ヒーリングバレンタイン2019~花咲ける獅子道

作者:土師三良

●音々子かく語りき
「がうがうがー」
 ヘリポートに召集されたケルベロスたちの前でヘリオライダーの根占・音々子が奇声を発した。片手に嵌めた靴下製のマペット――猫とも犬ともつかない可愛くも不格好な動物の口をパクパクと開閉させながら。
「今年もバレンタインの季節がやってきましたね。さて、バレンタインといえば?」
 ケルベロスたちに問いかけて、マペットを嵌めていないほうの手を耳の裏にあてる音々子。
 そして、満足げに『うんうん』と頷き(誰も答えを返していないのだが)、話を再開した。
「そう! 毎年恒例となっている復興イベントですよねー。というわけで、解放されたミッション地域を皆さんの手でヒールしてください。がうがうがー」
「いや、ヒールするのはいいんだが……そのガウガウ鳴いてる靴下人形はなんなんだよ?」
 と、ケルベロスのヴァオ・ヴァーミスラックスが尋ねたが、音々子は華麗にスルーした。
「解放された地域は沢山ありますけど、私がお誘いするのは沖縄県中頭郡の北中城村(きたなかぐすくそん)です。くそったれなシャイターンが焼き払いやがったヒマワリ畑を重点的にヒールしてください。ちなみにすべての畑が焼かれたわけではありませんから、ヒールしながらヒマワリを観賞することもできますよ。夏の花を冬に愛でることができるのも沖縄なればこそですねー。がうがうがー」
 ヒールだけではなく、解放に伴って帰ってきた避難民や周辺の住民や旅行者たちにチョコレートを配布するイベントもある。配布会場は、沖縄市久保田と北中城村にまたがるショッピングセンターの駐車場の一角だ。
「でも、ただ配布するだけでは芸がありませんから、沖縄色を出すべく『シーサー』をフィーチャーしましょー。チョコの包装やチョコそのものにシーサーの意匠を施すもよし、シーサー関連のおまけを付けるもよし、シーサーっぽいコスプレをするというのも受けるかもしれませんね。がうがうがー」
 音々子はマペットを突き出して、今まで以上に激しく口をパクパクさせた。どうやら、そのマペットはシーサーを模したものだったらしい。
「うーん……『沖縄=シーサー』という発想はちょっと安直なんじゃね?」
 ヴァオが首をかしげて意見を述べたが、音々子はまたもやスルーして、片手に宿ったシーサーの勇ましい咆哮を響かせた。
「がうがうがぁーっ!」


■リプレイ

●しーさー日和
 バレンタインデーにシーサーがやって来た。
 群れでやって来た。
 もっとも、その群れの中にはシーサーらしからぬシーサーも混じっていたが。
「テーマはシーサーだったのか……」
 シーサーたちが集うイベント会場――沖縄県北中城村某所のショッピングセンターの駐車場で、リーズレット・ヴィッセンシャフトは立ち尽くしていた。その身を包むのはシーサーではなく、黄緑の果実を模した着ぐるみ。
「な、なんだ、その格好は? ご当地のゆるキャラか?」
 体を退き気味にして尋ねる鍔鳴・奏の前で、リーズレットは両手と両膝を地につけて項垂れた。所謂『orz』である。
「シーサーとシークワーサーを間違えてしまったのたのだぁ」
「普通、間違えないだろ。『クワー』の部分はどこから湧いて出たんだよ」
「いや、しかし、うっかり者は私だけではないはず! きっと、うずまきさんもシークワーサーのコスプレを……はうあっ!?」
 一縷の希望を込めて瑞澤・うずまきに目をやったリーズレットであったが、その希望は粉々に打ち砕かれた。
 うずまきはしっかりとシーサーのコスプレをしていたのだ。しかも、シーサーらしく台座にちょこなんと座り、一般人にチョコを渡す際には手を使わずに口にくわえて差し出すという懲りよう。
「ん? しーくわーさー?」
 聞き慣れぬ単語にうずまきは首をかしげた。チョコを配る手(口)を止めて、スマートフォンで『シークワーサー』を検索。
「ふーん。そういうフルーツがあるんだー。リズ姉、めっちゃ物知りぃー」
「……」
 いい笑顔を見せるうずまきの前でリーズレットは完全に倒れ伏し、『orz』から太い横線に変わった(彼女の名誉のために断っておくと、『太い』が付くのは太っているからではなく、着ぐるみで着膨れしているからである)。うずまきの賛辞が決して皮肉や嫌味でないことは判っているが、だからこそ、逆にダメージが大きい。
「リズ様ったら……この分だと、今年も喪女確定ですわね」
 と、優しくも残酷な声で追い討ちをかけたのは琴宮・淡雪。ちなみに彼女が纏っているのは黒豹の着ぐるみ。シーサーの着ぐるみが見つからなかったので、これを代用品にしたのである。
『いや、喪女とか関係なくない?』などと反論される前にシーサーならぬ黒豹は人々にチョコを配り始めた。
「さあ、愛情たっぷりのチョコをもらってくださいな。よい子には二つ。ボッチにも二つ。そして、あきらかに妻帯者と判る殿方にはハート入りのおっっっきなチョコを一つ!」
「妻帯者って……夫婦間に修羅場が訪れるぞ」
 淡雪の行動に鼻白みつつ、奏もまた自分のチョコを配って回った。
「チョコ、いかがっすかー。シーサーの根付もついてますよー」
 願わくばその根付が夫婦円満のお守りとなりて、修羅場を未然に防がんことを。

「がうがうがー!」
 靴下製のシーサー・マペットの口を開閉させて、根占・音々子が吠えた。
「がうがうがー!」
 音々子に並んで、ミリム・ウィアテストも吠えた。同じようにマペットの口をぱくぱくさせながら。
 そのマペットを横からリリエッタ・スノウがじっと見つめている。
「むぅ。へんてこな顔だけど、よく見ると可愛いかも……」
 そう呟く彼女の鼻先にミリムがマペットを近付けた。
「ほーら、リリちゃんも一緒にがうがうがー!」
「うん」
 リリエッタは小さく頷き、自分のマペットを構えたが――、
「がうが……あう!?」
 ――シーサーの遠吠えを驚きの声に変え、ミリムの背中に隠れた。スマートフォンを手にした一般人に『写真、いいですか?』と話しかけられたからだ。
「あらら? リリちゃんって、意外と恥ずかしがり屋さんですね」
 ミリムは笑いながら、リリエッタを背中にかばった状態のままで音々子とともにポーズを決めた(その一般人が被写体として求めていたのはリリムとリリエッタだけであり、音々子のことは眼中にないようだったが)。
 そして、撮影を終えたその一般人にチョコを手渡した。
「どーぞ! シーサーの形をしたシークワーサー味のチョコです! 沖縄らしさマシマシですよー!」
 ここにリーズレットがいれば、感涙にむせぶことだろう。シークワーサーのネタを持ち込んだのが自分一人ではなかったことを知って……。
「リリも『沖縄らしさ』という点を意識してみたよ」
 ミリムの背後からリリエッタが姿を現し、一般人にチョコを差し出した。
「ゴーヤを使ったゴーヤチョコだよ」
「ゴ、ゴーヤ!?」
 ミリムが目を剥いた。
「……」
 一般人は絶句していた。
「確かに沖縄らしいですねー」
 音々子だけは本気で感心していた。

「一緒に写真とってもええかな?」
 恰幅のいい老女が尋ねた相手は、フルフェイス型のシーサーマスクをつけた一組の男女。
「はい、どうぞ」
 小さな雌のシーサーが答えた。マスクの中では新条・あかりが微笑んでいる。決して愛想笑いではない(愛想笑いだとしても、マスクで見えないが)。こうして沖縄の人々のために役立てるのが嬉しくてしかたないのだ。
(「あの時、すごく憧れたから。僕にもこんな故郷があったらって……」)
 沖縄で過ごした去年の夏のことを思い返しながら、あかりは横に少しばかり移動して場所を空けた。同時に大きな雄のシーサーも反対側に移動。
 二人の間に老女が巨体を押し込み、慣れた手付きで自撮り棒を構えて写真を撮影し、礼を述べて立ち去った……と思いきや、すぐに引き返してきて、雄のシーサーに顔をぐいと近付けた。
「あんた、玉榮さんとこの陣ちゃんちゃうん!?」
「イエ、人違イデス」
 と、雄のシーサーに扮した『陣ちゃん』こと玉榮・陣内は声を作って答えたが、その老女――『ファースト世代シマナイチャー』を自称する鶴巻・照枝(大阪出身。沖縄在住歴四十二年)の目はごまかせなかった。
「いやいや、陣ちゃんやん! えらい立派になって! ちっちゃい頃はホンマにちっちゃくて、しかもちっちゃっかったのになぁ!」
「人違イデス」
 否定を続ける(照江女史は耳を貸さなかったが)陣内の袖をあかりが引っ張った。
「知り合いなの?」
「実家のご近所さんだ……」
 と、陣内は小声で答えた。姓からも判るように彼は沖縄の出身者なのだ。そして、この地の強襲型魔空回廊を破壊したメンバーの一人でもある。
 そんな地元の小英雄を抱き締めんばかりにして、照江女史は熱い調子で語り続けた。
「あんたのおしめを変えてあげたんは一度や二度やないねんでぇ」
「人違イデス」
 同じ返事を繰り返し、マスク越しでも判るほどの大きな溜息をつく陣内。
 だが、あかりは気付いていた。
 故郷の知人を前にして、陣内の尻尾が楽しげに揺れていることに。
 マスクから覗く目が優しく細められていることにも。

 生憎と本日の天気は曇り。明け方には雨も降っていた。
 だが、気温は二十度を超えている。冬がまだ続く本州とは比ぶべくもない暖かさ。それでいて暑すぎることもない……はずなのだが、大弓・言葉は汗だくになっていた。
(「この格好、ちょっと暑いかもしれない……」)
 彼女が身につけているのは顔出しタイプのシーサーの着ぐるみ。着用者が感じる不快指数はサウナスーツのそれに勝るとも劣らない。
 しかし――、
(「でも、こちとら、物心ついた時からぶりっこ養殖女子として生きてきたのよ。暑苦しさを表情に出さない術くらい心得てるわ!」)
 ――発汗状態にあるのは体のみ。着ぐるみの頭部から覗く顔は汗一つかくことなく、営業中のアイドルのごとき笑みに彩られている。
「がうがうがー!」
 アニメ声で鳴きながら、可愛いらしくもあざといポーズを決める言葉。
 そのあざとさに騙されたのか、あるいは見破った上であえて騙された振りをしているのか、次々と人が集まってきた。
「はい、どうぞ。あなたに良いひと時を」
 と、そこから少し離れた場所でシーサー型の手作りチョコを配っているのは雑賀・真也。他のケルベロスたちほど盛況ではないが、それはシーサーに扮していないから……というわけではなく、暗い思いが顔に出ているからだろう。自分のおこないを『偽善』と見做している思いが。
 しかし、配布が一段落ついたところで気を取り直し――、
(偽善かもしれないが、人々が少しでも幸せを感じられるのなら、やる価値はあるのかもしれない。なあ、そうだろう?)
 ――空を見上げて、今は亡き仇敵に心の中で語りかけた。
 真也と同様、神崎・晟もシーサーのコスプレをしていなかった。
「なにもしなくても、竜派ドラゴニアンの見た目はシーサーみたいなものだからな」
 そう言いながら、晟は一人の同族を見た。
「シーサーは阿吽の対になっていると聞いた。阿は大先生に任せよう。私は吽で我慢する」
「え?」
 いきなり阿の役を振られ、口をぽかんと開ける『大先生』ことヴァオ・ヴァーミスラックス。
 晟はその肩を軽く叩き――、
「そうやって、イベント中ずっと口を開け続けておくわけだな。たいしたサービス精神だ」
 ――その場を離れて、黙々とチョコを配り始めた。何故に『黙々』なのかというと、吽になりきって口を閉じているからだ。
 一方、ヴァオは阿になりきることなく、口を何度も開閉した。怒声を発するという形で。
「いや、開けっ放しとか無理に決まってんだろ!」
「……」
「無視すんなぁーっ!」
「……」
 無言を貫く晟。完璧な吽である。楽をしているだけのように見えるかもしれないが、それは気のせいだ。
 そんな彼に代わって、言葉がアニメ声を響かせた。
「いつも応援ありがとー! これからもケルベロスは戦い続けまーす! 地球のために! 皆のために!」
 勇ましいシーサーのイラストが描かれたキューブチョコを皆に配りながら。

●ひーぐるま日和
「お? 雲が晴れてきたな」
 男性用の黒い琉装を着たヒスイ・ペスカトールが空を舞っていた。
 眼下に広がるはヒマワリ畑。ただし、大部分は無惨に焼き払われている。
 その荒れた大地に二種の光が降り注いだ。雲から顔を出した太陽。そして、ヒスイのオラトリオヴェール。
「オラトリオヴェールの光はオーロラに似てるらしいな。ヒマワリとオーロラの共演ってのも幻想的だ」
 高度を下げ始めたヒスイを歌声が出迎えた。
 焼けた畑の中心で輝夜・形兎が三線を弾きながら、沖縄民謡風にアレンジした『殲剣の理』を歌っているのだ。スピーカーを備えたウサギ型アームドフォードによって歌声は増幅し、四方に拡散し、あるいは空に昇り、あるいは大地に染み込んでいく。
 ヒスイが着地すると同時に歌は終わった。
「三線の音と民謡のリズムって、すっごく楽しい!」
 形兎は満ち足りた笑みを浮かべ、琉装姿のヒスイを見た。
「ヒスイ兄ぃの服装、カッコいいね」
「まあ、シーサーのコスプレよか、こっちのが決まるってもんよ」
「ウチのは……似合ってる、かな?」
 はにかみながら尋ねる形兎。彼女もまた琉装を着ていた。もちろん、こちらは鮮やかな女性用。
「ん、よく似合ってる。明るいのがおまえらしいよ」
「えへへ」
 形兎は跳ねるような足取りでヒスイの傍に寄った。
「ねえ、ねえ、ヒスイ兄ぃ。ヒールも終わったことだし、一緒に――」
「――でぇとだろ? 判ってるよ」
 そして、二人は手に手を取って歩き始めた。

「がうがうがー!」
 配布会場からヒマワリ畑へと場を移した音々子だが、やっていることは変わらない。マペットの口をぱくぱくさせて、ただひたすらに吠えるだけ。
 しかし、そんな彼女さえも圧倒する『がうがう者』がここにはいた。
「がうがうがー!」
 デフォルメ調のシーサーの着ぐるみで完全武装したお笑い戦士――自称『ネタベロス芸人』の盛山・ぴえりである。
「がうがう! がうがう! がうがうがぁぁぁーっ!」
 咆哮し、絶叫し、怒号し、周囲をヒールするネタベロス。
「がうがうがー! がうがうがー!」
 音々子も負けじとマペットを乱舞させたが、ぴえりの迫力には及ばない。もっとも、ぴえりが発しているものは『迫力』とは違うなにかのような気がしないでもないが。
「ぴえりも音々子もそんなんじゃダメだよ。ただ吠えてるだけではシーサーとは言えない」
 と、別のシーサーの着ぐるみが厳しい意見(?)を述べた。中の人はレリエル・ヒューゲット。
「わたし、この日のために沖縄の伝統芸能をしっかり学んできたんだ。見ててね」
 レリエルはフロレースフラワーズを踊り始めた。だが、通常のフロレースフラワーズではない。季節外れのエイサー風にアレンジされている。
「シーサーでエイサー! なんちゃって!」
 なにをしっかり学んだというのか?
 だが、ぴえりはその駄洒落に触発されたのか、『がうがうがー』の連呼をやめて――、
「えいさーい×××××××! 絶対、流行る!」
 ――奇妙な歌(なんらかの強い圧力が働いたらしく、よく聞き取れなかった)をがなり立てながら、エイサーらしきものを踊り始めた。
「いいね、いいね! そのポーズ、すごくキュート!」
 と、カメラマンになりきったジュスティシア・ファーレルがぴえりの写真を撮り始めた。防具特徴の『ダイナマイトモード』を発動させながら。
「はい! 目線、こっちにくれる?」
「えいさーい!」
「今度はこのアングルでいってみようか!」
「えいさーい!」
「その表情、最高!」
「えいさーい!」
 もちろん、冗談半分で撮影ごっこに興じているわけではない。チョコにおまけとして付けるプロマイド写真を撮っているのだ。
 そんなおまけを欲しがる者がいるかどうかはさておき。

「……ああ、暖かい。本州の寒さが嘘のようです」
 ウルトレス・クレイドルキーパーは天を仰ぎ、胸を反らし、両腕を広げた。陽光を全身で受け止めるかのように。
 その横では恋人のコマキ・シュヴァルツデーンが満足げに目を細めていた。しかし、完全に満足しているわけではない。重要なものがこの場には欠けている。
「やっぱり、沖縄といえば、オリオンビー……いえ、なんでもない。なんでもないわ」
『重要なもの』であるところのアルコールへの未練を断ち切り、ビールならぬヒールの準備を始めるコマキであった。
 そこから少し離れた場所に沖縄出身の比嘉・アガサがいた。形兎と同様、琉装姿だ。髪もからじ結いにしている。
(「見た目をちゃんとしとば、仏頂面のままでも誤魔化せるよね……って、自分で言ってりゃ世話ないか」)
 心の中で自嘲しながら、アガサは足下に目をやった。そこにいるのはオルトロスのイヌマル。
「イヌマルも一緒に踊る?」
「がおー」
「よしよし。じゃあ、BGMは――」
 イヌマルの返事(?)を聞くと、アガサは視線を上げて横手に向けた。そこにいるのは、阿のシーサー役から解放されたヴァオ。
「――ヴァオに頼もうか。でも、琉球の古典音楽とかできる?」
「できるっつーの。若い奴は知らないかもしれないけど、四半世紀くらい前に沖縄民謡がブームになったんだ、ブームによぉ。その時期にいろいろと習得したってわけさ」
 ただのミーハーである。
「じゃあ、伴奏はおじさまにお願いするわ」
 と、横から声をかけたのはコマキ。
 そして、彼女はブローチ型のアリアデバイスを起動し、歌声を響かせた。曲目は『スカイクリーパー』。
 三種の音がその歌に厚みを加えた。ヴァオのリードギターならぬリード三線、ウルトレスのコーラスとベース。
 厚みだけでなく、彩りも加えられた。歌声に合わせてアガサが琉球舞踊風のフロレースフラワーズでヒールを始めたのだ。その周りをイヌマルがぐるぐると回っている。一緒に踊っているつもりなのだろう。
(「普段はデスボイスで歌ってばかりだが、今日はクリーンボイスでいかねば……」)
 発声に注意しながら、恋人の歌に唱和し、ベースを爪弾くウルトレス。
 再び天を仰ぎ、彼は願った。
 足下に広がるヒマワリ畑だけでなく、この地に住む人々の心の傷も癒されることを。

 別の畑ではエトヴァ・ヒンメルブラウエが三線を奏で、陽気でのどかな歌を披露していた。
(「ちょっと恥ずかしいでスネ。こういう服は着慣れていませんカラ……」)
 藍色の琉装に包まれた体を見下ろし、すぐにまた顔を上げる。
 奇妙な生き物と目が合った。
 背の高いヒマワリの間から顔を覗かせているシーサーだ。もちろん、着ぐるみだが。
「こういう格好をしてみたけど……皆、喜んでくれるかな?」
 そう尋ねながら、シーサーはヒマワリの林から抜け出て、焼き払われた領域に足を踏み入れた。
 エトヴァは歌声を紡ぎつつ――、
(「きっと、喜んでくださいまスヨ」)
 ――という意を笑顔で伝えた。
(「うちのお兄ちゃん、琉球美人!」)
『琉球美人』のエトヴァに着ぐるみ越しに微笑み返し、ジェミ・ニアはフロレースフラワーズを踊り始めた。陽気でのどかな歌に似合う、おどけた動きで。
 やがて、二人の歌と踊りは終わった。さすがに焼かれて灰となったヒマワリまでもが再生することはなかったが、荒れ果てた土壌は癒されたはずだ。来年にはまた多くのヒマワリが咲くだろう。
「冬にヒマワリが見られるなんて、すごい贅沢をしている気分」
 幸運にもシャイターンに焼かれなかった場所――先程まで自分がいたヒマワリの林を改めて眺めた後、ジェミはエトヴァを振り返り、にっこりと笑った。
「そうでスネ」
 エトヴァは頷き、声に出さずに付け加えた。
(「君にはヒマワリが似合いマス」)

作者:土師三良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年2月13日
難度:易しい
参加:21人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 5
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