2月は初恋の季節

作者:青葉桂都

●バレンタインは恋のチャンス?
 教室の窓側に近い席で、2人の女子生徒がお弁当を広げていた。
「今年が最初で最後のチャンスなんだから。バレンタインは、絶対に先輩にチョコを渡して告白するの!」
 長い髪をツインテールに結んでいる少女が、箸をご飯に突き刺しながら言った。
 同じ歳のはずなのにもう一方の少女よりいくらか幼く見える彼女の宣言に、眼鏡をかけた少女がため息をついた。
「だから、やめておきなさいって、千佳。14日じゃまだ受験が終わってるとは限らないし、迷惑になるよ」
 どうやら、千佳という少女が好きな先輩は、受験生らしい。彼女たち自身は1年生だ。
「ひどーい! 先輩が、女の子の心がこもったプレゼントを迷惑がるわけないよ!」
「前にも、クリスマスプレゼントや合格祈願のお守りを渡そうとして、断られたんでしょ?」
「あれは……べ、別に迷惑だって言われたわけじゃないし! 私の初恋なんだから、先輩だってわかってくれるに決まってる!」
 いくらいさめられても千佳が意思を翻す気はない様子だった。
「……ま、好きにすれば」
 最終的に、眼鏡の少女は千佳にそう言った。
 ふくれっ面で、千佳はいつも一緒にいる友人を残し、1人でトイレに向かった。
 少し遅い時間だったせいか、女子トイレにはもう誰もいない。
 急いで用を足そうとした千佳の後ろで扉が開いた。
「ねえ」
 声をかけられて、彼女は振り向く。
 そこにいたのは見覚えのない赤い髪の女子生徒だった。それがファーストキスというドリームイーターだと、もちろん彼女は知らない。
「あなたから、初恋の強い想いを感じる。私の力で、その想いを実らせてあげようか?」
 戸惑っている千佳へと近づいてきて、彼女はいきなりキスをした。
 一瞬驚き、それから恍惚とした表情に変わる……その瞬間、鍵が千佳を貫いていた。
 倒れた千佳の横に、彼女とよく似たドリームイーターが現れる。
「さあ、あなたの初恋の障害を、消しちゃってきなよ」
 赤毛の少女がそういうと、ドリームイーターはトイレから足早に出ていく。
 そして、『先輩』がよく質問にいく女教師が、襲撃を受けた。

●ヘリオライダーの依頼
 以前から日本各地の高校に出現しているドリームイーターが起こす事件を予知したと、石田・芹架(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0117)はケルベロスたちに告げた。
「ドリームイーターは高校生が持つ強い夢を奪って、強力なドリームイーターを生み出すようです」
 今回狙われるのは、初恋をこじらせた強い夢を持つ高校生だ。名前は田村千佳というらしい。
「田村さんから出現するドリームイーターは強い力を持っています。その源泉は初恋を実らせたいという彼女の想いです」
 うまく説得して、初恋への想いを弱めることができればドリームイーターは弱体化する。
 たとえば恋心を弱めるようなことを言ったり、初恋という言葉への幻想を打ち砕くのがいいだろう。
「うまく弱体化させれば、戦闘は有利に進められるでしょう」
 芹架は言った。

 千佳の想いから生み出されたドリームイーターは、その後女性教師の1人を襲うらしい。
 彼女の『初恋』の人物が苦手な科目の担当で、よく質問に行っている点から『初恋の障害』と決めつけられるらしい。襲われるほうには迷惑な話だ。
「出現から襲撃までの間についてドリームイーターの動向は不明ですが、襲撃地点と時間はわかっています」
 放課後、資料室で授業のための資料集めをしているときに襲われるらしい。
 へリオンで向かい、余計な寄り道をしなければ襲撃には間に合うだろう。
 1人でいるところを狙われるようで、他に巻き込まれるものはいない。なお、事前に犠牲者を避難させるとドリームイーターの動向がわからなくなり、次は助けられないタイミングで襲撃されてしまうだろう。
「どうやら敵はケルベロスとの戦闘を優先するようなので、皆さんが到着すれば巻き込まれた方は安全に鳴ります。犠牲者を逃がすのは容易でしょう」
 戦闘に入ると、敵は心を抉る鍵で近接攻撃を行ってトラウマを具現化させたり、モザイクを飛ばして悪夢を見せ催眠状態にしてくる。
 またハート型のプレゼントぼっくすを投げてプレッシャーを与えてくることもあるようだ。
「出現するドリームイーターは田村さんと似た姿ですが、本人ではないので気にせず倒してください」
 戦場は学校の資料室なので多少障害物はあるが、壊れてもヒールで直せるのであまり気にする必要はないだろう。

「行き過ぎた恋愛感情は迷惑なものですが、それを利用するドリームイーターはもっとタチが悪いといっていいでしょう」
 しっかり阻止して欲しいと芹架は言った。


参加者
八代・社(ヴァンガード・e00037)
眞月・戒李(ストレイダンス・e00383)
蛇荷・カイリ(暗夜切り裂く雷光となりて・e00608)
茶斑・三毛乃(化猫任侠・e04258)
鋼・柳司(雷華戴天・e19340)
フィオ・エリアルド(ランビットガール・e21930)
サロメ・シャノワーヌ(ラフェームイデアーレ・e23957)

■リプレイ

●学校に潜む敵
 現場はなんの変哲もない学校に見えた。
「受験、かぁ……そう言えば、私が今18で輝凛君が一個下だったはずだから……来年? 大学行く予定なのかな……忙しくなっちゃうのかな……」
 校舎を見上げたところで、フィオ・エリアルド(ランビットガール・e21930)は独り言を呟いた。
「どうかしたか、フィオ?」
 八代・社(ヴァンガード・e00037)に声をかけられて、彼女は我に返る。
「……はっ!? いやいや、今はそんなこと考えてないで、仕事仕事!」
 再び走り出そうとする緑髪の少女の横を、隻眼の女性が通り過ぎる。
「そうでやすな。自分のことよりも、今はまず事件を解決するのが先決でござんす」
 茶斑・三毛乃(化猫任侠・e04258)の言葉にちょっと顔を赤らめつつ、フィオも玄関に向かって行く。
 校舎内に入ったケルベロスたちは事件が起こる資料室を目指して素早く移動する。
「生徒の大半は帰ったようだな。こちらとしてもそのほうが都合がいいが」
 鋼・柳司(雷華戴天・e19340)が、鋭い目つきで素早く周囲を確かめる。
「急がなきゃねぇ。でも、急ぎすぎてもダメなのよね。ちゃんと事件は起こしてもらわなくちゃいけないもの」
 木刀を手にした蛇荷・カイリ(暗夜切り裂く雷光となりて・e00608)が、大きな胸を揺らして階段を駆け上がった。
「初恋、かぁ。私の初恋、どんなのだったかしらねぇ」
「思い出すのに話し相手が必要なら、付き合うぜ。デウスエクスを片付けて祝杯を上げるときにでもな」
 カイリの呟きに社が応じた。
「あら、ありがとう、マスター。酔った勢いででも思い出せたらいいんだけどねぇ」
 言葉を交わしているうちに目標の階にたどり着く。
「……静かですね」
 レティシア・アークライト(月燈・e22396)の緑色の瞳が状況を確かめる。
「そうだね。嵐の前の……ってところかな」
 眞月・戒李(ストレイダンス・e00383)はレティシアと視線を交わす。
 資料室の扉が開いていた。
 襲撃は間もなく起きるということだ。
 部屋の中ではもう女教師と、大きな鍵を手にした女子生徒が対峙していた。
「どうしたの? 田村さん……よね?」
 相手がデウスエクスだとは気づいていないの女教師は、生徒を心配している。
 鍵が振り下ろされる前に、素早く長身の女性が割って入った。
「怪我はないかい、マドモワゼル」
 サロメ・シャノワーヌ(ラフェームイデアーレ・e23957)はまるでおとぎ話の王子のように、彼女の前に立ちはだかった。
 ドリームイーターが警戒した様子で一歩飛びのいた。
「危ないから私の後ろに。彼女は君の生徒ではなく、デウスエクスなんだ」
 背後にかばっている女性が息をのむ。
 他のケルベロスたちもすでに資料室に入ってきていた。
「あなたたちも初恋を邪魔するのね……」
 呟く声。
「この想いは誰にも邪魔させない!」
 大きな鍵を構えたデウスエクスは、身構えるケルベロスたちへと向かってきた。

●初恋は甘くない
 女教師はケルベロスにうながされて避難していった。
 残るは非難する目でケルベロスたちを見る少女。
 サロメは彼女が鍵を振り上げようとしているのを手で制した。
「やめておきたまえ。そんなことをしても、幸せにはなれないのだから」
 一瞬動きを止めた隙に、さらに語りかける。
「恋をするのはいいことだし、初恋が成就するのは確かに乙女の夢。だけど、それで幸せになれるという保証はあるのかい?」
「あ……あるわ! だって初恋なんだから!」
「相手を見る目が育つ前に、夢中になってしまう相手だよ。だから必ずしも、初恋が一番とは限らないんだ」
 流れるように近づき、サロメは少女の手を取ろうとした。
 わずかに手が触れ、しかしその手ははねのけられた。
「恋は自分の夢を叶えるためのものではない。キミはまだ、恋に恋しているのさ、マドモワゼル」
 赤くなっている手の甲をひと撫でして、サロメは穏やかに微笑んで見せる。
 ドリームイーターは逃げるように後方へ飛び退いた。
 戸惑う敵が攻勢に移る前に、ケルベロスたちは言葉を続ける。
「相手の方が受験生なら、今は他事を考えている余裕はないのでは? 過去に貴女からのプレゼントを断ったのもそういう理由もあるのかもしれませんね」
 レティシアがよく通る声を微笑みと共に発した。
「貴女にとっては好意でも、相手にとっては気持ちの押しつけに感じていたかもしれません」
 睨み付けてくる彼女へ丁寧に語りかける。
「初めての恋でも何度目の恋でも、相手があってこそ成り立つもの。相手の方ことを考えた上で自分の気持ちを伝えてこそ、その思いは相手に伝わるのではないでしょうか」
 だが、拒絶の叫びと共に返ってきたのはモザイクの欠片。
「レティ!」
 声をかけてきた社に、レティシアは心配ないと首を振って見せた。
 シニカルに振る舞う彼が実際にはどんな男か、社の経営する酒場の常連であるレティシアは知っている。
 他の者より早く進み出たのは、同じく『五番目の月』を意味する店の常連である少女。
「初めての恋を大事にしたいのはわかるけど……だからこそ、自分ばかりを大事にしてたらダメだよ」
 普段は引っ込み思案なフィオだが、今は思い切りの良さを見せて言葉をつむぐ。
「好きな人だからこそ、その人がその人自身のために今やるべきことを、応援してあげないと。自分の事を大事にしてくれない人を、好きになれると思う?」
 語るフィオが頭に浮かべた少年のことを旅団の仲間たちは気づいていただろう。
「少し、頭を冷やしてもらうね……!」
 威嚇して見せるが、説得を行うつもりのケルベロスたちはまだ手を出さない。
 敵がまた鍵を振り上げる。
「年上の説教など聞きたくないだろうが少し聞け」
 重たい想いの詰まった柳司の言葉に、少女が攻撃しようとした手を止めた。
「相手のことを思いやらず動いても失敗するだけだ。いや、仮に上手く行っても直ぐに別れることになるだろう」
「そんなの、わからないじゃない!」
 叫んだ少女に、伏せていた眼をまっすぐに向けた。
「なるさ、そのままなら……離婚してしまった俺のようにな」
 実体験を伴った男の言葉に、彼女はそれ以上言い返せないでいるようだった。
「俺と違い、相手を思い遣り上手くいっているカップルは多い。冷静になってそういう形を目指せ。さもなくば本当に後悔するぞ」
 柳司の言葉はドリームイーターの向こうにいる少女のためのものだ。
 振り上げたままの鍵が震えている。
「初恋……確かに、とても素敵で、自分の中でも特別な想いよね。でも、自分の気持ちは思い人の気持ちでは無いわ」
 震える少女にカイリが静かに語りかけた。
「辛い言い方になってしまうかもしれないけれども……貴方は今、初恋という特別性に浸っている気持ちが多いのかもしれないわ」
「そんな言葉、聞きたくない!」
「もちろん、貴方が彼のことを好きだという感情は否定しないけれども、一度落ち着いて考えてみるのも、大事なことだと思うわよ」
 拒絶する言葉は、むしろケルベロスたちの言葉が届いている証だったのだろう。
 言葉を聞くまいと、またドリームイーターが鍵を振り下ろす。
 受け止めたのは三毛乃のリボルバーだった。
「そも先方がそちらさんを真実どう思っているやら、言葉で聞いたことはござんすか」
 地獄の炎に燃える右眼で少女を間近に見据えて三毛乃は語りかけた。
「聞かずとも分かる? そりゃ勇み足でさァ。押しの強さあまりにその機をなし崩しにしちゃァおりやせんか」
 鍵に込められた力を、銃床で押し返す。
「己が満たされてえばかりの思慕は、愛しの殿方に踏ませる茨も同義ですぜ」
 人生経験の詰まった言葉を聞く相手の力が一瞬弱まるが、すぐに改めて込められる。
「だって……時間がもうないんだよ! 先輩は受験生で、もうすぐ卒業なんだから!」
「受験かァ。先方が人生の岐路の最中だってんなら尚のこと。侠の勝負所をひととき邪魔せぬよう振る舞うのも女のあるべき姿かと存じやすが、いかがで」
 銃が鍵を弾き、ドリームイーターがよろよろと数歩下がった。
「恋に恋するのは可愛いけど、押し付けはいけないね」
 軽く聞こえる声で告げたのは戒李だ。
「それに先輩がじきに卒業するなら、成就してもきっと君が思うだろう事はできなくなるよ。登下校とか、一緒にお昼とか」
 泣きそうな様子で顔を歪めた。
「それに向こうは環境が変わって忙しくなるから、君に構う時間も少ない」
 けれど戒李は言葉を続ける。
「先輩なら、なんて思わないほうがいい。君が抱えるのと同じ感情を、彼は返してくれないよ」
 軽口のような言葉だが、言葉に込めた黒猫の想いは決して軽くはない。
「初恋は叶わないものだって聞いたことはないか? あれはさ、単なるジンクスみたいなものじゃなくて、色々と恋を経験しろってことの裏返しでもあるんだよ」
 次いで社が口を開いた。
「今、お前にはその恋しかないのかもしれないが、世界ってのは広いもんだ。まだまだ、お前が会ったことのないいい男がごまんといるもんだぜ」
 皮肉げではない笑みを浮かべた彼から身を守るように、彼女はハート型の箱を抱える。
「視野を狭めないで、周りをよく見ろ。一人にこだわっているより、そっちのほうがずっと健全だ」
「う……うるさい! 初恋の邪魔を……!」
 敵が箱を振りかぶる。
「最初の恋を諦められなくて辛いのは、だれもが通る道さ。その甘いチョコレートを自分で食べて、辛い涙をやり過ごしなよ」
「黙ってって言ってるでしょ!」
 投げつけられた箱を、社は真正面から体で受け止める。
 その威力はもう弱体化していた。少なくとも、痛みを顔に表さず耐えられる程度に。
「それでもダメなら、ジュースの一杯くらいなら奢ってやれるからさ」
「だ・ま・れぇぇぇ!」
 ドリームイーターが叫ぶ。心のなにかが限界を迎えたのか、もうケルベロスたちの言葉には耳を貸そうとはしない。
 説得は十分効果を発揮しているが、それだけで事件が解決できないのはわかっている。
 仕上げをするべく、ケルベロスたちは武器を抜いた。

●初恋の終焉
 社は月影を纏い、拳を握った。
「苦い恋ならおれにも覚えがある。それこそ、かなわなかった初恋にもね。だからこそ、それを悼む気持ちにもなるってものさ」
 語る彼の言葉はもう敵には届いていない。
「乙女の純情に付けこんだ罪は重いぜ、ドリームイーター。返してもらうぜ、チカをよ!」
 だから声と共に彼は拳を叫ばせた。
 戒李の気弾が命中したところを狙って敵を吹き飛ばす。
 他の仲間たちもすぐに続いた。
 レティシアはその仲間たちの背後で、薔薇の香水瓶へ唇を寄せた。
「参りましょう、守りはこちらにお任せを」
 口づけでスイッチを押すと、仄かな薔薇の香りが仲間たちの背後で爆発した。
(「好意を伝えたいという気持ちはわかりますけれどね」)
 目を伏せて口の端を上げると、レディシアはドリームイーターと同じ姿をしている少女の想いが伝わることを、少しだけ願った。
 フィオは中衛から点穴針を敵へ向けた。
「……動きが鈍ってる。足止めする必要は、なさそうだねっ!」
 雪さえも退く凍気をまとった針が敵を貫き、凍りつかせていく。
 敵が敵だけに去年告白した愛しい人を思い出してしまいそうになるが、そんなことになれば後で皆にからかわれそうだ。
 恥ずかしい記憶を頭から追い出し、フィオは戦い続ける。
 カイリはフィオが攻撃しているときにはすでに、床を蹴っていた。
「短期決戦を狙うわよ。火力重視で行くわ!」
 高速で天井を蹴って、さらに加速。空中で色黒の身体が霊子分解する。
「我が身模するは神の雷ッ! 白光にッ、飲み込まれろぉッ!」
 霊子となった身体は創生の雷と化してドリームイーターに襲いかかった。
 手にした木刀が雷速で降下し、凍った体に痛打を与える。
(「何故、自分の心に刺さる説得をする羽目に……」)
 柳司は凍りついた敵に狙いをつけながら考えた。思い出したくない離婚の記憶を思い出す羽目になり、物理的な傷はないが心にはクリティカルヒットを受けている。
「それもお前のせいか……少し憂さを晴らさせて貰うぞ」
 彼が雷華戴天流の飛び蹴りを叩き込んでいる間に、サロメがサキュバスの霧で社を癒やしていた。
 ドリームイーターはまだ諦めずに抵抗する意思を見せていた。
 モザイクがフィオへと飛ぶ。
 三毛乃は素早くその軌道上に割り込み、彼女をかばう。
「こちらさんは、お前さんが手に入れられなかったもんを手に入れてらっしゃるようですが……だからって嫉妬はいけませんな」
 背後で声にならない叫びを上げるフィオに応じず、三毛乃は愛銃を自分に向ける。
 息子から採ったオーラを閉じ込めた弾丸を撃ち、精神を侵蝕するモザイクを撃ち消す。
 テレビウムのステイやウイングキャットのルーチェも守りを固めて、ドリームイーターの攻撃を防ぎ続ける。
 レティシアやサロメの回復もあり、倒れることはなさそうな状況だった。
「残念だけど君に勝ち目はないよ、マドモアゼル」
 サロメはRomanceCardと名付けたオウガメタルで一撃を加えた。
 それでも敵は戦いをやめる気はないようだ。だが、回復を重視していたサロメが攻撃に加わる余裕があること自体、敵の不利を証明している。
 戒李は敵が弱ってきたとみて仲間たちに目配せをした。
「痛いの入れるから、追撃を任せるね」
 足の魔術回路を起動して、学校の教室を小規模な結界に包む。
「No.xxx【夢の末路】展開 ――誘われよ、明けぬ空の月亡き夜へ!!」
 書庫化した記憶から取り出した暴虐の記憶が、暴れ狂う獣と化して敵に食らいつく。
「後片付けが大変そうだね」
 攻撃の余波で壊れた資料室をながめて戒李は呟く。
 すぐに反応したのは社だった。
「M.I.C、総展開! 終式開放ッ!!」
 七二番魔術数理『アルイーズ定理』により彼に作用するベクトルのすべてを魔力に変換し、光弾に変えて拳から放つ。
 カイリの雷速の木刀が、霊体を憑依させたフィオの日本刀+7が敵を切り裂く。
 レティシアの戦斧や三毛乃の銃撃も敵の体力を削った。
「点穴を突き気脈を絶つのに距離を問う必要など無い。雷華戴天流、絶招が一つ……紫光裂針翔!!」
 内蔵した魔導回路を最大効率で運用し、柳司が傷ついたドリームイーターへ迫る。
 指先から放つ紫電は針のごとく鋭い刃と化した。
 雷華戴天流の絶招たる一撃が敵の経穴へと突き刺さり、体内の気を歪める。
 敵の身体は気と共に歪んでいき、最後には無へと帰した。
「失敗も人生経験だろうが、それも最善を尽くすからこそだ。まぁ応援くらいはするか」
 柳司が呟く。
 今頃は本物の千佳も目を覚ましているだろう。
 彼女の恋は苦い記憶に終わるだろうが、ケルベロスたちの伝えた想いが少しでも良いほうに働くことを、皆は願った。

作者:青葉桂都 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年2月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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