グリゼルダの誕生日~高きものの言葉は何処に

作者:秋月きり

 長杖が旋回する。薙刀を模した斬撃は冬の空気を切り裂き、的を捉え、鈍い音を響かせた。
 遅れて舞うは金色の髪の毛。そして、光と消える無数の汗だった。
 幾多の打撃を受けたのか、木の幹に布を巻き付けただけの的はしかし、千切れ、黒ずんだ色を残している。
 使い古された的はそれだけではない。同じ道場内に置かれた円形の的は中心に矢が刺さり、そこに向けられた真摯な射を表していた。
「――やはり……」
 槍を、そして弓を鍛錬していたヴァルキュリアの少女は嘆息する。
 不死のデウスエクスから定命化の道を選んで3年。それに伴う弱体化があった事も事実。だが、問題はそこではない。そんな事ではない。
「私は、弱い」
 それが、グリゼルダ・スノウフレーク(ヴァルキュリアの鎧装騎兵・en0166)が自身に下した評価だった。

「まー。スランプとかあるよね」
 困ったものね、とリーシャ・レヴィアタン(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0068)は眉をへの字に曲げ、唇を尖らせる。
「あー。えーっとね。今日、1月28日はグリゼルダの誕生日なんだけどね」
 食事が大好きなグリゼルダの為にスイーツパーティを開こうと画策していたと正直に白状したリーシャは、そこで大きな溜め息を一つ、零した。
「予定を聞こうとしたら、『強いってどういうことでしょうか?』って聞かれちゃったのよね」
 探りを入れると、どうやらスランプに陥っているらしい。
 根が真面目なだけに、思考回路の迷宮に陥ってしまい、思い詰めているようなのだ。
「まー。いずれ時間が解決する問題だとは思うけどね」
 苦笑したリーシャはそして、襟を正してケルベロス達に向き直る。
「夜からはスイーツパーティを開催します。ただ……その前に、ちょっと訓練所でグリゼルダとお話しして貰えると嬉しいかな?」
 強さで思い悩んでいる彼女の苦悩を取り除いて、或いは軽減して上げたい。
 リーシャの浮かべた表情は、姉のような母のような遠い物であった。
「強さって色々あるよね。腕っ節の強さ。魔力の高さ。技術的な物、体力的な物、知識とか、まー、その他諸々?」
 だから、そう言うのを語る機会があれば、色々と悩み解消につながると思うのだ。
「私はね、グリゼルダが悩む事は良い事だと思うの。悩むからこそ、強くなれる。グリゼルダがそれを望むなら、出来る限り支援して上げたいと思う」
 出来れば、その力をケルベロスの皆に借りたい。ヘリオライダーの望みはそういう事の様だ。
「一緒に訓練に励んだり、背中を見せたり、みんなの思う『強さ』を示して欲しいの」
 もちろん、その後のスイーツパーティも忘れてはいけない。
 身体を動かした後、悩んだ後は兎にも角にも甘い物が欲しくなる。ケーキや果物、ジュースにアイスクリーム、パフェも何でもござれ。発端はグリゼルダの誕生日だが、楽しい時間を過ごせれば、それが彼女の喜びになるだろう。
「それじゃ、みんなで楽しもうか」
 斯くして、悩める子羊――グリゼルダの2つの誕生日パーティが開催されるのであった。


■リプレイ

●高きものの言葉は何処
 零れた溜め息は意外に大きく、自分自身でも驚愕してしまう。
 弱い。
 戦士としては認めたくない、だが、自分自身を知るが故に認めざる得ない一言は、意外と自分にとっても衝撃だったようだ。
 見渡せば、練習用の模造武器――長杖、長弓が散っている。現在、この訓練所を使用しているのは自身一人のみ。だが、この散らかし様はとても行儀悪いと、二度目の溜め息を吐いてしまう。
「……片付けましょう」
 座り込んでいたグリゼルダ・スノウフレーク(ヴァルキュリアの鎧装騎兵・en0166)は自身に叱咤の声を向け、立ち上がろうとする。だが、そこに至る事は出来ない。
(「……あっ」)
 立ち上がろうと言う意思に反し、両足には力が入らず、背を預けていた壁に再度、自身を預ける結果となった。
 1月の寒気に晒された壁はむしろ、ひんやりと心地良かった。
 訓練で火照った頭が程よく冷やされていくのを感じる。
「強くなりたいですね……」
 それが、今の彼女の願望。
 過去、強さについて問うた事がある。知りうる限りの同僚――赤髪のヘリオライダーや王子はその問いに苦笑しただけだった。それを未だ探しているとの弁もあれば、「グリゼルダの強さはグリゼルダが見つけるもの」と判るような、良く判らないような返答もあった。その光景を再度思い出してしまい、途方に暮れてしまう。
 今、もう一度問えば、答えの主は迷いを打ち切るような答えをくれるだろうか。
 ぼーっと天井を見上げてしまう。そこに答えなどあるはずないのに。
「やっほー。グリゼルダちゃん。精が出るね」
 声が掛かったのはそんな折で、突然のそれにびくりと震えてしまう。
(「あわわっ」)
 驚いてしまった事への気恥ずかしさと、悩む姿を見られたのでは? と言う気恥ずかしさと……ともあれ、様々な羞恥のお陰で頬が朱に染まる。頬が帯びた熱は訓練で得てしまった物とは別で、しかし、とても、熱かった。
「ああ。ごめんね。驚かせちゃったね」
 火倶利・ひなみく(スウィート・e10573)だった。ふと彼女の傍らに視線を向ければ、サーヴァントのタカラバコも当然のように佇んでいた。
「あんまり鍛錬しすぎても身体に良くないんだよ。休憩しよう」
「……あ、はい。そうですね」
 訓練所の床に座り込むまで、根詰めたように見えたのだろう。頷きと共に両足に力を込める。今度はきちんと立ち上がる事が出来、内心でほっとする。
「えっと、まずはお誕生日おめでとう」
「あ、ありがとうございます」
 ひなみくの祝福に、そう言えば20歳の誕生日だったなぁ、と思い直した瞬間だった。
「おめでとうございます!」
「誕生日おめでとう。グリゼルダさんも我々の仲間になってもう3年も経ったか」
 掛かった声は二つ。イッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)、そして空国・モカ(街を吹き抜ける風・e07709)の二人だった。訓練所に入ってきた二人の開口一番の台詞に、思わず破顔してしまう。
 そっか、と思う。ひなみく含めた三人が訓練所に集ったのは、偶然ではないだろう。皆は自分の誕生日を祝福してくれているのは今日が自身の誕生日で、そして……。
(「お節介焼きですね」)
 誰の差し金か判ってしまう。それが少しだけ嬉しくて、ちょっとだけ悔しくて。
 想いは彼女に向けた物だけでは無かった。ここに集まってくれたみんなの気持ちが温かくて、嬉しくて、愛おしくて。
「はいっ」
 絶対泣くものか。
 目頭に宿った熱を堪えながら、笑顔を形成する。

「グリゼルダさんは何か守りたいものはあるか? 恋人、親友や趣味、持ち物でもいい」
 賑やかになってしまった訓練所の中、グリゼルダに向けられたモカの言葉は率直なものだった。誰かの為に強くなる。何かの為に強くなる。だとしたら自分は……。
「あいにく、恋人と呼べる人はいませんが」
 守りたい人と言えば、幾人の顔が浮かび上がってくる。問題は、誰もが自分より強く、守りたいと言うよりも守られてばかり、と言う事だけれど。
「ですね。想い願う事と人の繋がりが強さの秘訣かもしれません」
 これはミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)から。グラディウスを抱え、ヘリオンから飛び降りる際――ミッション破壊作戦に従じる時、特にそれを強く感じると言う。
「私は、……守りたい者があったからね」
 ありがちだけれど、と苦笑いを浮かべるルリィ・シャルラッハロート(スカーレットデスティニー・e21360)の視線は自身の姉妹、ユーロ・シャルラッハロート(スカーレットデストラクション・e21365)とカレン・シャルラッハロート(シュトゥルムフロイライン・e44350)の二人へ向けられていた。彼女の視線を辿れば、その『守りたい者』が誰なのかなどは明白だった。
「私はお姉様に勝ちたかったからだけど」
 それはユーロの弁。共に振るう木製の短杖はファミリアロッドの代替品か。上下と襲い来る妹の打撃を体術でいなしながら、ルリィは掌底で応戦する。
「今では私の方が強くなったしねー」
「姉より優れた妹なんていないのよ!」
 突如始まった姉妹喧嘩、否、模擬戦を見守るカレンの表情は、微笑だったり、仕方ないなぁ、と言う微笑みだったりで、長女は大変だなぁと思ってしまう。
「私は自分で決めた事をやり抜くのも、強さの一つだと思うよ」
「やり抜く強さですか……」
 途中で投げ出さない事は強い。言われてみれば確かに、である。
「強さ、その土台はすなわち! 毎日三食と睡眠と休憩をしっかり怠らずとる事!」
 ミリムの言葉に成る程、と頷く。
 武術において、基礎は大事。ならば、生きる事もまた、基礎が大事だろう。
「その点においては大丈夫です」
 三食のご飯も、睡眠も欠かしていない自信はある。休憩は……まぁ、今後の課題だ。
「約束だよ」
「はい、約束です」
 小首を傾げるミリムに、力強く頷く。是だと思う。これ以上、彼女――いや、彼女だけではなく、皆に心配を掛けたくないと思った。
「謙虚なのは大事ですが、謙虚すぎる想いは考え物ですわ」
 ぶんと長杖を振るい、グリゼルダを強襲する一撃はエニーケ・スコルーク(黒馬の騎婦人・e00486)による物だった。
 なお、隠密気流からの不意打ちを狙っていたが、防具特徴や種族特徴はデウスエクス、並びにケルベロスには影響を与えない。よってバレバレだったのでやめる事にした。
 真っ直ぐに振り下ろされた一撃は、グリゼルダの腕では止める事は叶わない。咄嗟に構えた長杖は弾かれ、カランと乾いた音と共に床に転がっていった。
「たしかにまだまだですわね。でも驕りは見えませんから後は自信を自分の中で見つけていきましょ。私もまだまだなのですから」
「は、はい」
 痺れる手を振りながら、長杖の元へと向かう。だが、それを拾い上げるより早く。
「よ。20歳、おめっとさん」
 長杖は横から伸びた手に拾われ、そのまま手渡される。
「あ、ありがとうございます」
 拾い主――神白・煉(死神を追う天狼姉弟の弟狼・e07023)に短い礼を言うグリゼルダ。にかっと笑った煉の傍らには姉の神白・鈴(天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623)が、そして恋人のリシア・アルトカーシャ(オラトリオのウィッチドクター・e00500)と、一歩離れた場所にアリア・ハーティレイヴ(武と術を学ぶ竜人・e01659)がいる。
「強さか……」
 そして唸る煉はにかっと微笑。人懐っこいそれは、現在のグリゼルダに向けられた肯定でもあった。
「俺は充分、グリゼルダに助けられていると思うんだがなぁ」
 例えばヒーラーとして。例えば光る翼。例えばオークに対する誘惑。
 真摯な表情から、彼が本気で評価している事が伝わる。
 その思いは判る。判るのだけれども。
「い、いや、前者はともかく、後者二つはなんか違う気がします……」
 呪術だけでなく、手技や知識としても医療の研鑽を重ねている。だから前者は誇っても良いと思う。後者二つはヴァルキュリアと言う生まれと、女性と言うカテゴリーに依るものだ。大体、オークへの誘惑は言われた通りにしかやっていないし。
 助けを求めるように鈴の方を見るが、彼女は彼女で、何処か遠い目をグリゼルダの方に向けていた。
「誰かを守ろうとする意志を持った人は強いと思うです」
 リシア・アルトカーシャ(オラトリオのウィッチドクター・e00500)は援護射撃の様に紡がれた。
「誰かを守ろうとするなら何があっても自分が倒れちゃいけないから、諦めずに最後まで戦えると思うですよ」
「ですね」
 志半ばで倒れた事もある。誰かに支えられた事もある。
 だけれど、そこに宿った悔しさは真実。だから、強くなりたいと願った。
「んー、技術や技能、体力も大事だろうけど、心の持ち様でも変わるんじゃないかな?」
 グリゼルダの想いを見透かすように、アリアはゆるりと言葉を紡ぐ。
「今は1人で戦う事なんて少ないし、グリゼルダも、もっと仲間に頼っていいんじゃないかな?」
「そうですとも!」
 強き同意はイッパイアッテナからだった。
「グリゼルダさんが目指すのはどんな強さでしょう?」
「私の目指す強さ……?」
 戦える強さ。敵を倒せる強さ。弱者を守れる強さ。
 浮かぶ語句は多くとも、ピンと来るモノはない。私の求める強さとは一体何なのだろうか?
「私は貴方の活躍をこの目で5回は見ましたが、戦闘中、大人数を指揮出来る力量が貴方にはありました!」
 『一人で』戦う必要など全くないと二人は強く説く。
 猟犬の強さの本質。それは牙が一つで無い事。それを何よりも知るのはグリゼルダの筈だとの言葉は、強く胸に響いていた。
「俺にとっては、ヴァルキュリアこそが『そう』なんだけどね」
 ふっと微笑むのは二藤・樹(不動の仕事人・e03613)だ。
「で、ごめん、話す前に謝っとく」
 気さくに、だが真摯に。樹の言葉に、グリゼルダも襟を正して向き合う。それが当然の言葉だと思った。
「俺は、前に君らの仲間と戦って、助けられなかったことがある。本当に、ごめん」
 グリゼルダ達ヴァルキュリアが定命化する以前の話だ。
 ニーベルングの指環による洗脳は彼女たちを蝕んでいて、エインヘリアルの尖兵と戦わされていた。戦わざる得なかった。そして。
「姉様達はそれに抗っていた、と」
「ああ、自分達の誇りを汚されて、それでも最期まで諦める事だけはしなかった」
 だけど、その人たちを全て助ける事が出来なかった。
 それが樹の抱く悔悟で、その想いが酷く彼を苛んでいる事は判った。
「俺は、君の仲間達に、誇りとか、戦うことへの覚悟を教えてもらったんだよ」
 それが樹の知った『強さ』。ヴァルキュリア達が抱く強さと、ケルベロス達の持つ強さは別物で、だからと樹は言う。自分だけの『強さ』があるはずだ、と。
「そういうのをひっくるめて……グリゼルダ。キミはどう在りたい?」
「私は……」
 言い淀んでしまう。
 樹はあの頃の自分達を強いと評してくれた。だが、それはデウスエクスとしての強さではない。自分達の在り方だ。姉と慕った仲間達も、姫と慕った女神も、その強さは本物で、しかし、それは確かに――。
「確かにあたし達はアスガルド時代の力の大半を失っちゃったわ」
 フレック・ヴィクター(武器を鳴らす者・e24378)が告げる言葉は、事実だ。定命化によってヴァルキュリア種族はデウスエクスとしての力を失い、地球の民となった。
 だから弱くなった。グリゼルダが自身に告げた言葉は間違っていない。
 だが。
「それでも……そうね、きっとあたし達はその時よりも強くなってるわ」
「貴方はそう思うのですか? フレック」
 問いかけに帰ってきたのは微笑みと首肯だ。
 笑顔は一転して真顔となり、ぶんと刀を振るう。鞘に収まっていたはずの魔剣は次の瞬間、抜き放たれ空気を切り裂いていた。
 それが居合い術である事をグリゼルダは知っている。フレックの得手とする武術だ。
「強さなんて、結局、相手を制圧出来るか否か。……でも、それだけじゃないと思うわ。それに……本当に強い敵が来たとき、後悔しないように、だからこうやってトレーニングするの」
「それは……そうですね」
 最初から強い人間などいない。
 当たり前の台詞はしかし、長き時間を過ごす事で、忘れてしまっていたようだ。
 微苦笑と共にええと笑う。
「私は、弱い、ですね」
「弱くて良いんだよ」
 グリゼルダの独白を受け止めるよう、星黎殿・ユル(青のタナトス・e00347)が肩を支える。
「強さってのは直接的なものだけじゃ無いし、それが全てじゃ無いって知ってる」
 過去、自身が窮地に陥った際、自分を助けてくれた仲間がいた。その事が誇らしいんだよ、と胸を張る。
 ふるりと柔らかく膨らみを揺らす様は、とても誇りに満ちているように思えた。
「君の為に集まってくれる誰かが何人もいる。ボクはそれがグリ君の『強さ』であり『力』だと思うよ」
 それは目に見えない物で、だから、判りづらいかも知れない。
 しかし、グリゼルダが3年間で積み上げた想いであり――絆だ。
「それが強さそのものだと、ボクは思うよ」
 だから、と告げる。
「キミは今のキミのままの強さと弱さを持って戦えば、それでいいんじゃないかな?」
 本当の強さはそう言う物では無い。
 優しく告げるその言葉はとても暖かくて。
 その想いは確かに、グリゼルダの胸に刻まれていった。

●高きものの言葉は現在
(「――これはただの結末で、蛇足で、でも、もしかしたら、それが大切な事かも知れません」)
 訓練所を後にしたグリゼルダは、誘われるままに洋菓子店へと歩を進める。
 そこに並べられていたのは大量の果物、洋菓子、ジュース、そして――笑顔。
 そこに在ったのは幸せ、だった。

「折角のスイーツパーティーですし、また煉くんとイチャイチャしたいな、なんて」
 甘味よりも甘い言葉をリシアが紡げば、
「ありがとうよ」
 と微笑で応じるのは煉だ。
 強さについて、彼なりに思う事があるらしい。それを支えようとする恋人の姿もまた、いじらしく感じる。
「いやー。美味しいですね」
 イッパイアッテナは皿一杯にスイーツを並べ、片っ端から頬張っていく。一人で取り過ぎと言う事は無い。その半分は自身のサーヴァント、相箱のザラキの物だ。
 サーヴァントと共に緩やかな時間を楽しむのは彼だけではない。ひなみくもまた、タカラバコと並び、幸せそうにアフタヌーンティーの時間を過ごしている。
「あ。グリちゃん。改めてになるけど、誕生日、おめでとう!」
 スイーツカクテルを運ぶ鈴はしかし、次の瞬間、小さな悲鳴と共にバランスを崩してしまう。
 あわや大惨事――が訪れるその前に。
「っと、危なかったね。鈴、大丈夫かな? 怪我とかしてない?」
 横から伸ばされたアリアの手に支えられ、万死に一生を得るのであった。
「体をならした後はやはりこれに限りますわ」
 ジョッキ一杯のパフェを食すエニーケはとても幸せそうだ。周囲を見渡せば彼女だけでない。樹やユルやミリム、モカと言った面々も、思い思いの果物や菓子、お茶を口に運びながら、空気を幸せそうに染め上げていた。
「はーい。姉様。あーん」
「む、むむ。恥ずかしいなぁ。はい、あーん」
「……ふふ」
 カレン、ルリィ、ユーロの三姉妹は様々な甘味に手を伸ばし、それを互いに勧め合っている。その光景は微笑ましく、まぶしくて。
「……今年の誕生日もご馳走、ね」
 フレックの呟きに思わずこくりと頷いてしまう。いや、去年のオムライスはオムライスでとても良かったと思う。
 その事を告げるとクスリと笑った彼女は次の言葉を続ける。
「また、作ろうか」
「いいですね」
 楽しい思い出は幾度繰り返しても楽しい。それが永遠ではなく、刹那だからこそ尚。
 そう思えるほどには、成長したのかな? と思う。
「――色々吹っ切れたんなら良かったけど」
 生クリームと季節のフルーツが満載されたパンケーキをフォークで突いていたヘリオライダーは、緩やかに笑う。
「はい。心配をおかけしました」
 礼は素直に言う事にした。ともあれ、彼女のセッティングが嬉しかったのは事実だ。
「んじゃまぁ、そう言う事で」
 軽快な声と共に差し出されたのは透明なグラスだった。中に薄い緑色の液体が詰まっているところを見るに、彼女は彼女で甘味と酒精を楽しんでいたようだ。
 そこに鈴に渡されたグラスを添える。
 ちんと澄んだ音が響いた瞬間、なんだか少しだけ、大人になった気がした。
「誕生日おめでとう。グリゼルダ」
「ありがとうございます。リーシャ様」
 宴は緩やかに、ゆっくりと幸せを育んでいく。

作者:秋月きり 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年2月14日
難度:易しい
参加:15人
結果:成功!
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