チョコレートに籠めた想い

作者:白鳥美鳥

●チョコレートに籠めた想い
「……今日は、先輩の登校日……。ちょっと早いけどバレンタインチョコを渡すチャンスは少ないし……今日こそは!」
 結衣は綺麗にラッピングされたバレンタインのチョコレートを、半分呪うかのように見ている。
「ねえ、結衣。先輩はもうすぐ卒業するし、それに彼女さんだっているんだよ?」
 結衣の友人が、鬼気迫る表情の彼女に心配そうに声をかける。
「こ、このチョコは、今まで先輩にお世話になってきたお礼の気持ちも籠めてるの!! そ、それに、先輩と先輩の彼女さんって進学先違うし……もしかしたら、まだ私にも入り込める余地が!! だからこそ、このチョコは渡さないと!!」
 そう危機篭る結衣に友人は思う。……貴女も、大学と高校で離れるんじゃない? と。

「うう……。先輩の教室に何度も行ったけど……今日は来ていなかったみたい。……受験生だもんね。こ、今度の登校日こそ!!」
 3年生の数少ない登校日。今日が無理でも次が有る筈……。放課後、落ち込みながら一人で廊下を歩いていると、結衣は見慣れない女生徒に出会った。彼女は優しく微笑む。
「あなたからは、初恋の強い思いを感じるわ。私の力で、あなたの初恋実らせてあげよっか」
 彼女は結衣に近づくとキスをする。それに結衣が意識を取られている間に鍵を取り出すと突いてチョコレートの包装紙の様な可愛い姿のドリームイーターを生み出した。
「さぁ、あなたの初恋の邪魔者、消しちゃいなさい」
 そう言って生み出したドリームイーターを解き放つと、女学生は消えていった。

●ヘリオライダーより
「もうすぐバレンタインの季節だよね。楽しみな人も、ドキドキしている人も多いんじゃないかな?」
 そう言うと、デュアル・サーペント(陽だまり猫のヘリオライダー・en0190)は、事件のあらましを説明する。
「今、日本各地の高校にドリームイーターが出現しているんだけど、四乃森・沙雪(陰陽師・e00645)が予知した事件が起きてしまうようなんだ。被害者の結衣って子は、初恋を捻らせた強い夢を持っているみたいで。でもね、この被害者から生み出されたドリームイーターは強力な力を持つんだけど、夢の源泉である『初恋』を弱める様な説得が出来れば弱体化も可能なんだ。恋心を弱めるとか、『初恋』という言葉の幻想を壊す……とかね。ただ、このドリームイーターは結衣と繋がっているから、あんまりきつい言葉を投げかけると『恋愛』自体に不信感を持ったり、恋をしないとかそういう結論を出す可能性もあるから、説得の言葉は選んだ方が良いと思うよ」
 デュアルは状況の説明をする。
「大学の受験生の場合、当校自体が難しくなったり、学校もある程度休みを設けたりするんだよね。で、今回は結衣の初恋の相手の先輩は登校していなかったんだけど……実は交際相手の人はまだ校内に残っていてね、彼女をドリームイーターは狙っているらしい。みんなが現れると、ドリームイーターは皆の方を優先して狙ってくるから、襲撃されている人の救出は難しくないと思うよ。で、ドリームイーターなんだけど、チョコレートとかお菓子の包装紙みたいなカラフルな衣装をつけた女の子の姿をしている。攻撃も、それに沿ったものになるよ」
 デュアルの話を聞いていたミーミア・リーン(笑顔のお菓子伝道師・en0094)は首を傾げる。
「初恋……初恋……ううん、まだよく分かんないけど、とにかく、その人の事が凄く凄く好きなのよね? でも、このドリームイーターちゃんがしようとしている事は、結衣ちゃんだけじゃなく、他の人も悲しむ事になるの。ねえ、みんなで結衣ちゃんを助けようよ!」


参加者
四乃森・沙雪(陰陽師・e00645)
シア・アレクサンドラ(キボウノウタヒメ・e02607)
高槻・風花(働かない娘・e12351)
ガートルード・コロネーション(コロネじゃないもん・e45615)

■リプレイ

●チョコレートに籠めた想い
 現場の高校に直行したケルベロス達は、三年生の教室がある三階で大きな声が上がっている事に気が付いた。逃げるように降りてくる学生達を避けながら、三階の廊下に辿り着く。元々、余り三年生は登校していなかったらしく、ほとんどの学生は見当たらない。そして、同時にドリームイーターも直ぐに見つけた。
 ――赤い色にリボン、バレンタインのチョコレートのラッピングを思わせる姿。余りにも目立つその容姿。ただならぬ雰囲気を纏っていた。その傍には、驚いた表情をした女生徒がいる。どうやらまだ行動を起こしていないようだ。
「私達はケルベロスです!」
「みんな、この場から逃げて!」
 ガートルード・コロネーション(コロネじゃないもん・e45615)と、高槻・風花(働かない娘・e12351)が、まばらに残っている学生達の避難を誘導していく。
 一方で、四乃森・沙雪(陰陽師・e00645)と、シア・アレクサンドラ(キボウノウタヒメ・e02607)が、ドリームイーターと女子学生の間に割って入った。
「こっち、こっちなの!」
 ミーミア・リーン(笑顔のお菓子伝道師・en0094)は、ドリームイーターと対峙していた女生徒……彼方副会長の手を引いて現場から引き離す。
「もしかして、彼方先輩を助けに来たの!? 先輩、細田先輩の恋人ってだけじゃなく助けに来てくれる人達がいるなんてずるい!!」
 子供のように喚き散らすドリームイーター。元々、初恋の人のお相手というだけで羨ましいのに、助けにケルベロスが現れた事もあって、更に羨ましく感じている様だ。
「そりゃあ、先輩、しっかりしているし、美人だし……分からなくもないけど、やっぱり羨ましいよ、ずるいよ!!」
 元々、恋人同士である事は自覚しているので、『羨ましい』という感情が一番に湧いてきている様に見える。
「私だって……私だって……生徒会長が……細田先輩が好きなのに……! 初めて誰かに恋したんだもん、幸せを夢見たいよ……!」
 そんなドリームイーターに対して、風花は言葉を投げかける。
「告白して実る恋もあれば実らない恋もあるし、実らないのはつらい。わかる、わかるよー」
「そうなの、そうなの……! 実らない恋は辛いの……!」
「でも、それで力ずくに奪うことになるかもーってのは、ちょっち違うと風花は思うよ」
「……え?」
 思いを分かってくれたと思っていたドリームイーターは、風花の次の言葉に戸惑いを隠せない。そんなドリームイーターに、沙雪も優しく言葉をかける。
「恋する女の子は素敵だとは思う。だが、初恋が実らない辛い気持ちはわかるけど、相手を傷つける行為に及んでは駄目だよ。君の意中の相手が、その真実を知った時どう思うと思う?」
 沙雪の言葉に続けて、ガートルードが言葉を重ねていく。
「あなたが生徒会長を大事に思ってるのはわかります。だけど、会長が大事に思ってる人を傷付けたら……彼はあなたを許せるでしょうか。あなただって、愛する人を傷付けられたら……きっと、許せませんよね。彼も、きっと同じだと思いますよ」
 ガートルードの言葉は沙雪の問いの答えの一つである。それに対して、ドリームイーターは酷く動揺した。
「……え? ええ? ……それって、先輩に嫌われちゃうって事だよね? 嫌、嫌……! 先輩に嫌われたくなんてないよ!!」
 そう叫んでから、ドリームイーターは項垂れる。
「……そっか。でも、そうだよね。彼方先輩が傷ついたら、細田先輩、悲しむよね? 怒るよね? 許せないよね? そんな事……当たり前だよね。……先輩に嫌われたくなんてないよ。……私、先輩に嫌われたくないよ……」
 ぽろぽろと大粒の涙を流し始めるドリームイーター。大好きな人に嫌われる。それは失恋よりももっと辛い事だから。
「……先輩に嫌われたら、私、生きていけないよ……」
 涙を流すドリームイーター。このままでは、元である結衣もどうにかなりそうである。今こそ、彼女を励まし、前を向かせなければならない。
 シアは優しくドリームイーターに話しかける。
「実らない恋は辛いもの……でも、誰かを傷つけるのは後味が苦いものになると思いますの。気持ちの整理をつけるにしても……次にはもっと素敵な恋をするためにも、苦い思いを引きずるのではいけないとわたくしは思いますわ」
「……次の恋……出来るのかな? 私、こんな事しちゃったのに、そんな事出来るのかな?」
 ドリームイーターの言葉は震えている。そんなドリームイーターに風花は、明るめの声で励ます様に言う。
「そんなに不安にならなくても大丈夫だよ。なーに、世の中、進学なり就職なりで違う世界に出ることになればいろんな出会いもあるんだし、今回の気持ちは経験値にしちゃってもっと素敵な恋しちゃうといいと思うんだよ」
 そう言うと、風花は相棒のナノナノのなの美に声をかける。
「ね、なの美もそう思うよね?」
 風花の言葉に、なの美も大丈夫だといわんばかりに頷いた。
「……経験値かあ。そう考えれば……この哀しい気持ちも、叶わない想いも……整理がついて……次の恋が出来る……のかな……」
「ええ、そう思いますわ」
「うんうん、また素敵な恋を探せるよ」
 ドリームイーターの言葉に、シアと風花は笑顔で答えた。
 沙雪も優しく話しかける。
「今回のプレゼントだってお礼の意味でもあったのだろう。今回の件は今回の件さ。まだ人生には先があるんだ」
「……うん。渡したいチョコレートはね、一年間、お世話になったお礼の気持ちが強いの。……元々、叶わないってどこかで思っていたし、それならせめて、お礼の気持ちを伝えたいって」
 そう言ってドリームイーターは微笑む。
「……先輩にはお礼のチョコレートを渡して……私の初恋はそこで終わらせて……またいつか恋が出来ると良いな」
 そして、ちょっと涙を浮かべてドリームイーターは頷く。
「……うん、ありがとう。気持ちの区切りがついたよ。……それから、彼方先輩にも謝らなきゃ。彼方先輩は何も悪くないし……それにお世話になったのは同じだし。お揃いのチョコレート、渡そうかな?」
「それは良い考えだね」
「ええ、きっと喜んで貰えると思います」
 ドリームイーターの出した思わぬ提案に、沙雪とシアも頷いた。
「……あのね、私の言葉も想いも結衣に繋がってるし、同じ気持ちなんだ。謝りたいって気持ちも勿論同じ。……だから、私の事、止めてくれて、励ましてくれてありがとう」
 そう言ってドリームイーターは微笑み、軽く頭を下げた。
「……でもね。私は結衣の恋への想いから生まれたから……結衣が諦めて納得しても消えたりしないの。だから……まだ迷惑かけちゃうね?」
「……そうですね。あなたが眠れるよう、協力しましょう」
 ガートルートの言葉を合図に、ケルベロス達は戦闘態勢に入った。

●ラッピング姿のドリームイーター
「陰陽道四乃森流、四乃森沙雪。参ります」
 沙雪は神霊剣・天の刀身を刀印を結んだ指でなぞりながら名乗りをあげると、ドリームイーターに向かって凍結の一撃を放つ。
 その攻撃を素早くかわすドリームイーター。直ぐに反撃に入った。身に纏っているリボンを浮き上がらせると、綺麗な舞を舞い、その美しさに沙雪は魅入られてしまう。
「先生、回復いたしますわ」
 シアが直ぐに美しい光で、沙雪の意識を取り戻させる。
「弱体化しているとはいえ、やはり素早いですね」
 ガートルードはオウガ粒子を沙雪と風花に向かって放ち、その集中力を高めていく。風花はオーラを使って自らの護りの力を高めた。なの美は沙雪の守りの力を高める。ミーミアは状況を見て、ガートルードにオウガ粒子を放ち、神経を研ぎ澄まさせ、ウイングキャットのシフォンは沙雪達に向けて護りの風を送っていった。
「ただではやられない! 手札は見せるよ!」
 ドリームイーターは、赤いラッピングの紙を研ぎ澄まさせると、それをシアに向けて放つ。
「こちらも、素早さでは負けませんわ」
 ラッピングの刃を、シアは素早くかわした。
「鬼魔駆逐、破邪、建御雷!臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前!」
 沙雪は九字を唱えつつ刀印を結んだ手で印を四縦五横を切り、生み出した光の刀身でドリームイーターを斬りつける。
「支援も戴いたので、いけるでしょうか」
 ガートルードは、身に纏ったオウガメタルによる鋼の拳をドリームイーターに叩き込んだ。続いてシアが輝きを放つ蹴りを叩き込む。
「頑張ってねー」
 風花は沙雪と自分達に、重ねるようにオウガ粒子を放って命中率を高めていく。なの美は、風花にハート形のバリアで守りの力を更に高めた。
「沙雪ちゃんの力を上げるの!」
 ミーミアは雷の力を使って沙雪の力を上げる。シフォンはガートルード達に護りの風を送っていった。
 力を受けた沙雪はドリームイーターに向かって強力な凍結の一撃を放つ。
「リボン、行くよー!」
 攻撃を受け止めつつ、ドリームイーターは再びリボンを使って魅惑的な舞を魅せていく。次の狙いは風花。彼女の心はその魅力に魅入られてしまった。
「これ以上、誰も傷つけられないように守れる力を。再び立ち上がり、偽りの神を討ち払う力を……今こそ、与え給え!」
 ガートルードは天から柔らかな光を降り注がせ、風花を癒していく。
「眠りなさい、魂の帰る場所、優しさに包まれながら」
 シアはアクアマリンの瞳を両手で持ち胸元に構えると、歌いながらドリームイーターの動きを少しずつ止めていった。
「この魔力には勝てない」
 風花はスマホのSNSに『オフトゥン』という言葉を打ちこむ。すると、お布団が現れ、ドリームイーターを包み込んでしまった。なの美は、再びバリアで風花を癒していく。
 ミーミアはオウガ粒子を再び沙雪達に重ね、シフォンは護りの風をシアに送っていった。
「静かに眠れ……」
 沙雪は光の刀身を生み出し、ドリームイーターに斬りつける。その一撃を受けて、ドリームイーターは赤くひらひらとした紙吹雪のようになって消えていった。
 それを見届けた沙雪は、弾指を行うのだった。

●新しい幕開けへ
 壊れた廊下や窓等をヒールしていく。
「大事な初恋が……血に染まる前に止められて良かったです」
 ガートルードは胸を撫で下ろす。そして、小さな声で……私はこんな手だし、普通の恋愛なんて諦めてるけど……と聞こえないような声で呟いた。
 が、聞いている者がいた。
「諦める事なんて無いと思うの。ミーミアは恋とかはまだ分からないけど『大好き』って気持ちは分かるのよ。だから、ガートルードちゃんに大好きな人が出来たら……その気持ちは大切にして良いと思うの」
 皆に聞こえない小さな声でミーミアはガートルードに話しかけると、にっこりと微笑んだ。
「彼方様にも事情を伝えた方が良いかもしれませんわね」
「そうだな。結衣嬢もどこかで倒れている筈だ。直接声をかけてあげるのも良いかもしれない」
 シアと沙雪がそんな事を話していると、ミーミアが『はいはーい』と手を挙げている。
「ミーミア、お菓子持って来てるの! 結衣ちゃん達に笑顔になって欲しいの。お菓子を食べたら、きっと笑顔になってくれると思うの!」
「お菓子かー、良いね。じゃあ、結衣ちゃん達を探しに行こっか!」
 風花が笑顔でそう言うと、他のケルベロス達も笑顔で頷く。
 ドリームイーターが言っていた……結衣が先輩達に感謝のチョコレートを心から贈れる事を願って――。

作者:白鳥美鳥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年2月5日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 0
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