見えないハズの見えてるお友だち

作者:質種剰

●第七の魔女
 謎の機械宮殿。
 パッチワークの魔女の生き残り3人が顔を突き合わせていたが、彼女らに悲壮感はない。
 ただ、赤いスカーフを頭に巻いた金髪の少女が抱えているコギトエルゴスムへ魔女の力——即ちグラビティ・チェインを注ぎ込む様子を、固唾を飲んで見守っていた。
「さあ、これでコギトエルゴスムから復活したりんね♪」
 金髪の少女が無邪気な笑顔を見せる。実は彼女、牛の被り物を脱ぎ捨ててその正体を現した、第七の魔女クレーテ改めグレーテルである。
「蘇生に加えて拠点の迷宮化まで、かたじけない。この恩に報いぬ余ではないよ」
 そして、コギトエルゴスムより復活したデウスエクスは、尖った耳と艶やかな蝶の羽を有した青年であった。
「そりゃ当然りん♪ せっかく遊興とルーンの妖精をゲットしたんだから、ばりばり役に立って貰うりん♪ キミりん達は、ボクりん達魔女と相性バッチリりん♪」
 グレーテルは、青年——妖精タイタニアへ向かってさも上機嫌に言う。
「……ならばまずは、同胞を戻すため、グラビティ・チェインの獲得に赴くかな」
 タイタニアは重々しく頷いた。
「そうりんね、手伝うりん♪ そろそろボクりんも牛脱いで、本気出しちゃうりん♪」
 グレーテルは、かつて被っていた牛を空いた手で弄びながら、怪気炎をあげた。


 雪深い街の夜。
「あのねー。明日はおかーさんとデパートへ買い出しに行くのよ。お昼はね、フードコートでハンバーガー食べるの!」
 一軒家の子ども部屋では、年端もいかない少女が、何やら天井へ向かって一所懸命に喋っていた。
 恐らくは、この年頃によくある『見えないお友だち』と会話していたのだろうが……。
「良かったね。久しぶりのデパートなのかな? 楽しんでおいでね」
「えっ!?」
 突如、少女の目の前に、蝶の羽で羽ばたいて飛んでいるタイタニアが現れた。
「うわぁ、妖精さんだ妖精さんだ!!」
 未だ妖精を信じている純粋な少女は、それこそ飛び上がらんばかりに喜んだが。
「あ……?」
 それも束の間、すぐに口から血を吐いて倒れてしまった。
 タイタニアが彼女から急激にグラビティ・チェインを奪ったせいである。
「…………」
 タイタニアは少女へヒールグラビティをかけると、すぐに羽を広げてその場から飛び去った。

●夢ぶっ壊し作戦
「リザレクト・ジェネシスの戦いの後、行方不明になっていた『宝瓶宮グランドロン』に繋がる予知がありました」
 小檻・かけら(麺ヘリオライダー・en0031)が神妙な面持ちで説明を始める。
「妖精を信じる純真な少年少女のグラビティ・チェインを奪って、妖精8種族の1種と思われる妖精型デウスエクスが実体化する——そんな事件が起きたのであります」
 どうやら、少年少女の夢の中にコギトエルゴスムが埋め込まれていて、充分な力が溜まった段階でデウスエクスが実体化する、という事らしい。
「夢の中にコギトエルゴスムを埋め込むという手段から、この事件の背後には、ドリームイーターが居るものと思われますが、詳細は不明であります」
 幸い、出現する妖精型デウスエクスに、被害者を殺す意図は無いようだが、このまま放置する事はできないだろう。
「さて、皆さんへお伝えしておきたいのは、妖精を信じる純真な少年少女でないと妖精型デウスエクスを復活させられないということであります」
 それ故、少年少女へ実際に会って色々な話をするなどして『子どもが妖精を嫌いになったり、妖精に興味を失う』ように仕向ければ、妖精型デウスエクスは復活が不可能となる。
「さすれば子どもさんの夢の中からコギトエルゴスムが排出されますので、コギトエルゴスムを確保もできましょう♪ ふふ、子どもさんの夢を壊すのは心苦しいやもしれませんが……」
 しかし、もしも説得に失敗した場合は、妖精型デウスエクスが戦う気配すら見せずに撤退を試みるという。
「復活したばかりなのもあってそれほど強力なデウスエクスではありませんから、撤退する前に強力な攻撃を叩き込めば、撃破する事はできましょうが……それだとコギトエルゴスムを得られないであります」
 妖精型デウスエクスが出現してしまった場合に撃破するか見逃すかについては、現場の判断に任せる。
「攻撃を行わないならば、1分程度の会話をするタイミングはあるかもしれないでありますね」
 そこまで説明すると、かけらは彼女なりに皆を激励した。
「被害者の子どもさんの目には妖精が見えていますから、妖精なんていないといった説得は難しいでしょうが、『妖精よりも興味を惹かれるもの』ができれば妖精の姿も見えなくなって、復活を防ぐ事ができましょう」
 説得の成り行き次第で無益な戦闘を行わずに依頼を解決できる為、是非とも頑張ってほしい。
「子どもさんの興味を引くものをプレゼントなさったり、妖精よりも面白い事をお話しなさったり、体験させて差し上げるのも良いかもしれません。皆さんふぁいとでありますよ♪」


参加者
シェミア・アトック(悪夢の刈り手・e00237)
ビスマス・テルマール(なめろう鎧装騎兵・e01893)
小山内・真奈(おばちゃんドワーフ・e02080)
皇・絶華(影月・e04491)
アストラ・デュアプリズム(グッドナイト・e05909)
月白・鈴菜(月見草・e37082)
ステラ・フォーサイス(嵐を呼ぶ風雲ガール・e63834)
アルセリナ・エミロル(ネクロシーカー・e67444)

■リプレイ


 夜。
 8人は、舞花の住む一軒家へ来ていた。
 まずは保護者へしっかり事情説明しろといつもの台本作者に念押しされていた月白・鈴菜(月見草・e37082)が、玄関を軽くノックする。
「はい」
 不思議そうな顔で出てきた母親へ、台本通り——舞花が妖精デウスエクスから今にも傷つけられそうなこと、それを防ぐには彼女の興味を妖精から逸らすしかないこと、その為には超常的な存在として彼女の前へ現れる必要がありご家族の案内は不要であること——を簡潔に伝えた。
「判りました……もし何かあれば呼んでください」
 一応事情を理解したらしい母親が1階の奥へ引っ込む。
「舞花ちゃんから妖精さんへの興味を一時的になくさせて、デウスエクスを復活させないようにだね」
 階段を上がっている最中、来訪の目的を口の中で繰り返すのは、アストラ・デュアプリズム(グッドナイト・e05909)。
 この日の彼女はアルティメットモードを用いて、ぷるぷるつやつやしたプリンの着ぐるみを身に纏っていた。
 元より柔らかいブロンドの髪を持つアストラだけに、プリン着ぐるみの滑らかな卵を模した黄色とよく馴染んでいる。
 プリンの頭上にはバーガーのぬいぐるみが乗っていて、どうにかして舞花の興味を引こうという苦心の跡が窺えた。
 ミミックのボックスナイトは、幾つかもお菓子の箱を口の中へ詰めて頭にはリボンを飾って、マスコットボックス風の装いだ。
「うんしょ……よっこら、しょっと」
 一方、ステラ・フォーサイス(嵐を呼ぶ風雲ガール・e63834)も相棒のライドキャリバー、その名もシルバーブリットを抱きかかえて懸命に階段を上がっていた。
 ちなみにシルバーブリットはピンクでファンシーな見た目に塗装されている。
「はぁー……気づかれないように二階まで運ぶのは一苦労だね」
 乱れた息を整えると、シルバーバレットに跨ってマイク型のガジェットを構えるステラ。
 まずは子ども部屋の襖の隙間から、スチームバリアを独自に薄めた蒸気の霧、スチームミストを注ぎ込む。
「はぁーい、注目ちゅうもーく!」
 そして、ステラは襖を開けると共に、霧へ包まれながらシルバーブリットで走り込むという派手な登場をやってのけた。
「これから楽しいショーがはっじまるよー♪」
 歌うように宣言するや否や、魔法少女や天使達の背後から花火に見立てられたブレイブマインが色とりどりの噴射を起こす。
「舞花ちゃん、こんばんは~♪」
 アストラは舞花を安心させるべく花のような笑顔で挨拶した。
「こ、こんばんは!」
 舞花は、突然知らない人間が大勢やってきたので目を丸くしていたが、
「プリンとハンバーガー?」
 アストラの格好を見つめて、顔を綻ばせた。
「そう! プリンとハンバーガーだよ、食べたい?」
「食べたい!」
 アストラの問いかけへ元気に応える舞花。
「あ……でも、寝る前におやつとか食べたらママに怒られる……」
 と、しょんぼりする様が年相応で微笑ましい。
「心配には及ばぬ。我の魔法によってそなたのママは朝までぐっすり眠って起きぬであろう」
 皇・絶華(影月・e04491)は、そんな舞花を安心させようと自信満々にドヤ顔してみせた。
「ほんと!? お姉ちゃん魔法が使えるの!?」
 舞花が瞳をキラキラさせて言う。
「我らは魔法少女隊『猛虎猛虎団』だ! 覚えておくがいい!」
 絶華はひらひらしたドレスに空気を孕ませて、格好良く断言した。
 現に、スタイリッシュモードできらきらした彼女、もとい彼は大変可愛らしい。
(「魔法少女という物は機能的かつ美麗らしいからな」)
 そんな認識の元、白いつけ羽も背負った絶華は、確かに華麗なる変身を遂げていたが、
「……もこもこ団?」
 何とも微妙なネーミングセンスには、思わずビスマス・テルマール(なめろう鎧装騎兵・e01893)がツッコミを入れた。
 同じ天使モチーフの魔法少女に扮している彼女としては、イキがりきれても可愛こぶれてもいないどっちつかずな名前に物申したくなるのも道理だろう。
 ちなみにビスマス自身の服装は、虹色に照り映えるビスマス結晶を散りばめたファンシーな天使をイメージしていて可愛らしい。
 そして、天使の翼はオウガメタルのソウエンがそれっぽく変形して、懸命に金属性の羽を広げていた。
 他方。
「……もこもこ団……?」
 窓の上にふわふわ浮かんでいたシェミア・アトック(悪夢の刈り手・e00237)も、絶華の声が聞こえてこっそり眉を顰めた。
 この日のシェミアは、プリンセスモードで真っ白いドレスを着込んでいた。
(「妖精に対抗して天使……上手く行くかな……?」)
 自前の翼で浮ける彼女が考えたのは、天使っぽく空から舞い降りてくる演出。
「あっ不思議! 夜なのに窓の外が明るいよ! 見てみようか」
 ステラが窓を開けて、おいでおいでと手招きする。
 駆け寄った舞花が目の当たりにしたものは、ぴかぴかと神々しい光——神聖なる祝福を自ら浴びながらゆっくり降臨する天使の姿であった。
「こんばんは舞花ちゃん……わたしたちは天使……今日はあなたと遊びに来たんだ……」
 舞花の目線の高さまで降りて、にこりと微笑んだシェミアが挨拶する。
「こ、こんばんは天使さん、キレイ……!」
 シェミアの神秘的な美しさにすっかり見惚れる舞花。
「ありがとう」
(「笑顔は浮かぶんだけど……維持はちょっとしんどい……」)
 元々無表情なシェミアは、舞花へ少しでも好印象を抱いて貰えたら、と動かぬ表情筋へ懸命に鞭を打って、穏やかな微笑を保っていた。
「あっ、天使さん右腕燃えてるよ!? 熱くない?」
「大丈夫、熱くないよ……悪魔と戦った時に呪いを受けてしまって……」
「そうなんだ、かわいそう……」
 シェミアの言葉を素直に信じて、舞花が眉根を下げる。
「ありがとう。心配してくれて……お礼に、これをあげるね……」
 シェミアは舞花を元気づけようと、モーラットピュアのぬいぐるみを贈った。
「うわぁ可愛い! 天使さんの世界の動物さん?」
「そんなところかな……」
「ありがとう!」
 ぎゅうっとぬいぐるみを抱き締めて瞳を輝かす舞花。
「さあ! 猛虎猛虎団という名前には賛否あるようだけど、巨大プリンと天使の魔法少女達は、どんな楽しい魔法をみせてくれるのかなー?」
 ステラはマイク片手に元気よく司会進行を続けている。
「お姉ちゃんも、えっと、もこもこさんの天使?」
 シェミアとビスマスを見比べて舞花が問う。
「通りすがりの天使の魔法使いですよ。舞花さんはお腹、空いていますか?」
 純粋な目で見てくる舞花へやんわり訂正しつつ、空腹か尋ねるビスマス。
「うん」
「貴女は……ハンバーガーが好きでしたか?」
「うん!」
「では……」
 元気な良いお返事を聞くや、オウガ粒子を撒いた天使の翼型ソウエンが輝くと共に、表向きは魔法を装ってこっそりアイテムポケットからプレゼントを取り出した。
 ステラもビスマスをこっそりライトで照らし、魔法らしく見える演出に努める。
「ハンバーガーだ!」
 舞花が満面の笑みで叫ぶ。
 そう。プレゼントとはミニサイズのさんが焼きバーガーとハンバーガー数種に、フライドポテトとなめろうで作ったナゲットの箱詰めセットだった。
 しかもさんが焼きバーガーは、鮪を白味噌ベースで味つけしたもの、トマト味噌ベースのもの、ノーマルな鮪なめろうとバナナと醤油を混ぜたものと3種類もある。
(「4歳児の胃を考慮すると、小さいのを複数用意した方が色々楽しめるでしょうし」)
 ビスマスの気遣いが巧を奏して、
「魔法のハンバーガー美味しいよ!」
 舞花はミニバーガーを次々食べ比べて幸せそうだ。
「……フライドポテトもあるわよ……熱いから気をつけて……」
 鈴菜も持参した山盛りの熱々フライドポテトを差し出して薦める。
 すかさず、フライドポテトにパッとライトが当たる。皆の動きを具に確認していたステラの、反射神経の為せる技だ。
「わぁぁ、舞花、フライドポテトもだーいすき!」
 嬉しそうにフライドポテトを食べる舞花。
 普通のフライドポテトだけでなく、彼女が飽きないようにと鈴菜は皮付きやスプリングカットなど、色々な形のポテトを用意していた。
「これと、これと、このポテト好き~、ほんとに全部食べていいの?」
「勿論よ……」
 味つけやトッピング、ディップも実に多種多彩で、舞花を大いに喜ばせた。
「よーし、プリンモンスターとお菓子ボックスがいい子にプレゼントだよ」
 アストラとボックスナイトも。舞花へ明るくバーガーセットを振る舞う。
「そしてデザートは、じゃじゃーん! ゼリーで〜す!」
 勿体ぶってプリンを差し出せば、ハリセンを咥えたボックスナイトが『それプリンやないかい!』と言いたそうに小気味好くツッコんだ。
「あははははは!」


 さて。
「きみ、黒猫を見んかったか?」
 たたたた、と軽快な足音を響かせ、何かを追っている様子で現れたのは、小山内・真奈(おばちゃんドワーフ・e02080)。
(「コギトエルゴスム復活にこんな方法があったとはな。女の子を救うためにも、きばらんとな」)
 そうぺったんこな胸中で意気込む真奈は、幼い少女と見紛う容姿を誇るドワーフのおばちゃん。
 今も可愛い外見を最大限に活かして、女の子がいかにも憧れそうな魔法少女を模したフリフリのコスチュームに身を包んでいた。
「あれあれ? 魔法使いの女の子が何だか慌てているみたいだね?」
 幼児向けショーイベントの司会が大分板についてきたのはステラだ。
「知らないよ。お姉ちゃんももこもこさん?」
「ん? おばちゃんか? おばちゃんはどこにでもいる魔法少女やで」
 あくまでも猛虎猛虎団とは言わず、真奈は舞花へにっこり笑いかける。
「疑うなら証拠を見せたるで」
 そして、掲げたスケッチブックへクレヨンを一切手を触れずにサラサラと走らせて黒猫の絵を描いてみせた。
「ふわぁああああ!」
 舞花は思わずプリンを食べる手を止めて、宙を舞うクレヨンを見つめていた。
「どや、おばちゃんの魔法、すごいやろ?」
 ドヤ顔する真奈と、素直にぶんぶん頷く舞花。
「すごーい! おばちゃんすごい、本物の魔法だー!」
 体全部ではしゃいで大喜びしている舞花へ、更なる驚きが待っていた。
(「本当、凄かったわねぇ。今の手品」)
 いつのまにか舞花の隣に立っていたアルセリナ・エミロル(ネクロシーカー・e67444)が、声を発さずに思惟を伝播させたのだ。
 舞花が真奈のゴーストスケッチへ見入っている隙に、そっと彼女の背中へ気づかれないよう触れていたからこそ出来た芸当である。
「え、え、お姉ちゃんもしかしてテレパシー使えるの? 喋ってないのに声が聞こえるよ!」
 ますますテンションの上がる舞花。
(「そうよ。なんと言っても天使サマだからね」)
 小さい子相手だからと、優しいトーンにゆっくりした速度、それでいてはっきりと言葉を意識するアルセリナ。
 同時に、オラトリオの証たる天使の翼を厳かに広げてみせた。無論ステラのスポットライト照射も完璧だ。
「すごい! 天使さますごーーい!!」
 4歳児の尊敬を一身に受ければ、作戦が順調に進んでいて安堵する反面、密かに苦笑したい心地にもなった。
(「子どもの相手は苦手なのだけれどね……大体、もう魔法少女なんて歳じゃないわよ、アタシは腰が痛いわ腰が」)
 そう。仲間に合わせて魔法使いの天使をイメージしたキラキラ衣装を身に纏ってはいるものの、実はアルセリナさんじゅうよんさい。
 現に、アルセリナはアンニュイな雰囲気を漂わせながらも充分見目麗しい女性なのだが、どうしても本人としては魔法少女に対する年齢の引け目を感じてしまうのも致し方ないだろう。
(「舞花ちゃん、いっぱいハンバーガーが食べられて良かったわね。美味しかったかな?」)
 それでも内心の逡巡などおくびにも出さず、何くれとなく舞花へ心の声で話しかけ、彼女を楽しませるアルセリナだった。
「うん、どれもすっごく美味しかったよー!」
 舞花は、バーガーやポテト、プリンを食べ終えてお腹を満たすと、次にシルバーブリットが気になり始めたようだ。
「お姉ちゃん、そのピンクの乗り物、かわいいね!」
「え、舞花ちゃんシルバーブリットに乗ってみたいの?」
「うん、乗ってみたい!」
「いいよ、乗せてあげる!」
「やったぁぁ!!」
 喜ぶ舞花だが、流石に4歳の子へ室内で運転させては、部屋の被害が心配だ。
「しっかり、掴まってて」
 鈴菜が機転を利かせて舞花を抱きあげ、窓からふわりと飛行した。
「すごーい! 天使のお姉ちゃんありがとう!」
 これだけでも4歳児は大興奮だったのが、シルバーバレットに跨がればもうテンションは大爆発。
「きゃあー♪♪」
 楽しそうに歓声を上げながら、庭をぶぉんぶぉん走り回った。
 その後、行きと同じように鈴菜が舞花を抱えて部屋へ戻れば、流石に遊び疲れたのか舞花は眠くなってきたようだ。
「ああ、怖い話をしよう」
 念には念を入れて、絶華がそっと耳打ちする。
「妖精は……子どもを楽園へ招く事もあるが、その子どもが大人になると、楽園から排除すべく命を奪う事もあるという」
「えっ」
「気を付けるといい。妖精とは時に恐ろしく危険な存在とも言えるのだ」
 果たして4歳の子どもが絶華のもって回った言い方をどこまで理解したかはわからないが、少なくとも妖精イコール恐怖の対象とは伝わったらしく、
「妖精さんこわい……」
 しくしく泣き出してしまった。
「我が魔法少女の絶技とくと御照覧あれ!」
 絶華は慌てて分身の術で増えるや、素早く手品を披露して手の中から花一輪を出す。
「泣かせてすまない。これはせめてもの詫びだ」
 幸い4歳児は切り替えが早く、嬉しそうに花を受け取った。
「ありがとうお姉ちゃん」
「ああ。ゆっくり休むが良い」
「うん。天使さんたち、プリンさん、おやすみなさい!」
 猛虎猛虎団——もといケルベロスら8人は、舞花が寝入るのを静かに見守った。
 すると。
 カツーン!
 舞花の夢の中に埋め込まれていたタイタニアのコギトエルゴスムが遂に居場所を失って、子ども部屋の床へ転がり落ちた。
 幼さ故に言葉では聞けなくとも、無事に舞花から妖精への興味を逸らせたのだ。
「はい、確保っと。……これで、年甲斐もない格好をした甲斐もあったってものよね?」
 コギトエルゴスムを拾い上げて、アルセリナがホッとしたように笑みを浮かべる。
「後は傷つけずに持ち帰るだけだね」
 こちらも笑顔で頷くのはアストラ。
(「……子供の頃は見えていて……大人になるといつの間にか見えなくなっているもの……」)
「小さいころなら見えないお友達で……もう少し大きくなったなら中二病……?」
 鈴菜にも益体も無い事を考える余裕が生まれている。
「ふふ……かわいい寝顔だね?」
 ステラも安心した様子で、舞花の無垢な寝顔を眺めた。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年2月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。