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雪の中に埋もれるようにして、コギトエルゴスムは這い回る。
なにかを探すかのような動きが止まったのは、既に役目を終えた除雪機の元へ辿り着いたため。
雪山の中、コギトエルゴスムが除雪機に滑り込むと、除雪機は静かに駆動を始める。
――鈍い音を立てて動き出す除雪機。
スキー場の雪を絡め取り、ダモクレスとなった除雪機は走り出す……。
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「寒いですから、除雪機がもしかしたらと思ったのですが……」
やっぱりですか、とバジル・ハーバルガーデン(薔薇庭園の守り人・e05462)。
バジルから調査の依頼を受けて今回の事件を予知した冴は「まったくだね」とうなずいて、集まってくれたケルベロス達へ言う。
「スキー場から雪を除くというのは、スキーを楽しみにしている人たちにとっては大事件だ」
おまけに、除雪した雪はどこかに捨てなければならない。
その雪が雪崩などの二次被害を起こす可能性も低くはないため、このダモクレスは早急に撃破する必要があるだろう。
「現在、ダモクレスはスキー場を目指して山中を進んでいる」
スキー場へ到着する前の山中でダモクレスを食い止め、撃破した方が被害は少ないだろうと冴。
「山中で戦うということですね」
バジルの言葉に、冴はうなずく。
雪崩を防ぐ目的で植えられた木が密集し、雪も人が歩行することを想定してはいないため、足を取られることもあるだろう。
それで戦いに特別な不利は発生しないとしても、気をつけておいた方が良さそうだ。
「敵は一体。雪を集めたり、集めた雪を発射することで攻撃してくる」
油断せずに戦ってほしい、と冴は言い。
「それから、戦いが終わったらスキー場で遊んでくるのもいいかもしれないね」
初心者コースから上級者向けコースまでコースはあり、スノーボードやそりで遊ぶことも出来るだろう。
戦闘に勝利すれば、楽しく過ごすことも可能。
ケルベロスたちは気合を入れて、ヘリオンへと乗り込むのだった。
参加者 | |
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比良坂・黄泉(静かなる狂気・e03024) |
星河・湊音(燃え盛りし紅炎の華・e05116) |
バジル・ハーバルガーデン(薔薇庭園の守り人・e05462) |
アイリス・フォウン(金科玉条を求め・e27548) |
地留・夏雪(季節外れの儚い粉雪・e32286) |
カヘル・イルヴァータル(老ガンランナー・e34339) |
カーラ・バハル(ガジェッティア・e52477) |
旗楽・嘉内(魔導鎧装騎兵・e72630) |
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深い雪の中であっても、カーラ・バハル(ガジェッティア・e52477)の機動力は変わらない。
「見つけた、やってやるぜ!」
ショートスキーを履いたカーラはダモクレスを見るやいなや即座に接近、体重を乗せた真上からの蹴りをお見舞いした。
蹴りに伴う虹は散りばめられるかのように消えていく。ケルベロスたちの存在に気付いたダモクレスが大きく雪を噴出するのと同時に、バジル・ハーバルガーデン(薔薇庭園の守り人・e05462)は動きだした。
「黄金の果実よ、その豊穣の実りを以って、皆に奇跡の力を与えよ」
バジルの言葉にクリムゾン・ローズは果実を実らせて輝きをもたらす。
柔らかな輝きは戦場を満たし、カーラの受けたダメージを一瞬で回復し、儚く花弁を散らした。
「僕のグラビティも雪なので、除雪したいならこちらで我慢して下さい……!」
地留・夏雪(季節外れの儚い粉雪・e32286)の言葉と共に、激しく雪が降りだした。
雪はダモクレスの上にばかり降り積もって、冷たさの中に秘されたグラビティ・チェインがダモクレスへと蓄積していく。
深く深く積もり続ける雪に動きの鈍ったダモクレスへと、アイリス・フォウン(金科玉条を求め・e27548)は藍の髪を揺らし、雪の中で踊ってみせる。
「こんな踊りはどう?」
木々の間を縫うように迫り、また離れ。
目の離せなくなるような踊りを披露するアイリスは、柔らかな雪に一瞬だけ足を取られかけるがすぐにステップに戻って。
「あぶないあぶない、ここは雪が深いから気をつけてね!」
「注意しておくよ。ありがとう」
うなずいた比良坂・黄泉(静かなる狂気・e03024)は、アイリスの言う場所を通らないようにダモクレスへと迫る。
トパーズのあしらわれた髪飾りを揺らして肉薄した黄泉の攻撃には流星の煌めきが満ちている。
雪をまばゆく照らす流星はカヘル・イルヴァータル(老ガンランナー・e34339)の起こした爆発によって舞い上がり、爆煙と共に戦場を美しく彩った。
「……これくらいで雪崩はない、といいのう?」
言いつつ、チラチラと辺りを見回すカヘル。
幸い、今のところ雪崩の心配はなさそうだ……飛び回るボクスドラゴンはブレスを吐きながら周囲を見渡して、全方位への警戒を怠らない。
「これが除雪機なんだね」
星河・湊音(燃え盛りし紅炎の華・e05116)は除雪機を見るのは初めてなので、ちょっとだけ興味深そうな表情。
ダモクレスとなっていることで多少形に違いはあるかもしれないが、人に迷惑をかけているというのなら倒すまで。
湊音は紋様輝く剣を手にしてダモクレスに肉薄すると、勢いよく刃を振りかぶる。
雷の力を秘めた斬撃がダモクレスの機体に激突し硬質な音を立てる間も、湊音の眸はダモクレスから離されることはない。
旗楽・嘉内(魔導鎧装騎兵・e72630)が手を伸べれば生み出されるのはドラゴンの幻影。
力強い咆哮と共に放たれる一撃はダモクレスの機体を大きく揺らし、近くの木に衝突させる。
……しばしの間を置いて、再びダモクレスは作動音を立て、ケルベロスたちと対峙。
「きっちり仕留めておきましょうか」
そんなダモクレスを見据えて、嘉内はそう呟くのだった。
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辺りの雪を見る間に奪っていくダモクレス。
雪が深いので山肌が覗くことこそないものの、巻き取られた雪に辺りの地形が不安定なものに変わりつつあることは事実。
木々のお陰で大きな雪崩こそ起こらないが、多少の雪が滑り落ちてくることはあった。
「求められてない除雪はお断りかな!」
雪を奪おうとするダモクレスの行く手を阻むように、湊音は両足の地獄から小さな竜を作り出す。
「逃がさないよ!」
炎からなる竜は迷うことなくダモクレスへ突進、小さな体でダモクレスに組み付いて、ダモクレスが動くのを許さない。
突進を仕掛けようとしていたダモクレスだったが、その目論見は湊音によって防がれた。代わりにとダモクレスは貯め込んだ雪を頭上高くに吐き出して、痺れの効果を持つ粉雪に代えてケルベロスたちを襲わせる。
「結構冷たい……、けど負けるもんか!」
ひらひらと舞う粉雪は美しく感じられはしたけれど、同時にダメージも与えるもの。
バジルは雪を掌にひとつ受け止めて、呟く。
「雪は溶かしてしまいましょう」
蒼薔薇の銀時計を揺らすバジルは、ウィッチドクターとしての本領発揮とばかりに天を仰ぎ。
「薬液の雨よ、皆を癒して下さい!」
温かな雨で粉雪を融かし、仲間への癒しを送り届ける。
「すてきな香りね、嬉しい!」
アイリスのその声はバジルの隣から聞こえたはずなのに、見ればアイリスの姿は既にない。
木々の隙間に姿が見えたかと思えばそこにはおらず、ダモクレスの背後に。
手にした如意棒をくるくる回せば風が生まれ、依然として発生し続ける粉雪は風に乗る。
風にさえ乗ってしまえば粉雪を回避するのは容易なこと――ダメージを負うことなく肉薄したアイリスは思い切り如意棒を突き立てて、直後にはひらりと姿を消していた。
夏雪は仲間たちの様子を伺うように金の瞳を左右に。
「このまま、攻撃していけば……!」
負けることはないという確信を胸に、夏雪はドラゴニックハンマー『名残雪』へ混沌を纏わせる。
「除雪のお仕事は、もう終わりです……!」
激突するハンマーは鈍い音を立てると、ダモクレスは火花を散らした。
「こういうので街中を除雪してくれると助かるんじゃがのう」
山中だから厄介じゃな、と独りごちつつリボルバー銃を抜いてカヘルは速射。
狙いは雪の排出口。
何度も弾丸をぶち込めば黒煙が上がり、煙を上げながらもダモクレスはカヘルへ接近するが、カヘルは横に退いてそれをかわし、
「腰がっ!」
うっかり柔らかな雪に埋もれかけて転び、腰に激しいダメージを負ってしまうのである。
そんなカヘルへボクスドラゴンは癒しを施す。
「危ないな、大丈夫か?」
「な、何とかの……」
よろよろするカヘルに不安そうな表情を残すカーラだったが、ともあれ攻撃に移ることに。
「雪じゃなくて氷ならどうだ!」
カーラの手にするGadget Circuit Abstracter”typeH”が纏うのは、生命すら凍結させるほどの力。
軽々と持ち上げたハンマーから繰り出される超重の一撃はダモクレスの機体を大きく歪めさせ、嘉内は詠唱によって古代魔法を引き起こし、石化の呪いで締め上げる。
「今です、お願いします!」
嘉内が押さえつける間もダモクレスは縛りを逃れようと蠢いている。
突破されれば今までの分の反撃も込めて苛烈な攻撃が来る――そう予測する嘉内の声に、黄泉が応じるかのようにルーンアックスを掲げる。
「これで終わりにしよう」
寸断せんとばかりに叩きつけられた黄泉の一撃。
舞い上がる雪がケルベロスたちの視界を真っ白に染め上げて。
雪が晴れた時、そこには壊れた除雪機があるだけだった。
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荒れた雪をならし、木々に癒しを与え。
「これまで除雪のお仕事、お疲れ様でした……!」
壊れた除雪機に戻った機械は、夏雪が邪魔にならない場所に片付ければ、現場の後片付けは完了。
「スキーを楽しもうかな!」
それから湊音は張り切ってスキー場へと向かった。
スキーの経験があまりない湊音が向かったのは初心者コース。タイミングよくスキーのインストラクターもいるようなので、黄泉やバジルと共にスキーの練習をしていくことにした。
「スキーって、慣れるまでに時間が掛かりそうですね」
時間はまだまだあるので、じっくり取り組んでいこうとバジルは真剣な表情。
「こうかな……?」
脚の向きなどの指示を受けながら、軽く力を抜く――スイ、と滑る感覚があって、湊音は足元から顔を上げる。
「すごく楽しい!」
見慣れない雪景色の中、風を切って進む。
「気持ち良いですね」
バジルもまた、ゆっくりとではあるもののスキー場で滑り始める。
頬を撫でる風は冷たいのに、興奮のためか体は熱くて。
ずっとこうして滑っていられたらと夢想してしまうほど、スキーの経験は代えがたいものだった。
「スノーボードってやったことないや。チャレンジしてみようかな??」
楽しそう楽しそう、と目を輝かせるアイリスの隣、夏雪はスノーボードではなくスキーをすることに。
「スノーボードは両足が固定されたり、手が使えなかったりで止まれなくなりそうで怖いです……」
「そうかなー? じゃあ、私はやってみるよ、やってみるよ!」
ダンスで鍛えた体のお陰もあってか、アイリスはすぐにコツをつかんで滑り始める。
夏雪もまたスキーで滑ることにそう苦労はない。
「感覚が違うんですね……!」
走る時と同じくらいの速度で滑っても、走るのと滑るのではまったく違う、ということに驚きの表情を浮かべる夏雪。
どこまでも続く雪景色が流れていくのは面白くて、油断していると速度を上げ過ぎてしまいそうになるほどだ。
スノーボードで雪山をジクザグに滑り降りるアイリスは、カヘルの姿を見つけて手を振る。
「楽しいね、たのしいねー!」
「うむ! 冬のゲレンデとは良いものじゃのう!」
今日の思い出を残すべく、ボクスドラゴンはビデオカメラを持って飛翔中。
仲間たちの練習風景を、あるいは滑って楽しむ姿を撮影するボクスドラゴンを見上げて、カヘルは笑いかけようとして――、
ピキ、と腰が変な風になって。
「……っが! わしの腰がっ!」
グギっといった腰に悶絶するところも、ボクスドラゴンはばっちり撮っているのである。
「湿布でも貼るか?」
上級者コースから滑ってきたカーラは言いつつ、ボクスドラゴンとビデオカメラに気付くと笑顔を向け。
「よっし、俺の雄姿を見てろよ!」
言うとカーラは猛然と滑り降り、勢いをつけてジャンプ――空中で「やべっ」と呟いたのは、着地の角度がうまく決まらなかったから。
脚からではなく上半身から着地する格好になってしまったカーラは坂道をごろんごろんと転がって、雪山に衝突する形でどうにか停止。
その拍子に雪山が崩れて軽く生き埋めになってしまう……ずもっ、と雪山からすぐに腕が出たので、どうやら怪我はないらしい。
「と、撮るなよぉ!」
失敗も撮影するボクスドラゴンにそう言ってストックを振り上げるカーラだった。
……そして、そんなケルベロスたちを見ているのはボクスドラゴンだけでなく、嘉内も。
嘉内はゲレンデには出ず、ケルベロスたちや一般人らが滑る様子を楽しく眺めながら、食堂でカレーを食べていた。
「うん、こう言うところのカレーもなかなかいけますね」
ダモクレスは戦いの中で何度も雪を噴出してきたせいで身体が冷えていたのだが、これで身体も温まりそう。
しばらく食べ進めていた嘉内は、それにしても、と独りごちる。
「雪を撃ってくるダモクレスの相手なんて、もう氷々です」
こおりごおり――懲り懲り、と。
言ってから嘉内はスプーンを置いて、水を飲んで。
「……おあとがよろしいようで」
作者:遠藤にんし |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2019年2月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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