子どもの夢から興味を奪え

作者:久澄零太

「さあ、これでコギトエルゴスムから復活したりんね♪」
「蘇生に加えて拠点の迷宮化まで、かたじけない。この恩に報いぬ余ではないよ」
 無機質な建材と武骨な装飾。組み立てられた機械の城のような空間の中、それぞれ子豚と蛇を連れた魔女に見守られるようにして、牛の被り物を脱いだ魔女が手にしたコギトエルゴスムにグラビティチェインを注ぎ込むと、王族のような服に身を包み、刺突剣を手にした男性が蘇る。尖った耳と蝶の羽をもつ彼は、恐らくは新手の種族……妖精八種族の一つなのだろう。
 彼の感謝の言葉に、牛の被り物を脱いだ魔女、かつてクレーテと名乗っていたドリームイーターは満足そうに微笑んだ。
「そりゃ当然りん♪ せっかく遊興とルーンの妖精をゲットしたんだから、ばりばり役に立って貰うりん♪ キミりん達は、ボクりん達魔女と相性バッチリりん♪」
「……ならばまずは、同胞を戻すため、グラビティ・チェインの獲得に赴くかな」
「そうりんね、手伝うりん♪ そろそろボクりんも牛脱いで、本気出しちゃうりん♪」

「ふふふ、あなたもそう思う?」
 無邪気な少女が一人、友人に語り掛ける。周りに人気はない公園で、彼女は一体誰と話しているのだろうか。気でも触れてしまったかに見える少女の前で、淡い光が人のような姿を編む。突然のことに呆然と見つめる少女の前に現れたのは、蝶の羽をもつもう一人の少女……彼女が今まさに話していた『お友達』だ。
「わ、すごいすごい! 本当に……」
 友人に触れようと手を伸ばして、少女の体はゆっくりと崩れ落ちていく。倒れた彼女は自らの血でできた水たまりに沈み、彼女を仰向けに寝かせた羽をもつ少女はそっとヒールを振りかけて。
「……ごめんね」
 蝶の羽を羽ばたかせて、どこか遠くへと飛び去っていった……。

「皆、集まってくれてありがとう」
 大神・ユキ(鉄拳制裁のヘリオライダー・en0168)は番犬達の顔を見回して、一度深呼吸してから語り始める。
「リザレクト・ジェネシスの戦いの後、行方不明になってた『宝瓶宮グランドロン』に繋がる予知があったの」
 その言葉に、息を飲む者、片眉を上げる者、反応は様々だ。
「妖精を信じてる、純真な子どものグラビティ・チェインを奪って、妖精八種族の一種……だと思うんだけど、その妖精型デウスエクスが実体化する事件が起きるみたい。それで、今回は子どもの夢の中にコギトエルゴスムが埋め込まれてて、充分な力が溜まった段階で、デウスエクスが実体化するって流れみたいなの」
 察しのいい番犬は、その実体化するデウスエクスの背景に何かがいる事を察し、ユキは答え合わせのように続ける。
「夢の中にコギトエルゴスムを埋め込むって事は、この事件の背後には、ドリームイーターが居ると思うんだけど、ごめんね。現時点だと細かくは分からないの。あ、でもね、出現する妖精型デウスエクスは、被害者を殺そうとしてるわけじゃないみたい」
 だからって、見逃せはしないけどね。ヘリオライダーはそう続けて、先を語る。
「今回の事件の鍵なんだけど、妖精を信じる純真な少年少女じゃないと、妖精型デウスエクスは復活できないみたいなんだ。だから、その子達に実際に会って、色々な話をしたりして『子どもが、妖精を嫌いになったり、妖精に興味を失う』ようにできれば、復活できなくなって、その子の夢の中からコギトエルゴスムが出てくるから、コギトエルゴスムを確保する事が出来るよ!」
 しかし、それはあくまでも子ども達を誘導できた場合の話。番犬からの「しくじったら?」という質問にユキは頷き。
「復活した妖精型デウスエクスは戦わずに逃げようとするの。でも、復活したばっかりで、まだそんなに強くないから、逃げ出す前にドカーンってやっちゃえば倒せるとは思うんだけど……」
 当然、コギトエルゴスムを得る事はできない。言葉にせずとも理解した番犬は、そっと目蓋を降ろした。
「妖精型デウスエクスが出てきちゃった場合は、倒すか見逃すかについては、実際にその場にいる皆の判断に任せるよ。攻撃しなかったら、一分くらいは会話をするタイミングはあるかも?」
 デウスエクスと会話する……殺し合いをしている相手に会話の余地があるとは、珍しい事もあるものである。
「説得の時に気を付けて欲しいんだけど、夢にコギトエルゴスムを埋め込まれた子の目には妖精が見えてるから、妖精なんていないって言っても分かってくれないと思うの。だから、『妖精よりも興味を惹かれるもの』があったら、妖精の姿も見えなくなって復活を防ぐ事が出来るかもしれないよ」
 いかにして子ども達の興味を引くか。番犬達のセンスが問われている……。


参加者
橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125)
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
リュセフィー・オルソン(オラトリオのウィッチドクター・e08996)
白石・明日香(愛に飢え愛に狂い愛を貪る・e19516)
カテリーナ・ニクソン(忍んでない暴風忍者・e37272)
園城寺・藍励(深淵の闇と約束の光の猫・e39538)
田中・レッドキャップ(美貌の食神妖花・e44402)
ノアル・アコナイト(黒蝕のまほうつかい・e44471)

■リプレイ


「それでね……」
 休日の昼下がり、誰もいない公園で、誰かに語り掛ける少女がいた。返事の声もなければ、何かが動いた気配もない。独りぼっちの少女が、そこにいた。
「あなた……もしかして……」
 そこを通りかかったノアル・アコナイト(黒蝕のまほうつかい・e44471)が、真っ青な顔で少女に迫り、額をぶつけて両手を握る。
「見えるんですか!?」
「え、何、あなた誰!?」
 ロリとショタ「私も女の子ですって!!」うるせーちょっと黙ってろ!とにかく、歳の近い姿の二人だが、いきなり見ず知らずの相手に突っ込んでこられたら誰だって面食らうというもの。目を白黒させる少女の様子に、興奮冷めやらぬノアルの両肩に尾が二つに裂けた猫と、七尾の狐が現れると前脚で挟撃ツッコミ。
「あんさん踏み込みすぎでっせ」
「完全に引かれとりやす」
「はうっ」
「え?」
 喋る二匹の怨霊に、ポカンとしてしまった少女を解放し、ノアルが自分の胸を叩く。
「あ、通りすがりの番犬です!お仲間の気配がしてお声かけさせていただきました!!」
「ばんけん……?」
「なにやってるですか」
「うきゅっ」
 ストン。追って来た機理原・真理(フォートレスガール・e08508)が手刀をノアルの脳天に落し、少女に番犬証を見せながら。
「驚かせてゴメンですよ。知ってるですか?ケルベロス」
「何か凄いお巡りさん?」
「……あってるような間違ってるような」
 半眼で遠くを見つめる真理だが、当たらずといえど遠からず。細かい事はブン投げて。
「普段は悪いオバケと戦ってるですが、そればっかりじゃないのです。壊れた町を直す大工さんみたいな事したり、ちょっと変わった病気の人を治すお医者さんみたいな事したり……」
 結構忙しいんだぜ?とでも言いたいのか、真理の愛機、プライド・ワンが彼女の隣について、ため息代わりに青いヘッドライトをゆっくりと灯す。勝手に動く騎乗機をロボットか何かと思い込んでいるのか、少女はジッと見つめ。
「乗ってみるですか?私の相棒ですから、危なくないのです」
「え、私一輪車乗れない……」
「!?」
 この俺が、一輪車だと!?とショックを受けたらしく、カッとプライド・ワンのライトが黄色に。
「あ、拗ねたです」
 ソッポ向いてユラユラ揺れる騎乗機に、少女があわあわ。哀愁漂う、薄暗いテールランプに真理は虚ろ目。
「これはちょっと長引くかもしれませんです」
「え、あの、ば、バイクかっこいいなー!?」
 フォローしようとする少女に、半身だけ振り返ったプライド・ワン。うっすら灯った黄色はホント?と尋ねるかのようで、少女はコクコク頷いた。
「プライド・ワンの言いたいことが分かるですか!?」
「怨霊も見えてるんですよね!?」
「ひょえ!?」
 急に顔を押し付けてくる真理とノアル。完全に気圧された少女から橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125)が二人を引き剥がし。
「落ち着きなさいよ……」
「なにするですかー」
「あーれー!?」
 二人まとめてブン投げると少女に微笑んで。
「折角だから、座ってお話しない?」


「お帰りなさいませ、お嬢様。なんてね」
「ふわぁ……」
 ポンポン、給仕服を叩けばクラシカルなメイド服はフリルとリボンで彩られ、ゴトリと落ちた鞄は瞬く間に簡易テーブルへ。色とりどりの茶菓子を並べ、紅茶を淹れた芍薬はカーテシー。つまんでいた裾をそっと降ろすと椅子を引いて少女を招く。
「ふっふっふ、メイド戦士は何だって出来るのよ。お菓子もお茶も遠慮無く食べてね」
「メイド戦士?」
 メイドさんじゃないの?と小首を傾げる少女に、芍薬は指で煙草を弾くと銃を発砲。掠め撃ちで着火して唇で受け止め、咥えると銃を持つ手を逆の手で支え、キリッと少女に流し目を向ける。
「ただのメイドとは仮の姿。お嬢様の危機とあらば即発砲。炊事洗濯料理に護衛。あなたの全てをお守りします。今ここに、メイド戦士参上!……なんちゃって」
 最後にテヘッと舌を出して微笑んで、煙草は携帯灰皿にしまう。目を輝かせる少女に手応えを感じる芍薬だが、ノアルが突撃。
「メイドさんだけじゃありません。お姫様だっているんですよ!」
 外套を投げ捨てるノアルは一瞬で成長し、大人の姿に。体型を際立たせるために細身の白いドレスは、フリルを裾から螺旋に巻いて視覚的に膨らみを持たせている。胸元にあしらわれた幾重ものフリルは、ノアルの体に広がりを思わせて、彼女そのものが一つの花束であるかのように魅せる。短く切りそろえられていた髪は腰に届き、頭頂を飾る髪飾りから伸びる、流星の如く。
「女の子は誰でもお姫様になれるんですよ~。ちょっと努力は要りますが」
 ドヤッとするノアルに、キリッとする芍薬が並ぶ。
「メイド戦士と」
「お姫様!」
「「どっちがいい(ですか)!?」」
「え、えー!?」
 突然の二者択一に混乱する少女の頭に、七尾の狐がポムン。
「あんな連中ほっといて、わっちと契約して魔法少女になってくりゃれ」
「「あんな連中!?」」
「魔法少女物の本はどうですか?実際になるかどうかはさておき、きっと面白いですよ」
 リュセフィー・オルソン(オラトリオのウィッチドクター・e08996)が少女に本を差し出して。
「色々な魔法を使っていて、楽しいですよ」
 ページを開き、熱を出した子どもの為に氷の魔法を使ったり、川を渡れなくて困っている人の為に土の魔法を使ったりする姿を見せて。
「私のお勧めは、変身シーンです」
 一人の少女が、人々の為に魔法少女に姿を変えるページを開き、微笑みかける。
「あなたも、変わりたいんじゃありませんか?」
 何故、男の子向けのヒーローはヒーロースーツを着るのに、女の子向けの魔法少女は一度全裸になるか、考えたことはあるだろうか?
 少女は少年より、強い変身願望を持つという。子ども向け番組の演出の違いは、その欲求に応える為という説もあるが、恐らく少女が目を向けてくれたのは、そこではない。それを悟って、リュセフィーは、めっ。人差し指で少女の額をつつく。
「想うだけじゃ、何も変わりませんよ」
 夢見る少女に現実を突きつけるのは、同じ気持ちが分かる、大人の女の役目だ。
「お嬢さん、妖精さん以外にお友達がいなくて寂しそうですから新しいお友達を紹介してあげますね~」
 白石・明日香(愛に飢え愛に狂い愛を貪る・e19516)がぬいぐるみ、代首領の仮面を押すと「我が名は悪の秘密結社オリュンポスが大首領!」と、いつものセリフ。
「この代首領様がいれば、もう妖精さんだけ話相手にすることはなくなりますよ。独りぼっちのお嬢さん」
「一人じゃないもん!私にはお友達が……」
「あ、間違えました」
 瞳の虚ろな女は、口角を上げた。
「人間のお友達ができないお嬢さん?」


 少女の視線が、地に落ちる。ギュッと握りしめた掌には何もなく、励ましてくれる妖精の声は聞こえても、震える肩を支える温もりはない。唇をキュッと結び、零れそうになる感情を押さえこんで……。
「ハーッハッハ!!」
 雰囲気をぶち壊していくムーブメント……もとい、笑い声が公園に響く。
「世界のポリスなステイツでも大人気!それがNINJAでござる」
 頭上から聞こえた気がして空を見れば、鴉が一羽飛んでいくだけ。
「私のマスターが伝授してくれた初めての忍術……それは忍法虚仮威しの術で、私は十五歳でした」
 足元から聞こえた気がして下を見れば、自分の影が伸びるだけ。
「その業はあざとくてダーティーで、こんな素晴らしい忍術を教えてもらえる私は、きっと特別な存在なのだと感じました」
 花壇から聞こえた気がして振り向けど、花々が風に揺らぐだけ。
「今では私がNINJA。弟子に教えてあげるのは、もちろん忍法虚仮威しの術……なぜなら彼等もまた、特別な存在だからです」
 人の気配を感じて後退れど、ブランコは揺れるだけ。
「正義を守るためには汚名も厭わぬ」
 不意に、影が落ちた。
「……それがNINJAでござる」
「きゃぁああ!?」
 急に耳元で囁かれて少女は尻餅をつき、涙目で震えながらカテリーナ・ニクソン(忍んでない暴風忍者・e37272)を見上げる。
「ソーリー、驚かせてしまったでござるな!」
 HAHAHA、悪びれる気皆無のカテリーナが笑い飛ばして、軽く握った左手の上に人差し指を立てた右手を乗せる。
「なーにをシリアスな顔をしているでござるか!乙女たる者、ドリームはNINJA一択でござる!」
 頭のネジが五、六十本抜けてんじゃねぇか?ってテンションのカテリーナ。一冊の本を取り出して。
「多少遠回りだとしても、情報を得る事は敵を知るファーストステップでござる!これこのように、他人の秘密を……」
 Catharina Nixonって書いてあるね。
「コレ拙者のブラックヒストリー!?しかぁし!失敗は成功のマテリアルでござる!!」
 開き直った!?
「何事も、まずはチャレンジあるのみでござるからなァ!!」
「そうそう、何事もやってみてからです」
 田中・レッドキャップ(美貌の食神妖花・e44402)はカードファイルを手に参戦。
「実は姪がハマっているゲームがあってですね?」
 スコアで衣装を集めて着せ替えて楽しむリズムゲー(実物の表現が難しすぎる為、田中君の表現を引用)のカードを見せるレッドキャップ。
「いざやり始めると、そこそこ楽しめるものですよ?まぁ、今回は再現という事で……」
 チアガールのカードを示して、その姿にポンと変わるレッドキャップ。
「これとか」
 その隣のいかにもアイドルと言わんばかりのフリフリ衣装を指さし。
「これとか」
 その姿に変わったかと思ったら、黒猫を模した衣装のカードにタッチ。
「こんなのもあります」
 最後に猫っぽい格好になって、その時の事を思い返し頷くレッドキャップ。
「リズムゲーのせいか、やり込みたくなるゲームというのもありますが、カードを集めるだけでも中々楽しくてですね……最終的には自分でオリジナルの衣装なんか考え始めてしまうと、もう周りが見えなくなってしまいます」
 姪っ子に付き合わされた事が一目に見受けられるレッドキャップ。幼児の描いたイラストを基に、それを解析して異能で再現するのは茨の道だったのだろう。遠い目をする彼から引き継ぐように、周りに軽快な音楽が流れ始めると。
「にゃっはー!!」
 園城寺・藍励(深淵の闇と約束の光の猫・e39538)が公園のど真ん中に降下。一見水色の着物に見えて、帯にはフリル、留め紐にはリボンがあしらわれて裾は膝上のミニスカートにエプロンを組み合わせた、某RMK企画のアイドル衣装で着飾り、髪の半分をツインテにして高い位置で留め、残りは流し、三つの束に分かれた髪と尻尾を揺らして踊る。フィニッシュポーズを決めて、一曲踊り終えた藍励は少女と目を合わせて。
「突然で驚いちゃったかな、ごめんね」
「ううん、すごかった!」
 最後まで見届けた少女は惜しみない拍手を送り、自信がなかった故に、逆に藍励の方がちょっと照れてしまったが。
「それじゃ、一緒に歌ったり踊ったりしてみよっか?」
「えっ!?」
「まずはやってみてからですよー?」
 レッドキャップが少女の背中を押して、藍励の隣に並べるとカードファイルを開き。
「どんな服が着てみたいですか?」
「えっと……」
 若干流されている節はあるが、年端もいかぬ少女に藍励の姿は実に煌びやかに映ったのだろう。やや恥ずかしそうにしながらも、藍励に似せてか、和洋折衷の衣装をチョイス。
「こんなのありますか?」
「今探すからちょっと待ってね……」
 ガラガラ……藍励、まさかの台車ごと衣装を持ちこんでたの図。無数の衣装がかかったラックから、それらしきものをいくつか選別し、実際に少女に選ばせて。
「じゃあ後は音楽に合わせて……」
 着替えも終えて、いざ音楽を流そうとしたらプライド・ワンが乱入!少女の後ろでスピンターンし始めた。
「あはは……派手なバックダンサーだね……」
 苦笑する藍励に対し、主人の真理は。
「目立つの、意外と好きですよね?」
 じとーっとした目を向けていたという。


「お友達とカードのやり取りをするのも楽しいですよ?」
 思いっきり踊って、歌って、疲れ切って。座って休んでいた少女にレッドキャップが投げかけたのは、そんな言葉だった。
「友達……」
 それまで、目をキラキラさせていた少女が急に影を背負う。
「お友達ができないのか、はたまた喧嘩してしまったのか……」
 少女の隣に明日香が腰を降ろし、口元に指を添えて思案顔。
「なんにせよ、このままでは何も変わらないでしょう?」
 そっと、代首領を差し出して。
「いってらっしゃい。もしダメだったら、この代首領様は我が結社にもいらっしゃいますので、ぜひぜひお越しください。我が結社に入団するのも歓迎ですよ~」
「……」
 代首領を受け取った少女はしばし沈痛な顔をしていたが、やがて……。
「帰る」
 不貞腐れたように立ち上がった。だがしかし、そうは問屋がドントフォール。
「おぉっと待たれよ、番犬のパフォーマンスを見ておいて、フリーで帰れると思ったでござるか!?」
 少女の前にカテリーナが立ち塞がる!
「お代として、そのポケットの中身を置いていってもらうでござる!」
「ぽ、ポケットには何も……あれ?」
 少女がポケットから取り出したのは、巨大なビー玉。それはガラスとは思えない不思議な輝きを放っており、明らかに少女の持ち物ではなかった。
「これで、いい?」
「ふーむ、それで勘弁してやるでござる!!」
 ビー玉を渡した少女は歩きだし、途中で止まって、振り返った。
「お姉ちゃん」
「はい?」
「もし、私が本当に一人になったら……」
「大丈夫ですよ」
 明日香は、番犬達を示して。
「あなたには、私達がついていますから」
「……うん!」
 番犬達に見送られて、少女は去っていく。その背が見えなくなって、レッドキャップは崩れ落ちるようにへたり込んだ。
「とんでもない博打を打ちましたね……」
 ジト目のレッドキャップに明日香はどこ吹く風。食えない女である。
「しくじったら、妖精への依存を強めてましたよ?」
「上手くいったんだから、いいじゃないですか。孤独の厄介さはあなたも知ってるでしょう」
「……」
 忘れない、忘れられない、とある少女との邂逅。
『あなた達には分からない。異能を持ち、才能を持つあなた達には、殺されていく一般人の気持ちなんて!』
 昼間から一人で公園に居た。その意味を、明日香が分かっていたかどうかは分からない。だが、自分にしか見えない友人と話すだけなら、『自室で十分』だ。
「そう、ですね」
 小さく呟き、レッドキャップはその赤帽子を引き下げた。
「ところで、これどーしたらいいでござるかね?」
 空気読めよカテリーナ、今真面目な話を……回収したビー玉……じゃなくって、コギトエルゴスムを指先で回すんじゃねぇえええ!!

作者:久澄零太 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年2月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 6
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