真っ赤なバレンタイン

作者:黄昏やちよ


 バレンタインシーズン。
 ピンクや赤、恋や愛を思わせる色合いが様々な店を彩っている。
 店頭に並ぶ商品は、バレンタイン関係の商品ばかり。
 殆どの店は、女性客で賑わっているようだ。
「私、これにしようかなー」
「そちらは、当店の一番人気の商品となっております」
 お店に並ぶ可愛らしいパッケージのチョコレートを指さしながら、女性と店員は話し込んでいる。
「キャアアア!」
 悲鳴が聞こえたと思えば、ある一人……身長3mほどの頑強な肉体を持つ女を避けるように人々が円を描く。
 店頭に並ぶ赤色とは違う、赤色がデパートの床を染め上げていく。
「ァハッ! こっちの色の方が、キレイじゃん」
 その女、エインヘリアルは狂った笑みを浮かべると手に持った『それ』を他の女性客に振り下ろし更なる犠牲者を出すのでだった。


 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は、集まったケルベロスたちを確認すると口を開いた。
「バレンタインフェアで賑わうデパートにて、エインヘリアルによる人々の虐殺事件が予知されました」
 このエインヘリアルは、過去にアスガルドで重罪を犯した凶悪犯罪者のようで、放置すれば多くの人々の命が無残に奪われるばかりか、人々に恐怖と憎悪をもたらし、地球で活動するエインヘリアルの定命化を遅らせることも考えられる。
「皆さんには、急ぎ現場に向かって頂き、このエインヘリアルの撃破をお願いしたいのです」
 そのエインヘリアルの名は、アイリーンと名乗っているらしい。
 現場はデパート。戦闘を行うには十分な広さはあるが、バレンタインフェアということもあり商品がそこかしこに置いてある。
 その上、普段よりも客が多い状態のためまずは一般人の避難を優先したほうがよい。
 一般人の避難が完了するまでの間、注意を引き付けておかなければ多くの犠牲者が出ることになるだろう。
「このアイリーンと名乗るエインヘリアルは、ルーンアックスを使用しています。美的意識が高いのか、『キレイ』なものに反応するようです」
 出現するエインヘリアルはこの1体のみで、使い捨ての戦力として送り込まれているため、戦闘で不利な状況になっても撤退することはない。
「このエインヘリアルを倒し、人々を助けられるのは皆さんだけです。どうぞよろしくお願いします」
 セリカはケルベロスたちに向かって深々とお辞儀をする。
 暫くして顔をあげると、現場に向かうためのヘリオンの準備にとりかかるのであった。


参加者
平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)
修月・雫(秋空から落ちる蒼き涙・e01754)
ピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542)
ルピナス・ミラ(黒星と闇花・e07184)
彩咲・紫(ラベンダーの妖精術士・e13306)
城間星・橙乃(雅客のうぬぼれ・e16302)
カタリーナ・シュナイダー(血塗られし魔弾・e20661)
田津原・マリア(ドラゴニアンのウィッチドクター・e40514)

■リプレイ

●バレンタイン前の騒動
 バレンタインデーが近づき、デパート売り場はより一層バレンタインを意識したグッズを揃え始めている。
 ピンクや赤といった恋や愛を思わせる色合いが多くの店を彩り、人々にその存在感を示す。
 店頭に並んでいるのは、バレンタイン関連の商品ばかり。それも当然であろう、今このデパートではバレンタインフェアが開催されているのだから。
 色とりどりの商品を眺めながら、人々は悩んだり笑顔になったり、また時には恥ずかしそうにしている。
「このデパートのグルメマップを受付嬢からもらってきたよ」
 顧客用の案内マップではあるが、わかりやすく作成されているマップを仲間たちに一枚ずつ手渡ししながらピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542)は言う。
 服飾が本業というピジョンの出で立ちは、オシャレで目を引きやすいらしく、時々女性たちが振り向いては彼を見つめていた。
「ありがとうございます、ピジョンさん。避難経路については……こういったルートでよろしいでしょうか?」
 ルピナス・ミラ(黒星と闇花・e07184)がマップを指さしながら、避難誘導を担う仲間たちに確認をする。
「ええ、そうね。そのルートの方が道も広くて安全そうだわ」
 城間星・橙乃(雅客のうぬぼれ・e16302)も同じように確認を行い、万が一のことに備えられるように避難誘導役だけでなくエインヘリアルを抑える仲間たちにも情報を共有する。
「キャアアア!」
 ケルベロスたちは、その瞬間が訪れたのだと確信する。
 何処からともなく現れた『その女』は、一般人の見た目とは違い異彩を放っており、ケルベロスたちがその現場に迷いなく向かうためには十分なものであった。

「こんな色より、もっとキレイな色あるってぇ~。アイリーンちゃんに任せなよ~」
 その女……アイリーンと名乗ったエインヘリアルは、猫なで声でそう言いながら手に持ったルーンアックスを弄んでいる。
 逃げ遅れ身動きがとれなくなったのか、一人の女性がアイリーンの前で蛇に睨まれた蛙のようにぺたりと地面に座り込み、目を潤ませ小刻みに体を震わせている。
「た、たすけ……」
「ァハッ! 何アンタ、キレイになりたいのぉ?」
 ケラケラとアイリーンは笑いながら、その女性を品定めするように見ながら言う。
 次の瞬間、ゴオッと空気を切るような音。
 アイリーンがその手に持ったルーンアックスを振りかぶったのだ。
 ニタリ、下卑た笑いを浮かべるアイリーン。
「ぁ……」
 自らに振り下ろされるであろう『それ』を見つめながら、女性は声を漏らす。
 ルーンアックスが振り下ろされようとした、その瞬間。
 キィィィンとデパート内に響く金属音。
「させないっ! っつぅ~……あんたの攻撃なんて、通さないんだから!」
 間一髪のところで、振り下ろされたルーンアックスを二人の間に入ってきた平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)が己の武器で受け止めた。
「チッ」
 アイリーンはこれ見よがしに舌打ちをし、ばっと後ろに下がり和から距離をとる。
 それを確認した和は、庇った女性に顔だけ向けるとぱちりとウインクをしてみせた。
「こいつはボクたちが倒すから逃げて! あっ、避難の合言葉『おかし』を忘れずにね!」
 プリンセス変身により励まされ勇気づけられたその女性は、こくりと頷くと立ち上がり避難誘導のケルベロスたちの方へと向かっていった。

「あーぁ、折角キレイにしてあげるつもりだったのになぁ~」
 アイリーンは逃げていく女性を見ながら、つまらなさそうに自らの髪の毛をくるくるといじっている。
「あなたの思っている通りにはさせません!」
 逃げ遅れそうになっている一般人を庇うように前に出ながら、修月・雫(秋空から落ちる蒼き涙・e01754)は言う。
「貴女の相手は私達がしてあげますよ、きっと殺戮よりは楽しめると思いますわ」
 穏やかな口調で彩咲・紫(ラベンダーの妖精術士・e13306)がアイリーンを挑発してみせた。
「うちらはケルベロスです! ここは特別な思いを選ぶ場所! アンタみたいな無粋な人が折ってええ場所やありません!」
 エインヘリアルが現れたことにより、怯える人々を励ますようにダイナマイト変身をしてみせる田津原・マリア(ドラゴニアンのウィッチドクター・e40514)も皆と同じように一般人とエインヘリアルとの間に割って入る。
「こんなところで堂々と血のバレンタインをやらかそうとは、いい度胸しているな。我々ケルベロスが来ると知っているのなら尚更な」
 この日のために、あえて新品の服を着こんだカタリーナ・シュナイダー(血塗られし魔弾・e20661)もアイリーンの美的センスに訴えかけるような言動で訴えかけた。
「ふーーーん、ケルベロスかぁ……アタシの方が絶対センスいいけど、いいじゃん。もっとキレイにしてあげるよ」
 アイリーンは再び、ニタリと下卑た笑みを浮かべてルーンアックスを振りかぶった。

●約束されたもの
 一方、同時刻にて一般人の避難誘導役を買って出たケルベロスたちも計画通りに動いていた。
 突如現れたエインヘリアルに、パニックになりかけている人々を落ち着かせるべく各々の能力を駆使しながら一般人を落ち着かせていく。
「落ち着いてデパートから出てね、デウスエクスはケルベロスが抑えているわ」
 橙乃が毅然とした態度で、避難誘導を行う。
 パニックにならぬよう、いつも通りの態度で対応するよう心掛け声を出す。
 橙乃のその様子に一般人たちは落ち着きを取り戻し、また『ケルベロス』が来てくれたということに安堵しながら案内された通りのルートへ向かってゆく。
「大丈夫です、わたくし達はケルベロスです。落ち着いて避難すれば、必ず助かりますよ」
「あ、あの……! わ、私の友人とはぐれてしまって……!」
 一人の女性が涙で頬を濡らし、息を切らしながらルピナスに縋りつく。
 その様子を見て、にっこりと優しい笑顔を浮かべる。
「大丈夫です。わたくし達が皆さん無事に逃げられるように誘導しています。あなたのご友人さんも、無事に逃げられているはずです」
 隣人力を駆使し、女性を落ち着かせ不安を取り除くような言葉をかけていく。
 女性は落ち着きルピナスの言葉に納得したのか、大きく深呼吸をするとお礼を言って出口の方へと向かっていった。
 また別の場所では、ピジョンがプリンセス変身を行い人々を勇気づけていた。
 黒と赤を基調としたドレス。姫という表現よりは、『不思議の国のアリス』に出てくる赤の女王といったほうがしっくりとくるのかもしれない。
 そんなドレスに負けることなく、綺麗に着こなすピジョン。
 その横では、ピジョンの相棒のマギーがふよふよと楽しそうに浮かんでいる。
「敵は一人だ。仲間たちがしっかり抑えこんでいるから落ち着いて外へ避難してね」
 彼もまた、隣人力を駆使して一般人の誘導に尽力していた。
 少し恥ずかしいという気持ちもあったが、ヤケ気味に開き直りつつ、ピジョンはその出で立ちでしっかりと役割を全うするのであった。
 避難誘導役のケルベロスたちの健闘により、パニックによる事故なども発生せず無事に一般人たちの避難が完了したのである、
 一般人が誰もその場に残っていないことを確認すると、三人はアイリーンと対峙しているケルベロスたちのもとへと向かっていくのだった。

●美的センス
 一般人に手を出せないように、絶妙な距離感でアイリーンと対峙するケルベロスたち。
 そこに、避難誘導役を行っていた三人が合流する。
「お待たせしました。皆さん無事に避難して頂きましたので、安心してくださいね」
 ルピナスが言うと、抑え役のケルベロスたちはほっと胸をなでおろす。
(「私もキレイなものは好きですので趣味は合うかも知れませんが、殺戮を好む相手とは願い下げですわ」)
 紫が心の中でぴしゃりと、エインヘリアルの美的感覚を否定する。
 そして、前衛にメタリックバーストをかけて支援を行う。
「もっと時間があれば大きいのもできますけど、これでも充分ですよ!」
 雫はエインヘリアルの頭上に雷雲をすばやく作り出すと、雷を落とす。響く雷鳴の音と共に、エインヘリアルからはくぐもった声が漏れる。
「皆さんが攻撃しやすいように!」
 マリアが跳ぶ。流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りをエインヘリアルに食らわせていく。見事にその飛び蹴りを背後から受けることになったエインヘリアルはよろよろとよろめいた。
「ちょこまかと……!」
 アイリーンは憎々しげに呟き、再びルーンアックスを振りかぶる。
「そんなに血が見たいのなら貴様自身の血を全部搾り出してやる。貴様も自分自身の血の色が一番美しいと思っているんだろう?」
 目にも止まらぬ速さで弾丸を放ち、エインヘリアルのルーンアックスを砕いた。
 ルーンアックスの破片がデパートの床に散らばっていく。
「……フーン、わかってるじゃん……」
 一部が破損してしまったルーンアックスを撫でながら、アイリーンは笑ってみせる。
「でも、見逃してあげる理由にはならないよね♪」
 ケルベロスたちの攻撃を受け、ぼろぼろになりながらもその女は愉しそうに笑っていた。

「無限の剣よ、我が意思に従い、敵を切り刻みなさい!」
 ルピナスがエナジー状の剣を無数に創造し、その無数の剣でエインヘリアルの体を切り刻んでいく。
「グッ……!」
 切り刻まれた体を抑えながら、アイリーンは憎々しげにルピナスを睨む。よろよろとよろめきながらも、武器を手放すことはない。
(「この様子なら、そう永くはないですわね……」)
 紫が心の中で独り言ちる。
「皆様、もうあと少々頑張って下さいませ!」
 そして仲間たちを鼓舞するように声をかけ、生命を賦活する電気ショックを飛ばし前衛に立つ味方たちの戦闘能力を向上させた。
「ぎったんぎったんにして、バイバイしてやるんだから! ぷんすか!」
 和はぐっと拳に力を入れる。和の全身を覆うオウガメタルを『鋼の鬼』と化し、その拳をエインヘリアルに叩きこむ。
 鈍い音が響き、エインヘリアルがくぐもった声を漏らす。
(「でもリア充は爆発すればいいと思います」)
 ぽつりと心の中で漏らしたその一言は、誰に聞かれるわけもなく和の中だけにとどめられたのだった。
「絶望的に美的感覚が僕らと相いれないねぇ……」
 ピジョンはそう言うと、跳び上がる。目にもとまらぬ速さで、エインヘリアルへ飛び蹴りを叩きこんでいく。
 その重力に耐え切れなかったのか、アイリーンは前のめりに倒れていく。
「マギー!」
 ピジョンが相棒の名を呼ぶと、待ってましたとばかりにテレビウムのマギーが飛び出した。そして、その手に持ったハサミでエインヘリアルをざくざくと切りつけていく。
「煌煌と、照らされ佇む冬の碧」
 橙乃が空気中の水分を凍らせ、碧雷を纏う氷の水仙を生み出す。その水仙にエインヘリアルの一部が触れた瞬間、彼女の身体を凍てつきと痺れが蝕んでいく。
「ぁ……あぁ……い、いた……」
 アイリーンが小さく漏らす。
「援護は任せてください!」
 マリアは、味方が動きやすいようにケルベロスたちの様子を見ながら攻撃を加えていく。
「あと一撃、食らわせったってください!」
「ああ、任せろ」
 マリアの援護を受け、カタリーナが飛び出した。
 カタリーナの体内の豊富なグラビティ・チェインを破壊力に変え、それをAF65-Vに乗せて……エインヘリアルに叩きつけた。
「……ぁ、キ、レイ……」
 最期に、うっとりとした表情で己の体から流れ出す『それ』を見つめながら、アイリーンは斃れた。
「キレイなもの……やっぱり血でしたか。悪趣味ですね」
 雫が斃れたエインヘリアルの亡骸を見ながら呟いた。そして、ふうと一息つくと武器をそっとしまうのだった。

●ハッピーエンド
 戦闘を終え、ケルベロスたちは荒れてしまった箇所をヒールしていく。
「特別な日の準備頑張ってくださいね」
 従業員たちの手伝いを終えたマリアが微笑みそう言うと、従業員たちは嬉しそうに頷いた。
「皆様は、今年はどなたかにチョコレートを渡す予定はおありでしょうか?」
 紫が戦いを終えた仲間たちに声をかける。
「……いいえ、特に」
 橙乃は購入したチョコレートを持ちながら答える。この購入したチョコレートは自分用なのだとはっきりと伝えながら。
「折角ですし、今年はどんなチョコがあるか下見をしておきたいです」
 ルピナスがそういった途端、周囲の店員の目が光る。我先にと店員がルピナスに自店のチョコレートの良さを伝えだす。
 ルピナスは困ったように笑いながらも、一人一人の従業員に丁寧に応えるのだった。
 ケルベロスたちの活躍により、デパートのバレンタインフェアはその日のうちに再び改めて開かれた。
 こうして、人々の笑顔を取り戻した仲間たちはそっとその場を去っていくのであった。

作者:黄昏やちよ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年2月9日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 1
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