唐辛子温熱法

作者:久澄零太

「いかにも冬本番とでも言うようなこの季節、やはり体を温めるのは、こいつだろう」
 唐辛子を取り出した鳥オバケ。そのまま食うのかと思ったあなた、食ってみろよ、食えたもんじゃねぇから。
「そう、辛い食べ物だ」
 こいつも食わねぇのかよって? 君達、デウスエクスをなんだと思ってるんだ。
「飯を食うだけでも温まりはするが、やはり辛い物だと文字通り一味違う。行くぞ同志たち、人々にホットな冬を届けるのだ!」
『イェスイート! ゴーホット!!』

「皆大変だよ!」
 大神・ユキ(鉄拳制裁のヘリオライダー・en0168)はコロコロと地図を広げて、とある民家を示す。
「ここに冬は色んな意味でホットな食べ物で体を温めるべきってビルシャナが現れて、信者を増やそうとするの!」
 温かいもの的な意味と、辛い物的な意味らしい。
「信者はあえて冷たい物を食べる良さを語ったり、食べ物以外の温まる方法を語れば目を覚ましてくれるよ!」
「温かい……お布団……」
 シルヴィア・アストレイア(祝福の歌姫・e24410)の目が死んでる!?
「大丈夫です……撮影が続いて……寝てないだけですから……」
 こいつアウトなんじゃなかろうか、だって窓に映った自分に話しかけてるんだもん。
「敵は唐辛子の粉を吹きかけてきたり、自分でかじって火を吹いたり、温かいお鍋の匂いと熱で新しい信者にしようとしたりしてくるよ!」
 外が冷え込む分、ある意味強敵になる気配がしないでもないけど、所詮は鳥オバケだし大丈夫やろ。
「寒い時期に温かいものを食べたい気持ちは分かるけど……それとこれとは別だよね。きっちりお仕置きしないと!!」
 自分が出るわけでもないのに、ユキは気合を入れ直してから番犬達を見送った。


参加者
モモ・ライジング(神薙桃竜・e01721)
若生・めぐみ(めぐみんカワイイ・e04506)
ユーカリプタス・グランディス(神宮寺家毒舌戦闘侍女・e06876)
アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)
セット・サンダークラップ(青天に響く霹靂の竜・e14228)
除・神月(猛拳・e16846)
シルヴィア・アストレイア(祝福の歌姫・e24410)
ガートルード・コロネーション(コロネじゃないもん・e45615)

■リプレイ

●お前ら太陽騎士をなんだと
「ユキちゃんにお願いがあります」
「ん、なーに?」
 若生・めぐみ(めぐみんカワイイ・e04506)の真剣な眼差しに、何かあったのかな、と身構えるユキだったが。
「材料は用意したから、すき焼きを作っておいてくれませんか……ご褒美という事で」
「えっ」
 突然肉と野菜を置いて、めぐみは太陽機のドアへダッシュ。
「ユキちゃんのすき焼き楽しみにしてますね!」
「私料理できないんだけどー!? ……行っちゃった」
 引き留めようと腕を伸ばすも、制止虚しくめぐみは現場へ降下していく。取り残されたユキはスマホを取り出して非番の凶を呼び出す事に。
「ユキちゃん、お疲れ様……」
 突然の無茶振りを慰めるように、シルヴィア・アストレイア(祝福の歌姫・e24410)は文字通り山のような温泉まんじゅうをドン。
「ちょ、何これ!?」
 ウォール饅頭により隔離されたユキへ、シルヴィアが言うには。
「今回は温泉を用意したから、ユキちゃんも入りに来ない?」
「まさか太陽機にマウントしたトラックって……」
「ユキちゃんの水着も用意しておいたからね! それじゃ、待ってるから!!」
「待って待って、そもそも私現場に降りられないんだけどー!?」
 ウォール饅頭の向こう、シルヴィアも降下し、同時に太陽機下部にマウントされていたトラックが投下される……信じられるか? このトラック、シルヴィアが改造した特殊仕様なんだぜ……アイドルとは一体。
「断固アイドルです!」
 シルヴィアは落下中に抗議の声を上げるが、アイドルの定義が乱れる!

●どっちが悪か分からない
「いかにも冬本番とでも言うような……」
 ズガァン! ベキベキベキ、ドォン……!
『きょ、教祖様ー!?』
 突如落下してきた二トントラックに民家が耐えられるわけがなく、居間の屋根と壁を失ってもはや外と変わらない気温に成り下がった民家。異形がトラックに踏み潰されたついでに炬燵は破砕され、鍋も吹き飛んでしまった。残っていた壁も梁を破壊された衝撃でぐらつき、やがては外に向かって崩れ落ちていく。もはやトラックを前にして野ざらしになった信者達を、冬空の冷え切った風が襲う!
「さ、寒い!?」
「鍋だ、鍋を作るんだ……!」
「その鍋が粉々なんだよ!!」
「食べ物や飲み物だとお腹は温まるかもしれないっすが、温かさを体全体に届けるには深部の血流が大事っす……そのためには運動!」
 寒いって言ってんのに、突如現れたセット・サンダークラップ(青天に響く霹靂の竜・e14228)が竹刀を担いで信者を引きずり出す。
「俺は鍋で温まるんだー!!」
「寒い? ではこの武術着を着るっす!」
「どう見ても余計寒そうなんだけど!?」
 一般人って、防具の異能使えたっけ……? それはさておき、空手の道着めいたサムシングを前に、信者はめっさ首を振る。動きやすさとか重視でガバガバの胸元がクソ寒そうなんだもん。
「あまーい!」
 スパァン! 竹刀で地面を叩いたセットが信者とおでこをごっつんこ。衝撃で信者が吹っ飛んだけど細かい事は気にしない。
「食べた物を燃焼するから体が温まるんす! 食べるだけで温まろうなんて甘い!」
「うるせー! 俺はホットな鍋を」
 ピュイー! 首に提げたホイッスルで黙らせて、セットが信者を吊し上げる。
「まずは走る! 話はそれからっす!!」
「やーだー!?」
 信者の一人がセットに攫われていった……。
「同志、君の犠牲は忘れない……」
 合掌する信者の前で、瓦礫を手刀でぶった斬り、平坦なテーブルを用意した除・神月(猛拳・e16846)が酒を並べる。何が問題って、何て書いてあるか読めない事だよね。つまり、外国のアホみたいに度数が高い酒である。あ、これ多分引火するから火気厳禁な。
「お前ら身体を温めてーんだったら、やっぱ酒以外にはねーだろーガ?」
 自分で開けて、自分で飲んでる除。飲ませるために持ってきたんじゃねぇのかよ!?
「吹雪の荒れ狂うロシアでモ、氷より冷てー波が荒れる北の海でモ、漢連中は酒飲んで過ごしてるじゃんヨ」
 酒を炭酸で割って飲んでる除。ねぇ、お前が割ってるそれさ、中国産だよな?
「そうだけド?」
 中国の無色透明な酒(通称白酒)って、度数ウォッカクラスだったはずなんだけど……。
「だーいじょーブ、割ってるからそんなに強くねーッテ」
 ぐびぐび飲んでたら、結局相当な量のアルコールなんですけどねぇ!? つうか顔真っ赤になってっけど!?
「それに酔ったら脱ぐだロ? 偏見じゃねーヨ、あたしも限界まで酔ったら脱いだりするしヨ」
 シ カ ト か !
 酔っぱらった除は信者と肩を強引に組み、酒臭い吐息で語りかけながら、ショットグラスに酒を注ぐ。そのラベルを見た信者が、ギョッとした。だって「SPIRYTUS」って書いてあるんだもん。
「待て、それはダメだ、それだけはダメだ!」
「ンだヨ、邪魔すんなッテ」
 ショットで飲もうとする除を気遣って阻止しようとする信者だが、番犬の腕力に勝てるわけがない。グイッといった除が、飲み干したポーズで固まり、後ろに向かってバターン。
「言わんこっちゃねぇえええ!?」
 慌てて水を用意しようとする信者の前で、むくり。虚ろな目で起き上がった除は自分の胸を見下ろして。
「……暑イ」
 脱ぎっ。
「バカか!?」
 ファサッ。
「暑いんだヨ! つーかお前らも飲め飲メ!」
 脱ぎっ。結局上は脱いで下着姿になった除が信者を押し倒し、白酒を並々と注ぐ。
「おい馬鹿やめろその酒絶対俺ら日本人の体じゃ耐えきれな……ていうか服を着ろぉおおお!!」
 信者の悲鳴が寒空に木霊した。
「この程度の唐辛子で体が温まるのでしょうか? 疑問でございますね」
 ユーカリプタス・グランディス(神宮寺家毒舌戦闘侍女・e06876)は鍋の残骸を見やり、その辛さの程度を見極めると、スッと目を細める。
「これじゃあ全然辛い物ではありませんね、家だと甘口です」
 お前ら家庭レベルで舌がおかしいのか。
「え、普通じゃないのかしら?」
 アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)、お前は黙ってろ。ていうかその箱は何!?
「ふぅ、お鍋を作ってくるのに日数が掛かってしまったわ」
 ここ数日、調理の為だけに地下に幽閉されていたアウレリア。シェルターで作らなくてはならない鍋とは……?
「まずは食べてみて。自信作なの」
 箱を降ろすアウレリアなのだが、その箱について危険物取扱のプロの皆さんから「鍋に許可を出すってどういうことですか?」「軍事兵器の開発なら他所でやってください」「計器が破損したんですけど何使ったんですか?」等々、コメントが寄せられてるんだが?
「唐辛子をそのまま食べても辛味が物足りないわよね。だから調理するのは分かるけれど、辛さを減じてしまっては本末転倒ではないかしら。その為に私はできる限りを尽くしただけよ」
 うん、まずその発言がおかし……。
「ですよね。やはり唐辛子を齧る程度では大した辛さではありません」
 やっべ味覚おかしいのがもう一人いやがった。
「あなたとはいいお鍋が作れる気がします」
「私も久々に同志を見つけた気がするわ」
 ガシッ。アウレリアとユーカリプタスが固い握手を交わす。このまま鍋の事忘れててくれないかな……。

●傍から見たらいかがわしさしかない
「いかがわしくはないんです」
 真っ向から否定してくるガートルード・コロネーション(コロネじゃないもん・e45615)だが、彼女は知らない。どうあがいてもいかがわしくなる末路が待っている事を。
「私そんなに変なことしてませんよね……?」
 不思議そうにするガートルードはメイド服の上にモコモココートを羽織り、温かいお汁粉缶を取り出して。
「ちょっとはずかしいですけど、くっつき合うと温かくなりますよ。甘くてほっこりしちゃう、あったかいおしるこもありますし……一緒に、あったまりませんか?」
「お汁粉……」
 開幕早々スパルタ教師モドキに連れ去られたり、凶暴パンダに襲われたり、明らかに頭いっちゃってる辛党コンビに目をつけられたりと、心身ともに追い詰められた信者がガートルードに震える手を伸ばす。
「ほら、こうすればあったかいですよ?」
 怯えた信者を慰めるように、ガートルードが抱きしめて、胸元からお汁粉の缶を取り出し信者に飲ませる……まぁ、コイツ単体なら問題はなかったんだよ。
「昔から、温まるのは人肌がいいと言いますね……という事で、めぐみの人肌のぬくもりで試してみませんか?」
 隣で番犬外套を開いて、黄色いチューブタイプの水着で信者を誘ってる奴がいなければな。
「寒かったですよね? もう震えなくていいんですよ……」
 外套の中で肌を重ねるように、めぐみは信者を抱きしめる。かと思えばトラックの荷台が開いて。
「お風呂は身体の芯から温めてくれるし、日々の疲れも取ってくれる! 温泉ならお湯に含まれる薬効でより健康的! 身体を温めるのにこれ程最高なものは無いよね♪」
 荷台内に何故か露天風呂ができており、そこに浸かったシルヴィアがトロピカルジュースを片手にウィンク。
「更には温泉の中で冷たいジュースやスイーツを食べるという贅沢も♪ 今なら水着アイドルと入れる特典付き! さぁ、オイデオイデ~♪」
 前には抱きしめて柔肌で温めてくれる女達。後ろには危険物を展開しようとする女達。信者がどっちに行くかなんて火を見るより明らかである。
『た、助けてー!?』
「あ、入るなら先に水着に……きゃっ!?」
 信者は一斉に温泉に飛び込み、暖を取りつつアウレリアとユーカリプタスをめっちゃ警戒している。こうして現場には、この寒い中温泉に浸かったりコートの中で肌を重ねて温まったりする男女という構図が完成し、その一角を担うガートルードも……。
「健全です! 私はいたって健全です! 全てはお仕事の為に仕方なくですね!?」

●食い物でどうこうするのは間違ってた
「うわぁ……」
 いかがわしい雰囲気になってる連中と、危険物のマークがついた箱を開封しようとしてる連中を見て、モモ・ライジング(神薙桃竜・e01721)はそれしか言えなかった。
「私、辛い物やお酒は苦手だけど、甘い物なら大好物だからね」
 取りあえず、鍋組には近づいてはいけない事は察して信者達にクーラーボックスの中身を見せる。
「最近は本来冬季限定だったアイスも、一年中発売されているのよ?」
 コーヒー、抹茶、レモンシャーベットにヨーグルトと言った定番物から冬季限定だった『はず』のやたら濃厚なチョコアイスや、雪をモチーフにしたアイス等々。
「わ、我々はホットな鍋を……」
「この期に及んでまだそんな事言ってると……」
 クイッと、モモは後方の、たった今封印が解かれた箱を示す。
「あれを食べる事になるわよ?」
「ごめんなさいアイス大好きです……!」
 生存本能レベルでヤバいと感じていたのだろう。しかし、危機というものは呼んでなくても迫ってくる物である。
「あとはこれを温め直して……」
「隠し味にこれを足しましょう」
 アウレリアが箱から取り出した鍋を火にかけて、ユーカリプタスが怪し気な調味料を加えてゆっくりと混ぜた。ただ鍋を温め直して一味加えただけなのに、二人の周囲は大気が揺らぎ、熱気が立ち昇る。
「肌がピリピリするこの感じ……嫌いじゃないわ」
 心臓が早鐘を打ち、頬を生暖かい風が撫ぜる。油断すればやられる……そんなスリルを感じて、モモはポケットから取り出したキャンディを弾き、口に放り込むと不敵に笑った。ただね、モモ。アレ味方やで?
「ただい……うわなんすかこの空気!?」
 寒い中引きずり回されて、もはや棒きれのような信者を引きずって戻って来たセット。現場に立ちこめる謎の熱気を前に二の足を踏んだ。
「あら、ちょうどいいところに……」
「毒味……もとい、味見はいかがですか?」
「今毒味って言わなかったっすか!?」
 セットにツッコまれ、ユーカリプタスは、ほぅ。物憂げに視線を逸らす。
「私のソースは少々刺激的……でございますので」
「大丈夫よ、ちょっと心臓がダイレクトアタックされるだけだから」
 アウレリアのフォローでむしろ身の危険を察したセットは逃げた。全力で逃げた。
「では皆さま」
「召し上がれ?」
 ユーカリプタスにより更に強化された、兵器料理が番犬と信者に迫る!
「いやあの、めぐみ達はこのあとすき焼きパーティーが控えてますから……!」
 めぐみが全力で両手を振り回し、全身で『NO』をアピールすると、アウレリアの表情がわずかに曇る。
「好き嫌いはダメよ、ちゃんと食べなさい?」
 主婦力っていうか、オカン力が悪い方向に働いた瞬間だった。
「逃げましょう、今すぐに!!」
 比較的一般的な精神しか持ち合わせていないガートルードの叫びに、舌なめずりしたモモはチョコを口に放り込み、シルヴィアへ。
「このトラック、動くよね?」
「え、はい……まさか運転するんですか!?」
「そのま・さ・か♪」
 舌を出して片目を閉じ、運転席に飛び込んだモモ。置いていかれまいとセットが荷台に飛び乗ってエンジン始動。
「あれ、でも大型のトラックって扱いが難しくて、普通の免許じゃ動かせなかった気がするっすけど……」
「大丈夫、ミスったら事故るだけよ!」
「ひぇ!?」
 セットの疑問にモモがサムズアップ。ギアを入れてクラッチを放し、アクセルを踏み込んで瓦礫を弾き、道路へ飛び出した!
「行ってしまわれました……」
 ユーカリプタスがトラックの後姿を見送り、アウレリアは伸びてた鳥オバケをつんつん。
「はっ! 私は何を……なんだアレ!?」
 意識を取り戻すなり、熱波を放つ鍋を見て後退る鳥オバケ。その脚に偽箱が食らいつく。
「よくやりましたトラッシュボックス。折角の理解者、逃がすべきではありません」
「さぁ、どうぞ?」
「い、いらな……」
 アウレリアは小鉢によそった鍋を差し出すが、異形は顔を背ける。が、回り込むようにして強引に嘴にねじ込まれた。その瞬間、小爆発を伴い鳥オバケは黒煙を吐き出し、ゆっくりと仰向けに倒れてしまう。
「辛さのあまり、意識を失ったようですね。辛党のかの字もありません」
「そうね……」
 一口しか食べてもらえなかった鍋を見て、アウレリアがシュン。しかし振り向けば、そこには彼女の手料理を喜んで食べてくれた夫がいるではないか。
「アルベルト……はい、あーん」
 生前、夫は言っていた。「愛情こめて自分が美味しいと思うものを作るのが最高の料理さ」と。妻を愛するが故にそんな事言うから、自分がエライ目に遭うというのに。そしてそれは、死してなお終わらぬ地獄らしい。
「……美味しくない、かしら?」
 不安そうな妻の顔を見た瞬間、男は既にそれを口にしていた。それを自覚した時には手遅れで、アルベルトは十分ほど冥府を漂う事になるのだが、それは彼だけが知る旅路である。

作者:久澄零太 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年2月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 4
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