荒れし風の刃

作者:幾夜緋琉

●荒れし風の刃
 新潟県柏崎市、観音岬。
 冬の日本海という立地もあり、かなり雪も降り積もっており……足元も滑りやすく、一般の立ち入りが禁じられている様な状態。
 しかし、その滑りやすい崖沿いに、握りこぶし程度の大きさをした、コギトエルゴスムが……不意に出現。
 機械で出来た蜘蛛の足をカサカサと蠢かせながら……崖の下へと飛んで行く。
 ……崖の下には、不届き者達によって捨てられた沢山の廃棄家電製品達が散乱。
 コギトエルゴスムは、その内の一つ……この時期には余り使われないモノ、扇風機へと取り付く。
 そして……その羽を高速回転させ、周りの雪を吹き飛ばしながら……崖の上へと飛んで行くのであった。

「ケルベロスの皆さん、集まって頂けましたね? では、早速ですが説明を始めさせて頂きます」
 と、セリカ・リュミエールは、集まりしケルベロス達に一礼すると、早速。
「今回、新潟県の観音岬に不法投棄されていた家電製品の内の一つが、ダモクレスになってしまう事件が発生してしまったのです」
「幸い、現時点では被害は出てはいませんが……これを放置すれば、多くの人々が虐殺され、グラビティ・チェインを奪われる事件へとなりかねません。それよりも前に現場へと向かい、ダモクレスの撃破を御願いしたいのです」
 そして、更にセリカは。
「今回のダモクレスですが、元となった家電製品は扇風機の様で、それが変形し、ロボットの様な姿形をしています」
「足のような部分にも、小さいファンの様な扇風機が付いており、それにより多少の段差ならば飛んで飛び越える事が出来てしまいます」
「又、周囲は雪が降り積もっており、扇風機本来の役割である風を周囲に撒き散らすことで、雪を地吹雪の様に吹きすさばせる事が出来る様です。勿論、かなりの寒風になりますので……下手に喰らうと、氷効果を受けてしまう可能性もありますので、ご注意下さい」
 そして、最後にセリカは、もう一度皆を見渡し。
「このままでは、何の罪もない一般人の方々が被害を受けかねません。ケルベロスの皆さん……被害が出る前に、どうにか倒して来て下さい。宜しくお願い致します」
 と、深く頭を下げた。


参加者
湯川・麻亜弥(大海原の守護者・e20324)
峰雪・六花(バーティゴ・e33170)
夢月・焔華(焔の様に高く・e50952)
氷狩・シアン(躊躇い無き剣・e64816)
宝条・かなめ(偽りの魔女・e66832)
 

■リプレイ

●寒波は襲う
 新潟県は柏崎市、観音岬。
 其処は冬の日本海、雪も降り積もり、足元は滑りやすくて、一般人の立ち入りは既に禁止されている様な状況。
 ……そんな危険な状況の中、姿を現したのは……廃棄家電から姿を変え、扇風機型廃棄家電のダモクレス。
「寒い中なのに、扇風機って……なんというミスマッチな事件ですね」
 と湯川・麻亜弥(大海原の守護者・e20324)が溜息を吐くと、それに氷狩・シアン(躊躇い無き剣・e64816)と夢月・焔華(焔の様に高く・e50952)の二人が。
「こんな寒い中で更に扇風機だなんて、とても大変な事になりそうね」
「そうですね。雪が積もっている場所で扇風機ですか。雪を吹きかけてくる感じのダモクレスでしょうかね?」
「そうね。とても大変な事になりそうね。でも、わたし達ケルベロスなら負けないわ」
「ふふ。まぁ、どんな相手であれ、私は負けません」
 焔華がぐっと拳を握りしめ、気合いを入れる。
 ……と、その言葉を聞き流しながら宝条・かなめ(偽りの魔女・e66832)が。
「しかし、こんな寒い中でも仕事とは、ケルベロスも楽じゃないわね……」
 と深い溜息を吐く。
 それに麻亜弥と峰雪・六花(バーティゴ・e33170)が。
「まぁ、冷風を飛ばしてくる相手は、敵としては脅威ですね」
「ええ……季節外れの、扇風機。このまま、暴れて……みんなが危なくなるのは、大変ですから、ここで討ち取って、とめなければ……いけません……」
 と、二人の言葉にかなめが。
「まぁ、人々の命が掛かっているんだから、頑張らないとね」
 と言うと、麻亜弥も。
「そうですね……私達自身も気をつけなければなりません。取りあえず、寒さ対策にコートとマフラー、そしてスパイク付きの登山靴と、視界確保の為のゴーグルもちゃんと用意して来ました」
「準備は万端ですね……と、私も同じ様な用意をして来ましたけれど」
 と、頷くかなめに、シアンと麻亜弥も頷き、そして六花が。
「取りあえず……私達も……無事で進められる様……気をつけて行きましょう……」
 と頷き、ケルベロス達は廃棄家電のダモクレスが居るという、その崖沿いへと降りて行くのであった。

●雪の華
 そしてケルベロス達は崖沿いを下る。
 所々は雪が固まり、アイスバーン状になっている部分もある。
 ……が、そんな所にも、しっかりとした登山靴を踏みつけて、滑らない様に万全の注意を払う。
 と……そうしていると、下の方で、何かが黄金色に輝く。
「……現れた様です」
 と麻亜弥が仲間達に指を差して伝えると、その指さされた先で、金色に包まれた扇風機の姿。
 ……程なくして、その扇風機の姿はまるでロボットの如く変化し、足の部分には可動型の小型ファンも生成される。
 そして、足元の雪を風で舞わせながら……ケルベロス達に接近。
「っ……」
 咄嗟に身を翻し、迎撃。
 その攻撃に、間合いを取って一端離れる扇風機ダモクレス。
「……これ以上は、行かせません……から」
 と、真っ直ぐにその姿を見据えて対峙する六花……だが、ダモクレスは僅かに浮いた所で、ケルベロス達の様子を伺う。
「それでは、早速ですが始めましょうか」
「そうね。皆は私が守るわ。皆は攻撃に専念してね」
 と、かなめはそう言いながら、ディフェンダーポジションにつく。そして六花も。
「私も……スノーノイズ、積極的に、味方を庇ってあげてくださいね。どうか守って、あげて……ください」
 と、傍らのテレビウム、スノーノイズにそう声を掛けながら、同じくディフェンダーポジションに配置。
 そしてディフェンダー陣が守備を固める中、焔華が。
「私に任せて下さい。あなたの外傷を塞いであげますので」
 と、前衛に対しボディヒーリングを使用し、BS耐性を付与する。
 そして、攻撃の先手を取ったのはスナイパーのシアン。
「我が剣技、刮目するが良い。土蛇!」
 と、『秘剣・土蛇』の一閃を叩き込む。
 渾身の一撃で叩っ切ると、更に続く麻亜弥が。
「この地にふさわしく、貴方を氷り漬けにしてあげますよ!」
 と達人の一撃。
 ガッツリダメージを付与し、その後六花が破鎧衝で敵の装甲を砕きつつ、スノーノイズも凶器攻撃。
 そして……かなめは行動を遅らせ、対しダモクレスは反撃。
 頭の部分と思しき回転軸をぐるぐると回し、足元の雪を視界に大いに吹雪かせる。
 ……殆ど視界ゼロの状況……でも、ディフェンダーの三人が、他の三人を完全に守る様に展開。
「っ……!」
 そして、攻撃は六花に命中。
 どうにか防御し、耐えきるが……ダメージはかなり多め。
「さぁ、神速の突きよ、これを見切れるかしら?」
 と、かなめが入れ替わる様に雷刃突の一閃を叩き込んでいく。
 そして、次の刻。
 すぐに焔華が、ダメージを受けた六花に。
「これは命を繋ぐ大自然の護り……皆さんを助けますよ!」
 と『大自然の護り』にて、共鳴ヒールを展開。
「……ありがとう」
 と軽く頭を下げる六花。
 そしてシアンが続き。
「霊弾よ、敵の動きを封じなさい!」
 とプラズムキャノンを放ち、更に麻亜弥も。
「地獄の炎で、叩き潰してあげますよ!」
 とブレイズクラッシュ。
 更に六花がホーミングアロー、スノーアイズのテレビフラッシュが続け様に命中し、更に敵へダメージを積み上げて行く。
 ……そして、かなめも。
「虚無球体よ、敵を巻き込み、その身を消滅させよ1」
 とディスインテグレートを放つ。
 ……その後も、ダモクレスの激しい攻撃をディフェンダーの三人が受け止めつつ、それを焔華が直ぐに回復。
 残る仲間達で以て、一斉に攻撃を畳みかける事で、ダモクレスの体力を削り去っていく。
 そして、扇風機ダモクレスが金色の光に包まれてから数分。
 最早、ダモクレスの羽のガードはボロボロで、幾つかの羽は砕け、折れてしまっている。
 ……そんなダモクレスの悲壮な姿に、僅かな憐憫の気も生じるが……すぐに気を取り直し。
「海の暴君よ、その牙で敵を食い散らせ……!」
 と麻亜弥が放つ『暗器【鮫の牙】』。
 鮫の牙の如き、ギザギザした暗器が敵のネック部分をゴリっ、と引き斬る。
 支えをなくした頭部は、そのままコロっ、と地面へと落下。
 ……何とかケーブル一つで繋がっては居るものの、それは地面の風を吹き上げさせるのみで、それ以上の役を成さない。
 そして、更にシアンが。
「貴方の傷口を、さらに広げてあげるわよ!」
 と絶空斬をその傷口に穿ち、ケーブルを切断。
 スノーノイズが凶器攻撃で、羽の部分を力尽くで叩き潰すと……更にかなめが雷刃突。
 そして、焔華が。
「我が魔力よ、その古の理を以って敵を封じ、呪いを掛けよ!」
 全力を籠めた【魔導斬空陣】の一撃を放つ。
 ダモクレスの脚部へと魔方陣を展開……そして、それはみるみる内にダモクレスの身体を結界の中へと飲み込み始める。
 足元のファンをフル回転させ、どうにかして脱出しようと試みるが……飲み込む方のスピードは、それ以上。
 いや、ファンの部分が先に飲み込まれてしまえば、そのファンの威力を活かすことは出来ない訳で。
 ……藻掻き苦しむ様な動きを見せたダモクレスだが……魔方陣の結界は、程なくしてその全身を包み込んでいく。
 そして……完全に結界に飲み込まれ、身動きの取れなくなったダモクレスへ。
「……これで、終わり……」
 と、ハートクエイクアローを射抜き……その一射に、ダモクレスは粉々に崩れ墜ちるのであった。

●闇近づく風
「……ふぅ、終わった様ね。皆、無事かしら?』
 ふぅ、と深く息を吐きながら、剣を振り、降り積もった雪を振り払うシアン。
 そしてその言葉に麻亜弥も。
「ええ……どうにか、終わった様で一安心です。とは言え……寒いですね……」
 戦闘中こそ身体を動かしていたから暖かかったものの、身体を止めると、その寒さが身を劈く。
「取りあえず、ここはいつ足を滑らせるとも限りませんから、一端退避しましょう」
 と焔華が皆を促し、一端その崖沿いからは避難。
 そして、改めて一息を付き、装備を解除。
 汗を拭いつつも、改めて戦闘箇所を確認する。
「本当、一目を憚る様に放置されていますね。これもまた、人の闇……という事でしょうか」
 と溜息を吐くかなめに、こくりと頷く六花。
「ええ……呼びかけても、呼びかけても……延々と繰り返されて……やはり、それぞれの考え方が変わらないと、中々難しいのかもしれませんね……」
 瞑目する六花にそうだな、と軽く頷くシアン。
 そして彼女は、スマホを取り出し、何やら電話。
『……そうだ。申し訳無いが、改修を頼む。ただ、かなり危険な場所だから、安全にはくれぐれも注意を払ってくれ……分かった』
「……?」
 シアンに小首を傾げる六花。
「いや、この廃棄家電達を廃品回収業者へ回収を依頼しただけだ。まぁ……危険故、雪が溶けてからかもしれないがな」
「そうですね……それも、仕方ありません……でも、回収して頂ければ、ここで廃棄家電製品の事件が、起きなくなるかも知れませんね……」
 頷く六花に、周りの仲間達も頷く。
 そして、その他の痕跡などを軽くヒールグラビティで補修した頃には……空はゆっくりと朝焼けの頃。
 地平線を赤い稜線が差し込むと、とても美しい風景。
「……これは綺麗ね。ちょっと感動する位」
 とかなめの言葉に、仲間達も暫し時を忘れ、その美しい光景に眼を奪われていた。

作者:幾夜緋琉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年2月13日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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