水分補給と言うからには、コイツだろう?

作者:久澄零太

「最近さ、何かが間違ってると思うんだ……」
 ため息を溢す鳥さんは二リットルの水ボトルをてしてし。
「コーヒーだの酒だの、嗜好品の多い事よ……健康志向飲料? ふざけてんのか? お茶? てめーに至っては元々薬だろうが!!」
 ぜーはー、叫んだ鳥さんは翼を広げ、信者達に向き直る。
「行くぞ同志達! 今こそ世の人々に、本来の飲み物は水しかないのだと伝えるのだ!」
『イェスウォーター! ゴードリンク!!』

「皆大変だよ!」
 大神・ユキ(鉄拳制裁のヘリオライダー・en0168)はコロコロと地図を広げて、とあるビルを示す。
「ここに飲み物は水しか認めないビルシャナが現れて、信者を増やそうとするの!」
「今回は静かに終わりそうですね……」
 シフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)は小さく鼻で笑い、敵の首を速攻で獲る瞬間でも想像したのだろう。今回の事件には、とある地雷があるとも知らずに。
「信者は実際に持ち込んだ飲み物をお勧めすることで目を覚ましてくれるんだけど、その中でもお酒とか、コーヒーとか、いわゆる嗜好品だと効果的なの」
 ここだけ聞いて、目を輝かせる番犬もいたが、ユキが半眼ジト目でじー。
「信者に飲ませようとするとビルシャナが襲いかかってくるから、自分達で飲んじゃったほうが速いんだけど……酔いつぶれたら元も子もないんだからね?」
 と、ここで遠い目をしている四夜・凶(泡沫の華・en0169)を示し。
「一応、凶もついていくけど、あくまでも何かあった時のための保険みたいなものだから、ちゃんと自分で戦うんだからね?」
 じーーー。たまーに酒癖の悪い番犬もいるせいか、ユキの視線は冷たい。
「敵は水以外の飲み物を飲ませようとすると襲いかかってくるけど、持ち込むだけなら別に大丈夫みたい」
 ていうかそれができないと、自分で飲む事もできないもんね。
「今回の事件て、雰囲気的に緩く感じるけど、皆がこうやって集められてる通り敵が危険な相手って事は確かなんだからね? ちゃんと自覚してね?」
 しっかり釘を刺してから、ユキは番犬達を見送るのだった。


参加者
ユーフォルビア・レティクルス(フロストダイア・e04857)
上野・零(焼却・e05125)
セット・サンダークラップ(青天に響く霹靂の竜・e14228)
篠村・鈴音(焔剣・e28705)
白焔・永代(今は気儘な自由人・e29586)
ノアル・アコナイト(黒蝕のまほうつかい・e44471)
アーシャ・シン(オウガの自称名軍師・e58486)
犬飼・志保(拳華嬢闘・e61383)

■リプレイ

●太陽機は喫茶店じゃない
「ユキちゃんって飲み物は何が好き? こういうのとかどうー?」
「ココア!?」
 白焔・永代(今は気儘な自由人・e29586)が持ち込んだココアをちびちび飲むユキ。猫舌を思わせる姿を、淡く微笑んで見守る永代。
「お酒とかはまあ、来年か。凶が弱い分、ユキちゃんは飲めそうな気がするし、機会があれば一緒に飲めると良いよねん」
「どうかなー……実際に飲んでみないと分からないかも?」
「それ、最初は絶対外で飲んじゃいけないパターンだからねー?」
 ユキを気遣うユーフォルビア・レティクルス(フロストダイア・e04857)が半眼ジト目だが。
「大丈夫、最初にお酒を飲むときの恐さは良く知ってるから……」
「何故俺を見る?」
 虚ろな目をするユキに凶が首を傾げ、アーシャ・シン(オウガの自称名軍師・e58486)がぽそり。
「飲ますのは私は止めないけど、本人が飲むの避けてるのなら……一口で潰れるとか、逆に酒乱の気があるとかかも? まあ、自己責任でね」
「なんのことかにゃー?」
 ユーフォルビアが目を逸らすと、ユキにコーンポタージュの缶を投げ渡して。
「それお土産」
「わ……ありがとー!」
 ココアを溢さぬよう、片手で受け取ったユキは缶を振り回すようにして手をぶんぶん、見送られながらユーフォルビアが降下。
「行ってきまーす!」
 ここまでは平和だったんや……。

●お酒は大人になってから
「行くぞ同志達! 今こそ……」
「経費で酒盛りの時間だ、いえー!!」
 ガシャーン! 今回の現場はビルのとある一階層。酒を手にしてテンションの上がった永代が窓をカチ割り、ダイナミック駆けつけ一杯。
「カーッ! やっぱまずはビールだよな!!」
『教祖様ー!?』
 ガラス片がめっちゃ突き刺さって、鳥オバケから針鼠オバケにジョブチェンジした異形を踏みつけて、大ジョッキを呷った永代に信者が絶叫。なお、一気飲みは内臓が地獄化して分解能力がアホみたいに高いからできる芸当です。一般の方は決して真似しないでください。
「さて、どれにしようかしら……」
 一升瓶とか焼酎、ウイスキーのBIGなボトルとか持参したアーシャが自らのラインナップを前に品定め。ちなみに、分からない人の為に言っておこう。こいつが持ち込んだ酒、種類を上げた三つだけで十キロ近い重量があります。まぁ鬼人だからね、怪力だからね……いや待って、折角の怪力を酒を持ちこむことに使うってどうなの!? しかも片手に十キロ超って、凄いような普通なような曖昧なラインじゃない!?
「細かい事はいいの! さぁ、飲むわよ!」
 給仕服で枡を掲げるアーシャ……お前が飲むんかい!?
「飲むのが至高なんでしょ?」
 俺に言ってるのか信者に言ってるのか分かりにくいが、アーシャは信者にヘッドロック。
「なら、お酒に決まってるだろ。飲みニケーションって奴よ?」
「いつの時代の話!?」
 最近は色々煩くなったからねぇ……しかし、この手の番犬に社会常識は通じない。
「確か日本では、枡の縁に塩を盛って、それを嘗めて日本酒を飲むって……なんとか書房の本で読んだわ!」
 アーシャ、何かを勘違いしてない?
「夏の方が美味しい気がするけど、お約束って大事だよねん」
 ビールを飲み終えた永代がアーシャの日本酒に目を付けた。
「次は日本酒でー、緑茶で割った物を幾つか作ろっかな。こういうのだと見た目で気付かなかったりするよねん。味もそこまで酒って気がしないし」
 ここで永代の目が怪しく光る。どう見ても悪戯を思いついた顔です。
「ほら飲みなさいよ。塩と日本酒って結構合うのよ?」
「それ絶対間違って……んー!?」
 枡の角に塩を盛って、それを舐め、縁から日本酒を飲むものらしいが……お気づき頂けただろうか? アーシャは枡の『縁』の方に塩を盛って、『角』から一気に塩と日本酒を飲ませている事に。
「誰か……水を……!」
「んもう、お酒に弱すぎじゃない?」
 過剰な塩分にやられてビクンビクンしてる信者を、既に酔いつぶれたと勘違いするアーシャ。良い子は真似しないでね! ていうか、塩普通に多くない? もはや枡が別の器みたいになってるんだけど?
「そりゃ、たくさん持ってきたもの。使わないと損じゃないかしら?」
 業務用二十五キロ袋……お前バカだろ!?
「水は命の源とは言うっすが、心の潤いは水だけでは補給できない時もあるっすよね……その時こそ嗜好品っす!」
「んなこたいいから水をくれって……」
 既に虫の息の信者にセット・サンダークラップ(青天に響く霹靂の竜・e14228)は『Early evening』と銘打たれた淡い藍色の酒を取り出して。
「アーリーイブニングっていうスパイスドラムっす。いい匂いのするラム酒で、いい感じの甘みもあるっすよ! アルコール度数も低くて目にも美しく、いっぱい飲めるおいしいお酒っすよー」
 で、セットが取り出したのはアイスクラックと呼ばれる、意図的にヒビを走らせたグラス。
「綺麗なグラスに注いだりなんかして、グラスに沿って変わる形と、光を透かして変わる色を楽しむのも一興っす」
 酒を注げば、無数に入ったヒビがキラキラと藍色を反射して、淡い藍の中に濃い青を走らせる幻想的なグラスに。
「こういうのもあるっす」
 続いて出てきたのは厚底のグラス。酒はやや少なめに入るが、入った色が下部の厚底部分に透過して、青富士を浮き彫りにするという遊び心を忘れないもの。
「見てよし、飲んでよし、これは絶対水にはできないことっす!」
 最後に無数の紫陽花の彫刻が施されたグラスに酒を注いで、うっとりと眺めてから飲み干したセット。その様子を見ていたアーシャがすすすと近づき。
「セットさんグラス空いてるわよ?」
「あ、申し訳ないっす」
 飲み干したセットのグラスにアーシャが追加を注ぎ、同じノリで飲んだセット……しかし、これが彼の運命を分けた。
「……けふっ」
 妙に酒臭い吐息を溢したかと思うと、ふにゃん。セットが溶けた!?
「あら、随分と勢いよく飲むから強いのかと思ったけれど……もしかして、あんまり強くない?」
「自分、そんなに強くないっすー」
 舌はまだ回るが、骨だけ抜き取ったようにぐでんぐでんに潰れたセットに、アーシャは逆にビックリするのだった。

●ダメな大人に振り回される子ども(成人含む)
「……皆さん、飲む気満々ですね」
 既に一名はダウンし、樽で飲み始めるアーシャと、それを囃し立てながらウォッカをショットグラスでわんこそばの如く飲み始める永代を眺め、犬飼・志保(拳華嬢闘・e61383)は遠い目。
「ソラマル、あなたはあんな大人になってはダメよ?」
 姐さん、そもそも自分は飲めません。って顔する翼猫をぺチペチして、二リットルの水のボトルを、アーシャに大量の塩を盛られた信者の口にぶち込んだ。
「……『水中毒』って知ってますか?」
 待って志保さん、信者さんむせてる、一旦ボトルを離してあげて?
「重症の場合だと死に至る中毒症状の一種らしいです」
 志保さん? 聞いてる? 信者めっちゃ青くなってるよ?
「酒やコーヒーだけでなく、水にも中毒症状がありますし、熱中症に対しては水を飲むだけでは、むしろ逆効果なんです」
 志保さん!? ボトルをぐりぐり回すのやめてあげて!? 流れ落ちる水の速度が上がって、信者の口からめっちゃ水零れてるよ!?
「最近は経口補水液という物もありますけど、これも認めませんか?」
「取りあえずお前のやってるそれは拷問だからな?」
 水を飲み過ぎる事のリスクを語られながら、一気に水を流し込まれる信者は気絶して白目を剥いていた。鳥オバケもうわぁ、とドン引きする所業を成し、志保は首を傾げ。
「水、欲しかったんですよね?」
「限度があるっつーの!?」
「……水ばっかりだと飽きるのになぁ……氷は彼ら的にありなんだろうか…」
 そもそも氷は飲み物じゃない。そんな事はさておき、鳥オバケをジッと見つめる上野・零(焼却・e05125)はお茶を一杯。
「……お茶が薬、そこは否定しないとも」
 一見、新手の信者感漂う零に鳥さんも「おや?」って顔をするが。
「……でもいいじゃないですか飲めるお薬……後、美味しいですし……健康にも良いなら万々歳じゃぁありませんか……ほら、美味しいですよ、存外」
 ぐいー、ぷふぅ。仕事ほっぽり出して飲んでる二人組に負けない勢いで飲み干して、表情筋が死んでいるのか、凄くわかりにくいため息を溢した零は満足げ(当社比三十パーセントアップ。元がゼロだから意味ない? 雰囲気だよ雰囲気!)。
「薬も確かに毎日飲むかもしれんが、喉が渇いて薬を飲む奴なんてい」
「私のオススメは紅茶です」
「話を聞いて!?」
 鳥さんの反論をぶった斬った篠村・鈴音(焔剣・e28705)は、両手で赤いお茶の入ったティーカップを支えて。
「ミルクやレモンで味付けしたり、ハーブティーやフルーツティーなんてのもあります。シナモンを入れても美味しいですよ。水にフレーバーはありませんよね?」
「……お茶ならなんと、同じ茶葉から三つの味が……」
 ウーロン茶を淹れて並べる零に、鈴音は眼鏡を置いて。
「今なら眼鏡もついてくる!」
「なんで!?」
 訳の分からないオマケに鳥オバケがツッコミ、鈴音はむしろ「お前こそ何言ってんの?」って顔で片脚を引いた。
「眼鏡ですよ? これ一つで七つ道具……いえ、眼鏡そのものとしての役割もあるから、実質八つ道具ですよ!? 限定五つの数量限定商品ですよ!?」
 こっちだと装備欄は五つしかないからのー。
「いらねぇよ!?」
 しかし鳥さんは裸眼で十分。鳥目? 鈴音、それ暗視機能は?
「眼鏡に普通そんな物付けますか?」
 七つ道具になってる時点でどうかと思うよ?
「……そもそもですね」
 何やら眼鏡に持っていかれた流れを、零が引き戻し、シルクハットの宣伝でもするのかと思いきや。
「……大体の飲み物に通じますけれど、大概の飲み物って水使ってるじゃないですか……インスタント系だと特に……したこと、ないですか?」
「はうぁ!?」
 ある意味核心を突いた一言に、鳥オバケに電流が走る!
「……一度も使ったことないなら言っても構いませんが……そうじゃないなら言うのもあれだと思うんです」
 シラー……虚ろな紅白の瞳が異形を捉え、想定外の刺激を受けた鳥オバケはフルフル。
「つまり、この世の飲み物は全て水だったのかー!?」
「……あれ?」
 テメェ見事に地雷踏み抜きやがって。これどうすんだよ?

●鳥さんがお仕事しなくなった件について
「いやぁ、結局は嗜好品なんだから、これ以外飲むなと言われてもねー」
 ユーフォルビアは首を傾げつつ、目の前でこの世の飲料は全て水だったと悟りに至り、もうお帰り頂くカウントダウンが始まって後光が差してる鳥オバケに向けて。
「あ、そうそう、ちょっと聞きたいんだけど、コーンポタージュは?」
「水である」
「お味噌汁とか、ラーメンのスープとかも」
「水である」
「食べると言うか、飲むって形容出来る物だし、これも全部水だって言うの? もしそうなら、ラーメンは何て頼めばいいの?」
 どこぞのシルクハットが地雷踏んだせいで、依頼の趣旨が変わってしまった今回の鳥さん。ユーフォルビアの質問にも、穏やかな顔で翼を広げて。
「全て水である。しかし、味噌や醤油で味付けされた水である。即ち、今まで通り注文するがよい……」
「水、水と一口に言いますけどね! 一括りにしないでください! 硬度とかいっぱいあるんですよ!」
 上手くまとまりそうなこの流れに、更なる爆弾をぶちこみやがった小娘(成人済み)、ノアル・アコナイト(黒蝕のまほうつかい・e44471)は持ち込んだガスコンロに寸胴鍋をセット。
「水質や汚染具合で、こうしてお茶を沸かしたりアルコールで消毒しないと水も飲めない地域だってあるんですよ!」
「……つまり、物が違えど結局水では?」
「そう思うなら泥水をすすればいいんじゃないかな?」
「せせり!?」
 余計な一言を言ったばかりに、ユーフォルビアから蹴りが飛んできた鳥オバケ。地面に這いつくばるが、生憎泥水はない。
「その同じ水を飲む為にも、水道の蛇口をひねるだけの人もいれば、多大なリスクを背負わないといけない人もいるんです。この世の全て(の飲料)が水だなんて、横暴です!」
 などと叫ぶノアルは水と鰹節と鍋に入れて一煮立ち。沸騰前に鰹節を取り除いてワカメを加えて火を弱火に。味噌をゆっくり溶かしつつ。
「つまり、水の中でも飲める水と飲めない水が……あれ、なんでお味噌汁に……?」
 お前の横で漂ってる、まん丸の怨霊がカレールーを食べちゃったからじゃないか?
「と、とにかく! 水にも色々あるんです!」
 翼パタパタ。衣服の布面積を犠牲にして(?)翼を形成したノアルが味噌汁の香りを届けるが、信者にはあまり意味がない。と、いうのも。
「おぉ、この世に水が溢れているというのに、水は水であって水ではないというのか……!」
 鳥さんがこのザマやねん。まさか教義の根本をへし折りに行くとは思わなかったわ。
「ボクは?」
 すまんユーフォルビア、お前がツッコミを入れる前に片がついた。恨むならそこのシルクハットを恨め。
「……私は綺麗なシルクハット、悪いシルクハットじゃないよ……」
 そっと後退する零が、永代に捕まった。
「うえーい、上野ものめよー。お茶なら飲めるっしょー? うれうれー」
「……お茶?」
 嫌な予感しかしない零のコップに、鈴音がコポコポ。
「どうぞ、緑茶割りが混じってましたから、ちゃんと入れ替えましたよ」
「……そうですか」
 永代の悪戯が速攻でばれており、代わりに紅茶で乾杯した零がコップに口をつけ、数秒後。左右にフラフラ。
「……これ、紅茶?」
「逆に俺の方ただのお茶なんだけど……鈴音ちゃん、俺が紅茶にウォッカ突っ込んだ奴と、ただの紅茶、逆に淹れてない?」
「あれ?」
 すんすん、注いだものの香りを確かめる鈴音は、ニコッ。
「紅茶が好きすぎて点滴してる人もいるって噂もありましてね。それに、紅茶はポリフェノールで健康にもいいと至れり尽くせりです。皆さんもいかがでしょうか?」
 オイコラ話題を逸らすな。テメー普通の紅茶と紅茶割りを間違えたな?
「ごめんなさーい! だって眼鏡がいつもと違うから、説得の時に眼鏡を置いて、今予備の方をかけてるから……!」

●ワイングラスとかの方がカッコよかった
「とりあえず、鳥オバケは始末しましょう……」
 志保は焼酎って書かれた四リットルのボトルを一気に飲み干して、ぷはぁ……呑兵衛臭いため息を溢して体を不規則に揺らし、軽く拳を握る。
「オラ~、全員纏めてかかってきなさい~」
 泥酔状態に見えますが……安心してください、お水です。ていうか、呂律が回り切ってない口調なのに明らかに素面だから、見りゃ分かるけども。
『教祖様、呼んでます』
「え?」
 関わっちゃいけない予感がした元信者が一斉に道を開き、一人で唸ってた鳥オバケが志保に気づいたが。
「あたしからの口付け、その身で味わいなさい!」
 重力鎖の残滓が舞い散る羽根の如く、志保の軌跡を残して彼我の距離は既にゼロ。片脚を軸にして関節をリコイルに、蹴りを弾丸に、その身を機関銃にして九秒間の連続蹴り。
「……チュッ」
 刹那、動きを止めた志保がキスを投げ、フィニッシュの蹴りが深々と異形の胴体を抉り、ジャスト十秒。重力鎖を霧散させ、残身を取る志保の前で鳥オバケは空の彼方へ旅立って行った。
「酷い事件でしたね……」
「お疲れさまでした~」
 遠い目をする凶にノアルが水? を差し出すも。
「……それお酒ですよね?」
「うっ、目ざといですね……」
 速攻でばれてしまい、仕方なく自分でくいっと。
「……寒いよぉ」
「おっと?」
 一発で酔ったノアルは女性らしい姿へ変わると、更に角が伸びて鋭く、髪は腰下まで長くなる。かと思えば凶の番犬外套を奪い、くるりと身を包む。
「やれやれ……」
 丸まってしまったノアルにため息を溢す凶へ、ユーフォルビアがそっと何かを差し入れ。
「ほら、四夜さんもお疲れ様ー」
「あ、どうも」
 アルコール臭がしない事を確かめてから口に含んだ凶を確認して、ユーフォルビアが脱兎。
「何ですかこれ……」
「生水は絶対に口にしちゃ駄目、山育ちのノアルとの約束だぞ☆」
 顔をしかめる凶に、ノアルがウィンク。しかし、奴の視界に入ったのが彼女の運の尽き。
「へぇ、約束を守れないとどうなるのかな?」
 そっと、凶の腕がノアルの肩と腰に回され、後ろから抱きしめ耳元で囁いた。
「……え?」
 事態の異常性に気づいたノアル、酔いが吹き飛ぶも時既に遅し。
「凶が酒ネタ……バナナイーターぶり? 懐かしいや」
「前にもあったんですか?」
 日本酒を片手に遠くを見る永代に、鈴音が酌をするとそっと目を閉じて。
「あの時は酷かったよ……依頼繋がりでユキちゃん達と知り合って、もう二年は経ったんだね。何か時間の流れを感じる……」
「お酒って恐いですね」
 酔ったフリをしていた志保が、ビールに似せたオレンジスパークリングをくぴくぴ。詳細は割愛するが、真っ赤になって痙攣するノアルを遠目に見やる。
「みんな……俺の事……忘れてないっすか……?」
 そんな中、速攻でダウンしたセットは一人静かに涙して、ソラマルに水を運んでもらったとかそうでもないとか。

作者:久澄零太 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年2月9日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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