイアッテナ・ルドルフ。続く相箱のザラキは蓋の部分をボード代わりにして……口一杯に雪を詰めてパタリと倒れる。
「大丈夫?」
 ぺっぺと雪を吐き出すザラキの蓋を撫で、イッパイアッテナからのプレゼントに笑顔で礼を言う美緒。
「夜更かしの誕生日から、もう2年ですか」
 今、彼女は何に興味を持っているのだろう?
「私ね、いよいよ大学の専門課程に進むのよ」
 晴れて、民俗学専攻になるという。
「デウスエクス相手に色々大変な国だけど、ルーツを識っていれば確り戦っていけるわ」

●雪遊び温泉郷
「やっぱ冬はスノースポーツだぜ! ……なんつって、去年は地球に来てすぐだったから出来なかったんだよな」
 スノーボードを担ぎ、エリアス・アンカーは交久瀬・麗威を見やる。
「麗威はやったことあんのか?」
「俺は春先だったからな、地球に来たの……っし、とりあえずやってみよう」
 麗威も同じく。スケートボードと似て非なるをしげしげと眺めていたが、ともあれレッツトライ!
(「雪の上は勝手が違うな……両足固定してどうやって動けっつーんだ?」)
(「両足を板に固定した状態は、心なしか不安……」)
 似たような感想を抱き、顔を見合わせる2人。転倒を繰り返しながら、まず3つの基本動作、「乗り方」「曲がり方」「止まり方」を習得する。
 次は緩やかな斜面へ――少し角度が付いただけで、難易度がグッと上がる不条理? 滑って転んで雪に突っ込んで……とはいえ、そこはケルベロスだ。程なくコツも掴んでくる。
「どうよ! 俺の滑り!」
 ターンが上手くいき、得意げに笑み零れるエリアス。
(「うん、滑れそう……」)
 漸く姿勢も安定して調子に乗ってきた麗威だが、途端に加速して制御不能に。
「エリアース!」
「なっ!? こっちくんじゃねぇ!!」
 逃げる暇もなく、諸共に撃沈。そんなこんなで、日が暮れる頃には雪塗れだ。
「腹も減ったが体が冷えた、こりゃ先に温泉だな?」
「ああ、温まろうぜ!」
 存分に愉しんだ2人は、賑やかにホテルに向かう。
「なぁ、手で水鉄砲出来るの知ってるか?」
「水鉄砲? 勿論知ってるぜ」
「じゃあ、温泉でどっちが遠くまで飛ぶか勝負! 負けたら1日下僕だ!」
「上等よ! 明日の麗威は楽しいパシリライフだな!」
「ふふん、軽口叩くのも今の内だ」
 ――温泉水鉄砲勝負は、また別の話。何がともあれ、日本の冬は面白い。

 雪山に心躍らせ、存分にソリ遊び。シル・ウィンディアと幸・鳳琴、2人で1つのソリに乗り、風景を楽しみながらゆっくり滑る。予想外にスピードが出て、思わずギュッとしがみついてしまったことも。
「よし、温泉へごーっ!」
 思い切り遊んだ後は、温泉へ。冷えた身体を芯から温めよう。
「ふぅ、やっぱり温泉っていいよね」
 湯煙越しの銀世界に目を細めるシル。だが、すぐにもっと間近の光景に見惚れ、溜息を吐く。
(「白と黒って映えるよね~」)
「シル、さんっ?」
 眼を瞑って寛いでいた鳳琴は、後ろからの抱擁にビックリ眼。
「雪を背にした琴ちゃん、とっても綺麗だよっ♪」
 衒い無い誉め言葉に、鳳琴の頬が朱に染まる。柔らかな温もりは逃れ難く、そっとシルの手に自らの手を重ねた。
「あったかいね、琴ちゃん」
「綺麗なのは、シルさんこそ……!」
 向き直り、正面から大切な人を抱き締める鳳琴。肌と肌との触れ合いに、頭がのぼせてグルグルするような、だからこそ募る愛しさを込めてぎゅぅっと。
「琴ちゃん……」
 もう寒さなんて気にならない。言葉にならない想いごと、シルもそっと抱き締め返した。

 貸切風呂は、犬神・巴と空国・モカの2人きり。
 長い黒髪が湯に浸からぬよう、頭にタオルを巻いている巴だが、首から下は堂々としたもの。鍛えに鍛えたマッスルボディも豊胸マシーンで育てたバストラインも、惜しげもなく晒している。
「どちらも私の努力の結晶! 隠すことなどできませぬ」
「奇遇だな、私も温泉で身体にタオルを巻くのは好みじゃない」
 モカの均整の取れたビューティフルボディは、オトナの魅力が溢れんばかりだ。ちなみに、胸の方は……。
(「機械に頼るのも、好みじゃなかったのでな……」)
 温泉の絶景のお供と言えば、桶酒。モカは日本酒、ビール、ワインと、全種制覇の勢いだ。
「さすが地元の銘酒、どれも美味い!」
 景気よく干されたモカの杯に、巴はトクトクと次を注ぐ。彼女自身はまだ18歳。だから、スポーツドリンクの返杯だ。
「2人の友情に乾杯!」
 中身こそ違え、キューッと飲み干す心地よさ。
「巴さんが20歳になったら、本物の酒を注いで乾杯したいな」
「はい! 私がオトナになったその時は、一緒に飲みましょう!」
 ――それは、遠くない将来の約束。

●或いは、美緒の誕生日
「美緒、お誕生日おめでとう。今年で20歳なのよね」
「私も早く大人になりたいなー」
 ルリィ・シャルラッハロートとユーロ・シャルラッハロートのお祝いに、笑顔で礼を言う美緒。カレン・シャルラッハロートからのグレープジュースのお酌もありがたく。
「気分はワインでね」
「うーん……私にはずっと未知の飲み物だから、どんな味か想像もつかないわ」
 他のケルベロスに呼ばれた美緒を見送れば、三姉妹水入らず。雪見温泉の時間だ。
「温泉の温かさと雪景色って不思議な取り合わせだよね」
 のんびりと湯の中で伸びをするカレンのスタイルは、妹達も羨むばかり。
(「温泉の中でアイス食べるのも美味しいかも」)
 ついでにユーロと自身をチェックする……大丈夫、追いつかれそうだけど、まだ、ルリィだって負けてない。
「ふふん、私の方がお姉ちゃんだもの」
「……むぅ」
 ちょっと足りない呈に悔し気に唇を尖らせ、ユーロは両手をワキワキと。
「え……ちょっと。キャァッ!?」
 羨ましいので、どさくさでもんでみました。
「こらこら、おいたは駄目だよー」
 カレンに窘められて、抱き締められて、甘えるように頬を摺り寄せるユーロ。
「まだまだ甘えん坊ね」
 そんな末っ子にお姉さんぶりながらもそっと抱き付いてきたユーロを、カレンはやはり優しく抱擁する。長女力を如何なく発揮だ。
 そうして、温泉の後は、囲炉裏を囲んで里山料理。ルリィとユーロは炭火焼に興味津々だ。
「そうだ! あーんで食べさせっこしよう」
「串焼き、美味しそうなんだよ」
 ユーロの提案にカレンが笑顔で頷けば、ルリィも断れず――今夜も口福は、三姉妹を遍く巡る。

「今日は盛大に祝うのじゃ! 美緒姉様、誕生日おめでとうなのじゃ!」
 ケルン・ヒルデガントのプレゼントは、可愛いピンクのバスタオル。
「此れならお風呂でも大丈夫です!」
 シア・ベクルクスからは、石鹸で出来たお花のブーケ。
「私からは、お風呂に入り易いように風呂用ヘアクリップにしてみましたっ」
 満面の笑みを浮かべるセレネテアル・アノン。どの贈り物も、温泉にぴったりか。美緒も笑顔で感謝を口にする。
「大切に使うわね」
 そうして、4人は貸切露天風呂へ。漆黒の空からちらつく六花を眺めながら、湯船に浸かる。
「身体は温泉でぽかぽかですのに、目の前は雪景色なんて不思議」
「寒と暖を同時に楽しむって、炬燵でアイスを食べている様な贅沢感を感じますね~!」
「ふふふ。いつもの疲れ、ここでしっかりと癒して行くのじゃー!」
 夜気は冷たく、だからこそ、のぼせず長湯を楽しめる幸せ。のんびりと手足を、ついでにオラトリオ達は羽も伸ばす。文字通りの羽休めが実に心地好い。
(「本当は、成人祝いにお酒で乾杯したい所ですが……」)
 ぐるりとメンバーを見渡すセレネテアル。美緒はドワーフ故に禁酒だし、ケルンは未成年。シアは……飲ますな危険。セレネテアル自身も、お酒を与えてはイケナイ。
「……お酒だけが大人のお祝いじゃないですよねっ」
「そうですわね。お酒だけが大人の魅力ではありませんもの~」
 セレネテアルの呟きに同意するシアだが、ふと小首を傾げる。
「………大人の魅力って、なあに?」
 中々に深い問いだ。大人って何だろう、とケルンも考えを巡らせる。
(「いつかは妾も大人になるんじゃよなー」)
「大人というか、私は素敵に歳を取りたいわね」
 見た目は変わらずとも、年の功はその内に積もっていくものだから。
「その内、『結城のおば様』とでも呼ばれるような風格を身に着けたいわ」
 悪戯っぽく笑む美緒の目標は、何処までが本気なのだろう?
「まあ、今回は大人っぽく優雅に温泉と雪の情景を楽しみましょう~!」
 一先ず、上手く纏めた感じのセレネテアルは、何か思い付いた悪い顔。
「あ、折角なのでどなたかお背中を流しましょうか~?」
「あらまあ? では流し合いで親睦を深めましょうか~」
 シアがおっとり頷く一方、何やら不穏を察知したケルンはすかさず距離を置く。
 この後何が起きたのか――人は日々、大人の階段を上り続けているとだけ、述べておこう。

●湯面に桶揺れる
 旅団「黒流花壇」の縁で訪れた5人は、貸切風呂でのんびりまったり。その内訳は男性が3、女性が2。
 という訳で、エルス・キャナリーと千手・明子は水着着用だ。男性陣は、西院・織櫻が用意した湯帷子に袖を通している。
「初めて着るなァ、これ。普通に浴衣を着るので合ってるかい?」
「浴衣の原型ですから」
 斉賀・京司は物珍しげに袖を摘んだが、湯に浸かる前に長い髪を何とかしないと。
「君たちも結ってあげるからおいで。お互い長いから苦労するものねえ」
 湯浴みの時は、上に結ってからプラスチック製の簪を刺すのが1番纏まる。プラスチックでは情緒が無さそうだが、水に強くて手入れも楽だから。
「京司はこういうの得意よね!」
 明子の水着は、去年の水着コンテストの流用らしい。
(「女子力低めのわたくしだけど、京司に髪を結って貰えば!」)
 という訳で、エルスの銀髪に続いて、明子の漆黒の髪もすっきりと。
「温泉に入りながら、雪見酒が楽しめるとは最高だねえ」
「桶酒ならやはり日本酒がいいな」
 京司のしみじみとした呟きに、やはり金髪を纏めて貰ったベリザリオ・ヴァルターハイムは上機嫌で応じる。
「ワインやビールも嫌いじゃないが、温泉と言ったらやはり日本酒だろう」
 雪見酒なら、以前に庭で覚えがあるが……あれは寧ろ、雪中飲みだったし。
「お酌は私がしましょう。ヴァルターに酒瓶は触らせません」
 湯帷子の上から自らの傷痕に触れていた織櫻だが、仲間に向き直った表情はいつもの通り。
「皆さんも渡さないように。飲み干されますよ」
「わかってたけどな!」
 その実、温泉は初めてだろう織櫻の様子を窺っていたべリザリオも、茶化すような笑い声を響かせる。
(「皆、おっきいの」)
 温泉に響く声もそうだが、男性陣は何れもエルスより上背がある。ついつい、明子にしがみつくエルス。他と自分の杯を見比べて、むすっとほっぺたを膨らませる。
「わたくし、一度試してみたかったのがバニラアイスの日本酒がけ! エルスはまだお酒がダメだから、サイダーに乗せてみるのはどう?」
「みんなお酒なのに……」
「拗ねないでエルス、可愛いお顔がだいなしよ」
 明子も気遣ってくれたし、ポカポカした心地で不機嫌のままなのは難しい。
「お酒、そんなにいいものなの?」
 ワクワクした明子の様子につられて、流れる桶をちょいちょいつついて遊び出すエルス。
「……みかんと温泉卵も食べたいな」
「温泉卵ならあるぞ。旅団の土産にしようと思うんだが、まずは味をみないとな」
 ベリザリオも抜かりない。出汁と塩も用意してきている。
「温泉卵は出汁派! ……でも、お酒の独り占めはダメよ、ベリザリオさん!」
 甲斐甲斐しく世話を焼く織櫻の目を掠め、温泉卵のどさくさで手酌酒しようとしたべリザリオ。明子の警告にすかさず徳利を取り上げ、織櫻は改めて彼にお酌する。その表情は穏やかだ。
「雪の庭での酒も悪くありませんでしたが、これぞ雪見酒と言う気がします」
「あ、雪ね!」
 大窓の外にちらつく白にエルスが歓声を上げれば、明子も楽しそうに。
「本当に、贅沢だわ……」
(「あゝ、気持ちいい。最初に湯に浸かる行為を精神の洗濯と云った人は判ってる」)
 気の置けない仲間と、この時季だけの最高に贅沢な暖。皆で過ごせて良かったと、京司は唇を綻ばせた。

作者:柊透胡 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年3月8日
難度:易しい
参加:24人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 5
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