ヒーリングバレンタイン2019~それは虹の架け橋に

作者:秋月諒

●だって明日を取り戻したのだから
「皆様、お集まりいただきありがとうございます。まずは、感謝を。皆様の活躍によりこれまでミッション地域となっていた複数の地域の奪還に成功いたしました」
 レイリ・フォルティカロ(天藍のヘリオライダー・en0114)は一礼と共にそう言うと、笑みを浮かべた。
「解放したミッション地域には、基本的には住人の方々はいらっしゃいません。ですが、これから引越しを考えている人が下見にきたりお店を出そうかなという方や、周辺の住民の皆様が遊びに来たりするそうなんです」
 取り戻された地域の、これから、が始まろうとしているのだ。
 今すぐに、いつも通りの生活はできなくても、この地の、この場所の空気を感じてそのとっかかりを掴むことができる。
「と言うわけで、実はタイミング的にも良いなぁ、と思いまして」
 ぽむり、と一つ手を鳴らしてレイリはにこりと微笑んだ。
「ヒールの依頼です。取り戻した地域の復興も兼ねて、ヒールと一緒にバレンタインのチョコレートケーキ、作ってみませんか?」

●虹の架け橋
「皆様に担当していただくのは、原宿、竹下通りです。若者の街、と有名ですね。多くのファッション店やバラエティーショップ、それと色々なカフェもあったんです」
 最近では食べ歩きのできる手軽なお菓子も人気だが、歩きまわって疲れた時一休みできるカフェも多くあったのだ。
「実は、通りの一角にあるカフェのオーナーが場所を貸してくださることになったんです」
 カフェ・ロスティア。
 蝶と黒猫の紋章を掲げる、今は老婦人一人が営むカフェだ。
「自分一人では何かはできないかもしれないけれど、この場所が役に立ってまた気軽に町の賑わいを抜けて遊びに来てくれる方がいるなら……とご提案を頂きました」
 元々、カフェは二階でのみ営まれていたらしいが、一階に入っていた店は戻っては来れないのだという。建物にも被害は出ているのだがーーそこは、ヒールで対応できるだろう。建物のオーナーは老婦人ではあるのだが、少々広くて持て余してもいたのだという。
「これを機に、お店が入ってくれれば嬉しい、と。今回は、一階と二階の両方を使って皆様と、町に見学にやってきた皆様でチョコレートケーキ作りができれば、というお話になりました」
 作るのは小さなチョコレートケーキ。
 所謂一人用の小さなケーキだ。
 ロスティアご自慢の、ベリーをふんだんに使った品。
「沢山のベリーを使っても、ちょっと大人にウイスキーに浸したオレンジを使っても、ストロベリーを飾ってもきっときっと美味しいケーキになるんじゃないかと」
 カフェの方では、果実類、それとロスティアの店主ご自慢のケーキに使うジャムを用意してくれているという。
「勿論、材料も、ですが。それとお手伝いにロスティアの店主のお知り合いの方々も来てくださっているそうなので」
 それぞれ皆、チョコレートに関する店を営んでいるという。
 いろんな種類のチョコを使って、ケーキを作ることができるだろう。
「へぇ、じゃぁ材料あたりは気にしなくて良いって話なんだね」
「はい。ケーキ作りもスポンジから……という感じではなくて簡単にできるようだいたいのパーツは用意してくださっているそうです」
 スポンジって難しいですから、と小さく狐の耳をさげたレイリに千鷲は小さく笑う。
「レイリちゃん、スポンジ膨らまないとか言ってたねぇそういえば」
「千さんはお口にチャックです。勿論、今回は簡単にどんな人にも作れるようにということでスポンジは用意してくださっているんです」
 だから多少料理が苦手なーーケーキ作りが初めてだという人でも大丈夫だろう。
「通りをヒールして、そうしてみんなで此処での新しい1日を始めましょう」
 そうして折角だから美味しいチョコレートケーキも作ろう。
 大切な誰かに、大切な思いを込めて。
 それがきっと、これからの日々への虹の架け橋になるだろうから。


■リプレイ

●光
 倒れた柱が持ち上がり、通りに入った罅が、穴が消える。さぁ、無事にヒールは終了。ここからはチョコレートケーキ作りだ。

●それは虹の架け橋に
 店には様々な種類が用意されていた。どうぞ、好きに使ってくださいね、と笑う老婦人は今日という日を随分と楽しみにしていたらしい。
(「……あぁ。良い事を思いついた」)
 手を伸ばし、彼女の頬についたチョコを拭う。此処ですよ、と笑い反応を見るように指先についたチョコを目の前で舐めとった。
「これで。大丈夫ですよ、真理」
「あぁ」
 返る反応は頷きより、何か見つけた時のそれだ。アルニさんも、と告げた彼女に頬に飛んだチョコを拭われてしまえば、照れ隠しに笑う真理と目が合う。
「はい、あーん。ですよ」
「……あーん? 私が? 真理にしてもらう? え? 僕が?」
 味見用にケーキの切れ端をフォークで刺して、真理はアルニに差し出した。
「自分で味見するといい評価になっちゃうですからね。忌憚のない意見が欲しい、ってやつなのです」
 今回はちょっと大人っぽい味に挑戦中なのだ。

「トッピングはジャムやベリーも魅力的ですが、今回は……」
 紺が選んだのはウイスキー漬けのオレンジだ。大人っぽい味付けに。見た目もシンプルにしたのは、味の方に注目してほしいというアピールだ。
(「苦手だったお菓子作りが年々上達してきているので、ちょっとした自信の表れというものです」)
 余裕もあればジャムも作ろう。と紺は思う。世話になった三芝におすそ分けができれば、と思っているのだ。
 甘い香りの向こう、ほう、と落ちた笑みがひとつ。
「戦いばかりではなく、仲間と共にこうして過ごすのもいいものだな」
「誰かと連れ立って、というのも良いものですね」
 三日月の言葉に、レフィナードは笑みを零す。今日は月齢道場の皆でケーキを作りに来ていたのだ。サクサクとなれた様子で作っていくレフィナードの前、三日月は思い切っての挑戦だった。大人っぽくでも無理せずシンプルなケーキで。
「エリオット殿、なんかテンション高いな? 私も甘い物好きだから、昨日からワクワクしてたんだ」
「三日月も甘いもの好きなのか。わかるわかる。おいしいよなぁ」
 小さな頃の好物を思い出しながら、ケーキ作りを進めていたエリオットがぱち、と瞬く。傍、慣れた様子で進めていたレフィナードの手元に出来上がっていたのはビターチョコとベリージャムのタルト。
「レフィナードのは……すごいな、タルト美味そう」
「エリオット殿もお上手ですよ」
 チョコへの愛が隠し味、でしょうか、とレフィナードは楽しげに笑った。小さなタルトはお土産用にも良い。今日という日のお礼に。二人にも。

 話をしながらも、手際良くジャムを挟んだココアのスポンジにビターのグラサージュチョコレートを表面に掛けていく。
「……うん、美味しそう」
「ウルズラ様すごいです……!」
 わぁ、とレイリは目を輝かせた。どうだろう、と小さく笑ってウルズラは仕上がったケーキの写真を撮ると、試食用に切り分けたカットをレイリに差し出した。
「レイリさん、良かったら感想聞かせて?」
「え、い、いいんですか? ありがとうございます」
 そっと、フォークを通せばふわり広がるのは果実の香り。一口味わえばチョコとビターチョコとオレンジが口の中に広がる。
「すごい、美味しいです……! あ、えっとちゃんとした感想はちょっとお待ちくださいね」
 えっと、すごい幸せな味がしたんです、とレイリは笑った。

「みんな見て!初めてのわりには凄く良くできたかも♪ 一緒に食べようね」
 フィディルが作ったのは苺をたっぷりとサンドしたチョコケーキだ。誇らしげな彼女にふわり、笑って、ユリウスは黒猫と白猫、二つのケーキを並べる。
「飲み物は紅茶? 珈琲?」
「飲み物の給仕、お手伝い致しまショウ」
 そう言ってエトヴァが席を立つ。花喰鳥の面々が作ったケーキがテーブルを華やかに飾っていた。テーブルいっぱいのチョコレートに記は笑みを零す。
「これで「今年は貰えなかった」って嘆くことはない……と思うのですけど、如何でしょう?」
 あぁ、とヒコは笑みを刻んだ。
「皆のおかげで「今年は貰えた」よ。ハッピーバレンタイン! ……と云うのが正しいのだろう?」
「ええ、ハッピーバレンタイン。日頃の感謝が美味しくなりまシタ」
 微笑んだエトヴァの手元には、飴細工の蝶のチョコの黒猫が飾るケーキ。洋酒香りケーキの奥には杏とチョコの香り。
「ハッピーバレンタイン。――白か黒、好きな方を召し上がれ」
 シルヴェストルの手元には冬薔薇の庭を模したチョコケーキ。苺の香りチョコの庭を差し出す彼を誘うのは洋酒入りのチョコケーキたち。
「はあい、はぴばれ! サヤからも感謝を篭めて!」
 ひとつふたつの美味しいものが、何倍も美味しくなるのはとてもよきこと。
「こうしてご縁はめぐるのです」
 ふふ、と笑みを零して、サヤは魅惑の甘味に手を伸ばす。銀のフォークでさくりと切れば、どれも素敵で甘いチョコレートケーキ。
「そうそう、ハッピーバレンタイン、だ」
 こういうバレンタインも悪くないな? とつかさは笑みを零す。しかしこれは『貰えた』にカウントして良いのか。感謝と縁の巡った形か。
「感謝を伝える手段に甘味ってのもいいもんだ。この一口たちを大切に今年もめげず頑張って生きるとするかね」
 さぁ甘いひと時を。感謝を込めて。

「層みたく果物増し増しにしたいンだけど」
「あぁ、あれですね。ムースも良いんですが、スポンジで層を作るのがやっぱりお手軽ですね。スポンジに何か好みとかありますか? キソラ様」
 手伝いを頼んだ先、キソラはレイリと一緒にケーキ作りを進めていた。
「甘くない方がイイけど、ビターすぎるとソレはソレで怒るしな……」
「もしお酒が大丈夫な方でしたら、スポンジにラムシロップを塗るっていう手もありますよ。その上から生クリームをこうやって円を描くみたいに……」
 絞ってゆく。薄く切ったベリーを敷き詰めて、重ね重ねて。一番上は赤いラズベリーだ。
「そうだ、雪みたいに粉の砂糖がかかってるヤツ、あれってどうやるの?」
「あれは茶こしでやるんですよ。 溶けない粉砂糖で……」
「溶けない……っと」
 ころり、と乗せすぎたベリーがケーキの上から零れ落ちる。すかさずキャッチして、キソラは食べちゃえ、とレイリにパスした。
「キソラ様?」
「腹が減っては戦も出来ぬっつうコトで」
 パフ、と両手で受け取ったレイリはぱちと瞬いて、はい、と笑った。

「こういうつやつやしたケーキを作るのって、すごく集中力使うね……!」
 アンセルムの隣、環は大人のケーキ作りに挑んでいた。
「普通のご飯とかならそれなりに経験あるけど、こういうスイーツはまた勝手が違うんですよねぇ……」
 ほう、と環は息をついた。
「アンちゃんはベリー系ですか? 濃厚チョコにベリーの酸味は相性抜群ですからねぇ。この光沢も高級感がすごいです」
「朱藤のは、洋梨? この香りは……ブランデーかな? ふふ、大人っぽくて素敵な味になってそう」
 中に使った洋ナシの他に、飾りに使う洋ナシのアレンジは手伝いに来ていたショコラティエから教わったものだ。実は、と笑い告げて、環はつややかなアンセルムのケーキを見た。
「……アンちゃん、一口だけ交換しません?」
「……ん、ケーキ交換する? いいよいいよ、どのあたりが欲しい?」
 ジャムとフルーツをたっぷり使った一品。チョコでコーティングしたアンセルムのケーキにはふわりお酒の香るベリーが綺麗に飾りつけられていた。

「2層にはできないかなー」
 メロン味の薄緑色のクリームをスポンジに塗って、果乃はチョコレートクッキーと用意していた苺を並べていく。作りたいものは決まっていたのだ。少しばかりなら見ながら、飾り付けには薄紫色と黄緑色のに着色したホワイトチョコを上面に流していく。引っ掻いて模様を描いていけばーーミラーケーキのような艶が出る。側面も少しだけ垂らして仕上げればーー。
「じゃーん! どう?」
「わぁあ……! 果乃様、すごいです!」
 つやつやです、とレイリは目を輝かせた。

「恭平は、どんなの食べたい? 甘め? 苦め?」
 本人は目の前だし、とアリアは好みを聞いていく。
「アリアさんが作るのであれば何でも……ま、まあ甘いほうがいいかな?」
「甘い方……。果物、何が良い? 私は定番だけど、苺。苺多めなのが、好き」
 知らず、声が弾む。復興の為ではあるけれどやっぱりバレンタインらしい場所で恋人と一緒に過ごすのは嬉しいのだ。
「いちご、うむ、いいね」
 緩みそうな顔を引き締めようとしてーー時々、上手くいかなくなる。アリアと一緒のバレンタインは恭平にとってもご褒美なのだから。完成したら一緒に食べよう、と約束をして、さくさくと混ぜられる甘い香りに、アリアの様子に笑みが溢れる。苺を手に取れば、ちょいど日向ぼっこをしていた黒猫がくぅっと背を伸ばした所だった。
「気まぐれだから反応してくれるかどうか」
 そう言いながら手招きすれば、ゆるりと黒い尻尾が揺れる。なぁん、と小さな声が二人にかかった。

 ルリィ、ユーロ、カレンの三姉妹はそれぞれ違うケーキを作っていた。ルリィはザッハトルテに似たチョコケーキを、ユーロはチョコガナッシュにラズベリーソース、カレンは洋酒入りのチョコレートガナッシュにブランデーに漬けたオレンジとラムレーズンで大人の味だ。無事にケーキが仕上がれば、勿論、試食の時間もやってくる。カフェスペースの一角、姉妹は交換会を行なっていた。
「交換してからよ」
 ひょい、と伸びたユーロの手に、ルリィが釘をさす。えー、じゃぁ、とキラキラとした視線をユーロに向けられカレンは笑って二人にケーキを差し出した。
「はい。あーん」
「あーん」
 はふ、と一口、貰ったユーロがわぁあっと笑みを零す。ほんの少し照れた様子で受け取ったルリィもこくり、と小さな笑みと共に頷いた。
「多めに焼いたので、レイリと千鷲にもおすそわけね。かわりに、レイリの作ったケーキも食べてみたいな」
「は、はい。多分なんとかなっていると思うのですが……ルリィ様もユーロ様もカレン様も、ケーキなんだかすごいです。ね、千さん」
 テーブルで出会った先、わぁ、と姉妹のケーキに目を輝かせながらレイリに、まぁレイリちぇんのも一応ケーキになったしと千鷲は笑う。
「だ、大丈夫ですよ」
 切り分けたのはシンプルなチョコケーキ。日頃の感謝を込めて、とレイリは微笑んだ。

「私は……レシピ通りにしているはずなのに、フルーツが綺麗に切れないのは何故なんでしょうか」
 むむむ、とトエルは眉を寄せる。
「デウスエクスならスパッと行けるんですけど……」
「……トエルさん、デウスエクスじゃないんだから。そんな真剣に見つめなくても大丈夫だよ? フルーツは攻撃してこないから」
 応える結は手際よくスポンジをカットしていく。保護者のつもりが、どうにも教える隙が無い。
「中々、見本通り……とはいかないものですね。結ちゃんは満足いく出来になりましたか?」
 ほう、と息をつく人に、結は顔を上げる。
「え? うん! 出来たよー?」
 苺とラズベリージャムを挟んだスポンジをホワイトチョコレートでコーティングした一品だ。
「苺を添えて、チョコペンで黒猫さんを描いてみたよー!」

「レイリ、一緒に作ろう!」
「はい。喜んで」
 レイリと共にアラタはチョコレートケーキ作りに挑んでいた。スポンジが鬼門だというレイリに、泡を潰さずにふわふわに焼き上げるには優しい扱いと時間と時間との勝負だとアラタはいう。1人だと慌てる事もあるだろけど2人なら助け合えるから大丈夫だ。
「わぁあ、アラタ様膨らみました!」
 オーブンで育つスポンジを二人顔、並べて見守る。この瞬間が好きだとアラタは笑った。
「レイリはトッピングは何にする? アラタはクリームにベリーをたっぷりがいい!」
「では私はやっぱりチョコを。果物は何か欲しいんですが……」
「オレンジの苦みも少しチョコレートに合って、絶対美味しいぞ!」
「わぁ、では。アラタ様のお勧めで……!」
 フォルトファリスの王冠チョコを薔薇と黒猫を飾って。そういえば、の思い出話の後、良ければまた一緒にとお出かけの約束を紡ぐ。

「わたしね、今回は白いチョコケーキにしたの。バレンタインの当日は本命チョコをあげるから別の味にしたほうが、君も楽しめるもんね」
 削ったホワイトチョコを側面にたっぷりつけたら、あとは飾り付けだという彼女に、アラドファルは声をかける。
「春乃、フルーツだと何が好き?」
「わたしがすきなフルーツはイチゴかな」
 だから半分に切ったイチゴには、ハート型に見えるように工夫したよ。と春乃は笑みを見せる。成る程、と手にした苺は気がつけば何だか量も増えてしまっていて。
「飾り付けはバランスが重要だな」
 たっぷりフルーツの乗ったケーキを眺めて呟いたひとに、春乃は微笑んだ。
「アルさん、フルーツたっぷりね。栄養満点でいいと思うよ!」
 ふふ、美味しそうね。と思わず笑みを零せば、良かったと落ちる声。
「俺だってバレンタイン、気合入れたい。君をイメージしたチョコケーキ、是非食べて」
 柔く甘く響いた言葉。アルさんも気合を入れるのは意外でびっくりしたけど、終わったらーーさぁ二人で食べよう。

「ボク知ってる! チョコは溶かすんだよね?」
「まずは湯を沸かした鍋とボウルだ」
 カチ、とついた火を晶は消す。それはもう高速に消す。直火で溶かそうとしていたうずまきに鍋とボウルを手渡して、一安心の筈が何故か手元に構えられていたのはマッコリ。ひょい、と取り上げて、そい、と他のを手渡して。それでも素直にメモを取りながらふむふむ、と頷いて、うずまきは息をつく晶を見た。
「ボク、今日とっても勉強になっちゃた! 晶くん、ありがとね!」
 それと、と落ちたのは小さな声。
「あ、あの……ボク、頑張るから……。呆れたりしないでね?」
 零れ落ちた本音に、晶は吐息を零すようにして笑った。
「……でもまぁ、こうして教えればちゃんと吸収するし、やる気十分だし。教え甲斐のある良い生徒だよ、本当」

 グレッグとお揃いのエプロンをつけて、何を作ろうか悩んだけれどノルが選んだのはハート型のチョコレートケーキだった。一緒に暮らし始めてから一年、感謝と大好きをいっぱい込めて。真っ赤ないちごジャムをスポンジに挟んで、チョコでコーティングをしたら色とりどりのベリーを手に。
「ーーん?」
 ふと、視線を上げれば眼に映るのは夢中で作っているグレッグの姿。嬉しくて、思わず笑みがこぼれた。
「あ」
 落ちた声は彼の視線に気がついてか。それとも幸せそうなノルの笑みが見えたからか。気がつけばつい夢中で作っていた事に照れながらも、グレッグは、ふ、と笑みを零した。彼の手元、沢山の大好きを込めてくれたケーキに同じ気持ちなのだと、そう感じて心が満たされていく。
「原宿って、とってもかわいい街だったんだよ。復興手伝って、またデートしにこようね」
 窓から滑り込む風に、甘い香りにノルが笑う。あぁ、とグレッグも頷いた。
「俺達の行動が巡り巡って少しずつでも街の活性化に繋がって行くと良い……。そして街が元気を取り戻したら、今度また一緒にデートもしよう」

 桃のコンポートを挟んで、チョコレートでコーティングすればチョコの香りの向こうで、コンポートの香りが志苑を誘う。
「桃大好きです」
 ふふ、と笑みを零した志苑が作るのは宿利へのケーキ。成人しているし、折角だからと選んだのはオレンジジャムとリキュールに漬けたオレンジ。チョコでコーディングした後、オレンジを刻んでいれば、わぁ、と宿利が笑みを零した。
「オレンジとチョコレートってとても合うし、リキュール漬けもとっても美味しそう」
「良かった」
 ふわり、志苑は笑みを零す。私の大切な友達へ。今日が特別に感じるのはこうして大切な人を想いながら作るからでしょうね。
「とても楽しくてとても幸せな事です。今日という想い出はいつまでも残ります」
 淡く、胸に宿る思いに笑みが溢れる。大切、とそう思うのは宿利も同じだ。
 私を大切にしてくれる、私の大切な友達へ。想いを籠めてお菓子を作るのはとても楽しくて、幸せ。
 この瞬間とチョコレートを、ずっと遺しておきたいくらいに、幸せなのだから。

「モノトーンを基調とした素敵な大人の男性にぴったりの一品、どうかな?」
「香りも見た目も美味しそう」
 嬉しくて自然と冬真は笑みを零す。彼女の作るお菓子は冬真の大好物だ。冬真は? と向けられた視線に、有理に似合う可愛いものを、と彼女の大好きな苺を飾りつけたケーキを見せる。
「わぁ、兎と苺」
 大好きなモチーフを入れてくれているのが嬉しくて。思わず笑みを零した有理の耳に届いたのはすぐにでも食べたいけどと笑う声。
「今は我慢。後で一緒に食べようね」
「うん、食べるのは後で一緒にね」
 だから、とそっと告げてつい、と背を伸ばす。
「今はこれで我慢して?」
 軽く触れるだけのキスをくれば瞬きひとつ、スプーンを置いた冬真が微笑む。
「甘くて嬉しいけれど…もう少し欲しいかな?」
 悪戯っぽく微笑んで、返す口付けをひとつ。いつもより甘く感じるのは二人のチョコの味だろうか。

 萌花が作るのはほのかに蜂蜜香るベリーのコンフィチュールとビターなガナッシュを使ったアイヴォリーへのケーキ。ミレッタにはピスタチオクリームとガナッシュクリームをウィスキーで香り付けしたスポンジを使ったケーキだった。
「お口に合うといいんだけど」
 小さく、零す彼女にぱち、と瞬いてフォルトファリスのハートのガナッシュにダークチェリーを添えたケーキをアイヴォリーは萌花に作る。華やぐ組み合わせに、ミレッタには彼女の素敵な女性ぶりに肖って。珈琲にシナモン、酒精飛ばしたラム酒をクリーム。
「ふたりともセンスが凄い……。私に頂いたイメージも素敵かつ美味しそう……圧倒……」
 それぞれ蝶々の翅と天使の羽の形になるようにチョコの薔薇を挿したケーキを作り上げたミレッタはほう、と息をついた。甘く、披露された互いの力作。口にする前から蕩けてしまいそうとアイヴォリーは思った。きらめく花のようなのはケーキとふたりの笑顔と、両方。
「――食べるのが惜しい? いいえ、まさか!」
 欠片も残さず胃とハートにおさめて。
「にっこり笑うまでが、乙女の嗜みですよ」
「ええ、ひとくちも残さずに!」
 乙女のお茶会はさぁ始まったばかり。

「えぅ、火にかけちゃいけないんだっけ……?」
「チョコに直火は駄目ですから」
 手にした鍋にゼレフの横、景臣が小さく笑う。湯煎にかけるのだという彼にどうにか頷いて、驚きを乗り越えつつレシピを確認すれば見慣れぬ言葉が並ぶ。
「……」
 すでに若干はみ出してるけど気にしない。そう気にしない。傍では、景臣が慣れた様子でバタークリームを塗ったスポンジにウイスキー漬けのドライフルーツを並べていた。中々華麗な相棒の作品に思わずーー眉が寄る。
(「負けてもいられないな」)
 落ちかけた袖をまくれば、なぁん、と覗きに来た猫が鳴く。おや、と小さく視線を上げた景臣の手元、丸く形を整えられたケーキは丁度チョコレートでコーティングをするところだった。上から一思いに流しかければ、艶めいた姿に甘い香り。頂きに咲かせるエディブルフラワー。彩に惹かれるチョコの蝶を添えてーーふと、顔を上げる。
「……」
 店の中、笑顔溢れる人々の表情に、のんびりと日向ぼっこする猫に。そして隣でケーキ作りに没頭する相棒に。
「平和ですね」
 そう、言葉を零す。辿り着いた穏やかな1日。あぁ幸せな日になるわ、と笑う老婦人に黒猫さんも上機嫌になぁん、と鳴いた。

作者:秋月諒 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年2月13日
難度:易しい
参加:42人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 1
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