無慈悲な機械の少女

作者:MILLA

●情報を統べる美少女
 蜘蛛の如き小型ダモクレスが目を付けたのは打ち捨てられていたパソコンだった。機械的なヒールによって作り変えられたそれは、美少女型のダモクレスと化した。
 醒めた瞳の、無表情な少女は自分が何をすべきか心得ていた。
「……南西に1.2キロ。ターミナルステーション。帰宅ラッシュ時。大量の人間の虐殺が可能。LX-104起動」
 LX-104は彼女の元となったパソコンの型番。
 ネットでターミナルステーションまでの最短距離を割り出し、美少女型の殺戮兵器は動き出した。

●予知
「捨てられていたPCがダモクレスと化してしまう事件が予知されました。ダモクレスは帰宅ラッシュ時のターミナルステーションに出没するようです。放置すれば、多くの人々が犠牲になるでしょう。その前にダモクレスを撃破して欲しいのです」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が熱心に説明する。
「ダモクレスは、情報を収集、解析して、対応してくるでしょう。緻密な計算のもとに戦うので、生半可な攻撃では見切られてしまうでしょう。相手の計算を上回る連携なり意外性なりがないと、勝機は見出せないかもしれません。なお、戦闘中に一度自身をアップグレードして、すべての能力値を高めてくるようです」
 セリカは拳を固めた。
「相手の計算速度を凌駕する攻撃で、被害が出る前に敵を撃破してください!」


参加者
大義・秋櫻(スーパージャスティ・e00752)
ユーリエル・レイマトゥス(知識求める無垢なるゼロ・e02403)
カトレア・マエストーゾ(幻想を紡ぐ作曲家・e04767)
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
七隈・綴(断罪鉄拳・e20400)
綾辻・翡翠(戦銃士・e56530)
肥後守・鬼灯(毎日精進日々鍛錬・e66615)
旗楽・嘉内(魔導鎧装騎兵・e72630)

■リプレイ

●線路を駆ける少女
 快速電車がごうっと駆け抜ける。複数の線路が複雑に交差する一帯。ターミナルステーションからおよそ500メートル離れたその場所でケルベロスたちは敵を迎え撃つ布陣を敷く。
「ここが接敵するのにベストなポイント……。これ以上ターミナルに近くては、駅に被害が出る可能性……。反対に遠ければ、住宅地に被害の可能性……」
 ユーリエル・レイマトゥス(知識求める無垢なるゼロ・e02403)が予知による敵のおおよその位置情報からマッピング、計算して結論を結ぶ。
「今回は少し急過ぎましたね。一応駅に連絡はしましたが、今からここを通る路線をストップするのは難しいみたいです」
 肥後守・鬼灯(毎日精進日々鍛錬・e66615)が難しい顔をする。
「大丈夫です。同じく機械としての演算能力を持つものとして、また正義の味方として絶対に見過ごせません。敵は絶対にここで食い止めます」
 その力強い言葉に、鬼灯は振り返るが、スーパージャスティこと大義・秋櫻(スーパージャスティ・e00752)の露出の高い姿に目のやり場に困ってしまう。
 プライド・ワンのヘッドライトが赤に点滅した。危険を知らせる合図だ。
「どうやら敵が迫っているみたいですよ」
 機理原・真理(フォートレスガール・e08508)が前を向く。そちらから時速100キロを超えるスピードで迫ってきていたのは新幹線。その先頭車両に平然と佇んでいる少女の姿があった。
 少女の瞳に電光が走り、対象を認識した。
「前方に八人のケルベロス確認……レプリカント3、地球人3、シャドウエルフ1、オラトリオ1……敵性対象として排除にかかる」
 LX-104が新幹線から飛び降りた。宙でケルベロスたちに狙いを定める右腕に銃口が立ち上がり、光線が放たれる。
「みなさん、気を付けて!」
 七隈・綴(断罪鉄拳・e20400)の声がかかるのと同時に、ケルベロスたちは大きく飛びのいていた。
 目の前に着地したのは、可憐な少女。だが、おそらく心は持たない。その表情は恐ろしく無表情だった。
「機械の少女ですか。見た目に騙されてはいけませんね。相手は私たちと敵対するダモクレス、決して負けませんよ」
「何故PCが美少女になったかはわかりませんが、捨てられた上にダモクレスに操られて戦うなんてね。もちろん、同情を抜きにしても、ターミナル駅での虐殺なんてやらせるわけにはいきません」
 旗楽・嘉内(魔導鎧装騎兵・e72630)がふうとため息をつく。それは同情心によるものなのか、それとも働きたくないという怠惰な心によるものなのか。
「この手の事件が起きる度に思うけど、元の機械に罪は無いからねぇ……けれど、そう悠長なことも言ってられないようだ」
 そう呟くカトレア・マエストーゾ(幻想を紡ぐ作曲家・e04767)に向けられた少女の銃口。
 カトレアはレーザーから身を躱し、風に靡いた髪に手をやった。
「風の音と、機械の電子音と、電車の走る音。さて、どんな音楽を奏でるんだろう? さぁ、舞台は整った。開演といこうか」

●計算の上に紡がれる世界
「結構かわいいね。敵じゃなければ仲良くしていきたいけど、そんな余地もなさそうだね。どんどん行くよ!」
 綾辻・翡翠(戦銃士・e56530)が構えたリボルバー銃が火を噴く。弾丸の軌道を瞬時に計算、紙一重で躱したLX―104はハンド・レーザーを彼女に向ける。そうはさせまいとカトレアが楽譜を介して巫術を操る。進撃のアレグレット。竜の姿をした御業が召喚され、砲弾を吐き出す。
 着弾位置を予測した機械の少女はあえて前進、砲弾をすり抜け、ケルベロスたちに迫る。立ち塞がったのはスーパージャスティと真理のレプリカントコンビ。
「パソコンの頭脳に計算勝負は大変かもですが、皆を守る為なら勝って見せるです!」
 貫手で致命傷を狙う真理。反転して躱しざまに蹴りで応戦するLX-104。そこに割り込むスーパージャスティ。互いの手を読み合い、計算し合い、三者入り乱れての一進一退の攻防。
「目には目を、機械には機械を。いかに相手の演算能力が高かろうと、私も負けていないはず!」
 ついていける! その実感とともにスーパージャスティはアームドフォートを展開、至近距離での一斉発射!
 LX-104は後退せざるを得ない。大きく飛びのき、走行してきた電車に飛び乗る。
「情報遮断フィールド展開……」
 サイバー空間に展開されるフィールドによって、二人の計算処理速度が落ちる。それでも――。
「逃がさないです」
 真理とスーパージャスティは追いかける。行き交う電車の車両の上を飛び移りつつ、激しい攻防がつづくが、それ以上に互いの手の読み合いは錯綜、激化していた。
「なんていうか……人間にはついていけない戦いが繰り広げられているっぽいですね……楽でいいけど」
 と嘉内が洩らすと、鬼灯はちいさくうなずき、
「僕も機械はあまり詳しくないですけど……とにかく大義さんたちのサポートに回りましょう」
 と答えを返している間にも味方を保護する守護星座を地に描き、嘉内は私もどっちかというと魔法の方が好きなんだけどなあとぼやきつつ、ヒールドローンを飛ばす。
 さて、もう一体のレプリカント・ユーリエルは。敵機体の戦闘能力、行動パターンを分析しつつ、自身の演算能力、処理速度を徐々に高め、機会をうかがっていた。
「計算完了。私と貴女の計算能力、どちらが上か勝負です……」
 車両を飛び移りつつ戦う三人の間に躊躇なく飛び込んでいくユーリエル、
「【チェインアーム:起動】……見えます、貴女の行動、思考が……」
 放たれるヴァーチャルの鎖が、LX―104を捕縛する。
「捉えました!」
「いきますです!」
 スーパージャスティと真理が同時に放った一撃が機械の少女の胸を完璧に捉えた。
 車両の上から弾き飛ばされ、地を転がる。相当なダメージがあったはずだ。しかし少女の顔色は変わらない。何事もなかったかのようにけろりとして立ち上がる。
「一瞬ではあるが、お前たちの計算能力が私を上回った。いわゆる計算外……。だけど二度目はない。お前たちの計算能力が私を凌駕することも……」
 機械の少女の瞳に灯った不思議な光が回転を始めた。歯車が回るようにだ。
「何が起こっているのでしょう?」
 綴が警戒した。
「風向きが変わった感じだね。紡がれていく旋律が速くなっていくみたいだ」
 カトレアが自身の肌で感じられるのは音楽的な感覚だったが、それはあながち間違ってはいなかった。
「メモリ容量クリア、パフォーマンスクリア……アップデート完了。目標殲滅予定まで3分21秒……」
 アップグレードを完了した機械の少女のまわりを電子流の渦が走った。

●不確定なセカイ
 LX-104が線路を滑り出す。さっきまでと比べて格段に速い。スーパージャスティと真理は身構える間もなく吹き飛ばされる。
 ユーリエルは急ぎ、敵戦闘力の修正に取り掛かる。だが、情報にアクセスできない。ネットワークはすでにLX-104に抑えられていた。
「なら、あなたの強化を解除するだけ……」
 ジェットエンジンで加速、強化を解除する一撃を叩き込むも……。
 効果が感じられないばかりか、反撃にあって地を転がる。
「強化解除不可……」
「なら!」
 と綴が全身にオーラを漲らせて飛び掛かる。
「魔術がテクノロジーを凌駕するのを見せてあげます! まずはその機動力を奪ってあげます、この蹴りを受けなさい!」
 飛び蹴りからの連続キック。LX-104は見切って躱すが、綴は食い下がる。そこに翡翠も加勢する。
「これならどう? 早撃ちは、ボクの得意分野だよ!」
 リボルバーでの連射。その弾丸さえ、くるりと踊るように回ってすり抜けてくる機械の少女。
「やれやれ、まるで映画の世界じゃないか」
 カトレアが楽譜をめくる。
「テンポが速過ぎるね。ちょっと動かないでもらえるかい?」
 巨大な手が空間の裂け目から顕れ、LX-104を鷲掴みにする。小柄なアンドロイドはその手の中に埋もれた。このまま亜空間にでも連れて行ければ、ジ・エンド。
 だが、そう簡単ではなかった。レーザーが手を貫き、木っ端微塵に吹き飛ばした。
 巻き上がった爆風から身を護る鬼灯、
「可愛い見た目に反して、物凄い破壊力ですね……!」
「ええ、やっぱり楽はできなさそうだ……」
「とにかく僕たちにできることを精一杯こなすしかありません! 援護に徹しましょう!」
「了解です」
 仲間たちを守るため光の盾を展開させていた嘉内だったが――。
 LX-104のレーザーガンに肩を撃ち抜かれる。
「嘉内さん!」
 鬼灯が急ぎ駆け寄る。傷口からは血があふれていた。
「すぐに手当てを!」
「くそっ……!」
 嘉内が悔しそうに呻いた。
 交差する電車が一旦ケルベロスたちとLX-104を隔てた。
「く……ほんとになんて速いんだ! ちっとも掴まんないよ!」
 弾込めしてどんどん撃っていくが、軌道はすべて読まれている。翡翠にとって、ガンスリンガーにとって、かつてこんなにやりにくい敵がいただろうか。
「何かきっかけが掴めないと、相手を捉えるのが難しいですね」
 綴は肩で息をしていた。
「たとえ演算能力で負けても、戦いに負けるわけにはいかないっ!」
 果敢に打って出たスーパージャスティ、アームドフォートを展開、至近距離からの全力射撃!
 だが、それもどれほど効いただろう? 巻き上がった爆風から飛び出した少女がユーリエルに迫る。
「これで二体目……」
 狙いを定めて放たれたレーザーは、しかし、庇いに入った真理が受けた。
 左腕を押さえて真理は立ち上がる。
「傷つけさせませんです。私が守って見せるですよ……!」
 機械の少女は首をかしげる。
「なぜ……? どうしてそんな無駄なことを? お前たちはみんな排除されるのに、どうして……?」
「排除されんのは、貴様だ!!」
 その叫びとともに視野の外からLX-104に蹴りを浴びせたのは、嘉内だった。
「これ以上はやらせないぞ!!」
「お前はダウンしたはず……なぜ?」
「やるときはやるんだよ!!」
 計算外の事象が起こったことにLX-104は戸惑ったのだろう、一瞬だが、隙が生じたのだ。
「今です、みなさん! 攻撃を!」
 鬼灯はそう号令をかけるとともに、オウガ粒子を放出、仲間たちの感覚を研ぎ澄ませていく。
「ここらで幕を引こう。いびつなリズムに歪んだ疾風。……さぁ、ついてこられるかい?」
 カトレアの指が楽譜を辿ると、ファンク調の楽曲が風の中に鳴り出す。すると、白い鴉型の式神を召喚され、音楽の風と共に敵に向かう。
 式神から逃げ惑うLX-104。その背後に綴が迫っていた。
「私でも、やれば出来るのです!」
 急所を突く、凍てつく一撃に、足が止まった。
「不確定要素発生……計算し直す必要性確認……」
「させませんです!」
 サイバー空間を走るストラグルヴァイン。真理が放ったそれは、敵の思考を縛る。
「計算能力の落ちた今の貴方なら!」
 ア-ムドフォートの機動力を全開、スーパージャスティがLX-104を捉える。
「近接高速格闘モード起動。ブースター出力最大値。腕部及び脚部のリミッター解除。対象補足……!」
「【EX・スナイプ】ヒット……。狩人の『眼』の前では、貴女はただの獲物に過ぎません……」
 ユーリエルの一房の髪色が鉄黒へと変わる。片眼鏡をサーチモードに変え、敵の弱点となる一点を撃ち抜くための計算を開始。
「そこです!」
 二人の声が重なった。
 岩をも砕く破壊力を持つスーパージャスティの蹴りと、ユーリエルの必殺の拳。
 その挟撃にLX-104の機動は停止しつつあった。
「なぜ……? 不確定要素多発……計算不可……」
「不可能を可能にする! それがボクらケルベロス!」
 翡翠がリボルバー銃に一発の弾を込め、にやり。
「霊体を込めた弾丸だよ、機械の体にエクトプラズムなんてどう?」
 胸を貫いた弾丸、そこから走ったエクトプラズムの光がLX-104の全身をめぐり、コアを砕いた。機械の少女を構成していた要素が分解されていく……。
 カッと光の柱が天に伸びた後、そこに落ちていたのは、壊れたノートパソコンだった。

●今はもう動かないPC
「戦闘終了。今回の戦いで得たデータを基にアップデートを開始します」
 戦闘態勢から自身を解除するユーリエル。
「はあ……なんとか終わったか」
 嘉内がぐったりと肩を落とす横で、カトレアが長い髪を払った。
「電子音が程よく絡んだなかなか面白いハーモニーだったね」
 鬼灯が壊れたパソコンを拾う。
「どうしたんです、鬼灯?」
 スーパージャスティの問いに、鬼灯は振り返る。
「このパソコン、直せるでしょうか? 不本意な出会い方しかできずに破壊するより他になかったですが、やり直しの機会があれば……そう思うんです。修理ができそうなら僕の家で使わせてもらおうと思います」
「……微力ですが、私が修理のお手伝いを致しましょうか?」
 そう申し出たユーリエルに、鬼灯は、「ぜひお願いします」とあどけない笑顔を向けた。

作者:MILLA 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年2月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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