配る物があるから貰えない奴が出るんだ!

作者:久澄零太

「野郎ども、準備はいいな!?」
 なんか海賊染みた鳥さんはバサリと地図を広げて、洋菓子店の数々を示す。
「ここも、ここも、ここも……すべてチョコレートを売り込んでやがる。そう、バレンタインだ。甘ったるい頭ン中お花畑の連中が、菓子に下心を隠してお返しと称してより良い物を得ようとするドス黒い日だ!」
 大体あってるような、大分偏ってるような、判断に困る事言う鳥オバケは翼を広げて。
「行くぞ同志達! バレンタイン前にチョコを根絶やしにするのだ!!」
『ノーチョコレート! イェス根絶やし!』

「みんな大変だよ!」
 大神・ユキ(鉄拳制裁のヘリオライダー・en0168)はコロコロと地図を広げて、とある倉庫を示す。
「ここにチョコを根絶やしにすべきってビルシャナが現れて、信者を増やそうとするの!」
「鳥ども、やっぱり貰えねぇんだろうなぁ……」
 アルト・ヒートヘイズ(写し陽炎の戒焔機人・e29330)、憶測でものを言ってはいけません。
「信者は恋人同士で何でチョコを贈るのかを語ったり、逆にそのカップルをドーン! てして、誰にでもチョコを贈らないと不幸になるって話をしたりすると目を覚ましてくれるよ!」
 つまり、リア充視点と非リア充視点の二つからチョコの必要性を語れと言う事らしい。発破作業が捗りそうな事件である。
「敵は物凄くチョコを憎んでて、チョコを見ると溶かしに来るかもしれないから気をつけて!」
 ゆーて、今回はチョコそのものの必要性を感じない。まさかもちこんでチョコを溶かされる番犬なんて現れる事はないだろう。
「せっかくのバレンタインを邪魔させるわけにはいかないよね! 所で、現場の近くのお菓子屋さんなんだけど、ここチョコレートが美味しくて有名なお店でね……?」
 キラキラと、何かを期待する眼差しを向けてくるユキ。君達はそれに応えてもいいし、見なかったことにしてもいい。


参加者
日柳・蒼眞(落ちる男・e00793)
テティス・ウルカヌス(天然系自称アイドル・e17208)
リカルド・アーヴェント(彷徨いの絶風機人・e22893)
アルト・ヒートヘイズ(写し陽炎の戒焔機人・e29330)
白焔・永代(今は気儘な自由人・e29586)
霧島・トウマ(暴流破天の凍魔機人・e35882)
平・輝(サラリーマン零式忍者・e45971)

■リプレイ

●相変わらずロクでもない連中
「うぉおおおお!!」
 吠える 日柳・蒼眞(落ちる男・e00793)。その脚が太陽機の床を蹴り、迎え撃つは珍しく得物を手にしたユキ。テニスラケットの如く構えたフライパンを片手に、直線的に突っ込んで来る蒼眞に対してサイドステップ。
「うにゃあ!!」
 元いた位置に鉄板を残すようにして弧を描いて回り込み、蒼眞の顔面をフライパンの中心に捉えてスマッシュ!
「へぶっ!?」
 パゴォン! 鈍い音を響かせて、蒼眞の体が跳ね返るがその程度で諦める変態ではない。
「今日はどうあがいても地獄を見る気がするんだ! こんな所で諦めてたまるか!!」
 蒼眞が己が末路を理解するのも仕方がない。だって同じ太陽機内に地獄を量産して、持参してる奴がいるんだもん。
「ふっふっふ、今回は乙女の大事なイベント、バレンタイン特集号ですね!ここは愛の伝道師たるテティスちゃんが、皆さんに愛【チョコレート】をお届けしましょう!」
 そう、安心と安定のヘルメイカー、テティス・ウルカヌス(天然系自称アイドル・e17208)である。
「ちゃんと事前にレシピを見て、マネージャーのアドバイスを受けながら作りましたから、自信作ですよ!!」
 などと語るテティスだが、その際の会話の一部始終がこちら。

「マネージャー! 鳥芸人さん達を(魅了的な意味で)ワンパンKOできるチョコが作りたいんです!」
「ほほう、(即死的な意味で)一撃必殺か……そういう事なら任せておけ。ククク、天才科学者の腕が鳴るなぁ!!」

「今回はなんだか、凄く会話が噛み合ってましたからね。そう感じるのもきっと、私に本当に実力が付いてきたからに違いありません!」
 自信満々なテティスに、死を予感する蒼眞。
「現場に危険物指定されそうなチョコが持ち込まれようとしてるんだ! せめて、事前にマシュマロおっぱいの癒しを……」
 よこせ、と言おうとして、ふとユキの胸を見る。どう見てもマシュマロを連想するような膨らみはなく、ストーンと硬そうな絶壁。
「チョコにはキャンディって言うし、飴玉サイズだとしても……」
「それどういう意味!?」
 ユキがツッコミを入れた隙に蒼眞が肉薄。ユキのペチャパイに頬を当てると、尻を揉みしだく。更にそのまま抱き上げるようにして、頬に胸を押し付けて……目が虚になったユキにフライパンを振りかざされ、ゴッ!!
「ちょ、鈍器は洒落になってな……」
「いってらっしゃいッ!!」
 トドメに横に寝かせたフライパンをフルスウィング。蒼眞の脇腹に食い込ませながら、太陽機から射出した。
「そういえば、なんでユキさんフライパン持ってるんすか?」
 もぐもぐ、説得用だったのであろう、ちょっとお高いチョコレートを自分で食べてる シルフィリアス・セレナーデ(紫の王・e00583)の質問に、ユキは遠くを見る。
「ヘリオライトが囁くの。金属製の盾を持っておきなさいって」
「あ、もちろんユキさんへの友チョコもありますからね♪」
「そうなの? ありがとー! ……でもなんだろう、嫌な予感がするよ?」
 はい。テティスに差し出されたそれを、生存本能的な何かで直感したユキはフライパンで受け取るのだが、ズンッ!
「お、重い……!?」
 素手で受け取っていたら、太陽騎士の彼女の指がどうなっていたか、分かったものではない。
「俺はね、チョコが欲しかったんだよ。兵器が欲しかった訳じゃないんだ……」
 床に叩き落とされたフライパンが、重量に負けて捻じ曲がった様を見て、白焔・永代(今は気儘な自由人・e29586)が現実逃避するように遠くを見やる……かと思いきや。
「うえぇぇ、ユキちゃーん」
 ユキに飛びついて平坦な胸にすりすり。凹凸がないから左右に動きやすいね。
「この……」
 ガッ、永代の頭を両手で掴むユキ。こめかみに指を当てて圧を加えながら。
「ド変態ー!!」
「ぷぎゅ!?」
 固定して、ノーガードの永代の顔面に強烈な膝蹴りを叩き込んだ。

●チョコレートの謀略
「行くぞ野郎ども、チョコは根絶やしだー!」
「ちょっとお待ちください」
 失礼します。そう断りを入れてから、 平・輝(サラリーマン零式忍者・e45971)が異形の集会に入る。
「私、こういうものでして」
「あ、これはどうも。私はこういうもので」
 有限会社黒井商事営業主任って名刺を渡したら、お菓子会社の営業課長の名刺が返ってきた。
「あら、お菓子を作っていらっしゃるのですか?」
「えぇ、と言っても、ウチは弱小でほとんど名前も知られてませんけど……」
 彼も神堕ちするからには、それ相応の想いがあった。しかし、今回の番犬は誰もその辺に触れてない為、割愛。
「しかし、チョコの根絶はいかがかものかと……」
「ぬぁにぃ?」
 腰は低くも喧嘩を売りに行く輝曰く。
「誰にでもチョコを贈るから、日本経済は成り立ってるんですよ。それがなかったら、太陽がなかったら地球がたちまち凍りつくのと同じですよ」
「どこが!?」
 鳥さんのツッコミに輝は不敵に笑う。
「花は枯れ、人は微笑みをなくし……チョコが売れなくなり、お菓子業界の思惑丸潰れで、日本経済はストップしてしまう……大恐慌の冬が来るぞ! と言うわけですよ」
「社会に謝れ! 日本の企業はお菓子会社だけじゃないぞ!?」
 まさかの、鳥さんの方が常識的という事態が発生した。
「というかだな、お菓子業界だって全部が全部そんな事を考えてるわけじゃない! ウチだってそうだ! なのにでかいところが余計な事するから、まるで策略の行き交う日のように……!」
「いや、そもそも。贈り物に下心があるとか思ってる時点でお前らも下心に塗れてるからな? どーせ本当は欲しいんだろ? で、貰えないからチョコや貰えてる奴に八つ当たりしてんだろ? 何のために『義理チョコ』って文化があると思ってんだよ」
 自分に正直になれよ、な? そう語りかけて、アルト・ヒートヘイズ(写し陽炎の戒焔機人・e29330)が肩を叩く。
「何も貰えないなら貰えないで喚くだろう? それを防止するための『義理チョコ』だ。喚く嘴があるなら、適当な理由つけて誤魔化しているお前ら自身の下心を見返せば良いのでは?」
 リカルド・アーヴェント(彷徨いの絶風機人・e22893)の半眼ジト目に、信者がビクッ! しかし、そのリカルドの方がーー鎧と外套を繋いだような、実戦一辺倒の装備に身を包み、軍人然りとした長身のガタイと威風をまとった霧島一族の一人が、カタカタと震えている。
「それにな、お前達が恨めるのはそのチョコが『まとも』だからだ。アレが貰えないことは普通は感謝すべきだぞ?」
 まるで、歴戦の兵士が未知の兵器に友軍を皆殺しにされたかのような、真顔のまま恐怖に震えるその姿に、信者は愚か鳥オバケすら危機感を覚える。そんな中、 霧島・トウマ(暴流破天の凍魔機人・e35882)が投げ込んだのは。
「なぁ、チョコを溶かすのとさ、チョコ『に』溶かされるの、どっちが良いかァ?」
 ある種究極の選択だった。
「な、何を言ってるんだ……?」
 理解の及ばない鳥オバケに、テティスがチョコを差し出して。
「今回、鳥芸人さんが荒れてるのも、チョコをもらえないからですよね? けど、鳥芸人さんには毎回、番組でお世話になっていますから、ここはテティスちゃん手作りのチョコをプレゼント・フォー・ユーです」
「いや、私は芸人じゃないんだけど……?」
 一見、女の子からチョコを渡されるという信者から裏切り認定されそうな状況だが、先のトウマの質問の件もあってか、信者達は何かを警戒するようにしてジッと見ている。
「鳥芸人さん、はい、これをどうぞっ! あ、か、勘違いしないでくださいね、義理チョコですからっ!」
「だから芸人じゃないって」
 しかし、異形も嫌な予感くらいはしていた。だからこそ、箱を受け取らなかったのだが。チュンッ! 放っておいたら箱が爆ぜ、中から何かが飛び出して鳥オバケの頬を掠めていく。何やら水気を感じて異形が触れると、手羽先には真っ赤な血が……。
「なんじゃぁコリャ!?」

●チョコは悲劇しか生まない
「おい何か進化してないか!?」
「俺に聞くんじゃねェ!!」
 頭の上でアイゼンが丸まりガタガタブルブルしているアルトが叫び、トウマは目の前で何が起こったのか、若干理解が追い付いてないらしい。一先ず、通常兵器では傷一つつかないはずのビルシャナに対し、血を流させた代物を持ちこんだテティスに対してリカルドが咳払い。
「お嬢さん? 君は一体どうやってそのチョコを作ったのかな?」
「「あいつ誰だ!?」」
 ビビり過ぎて、口調がおかしくなったリカルドにアルトとトウマがツッコミを入れるが、それはさておき。
「えっと、まずは恋の妙薬と噂されるオークの触手液に、元気になるって噂のドラゴンの肝を加えて、旨味を出す為に死神の出汁を取って、竜牙兵の削り節でカルシウムを足してからバナナイーターのバナナでフルーティーにして……」
 思い出すように一つずつ列挙するテティスだが、リカルドは最後まで聞かなくてもわかった。これはチョコなんかじゃない、デウスエクスのキメラなのだと……!
「お前ら、チョコが欲しかったんだろォ?」
 トウマが信者に絡み、テティスを示す。
「ほら、貰って来いよ」
「恋人同士でチョコ送り合ってる本当の理由って、チョコレート会社が自社製品を売り込む為に始めたセールスが原因だけど……」
 反対側からアルトが絡み。
「ほら、策略無しのチョコがもらえるぞ?」
「あ、出演者の皆さんもどーぞ!」
 アルトが示したら、むしろテティスの方から来た。
「い、嫌だ……俺はまだ死にたくないぃいいいい!!」
 信者は逃げ出した!
「ようするに安全なチョコが欲しいんすね? あちしがあげるっすよ」
 その有様を見ていたシルフィリアスが、持ってきたチョコ(開封済み)を差し出して。
「ほら、受け取るっす。毒味もしてある、本物のチョコっすよ」
「安全? これ、噛まない?」
 めっちゃガクブルする信者が指先でつついたりする様子に、シルフィリアスがため息をつきつつ。
「普通のチョコっすよ。あなた達が消そうとしていた、市販のチョコっす」
 スッと、その視線が鋭くなり。
「バレンタインにチョコがなくなるとどうなると思うっすか? バレンタインは告白したいのに、告白するきっかけをつかめないでいる子が告白するチャンスなんすよ。言葉にするのは恥ずかしくても、チョコを渡すだけで告白できる日なんす。つまり、あなたたちに告白しようと思ってる子が告白できなくなるんすよ!」
「んな奴いたら、こんな事しとらんわー!!」
 このタイミングでぶっこんだ説得に背中を突き飛ばされるように、信者がチョコを受け取った瞬間、シルフィリアスは釘バットを振り上げた。
「ぎゃぁあああ!?」
 咄嗟に飛び退いた信者がいた地点を、シルフィリアスのバットが穿ち、小さなクレーターを残す。
「何避けてるんすか。チョコを否定するって事は、リア充を撲殺したかったんすよね? チョコを受け取った以上、リア充っすよ?」
 ゆらり、釘バットを肩に担いで、顔に影のあるシルフィリアスが迫る。
「うわ……うわぁああああ!?」
 信者は脱走した!
「安全で普通の配る物をいただける私は、スペシャルで特別な存在なんですね。これも、足繁くお店に通った甲斐があったというものです」
 信者の怯えようを見ていた輝は頷いて、永代は信じられない物を見る目をした。その視線に輝は勝者の笑みを浮かべて。
「ええ、リア充ですよ。行きつけのキャバクラやスナックで、チョコレートをプレゼントされる予定ですからね」
「あっ」
 永代は何かを察した。
「そんな悲しい目で見ないでくださいよ。何ならお裾分けしましょうか?」
 その悲しい目は自分を哀れんでのものだと気づかない輝。永代は男として、輝はコロコロするべきではないと理解した、が。
「リア充は撲滅っすー」
「ぎやぁああああ!?」
 シルフィリアスの理不尽な釘バットが輝を襲う!!
「えぇい、こんなもの!」
 リア充狩からオヤジ狩にシフトしたシルフィリアスの傍ら、襲い来るチョコ(のようなバケモン)を踏み砕くビルシャナに、永代と蒼眞の目が向いた。
「お、お前リア充だな? そのチョコは許せねえ!!」
「しかも足蹴にしやがったな? 食べ物を粗末にする奴は許さねぇ!!」
「この怪物がお前達にはチョコに見えるのか!?」
「「うるせぇ! リア充はとっととくたばりやがれ!!」」
 血涙でも流しそうな漢二人の鉄拳が唸る!
「下心があろうが、無かろうが、チョコを俺は貰いたいんだよ。その可能性を潰させる訳にはいかねえ。配る物がなけりゃ、希望すらも生まれないんだよ!! なあ、寄越せよ。マトモなチョコを俺に寄越せよ。じゃねえと、お前らみーんな、焼き尽くすぞ。みんな木っ端微塵にしてやる!」
 何かもう、途中から永代が願望垂れ流しにしながら、マウントからの顔面殴打。とても正義の味方のすることには見えない有様に。ていうか、むしろ永代の方が僻みの塊になってしまっている。
「リア充は爆破だおらぁあああ!!」
 どこのシリアス案件だよってくらいの大爆発が、その日の全てを掻き消した。

●蒼眞さんはチョコキメラを食して病院に搬送されました
「私としたことが、スタッフさんの数を入れ忘れてチョコが足りなくなるなんて……」
「残念だなーいやーほんと残念だなー」
 悔やむテティスに、永代が壊れたロボットのような口調で同じことを繰り返しているが、現在一行は近くの菓子屋に入っている。
「カフェオレ味だと? なんだこの中途半端な見た目は? やるならきちんとそれらしく……美味い! 厳選されたコーヒー豆を甘いミルクチョコに練り込み本物のカフェオレを再現している! しかしチョコゆえに甘くなりすぎてしまう側面がある部分を、豆とチョコの配合で調整して……まさか、このチョコの為だけに豆をブレンドして……!」
 リカルドさんがガチ過ぎて恐いんですが?
「……いやぁ、逆に貰えなくてもどーでもいいって思うと、チョコ買うのも躊躇いが無くなっていいよなー」
「……溶けたチョコとかチョコフォンデュとかで十分なんだよなァ」
 背後でチョコ選びに没頭するリカルドから目を逸らすように、土産を選ぶアルトとお手軽チョコフォンデュキットを眺めるトウマ。アイゼンが「何それ美味しいの?」と前脚を伸ばすがアルトが阻止。
「ユキさんもほしいっていってたっすよね」
「そうそう、あいつの分も折角だから……」
 にょきっと生えて、横からチョコを物色するシルフィリアスに、永代がハッとする。
「わざと多めに買って行って、二人で食べようぜー、からの……あーんとかワンチャンある!?」
 謎の希望を見出した永代は忘れている。ユキの手元にはテティスから贈られたチョコキメラが残っているという事実を……。

作者:久澄零太 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年1月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。