黄泉に誘う月

作者:崎田航輝

 深い夜でも漆黒の闇にならないのは、月がいつもより眩しいせいだろうか。
 空気がしんと冷えて肌をさす中を、天崎・祇音(霹靂神・e00948)は歩いている。静寂だけれど、どこかぴりぴりとした不穏な感覚がある気がした。
「……はて」
 気の所為であろうか、と一端は零す。
 けれど、心は警戒を解かなかった。直後には色濃い死の香りがして──夜の中に一人の人影が降り立ったから。
 祇音は赤い瞳を、月明かりの差す背後に向ける。
「何奴……、いや」
 呟いて見つめるそれに、祇音は既に警戒心を抱いていた。
 それは優男とも言える秀麗な容姿の男。だが纏う蔦を蠢かせ、超常の空気を漂わせている様は人ではありえない。
 死神──だがそれだけでなく、祇音ははっとする。
 その死の匂いに、死の気配に、何か見知ったものを感じたかのように。
「──おぬし、禍音を知っておるな。わしの、妹を」
「……ふむ。そうだとしたら?」
 応とも否とも返さず、男は息だけをついて、穏やかな声音で応える。
 言葉に、祇音の握る拳に力が籠もる。だがその男──死神は変わらぬ表情で既に動き出していた。
 躊躇いのない、殺戮のための動作。
「君も、僕の尖兵になってみるかい」

「集まっていただいてありがとうございます」
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)はケルベロスへ説明を始めていた。
 語るのはとある林道で起こるケルベロスへの襲撃の事件だ。
「出現するのは死神。天崎・祇音さんが狙われることが判ったのです」
 現在祇音に連絡は繋がらず、敵出現を防ぐ事もできない。祇音が1人の状態のまま敵と出遭ってしまうまでは、覆しようがないだろう。
「それでも、祇音さんの元へ向かうことで加勢することは可能です。時間の遅れは多少出てしまいますが、充分にその命を救うことはできるでしょう」
 ですから焦りすぎず、作戦を練った上で戦闘に当たって下さい、と言った。
 現場は林の多い一帯の道。
 自然の中でもあるためか、辺りは無人状態。一般人の流入に関してはこちらが気を使う必要はないだろう。
「皆さんはヘリオンで現場に到着後、急ぎ戦闘に入ることに注力して下さい」
 周辺は静かでもあるので、祇音を発見することは難しくないはずだ。
「無論、敵も弱い相手ではありませんから、合流後も細心の注意を払って戦ってください」
 敵は『神籬』という名の個体。ツクヨミの異名を取る、月夜に活動する死神だ。能力としても多彩な力を行使してくる、強力な相手だ。
 それでも祇音を無事に救い出し、この敵を撃破することも不可能ではない。
「さあ、僕らの仲間を助けに向かいましょう」


参加者
天崎・祇音(霹靂神・e00948)
リディ・ミスト(幸せ求める笑顔の少女・e03612)
シフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)
鞘柄・奏過(曜変天目の光翼・e29532)
安海・藤子(終端の夢・e36211)
アルシエル・レラジェ(無慈悲なる氷雪の白烏・e39784)
天神・希季(希望と災厄の大剣使い・e41715)
八刻・白黒(星屑で円舞る翼・e60916)

■リプレイ

●宿縁
 月明かりだけが木々を照らす夜。
 美しい静寂の中にも、死の匂いを感じさせる──そんな林道を番犬達は駆けていく。八刻・白黒(星屑で円舞る翼・e60916)は既に気配が近いことも、勘付いていた。
「天崎様の宿敵……ですか」
 この先にいる敵。
 それが如何な存在かは自分には判らない、それでも。
「ともあれ、手助けに向かわねばなりませんね」
「ええ。そしてしっかり勝ちましょ。助けにいくからには──全員、無事に帰らなきゃ意味がないもの」
 安海・藤子(終端の夢・e36211)はどこか自信も滲む笑みを崩さない。少なくとも助けられることも、勝利を得られることも確信しているかのように。
 だから迷わず、前に進むだけというように。
「みんな、見てっ!」
 リディ・ミスト(幸せ求める笑顔の少女・e03612)が前方を指す。
 その先、木々の向こうに二つの影があった。
 間違いない。だからリディは全速力で、ただ進む。皆も続き、戦場を目指していった。

「……知っていることを教えてもらおうか」
 袖を紐で縛り、己の力を解放して。
 俄に雷片を瞬かせながら、天崎・祇音(霹靂神・e00948)は前を見据えている。眼前の敵は“それ”を知っているという確信があった。
 すると死神──神籬は含めるように応える。
「僕が言えるのは、“君も”良い戦力になりそうということだよ」
「……おぬし、やはり禍音を」
「彼女はいい戦力だったが。君は比べて、どうなるかな」
「どうにもならぬよ」
 ばちりと雷が鳴る。答えを得たことによる、それは祇音の怒りの顕れだ。
 彼は笑う。
「僕に勝てるかな」
「少なくとも、ただではやられぬよ」
 終わった過去を掘り起こすのなら、それ相応の対価を払ってもらう。
 ──この身を犠牲にしても、と。
 瞬間、祇音は巨大な雷刃を形成。獣の如く跳んで斬りかかった。爆ぜる音と共に蔓で受け止めて、神籬は愉快げな色を見せる。
「凄まじい力だ。だが、まだだ」
 言葉と同時、その蔓を滑らせて捕縛してこようとした。
 その一撃は小竜のレイジが上手く庇って事なきを得る、が──レイジが自己回復をしても完治までは遠い。
 祇音は尚斬撃を重ねるが、敵の傷は浅く。更に祇音自身も棘を受けていた。
「それで終わりかい」
「……」
 苦闘しているという自覚が、祇音にはあった。きっとこのままでは勝てないと。
 だから祇音は目を細める。
 もしその時が来ても、決して退きはしないと思ったからだ──けれど。
「それ以上は、させませんよ」
 敵の頭上に声が響く。
 駆けつけた鞘柄・奏過(曜変天目の光翼・e29532)が、月を背にするように高々と跳躍していたのだ。
 神籬ははっとする。
 反して、奏過はあくまで素早く淡々と。敵に反応される前に、その脳天に強烈な飛び蹴りを叩き込んでいた。
 敵が後退した所でふわりと降り立つのは天神・希季(希望と災厄の大剣使い・e41715)。皆と共に祇音に駆け寄っている。
「しーちゃん大丈夫!? 助けに来たよ!」
「うむ、すまぬ。それにしても……」
 と、祇音は驚く。
 集まった皆が、祇音の知る仲間達ばかりだったからだ。
「祇音にはいつもお世話になってるからね。今回は私が助ける番でしょう?」
 藤子が言えば、それにこくりと頷くのはシフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)だった。
「ええ。あの敵と、どのような縁なのかは知りませんが。……私達の友人を殺させる訳にはいきませんからね」
 シフカは言って敵に向き直り、鎖を両腕に巻きつけている。
「戦闘準備完了……では行きましょうか」
 瞬間、闇の中を金属の雨が飛ぶ。
 殺技弐式『鎖陣・ドRoお巳』。無数に放たれた鎖がドームのように敵を囲い、内部で飛び交う鎖がその体を穿っていた。
 神籬は逃れようと奔る。すると次の狙いが祇音に向く前に、リディが立ちはだかった。
「ここは、通さないよ!」
「……なら、払いのけるまでだよ」
 手を伸ばした神籬はリディを蔓で貫こうとする。
 だが、それを別の蔓が打ち落としていた。
「簡単にやらせると思うかい」
 空を声音が翔ける。
 氷片を靡かせて飛来するアルシエル・レラジェ(無慈悲なる氷雪の白烏・e39784)。煌めきを伴って旋回すると、再度攻性植物を飛ばして神籬を打ち据えていた。
 この間に白黒は魔力の小刀を形成。祇音の傷を縫い消している。
「傷は問題ないはずです」
「うむ、恩に着る」
「これで心配も無いわね。さぁ──暴れましょう?」
 祇音の万全を確認すれば、藤子は面を取り顔を顕にする。
 湛える雰囲気を勇壮なものに変えると、鎖で魔法陣を描き、仲間に守りの加護を与えた。
 リディは『ミスティック・ハピネスリメンバー』。明るく優しい鼓舞で仲間の心に幸福な記憶を呼び覚まし、魔に支配されぬ強い精神を与えている。
「みんな、攻撃を!」
「うん!」
 頷く希季は、蒼の獄炎を揺らめかせて飛翔。
 風を掃き、火の粉を伴いながら──豪速で痛烈な蹴撃を畳み掛けていく。

●反撃
 よろめくように下がった神籬は、痛みに眉根を寄せながらも──不敵な笑いを見せていた。
「……やるじゃないか。君たちもまた、いい尖兵になりそうだ」
「尖兵?」
 シフカが呟くと、祇音は一度目を閉じた。
 零れるのはほんの小さな呟き。
「あやつは、禍音を……」
「──そうか、お前が元凶ってヤツなのか?」
 アルシエルは敵を見据える。祇音の妹のことは、知っていた。相対したときのことも、彼女がどうなかったさえ、尚記憶に強く残っている。
 だからその瞳の奥の乱暴な敵意が、鋭くなったのだ。
 シフカは遣り取りから鋭敏に感じ取る。
「この戦いは、復讐でもあるというわけですか」
「……かも知れぬの。どちらにせよ討つべき敵であるというだけじゃ」
 祇音の真っ直ぐな瞳に、しかし神籬も怯まず声を返していた。
「ならこちらも、やることをやるだけだよ。いい戦力になるなら、尖兵として連れて行く」
「……ふんっ、尖兵とか馬鹿らしー! 手駒がなきゃ何も出来ない無能さんってことなのかな!」
 と、首を振る希季の声音は明瞭で、濁り無かった。
 言ってくれるね、と毒づく死神にも、まるで譲らず強い視線を返す。
「なんとでも言うよ! ともかく、あたしの大事な、とっても大事な人をそんなことなんてさせない! 絶対に、絶対ね!」
「そうだよ。祇音ちゃんを貴方なんかの兵にはさせない!」
 一歩近づくリディさえ、平素の笑顔も抑えて怒りを見せていた。
 それは何よりも祇音を思っているから。
「私の大切な友達の心を傷つけたこと、絶対に許さないからっ!」
「うん、後悔させてあげる。二度とそんな真似出来ないくらい、徹底的に潰してあげるよ!」
 希季は一直線に奔ると、同時に四神の一柱の力を顕現していた。
「朱雀、合わせて! ──あたしたちの炎、受けてみろ!」
 身の丈を超える大剣に、眩い焔が閃く。振り下ろす刃で一撃を加えると、止まらず旋転していた。
「まだまだこの程度じゃないよー!」
 次いで連続の斬撃。凄まじい熱を伴ったそれは、膨大な破壊力。
 地を滑る敵に、アルシエルも光粒で尾を引いて羽ばたき、狙いをつけていた。
「とにかくお前が悪いんだろ、なら──叩きつぶさせて貰うわ」
 口ぶりには、柄の悪さが徐々に現れてきたように。
 放つのは『Blood Bullet』。血を媒介にした一弾は、深い呪で敵の動きを抑制していく。
 神籬は鈍った動きでも前進する、が──その眼前に駆ける影。藤子のオルトロス、クロスが跳びざまに刃で切り込んでいた。
 惑う敵の後背を、藤子が取っている。
「そら、俺はここだぞ」
 神籬はすぐに振り向く、だがその頃には藤子の周囲に揺蕩う氷気。
「我が言の葉に従い、この場に顕現せよ。そは静かなる冴の化身。全てを誘い、静謐の檻へ閉ざせ。その憂い晴れるその時まで──」
 詠唱で龍へと姿を変えゆくそれこそ『蒼銀の冴・馮龍』。獰猛な爪と牙の連撃に濁った血を零す敵へ、藤子は尚凛々しい声音を向けてみせた。
「まだこんなもんじゃないよな?」
「当然だよ……!」
 呻く死神は蔓を飛ばそうとした。が、リディが風を渦のように収束させて、花弁の如き魔弾を創り上げている。
「やらせないよっ!」
 直後、透徹な翠の瞳で狙いを定め発射。薫風の弾を違わず撃ち当てた。解けた風はまるで時を止めるように蔓を凍らせる。
 神籬はそれでも間合いを取り、芳香を放つことで反撃した。
 が、奏過がそれを看過するはずもない。
 中衛から常に敵の行動を俯瞰していた奏過は、直後には対抗策を講じていたのだ。
 一瞬の遅れもなく、ただ冷静に、手際にも緩み無く。すらりと伸ばした手を天に向け、空へ魔力を昇華。癒やしの雨滴を生成していた。
「洗い流しましょう!」
 言葉に違いなく、それは芳香を消し去る程の効力。
「残る傷は、癒して見せます」
 同時、白黒もすぅと息を吸い、治癒の歌を歌い上げていた。
『──』
 白妙の髪を旋律に揺らし、嫋やかな声を空に朗々と響かせる。その反響が空気を清廉にするように、皆の苦痛を優しく拭い去っていた。
「天崎様、存分に振るって下さいませ」
「そうさせてもらおう」
 祇音は覇気を雷光にして、拳に纏った流体を煌めかす。
 神籬は感心していた。
「それにしても君の力。神性の塊──雷を司る神そのものだな」
 尤も僕も夜を統べるものだが、と彼は嘯く。
 祇音は踏み込みながら声を投げた。
「異名通りの月読命だとでもいうつもりか」
「さてどうだろうね。最後にどちらが勝つかは、興味がある」
 神籬は蔓を振るう。が、それを阻止する影があった。
 シフカの傍らから飛来した、ビハインドのヘイドレク。攻撃を防御してみせると逆に金縛りで敵を止めていた。
 シフカはそこへ跳ぶ。
「曲がりなりにもこれが復讐の戦いだというのなら、是非とも協力させていただきますよ」
 自身にもまた、復讐したい相手がいる。その心を少しでも理解できるからと。
 鋭い刃を抜き放ち、強烈な刺突。
 よろめいた死神へ、祇音も一撃──爆ぜる雷鳴と共にその頬へ拳を打ち込んだ。

●藍夜
 月明かりに、静かな風が乗る。
 神籬は膝をついて浅い息をしていた。それは紛れもない苦悶の顕れ。
「……馬鹿な。どうして、こんなことが」
「こちらもまた、やるべきことをやっているに過ぎませんよ」
 それに返す奏過の声音には強い感情すら浮かんでいなかった。ただ仕事人が仕事をこなすように、敵に見せる心など無いと言わんばかりに。
 神籬は歯を噛み、蔓を振り回して躍りかかる。
 それに打ち据えられながらも、希季が退くはずはなかった。
「このくらい、しーちゃんが負った傷に比べたら……全然軽いよ!」
 同時、顕現するのは創世七重奏 - 天衣無縫【神威】。
「皆、あたしに力を貸して!」
 四神と帝釈天、冥王の力が膨大な魔力と膂力を発揮する。銃と魔法、大剣の繰り出す攻撃は衝撃の奔流となって死神を貫いていった。
 リディもまたひたすら前へ、前へ。躊躇うことなんかなく、強い意志で輝かせた光の刃を掲げている。敵が避けようとしても、許さない。
「逃しなんて、しないから!」
 閃光の如き斬撃が、神籬の片腕を切り落とした。
 慟哭を零す死神は、それでも蔓を広く振るって攻撃を仕掛ける。しかし白黒は小さくドレスの裾を揺らして、天に治癒の力を昇らせていた。
 その静やかな仕草が恵みの慈雨を齎す。触れた雫が皆の傷を癒やし万全を保った。
「後は、皆様に」
「ああ」
 やってやるさ、と。アルシエルは低空を滑るように飛行している。
 最短距離を、最速で接近して。放つのは疾風の如き斬撃だ。複数回切り刻むことで一息に敵の傷を深めていく。
 敵が飛び退く方向を塞ぐのはシフカ。その刃もまた、強い殺意に満ちている。
 突き通した一撃は神籬の腹部を深々と貫いていた。
「そろそろ、というところですかね。決着の時です」
 シフカの言葉に時を同じく、奏過は魔力を光に転化していた。
 それは雷に変じてばちばちと音を立てる。手を伸ばし、奏過は生み出したそれを祇音へと宿した。
「天崎さん……充電してください!」
 光を纏った祇音は強く輝く。文字通りの雷神の如く。
 同時に藤子も翠風を祇音へ纏わせ、その能力を高めさせていた。
「全てを終わらせておいで。後押しくらいしかできないけどね」
 ──ほら、行ってきな。
 声に背を押され、祇音は駆ける。
「大地を以て生み、暴風を以て磨き、劫火を以て鍛え、雷鳴を以て宿す──!」
 己の勾玉に加えて、身につけたのは亡き妹の勾玉だった。
 それによって、大地より一つの塊を生むと──風で刀の形に磨き、炎で強く鍛え、雷を宿す。出来上がるのは神々しい刀。
「一刀を以て決着を……!」
 放つ『神遂』は、神籬を一閃に両断。跡形も無いほどに吹き飛ばし、その全てを散らしていった。

 祇音は最後の一撃の反動で、体に紋様を浮かべて倒れ込んでいた。
 仰向けになりながら、それでも意識は保っている。
 疲労に襲われながら──目に映るのは亡き禍音の幻だった。
「……禍音。終わったな……」
「ったく、無茶しやがって」
 アルシエルはまだ柔和に戻りきれていない声音で言う。表情にはあまり出さなかったが、それでも無事で良かったのだと思う気持ちを、確かに携えて。
 リディも祇音に駆け寄る。
「大丈夫?」
「うむ」
 祇音は仲間の支えで上体だけ上げると、皆へ礼を言った。
 それに笑顔で頷いた希季も皆を見回して明るい声を聞かせる。
「皆、お疲れ様だー!」
「とりあえず……一息ついてくださいな」
 奏過は自身はスキットルを握りつつ、皆には魔法瓶から紅茶を注いで供する。受け取りつつ、シフカも提案した。
「皆さんで食事にいくのもいかがでしょう。奢りますが」
「それも、いいですね」
 奏過は頷きつつ、一度祇音を見た。一つの決着にはなったのだろうかと思い──またそうであればいいと願って。
 少しだけふらつく祇音へ、アルシエルは歩み寄る。
「平気か?」
「疲れが残っただけじゃよ」
「その紋様……塩なんか撒いて消えないのか?」
「さて、どうじゃろうかの」
 祇音は応えて、ゆっくりと歩み出している。戦いが終わったその直後から、自身の勾玉にヒビは入っていたけれど──それには、誰も気づかずに。
 夜の中を進む祇音を、藤子は少しだけ見つめた。
「迷い歩くのは別にいいのよ。その先にある大事な物を見つけられれば、ね」
 声音はその背にかけるようでも、どこか独りごちるようでもあったろうか。面相厚く、その中で笑みを保ったまま、藤子も歩み出していった。
 いつしか夜は静けさに満ちる。戦いの前のように、月がただ眩いばかりだ。
 祇音は一度足を止めて、目を戦いがあった場へ向ける。
 もうそこには何もない。けれど思い浮かべればいつでも、彼女の顔が見える気がした。だから踵を返して、祇音は真っ直ぐに進んでいった。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年1月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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