嘘つき少年の苦悩

作者:ゆうきつかさ

●復活せし、タイタニア
 機械で出来た宮殿のような場所に、パッチワークの生き残り達がいた。
 そこで第七の魔女・クレーテが、牛の被り物を捨て、本来の姿であるグレーテルになった。
 そして、その手に持った『コギトエルゴスム』に、魔女の力(グラビティ・チェイン)を注ぎ込んでいく。
「おお、これは……!」
 それと同時に、グラビティ・チェインを注がれたコギトエルゴスムが、タイタニアとして復活した。
「さあ、これでコギトエルゴスムから復活したりんね♪」
「蘇生に加えて拠点の迷宮化まで、かたじけない。この恩に報いぬ余ではないよ」
「そりゃ当然りん♪ せっかく遊興とルーンの妖精をゲットしたんだから、ばりばり役に立って貰うりん♪ キミりん達は、ボクりん達魔女と相性バッチリりん♪」
「……ならばまずは、同胞を戻すため、グラビティ・チェインの獲得に赴くかな」
「そうりんね、手伝うりん♪ そろそろボクりんも牛脱いで、本気出しちゃうりん♪」
 そう言った後、3人のパッチワークが、その場から姿を消した。

●予知
「やっぱり、いた! 妖精はいたんだ! ボクは嘘つきじゃないッ!」
 少年にとって、それは喜ばしい出来事だった。
 初めて、少年が妖精を見たのは、幼い頃。
 両親と一緒にいたピクニック。
 そこで少年は妖精を見た。
 だが、誰ひとりとして、少年の信じる者はいなかった。
 嘘つき、嘘つき、嘘つきッ!
 この大ウソつきめッ!
 両親でさえ『そんなモノはいない』と決めつけた。
 それでも、少年は妖精の存在を信じていた。
 もう一度、妖精に会うため、沢山の本を読み、そこに書かれている事を実践した。
 しかし、妖精が現れる事はなかった。
 少なくとも、今日までは……!
「ボクは嘘つきじゃないッ!」
 少年がタイタニアを見つめ、ボロボロと涙を流し始めた。
 これで、もう嘘つき呼ばれるされる事もない。
 もう馬鹿にされる事も……ない。
 それが嬉しくて、嬉しくて、涙が止まらなくなった。
「あ、あれ……」
 だが、そこで少年は違和感を覚えた。
 いつの間にか、涙だったモノが、血に変わっていた。
 しかも、大量の血が全身から噴き出すようにして、流れ……。
「あれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
 少年の悲鳴が断末魔に変わり、そのまま血溜まりの中に飲み込まれていった。
「……」
 タイタニアは少年にヒールをした後、蝶の羽を羽ばたかせて、何処かへと飛び去った。

●セリカからの依頼
「リザレクト・ジェネシスの戦いの後、行方不明になっていた『宝瓶宮グランドロン』に繋がる予知がありました。妖精を信じる、純真な少年少女のグラビティ・チェインを奪って、妖精8種族の1種と思われる、妖精型デウスエクスが、実体化する事件が起きたのです。どうやら、少年少女の夢の中にコギトエルゴスムが埋め込まれており、充分な力が溜まった段階で、デウスエクスが実体化するという事のようです。夢の中にコギトエルゴスムを埋め込むという手段から、この事件の背後には、ドリームイーターが居るものと思われるが、詳細は不明です。幸い、出現する妖精型デウスエクスに、被害者を殺す意図は無いようなのですが、このまま放置する事はできないでしょう」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
「また妖精を信じる純真な少年少女でなければ、妖精型デウスエクスを復活させる事はできません。ですので、少年少女に実際に会い、色々な話をするなどして『子供が、妖精を嫌いになったり、妖精に興味を失う』ように仕向ければ、復活が不可能となり、子供の夢の中からコギトエルゴスムが排出されるので、コギトエルゴスムを確保する事が出来るでしょう。ただし、説得に失敗した場合、妖精型デウスエクスは戦闘をせずに撤退しようとします。復活したばかりで、それほど強力なデウスエクスではない為、撤退する前に強力な攻撃を叩きこめば、撃破する事はできるものの、コギトエルゴスムを得る事はできません。妖精型デウスエクスが出現してしまった場合は、撃破するか見逃すかについては、現場の判断にお任せしますが、攻撃を行わないのであれば、1分程度の会話をするタイミングはあるかもしれません」
 セリカが詳しい説明をしながら、ケルベロス達に資料を配っていく。
「説得できなくても、子供が死亡すれば、デウスエクスは復活できず、コギトエルゴスムを得る事は可能です勿論、何の罪もない子供を殺すわけにはいかないので、うまく説得して欲しいのですが、少年少女の目には、妖精が見えている為、妖精なんていないといった説得は難しいでしょう。ただし、『妖精よりも興味を惹かれるもの』が出来れば、妖精の姿も見えなくなり、復活を防ぐ事が出来るます。そのため、子供が興味を引くものをプレゼントしたり、妖精よりも面白い事を話したり、体験させてあげるのも世良いかもしれない。それでは、よろしくおねがいします」
 そう言って、セリカはケルベロス達に対して依頼するのであった。


参加者
新城・恭平(黒曜の魔術師・e00664)
パトリシア・バラン(ヴァンプ不撓・e03793)
テレサ・コール(黒白の双輪・e04242)
田津原・マリア(ドラゴニアンのウィッチドクター・e40514)
トリューム・ウンニル(碧き天災の運び手・e61351)
旗楽・嘉内(フルアーマーウィザード・e72630)

■リプレイ

●ボクは嘘つきじゃないッ!
(「妖精を見たって本当?」)
 田津原・マリア(ドラゴニアンのウィッチドクター・e40514)は接触テレパスを使い、ターゲットになっている少年との接触を試みた。
「……えっ? 何っ!? 何をしたの!?」
 その途端、少年が驚いた様子で目を丸くした。
 最初は単なる気のせいだと思ったものの、マリアの表情を見て確信した。
(「これは単なる勘違いじゃない!」)
 と……。
「驚かせてしもうて、すいません。うちはケルベロスの田津原マリアいいます。貴方のお名前は?」
 それに応えるようにして、マリアが笑顔で自己紹介。
「ボクはタケシ……。新沼タケシ」
 少年ことタケシが、警戒した様子で口を開く。
 思わず名前を口にしてしまったが……怪しいッ!
 あからさまに、怪しい感じがする。
 それが何故なのか分からないが、とにかく怪しい。
 ……怪し過ぎるッ!
 もしかすると、悪い奴かも知れない。
 自分に危害を加えて来るかも知れない。
 そんな気持ちがタケシの中で、爆発的に膨らんだ。
 しかも、目の前にいるのは、マリアだけでない。
 何やら怖い表情を浮かべて人達が、ズラリと後ろに立っていた。
「……妖精は存在する。ケルベロスである我々が保証しよう」
 その視線に気づいた新城・恭平(黒曜の魔術師・e00664)が、真剣な表情を浮かべてキッパリと言い放つ。
「ケルベロスが……」
 タケシは警戒した。
 ケルベロス……って、何!?
 何か何処かで聞いたような気もするが、記憶の片隅にあったせいか、ケルベロスが何なのか分からない。
 何か特別な組織だったような気もすれば、何処かの秘密結社だったような気もする。
 もしかすると、正義の味方だったかも知れないが、記憶の引き出しを漁れば漁るほど、訳が分からなくなった。
「君は妖精を見マシタ。ワタシたちは君を信じマス。……デスガ、おおっぴらに表沙汰には、まだデキナイ。大人のズルさと言ってくれて構わナイワ。今はまだ公表デキナイ理由がアルノ。ワタシ達とキミだけの秘密にデキル?」
 そんな事を考えているとは夢にも思わず、パトリシア・バラン(ヴァンプ不撓・e03793)もタケシの説得を試みた。
(「なんだろう……胡散臭い」)
 タケシが警戒した様子で、後ろに下がっていく。
 流石に怪しい。
 ……怪し過ぎる。
 これは……罠!
 罠かも知れないッ!
 そう思ってしまう程の警戒心。
 みんな悪い人ではないようだが、何か思惑があるような感じであった。
 そのため、信じてくれていると言うよりも、とりあえず話を合わせているだけで、あわよくば説得した上で、何かさせようとしているような印象を受けた。
「……目を覚ませ、ワタシらの世界が何者かに侵略されてるゾ!」
 それでも、トリューム・ウンニル(碧き天災の運び手・e61351)は怯む事なく、光の翼で神々しい雰囲気を漂わせ、大いなる陰謀との闘い的な何かに目覚めさせようとした。
(「駄目だッ! 怪しさが団体様で押し寄せてきているッ!」)
 これにはタケシも、頭を抱えた。
 何となく信じたい気持ちがあるものの、視界の隅で怪しさが元気よく手を振っているため、とても信用する事が出来なかった。
 それでも、ケルベロス達が必死になって、自分の事を説得したいと言う気持ちだけは何となく伝わった。
「ひょっとして、私達が嘘つきだと思っていますか? それならば、これをどうぞ。この眼鏡は真実をだけを映します。ですから、この眼鏡を掛けて見えるのであれば、それは真実です」
 そんな空気を察したテレサ・コール(黒白の双輪・e04242)が、掛けるだけで頭が良さそうに見えるシャープでクールな眼鏡を手渡した。
 これは単なる普通の眼鏡だが、掛けるだけで頭が良さそうに見えるため、説得力がマシマシになるアイテムのようである。
「これを掛けるだけでいいの……?」
 そのせいか、タケシもあからさまに警戒した様子で、眼鏡をすちゃっと装着した。
 確かに、眼鏡を掛けると、何となく頭が良くなったような気持ちになった。
 薄っすらとボヤけていた景色も、ハッキリと見る事が出来た。
 だが、何か違う。
 根本的に、何か違う。
 タケシは正体不明の違和感に襲われ、とても不安な気持ちになった。
「皆がいろいろ言った後ですし、少し深呼吸して落ち着いてみましょうか?」
 そう言って旗楽・嘉内(フルアーマーウィザード・e72630)が、いったんタケシを落ち着かせるのであった。

●説得
「まず、表現や内容はどうあれ、みんな君の言うことを本当だと思っているのは、わかってくれました? 実は、妖精がいると言うのは、ケルベロスの間では既に常識になっているんです。だから、私達には君の言うことが嘘じゃないってわかります」
 嘉内が言葉を選びながら、再びタケシに話しかけた。
「う、うん……。まあ……」
 しかし、タケシは未だに警戒した様子。
 ケルベロス達が悪い人ではないと分かっていても、胡散臭い人達である事に変わりはない。
 本当にケルベロスの事を信じていいのか、分からなくなっているようだ。
「何か悩みでもあるん?」
 そんな空気を察したマリアが、タケシの顔色を窺った。
「あ、いや、何でもないよっ!」
 タケシが愛想笑いを浮かべつつ、この場から逃げ出そうとした。
 きっと、この人達はヤバイ人。
 これ以上、関わったら、間違いなく面倒な事になる。
 そんな気持ちがタケシの中に芽生えていた。
「うちはね、医者として心掛けてる事があるんよ。まず言いたい事を整理してはっきり伝えること、話が分かりやすいと疑われる事も少なくなるやろ。大切なのは相手の目を見て、笑顔でお話すること。目を見ると真剣さが伝わるし、笑顔やと相手に話を聞き入れる余裕が生まれるから……。それに、うちにはシャドウエルフや、ヴァルキュリアの妖精種族の仲間達がおる。せやから、妖精がいない、なんて事は言いたない。間違いなく、妖精は存在しているんやから……」
 マリアが真剣な表情を浮かべ、タケシの顔をジッと見た。
 その瞳があまりにもキラキラと輝いていたため、タケシは罪悪感に襲われた。
「何というか、ごめんなさい。これじゃ、ボクも他の奴等と一緒だね。お姉さん達の事……少し疑っていた。でも、ボク自身も間違っていたんだね」
 タケシが反省した様子で、視線を落とす。
 マリア達を疑うあまり、いつの間にか最も嫌う人達と同じ考えになっていた。
 その事に気づいた時、タケシはとても恥ずかしい気持ちになった。
 こんなにも真剣に、自分の事を信じてくれた相手に対して、胡散臭いと思ってしまったのだから……。
「ところで、君はお化けはいると思いますか?」
 嘉内の問いに、タケシが首を横に振る。
 そんなモノがいる訳がない。
 絶対にオバケなんていない。
 そう言いたげな表情を浮かべていた。
「お化けは普通の人には見えませんから、いる、いないで意見が分かれますよね。妖精も同じで、他の人の目に見えないから、どうしても嘘だと言われがちです。人は自分の目に見えるものしか信じませんからね」妖精が見える君は、きっと特別なんでしょう。だから、他の人の目には見えなくても、君の目に見えるものは本当なんだと自信を持って下さい」
 そんな空気を察した嘉内が、タケシの気持ちを解くようにして、ゆったりと穏やかな口調で語り掛けた。
「ボクが……特別……」
 その言葉に胸を打たれたのか、タケシがゴクリと唾を飲み込んだ。
 ボクは嘘つきではなく、トクベツな存在。
 異常ではなく、特別だったからこそ、妖精を見る事が出来た。
「ええ、妖精が見えたのは、その一端に過ぎないの。逆に、見えなかった、嘘だと言ってきた人は弱い人だから守ってあげられるように強くならなきゃ」
 トリュームがチャンスとばかりに、タケシの両手をギュッと握り締めた。
「ボクが強く……強くならなきゃ!」
 タケシもトリュームの顔を見つめ、自らの使命に何となく目覚め始めた。
 何やらヤバイ方向に目覚めてしまったような気もするが、タイタニアを復活させるよりはマシである。
 代わりに屈強な魂を持つ選ばれし勇者が爆誕しそうな気もするが、その時は、その時。
 何とかなる……はずである。
「それに、自分が見たことがないのと、存在しないはイコールではない。この世界全てを調べどこにも妖精がいないと言うことを証明しなければ存在しないとは言えないのだから……。なんなら嘘つき呼ばわりしたヤツに聞いてみるといい、『世界全てを調べた上で言っているのか?』と……。そうでなければ、そいつこそ嘘つきだ」
 恭平もタケシの迷いを晴らすようにして、躊躇う事なくキリリっと断言ッ!
「確かに……そうだよね。ボク……アイツらに言ってやるよ!」
 タケシもだんだんケルベロス達の事が信じられるようになったのか、興奮した様子で答えを返す。
「そうです。もっと強くなるべきです。例え、他人に信じてもらえなかったとしても、あなたの眼と、その眼鏡がその存在を視ているのですから、何も心配することはありません。……ですから他人から嘘つきだと言われても自信を持って毅然と振る舞って下さい。この眼鏡があなたの証人であり味方です」
 テレサがタケシの肩をガシィッと掴み、眼鏡の可能性を……その素晴らしさを伝えていく。
「な、何だか、よく分からないけど……分かったよ」
 その気迫に圧倒されたのか、タケシが力強く頷いた。
 いま掛けている眼鏡に、どれほどの力があるのか分からないが、此処まで断言しているのだから、まるっきり嘘と言う事もないだろう。
「さあ君。次ダ。妖精の存在は確認した。ワタシタチも保証する。次に君は何をシタイ? 何を見つケタイ?」
 そんな中、パトリシアが、タケシに向かって問いかけた。
「いや、もう捜す必要はないよ。だって、この世界の何処かに、妖精がいる事は間違いないんだから……。それよりも、ボクは……ボクの事を嘘つき呼ばわりした奴等に言ってやるんだ。ボクは嘘つきじゃないって! だって、この眼鏡が証人だものね!」
 そう言ってタケシが自信に満ちた表情を浮かべ、眼鏡をキランと輝かせるのであった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年2月16日
難度:普通
参加:6人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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