降り注ぐ花粉

作者:神無月シュン

 謎の胞子がひらひらと降り注ぐ。雪と見間違うその白い胞子は、市街地の杉の樹へと次々ととりついていく。
 胞子で覆われた5本の杉の樹が震え始める。樹の軋む音と共に、地面から根っこを引き抜き動き出すと一列に並ぶ。新たな攻性植物の誕生である。
 攻性植物たちは、人間を襲う為、一斉に移動を開始した。

「前回の戦いで飛散した胞子が活動を始めたようです」
 集まったメンバーに一礼すると、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は説明を始める。
「攻性植物たちは、大阪市内への攻撃を重点的に行おうとしているようです」
 おそらく、大阪市内で事件を多数発生させて一般人を避難させ、大阪市内を中心として、拠点を拡大させようという計画なのだろう。
 大規模な侵攻ではないが、このまま放置すればゲート破壊成功率も『じわじわと下がって』いってしまう。
 それを防ぐ為にも、敵の侵攻を完全に防ぎ、更に、隙を見つけて反攻に転じなければならない。
「今回現れる敵は、杉の攻性植物で、謎の胞子によって複数の攻性植物が一度に誕生し、市街地で暴れだそうとしています」
 この攻性植物たちは、一般人を見つければ殺そうとするため、とても危険な状態だ。
「敵の数は多いですが、別行動する事無く固まって動き、戦い始めれば逃走などは行わないので、対処は難しくありません。しかし、数の多さは脅威ですし、同じ植物から生まれた攻性植物であるからなのか、互いに連携もしっかりしているので、油断する事は出来ないでしょう」

 攻性植物は特にリーダーなどはおらず、全てが同じくらいの強さのようだ。
「枝を使った攻撃や花粉を散布してくるみたいです。各々が役割を分担しているようで、個体ごとに行動が少しずつ異なるようです」

「周辺の一般人は、事前に避難させる事ができるので、戦闘に集中して大丈夫です」
 よろしくお願いします。とセリカは皆に頭を下げた。


参加者
リュートニア・ファーレン(紅氷の一閃・e02550)
御門・愛華(竜喰らい・e03827)
ラプチャー・デナイザ(真実の愛を求道する者・e04713)
瀬部・燐太郎(殺神グルメ・e23218)
田津原・マリア(ドラゴニアンのウィッチドクター・e40514)
那磁霧・摩琴(医女神の万能箱・e42383)
鵤・道弘(チョークブレイカー・e45254)
リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)

■リプレイ


 避難を終え、静寂に満ちた市街地に白い粒が雪の様に降り注ぐ。ケルベロス達はその光景を少し離れた場所から眺めていた。
「攻性植物って結構厄介な相手だよね。人に寄生するやつとか、見てるだけで狂ってきちゃうやつとか、今回は倒したら胞子をばら撒いて増えるときたよ……」
 那磁霧・摩琴(医女神の万能箱・e42383)が、遠くを眺めながら、うんざりだよと愚痴をこぼす。
「被害が広がるのは見過ごせない。頑張って食い止めようね、クゥ」
 ボクスドラゴンのクゥを胸に抱き、リュートニア・ファーレン(紅氷の一閃・e02550)は不安を紛らわせようとしていた。
「スギたるはなお及ばざるが……へっくしっ!」
 瀬部・燐太郎(殺神グルメ・e23218)がダジャレで緊張を解そうとするが、くしゃみのせいで台無しである。
「不安の種も、危険の芽も、根こそぎ刈り取らなきゃな」
 気を取り直して、ダジャレはなかった事にした。
「これ以上、攻性植物達に大阪で好き勝手させないもん」
 こもった声でそう口にするリリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)の顔にはガスマスクが着用されており、花粉対策ばっちりと言った所。
「冬場でも花粉は飛ぶものは飛ぶらしいでござるね。年中花粉症が発症する可能性があるらしい故、対策は気を抜かずでござるー」
 そう言って皆の前に立つラプチャー・デナイザ(真実の愛を求道する者・e04713)。大胆な水着にマント。そしてマスクに水泳用のゴーグルと言った風貌。
 ――変態がいる。
「皆、どうしたでござるか? そんな変態がいるとでも言いたげな顔をして……」
『変態がいる!』
「わざわざ言わなくてもいいでござるよ!」
『だって……ねぇ?』
「まあ、場が和んだようで何よりでござる」
 場に笑い声が響いた。
 しばらくすると、道の先から5つの影がこちらへとやって来るのが見える。
 5本の攻性植物と化した杉の樹が、隊列を組んで歩いてくる。獲物を求めて真っ直ぐに……。
「ここから先には進ませません」
 道の真ん中に立ちふさがり、御門・愛華(竜喰らい・e03827)が攻性植物に向かって声をあげる。
「お前ら、あのクラゲ野郎から生まれたんだってな。宿主にゃ恨みはねぇけどよ、借りはきっちり返させてもらうぜ!」
 借りを返すとは言ったが、直接の恨みはない。ただ前回の戦いの八つ当たりなのかもなと、鵤・道弘(チョークブレイカー・e45254)は自嘲的な笑みを浮かべ、『特製ゴーグル』を取り出し装着する。
「勝手に在り方を変えられてしもうたんは哀れやけど、一般人の皆さんの未来はあげへんよ。ここでまとめて倒します!」
 攻性植物になってしまった樹は残念に思う、しかし一般人に被害が及ぶのであれば仕方がないと、田津原・マリア(ドラゴニアンのウィッチドクター・e40514)は決意を固める。
「気を取り直してお仕事しないとね! 慣れない役割でも完璧にこなしてみせるもんね。なにせボクは花粉症持ってないからね!」
 得意気に武器を取り出すと、前に出る摩琴。
「いくよ、ヒルコ。皆を守るために!」
 愛華は地獄化した左腕に語り掛ける。それはこれから戦いに集中するための決意のあらわれ。
 攻性植物の進行を食い止めるべく、ケルベロス達は武器を構えた。


「クゥ、行こう」
 攻性植物の元へと接近するリュートニアとクゥ。信頼関係のなせる業か、息の合ったコンビネーションで攻性植物を翻弄する。
「みんなの情熱に一陣の風を! アンスリウムの団扇風!」
 摩琴はガンベルトに手を伸ばし、備え付けられている薬瓶を数本手に取る。後ろを振り向き薬瓶を放る。放物線を描き瓶は後方の仲間の足元で割れ、中の薬品が広がっていく。
 先程の様子とは一変して、落ち着き周囲を見回し情報を集めるラプチャー。古代語の詠唱を終えると、攻性植物目掛けて魔法を放つ。
「お前が自由だと厄介なんでね」
 一番後方に位置する攻性植物目掛けて、雷を浴びせる道弘。
「私は前で得物を振り回しますので、援護をお願いします」
 リリエッタの蹴りを受け止めた攻性植物の横を燐太郎が走り抜ける。
「ブレス、いきます」
 愛華が援護の為に放った弾が攻性植物を襲う。その隙に燐太郎が一撃を見舞う。
 攻性植物達は少し距離を取ると、2体の攻性植物の枝に黄金の果実が実る。実が輝き、攻性植物を光が包む。
 残りの3体は同時に身体を揺すり始める。散布された花粉で一瞬にして辺りが黄色に染まる。
「きちんと積み重ねんと」
 花粉の多さに顔をしかめながら、攻性植物目掛け飛び蹴りを繰り出すマリア。
 炎を纏ったリュートニアの蹴りが、花粉を燃やしながら攻性植物へ。
「嘘、こんな時に発症しちゃうの~」
 鼻声になりながら摩琴は『特製医療キット』を漁り始める。そして花粉症の薬を取り出し飲み込む。大量の花粉を浴びその顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃだ。
「摩琴、『特製ゴーグル』持ってきてただろ?」
 アームドフォートの主砲を放ちながら、道弘は摩琴へと声をかける。
「わずれ~てた~」
 道弘の指摘に摩琴は『特製ゴーグル』を取り出すと装着する。これで涙も少しはおさまるだろう。鼻水はどうしようもないが……。
「視界が悪すぎ」
 ガスマスクをしたリリエッタが花粉の中を駆ける。攻性植物目掛け放つは電光石火の蹴り。
「花粉ばら撒きすぎだろう……へくしっ!」
 リリエッタに続いて攻撃を繰り出そうとした燐太郎だったが、肝心のところでくしゃみが出てしまい……見事に空振る。
「治癒の花を」
 愛華が舞う。舞いに呼応するように癒しの花びらが降り注ぐ。
 今度は2体の攻性植物が花粉を飛ばし始める。先ほど花粉を飛ばした3体は根っこを伸ばす。伸ばされた根っこはリュートニア、摩琴、リリエッタにそれぞれ絡みついて締め上げてくる。
「これは、牽制が必要やね」
 攻性植物たちの連携による攻撃が激しいと感じたマリアは、グラビティチェインを抑制する弾を発射するのだった。


「これなら、あと少し……!」
 リュートニアの銃型ガジェットから癒しの弾丸が放たれる。
「ありがと。それにしてもアイツ邪魔すぎよ!」
 回復を受けた摩琴。斬撃を受け止められ、護りに入った攻性植物を指さすと苛立ちながら叫んだ。
 攻性植物の1体が仲間を庇い、後方の1体が傷を回復。残りの3体で妨害と攻撃。隙の無い連携に、攻めきれずに時間が過ぎていく。
「こういう相手は大火力で押し切るでござるよ」
「ま、それしかねぇよな!」
 ラプチャーの支援を受け、道弘が空を裂く。生み出された真空波が一瞬にして攻性植物の胴体に爪痕を残す。
「もう、これ息苦しい」
 リリエッタはガスマスクを外すと地面に放る。視界が狭くなるし、何より動き回っていると息苦しい。花粉を吸い込む? そんなのはもうどうでもいい。大量に吸い込む前に倒してしまえば問題ない。
 そう結論付けたリリエッタは攻性植物へと駆け出し、拳を叩き込む。続く様に放たれる燐太郎の達人の一撃。2人の攻撃が重なり合って先程の爪痕を上から潰していく。
 仲間を助ける為、燐太郎目掛けて横から一体の攻性植物が襲い掛かる。
「させない」
 燐太郎を庇いリュートニアが立ち塞がり、枝による突きを受け止める。
「うっ……」
 が、追撃に放たれた反対側の枝がわき腹を突き刺した。
「お願い、ヒルコ。あの子を護って!」
 愛華が力を解放し左腕を振るう。地獄の炎が走り、リュートニアを護るように障壁が現れる。
 中央に位置していた攻性植物が傷だらけになりながら、地面へと根を張る。大地は瞬く間に侵食され、ラプチャー達を飲み込んでいく。
 虚ろな瞳で繰り出したマリアの拳が、道弘に襲い掛かる。
「気をしっかり持ちな――喝!」
「うち、今一体なにを?」
「もう大丈夫みてぇだな」
 催眠状態による一時的な認識阻害。症状が出るより前にと、リュートニアとラプチャーが治療に当たる。
「これでっ!」
 摩琴の攻撃がトドメとなり、中央の攻性植物は真ん中からへし折れ、朽ちていった。
「リリの攻撃は簡単には止まらないよ!」
 敵の真っただ中に飛び込むリリエッタ。左右の手にそれぞれ握られた銃へとグラビティを注ぎ込む。そして引き金を引く。引く。ひたすらに。銃弾が嵐の様に降り注ぐ。
「きゃあ!?」
 銃弾の雨を浴び、攻性植物は堪らず根を伸ばすと、リリエッタを突き飛ばす。
「いま、回復しますから」
 リリエッタに駆け寄る愛華。援護するように燐太郎は右腕を大型砲台に変形、攻性植物へと砲弾を放つ。
「きっちり当てます!」
 マリアは2本のライトニングロッドを手に、攻性植物へ殴りかかると雷を流し込んだ。


 1体欠け、陣形にヒビが生じやがてそれは大きな亀裂へと。1体また1体と朽ちていく攻性植物。残すは回復役の攻性植物のみ。
 残り1体になっても戦う意思は微塵も失ってはいない。
「まずはその動き、止めてもらいますよ!」
 攻撃に移ろうとするよりも先に、マリアの銃弾が攻性植物を怯ませる。
 その隙を見逃すケルベロス達ではない。勝負を決めるべく、猛攻を浴びせる。
 リュートニアとクゥの連携攻撃が、摩琴、道弘、燐太郎の斬撃が、ラプチャーとリリエッタの拳が、次々と攻性植物を襲う。
「薙ぎ払え、ヒルコ」
 愛華が左の拳を叩きつけると、バキバキと大きな音を立て、最後の攻性植物は倒れた。
「お疲れさま、ありがとう」
 リュートニアはクゥを抱き上げると、労うように撫でる。
「こいつら、大阪に居付き続けるのもいい加減にしてほしいものだ」
「早く大阪城から攻性植物達を追い出さないとね」
 大阪城の方向を見つめながら話す燐太郎とリリエッタ。
「元になった胞子を持つ攻性植物は魔空回廊を通してくるんですよね。うちらが突入したりとかできたらええんですけど、何かいい方法ないんかね」
 考え込むマリア。
「さあ、一般人が戻ってきたときに安心できるようにしとかねぇとな」
「大丈夫です。きちんと元通りにしますから」
 道弘は皆に声をかけ戦闘で壊れた個所を直すために動き始めると、愛華も続く。
 リリエッタが瓦礫をどけ、その間に他のメンバーが建物を直す。
 摩琴は攻性植物の攻撃で汚染された地面を浄化していく。
 手分けした甲斐もあり、復旧作業はあっという間に終わった。
「花粉症の人は大変そうでござるね」
 マントに付いた花粉を手で払っていくラプチャー。
「っくし! お腹空いたんで誰か一緒に、食事にでも行きません?」
 舞った花粉にくしゃみをしながら、燐太郎は皆に尋ねる。
『いいね』
 拒否する者は誰一人と居らず、お店を探すためにケルベロス達はこの場を後にした。

作者:神無月シュン 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年2月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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