夢と現実

作者:雨音瑛

●『タイタニア』
 第七の魔女・クレーテが光る宝石『コギトエルゴスム』にグラビティ・チェインを注ぎ始めた。
 するとコギトエルゴスムは眩い光を放ち、尖った耳と蝶の羽を持つ男を顕現させる。
 男が恭しく頭を下げると、クレーテはにっこりと笑った。
「さあ、これでコギトエルゴスムから復活したりんね♪」
「蘇生に加えて拠点の迷宮化まで、かたじけない。この恩に報いぬ余ではないよ」
「そりゃ当然りん♪ せっかく遊興とルーンの妖精をゲットしたんだから、ばりばり役に立って貰うりん♪ キミりん達は、ボクりん達魔女と相性バッチリりん♪」
「……ならばまずは、同胞を戻すため、グラビティ・チェインの獲得に赴くかな」
「そうりんね、手伝うりん♪ そろそろボクりんも牛脱いで、本気出しちゃうりん♪」
 そう言ってクレーテは牛の被り物を脱ぎ捨てた。
 クレーテが『グレーテル』となった瞬間であった。

 公園の一角、雪の降り積もった芝生に、丸く雪の積もらない箇所があった。少女は目を輝かせ、『おともだち』に話しかける。
「ねえ、きっとこれは妖精のしわざよ。エリ、本で読んだもの。フェアリーサークル、っていうのがあってね……そう、ツバサも知ってるのね! うん、エリが本で読んだのもキノコだったわ」
 少女は、誰もいないはずの隣に向かって何度もうなずいている。
「うち、本だけはたくさんあるの。お父さんが、ひとりでも寂しくないようにってたくさん買ってくれたのよ。持ってる本には書いてなかったけど、これもフェアリーサークルの一種だと思わない? だってこんなに丸くて……っ!?」
 少女が驚いたのは、目の前に現れた者――妖精のせいだ。
 妖精は青い瞳を細め、金色の髪を靡かせてエリへと微笑みかける。妖精の背では、白い蝶の羽根がはたはたと動いている。
 少女はぱっと顔を輝かせるが、次の瞬間には額から血を流してぱたりと倒れた。
 妖精は少女のヒールグラビティを使用した後、蝶の羽根を羽ばたかせてどこかへと飛び去って行くのだった。

●ヘリポートにて
 リザレクト・ジェネシスの戦いの後、行方不明になっていた『宝瓶宮グランドロン』に繋がる予知があったと、ウィズ・ホライズン(レプリカントのヘリオライダー・en0158)が話す。
「そして……妖精を信じる純真な少年少女のグラビティ・チェインを奪う妖精型デウスエクスが、実体化する事件が起きた。その妖精型デウスエクスは、おそらくは妖精8種族の1種だろう」
 どうやら少年少女の夢の中にコギトエルゴスムが埋め込まれており、充分な力が溜まった段階で、デウスエクスが実体化するらしい。
 『夢の中』にコギトエルゴスムを埋め込むという手段から、この事件の背後にドリームイーターが存在しているのだろうが、詳細は不明だ。
「幸いなことに、出現する妖精型デウスエクスは被害者を殺そうとしているわけではないらしい。しかし、命の危険がないからといって、放置するわけにはいかない。……つまり、君たちケルベロスの出番だ」
 妖精型デウスエクスを復活させられるのは、妖精を信じる純真な少年少女だけ。
 そのため、まずは実際に彼ら彼女らに会い、色々な話をして『妖精を嫌いになったり、妖精に興味を失う』よう仕向ける必要がある。
「彼女の目には妖精が見えているため『妖精などいない』といった方向での説得は難しいだろう。……そうだな、子どもが興味をひくものをプレゼントしたり、妖精よりも面白いものについて話したり、体験させたりと『妖精よりも興味を惹かれるもの』ができれば、妖精の姿が見えなくなるようだ」
 説得に成功すれば妖精型デウスエクスは復活できなくなり、子どもの夢の中からコギトエルゴスムが排出される。そこでコギトエルゴスムを確保する、というのが基本的な流れた。
「今回向かって欲しいのは、雪の積もった公園の一角にいる『エリ』という少女の元だ。普段は親が不在で寂しい思いをしているようだな。その結果、見えないお友だちをつくり、妖精を探しては色んなところに出歩いているようだ」
 もし少女の説得に失敗した場合、妖精型デウスエクスは戦闘をせずに撤退しようとする。復活したばかりのため強力なデウスエクスではないので、撤退前に強力な攻撃を叩き込めば撃破はできる。しかし、コギトエルゴスムを得ることはできない。
「妖精型デウスエクスが出現してしまった場合、撃破するか見逃すかについては現場の判断に任よう。攻撃を行わないのならば、1分程度の会話をするタイミングはあるかもしれないな」
 あとは、とウィズは表情を曇らせた。
「説得できなくとも……少女が死亡すれば、デウスエクスは復活できずコギトエルゴスムを回収できる。とはいえ、少女に罪はない。可能な限り、うまく説得して欲しい」
 そう告げ、ウィズはケルベロスたちに頭を下げた。


参加者
メイア・ヤレアッハ(空色・e00218)
春日・いぶき(藤咲・e00678)
キソラ・ライゼ(空の破片・e02771)
八崎・伶(放浪酒人・e06365)
暁・万里(アイロニカルローズ・e15680)
咲宮・春乃(星芒・e22063)
歌枕・めろ(アニュスデイ・e28166)
星野・千鶴(桜星・e58496)

■リプレイ

●出会い
 見えないお友だち「ツバサ」に話しかけ、エリは公園の中を歩く。不意に袖口を引かれて振り返ったが、誰もいない――のではなく、エリよりも小さなボクスドラゴン「パンドラ」が、そこにいた。
「こんにちは、エリになにか用?」
 首を傾げるエリに、パンドラは人懐っこい笑みを浮かべてしお辞儀をした。
 その後は、身振り手振りを交えて必死に何かをアピールしている。
「遊びたいの? うん、一緒に遊びましょ! あれ、そっちで遊びたいの?」
 駆け出したパンドラの後を追いかけるように走り出すエリ。パンドラが足を止めた先には、シャンパンゴールドの髪が足首まで届く少女がいた。
「こんにちは。その子はね、パンドラっていうの。一緒に遊んでくれてありがとう。お姉ちゃんはね、めろって言うの。あなたのお名前は?」
 かがんで目線を合わせるのは、歌枕・めろ(アニュスデイ・e28166)。
「エリ!」
「そう、エリちゃん。はじめましてのご挨拶に、ココアはいかが?」
 めろがココアを差し出せば、ふわり桜の花が舞う。
 桜は、エリと仲間たちの接触を見守る八崎・伶(放浪酒人・e06365)の「高砂」によるものだ。
 すると、ボクスドラゴン「コハブ」がエリに飛びついた。
「もーっ、コハブったらー! ごめんね、コハブがいたずらしなかった?」
 駆け寄るのは、コハブの主メイア・ヤレアッハ(空色・e00218)だ。
「大丈夫よ、この子はコハブってお名前なのね」
「ちなみにわたくしはメイアって……えっ、コハブ、遊びたいの? 仕方ない子ねぇ。いっしょに遊んでくれる?」
「うん! ……わっ!?」
 力強くうなずいたエリの頭に、ウイングキャット「みーちゃん」が乗っかった。
 咲宮・春乃(星芒・e22063)はすぐにみーちゃんを回収し、ぺこりと頭を下げる。
「ごめんね、重かったよね? この子、みーちゃんって名前だけど男の子で活発すぎて……ああ、あたしは春乃だよ」
「ちょっとびっくりしたけど大丈夫よ」
「よかった! あたしたち、みんな、この子たちとおともだちで遊ぶ予定だったけど、よかったらエリちゃんもどうかな?」
「いいの? ……あれあなたも遊びたいの?」
「そうみたいだな。俺は八崎、こっちがボクスドラゴンの焔。エリちゃんは友達と一緒なんだよな? 混ぜてもらっていいか?」
 ボクスドラゴン「焔」がエリに握手を求めるところに近づきつつ伶はエリへと笑みを向ける。
「もちろん!」
 サーヴァントたちが接触を終えたのを確認して、春日・いぶき(藤咲・e00678)もエリへと声をかける。
「こんにちは、お嬢さん。怪しい者ではありませんよ、通りすがりの魔法使いです」
「……ツバサ、聞いた? 魔法使いさんに会うの、エリ初めてよ!」
 思いのほか好意的な反応に、いぶきは紫の瞳を細めた。
 キープアウトテープを貼り終えたキソラ・ライゼ(空の破片・e02771)と暁・万里(アイロニカルローズ・e15680)も、仲間の元へ合流する。
 とたん、一匹の犬がエリの足元にすり寄った。
「ごめんね、びっくりさせちゃったかな? 僕は万里、こっちの犬はカピっていうんだ」
「大丈夫! ツバサは犬、好きだもんね!」
 エリの言葉に、万里は一瞬言葉に詰まる。
 ツバサ。それは、万里が記憶と共に取り戻した、もういない兄と同じ名前だ。
「……僕の兄もね、ツバサっていうんだよ。兄のツバサは意地悪だったけど、ツバサくんはどんな子だろう? 僕も仲良くなれるかな」
 複雑な心境でその名前を口にするが、今は目の前の少女のために。万里は笑顔のまま、エリへと問いかける。
「人見知りだから……どうかなぁ……」
「そっか、少しずつ慣れていけるといいナ。……っと、オレはキソラ。丁度面白い遊びが無いかなって話しててネ」
 しゃがみこんでエリの目線に合わせ、キソラが微笑みかける。
 一度に押し寄せて驚かせすぎないようにとタイミングを計っていた星野・千鶴(桜星・e58496)は、ブランケットを手にエリへと歩み寄った。
「おねーさんも、みんなの『おともだち』?」
「そうだよ。千鶴、っていうの。よろしくね。……エリちゃん、寒いといけないから、これどうぞ?」
 エリの肩にブランケットをかけた後は、そっと彼女の耳元でささやくように。
「これね、内緒なんだけど、友達になれるマントなんだよ? つければエリちゃんもきっとたくさん友達ができるよって、きっかけになるなら」
 その言葉を聞いて、エリは嬉しそうにきゅっとブランケットを握りしめた。

●新しい楽しみ
「そっか、エリちゃんは本が好きなんだね。それじゃあ、一緒に作ってみない? 自分の大好きなものだけを詰め込んだ本を、さ」
 万里の提案に、エリは身を乗り出した。
「作ってみたい!」
「あっ、文字を書くなら、まずはお手紙セットで字の練習してみない? 綺麗に書ける方法を教えるし、お父さんにお手紙も書けるようになれちゃうよ。お父さんには、なんて伝えたい?」
 問う千鶴に、エリは考え込むようにうつむいた。
「お仕事がんばって、エリは大丈夫だよ、って!」
「――そっか。それじゃ、一緒に書いてみよっか」
 柔らかな笑みを浮かべ、お手本の文字を書き上げる千鶴。それを見つつ、そして千鶴のアドバイスも受けながらエリは一文字一文字、心をこめて手紙を書く。
「ありがとう、千鶴ちゃん。さあエリちゃん、字が上手になったところで、絵本に取りかかってみようか?」
「うん!」
「めろとパンドラも手伝うのよ。ねえ、エリちゃんの好きなものはなあに?」
「エリ、お花が好き! ツバサもお花好きなんだよ」
「お花、ね。じゃあお花の折り紙、めろとパンドラが作ってあげるのよ。エリちゃんも作る?」
「一緒につくる!」
 折り目はしっかり、丁寧に。そんな工程を重ねる2人と一匹の様子に、万里は目を奪われている。
「はー……すごいなめろ、器用だ……あ、いけない、本作りの準備が……わ、パンドラ上手! 天才だな!」
 そしてパンドラを見れば一生懸命な様子があまりにも可愛いもので。パンドラは大好きな万里に褒められ、嬉しそうにすり寄る。
「それじゃ、本格的に本を作ろうか。実はね、僕の本には魔法の友人が住んでいるんだ」
 万里はエリに向けて片目を閉じ、「Spiteful Invisible Show」にて道化の手「アルレッキーノ」を召喚した。ページを重ねる道化の手を、エリは不思議そうに、かつ嬉しそうに見入っている。
 もちろんエリ自身も文字と絵を描き、めろのアドバイスでお花の折り紙をぺたり貼り付け。一人でも出来る簡単な製法だから、間もなく完成だ。
「そう、そこにリボンを通して……ほら、出来た! 帰ったらお父さんにも見てもらおう」
 拍手をする万里にはにかみ、エリは本と手紙を抱きしめる。
「お花の本とお手紙、お父さん喜んでくれるかな?」
「きっと喜んでくれるわ。ねえ、エリちゃんは、お花が好きなのね? ――見てて」
 メイアが小瓶を取り出して振るときれいな花が舞い、別の小瓶からは鳥が飛び出した。
「わたくしが魔法を篭めているのよ。どう、すごい?」
「すっごい!」
 メイアも、エリといっしょだ。妖精を信じている。いや、いることを知っている。
 だから否定はしないままに違う楽しみを見つけようと、彼女を喜ばせる。
「ツバサさんも喜んでいますか?」
 優しく問いかけるのは、いぶき。
「楽しい、って!」
「……あの、よろしければツバサさんのこと、教えてもらえます?」
「いいよ。ツバサはエリと同じ7歳で、エリは魔法とか妖精の本が好きなんだけど、ツバサは宇宙の本が好きなのよ。いつもお家の『しょこ』で一緒に本を読むの」
「ツバサさんとは本当に仲良しなんですね。ところで……本以外にも新しい遊びを覚えてみませんか? 僕、おもちゃを作るのが趣味なんですけど、ものづくりとか興味ないです?」
「楽しそう! えっと、これを作ってみたいな。これなら、お父さんにも遊んでもらえそう」
 エリが指差したのは、木のパーツを組み合わせて道を区切り、ビー玉を転がしてゴール地点までたどり着く迷路の玩具だった。
「ええ、お父様にも見せて、遊んでもらいましょう」
 エリの父。
 下手をすれば、彼も伶とそう変わらない年齢かもしれない。感慨深いものを感じつつ、伶は玩具を作るいぶきとエリを見守る。自分よりエリの方が器用な予感しかしないが、さっそく伶の出番が訪れた。
 箱、つまり迷路の外側を組み立てようとして一生懸命エリが力を入れている。
「力仕事は任せてくれ。……っと。ほら、続きを作るといい」
「ありがとう!」
「ありがとうございます、伶さん。次はこの細い木をくっつけていきますよ」
 そうしていぶきの指導のもと、迷路が完成した。
「いぶきちゃんはおつかれサマ。ところでエリちゃん、こういうのは興味ある?」
 キソラが取り出したのは、空や景色の写真、鋏や糊などの文具、そしてインスタントカメラだ。
「気になったモノや嬉しかった事、形にして残すのはドウかな? 撮るのも楽しいケド雑誌や広告とかから切り取って本に貼ったりするのだって面白いと思う」
 それに、見たものや感じたものを形に残せば、いつだって思い出せる。
「エリちゃんの毎日を、お父さんにも教えてあげれるだろ?」
「……! うん!」
 そうしてキソラの助言を受けながら、インスタントカメラで写真を撮っていくエリ。
 切り取る風景は、公園の風景やサーヴァント、そしてケルベロスたちだ。
 おみやげ、とばかりにキソラが撮影してあげたエリの笑顔は、とても楽しそうなものだった。

●みんなでごはん
 昼を過ぎたことに気付いた伶は、持ち込んでいた厚めのピクニックマットを広げ始める。
 その上で、春乃がサンドイッチとおにぎりを、伶は甘すぎないシフォンケーキを準備する。
「エリちゃんは好ききらいないかな? いろいろな具があるからよかったら食べてね」
 言いつつ、シフォンケーキに釘付けな春乃だ。
「楽しみにしてたんだよね、春乃ちゃんと伶くんの特製弁当と菓子!」
 マットの上に座り、おいで、と万里がエリを手招きする。
「えへへ、わたくしもご相伴に預かりますってやつなの」
 料理ができないから、と少しばかり恥ずかしそうにメイアがマットにちょこんと座った。
 いただきます、と声を揃えれば、エリはまずサンドイッチを手に取った。
「おいしい!」
「おいしいね。ね、エリちゃん。お父さんは好き?」
 尋ねるのは、めろ。
 みーちゃんをもふもふしながら、キソラもエリの方を向く。
「あ、オレも聞きたいな。エリちゃんと同じ位の弟がいてね。家族の事、どう思ってるのか気になるなぁって」
 キソラには、たくさんの弟妹がいる。子どもにも慣れているし、一番下の弟はちょうどエリのひとつ下だ。
 けれどキソラには両親がいない。だからキソラが家族について聞きたいと思うのは、仕事以上の何かによるものかもしれない。
「うん、好きよ。大好き!」
 するとめろは優しく微笑んだ。
「それなら、さっきの本をお父さんに読み聞かせてあげてね。きっと喜んでくれるよ。……だって、家族ですもの」
「えへへ。お父さん、今日も忙しいみたいだけど、もうちょっとしたらエリといっぱい遊んでくれるんだって」
「わあ、よかったね!」
 父の負担になるまいとして飲み込む言葉を、少しでも聞いてあげられたら。そう思いながら、万里はエリの言葉を邪魔しない程度に相槌をうったり、反応を示している。
 それでも言葉に「父」を含む時、エリが不安そうになる時がある。気付いた千鶴は、エリの手を優しく握ってあげていた。
「……大丈夫、見てるよ」
 エリが嬉しそうにすれば、頭を撫でであげたりもして、直接触れあう。
 そうだ、といぶきがカイロを取り出した。
「エリさん、寒くありませんか? これを膝の上に置いておくと温かいですよ」
「ありがとう! 今日はおいしくて、あったかくて……とっても楽しい日ね!」
 どういたしましてと言いつつ、いぶきは気付く。
 エリが、ツバサに言及しなくなっていることに。
 いぶきとしては、ツバサが消えることは望まない。ツバサがエリにとって必要なら、いずれ再会できることだろう。
 悪い物を取り除くほんの少しの間だけ、休んでてもらいたいだけ。
 そう願うのは、いぶきにも見えないお友達がいるからだ。
(「お友達っていうか、姉なんですけど。見えないっていうか、鏡の中に住んでるんですけど」)
 夢は、夢のままでいいんですよ。
 唇の動きだけでその言葉を紡いで、いぶきはシフォンケーキを頬張るエリを見遣った。

●別れ
 一緒に遊んで、ごはんも食べて。楽しい時間は、あっという間だ。
「あっ……エリ、もうお家に帰らなきゃ……あ、あのね、エリ、またおにーさんおねーさんたちと遊びたい、な……!」
 少し恥ずかしそうに、エリが告げる。すると、どこからともなくコギトエルゴスムが出現し、ケルベロスたちの元へと転がってきた。
 千鶴はエリに見えないように拾い上げ、彼女を抱きしめる。
「一人じゃないよ、大丈夫。またね」
 エリから離れた後は、皆の連絡先を書き寄せたものを渡して。
「よかったら、まためろやパンドラとも遊んでくれる?」
 めろの質問に重なるように、パンドラがエリに駆け寄って抱きついた。エリと仲良くなったパンドラも、今回のお別れを寂しがっているようだ。
「いつでも連絡してね。また遊ぼう」
「ああ、またこうして遊ぼう」
 万里と伶は、エリとしっかりと握手をして。
 仕事で訪れ、知り合ったとはいえ、エリの笑顔が、元気な姿が何よりだ。
「では、また会いましょう。この公園にくるか、こちらにご連絡を」
 いぶきは優しく微笑み、名刺を渡した。
 あのね、とメイアはエリの耳元で声を潜める。
「わたくしは小瓶屋さん。昼は可愛い雑貨の小瓶、夜は魔法の小瓶を扱っているの。魔法の小瓶は皆には内緒なの。エリちゃん内緒にしてくれる?」
 人差し指をひとつ立てれば、エリも同じように人差し指をたて、しーっ、と悪戯っぽい笑みを浮かべた。メイアはにっこり笑い、ショップカードを差し出す。
「コハブもわたくしもここに居るから、いつでも遊びに来てね」
「写真が必要なら何時でもドウゾ」
 カメラを見せつつ、キソラが片目を閉じる。
「エリちゃん、また遊ぼうね」
 エリの歳の頃にはもう孤児院にいた、春乃。家族を喪った哀しみこそあったが、遊んでくれる人はちゃんといた。
(「だから……エリちゃんにとっての遊んでくれる人に今度は、あたしが、そう、なりたいなって」)

 ケルベロスたちは、エリが無事であったことに安堵し、彼女を見送る。
 公園の出口で振り返ったエリの手には、本に手紙、玩具に写真。そして、『友だち』の連絡先。
「とっても楽しかったの! また、遊ぼうね!」
 大きく手を振るエリの顔は、とても満ち足りたものに見えた。

作者:雨音瑛 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年2月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 1
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