宝物を見つけよう

作者:八幡

「フリーマーケットに参加しよー!」
 小金井・透子(シャドウエルフのヘリオライダー・en0227)はケルベロスたちの前で両手を広げる。
 フリーマーケット……というとあれだろう、日常品から珍品までを取り揃え、客として参加したり店側として参加したりできるイベントのことだろう。
「ある神社で大規模なフリーマーケットが開催されるんだけど、主催者さんが気合を入れていてね、普段出ないようなお店にも声をかけているらしいんだよ」
 フリーマーケットといえば掘り出し物……とはいえ、ネットが発達した現代においては現地に赴くよりもネットでぽちった方が早いと思われがちだし、多くの場合はそうだろう。
 だが、主催側で掘り出し物がありそうなお店に声をかけているなら話は別だ。
 ひょっとすると普段はお目にかかれないようなものもあるかもしれない。
「ふふふ、ボクはね。新しいお洋服が欲しいんだよ。あと髪型もちょっと変えたいからリボンとかも!」
 なかなか良いんじゃないか? と、話を聞いてくれたケルベロスたちに透子はにっこりと笑いかけて、
「もしかしたら宝物が見つかるかもしれないよ! だから、よかったら一緒に遊びに行こうね!」
 一緒に遊びに行こうと、再度呼びかけたのだった。


■リプレイ


 見上げた空は、とても青く。
 その青さ故に空気の熱を奪っているのではないかと錯覚させるほどだ。
 しかし、その空気の冷たさもまた心地よい……そんな真昼の神社。
 フリーマーケットに集まった人々は、あれやこれやと楽し気な会話を交わしながら様々な店を物色していた。
 騒めく人々の声が押しては返す潮騒のように聞こえる。
「やあやあどうにも目移りしてしまいますなあ!」
 そんな人々と同じように、ハガル・ハナハルガルもまたあちらこちらと物色して回っている。
「思うまま好き放題買ってしまいそうになります!」
 右の店に怪しげな壺があれば首を突っ込んで覗いてみて、左の店に煌びやかなガラス細工があれば持ち上げて青空に翳してみる。
「先ず大黒天の如き大袋を買うべきでは?」
 青空に煌めくガラス細工に負けないくらいに緑の瞳を輝かせるハガルの様子に、藍染・夜が口元を綻ばせれば、ハガルは左様でございますなと首を縦に振る。
「こういったとこフラつくんも大分久々だわ」
「見てるだけでも楽しい」
 夜のおすすめに従い、今度は大きな袋を探し始めたハガルと同じく、ダイナ・プライズとティアン・バも気ままな風のようにあちらこちらを巡っては怪しげな石像をつついたり、よくわからないもふもふした物体を見つけたりしている。
「噛みつかれないようにね」
 ティアンが抱えた、そのもふもふをダイナが恐る恐る触ろうとしている様を見やり、夜が冗談めかして言葉をかければ、ダイナはびくりと肩を震わせて、
「ふうん、マジ自由じゃん」
 夜たちの後ろをゆっくりと歩いていたサイガ・クロガネは並んでいる品物と仲間たちの自由さに目を細めた。

「あっ!」
 ハガルが大きな袋を物色していると、大瑠璃のような声が聞こえ……そちらへ目を向ければ、アイヴォリー・ロムが何やら白い植木鉢のような物を前に足を止めていた。
 まるで宝物でも見つけたかのように、ショコラの瞳をさらに大きくしているアイヴォリーの様子に気が付いた仲間たちが集まり、
「七輪?」
「はい。わたくし、実は前々から旬の素材を炭火で焼いてみたかったんです」
 ダイナが呟いた言葉に、アイヴォリーは嬉しそうに両の掌を合わせる。それから仲間たちを見回せば、
「拙者焼くなら川魚がよいです!」
「……ハガル、川魚もいいけど、海魚も食べたい」
 ハガルが大きく頷き、ティアンも自分の食べたいものを口に出す。
 この時期川ならやはり公魚、海だったら型の良い鯵が釣れるだろう。
「海もよいですな! 砂浜で使うのもまた乙なものでございましょう!」
 いずれにしても、七輪で焼いて食べることを想像すると、なかなか良い……特にその場で食べることができれば最高だ。
「肉」
 良いですなぁと想像に浸るハガルとティアンに、サイガが一石を投じる。
 ヴォリーたらまた食いモンの話してるよと後ろの方から見ていたサイガが、焼くなら肉と主張する。
 サイガもまたしっかり食べる気なのである。
 サイガによって魚一色の想像に肉という彩が加えられ、想像の中は最早天国の様相を呈し、
「マイ七輪、最高じゃないですか!」
 筍、椎茸、アスパラ、玉葱。冬以外でも色々なものが焼けますよ! と、アイヴォリーは想像の中に野菜を追加しつつ真剣な表情でサイガを見つめる。
「七輪か。餅を焼くのも良い。いっそ蜜柑も」
 真剣なアイヴォリーと、はいはいと頷くサイガへ視線を向けつつ、すでに理想郷の様相を見せ始めた想像の中の七輪に、夜は腹が減るなと零しつつも冬の風物詩を乗せる。
「ね――ダイナもそう思うでしょう? お魚、美味しく焼きたいでしょう?」
 乗り気な様子の夜に背中を押されたアイヴォリーは更なる同志を得るために「魚は前提として、ミカンとか焼くモンなの?」と首をかしげていたダイナにも声をかける。
「寒い日に皆で火囲むのは魅力的な話だけどさ」
 声をかけられたダイナは一瞬、ねって何? と逆方向に首をかしげなおすも、七輪を興味深そうに見つめ、
「お買い上げ決定だな」
 ダイナと、再びきらきらとした瞳で七輪を見つめるアイヴォリーの様子に、夜はふふと息を漏らした。

 何かに呼ばれたような気がして。
 我知らずと歩みを止めた夜が周囲を見回せば、風に揺れて揺らめく七色の組紐を見つける。
 七色の組紐……多彩な色の集まりは、まるで自分たちのようだと夜が目を細めれば、その一つ紫色の組紐の先に小さな鈴がついていることに気が付く。
 ちりんと、風に揺らされて微かな音色を奏でる鈴は、本当に自分たちを招いているようで、
「どうした?」
「何か見つけた?」
 足を止めた夜の後ろから、夜が見ているものを確認するように、ダイナとティアンが顔を覗かせる。
「ああ、俺たちに丁度良いかと思ってね」
 猫のように腰のあたりから顔を覗かせるダイナとティアンに口元を緩め、夜は自分を呼ぶように音を鳴らす組紐を示す。
「夜センサーに反応したあたりご利益だかがツいてる感あるな」
「可愛らしいですね」
 夜が見つけた組紐へ興味深そうにサイガとアイヴォリーが近づき、組紐を手に絡める。
 一見固そうに見える組紐は、とても艶やかで手触り良く……手にした感触は、女性の髪を梳く感覚に似ているかもしれない。
「ティアンは橙のがいい。夕陽の色だ」
「拙者は緑の組紐で!」
 サイガが、そんな手触りを楽しんでいる間に、仲間たちは欲しい色を決めたようだ。
 ティアンは橙色を、ハガルは緑色を選んで手に取っている。
 夕暮れの儚さと夜に待つ団欒の暖かさを連想させる橙色はティアンに良く似合うだろうし、勤勉を象徴する緑色は憧れを追い続けるハガルそのものの色だろう。
 良いじゃねぇのとサイガは頷きながら、自分は最後で良いやと他の仲間の様子を見やる。
「ねぇ、着けてくださらない?」
 紺の組紐を手にしていた夜に、苺色の組紐を持ったアイヴォリーがにこやかに話しかけ、夜もつられたように目を細めてアイヴォリーの手首に組紐を結ぶ。
 人々を照らす太陽のような赤色と、穏やかに人々を包み込む夜空のような紺色。お互いがお互いの存在を引き立て、惹かれ合うようなこの色もまたアイヴォリーと夜に相応しい。
「俺は……」
「ダイナには特別に鈴付きで紫を……首に巻いておくにゃ?」
 着けてもらった苺色の組紐を青空に掲げて確認するアイヴォリーの横で、色を迷っていたダイナを見つけた夜がにゃ? と鈴のついた紫の組紐を渡す。
「ダイナ殿の首に入りますかなー。首がグギュッとなりませんかな?」
「ああ、それは良い」
 あまりに自然に渡されたそれを思わず受け取ったダイナが疑問を口にするよりも先に、ハガルとサイガが頭からぐいぐい組紐を入れようとして、
「いやいや頭通らねーわ! グギュるな」
 さすがにそこで正常な思考に戻ったダイナが紫の組紐をハガルとサイガからもぎ取って、ティアンの後ろへ退避する。
 自分の後ろに隠れて威嚇するように、ハガルたちを睨むダイナを、ティアンは暫しの間見つめ……、
「ダイナは首輪代わりには長さが足りないなら、あれだ、リード」
 さも名案を思い付いたかのように両手を合わせて、ダイナに提案してみたのだった。

 逃げ場はないらしいと、項垂れたダイナの首にティアンが紫の組紐を巻き付け、サイガは余った色として青色を手にした。
 緊張や不安を癒してくれる紫はダイナにこそ相応しいし、冷静さや落ち着きを現す青色はどこか達観した様子で物事を見ているサイガに似合っているだろう。
「ふふ、七人七色ですね」
 各々が各々の色と場所に、組紐を結んで……互いに揺れる揃いの組紐に、アイヴォリーは頬綻ばせた。

 移動中に透子を見つけた夜とティアンは、黄色の組紐を透子に渡してやる。
 祝いの言葉とともに渡された黄色の組紐を透子はとても嬉しそうに受け取り、満面の笑顔でありがとうと礼を述べた。
 それからさらに、少し歩いたところでアイヴォリーが不意に足を止める。
「……次は何を見つけたんだ?」
「ティアン、これ、宝の地図に見えませんか」
 アイヴォリーの真後ろを歩いていたティアンはアイヴォリーの肩を掴んで後頭部と鼻の頭が衝突するのを避けるも、アイヴォリーは気にせず自分の顔の真横に顔を突き出す形になったティアンへそのまま話しかける。
 アイヴォリーの言葉にティアンもそちらへ目を向ければ、そこに在ったのは古びた羊皮紙に緻密に書き込まれた地図。
 それに、どこかの古代語だろうか? 地図には見たこともない掠れかけた文字で説明のようなものが書かれており……それは確かに宝の地図に見えた。
「「ほへー」」
 宝の地図と言われて、どれどれとハガルとサイガが同時にそれを覗き込み、
「この印は……ええとここが伸びていて……こう……さっぱり分かりませんな!!」
「まあアレでも七輪パーティ時にテーブルクロスにゃなんだろ。虹のたもとにはお宝、だっけか」
 早速解読を試みるも、そうそうに無理だとハガルが投げ出し、サイガもまた解読は諦めたものの探しに行くこと自体には乗り気になる。
「何にせよ夢がある。皆で宝物、見つけに行こう」
 虹の袂の話をサイガが知ってたのは意外だけどと言いつつティアンも、きっとこんな風に楽しいからと上機嫌に耳を揺らし、
「ねえ、なんだかんだで全員集まるに違いないの」
 早くも宝探しに行く気満々のハガルとサイガ、それにティアンに、アイヴォリーは笑顔を見せる。
 虹の橋を渡る宝さがしの冒険。その冒険もきっと全員揃って、こんな風に笑いながらの旅となるだろう。
「虹の袂を目指し――いいや、ほら七色は今、俺達の手の中に」
 アイヴォリーに頷きながら、夜も冒険浪漫に心を躍らせる。そして先に手に入れた七色の組紐、それももしかしたら関係あるのかもしれないと組紐を見せる。
 おお! と乗り気な仲間たちを見つめて、そんな馬鹿なと宝の地図を疑っていたダイナは頭を掻くが……何よりも嬉しそうに耳を揺らすティアンに、その地図は怪しいなどと言えるはずもなかった。
(「まー、何かしらの思い出にはなんのかもな。何が見付かっても、見付からなくても」)
 だから、その言葉は心の内にだけ止めて置いたのだが、
「こんな世界だ、ハチャメチャがあったっておかしかないだろう?」
 サイガがにやりと笑ったのを見るに、ダイナの言いたいことは全員に伝わっているようだった。

 それは夢。
 何時か一緒に冒険に出ようという約束。
 そして、このひと時が何よりの宝だったという記憶に違いなかった。
 だから、それらをまとめて全部持って帰ろう。
 アイヴォリーたちは手に入れた七輪と組紐と宝の地図を手に、笑い合いながら帰路へとついたのだった。


 どうしてこうなった?
 玉榮・陣内は青空の下に用意された椅子に腰かけながら、自問してみる。
 ワカラナイ……だが、全く身に覚えがない訳ではない。
 思い起こせばあの日のことだ。
 突然家にやってきた従妹、比嘉・アガサが、何故か屋根裏部屋を見せてくれと言ってきて……まぁいいかと、深く考えずに上げてしまった。あの日。
 アガサが来たときは大きな袋だけを持っていたのに、帰り際は何故か重そうな袋になっていたあの日だ。
 屋根裏部屋を見ただけでお茶も飲まずに帰る従妹に、何しに来たんだ? と思いつつも深く考えなかったあの日のことだ。
 何かおかしいと思ったのだ。だって帰り際に、
「あ、来週フリーマーケット行くから一緒に来て」
 って言ってたもの……その時点で気づくべきだったのだ。間違った方のなんくるないさーしてる場合ではなかったのだ。

「ブランド品を二足三文で売っ払おうって太っ腹でしょ、ね、お客さん!」
 空を見上げて回想に浸る陣内の目の前には、結構な数のお客さんが居た。
 アガサの言うように、それなりの品物が本当に二束三文で売られているのだ。
 値段が安すぎるので怪しいと思いこそすれ、懐が全然痛まないのであれば、飛ぶように売れるだろう。実際飛ぶように売れているし。
「今回のテーマは黒歴史即売会」
「……なんだよ黒歴史って」
 一つ、また一つと売れていく品物に、陣内がガックリと項垂れると、アガサは今更ながらに趣旨を発表した。
 目の前に並ぶ商品……つまり陣内の家の屋根裏部屋からアガサが引っ張り出してきたものの正体は、陣内が昔ちょっとばかりお付き合いした親切な女性の方々からの貢物らしい。
 もっとも陣内本人は付き合っていたんじゃない、持ちつ持たれつだっただけだと主張しているが……なんにせよ昔、何かの折に見せてもらったその品々を覚えている限り持ってきたのだ。
 ちなみにアガサが『黒歴史』と認識している理由は、陣内から聞いた女性たちとの関係があまり自慢できるようなものではなかったからだろう。
「キレイサッパリ処分して、これから先は可愛い恋人との新たな歴史を刻んでいけばいい」
 いずれにしても、どうせもう要らないでしょ? とアガサはシートに広げたネックレスやネクタイやベルトなどをぽいぽいと売りさばいていく……品物に巻き付けるものが多い当たりに闇を感じるが。
 お気に入りのベルトが売れそうになった時に、陣内は思わず声を上げそうになり……大きく息を吸い込んだ。
(「まあ、ね」)
 これから先は、と言ったアガサの言葉が脳裏によみがえる。
 あまり感情を表に出さないあの子のことを考えたら、ここにあるものは全部余計なものだ。
 振り返ってみれば、今日常で使うものは、ほとんど彼女から……それから、大事な友人たちから贈ってもらったものばかりになっていた。
 この変に不器用で、不器用に優しい従妹は、きっとこういうやり方しかできなかったのだろう。
「使ってるよ?」
 だから、ほんの少しからかってやろうと、陣内は碧いキーケースをアガサの前でこれ見よがしにチャラチャラと振って見せた。
 見せられたアガサは一瞬だけ上目遣いに陣内を見やり……、
「こっちの商品は傷がついてるから無料でいいよ!」
「え、ちょっ!」
 次の瞬間には、陣内の元お気に入りであるベルトを無料でお客さんに渡したのだった。

 最後のお客さんに商品を渡した後、アガサは大きく伸びをして、
「今夜は呑みに行こ。近くの居酒屋でいいからさ」
 途中からは普通に売り子として働いていた陣内に話しかける。
 稼いだお金はあぶく銭だ。ならばパーッと使い切ってしまうのが良い。パーッと使い切るには居酒屋当たりがお手軽だ。
「良いな。ただ、はみ出た分はお前が出せよな。もう文無しじゃないんだから」
 そんなアガサに陣内は頷きつつも、念のために釘を刺しておく。
 陣内の言葉に、アガサは無言であったけれど……陣内は肩をすくめて、なんくるないさーと呟いた。

 古い積み荷は降ろされた。
 そして降ろした以上に、また色々な……大切な積み荷を乗せていくことになるだろう。
 今はそれを楽しみにしようと、小さな星が彫られた銀のタイピンの感触を確かめた。

作者:八幡 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年2月2日
難度:易しい
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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