決戦フューチャー~ドリームライン

作者:東間

●接触
 階段を上った先の高台で、少年は1人、とあるミュージカルナンバーを聴いていた。
 スマートフォンから流れるのは、人生初の恋で変わっていく男の物語。
 静かに震える歌声は未知の感情に戸惑う心情を繊細に表し、まさか恋なのかと気付いた所で、世界が開いていくのを表現するように歌声に強さが宿る。
 芯のある澄んだ歌声はどこまでも届きそうなほどで、歌声は最後「ああ、これが恋なんだ」と静かに紡いで終わった。
 続いて別の誰かが歌う同曲が流れ始めたが、紡がれる物語は先程とは真逆。
 自分の変化に好奇心を抱き、宝探しをするように答えを求め、そして恋をしたと心の底から喜ぶ歌声は明るく真っ直ぐ、伸びやか。新しい世界へ迷わず飛び込む男の物語だった。
「こんな歌い方もあるなんて、高倉が歌うまで思いもしなかった……ミュージカルへの情熱は負けてないって、思ってたんだけどな。当たり前みたいに、幸せな曲に変えるなんて」
 始めに聴いていた歌声、少年が歌った物とは全くの別物になった物語。
 『高倉』によって、少年はあの曲が他の顔も持てるのだと気付かされた。
「高倉にあって、僕に足りないものって何だ? どうすればこんな風に出来る? どうすれば高倉みたいに曲の色んな可能性を──」
「大丈夫?」
 被った異性の声に肩を跳ねさせた少年だが、いつの間にかいた女子生徒の姿を見て冷静さを取り戻したらしい。スマートフォンを後ろに隠しながら、ごめんと謝る。
「うるさかっただろう」
「気にしないで。それより、『高倉』って? あなたの理想に近い人なのかしら」
 その言葉に、少年が表情を固くした。
「……見た事無い顔だ。ミュージカル部じゃないな。悪いけど部外者、それも知らない人に話す事なんて無い」
「誰だっていいじゃない。あなたの抱えているものに比べれば些細なものよ。ね?」
「それは──……でも、いい。聞かされたって面白くないだろう」
「……いいの? あなたの理想が手に入るかもしれないのに?」
 ぐ、と唇を噛んで目を逸らした少年に、女子生徒は優しく笑いかける。
「ねえ。あなたの名前は? あなたの理想は、どんな人?」
「…………僕は……芦屋。芦屋、竣だ……」
 理想の、人は──。

●決戦フューチャー~ドリームライン
 フューチャーが次に狙う学生、その予知を伝えたラシード・ファルカ(赫月のヘリオライダー・en0118)は、これはチャンスだと言った。
「今までは、フューチャーが現場から消えた後にしか介入出来なかった。でも今回は違う。フューチャーが学生と接触した所に介入出来るんだ」
「ようやく、ね。その人の理想が利用される前に、何とかしたいわ」
「ああ。ヒエラクス、君が警戒していてくれたおかげだよ。ありがとう」
 アリス・ヒエラクス(未だ小さな羽ばたき・e00143)が、静かな表情のまま頷き返す。
 芦屋・竣が通うのは芸術系に突出した高校で、竣はそこのミュージカル部に所属している。予知で竣を視たラシード曰く、竣のミュージカルに対する愛は本物。だからこそ竣の描く理想は高く、遠いものとなり、現実とのギャップが深まったのだろう。
 現場は楕円形の広々とした高台で、出入り口はそこに通じる階段のみ。
 そこを使って高台に駆け付けた時、竣は高台の中心より向こう、奥側に。フューチャーはやや階段寄りの位置にいて2人の間には距離がある。
「フューチャーなら一瞬で詰められるだろうけど、意表を突けばそれを僅かにでも止められる筈さ。例えば、泣くデウスエクスも黙るレベルの猛攻を仕掛けるとかね」
 懸念は、出入り口が1つしかない事。
 竣をその場から逃がすにはフューチャーが邪魔になり、戦闘中に逃がそうとしても、竣が怯え、階段まで動けないという可能性もある。
「誰かが連れ出す、芦屋から距離を取るようにして戦う、彼を励まして勇気を持たせる。思いつくのはこんな所かな。彼の理想に対する想いを解せれば、フューチャーが芦屋の持つ理想を狙わなくなるんじゃないかとも思うよ」
 不利だと感じたフューチャーが逃走を図りかねない為、峻の事も含め、何かしらの工夫をした方がいいだろう。
 フューチャーの攻撃は高い命中精度を誇り、標的を正確に喰らおうとする上、いずれも相手がどこにいようとお構いなしに届くものだ。
「状況も含めて易しい戦いとは言えないけれど、フューチャーを撃破出来れば同じような事件は二度と起きない筈さ。だから、頼んだよ」
 手を伸ばしたいものはそこにあるのに、どうすれば届くのかわからない。
 藻掻くそこへ差し伸べられるものは、想いを利用しようとするフューチャーの手ではなく、その人を心から想う誰かの手であるべきだろう。


参加者
アリス・ヒエラクス(未だ小さな羽ばたき・e00143)
ジョーイ・ガーシュイン(初対面以上知人未満の間柄・e00706)
相馬・竜人(エッシャーの多爾袞・e01889)
レスター・ヴェルナッザ(凪ぐ銀濤・e11206)
城間星・橙乃(雅客のうぬぼれ・e16302)
幸・公明(廃鐵・e20260)
クロミエ・リディエル(ハイテンションガール・e54376)
リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)

■リプレイ

●微笑みへの介入
 躊躇いながらも口を開いていく竣を見て、フューチャーが微笑を深めた。
 だがそれを、鋭く頬撃った胡桃が歪ませる。
「ッシャァ!」
 ありったけの力で投げつけたジョーイ・ガーシュイン(初対面以上知人未満の間柄・e00706)はガッツポーズしたまま速度を上げ、峻とフューチャーの間へ荒っぽく割り込んだ。
 その一瞬、地を蹴り、宙を『飛んだ』リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)が階段のやや脇からフューチャーに迫る。
 リリエッタが華の絆で結ばれた存在と手を繋ぎ射出した弾丸は、反応しきれなかったフューチャーに喰らい付いて離さず、アリス・ヒエラクス(未だ小さな羽ばたき・e00143)の短剣が甘美な毒の如く捉えたのも、フューチャーが振り返るよりずっと速い。
 幸・公明(廃鐵・e20260)とミミック・ハコも、仲間達と同じく挨拶抜きの攻撃──煌めく虹と蹴りをセットにした急降下と作り上げた『武器』を仕掛けていく。
 背後からの猛攻にフューチャーがようやく体を向けた時、その傍を暴風のように駆けた存在があった。フューチャーの髪が踊った刹那、竣を守る壁となった存在は銀の獄炎を派手に噴き上げる。
「な、」
「オオォォッ!!」
 レスター・ヴェルナッザ(凪ぐ銀濤・e11206)はフューチャーの姿を潰す勢いで竜骨の鉄塊剣を叩き付け、奥へ──驚き、座り込んでしまった竣より遠くへと押し込む。その直後に一筋の流星が続いた。
「この女の口車に乗ってもお前さんの欲しいもんは手に入らねえよ。牛肉食っても牛にはなれねえ、それと同じさ」
 蹴撃見舞った相馬・竜人(エッシャーの多爾袞・e01889)は後方から息を呑む音を聞いたが、髑髏の仮面、その奥にある鋭い眼をフューチャーから離さない。
 城間星・橙乃(雅客のうぬぼれ・e16302)も、竣へ攻撃が行かないよう意識しながら後衛支える雷壁を構築する。常と同じ、微笑浮かべるその瞳にフューチャーの微笑みが映った。
「全く……邪魔しないでもらえるかしら」
 フューチャーが丸筒から伸ばした七色モザイクが鞭となり、後衛に牙を剥く。一瞬で大蛇のように迫ったそれへ、ジョーイと公明は迷わず飛び出し、我が身を盾とした。
 防具もろとも肌が鋭く裂け、フューチャーがくすりと笑う。
 あれは人の心につけ込む厄介な相手だ。やっと訪れた撃破の機会を逃すまいと、クロミエ・リディエル(ハイテンションガール・e54376)は土竜模ったオーラを地中へ注ぎ込む。
「『土の中に潜む竜よ、その姿を現せ!』」
 フューチャーの足元が轟音と共に割れ、溢れた力が足を傷付ける。だが、フューチャーはまだまだ余裕と示すように微笑んでいて。
「その笑い方が気に食わねえ」
「同感だ」
 竜人とレスターがほぼ同時に動き、空気震わす竜砲弾と丸筒を払った刃がフューチャーを襲う。その足元にアリスの描いた守護星座が清らかに輝いた瞬間、フューチャーの肩が公明の仕掛けた不可視の爆弾によって爆ぜた。

●理想への標
 次々見舞われた攻撃で僅かにバランスを崩したフューチャーが、ギラリ踊ったハコの『財宝』を寸前で躱し、微笑む。
「どうして邪魔をするのかしら。私は彼の力になろうとしただけよ。ね?」
 最後の言葉はケルベロス達の向こう。竣へ。
 緊張と怯え、戸惑いが混ざった表情で後退ったのが仲間越しに見えて。
「……あなたの言う足りないものって……なに? それは本当に足りないもの?」
 アリスの言葉に竣が目を見開き──口ごもる。
 そこへ声を掛けたのは、フューチャーの眼前に迫ったクロミエだった。
「ミュージカルは、誰が一番優れている、等の絶対的な要素は無いものだと思うよ」
 熱心に打ち込んでいるのなら、自分にしかない個性があるのではないか。大切なのは、他人と比べる事よりも己にしかない要素を伸ばす事だと思う──と。
 零の境地乗せた拳が叩き込まれる中、そうですよと笑った公明は自分も未知の感情・変化には不安の方が強いと続ける。だから竣の歌声に、『それはおかしくない、自然な事』なのだと励まされた。そして人の心というものは複雑で、多くを抱えているのが正常だ。
「貴方の歌声も、ひとつの大事な側面。人と物語を形作る、尊い『心』じゃないですか」
「その声に滲む感情は二つとない、お前が見つけた曲の可能性だ」
 そう言いきった己の背を、竣がどんな顔で見ているのかレスターにはわからない。銀の双眸に映るのは、仲間の負った傷跡を見て微笑む夢喰いの姿だけ。
 獄炎に『引っ張られた』目が、天を指した指がケルベロス達へ向いた瞬間、どう、とモザイクの雨が降り注いだ。大粒のそれは容赦なく体を貫き、血が流れる。
「……」
 守る戦いは得意ではなく、重い口も上手くは回らない。だが、救える筈のものが目の前にあるのなら――何もしないという選択肢など、在りはしない。
「お前にも高倉にも取替のきかねえもんがあるからこそ、違う可能性に気づいて広げていける。そうじゃねえのか」
 フューチャーが微笑んだまま、口を開こうとした。だが。
「こいつを喰らっとけ!!」
 業物手にしたジョーイが鬼神の如き様相で斬りかかり、割り込みは未遂に終わる。
(「こういうもんは苦手だからな。芦の字の事ぁ任せるぜ」)
 心の声を受け取る形になったのは、先程フューチャーに電光石火の蹴りを決めたリリエッタだった。その体に橙乃の編んだ雷壁が寄り添い、それが守り手に刻まれた禍を祓っていく。
「本当に竣の理想は高倉と同じ演技が出来ればいいの? 違うよね。好きなミュージカルで悩み抜いてでもよりよいものにしたいんじゃないの?」
 うんうんと頷いた公明がフューチャーを捉えたまま、朗らかに笑った。
「歌の後にも物語は続いてゆくなら、俺には、貴方の歌声の先にも幸せが見えました」
 国語教師から一個だけ、という声は再度流星の蹴りを見舞った竜人から。
「表現ってのは何もねえ所からは生まれねえよ。生きてきたこれまで、感じてきた諸々、そういうモンを積み上げたトコから出てくるんだ。案外よ、向こうもお前さんと同じような事思ってんじゃねえの?」
 んな考え方があったのか、ってよ。
 竜人がすぐにフューチャーの間合いから離れれば、地面を滑るように駆けたハコがフューチャーの足に牙を立て、公明も虹の蹴撃を『墜とし』てフューチャーの意識に虹色を焼き付ける。
 熱い『心』を踏み躙る権利など神にだってあるものか。
 結末を決めるのは、竣自身だ。
 その目が公明を見た刹那、鋭い連峰の如き形状に変わった刃がフューチャーを斬り刻んだ。響いた悲鳴にアリスの瞳は静かなまま。竣へと言葉を傾ける。
「あなたが持つものは、あなただけのものだわ。替わりなんて、何処にも無い」
 自らを信じ突き進んできた。己を、情熱を磨いて来た。
 ならばもう一度胸を張れば良い。
 己が重ねた想いを一番知っているのは、他の誰でもない己自身なのだから。

●理想喰らいへ
 アリスの視界に銀の獄炎が揺らめく。距離を取ろうとするフューチャーを、レスターは冷たく見下ろしながら竜骨の巨大剣に獄炎を纏わせ、言った。
「その情熱で積み上げたもんを容易く手放していいのか」
 違うなら。立て。
 言葉と共に重厚無比の一撃を叩き落とす。
 轟音に悲鳴が混じり──ざりっ、と聞こえた地面を削るような音は──後ろから。
 歯を食いしばって、両手両足を必死に動かして自分達ケルベロスという守りの向こう、階段の先へ駆け抜けていった竣の顔は下を向いていなかった。
 真っ直ぐ前へと走る姿を見送ったジョーイは「よしッ!」と声を上げ、業物の柄を握り締める。描いた月の軌跡を躱されても、浮かべた笑みは『後は倒すだけ』の標的──その背後に『跳んで』いた仲間に向いていた。
「やっちまえ!」
「うん」
 返事も表情も静かに。しかしリリエッタはしっかりとフューチャーを捉えていた。
 理想に苦しむ人に「奪えばいい」だなんて、そんな間違った事を吹き込む奴は許せない。今日ここで、確実に。
 リリエッタが蹴り入れた星形のオーラは奥深くまで。たまらず押さえたフューチャーの顔に、暴走させた光翼の輝きが重なって。
「光の粒子だよ、その身体に穴をあけてあげるね!」
 クロミエが全身を煌めく粒子に変えて突っ込んだ。
 衝撃にフューチャーが呻いたのを隙と見て、橙乃は公明の背後にカラフルな爆発を引き起こす。爆風は心身を癒しながら前衛を鼓舞し、ジョーイとレスターの受けた傷みも綺麗に消し去った。
「ああ、もう。他の子にすれば良かった」
 竜人が仮面の下で眉をぴくりと跳ね上げる中、フューチャーは素早く周囲を見、はらり落ちた髪を払うと丸筒をステッキのように揮った。
 その軌跡をなぞって溢れたモザイクが檻の形を成した瞬間、それは激情の印を付けたレスターへ。一瞬でレスターを呑んだモザイクの檻は、胡桃を使ったあの一撃によって威力を落としていたが、それがもたらすものを理解していた橙乃は声を上げる。
「みんなは攻撃をお願い」
 大丈夫、まだ自分1人でカバー出来る範囲だ。
 どかんと起こしたカラフルな爆発、そして爆風の勢いが鮮やかに檻の効果を消し、その加護が前衛に染み渡る。竜人はそれを、強く握り締めた竜槌に籠めた。
「オイ、笑い方が気に食わねえって言ったな。それだけじゃねえの思い出した。テメエのその、回りくどいやり口も気に食わねえ!」
 振り上げ、力の限り叩き付けようとした一撃は、もしかしたら躱されたかもしれない。だが、飛び退こうとしたフューチャーの足は幾重にも刻まれた傷みによって、本人の意志からワンテンポ遅れて反応した。
「っ、ぅあ……!」
 奪われたものによる凍てつく痛みは凄まじいものとなり、漏れた悲鳴は哀れなほどに掠れていて。しかし同情する要素は欠片も無い。それに。
「テメエに限った話じゃねえがその偏食叩き潰すのダリぃんだ。てなわけで、こっちの苦労が分かったらさっさと死んどけや、なぁッ!」
「それじゃあ一発デケェのやっとくか!!」
 ゆらり抜刀していたジョーイが怒声響かせ、悪鬼羅刹すら喰らう一太刀を浴びせる。
 フューチャーの長い髪がモザイクと共に数本、はらはらと散った。

●夢への航路
「っ、く……!」
「逃がしはしない!」
 クロミエはすぐさま土竜模ったオーラを地中へ奔らせる。
 フューチャーの足元が吹き飛ぶのを見ながら公明はスイッチに手を掛けた。
(「余計なことをしたもんですね。それに、虚しい」)
 青少年の理想に近付いては夢喰いを生んでいたが、何かひとつとて、抱えていた欠けは埋まったろうか。
 カチリと押した瞬間にフューチャーの背で爆発が置き、ハコが『武器』を踊らせる。それを丸筒で受け止めたフューチャーが微笑の中に苛立ちを浮かべながら立ち上がるが、退路など存在しない以上、それは僅かな反抗に過ぎなかった。
 流れ繋いだリリエッタがワイルドグラビティを発動させる。荊棘の魔力込められた弾丸はまたも深くまで喰らい付き、真新しい傷跡にアリスはぴったりと短剣を合わせ、突き刺した。
 絶え間ない攻撃に痛みを知っても、あの夢喰いは理想に苦しんだ心を知ろうとはしないのだろう。
「他者に理想を見出し、時として己の行先を見失う。其れは、誰にだってあり得ることよ」
 そう。誰しにもあり得るからこそ──。
 アリスの双眸が、冷えていく。
「其れを餌食とするお前は、純然たる邪悪なのだわ」
 理想は己の手で掴み取るもの。誰かに与えられて、ましてや、歪められてまで手にするものではない。
「此れを説いたとて、貴女には分からないでしょう」
「……そうよ。よく、解っているじゃない」
 だから、相容れない。
「お前自身の理想は何だった、夢喰い」
 竜骨の巨大剣に溢れる銀の獄炎を。
 それを腕力だけで持ち上げたレスターを、フューチャーが見上げる。
「長い事裏でこそこそしてたらしいが。何れにせよ、悪趣味な細工は今日で終いだ」
 音もかき消すような一撃が炎と共に落ちた瞬間響いたのは、痛みと最期を迎えた恐怖に満ちた絶叫。それはやがて細くなり、途切れ。か細い指が、ぽろり、と丸筒を手放す。
 落ちたそれから七色モザイクがとぽとぽと溢れて──多くの学生が抱えていた理想に土足で触れてきたフューチャーの肉体が、砂粒のようになって消失した。
「っあー終わったァ! クッソ面倒くさかったなァ、ったくよォ……」
 そう言って伸びをしたジョーイだが、その目は竣が無事逃げていった方に向いている。
 クロミエも同じ方向を見つめ、考える。竣はどこまで逃げてくれただろう。今から向かえばすぐに会えるだろうか。会えたら、夢は決してあきらめない様に、これからも頑張ってねと伝えたい。
 アリスも暫し階段の方を見つめていたが、吹き込んできた風へ促されるようにして視線を動かす。
 落下防止の為に設けられている柵の向こうには、春の気配が濃くなり始めた空と、穏やかな街並みが広がっていた。
 広く見渡せる風景を前に竣が響かせていた歌声は悩みを孕んでいたが、これからは全く違う色の物語に負けじと己を磨き、輝きを増していくのだろう。
 今はこの地でだけ紡がれる歌声だが、恐れを超えた歌声は、いつの日か国境を越えて世界に羽ばたくかもしれない。

作者:東間 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年3月6日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 11/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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