妖精さんになるんだよ！

■リプレイ

●妖精のレベルが高すぎる件
　道を歩く少女――りん。
　そこへ頭上から怪しい影が舞い降りた！
「ふぉーっふぉっふぉっふぉ！」
「ふえっ！？」
　背後に落下した何かに、りんが後ろを振り返る。
　そこにはいたのは――カヘル・イルヴァータル（老ガンランナー・e34339）。
「腰がグギッと……っ！」
　胸部にブラジャー、首にフリフリ、股間に白鳥パンツ、そして申し訳程度の触覚と羽を着けた爺がうずくまっていた。
　事案だった。
　バイオガスを噴射してなければ一発レッドだった。
「へ、へんたいだーっ！」
　ささーっと逃走を図るりん。
　が、その前に立ちはだかる影。
　着流しっぽい暗黒の衣をまとったヴァルカン・ソル（龍侠・e22558）だ。
「どこへ行くと言うのだ？」
「ひっ……」
　じろり、と睨まれたりんが強張る。
　そして続々と現れる、悪の軍団！
「せっかく妖精たる妾たちが姿を見せてやったというのに」
「ひゃっはーでレッツゴーなのです！」
「ウキィーーーッ！！！」
　りんを取り囲むように現れる３人。
　１人は怪しい蝶のサングラスとスーツを装着、１人は胡散臭いサバト服をマントよろしく翻す仮面の少女、そしてモブ敵じみた台詞を発する半裸赤褌のドミノマスク。
　彩葉・戀（蒼き彗星・e41638）とマロン・ビネガー（六花流転・e17169）、そして岩櫃・風太郎（閃光螺旋の紅き鞘たる猿忍・e29164）である。
　別の言い方をすると不審者と不審者、そして変態である。
「な、何なんですか……？」
　怯えつつも顔をあげるりん。
「言ったであろう、妾たちは妖精じゃ！」
「よ、妖精さんなの！？」
「そうじゃ。その証拠を見せてやろう！」
　戀が癒之符『断悪修善』を天にかざし、同時に黒い音色を奏でると、無数のエネルギー体が顕現する。
「す、すごい！　妖精さん！」
「わかったかのう。妾が真の妖精じゃと」
「でも、みんななんだか悪そう……」
「悪い？　当然だろう」
　訝しげな目をするりんの前で、ヴァルカンが日本刀を抜く。
「妖精とは読んで字の如く、妖の精。人を惑わし、困らせ泣かせ楽しむモノよ。このヴァルカン・ドラゴンサムライがお前の周りをこの刀の錆としてくれよう！」
「きゃーーっ！？」
　雨あられと放たれる斬撃が、りんの周囲の路面やらを切り刻む。
　当然りんには当たってないが、恐怖に竦んだ少女は震えた。
　そこへ、両手にモンブランで近づくマロン。
「ふはははは！　我こそは悪の妖精ダークモンブラン！　ケーキに栗に生クリーム、砂糖の力で虫歯の種をばらまくのだ！」
「あ、甘い雨がふってきた！？」
　大仰な悪のオーラと裏腹に、優しく降る小雨。
　口に入ると蜂蜜のような甘味なので、ちょっと楽しいりんである。
　だが、そこへ。
「ふぉーっふぉっふぉっふぉ！　わしはおぬしの心の内に住まう妖精、カヘールじゃ！」
「へ、へんたいだーっ！？」
　くるくるとステップを踏む変態……じゃねえカヘルが現れ、りんの周りを周回する。
　バレリーナ爺が自分を中心に舞っている。
　トラウマ案件だった。
　しかも――。
「フンッ！　ハッ！　フンハッハ！！」
　そのバレリーナ爺に追随して、半裸の赤褌が鋼の肉体を見せつけていた。
　バレリーナ爺の向こうに半裸マッスル。
　大人でもトラウマ案件だった。
「いくぞ！　森の妖精サール兄貴よ！」
「フンフンフンハッハ！」
「だ、誰かーーっ！！」
　キレを増してゆく舞と筋肉に恐怖したりんが悲鳴をあげた――そのとき！
「そこまでですよ！　悪の妖精！」
　逆光の中、登場する謎の３人！
　猟犬であることは明白だが盛り上がり演出のため次章に続く！

●勃発！　日曜朝の展開！
　ＣＭ明け！
「そこまでですよ！　悪の妖精！」
「何者じゃ！？」
　高らかな声を聞き、戀が反応する。
　そこにいたのは――。
「クッキーエンジェルかえりん参上！　悪い妖精は成敗！　ですよ！」
「ナースエンジェルさくら参上！　悪い子はおしりぺんぺんしちゃうんだから！」
「ファイアーエンジェルベルちゃん参上！　変態は焼却処分です！」
　きゃぴっとポージングする、３人の魔法少女だった！
　ピンクの翼と衣装、きらきらアクセで身を飾る大粟・還（クッキーの人・e02487）が天からクッキーを降らせる！
　プリティでキュアキュアな魔法少女に扮する七星・さくら（日溜まりのキルシェ・e04235）も、星の光を降らせて登場シーンを盛り立てる！
　ベルベット・フロー（フローリア孤児院永世名誉院長・e29652）は偽骸で元の美少女顔を復元してフリフリ魔法少女と化しているが、台詞からもう内面が滲み出ている！
　圧倒的、日曜の朝感だった。
　ちなみに還とさくらは１８歳（仮）だが、実年齢は皆さん成人済みです。
「あ、胸がＣからＡになってるのは別に弄ったとかじゃないですよ。大人になってから農業始めたので筋肉がついて――」
　いや還さん、誰も訊いてないんでその話はなくてもいいかなって……。
　と、そうこうしてるうちに、さくらとベルベットがカヘルと風太郎を追い払う。
「キィー！　ウキャァーッ！」（赤褌ドミノ）
「安心して、りんちゃん！」
「妖精はワタシ達が消し炭にしてあげます☆」
「ぬうっ、ケルベロスめ！」（一発レッドの人）
「おねえちゃんたち、ケルベロスなの！？」
　パッと表情が明るんだりんへ、にっこり微笑むさくらとベルベット。
「ビーちゃんはりんちゃんを守っていて下さい」
「るーさんもお願いします」
　ニチアサお約束のマスコットキャラもといウイングキャットのビーストとるーさんに守りを託し、魔法少女たちは悪の妖精へ立ち向かう！
「ケルベロスめ……ええい、やるのじゃ！」
「承知した！」
「邪魔はさせんぞ、ケルベロスよ！」
「返り討ちにしてくれる！」
「フゥーンッ！」
　悪の首魁ポジっぽいカヘルの号令を受け、一斉に襲いかかる悪の妖精軍団。
「妾の奏でる音色で、沈むがよい！」
「そんなものには負けませんよ！」
　戀がけしかけた霊魂（召喚したエネルギー体）たちを突破し、飛翔する還。そのあとに続いてさくらも飛行し、空中でヴァルカン＆マロンとぶつかる。
「かかってくるがいい！」
「いくわよ！　ドラゴンサムライ！」
「モンブランの力で……虫歯にしてやろう！」
「クッキーじゃダメなんですか！」
　わーわーと空中でやりはじめる４人。
「ではワタシは地上の敵を！」
　眼前にいるだろう敵へ目を向けるベルベット。
　だが、いるはずの敵がいない。
　けど謎の歌は聞こえてくる。
『ＢＡＮＡＮＡ　ＢＡＮＡＮＡ　曲線スゴイ！
　もやはこれは　黄金比！
　ＢＡＮＡＮＡ　ＢＡＮＡＮＡ　黄色がヤバイ！
　お前にバナナを　食わせるぞ！
　体中の穴という穴に　突っ込むぞ！　６本くらい　突っ込むぞ！』
　怪しいスクラッチ音とともに刻まれるライムの発生源は……上。
　見上げるベルベット。
「ブルァッ！」
　電柱の上に突っ立ってる風太郎が、バナナを握りつぶしていた。
　ぼとっ、と落ちてくるバナナ。
　ベルベットはやれやれと肩を竦めると、ロッドに地獄をまとわせて跳躍。
「悔い改めろ、畜生」
「ブルァァーーーッ！！？」
　魔法の杖（殴打）をくらった風太郎は、頭から地面に落ちました。

●正義は勝つ！
　激闘（の演技）を繰りひろげる猟犬たち。
「今よクッキー！　わたしが押さえているうちにドラゴンサムライを……ドラゴンサムライさんを……」
「ナースさん？　顔が蕩けてるんですけど……」
「ドラゴンサムライもまんざらでない顔です！」
「い、いやそんなことはないぞ！」
　さくらと抱き合う形になってるヴァルカンが、還とマロンに精一杯の言い訳。
　これは戦いの構図的にまずいので、夫は断腸の思いで妻をぐいっと離した。
「お前となれ合うつもりはない」
「そ、そうね、ドラゴンサムライ……！」
「だいたいナースエンジェルよ、見た目は誤魔化しているが言動とか明らかにアラサ――」
「エンジェリックサンボ！！」
「ぶふぁーーーっ！？」
　さくら（３０）の絞め技をくらったヴァルカンが、割とガチで気を失う。
　禁句ってあると思うんだ。
　そうしてドラゴンサムライが墜落するのを横目に、カヘルはりんに語りかけていた。
「な、なんですか……！」
「りんや、おぬしは悪に憧れておろう？」
「そ、そんなことないもん！」
「心の奥ではどうじゃ。陰で悪口を言うあの人を殺したい！　壊したい！　そう思ってはおらんかのう？　ほれこの通りに……！」
「フンッ！」
　絶妙のタイミングで、風太郎が引き締まった赤い猿尻で割り箸を割った。
　無言の時間が流れる。
　とことこ歩いてくるベルベット。
「アンタの出番じゃない」
「ブルァーッ！？」
　再びのブレイズクラッシュで退場する、妖精サール。
　作業を終えたベルベットが粛々と去ると、カヘルは咳ばらいをする。
「殺したい壊したいと思っておらんかのう？　ほれこの通りに……！」
「！！？」
　テイクツーを敢行したカヘルがリボルバー銃で空砲を撃ちまくる。傍らのボクスドラゴンも雄叫びをあげ、銃声と相まってりんの恐怖が煽られる。
「りんちゃん！？」
「いま助けますよ！」
「悪の妖精カヘール！　勝手はさせません！」
「ふははは！　そうはさせるか！」
　空中から降下しようとしたさくら＆還、そしてベルベットを、マロンのブラックスライムが捕らえる。
「このまま締め上げてモンブラン投げの的にしてやるー！」
「せめてクッキーでお願いします！」
「クッキー、本音を出さないで！？」
「このままじゃやられてしまいます！」
　スライムで身動きできない、と迫真の演技を見せる還＆さくら＆ベルベット。
「おねえちゃん！？」
「ククク、ケルベロスなど所詮この程度なのじゃ」
　不安げな表情をするりんに歩み寄り、戀があくどい笑みを浮かべる。
「どうじゃ、あんなものは見捨てて、お主も来るか？　雪だるまを車道のど真ん中に作り人を困らせる楽しい世界に……」
　随分とせこい悪事を働く妖精である。
　りんちゃんはそんな小ボケにツッコめる状態じゃないですよ？
「わしらと死の契約と共に破壊の限りを尽くそうぞ。契約はわしとの熱いキスじゃ！」
「や、やだーーっ！！？」
　だからカヘルさん？　そういうボケにツッコめる状態じゃないんですよ？
　普通にガン泣きだから地味にあなたが傷ついちゃうやつですよ？
　と、そこへ――。
「りんちゃん！　ライトを持って！」
「えっ！？」
　ベルベットの一声を受けて、ビーストとるーさんが隠し持っていたペンライトをりんに渡す。
「お願い！　そのマジカルペンライトを振ってわたし達にパワーを送ってほしいの！」
「そうすれば、悪の妖精を退治できます！」
「ほ、本当に！？」
　さくらと還が、会心の笑顔でうなずく。
　りんは少しの逡巡のあとに……ライトを掲げ、力いっぱい声を出した。
「頑張れーー！　ケルベロスーー！！」
　ペンライトがぶんぶんと光の軌道を生む。
　するとマロンが怯み、ブラックスライムがしおしお。
「くっ……なんだこの輝きは……！？　体が、動かない！」
「これが魔法少女の力……！」
「またしてもわしらを阻むか……！」
「ヌゥゥゥンッ！？」
「おのれ、覚えとれ……！」
　次々とやられ演技へフェードインするマロン、ヴァルカン、カヘル、風太郎。
　そして親玉っぽく幹部を残して撤退する戀……あれ、カヘルさん更迭？
「フィナーレよ！　クッキー！　ファイアー！」
「了解です！」
「悪の妖精はおさらばですよ♪」
　一斉にそれっぽい武器を構えるさくら、還、ベルベット！

『プリティラブインフェルノクッキーサンシャイーーーン！！！』
『ぐわぁぁーーっ！！』
『おのれケルベロス！　じゃがわしが倒れてもいずれ第二第三のわしらがー……』

　いろいろ属性盛りすぎな合体必殺技の閃光を受け、倒れるマロンと風太郎。カヘルも『ワシラガー』とセルフエコーしつつ、消える。
　最後に残ったヴァルカンは、深手を負ったっぽく腕を押さえた。
「今回はこれで引き下がるが、お前に悪の心が芽生えたならば、我等はまた現れる！」
　ふはははは、と高笑いを残して駆け去ってゆくヴァルカン。
　あとに残されたりんが茫然としていると、ベルベットは少女の頭をぽんっ。
「ありがとう、りんちゃん。応援たしかに届いたよ♪」
「……おねえちゃんたちこそ、ありがとう！　ケルベロスって妖精さんよりすごいだね！」
　あんなに怖いなら、妖精さんはもうやだな。
　りんがそう言ったとき、その小さな体から、ころりと宝玉が落ちていた。

●フォローも忘れません
「いやー楽しかったー」
　達成感を抱きつつ、るーさんと一緒にぐぐっと体を伸ばす還。
　魔法少女モードが終了した彼女は、すっかり３２歳です。
「これで確保ね」
「頑張った甲斐があったね！」
　コギトエルゴスムを確保し、安堵するさくらとベルベット。
　りんはそんな２人を、不思議そうに見ていた。
「おねえちゃんたち、何を拾ったの？」
「妖精さんの卵ってところですかね？」
「妖精さん！？」
　ひっ、と後ずさったりんが、何かにぶつかる。
　やられ演技を終えたマロン（通常姿）が立っていた。
「そんなに怖がることないのですー」
「おねえちゃん……誰？」
「ケルベロスなのです。モンブラン食べます？」
「モンブランはやめたほうがいいじゃろう……」
「あっ！　悪い妖精さん！？」
　呆れた顔で再登場した戀に、りんが驚いて身構えると、戀はぺこりと頭を下げた。
「えっ、妖精さん……？」
「すまなかったのぅ、怖がらせてしもうたじゃろう。……キミを守るためだったのじゃ、許してくれの」
　だいたいの事情を説明すると、りんは警戒を解いて戀に近づいた。
　すると戀は微笑んで、言った。
「実はの、妖精というのは実在するんじゃよ。妾が妖精なのじゃからな。妖精種の一つ、ヴァルキュリアと言う種じゃ」
「妖精さん、いるんだ！」
　パタパタと戀が光翼をひろげると、りんの瞳が興味で輝く。
　その様子を見て、こっそり戻ってきたカヘルやヴァルカン（衣装解除済）は穏やかに笑った。
「特にトラウマも残らなさそうで良かったのう」
「ああ、命と同じぐらい心も大事だからな」
　うむ、と揃って首を沈める２人。
　その背中をじっと見つめるベルベットとさくら。
「そう思うなら自重すべきだったんじゃ……」
「そうよね。カヘルさんはアレだったし、ヴァルカンさんも傷つくこと言ったし」
「いや、あれは俺も悪乗りが過ぎた。何でも一つ言うことを聞くから、雷雛遊戯は勘弁してくれ」
「わしだって苦渋の選択だったんじゃ……」
　平身低頭してさくらに謝るヴァルカンの横で、遠い目をするカヘル爺。
　やはり地味に傷ついていた模様。
　しかし、ヴァルカンもカヘルもまだマシだったほうである。

　フリーダムすぎる妖精プレイと引き換えに、ベルベットの度重なる仕置きグラビティをくらって、路上に赤尻を晒して倒れてる風太郎に比べれば完全にマシだったのである。
　ちなみに帰るときも、回収されなかったようです。

作者：星垣えん	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2019年2月25日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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