ここはどこだろうか……。機械宮殿のような場所にパッチワーク魔女の生き残りの三人が何か会話をしている……。
その中の一人、第七の魔女・クレーテが、牛の被り物を捨てる。その被り物の下から姿を表した姿の名はグレーテル。
正体を表したグレーテルは、手にした『コギトエルゴスム』に、魔女の力を注ぎ込む。
「……」
一瞬の沈黙の後、魔女の力・グラビティチェインを注がれた『コギトエルゴスム』から、タイタニアが復活した……。
「さあ、これでコギトエルゴスムから復活したりんね♪」
「蘇生に加えて拠点の迷宮化まで、かたじけない。この恩に報いぬ余ではないよ」
「そりゃ当然りん♪ せっかく遊興とルーンの妖精をゲットしたんだから、ばりばり役に立って貰うりん♪ キミりん達は、ボクりん達魔女と相性バッチリりん♪」
「……ならばまずは、同胞を戻すため、グラビティ・チェインの獲得に赴くかな」
「そうりんね、手伝うりん♪ そろそろボクりんも牛脱いで、本気出しちゃうりん♪」
正体を表し、タイタニアを復活させたグレーテルの真意はどこにあるのか……。
タイタニアは言葉通り、グラビティ・チェインの獲得へと赴くのだった……。
ここは、とある少女の部屋。その部屋にはたくさんの本があった。背表紙を見ると、よく見かける単語は『妖精』『精霊』といった単語。多くは絵本や児童書であるように見える。
少女は絵本を開きながら、誰かに読み聞かせるように、声に出して絵本を読んでいた。
「そこで、妖精さんは王様に教えてあげました。『あなたは、もっと困っている人の話を聞かないとダメだよ』と」
しかし、読み聞かせをする相手は見えない。幼少期に見られるイマジナリーフレンドというものだろうか?
「『そうか、わしに足らないのは、そういう事だったのか』と、王様は困っている人を助けて、ステキな王様になりました」
それとも本当に見えない妖精がいるのだろうか? 夢を喰らうドリームイーターやおとぎ話に登場するドラゴンが現実として存在するこの世界では、判断は難しい。
しかし、その見えない読み聞かせの相手が、次の瞬間に少女の目の前に現れた!
「やあ、マイフレンド」
まるで絵本から飛び出して来たかのように現れたのは、蝶のような羽と尖った耳のあるモノ。
「いつも、素敵なお話を有難う」
「……どういたしまして」
突然の事のはずだが、少女は満面の笑みで突然実態化した妖精を迎え入れる。
「……えっ?」
しかし、その笑顔は一瞬で曇り苦悶の表情を浮かべ、口から血を流す。
「おっと、失礼」
現れた妖精は、教鞭のようなレイピアを軽く振り、ルーン文字を描き少女を癒す。
「それでは、失礼。次の困っている人を救わねば」
演劇の麗人のように丁寧な礼の後、妖精型デウスエクスは蝶のような羽を羽ばたかせ、飛び去るのだった……。
「リザレクト・ジェネシスの戦いの後、行方不明になっていた『宝瓶宮グランドロン』に繋がる予知がありました」
凄く複雑な表情で説明をしているのはチヒロ・スプリンフィールド(ヴァルキュリアのヘリオライダー・en0177)。
「妖精を信じる、純真な少女のグラビティ・チェインを奪って、妖精型デウスエクスが、実体化する事件が起きるのです」
普段以上に、メモに目をやりながら説明をしている。それだけ、今回の事件は状況及び目的は複雑だという事だろう。
どうやら、少女の夢の中にコギトエルゴスムが埋め込まれており、充分な力が溜まった段階で、デウスエクスが実体化するという事らしい。
夢の中にコギトエルゴスムを埋め込むという手段から、この事件の背後には、ドリームイーターが居るものと思われるが、詳細は不明。
「とりあえず、出現する妖精型デウスエクスさんは、あの女の子にこれ以上酷い事をする事は無さそうです」
とはいえ、復活してしまえば女の子が辛い想いをする。復活させないのが一番だろう。
「その復活させない方法なのですが……」
色々と考えている様子のチヒロ。そもそも、復活させる事が出来るのは、妖精を信じる純粋な少女でなければならない。なので『少女が妖精を嫌いになったり、妖精に興味を失う』ようになれば、復活出来なくなる。
そんな説明をしながら、非常に複雑な表情をしているチヒロ。まあ、ヴァルキュリアも物語の分類によっては妖精として扱われる事がある。
そんな彼女が『妖精を嫌いになる』ように仕向ける事に抵抗があるのだろう。
「ともかく、その少女とお話する場所は用意してあります。なんとか説得して下さい」
チヒロは近くの公共施設を借りて、そこでお話出来るように準備している。これならば、説得の方法はケルベロスの皆に任せる事が出来るし、ある程度のトラブルにも対処できる。
「もし、説得出来なかった場合なのですが……」
説得に成功すれば、少女の夢の中からコギトエルゴスムが排出され、少女の安全が確保され、さらにコギトエルゴスムの保護も可能だ。
しかし、今までに無い事なので失敗する可能性もあるだろう。その場合には、妖精型デウスエクスが復活してしまう。
復活したばかりのデウスエクスは戦闘せずに撤退しようとする。強力なデウスエクスではないので、撃破は容易。
「ですが、撃破するか、それとも見逃すかについては現場の皆さんの判断にお任せします」
現れたデウスエクスが別の人間を襲うような事をしない事、及び被害者に対しても治療するような行動を取る事など、通常のデウスエクスとは違う行動を取る為に、どうするかに関しては現場に直接出向くケルベロスに判断を任せるという形になった。
「攻撃をしないのであれば、会話出来る可能性もあります」
そもそも、わからない事が多い事件だ。説得に失敗した事も考慮して、会話という選択肢を用意してもいいのかもしれない。
「ともかく、今までの事件とは大きく異なる事が多いです。皆さんで相談して、対策を考えて下さい」
そう言って、後を託すチヒロだった……。
「ふむ……なるほどでござる」
ウィリアムが見ていたのは、女の子が愛読している児童書や絵本のリスト。何かの参考にならないかとチヒロがリストアップしたデータの一つだ。
「全部『妖精が良い』類の話でござるな」
妖精といっても千差万別。少女が読んでいた本は、王様が妖精の助言に従って国を良くする、妖精の力を借りて英雄が魔王を倒す、そんな児童書ばかり。
「……絵本の読み聞かせなど、どうでござろう?」
そう呟き、図書館に向かうウィリアムだった……。
参加者 | |
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八千草・保(天心望花・e01190) |
パトリック・グッドフェロー(胡蝶の夢・e01239) |
ヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020) |
瀬戸口・灰(忘れじの・e04992) |
マイヤ・マルヴァレフ(オラトリオのブレイズキャリバー・e18289) |
ベルローズ・ボールドウィン(惨劇を視る魔女・e44755) |
レーニ・シュピーゲル(空を描く小鳥・e45065) |
●
静かに手を引かれ、少し不安そうな表情を浮かべた少女。そんな少女の『夢』には、コギトエルゴスムが埋め込まれている。そんな少女を救うべく、思考を懲らせた準備がケルベロスによって整えられていた。
「さ、こっちだよ」
マイヤ・マルヴァレフ(オラトリオのブレイズキャリバー・e18289)に手を引かれ、少女が扉の前に立つ。
「さあ、本を開いて!」
マイヤから手渡されたのは、一見すると絵本のような本。
「皆があなたを待ってるよ!」
レーニ・シュピーゲル(空を描く小鳥・e45065)がマイヤの言葉に繋げる。そんな言葉に背中を押されながら、華やかに彩られた表紙を開く少女。
「わぁ〜!」
本を開くのと同時に扉を開くと、周囲の景色と共に、まるで絵本のような世界へと変化する。その世界はレーニによってグラビティを塗料にしてペイントブキで描かれた世界。
「ここは……絵本の中?」
そう錯覚してしまう演出に、戸惑いながらも笑顔を見せる少女。
柔らかい木々に、少し大きさがちぐはぐな家。少し不恰好ながらも絵本特有の柔らかさを感じさせるレーニの描く世界に引き込まれていく。
「……」
さらに、そこへ手を加えるのは裏方担当のパトリック・グッドフェロー(胡蝶の夢・e01239)。グラビティを使用した演出を加える。
「素敵……」
グラビティを使用し、常識を超えた演出に、笑顔をか輝かせる少女。
「ようこそ、絵本の世界へ!」
少女の笑顔に応えるように、マイヤが笑顔で声をかけ、少女をエスコートするように、側に寄り添うボクスドラゴンのラーシュ。その姿はまるで、姫を守る竜騎士のよう。
「お、お招きありがとうございます」
少し芝居掛かった口調なのは、普段の読み聞かせをしているからだろうか。絵本の登場人物にように、スカートのそすをちょっと持ち上げ、ご挨拶。
「これから始まるのは、お客様参加型の舞台劇」
普段の口調ではなく、ナレーション役に徹しているのはウィリアム・シュバリエ(ドラゴニアンの刀剣士・en0007)。普段の『ござる』口調と違うので違和感が凄い。
それはともかく、大きく手を動かしてのナレーションは堂に入ったものだ。
「貴女は、一緒に舞台に登ってもいい……」
そんなウィリアムの言葉に優しい笑顔と共に手を振って答えるのは、魔女ッ子風な衣装に着替えたマイヤ。
「……とりあえず今は劇を観てもいい」
続く言葉に手を振り答えるのは観客役の八千草・保(天心望花・e01190)。サポート件ガイド役のマイヤの手を取るか、それとも保と一緒に観客になるか、それは少女に選んで欲しい。
「それは、貴女が選んでいい事です」
この場は、少女に新しい事への興味を抱いて欲しいという願いから作られた場所。だから、強制するような事はしたくない。
「……」
そんな願いから、少女が選んだのは保の隣。普段、絵本を読むのが好きな少女にいきなりの主演は難しいのか。
少女の出演はともかく、演劇は始まっていく。まずはとある村で、お髭を付けたきこりの村人役である瀬戸口・灰(忘れじの・e04992)がウイングキャットの夜朱と共に村で楽しそうに暮らしている様子が演じられる。
そんな目の前で繰り広げられる演劇に目を輝かせる少女。
「こんにちは……ボクは保。お名前、なんて言わはるん?」
そんな少女に優しく声をかける保。
「……スズキ……ユウカ」
スズキユウカ……鈴木優花は灰と夜朱が演じる様子に、軽く手でリズムを取りながら楽しそう。
「優花ちゃん……読み聞かせ、好きなん?」
「わかんない……でも、妖精さんが聞きたがっているの……」
優花の言う妖精が、コギトエルゴスムに封じられた妖精型デウスエクスの事なのか、それとも優花にしか見えないイマジナリーフレンドなのかは分からない。ただ、どちらにしても読み聞かせをした彼女自身が、絵本に思い入れがあるのは間違いないだろう。
二人が話をしている間にも、劇は進む。
「私の野望の為に、お前を私の手下にしてやろう!」
「ふははー 魔女ベルローズ様と、その手下の悪い妖精のヴィルフレッドだぞ〜」
スチームの演出と共に、突如現れた悪い魔女役のベルローズ・ボールドウィン(惨劇を視る魔女・e44755)とその手下で悪い妖精役のヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)。
ヴィルフレッドのセリフが説明的なのはご愛嬌。
ベルローズは夜朱を捕まえながら、怪しい呪文と共に言葉を響かせ、舞台を暗い霧が包み、不気味さを演出する。
「ひっ……」
先程まで楽しそうだった優花だが、ちょっとやりすぎだったのか、本気で怖がっている様子。
「……」
その様子に内心でちょっと凹んでいるベルロースだが、それを表情に出すような事はしない。
「さぁ、暴れな!」
『村の全てのお菓子を食べちゃうぞ〜』
暗い霧の中で悪い妖精風に着替えさせられた夜朱が黒マントを翻し、大きな口を開けイタズラを始める。ちなみに声は裏方担当のパトリックが担当。
「……ふふ」
悪い魔女の手下になった夜朱のイタズラがお菓子を食べる事だったのが楽しかったようで、笑顔が戻る優花。その様子に内心ほっとするベルローズと保。
「ああ、村のお菓子が全部食べられてしまう〜」
困った表情を浮かべながらも、お菓子をばら撒く村人役の灰。そのお菓子に誘導され、夜朱が楽しそうに飛び回す様子はとても可愛らしい……が、村はお菓子が食べられて困ってしまっている。
そんな彼女の目の前に、一本の魔法の杖が現れる。
「……え?」
実際には、細い糸で天井から釣っているだけだが、少女には杖が浮いているように見える。
「そこのあんた、急に暴れだしたうちの猫を助けてくれ!」
村人役の灰の迫真の演技。夜朱はばら撒いたお菓子を全部集め、独り占めしようとしている。
「村のすべてのお菓子がこのままじゃ食べられてしまう!」
ちなみにお菓子は全部本物。皆で準備した美味しいお菓子。
「……っ」
本物のお菓子だから、見ていると食べたくなる。
「……せっかくやから、身体も動かして、劇にしてみぃひん?」
そんな優花の背中を押すのは保の言葉。さらに魔法の杖から星が光り瞬くのはパトリックの演出。
「……うんっ!」
そっと手を伸ばして、握った魔法の杖。その瞬間に流れるのは、アニメで魔法少女が変身するような音楽、盛り上がるような背景を描くレーニ、そしてパトリックの演出でオーロラのような光に包まれる優花。
「なりたい自分て、あるよねぇ。どれがええかな?」
オーロラに包まれながら、衣装を並べる。演出としては、変身ヒーローのフォームチェンジのよう。
「君に決めた!」
優花が決めた衣装は、ラーシュに近い雰囲気の衣装。それに気づいたマイヤがラーシュに指示を出す。
『僕と一緒に行こう!』
声はマイヤが担当。口パクで喋るラーシュと共に、保の早着替え。
次の瞬間に、オーロラが晴れ、そこにはカッコいい系の衣装に着飾った魔女ッ子優花の姿。
「フェアリーナイツ・ユウカ! プリンススタイル!」
決め台詞が流暢なのはツッコミ不要。決めポーズまでしっかりと決めた優花は魔法の杖で勢いよく夜朱を殴打。
(「!?」)
誰も声に出さなかったけど、ちょっと驚き。調子に乗りすぎている雰囲気もある優花にパトリックとレーニは一瞬だけ目配せして、優花が怪我しないように注意する。
『やられた〜』
優花の殴打を受けて、よろめいて転がる夜朱。地面に落ちると同時に、夜朱をスモークが包む。
「だ、大丈夫?」
ちょっと、思いっきり振ってしまって自分でもびっくりな優花。心配そうにスモークを覗き込む。
『あれ、ここはどこにゃん?』
スモークが晴れると、そこには可愛いコスチュームに着替えた夜朱。
「どうやら、優花ちゃんのおかげでイタズラ猫さんは、元に戻ったようだ」
ナレーションのウィリアムも内心では心配しながらも、顔には出さずにナレーション役に徹する。
『ありがとうにゃん!』
「おお、うちの猫が元に戻った!」
村人役の灰が元に戻った夜朱を抱きかかえ、踊って嬉しいシーンを演出する。
●
そんな楽しいシーンと対照的に、舞台の端では、ベルローズが現れる。
「おのれ! 私の手下が!」
手下が改心されたと、苦虫を噛み潰したような表情のベルローズ。そこへ現れるのは悪い妖精役のヴィルフレッドとパトリックのボクスドラゴン・ティターニア。
「次は我々が行きましょう! たくさんのお菓子を集めて参ります!」
ノリノリに悪い妖精を演じるヴィルフレッドに、パトリックの指示で動くティターニア。
くるくると身体を動かし、パタパタと翼を動かすティターニア。
「任せたぞ! 我が配下の妖精よ!」
「はっ!」
ヴィルフレッドとティターニアがうなづいて、舞台から退場する。
「それから、新しく友達になった夜朱と一緒に旅をする優花とラーシュ。楽しい旅の途中、大きな木の下でちょっとお休みするのでした」
ナレーションのウィリアムの声が響き、シーンをレーニが描きなおす。背景は巨大な木。その下で切り株のテーブルで、お菓子を食べている。
「美味しい!」
お菓子は夜朱が独り占めしようとしていた本物のお菓子。それを食べながら、ちょっとティーブレイク。
しかし、そんなティーブレイクも長くは続かない。
「ふははー、お菓子をよこせー!」
『美味しそうなお菓子を奪っちゃうぞ〜』
そこに現れたのは、ヴィルフレッドとティターニア(cvパトリック)。
ノリノリなヴィルフレッドの演技が続く。
「くれないなら痛い目を見てもらうよ! 具体的に言うとお弁当の箸を忘れたり、本の帯がぐしゃっとなるように仕向けるぞ!」
「わあ……お箸がなかったら美味しいお弁当が食べられなくなっちゃうよ」
「何という悪い妖精なのでしょうか! 帯がくしゃっとなったらとても切ない!」
ヴィルフレッドの嫌に具体的な『悪い事』にノリノリで答えるマイヤとウィリアム。
「そんな事させないんだから! 鉛筆でご飯食べるの大変なんだよ!」
そんなヴィルフレッドの言葉に、こちらも嫌に具体的な言葉を返し優花。これはたぶん、経験があるのだろう。
今度は夜朱を抱っこして、変身ポーズ!
「フェアリーナイツ・ユウカ! にゃんこスタイル!」
さっき用意した中にあった、猫耳フードのついた服に着替え、肉球の模様のついた手袋を付けて変身!
「なん……だとぉ!」
ノリノリで驚くヴィルフレッド。対して、さっきは勢いで殴っちゃったのを反省しているのか、杖をくるくると振り回して、どうしていいか悩んでいる優花。
「がんばれ、優花はん!」
悩む優花に声援を送る保。その声援に手を振って答える優花にナレーションを入れる。
「すると、フェアリーナイトユウカの杖に、魔法の力が集まっていく!」
アドリブでそれっぽいナレーションをするウィリアム。そのアドリブに合わせるパトリック。杖に星を煌めかせ、魔法の力っぽく演出。
「キレイ……じゃなくて、いっけー!」
その光に一瞬見とれたけど、そのまま杖を前に突き出す優花。
「おおおぉぉ!!」
その瞬間、レーニの描く光の道がヴィルフレッドとティターニアを包み込む。
その光に包まれ『はっ』とした表情を見せるヴィルフレッド。
「お菓子はやっぱりみんなで食べようね~」
さっきとは打って変わって、お菓子をみんなで食べようと改心。
「ユウカのおかげで二人は改心した!」
そこへウィリアムのナレーションで説明を入れ、ティターニアも楽しそうにパタパタと飛び回り、優花の腕の中へ。
「あなたのお名前、なんて言うの?」
腕の中のティターニアに優しく声をかける優花。
「名前は……好きなように呼んで欲しいな」
少し悩んでからパトリックが答える。
「じゃあ、貴方の名前はショート。可愛らしい姿がショートケーキに似ているから……嫌かしら?」
そんな優花の言葉に、首を大きく縦に振って嬉しそうな雰囲気を見せるティターニア……いや、この場ではショートになるのでした。
●
次の瞬間、暗転し薄暗い背景にレーニが描き変え、暗い音楽と共にベルローズが現れる。
「魔法少女とお供の楽しい旅はここまで。私の野望の邪魔をしたこと後悔し、この場で息絶えるのが……お前達の未来だよ」
迫真の演技のベルローズ。最初はグラビティで死霊を具現化する予定だったが、優花が怯えてしまうかもしれないので、アドリブでカット。
しかし、シリアスシーンをカットした影響で、よく物語を読むと、野望が『お菓子を独り占めする事』になっている。
まあ、現代風アレンジとしてはこんな感じだろうか。
「そんな未来、変えちゃうんだから! セットアップ! フェアリーユウカ・パティシエールフォーム!」
ノリノリの優花ちゃん。今度はティターニア……ではなくショートに似た雰囲気の服に早着替え。もっとも、最初と変身のセリフが微妙に違うとか、フォームなんだかスタイルなんだかはご愛嬌。
「それじゃいくよ!!」
マイヤは優花を後ろから抱っこすると同時に翼を広げて軽く飛ぶ。その雰囲気を強く感じられるように、レーニが背景を描き、パトリックが効果音を響かせる。
「優花はん、がんばって!」
保の声援を背中に、マイヤに抱えら得たまま、杖を構えポーズを取る優花。
「いっけ〜」
魔法の杖をくるくると回転させてから、決めポーズと一緒にベルローズに向かって突き出す。
その瞬間に合わせ、レーニがゴットグラフィティで優花をカッコ良く輝かせ、パトリックが杖の先から花びらを星の光と共に放つ。
「この光が……お前の力だというのか!?」
花びらの星を浴びたベルローズは暴風に飲まれ、そして闇を纏いながら舞台の袖へ退場する。
「やった!」
ベルローズ退場に合わせてファンファーレが響いて舞台劇は最終幕へ。
「貴女のおかげで村は救われました」
「私もうちの猫も貴女に救われました」
村人役だった灰も夜朱と一緒に、優花に感謝する。
「村を救えてよかったよ!」
嬉しそうな笑顔の優花。同時に保のグラビティで舞台に花が咲きあふれる。
「村が平和になったので、お礼のお祭りが開かれる事になりました」
よくある舞台の最後に皆で踊るシーン。登場人物全員が再登場してのダンス。端っこにもちろんベルローズも一緒。
「さあ輪になって踊ろう!」
ナレーション役のウィリアムは演奏役も兼任。備え付けのオルガンで演奏し、保も手拍子を合わせる。
そんな皆で音楽と共に踊っていると、優花の胸が光を放つ。
「……」
しかし、その光は一瞬。光はすぐに消えるも、目の前には一握りの綺麗な石……コギトエルゴスム。それは、まるで踊りに加わるかのように演奏に合わせて飛び出して来た。
「……え?」
一瞬だけ、優花の目の前で光を強めたかに見えたコギトエルゴスム。それをキャッチしたのは保。
「もしかして、ボクらとお友達になりたいんやろか?」
声をかけるも返答は無い。だから、優しくそっと握り大切にしまう。
そんな光も演出の一つと思ったのか、笑顔のままの優花を中心にダンスが終わり……。
「悪い魔女・ベルローズを追い払い村は平和になりました。めでたしめでたし」
そんなウィリアムのナレーションと保の大きな拍手で、終幕する舞台だった……。
●
「どうだった?」
背景の大半はレーニのグラビティだから舞台の片付けは一瞬。用意したテーブルで優花を囲んでティータイム。
「すっごい、とっても楽しかった!」
満面の笑みの優花。『楽しかった』を何度も繰り返す様子から心から楽しんでくれたのは間違い無いだろう。
「ハッピーエンドが一番さ」
そんな笑顔を嬉しそうに見つめる灰。彼も昔は童話や絵本が好きだったから、彼女の事を他人事と思えなかった。
「現実では魔法みたいな事はできないけど、思い出には残るから」
そう言いながら、用意した魔法のステッキを優花にプレゼントするマイヤ。
「うん……」
現実と演出を混同するほど幼い訳ではない優花。ただ……彼女にしか見えない妖精に会いたかった。その想いが強くなり過ぎていただけなのだろう。聞けば良くある話。何となく周りと馴染めていないだけだった。
この劇で優花が得たのは、友達に『遊ぼう!』って声をかける勇気。
「これもプレゼント」
レーニから優花に渡されたのは、最初に開いた絵本と同じ表紙の本。
「……これって!」
開いた絵本に描かれていたのは、先程まで優花やケルベロスたちが演じていた演劇そのままの物語。レーニがゴーストスケッチで同時進行で描いていた。
そこには、優花がドラゴンやウイングキャットお供に、魔女をやっつけるお話。
(「優花自身が良い行いをして、沢山の友達が出来て、真っ直ぐ顔を上げて歩いて行けたなら」)
そんなレーニの想いを込めて描いた絵本。
「ありがとう!」
正直言えば、その想いは今の優花には伝わっていないだろう。だが、数年後……この絵本を開いた時に、きっと何かを感じてくれるだろう。少なくとも、今の優花は妖精を純粋に信じる少女ではない。一歩、成長した優花だ。
「……?」
再び、一瞬だけ光ったコギトエルゴスム。それは何かの光の加減か、それとも中に宿るデウスエクスの意思か。
ともかく、コギトエルゴスムを無事に回収したケルベロスたちであった!
作者:雪見進 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2019年2月23日
難度:普通
参加:7人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 0
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