ヒーリングバレンタイン2019~神戸ショコラ

作者:柊透胡

「2018年の間にも、ケルベロスの皆さんの活躍により、多くのミッション地域の奪還に成功しました。ありがとうございます」
 生真面目な表情のまま、慇懃に一礼する都築・創(青謐のヘリオライダー・en0054)。
「それで……これら、奪還できた地域の復興も兼ねて、バレンタインのチョコレートを作ってみませんか?」
 デウスエクスに侵略されていたミッション地域は、基本的に住人はいなくなってしまっている。だが、引越しを考えている人などが下見に来ていたり、ミッション地域の周辺住民が見学に来る事はある。
「ですので、一般の方でも参加出来るイベントにすれば、解放したミッション地域のイメージアップにも繋がるでしょう」
 今回、創が担当するエリアは兵庫県神戸市「三宮北野坂」。かつて、螺旋忍軍セレブオブブラックが我が物顔に闊歩していた地域だ。
「神戸は『神戸スイーツ』という言葉がある程、スイーツが有名な街です」
 昔から外国人が多く暮らしていた歴史から、洋菓子の有名店も多い。
 特に、北野坂は異人館を始め、異国情緒漂う界隈だ。
「という訳で、皆さん、『チョコレート菓子』を作ってみませんか?」
 『ジャンドゥーヤ』と呼ばれる製菓の材料がある。焙煎したナッツ類(主にヘーゼルナッツやアーモンド)のペーストと、チョコレートを混ぜ合わせたものだ。
「ジャンドゥーヤはイタリア発祥ですが、考案した老舗メーカーが北野坂に出店しています」
 ヘーゼルナッツ香るチョコレートを惜しみなく使用したケーキが絶品で、香り高いチョコムースケーキが1番人気だとか。
「チョコレートは、このジャンドゥーヤを使います」
 ジャンドゥーヤの他の材料は、ご自由に。菓子の種類も自由だ。型に固めて良し、ケーキやパイなど焼菓子に使って良し。プリンも捨て難い。尤も「神戸スイーツ」だから、洋菓子の方が良いかもしれない。
「ジャンドゥーヤは、滑らかで蕩けるような舌触りを損なわないよう作られている為、他のチョコレートより温度変化に非常に敏感で、溶け易い性質だそうです。繊細な素材ではありますが……その分、絶品の菓子が作れる筈です」
「まあまあ、贅沢な味わいのジャンドゥーヤは、プレゼントにもぴったりよ」
「自分へのご褒美にしても素敵よね」
 貴峯・梓織(白緑の伝承歌・en0280)が満面の笑みを浮かべれば、結城・美緒(ドワっこ降魔巫術士・en0015)も楽しそうにニコニコと。
「折角だから、ラッピングも凝ってみたいわねぇ」
「勿論、試食もOKよね?」
「判りました。どちらも、用意しましょう」
 人呼んで「ジャンドゥーヤ・ショコラトリー」。会場は、北野坂のホテルを押さえている。午前中は主に『ヒール』、その間に『道具や材料の搬入』。イベントは午後からで、一般からの参加もOKだ。
「ですから、『イベントの進行や参加者のお世話』担当もいますと、ありがたいです」
 当日はケルベロス達も忙しくなるだろうが、『ジャンドゥーヤのチョコレート菓子作りに挑戦する』時間は十分にある筈。きっと参加した人の数だけ、「神戸スイーツ」が増えるに違いない。
「それでは、宜しくお願い致します」
 ヒーリングバレンタイン2019――スイーツが有名な街で、チョコレート菓子を作る一時は如何?


■リプレイ

●北野坂ヒーリング
 神戸北野坂――我が物顔に闊歩していた螺旋忍軍がいなくなって尚、往時の賑わいには程遠い。復興に集まったケルベロス達は、早速作業を始める。
「神戸ってすっごくお洒落なイメージ。幻想化しても、そのイメージを損なわないようにしたいなぁ」
 螺旋忍軍がプロレス技を試したのか、特に裏通りや路地は荒れた様子。傷んだ設備にヒールを掛けて回るケルベロス達。魔法の護符を貼り付けたり、ふわふわと蛍灯が浮かんだり、癒しの雨をざばざば降らせたり。
「少しずつだけど、三宮北野坂が復興していく様は見ていて安心するわ」
 ケルベロス達の奮闘で、徐々に街並みは綺麗になっていく。
「街を癒すのは専門だよ。何せ町医者だからな」
「神戸が元気になりますように」
 ヒールの頻度が上がれば、幻想化も増える――願いを込めたヒールで、煉瓦塀がキラキラと煌めいたり。
「ヒールは僕らの専門分野だね。任せて」
「人の役に立てるのは嬉しいです。張り切りますね」
 所々に花が咲いたり、木が生えてしまうのはお約束?
「ちょっと可愛く出来ても気にしない」
「三宮ですから、ファンタジックになっても違和感なく溶け込みそうでございますね」
 幸い、欧州風のアンティークな光景に馴染むファンタジーばかりだ。
「今年も材料の搬入&チェックやりますよー」
 一方、イベント「ジャンドゥーヤ・ショコラトリー」の会場であるホテルには、続々と製菓の材料や資材が届く。今年はタブレットで進捗管理するケルベロスもいて、ヘリオライダーの負担も随分軽くなった。
「日頃鍛えてますので、重い物でも大丈夫です。お役に立ちますよ~」
 数多の段ボールが、続々と運び込まれている。
「そろそろ時間です。イベントに参加されるのでしたらホテルに」
 正午を回り――ヘリオライダーに声を掛けられ、頷き返した田津原・マリアはヒールの出来を確認。元通りをイメージしたけれど、ふんわり幻想化はご愛敬。
(「……ファンシーな看板とか、掛けた人の影響が露骨ね」)
 一緒にヒールしていたアンナマリア・ナイトウィンドは、視線を泳がせる。
「やっぱり、何か混ざるのよね」
「けど、お洒落な街並みに戻るんを見てると、ワクワクしてきません?」
 傷んだ所が残っていないか、見回す2人は楽しそう。
「街の人らが安心して暮らせるんが1番ですからね」
「でないと、何も楽しめないものね」
「工房の皆さんともいつか……あれ、ここ何処やったっけ?」
 ハタと立ち止まり、慌てて首を巡らせるマリア。
「……道? 西の方はあまり馴染みがないのよね」
 アンナマリアは、何処かのんびり小首を傾げる。
「まぁ、その内どこかに着くわ」

●ジャンドゥーヤ・ショコラトリー
「ようこそ、ご案内させて頂きます」
 執事姿で参加者を迎え、ディッセンバー・クレイはにこやかに。
「まずはこちらへ」
 案内役のケルベロス達と手分けして、会場のレストランに誘導する。
「お菓子作りが初めての方もご安心を。お気軽にご相談下さいね」
 和やかな雰囲気で、誰もが楽しそうなのが何よりだ。
「お疲れ様です。あちらでお茶でも如何ですか?」
 そつなく試食コーナーを調え、ディッセンバーも漸く一息。
(「後で、ジャンドゥーヤを少し分けて頂きましょうか」)
 友人達へのお土産に。
 イベントの司会進行も、一般参加者のお手伝いも、ケルベロス達が交替で務めれば、後は楽しいショコラの時間。
 アンセルム・ビドーは、皆に配るジャンドゥーヤのタルトを量産中。型にチョコを流し込むだけでは見た目も寂しいし、ナッツも飾っていく。
「後は包んだら完成だね」
 ラッピング資材も色とりどりで目移りしきり。ついでに、友達の様子も気になって。
「あ、絞り出しチョコ? 一口サイズで可愛い感じだね」
「意外に形を作るの大変です」
 絞り袋を手に、首をぐるりと回すエルム・ウィスタリア。ジャンドゥーヤを絞り出して固めるだけだけど、小粒だと寧ろ手間が掛かる。こちらもそのままでは寂しいので、ナッツをトッピング。いい感じに固まったら、ラッピングしよう。
「あ、お1つどうぞ」
「もらっていいの?」
「……毒味じゃないですからね。お付き合い頂いたお礼みたいなもんです」
 冗談めいた言葉に、アンセルムも笑顔でお返し。
「ありがとう。ボクからも1つ、お裾分けだよ」
「嬉しいです。ナッツのアクセントが可愛いですね」
 ほのぼのと、一足早いチョコ交換。
「……これは、美味しいね!」
 ジャンドゥーヤという材料は初めのエルス・キャナリー。まずは味見と、一匙をぺろっ。
(「ヘリオライダーじゃなくても、美味しいお菓子が出来る予知がきたのよ」)
 焼き上げたチョコのスポンジケーキに、ジャンドゥーヤのガナッシュとマーマレードを挟むエルス。仕上げにガナッシュを満遍なく塗り、オレンジピールの蜂蜜漬けとヘーゼルナッツを飾って完成。プレゼント用とは別に、味見用の小さなケーキを切り分ける。
「よかったら、梓織様、美緒様と創様も味見してくれるの?」
「まあまあ、素敵」
「美味しそう!」
 味見の御指名に女性陣の歓声が上がり、ヘリオライダーも慇懃に会釈する。
「うーん……」
 小車・ひさぎは思案顔。挑戦したのはオペラ風ケーキ。ジャンドゥーヤはケーキと層を重ねるクリームに仕込み、いよいよチョコレートでコーティングだ。
 ケーキは『彼』のリクエストだが、どうせなら想定以上を突きつけてやりたい!
 ひさぎの意気込みが、貴峯・梓織は微笑ましい。
「ココア……?」
 梓織が用意したのは、ココアと砂糖、牛乳。混ぜ合せて煮詰め、ゼラチンを加える。
「グラサージュ・ショコラ。テンパリングも要らないし、鏡のようにツヤツヤに仕上がるわ」
 コーティングのコツは、手早く多めの液を掛けて表面を均す事。余分は下に落とせば良い。
「う、上手くいくでしょうかー」
 さあ、緊張の一瞬――この後「シックなラッピング」も待ってるぞ!
「神戸といえばバームクーヘンだな」
 旅団「終末菜園」の3人も、思い思いに菓子作り。八島・トロノイはバームクーヘンに挑戦。専用オーブンが1番だが、フライパンでも作れる。薄い生地を芯に巻き、根気よく重ねて形を整える。
「わわっ、ベルさんがブラックベルさんに」
 オーブンの中で焦げそうなクッキーに、慌ててアルミ箔を被せるウォーレン・ホリィウッド。
 アーモンドのジャンドゥーヤをブラウニー生地に仕込み、旅団産のアーモンドダイスを飾ってプレーンクッキーを乗せた。クッキーには『KOBE』の文字。トロノイのオルトロスを型取ったけど、ベルは真っ白わんこだ。
「ウォーレンくんのベルは俺似の地黒だな」
「トロノイさん似なら良いかな」
 軽口を言い合う2人の鼻腔を、甘い香りが擽る。筐・恭志郎のカヌレだ。
 拘りの生地にジャンドゥーヤを閉じ込めて焼き上げると――カリカリでもっちり、中から香り高いクリームがとろり。ついつい、焼き立てを摘み食いしてしまう恭志郎。
「2人ともどうぞ!」
「食べても良いの? わぁい」
「これは美味い。もう1ついいかい?」
 お返しに、トロノイはバームクーヘンの切れ端を出した。こちらも自信の味。後は、バームクーヘンをチョコでコーティングして、穴にジャンドゥーヤプリンを入れたら完成……の前に。粉砂糖とココアでベルの顔を描く。
「あ、そうだ」
 恭志郎も、カヌレをホワイトチョコでコーティング。三角耳を乗せ、チョコクリームで顔を描けば、ベルさんカヌレの出来上がり。
「うん、すごく可愛いー」
「大中小のベルが並んだな。ありがとう」
 トロノイの傍らで、ベルも尻尾をパタパタ振っている。
 ケルベロスも含め、各々菓子作りを楽しむ中――因幡・白兎は、もう少し打算的に動く。螺旋忍軍「セレブオブブラック」に騙されていた人達に、資金援助出来るように。
 何十枚ものクッキーを下地に、チョコペンで絵を描いていく白兎。どうやら、螺旋忍軍が出席していたレセプションパーティのホストであった、小説家の作品の一場面のようだ。
 後でピースをバラして、パズルのように組み立てながら紹介しても面白そうだ。
「いい作品はいつまでも心に残るもの。そんな作品を創り出せる人達を、デウスエクスの餌食にする訳にはいかないよ」

●ハンドメイド・ジャンドゥーヤ
 今回、1番の大所帯は「カフェ:フィニクス」の8名。ジャンドゥーヤから手作りだ。
「これでも菓子作りの心得はあっからな。事前に練習してきてっし、任せとけ」
 マクスウェル・ナカイの頼もしい言葉に、源・那岐もにこやかに。
「作り方、教えてくれますか」
「おぅ、那岐さんも一緒に作るか」
 材料は2つでOK。ナッツをペースト状にして、湯煎で溶かしたチョコレートに混ぜる。シンプル故にナッツの風味豊かで、アレンジも様々だ。
 マクスウェルの組合せは、ビターなブラックチョコレートにヘーゼルナッツ。隠し味に珈琲豆を加えた。ラングドシャでサンドして完成だ。
(「私はアーモンドとバニラチョコレートで拵えましょうか」)
 ふと、仲睦まじい2人が那岐の目に入る。如月・沙耶はまだ世間慣れしていないが、源・瑠璃が一緒だからきっと大丈夫。
(「まあ、お手伝いは瑠璃の役目でしょう」)
「ヘーゼルナッツはローストしても美味しいよ」
「は、はい。チョコレートは……ユセン?」
 基本のヘーゼルナッツとビターチョコで挑戦する沙耶だが、1つ1つの手順に戸惑ってしまう。そんな彼女に付きっきりで世話を焼く一方、製菓の心得がある瑠璃はちょっと変わり種を手掛けていた。ミルクチョコに胡桃を入れる。
「沙耶さんのジャンドゥーヤ、美味しそう」
「瑠璃のも。食べさせあいっこ、しましょうか?」
 一匙の交換は甘い一時。幸せそうな2人を見守る周囲の視線も優しい。
「胡桃のローストはこのくらいかしら?」
「ああ、その辺りで良さげじゃね?」
 漆黒の髪を編込んで纏め、フリルエプロンを翻す烏羽・光咲。マクスウェルに教えられ、胡桃とビターチョコのジャンドゥーヤを作る。湯煎の温度管理が中々難しい。
「店長さんは珈琲豆を使ったのが拘りなのね」
 12月に成人したばかりの光咲の拘りは……折角だから、赤ワインで風味付け。お酒の飲めない人の為に、ミルクチョコを使ったワイン無しも作ったけれど。
「ほぉ、酒精入りか」
 感嘆の声を上げるリィン・シェンファ。黒と赤のチャイナメイド服が艶やかだ。
 刻むナッツはピスタチオ。ホワイトチョコレートに合わせた薄緑をランドグシャにサンドする。
「リィンのチョコ、ピスタチオの緑が映えているわ」
「ええ、彩り鮮やかで実に目に楽しいです」
「ああ、これか? 客人用に母が作ってたのを思い出してね。レシピを教えて貰ったんだ」
「なる程、思い出の味って奴……」
 うんうんと頷くマクスウェル。ロジオン・ジュラフスキーは、アーモンドを刻みながらしんみり呟く。
「いいですね、思い思いの作品。私の場合、幼い頃に実家で食べた、本場イタリアのジャンドゥーヤはこんな感じで……あっと」
「……わ、気をつけてな!?」
 ビクッと背中が強張った。指先が危うかったロジオンに、マクスウェルも慌て顔。
「ロジオンちゃんてば、考え事しながらだと危ないわよー?」
 彩瑠・天音はクスクスと。彼女のジャンドゥーヤは基本のヘーゼルナッツとビターチョコ。更に別の菓子にアレンジしたい所だ。
「手軽な所でパンケーキ、かしらね」
 ジャンドゥーヤのソースを掛けて、アクセントに砕いたアーモンドとピスタチオ、カカオニブを使おうか。
 お菓子作りもそこそこ得意な天音。一般参加者にレクチャーする余裕もある。
(「おもてなしは、されるよりもする側の方が楽しいしね♪」)
 そうして、テーブルには八様のジャンドゥーヤの菓子が勢揃い。
「よし、皆でテイスティングと洒落こもうか」
 満足げに頷いて、リィンはヘリオライダーも誘った。

●菓子よりも甘く
 ジャンドゥーヤなら、甘味が得意でなくとも大丈夫だろう――鈴代・瞳李の気遣いが、アッシュ・ホールデンは嬉しい。
(「ま、どれだけ甘くても鈴やトーリが作ったもんなら食べるけどな」)
 今日は愛娘の花守・鈴も一緒に、3人でバレンタインデーの菓子作り。瞳李お手製のチョコタルトを、トッピングシュガーやアラザンで可愛くするのが鈴のお仕事だ。
「アッシュは鈴のサポートだな。頼むよ、パパさん?」
「はいはい、任されました。鈴、色々種類あるがどれ使う?」
 小首を傾げる鈴に、アッシュは絵を描くのと一緒だとアドバイス。
「どんな風に描きたいかイメージしてから作りだすと上手くいくぞ」
「おえかき? それなら鈴とくい! えーっとねー、パパが好きな色たくさんのせる!」
 その間に、瞳李はボンボンショコラを作る。
「パパは何チョコが好きー? 鈴はねーホワイトチョコ好きー」
「どっちかっつーとビターかねぇ」
(「まぁ、自分が食べるより、美味そうに食ってる2人を見るのを優先しちまうけどな」)
 チラと窺えば、瞳李の手際は随分と良い。これは、胃袋まで掴まれる日も近そうだ。
「鈴とトーリチョコかんせー!」
「鈴も出来たか。後は冷やして……」
 思わず絶句する瞳李。鈴が得意げに見せたのは、タルトに描いた白とピンクのハート。白は鈴の髪の色、ピンクは瞳李の瞳の色。
「……鈴。ハートは止めないか? ピンクの方だけでいいから」
 流石に、これをアッシュに贈るのは……。
「え、ハートはダメ? なんでー!?」
 甘えるように、瞳李を上目遣いで見上げる鈴。
「パパもっとよろこぶよー?」
「娘のたっての希望を断るもんじゃねぇだろ?」
「鈴ねー、トーリとおそろいがいーなぁ」
 恋人の困り顔に、アッシュは寧ろニヤリとして。
「ぐ。ズルいぞお前……今回だけだからな!」
「やったぁ! パパもトーリも大好き!」

 市民の笑顔が、何よりの幸せ――お持ち帰りのラッピングに、会場の給仕と、心を込めて勤しむチェレスタ・ロスヴァイセ。
 北野坂の光景は、ドイツ出身の彼女にとって何処か懐かしい。
(「私、この街が好きです。無事解放されて本当によかった……」)
 そうして、最愛の夫、リューディガー・ヴァルトラウテとジャンドゥーヤのザッハトルテを作る。
 チョコスポンジとクリーム、アプリコットを重ね合わせ、口当たりも滑らかなジャンドゥーヤで表面をコーティング。仄かなヘーゼルナッツの香りは、アプリコットとの相性も抜群だ。
 表面に星型の金箔を幾許か散らして夜空に見立てた――神戸の復興と発展を願う、希望の星となるように。
「素敵ね」
 花綻ぶように笑み零れるチェレスタ。
「そういえば神戸は、夜景がとても綺麗なのよね」
 イベントが終わったら「地上の星の海」を見に行こう。この美しい街で、夫婦水入らずの時間を。

 恋人とのんびりお喋りしながら、アニーネ・ニールセンはお菓子作り。シンプルなタルトやパイに、ジャンドゥーヤを合わせてみる。
「今ここで食べる分とお土産の分、両方作りたいわ」
「あ、ああ」
 請われるまま手伝う新井山・直次郎だが、燻製や塩漬けなら兎も角、チョコ作り、それもジャンドゥーヤに馴染みはない。戸惑いながらの作業は、意外と気疲れするもの。
 でも、アニーネが楽しそうだからそれでいい。
「アニーネも珈琲か?」
「今日はあなたに合わせるわ」
 チョコの試食のお供だから、薄めの珈琲にした。土産は誰に渡そうかと考えながら、アニーネと休憩する直次郎。
「こういう事、あまり一緒にやった事なかったものね。ヒールも搬入も、お菓子作りもすごく楽しかった」
 髪に咲く青いデルフィニウムを揺らし、淑やかに笑むアニーネ。
「今度は家でも一緒にやりましょうね」
「ああ、また何か作ろう」
 ――出来れば、直次郎が得意なもので。

 クーベルチュールチョコレートは知っている。彼女が菓子作りで使うから。
「だが……ジャンドゥーヤ、とは」
「ジャンドゥーヤはね、こんがり炒ったナッツと、チョコを混ぜたチョコ菓子なの♪ このままでも美味しいのよ?」
 首を傾げるウリル・ウルヴェーラに、リュシエンヌ・ウルヴェーラは一匙あーん♪
「うん、ナッツが香ばしい」
 名前が難しくてよく判らないが、ウリルも菓子作りは嫌いじゃない。計量して混合して、実験のようで面白い。
(「うりるさん、真面目なお顔でケーキの材料とにらめっこ。理科の実験好きな男の子みたいで、可愛い」)
「ん?」
 ふと視線を感じてウリルが顔を上げれば、慌ててそっぽ向くリュシエンヌ。
「今、何かよからぬ事を思っただろう。顔に書いてあるよ」
「見惚れてただけだもん」
 小さな声は聞こえたのか、ウリルの悪戯っぽい笑顔は変わらない。
「それで、これからどうするの?」
「んと……ケーキのタネに、ジャンドゥーヤを混ぜ込むんですって。タネを潰さないように、さっくり……わぁ、うりるさん上手!」
「俺の奥さんは誉め上手だな」
 だけど、もっと甘いご褒美が欲しい。
「ルルは飾りのチョコ作るね。ほら、上手に――」
 ハート型を手に振り返ったリュシエンヌの唇に、ナッツの香り。ケーキも霞む甘い甘いキスに眩んだ。

作者:柊透胡 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年2月13日
難度:易しい
参加:28人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 2
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