チョコに誘われる竜の牙

作者:猫鮫樹


 バレンタイン商戦とはよく言ったものだ。
 多種多様なチョコが屋根付き屋外イベント会場に並んでいた。
 来場した人にいかにチョコを買ってもらうか、左右を連ねる店では試食を勧めたり、中央に配置されたテーブルですぐに食べられる商品を販売している。
 チョコの甘い香りが漂う会場は人が多く、賑わっていた。
 友達同士、恋人同士、はたまた1人で……。
 そんな中、賑わう人々の頭上から大きな音が響いた。
 チョコを味わい、目で楽しむ人々は音のした方を見上げてざわつく。
 白い何かが突き刺さり、それはゆっくりと会場内に落ちた。
 賑やかな雰囲気は一変。何が起きたのかと白い牙を観察する人々が、突然悲鳴をあげる。観察していた牙は怖ろしい竜牙兵の姿に変わったのだ。
「オマエたちの、グラビティ・チェインをヨコセ」
「オマエたちがワレらにムケタ、ゾウオとキョゼツは、ドラゴンサマのカテとナル」
 竜牙兵はそう言うと、手に持つ鎌を振り上げて逃げ惑う人々に襲い掛かっていった。


「雪灯篭はどうだったかな? 竜牙兵討伐お疲れ様……そして喜屋武・波琉那(蜂淫魔の歌姫・e00313)さんが危惧していた通り、また竜牙兵が現れたよ」
 雪灯篭での竜牙兵撃破に労いの言葉をかけた中原・鴻(サキュバスのヘリオライダー・en0299)は、今回の事件について説明を始めた。
 バレンタインのチョコレートを販売するイベントに竜牙兵が現れ、そこに来ている人々が襲われてしまう。
 急ぎヘリオンで向い、竜牙兵を撃破してほしいと。
「ただ出現前に避難勧告を出してしまうと、竜牙兵が他の場所に出現してしまう為、事件を阻止することができなくなってしまうんだよねぇ」
 竜牙兵出現後は近隣の警察なんかに避難誘導を任せられるように手配はしておけるから、ケルベロス達は戦闘に集中することが出来ると鴻は続けた。
「出現する竜牙兵は全部で3体。剣と鎌を持っていて、ケルベロスとの戦闘が始まれば、竜牙兵は撤退することはないよ」
 会場内も広く、戦うには充分だ。
 鴻は集まったケルベロス達を見回し、一息ついて言葉をかける。
「竜牙兵による虐殺は見逃せないよねぇ。頑張って倒して、その後バレンタインイベントの会場でチョコとか食べてきていいからねぇ」


参加者
喜屋武・波琉那(蜂淫魔の歌姫・e00313)
バーヴェン・ルース(復讐者・e00819)
源・那岐(疾風の舞姫・e01215)
パトリシア・バラン(ヴァンプ不撓・e03793)
峰谷・恵(暴力的発育淫魔少女・e04366)
ミレイ・シュバルツ(風姫・e09359)
ジン・エリクシア(ドワーフの医者・e33757)
如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384)

■リプレイ

●甘い香りの空間に
 チョコの甘い香りに包まれる会場。
 賑わいを見せる会場と甘い香りに包まれながら、バーヴェン・ルース(復讐者・e00819)はそういえばと去年のバレンタインのことを思い出していた。
 同じように近くにいたミレイ・シュバルツ(風姫・e09359)も目標が現れるまで、賑わう会場や販売されているチョコを眺めている。
 甘い香りと賑やかで平和な空間。
 そんな平和な空間を壊すために、グラビティ・チェインを奪いに、白い牙は屋根を貫いて会場に落ちてきた。
 落ちた白い牙はたちまち竜牙兵の姿に変わり、その手に持つ武器を振り上げ恐怖に悲鳴を上げる人々へと襲い掛かっていく。
「地道な竜牙兵送りも忘れないあたり嫌なところで几帳面だね、ドラゴン」
「目標確認」
 逃げ惑う人々の合間を縫い、竜牙兵を視認したミレイと峰谷・恵(暴力的発育淫魔少女・e04366)は、人々がうまく逃げられるように注意を引き付けていく。
「警察の人達の指示に従ってネ!」
「私達を倒さないとご主人様のノルマをこなせないよ!」
 連絡していた警察や警備員が逃げる人々に素早く指示を出し、その誘導を邪魔しないようにとパトリシア・バラン(ヴァンプ不撓・e03793)と喜屋武・波琉那(蜂淫魔の歌姫・e00313)も竜牙兵の注意を引き付けていった。
「早い所ガイコツ共倒して、一般人守ってからチョコを満喫しねえとなぁ。ひひっ!」
 チョコの香りが広がる空間、前髪で隠れる瞳はどの種類のチョコを見ているのかジン・エリクシア(ドワーフの医者・e33757)はそう言って笑う。
 お互いチョコを贈りたい本命の相手がいるであろう源・那岐(疾風の舞姫・e01215)は、如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384)に視線を合わせて頷けば、沙耶もそれに返すように頷く。
 そして那岐はそのまま武器を構えると、神速の突きで鎌を持つ竜牙兵へと仕掛けていった。
 予期せぬケルベロス達の襲来に、竜牙兵は忌々し気に咆哮をあげた。逃げる人々は避難誘導で着々と会場から出て行っている。
 グラビティ・チェインを奪うためには、まずはケルベロスを倒さねばと竜牙兵は鎌や剣を振り上げるのだった。
 挑発をして、注意を引き付けることに成功し、あとは3体の竜牙兵を倒せばこの事件も解決ができる。波琉那は竜牙兵目掛けて超高速の突きを繰り出す。
 バーヴェンは竜牙兵の攻撃を警戒し心眼覚醒を自身に施していけば、その横からバトルガントレットを着けたパトリシアが軽い身のこなしで走る。
 拳を握り、パトリシアは竜牙兵の体に重たい一撃を叩き込んだ。
 そのまま同じ敵を狙うように恵がコートを翻し、クイックドロウで撃ち抜いていく。  コートの下から覗く黒いビキニ姿は、この時期に寒くはないのだろうか。
「太陽の騎士団所属『氷姫』ミレイ、参ります」
 竜牙兵が攻撃する隙を与えずに、今度はミレイがサーコートを翻す。
「裂け、彼岸花」
 螺旋を纏わせたミレイは鋼糸を竜牙兵の周囲に張り巡らせ、足止めするのと同時にその肉を、骨を斬り咲いていった。
 大切な人に愛を贈る。そんな人々の為に。那岐と、仲間と共に竜牙兵を撃破する為、その手に武器を握り、沙耶は精製した弾丸を撃ち放つ。
「さあ、オペの時間だぁ!!」
 シャーマンズゴーストの『トーリ』と共に、ジンが口元を三日月にして笑うと剣を持つ竜牙兵にチェーンソー剣を叩き込む。
 ケルベロス達の止まらぬ攻撃に、竜牙兵は怒りの咆哮を上げて禍々しい狂気を持って襲いかかって来るのだった。

●鎌
 ケルベロス達の攻撃によるダメージは相当なのか、竜牙兵が仲間の回復をするために動くと、それを阻止するようにバーヴェンが攻撃に出る。
 地獄の炎を宿らせた剣は、太陽のような輝きを灯して竜牙兵の肉体を斬り裂いていった。
「―ム、手応えあり」
 回復が間に合わなかったのだろう竜牙兵はその身を保てず倒れていく。剣を持つ竜牙兵はただ悔し気に唸り、その仲間を弔うかのように今度は鎌を持つ竜牙兵が動き出した。
 振り下ろされる鎌は冷たい風を含み、その銀の刃がパトリシアの肌に傷を負わせる。
 痛みを振りぬいて、パトリシアが赤い血を花びらのように散らし、素早く鎌を持つ竜牙兵へとその痛みを返すために蹴り上げていった。
「パトリシアさん回復するから」
「アリガトウゴザイマス!」
 竜牙兵へ攻撃し、一旦退いたパトリシアに恵が桃色の霧を放出して回復を施す。
 その二人に再度攻撃の手が入らないように、ミレイが走る。
「穿て、八咫烏」
 素早い動きでミレイは竜牙兵の体を蹴り上げると、鎌を持つ竜牙兵が咆哮する。
 痛みに呻くような、禍々しい咆哮。だが、ケルベロス達はいくつもの戦いに身を投じているのだ。それに怯むようなことはない。
 沙耶が杖から魔力を込めたペットを撃ちだし、鎌を持つ竜牙兵にどんどんダメージを負わせていく。
「グゥウウ……数を減ラセ! あの子供からダ!」
 剣を振りかざした竜牙兵はジンを狙うようにと唸り、叫ぶ。
 狙いを定めた竜牙兵は大きく鎌を振り回し攻撃を仕掛ける。
「誰がガキだぁ!!」
 その攻撃はトーリが受け止め、ジンを庇った。
 庇われたジンは子供扱いされ狙われたことに激怒した。独特の笑い声も、三日月型の口元も、怒りに染まっているジン。
 揺れる白い髪から、鋭い眼光が見え隠れする。
 ジンがチェーンソー剣を子供と言った竜牙兵へと振り下ろせば、竜牙兵が纏う鎧を、体を、無慈悲な斬撃で攻撃した。
 怒り任せのように見える攻撃だったが、それでも竜牙兵の体に大きく傷を残すのにはなんら問題はなかった。その傷を回復しようと、竜牙兵は剣を振るう。
 鎌を持っている竜牙兵も一旦トーリから離れ、距離を保ち再び攻撃へと出れるタイミングを計り始めた。
 飛び交う攻撃も回復も何度目になるだろうか。
 1体は倒したものの、残りの2体の竜牙兵は中々にしぶとく感じる。
「中々にしぶといですね」
「ええ。ですが、向こうの体力は確実に減っています」
 那岐の声に、沙耶が返答する。
 確実に体力を奪ってはいるものの、こちらも傷を負っていることには変わりない。
「輝ける甘露にて彼の者に力の一片を分け与えたまえ……」
 波琉那が那岐に授けたのは黄金の蜂蜜酒。何度も竜牙兵からの攻撃を庇い続けた体に、波琉那のグラビティは有難かった。
 傷が癒える感覚を那岐は感じ、再びその手に武器を握り竜牙兵と対峙する。
 バーヴェンも同じように武器を構え、鎌を持つ竜牙兵の傷を斬り広げていき、パトリシアも舞うようにしてバーヴェンの斬り広げた傷に拳を叩き込んだ。
 痛みに呻きながらも竜牙兵は自分の体に鞭を打ち、ケルベロス達に反撃をすべく鎌を振り回すが、正確に攻撃できるほどの力もないのだろう。
 ケルベロス達が回復し、ミレイが地を蹴る。
 竜牙兵にとどめを刺すために、急所であろう傷口を蹴り上げていく。
 ミレイに蹴り上げられた衝撃に竜牙兵はもう動くこともできなかった。
 詰まる呼吸。再び空気を求めるように動くことはなく、竜牙兵は倒れ崩れていった。
 残りは剣を持つ竜牙兵のみだ。

●剣
「13・59・3713接続。再現、【聖なる風】」
 恵が前衛に施す回復。数は残り1体とはなったが、捨て身とでも言うのだろうか……竜牙兵も必死になって攻撃をしかけてきていた。
 恵が状態異常と傷の回復をしながら、他の仲間が残りを倒すべく攻撃を繰り出している。
「なかなか竜牙兵もやるね! でも、イベントを台無しになんてさせないんだよ!」
 波琉那がそう高らかに言い放つと、皆も頷き地を蹴り、再び最後の竜牙兵を倒すために動き出した。
 斬撃を繰り出す那岐、バーヴェン、波琉那。竜牙兵の攻撃を受け止め拳を突き出すパトリシア。
 弾丸を撃ち放つ沙耶。鋼糸を張り巡らせ竜牙兵を斬り刻むミレイ、トーリと共にチェーンソー剣を振り回すジン。
 そして合間に回復を施す恵。
 連携を取り、残りの竜牙兵をジリジリと追い詰めていく。
 会場内は飲食スペースがある中央での戦闘のおかげか、まわりの販売スペースには被害がない。
 だが、あまり長引いては被害のである可能性もあるかもしれない。
「早く倒してしまいたいですね……」
「そうね、沙耶」
 沙耶が零した呟きを那岐が拾う。
 さっさと倒してこの場所を直し、人々に安心してもらわなければ。
 その思いは皆一緒だろう。
 幾度も繰り返される竜牙兵の襲来。平和を脅かす存在は早いとこ倒してしまおう。
 強い意志、気持ちを込めて武器を、力を奮う。
「オマエたちにマケテナルモノカ!」
 竜牙兵の叫び。
 それを叩き潰すように波琉那の拳が竜牙兵の鎧を砕く。さらにバーヴェンが砕かれた鎧部分を狙い斬りつけていく。
 連携は止まない。
 今度はパトリシアの拳と恵の礫が脆くなっているだろう竜牙兵の体を穿つ。
 破壊されていく鎧を見たミレイが氷槍『神威』を振り上げた。
「打ち砕け、大蛇【竜牙】」
「グゥウウウ!」
 強烈な打撃、攻撃に竜牙兵は低く呻き膝を着く。しかし、その目に光は消えていない。
「いい加減諦めなぁ、ひひひ」
 ジンの笑い声が響いて、トーリが爪で、ジンはチェーンソー剣で攻撃していく。沙耶もそれに追撃する形で力を使う。
「勝利の運命を切り開きます!!」
 指し示すは勝利への道。
 自らが進む運命を。
 沙耶の攻撃に怯む竜牙兵に那岐が舞う。
「さて披露するのは我が戦舞の一つ。必殺の銀色の剣閃!!」
 皆が、そして沙耶が切り開いてくれた勝利への道に舞うようにして花を飾ろう。
 銀色の風と共に無数の剣閃が、容赦なく竜牙兵の体を斬り裂いていった。
「ドラゴンサマ……」
 竜牙兵の最後の呟きも残った銀色の風によってかき消され、会場内に残る姿はケルベロス達だけとなった。
「終わったね」
 消えた竜牙兵の姿に波琉那が小さく声を漏らせば、皆の肩の力も抜けたようだった。
「せめて祈ろう。汝の魂に幸いあれ……」

●再開イベント
 竜牙兵3体を倒し終わり、後片付けや周辺のヒールをしていたケルベロス達。
 程なくして、会場内には避難していた人も戻ってきた。
「お騒がせシマシタ♪ もう大丈夫デース♪」
「あいつらはやっつけたからもう大丈夫。何回来たってボクらケルベロスが倒すから安心してねっ」
 恵とパトリシアが安心してもらえるようにと笑顔を浮かべ、戻ってきた人々に声をかけていく。
 二人の言葉に、戦ってくれたケルベロス達に安堵する声がそこかしこから聞こえた。
「ケガ人はいなさそうだなぁ、チョコを満喫するぜぇ!」
 戻ってきた人や仲間のケガの具合を見ていたジン。
 大丈夫そうだと判断して、トーリと一緒にチョコを満喫する為にお店へと向かっていけば、バーヴェンはこめかみを軽く叩く。
「―ム。オレは独り身の為ここは遠慮しよう、この空気を壊すのも忍びないしな」
 そう言ってバーヴェンは「また会おう」と残し、会場をあとにする。
 見送った他のケルベロス達は少しだけ悩んで、会場内を見渡す。
「沙耶、一緒にチョコ見て回りましょうか」
「そうですね、那岐」
 甘い香りが漂う会場で、那岐と沙耶が自分の愛しい人のことを思い出したのか微笑みあえば、
「せっかくのイベントだし、私もお世話になった人に渡すチョコ仕入れようかな……」
 あざとすぎるかな、なんて思いながら再び賑わう会場に波琉那も混ざっていく。
 ミレイも一段落してイベントを楽しむ仲間と共に移動する。
 試食のチョコを貰い、無表情だがそれでも美味しいチョコに、ミレイは満足そうにしている。
 美味しいチョコを手にする幸せを守れたことに安心しながら、ケルベロス達はイベントを堪能するのであった。

作者:猫鮫樹 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年2月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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