妖精は少女の夢から蘇る

作者:青葉桂都

●魔女たちの会談
 おとぎ話に出てくるような機械仕掛けの宮殿があった。
 集っているのは3人の女性。ケルベロスがいれば正体に気づいたかもしれない。
 かつて東京上空でゲートを巡る戦争を行った際に姿を見せた魔女たち。
 第二の魔女・レルネ、第四の魔女・エリュマントス、そして第七の魔女・クレーテ。
 パッチワークの魔女と呼ばれるデウスエクスの生き残りだ。
 そのうち1人、クレーテはコギトエルゴスムを掌に載せていた。宝石に、魔女たちはグラビティ・チェインを注ぎ込む。
「さあ、これでコギトエルゴスムから復活したりんね♪」
 宝石だった姿から人の姿を取り戻した相手に、グレーテルが言った。
「蘇生に加えて拠点の迷宮化まで、かたじけない。この恩に報いぬ余ではないよ」
 蝶を思わせる黄金色の羽を持つ男が、魔女へと慇懃に礼をする。
「そりゃ当然りん♪ せっかく遊興とルーンの妖精をゲットしたんだから、ばりばり役に立って貰うりん♪ キミりん達は、ボクりん達魔女と相性バッチリりん♪」
「……ならばまずは、同胞を戻すため、グラビティ・チェインの獲得に赴くかな」
「そうりんね、手伝うりん♪ そろそろボクりんも牛脱いで、本気出しちゃうりん♪」
 巨大な牛の被り物を脱ぐと、赤い布で髪をまとめた少女が顔を見せた。
 グレーテルの正体を現した魔女と、黄金羽の男は、共に宮殿を出ていく。

●現れた妖精
 とある街の公園で、小学校の低学年らしき女の子が遊んでいた。
 はたから見ると友達は誰もいなかったけれど、彼女は誰かと一緒に遊んでいるように声をかけている。
「ねえ、次はブランコに乗ろうよ。くーちゃんが応援してくれたから、立ち乗りできるようになったんだよ」
 きっと、少女にだけ見えているなにかがいるのだろう。
 他の子供たちが離れたブランコへ彼女は駆け寄る。
 やがて他の子供たちが帰った後も、少女は見えない友達と遊び続けていた。
「楽しいね、恵子ちゃん」
 突然、少女の前に蝶の羽を生やした少年が現れた。
「えっ……もしかして、くーちゃんの声?」
 彼は頷く。グレーテルが蘇らせたデウスエクスの同族だと、もちろん少女は知らない。
 嬉しそうな表情を見せて……その直後、彼女が倒れる。
 鼻や耳から血を流す少女のそばにかがみこんで、『くーちゃん』はルーンを描いた。
「大丈夫かい? それじゃあ元気でね、恵子ちゃん……」
 少女が起き上がる。それを確かめると、羽の少年は少女の前から飛び去った。

●妖精の復活を阻止せよ
「行方不明になっていた『宝瓶宮グランドロン』につながる事件を予知しました」
 ケルベロスたちに石田・芹架(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0117)は告げた。
「妖精を信じる純真な少年少女のグラビティ・チェインを奪って、妖精型デウスエクスが実体化する事件が起きます」
 おそらく復活するのは妖精8種族の1種だろうと推測される。
 どうやら少年少女の夢の中にコギトエルゴスムが埋め込まれているらしい。十分な力が溜まった段階でデウスエクスが実体化するのだ。
 夢を利用している点から、おそらくはドリームイーターが背後にいるのだろう。
「妖精型デウスエクスは被害者を殺すことはないようですが、だからといって敵が戦力を整えているのを見過ごすわけにはいきません」
 阻止して欲しいと芹架は告げた。
 芹架が予知したのは、小金井恵子という少女からデウスエクスが出現するらしい。
 夢見がちな性格であるため友達が少なく、事件が起きる前から目に見えない友人を作っているタイプだったようだ。
「妖精を信じる純真な子供でなければ、デウスエクスを復活させることはできません」
 少女と会って説得し、妖精を嫌わせたり、あるいはもっと別なことに意識を向けさせ興味を失うようにしむけることができれば復活を阻止することができる。
 無事に阻止できればコギトエルゴスムが夢から排出される。
「残念ながら説得に失敗した場合、実体化したデウスエクスは逃亡を試みます」
 復活したばかりで戦力は高くない。撤退する前に強力な攻撃を叩き込めば、撃破することはできるだろう。
「その場合はコギトエルゴスムを入手することはできませんが、デウスエクスに戦力を増やされずにすみますのでよろしくお願いします」
 攻撃しなければ1分程度なら会話も可能だろうが、その後逃亡されてしまうので勧められないと芹架は告げた。
「なお、説得に失敗した場合、子供を殺せば実体化させずに夢から排出させられます」
 もっとも、罪もない子供を殺すのは避けるべきだろう。それよりはコギトエルゴスムを諦めてデウスエクスに対処するほうがいい。
 よろしくお願いしますと、芹架は頭を下げた。


参加者
月宮・朔耶(天狼の黒魔女・e00132)
シヴィル・カジャス(太陽の騎士・e00374)
ロベリア・アゲラータム(向日葵畑の騎士・e02995)
タクティ・ハーロット(重喰尽晶龍・e06699)
風陽射・錆次郎(戦うロボメディックさん・e34376)
草津・翠華(碧眼の継承者・e36712)

■リプレイ

●公園に行こう。
 近くに降り立ったへリオンから、急ぎ足にケルベロスたちは現場へと向かった。
「妖精って、意外と気ままでろくでもないこともするんだよな」
 月宮・朔耶(天狼の黒魔女・e00132)の言葉は、少女を傷つけて蘇る妖精を指したものなのだろう。
「気ままに人を傷つけさせるわけにはいかないわね。急ぎましょう」
 愛用の双剣を、今日は納めたままでローザマリア・クライツァール(双裁劒姫・e02948)が言った。
「こういうのって単に戦うよりも難しい仕事よね。旅団の先輩が助言してくれたから助かったけど……」
 草津・翠華(碧眼の継承者・e36712)はそう呟き、顔をうつむかせた。
「でも、この衣装に着替える必要、本当にある? 寒いし恥ずかしいんだけど……」
 妙にヒラヒラとした、いわゆる魔法少女ものアニメの主人公が着ている服……を、露出度高めにしたような衣装を彼女は着ていた。
 この衣装も、この場にはいない先輩たちの助言によるものなのだろう。
「大丈夫だ、翠華! よく似合っているぞ!」
 力強く断言したのはシヴィル・カジャス(太陽の騎士・e00374)だった。
 翠華と同い年であるはずの彼女もまた、凛々しい鎧ではなく小学生の女の子が着るような服を身につけている。
 もっとも、シヴィルのほうはそれを恥ずかしいと感じてはいない。自分が目的の少女と同年代に見えることをまったく疑っていないのだ。
 ――いろんな意味で、難易度の高い仕事であった。
「あっちはやる気十分みたいだぜ。ミミック、お前もがんばるんだぜ?」
 連れているミミックに、タクティ・ハーロット(重喰尽晶龍・e06699)は語りかけた。
「いつもはサポートしてもらってるけど、今日の仕事は俺よりお前の役目の方が重要なんだぜ。お前は今から、妖精の『くーちゃん』だぜ?」
 主の言葉にミミックもやる気を見せている様子だ。むしろ、言うまでもないとすら言いたげに軽く跳ねる。
 公園が見えてきた。
「――あの娘が小金井恵子か」
 ヴォルフ・フェアレーター(闇狼・e00354)が言った。
「そんな、人を殺しそうな声を出すなよ、義兄」
 冷淡な声を出した彼に、朔耶が苦笑混じりに言う。
「可能性はあるからな。本人ではなく中に潜んでいる奴のことだが」
「で、でも、まずは戦わなくてすむようにがんばらなくちゃねぇ」
 風陽射・錆次郎(戦うロボメディックさん・e34376)が言った。
 注視する目つきは心配げだが、見る者によっては挙動不審に見えたかもしれない。そう見られないように準備はしていたが。
 子供たちに見つからないように、ケルベロスたちは遠巻きに少女の様子を確かめる。
 他の子供たちには近づかず、1人でいて、時折誰もいない場所に話しかけている。
「自分の中に居る友達、かぁ」
 錆次郎が呟いた。
「結果的に、こちらの都合で幼い少女の友達を奪うことになるのは、心が痛みますね」
 ロベリア・アゲラータム(向日葵畑の騎士・e02995)も、誰にともなく言う。
 これは果たして力なき人を守る騎士の行いとして正しいのか。
 だが、放っておけば少女は倒れ、彼女の友達が去るのは確かなことだ。

●少女と仲良くなろう
 ケルベロスたちはそれぞれの役割を果たすために動き出した。
 まず幾人かが公園へ足を踏み入れる。
「見張りに回る。なにかあったら連絡する」
 冷たい声でヴォルフは仲間たちに告げた。
「よろしく頼むぜ、義兄」
 ウェアライダーであるヴォルフは動物の姿へと変身していく。
 朔耶へ片手をあげて応じると、黒い服に身を包んだ後ろ姿が変化していく。
 音もなく公園全体が見渡せる木の上へと登り、ヴォルフは目立たぬように寝そべった。
(「説得がうまく行けば出番はないのかもしれんが……な」)
 だが、警戒しておくにこしたことはない。のんびりしている振りをしながら、しっかりと気を張って、公園全体を見下ろす。
 少女は砂場で、1人で遊んでいた。
 最初にひょこひょこと近づいていったのはミミックだ。
 大きな口を開けて、彼女の顔を覗き込む。
「えっ……?」
 恵子が戸惑った様子を見せた。
 軽く跳ねながら、ミミックは一緒に遊ぼうとアピールする。
「よう、だぜ! なにしてるんだぜ?」
 そこに、ドラゴニアンの翼をはばたかせてタクティが降りてきた。
「……だ、誰?」
「驚かせちゃったかだぜ。俺はそこにいるくーちゃんの友達なんだぜ」
 普段はただミミックとだけ呼んでいるサーヴァントを、タクティはさりげなくくーちゃんと呼んだ。
「この子もくーちゃんって言うの?」
 警戒をあらわにしていた少女が、はじめてはっきりと興味を示す。
「ああ、そうだぜ」
「そっか……この子も妖精なの?」
「いや違うぜ。けど、面白いことはいろいろできるんだぜ。見せてやれよだぜ」
 タクティにうながされて、ミミックがエクトプラズムを吐き出した。財宝や武器でなく子供が興味を引くものを作らせる。
 ミミックと恵子は少しずつ打ち解けていっている様子だった。
「そんな珍しい生き物と一緒だなんて凄い! 私とも一緒に遊んで欲しいな!」
 大きな声が砂場に響いた。
 シヴィルの声だ。
 実際に現場で比べてみると、19歳の女性が小学生の少女と同年代というのは少々無理があったかもしれないが、そこは勢いで押し切る。
 少なくとも体型に関しては小学生並と言っても問題ないはずだ。
「なあ、いいだろう? 私も君と一緒に遊びたいんだ」
 また戸惑いを見せている恵子の横に、シヴィルはかがみこむ。8人のケルベロスの中では一番背が低い彼女だったが、それでも恵子よりは大きい。
 上級生ということで押し通すつもりで、シヴィルは彼女と一緒に遊び始めた。
「ミミックと友達だなんて、君は本当にすごいなあ」
 わざとらしくならない程度に褒めていると、少女も嫌な気分ではないようだ。おままごとしようと誘ったら、恵子は喜んでつきあってくれた。
(「大丈夫だ、疑われたりはしない……なぜなら、私もまた童心に帰って遊びたいと思っているからだ!」)
 心からの想いならば、きっとそれが行動にも表れるはずだ。
 そう信じて、シヴィルは恵子と一緒に遊び続ける。
「くーちゃんも楽しそうにしてるみたいだぜ。よかったな」
 ミミックやシヴィルが仲よく遊んでいる様子を確かめて、朔耶も輪に加わった。
 8人の中では一番若い少女だ。小さな子と遊んであげているお姉さんといった様子で、はたから見ても違和感はないだろう。
「うん。くーちゃん、友達ができてよかったねって言ってくれてるよ」
「そ、そうなんだね……喜んでくれて、よかったねぇ」
 錆次郎も近くにいて、遊んでいる彼らをフォローしている。
 彼のほうは下手をすると不審者に見えたかもしれないが、プラチナチケットの効果で一般人からは関係者に見えているはずだった。
(「僕は児童委員……児童委員だよぉ……」)
 実際にどう見えているかはわからないけれど、錆次郎は子供たちを見守る児童委員としてふるまうようにしていたので、そう見られている可能性が高い。
 説得の前段階として、まずは少女と仲良くなることに成功したようだ。
 次にすべきことは、恵子をうまく説得すること。
 難題ではあったけれど、まだ接触していないローザマリアやロベリア、翠華がそのための策を考えているはずだった。

●ミミックと遊ぼう!
 仲間が恵子と打ち解けてきたところで、ロベリアは鳩の羽を大きく羽ばたかせながら公園の周囲を飛び始めた。
 目立つように飛んだので、子供たちはすぐに集まってくる。
「皆さん、かわいいミミックくんと一緒に遊びませんか? その他、ケルベロスによる楽しい催しをご用意しています」
 空飛ぶ騎士の呼びかけに、子供たちは興味を示している。
「それじゃ、1人ずつ運んであげますから、並んで待っていてくださいね」
 先頭近くにいた女の子を抱えて、ロベリアは恵子のところへと連れていく。
「おっと、時間みたいなんだぜ、ミミック」
 タクティの言葉にミミックが頷くような仕草をした。そうしながらも、ミミックは恵子のそばにいようとする。
 だが、恵子は立ち上がり、おそらくその場から離れようとした。
 錆次郎が素早く近づく。
「だ、大丈夫だよぉ。ここにいていいんだ。君はくーちゃんの友達なんだから、ねぇ?」
 立ち上がったまま少しだけ考えて……それから、恵子はその場に座った。
 その間にロベリアは、恵子とミミックが中心になるように他の子供たちを1人ずつ運んでは下ろしていく。
「恵子ちゃん、シヴィルちゃん、みんなで仲良く遊んでくださいね」
「はーい、わかったぞ!」
 ロベリアの言葉に、シヴィルは元気よく頷いた。
「は……はい……」
 ちょっと気後れした様子で、それでも恵子も頷く。
 少しの間、子供たちはロベリアに誘導されるままに、ミミックと鬼ごっこや缶蹴りをして遊んでいた。
 恵子が輪から離れないようにしたいが、子供たちを集めたのはロベリアなので、1人だけに集中して対応するのは難しい。
 錆次郎や、シヴィルと朔耶が、代わって恵子を一緒に遊ばせるようにしてくれた。
 盛り上がってきたところで登場したのは翠華だ。
「私は、魔法少女スイカちゃん。キラッ☆」
 ポカンとした表情で、露出度の高いひらひらとした衣装を身に着けた翠華を子供たちは見上げる。恵子もだ。
 視線も冬の風もとても寒かったが、少女のためと考えて翠華は予定通りに声をかける。
「あのね、お姉さんは女優なのよ。今度、魔法少女の朗読劇があるから練習したいの」
 子供たちは顔を見合わせて、翠華もケルベロスかと話し合っていたようだった。そしてこれもなにかのイベントの一部なのだと結論づけたらしい。
「それじゃあ、この場所を借りるね」
 受け入れられた気配を察して、翠華は語り始めた。
 最初のうちは、もっとポピュラーなヒーローのお話が聞きたいという子供の声をうまくやり過ごしながら話すことになったけれど。
 朗読するのは、『Q』という妖精と契約し、願いを叶えるのと引き換えに悪魔と戦う魔法少女になった『スイカ』の物語。
 妖精に励まされながら、スイカは何年もの間戦い続けた。
「そして、19歳になってからようやく、スイカは真実を知ったのです」
 翠華のこの一言から、物語のトーンが変化する。
 願いを叶えるのと引き換えに、スイカは悪魔と戦う力を持ったゾンビに変えられていたのだと、彼女は語る。
「スイカは嘆き悲しみました。けれど、物語はまだ終わりません。妖精はもう1つ、大事なことを隠していました」
 20歳の誕生日を迎えた日に、スイカは醜い悪魔へと変わってしまう。これまで倒していた悪魔たちこそ過去の魔法少女たちだったのだ。
「そう、妖精Qは用済みになった魔法少女を、同じ魔法少女に倒させていました。スイカと多くの少女たちは、妖精に騙されていたのです――」
 妖精は新たな魔法少女を生み出すために、今も願いを持つ少女を探している。けれど、その甘い言葉に騙されてはいけない――そんな語りで、物語は終わった。
 子供たちの中には面白そうに聞いてくれている子もいたし、つまらなそうな顔で足をバタバタさせている子もいた。
 恵子はうつむいていて、表情が見えなかった。

●少女の夢から宝石を
 ねえ、と声をかけられて、朔耶は少女を見た。
「妖精って……悪者なの?」
「否定はできないかもな。物語や昔話の妖精は働き者だけど、実は案外と勝手気ままで強欲な性格なんだよね♪」
「そっか……」
 答えを聞いた恵子はまたうつむいてしまう。
 否定してやりたいとケルベロスたちの中には思った者もいただろう。けれどそれをしてしまうわけにはいかなかった。
「なにかありましたカ?」
 通りかかった外国人の振りをして、ローザマリアが恵子に話しかけた。
 道を尋ねようと近づいてきたのだという建前で、彼女は少女と話し続ける。
「あのね……わたしの友達が、悪者だって言われたの」
「オー、それはひどいですネー」
 子供がイメージする外国人らしいオーバーリアクションを交えながら、ローザマリアは少女のまとまりのない話をうまくまとめていく。
 妖精についていい話と悪い話を交えながら、彼女は恵子の言葉を待っていた。
「どうして、お姉さんはそんなに詳しいの?」
「それは当然のことデース。なぜなら……」
 待っていた言葉を少女が発したところで、ローザマリアの身体がキラキラ輝く。
「だって――私は、天使なのだから」
 輝きの中で全身をくまなくケアされた美しい姿へと変化し、彼女は閉じていたオラトリオの翼を大きく広げる。
 少女の体を抱き上げて、ローザマリアは飛翔する。
「妖精さんは小さくて貴方と飛ぶことは出来ないかも知れない」
 いわゆるお姫様抱っこで恵子を支えたまま、彼女は腕の中の少女へ語りかけた。
「でも、天使はあなたと共にこんなにも綺麗な光景を見せることが出来る。そして、より楽しい時を、日々を、天使と過ごしてみない?」
「……うん」
 夢見るような目でローザマリアを見上げて、少女が頷く。
 木の上で様子を見ていたヴォルフは、素早く飛び降りると人間の姿に戻った。
 ローザマリアに抱えられていた少女から宝石がこぼれたことに気づいたからだ。
 コギトエルゴスムを回収し、周囲に異変が起きていないか素早く確かめる。
「……これで仕事は終わりだな。妄想が別のものに変わっただけかもしれないが」
「想像することや好きでいる事は悪い事じゃない。他人のそれを否定したり悪用するのが悪いだけ……」
 近づいてきた朔耶は義兄の言葉に対してそう言った。
 もっとも、義兄はもうすでに少女への興味を失った顔をしていたが。
「仕事は終わったかもしれんが、平和のために小金井殿を利用したのは事実だ。降りてきたら、贖罪のため一緒に面白スポットでも回ったりするのはどうだろうな」
 シヴィルがまだ飛んでいる2人を見上げて言った。
「いいかもしれませんね。代わりの友達などとおこがましいことは言えませんが……せめて、楽しい思い出を残してあげたいです」
「遊びに行くなら、ミミックもつきあうって言ってるんだぜ」
 ロベリアやタクティが言う。
「心を守ってあげるのは、大事なことだよねぇ」
 元自衛官で、衛生兵だった錆次郎はそのことをよく知っていた。大人ですらそうなのだから、子供ならなおさらだ。
「私はいっしょに行けないわね……さすがにこの格好でこれ以上歩き回れないわ」
 翠華が言った。
「確かにな。今さらだが、お話を読むだけで寸劇などをするわけではないのだし、その格好までしなくてもよかったかもしれんな」
「えっ!?」
 何気なく発したシヴィルの言葉に、妖精ならぬ先輩たちに騙されたことに翠華はようやく気づいた。
 ローザマリアがゆっくりと降りてくる。
 呆然とする翠華を残し、ケルベロスたちは少女へ近づいていった。

作者:青葉桂都 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年2月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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