太刀筋は刹那のごとく

作者:桜井薫

 ある日の、夕方のこと。
「一、二の……せいッ!」
 街の中心部から少し離れた公園に、鋭い気合いが響く。
 公園とは言っても遊具などは無く、ベンチやゴミ箱があるだけのほぼ空き地のようなもので、声の主……峰岸・雅也(ご近所ヒーロー・e13147)以外の人の姿はない。
「よし、だいぶ勘は戻ってるな、もう少し続けて行くか……っ!?」
 先日の激しい戦いで負った傷もすっかり良くなり、リハビリがてら行っていた刀の素振りは、まずまずの調子だった。
 だが、鍛錬を続けようとした雅也は、ふと背後に不穏な気配を感じ、とっさに刀を構えて振り返る。
「ふん……なかなかの太刀筋だな。得物も、生きた番犬が持つには勿体無いぐらいよく鍛えられた、いい刀だ……ああ、実に俺好みの獲物だね。ゾクゾクするよ」
「……!! テメェは……!」
 振り向いた先に居たのは、赤い長髪をなびかせ、黒い装束に身を包んだ、細身の男。
 背中と腰に携えられた複数の刀は、いずれもその刀身から静かな殺気を放ち、それらが幾多の血を吸ってきたことを伺わせる。
「なあに、そんなに警戒する必要はないよ。俺はただの死神さ……『刹那』なんて呼ぶ奴もいるがね」
「……で、俺に何の用だ、『刹那』」
 美貌に薄い笑みを浮かべて語りかけてくる『刹那』に、雅也は相手の言葉に反してしっかりと警戒体勢を取りながら、手にした刀を隙無く構える。
「いやなに、用というほどのものじゃないが……ちょっと、死んでもらいたくてね。お前なら、さぞかし良い獲物になるだろうさ……なあ、峰岸雅也!」
「……ッ! 冗談じゃねぇ……『ちょっと』で、軽く死んでたまるか!」
 名乗らずとも名を言い当てられたささやかな驚きは投げ捨て、雅也は臨戦態勢を取る。
 その脳裏に浮かんでいたのは、彼を支える多くの仲間か、ケルベロスとして救ってきた多くの命か……どちらにしても、雅也には死神の言うとおりにするつもりなど毛頭なかった。
 刀と刀のぶつかり合いが、今まさに始まろうとしていた。

「峰岸が、デウスエクスの襲撃を受けるんが予知されたんじゃ」
 円乗寺・勲(熱いエールのヘリオライダー・en0115)は緊迫した表情でケルベロスたちに一礼し、前置きを省いて、手短に説明を始める。
「急いで連絡ば取ろうとしたんじゃが、無理じゃった。のんびりしちょる暇はなか。峰岸が無事でおるうちに、何とか助けに向かってほしいんじゃ、押忍っ!」
 続いて勲は、雅也を襲おうとしている宿敵の特徴と能力について説明を始める。
「奴は、『刹那』と名乗っとるらしい、刀を持った死神じゃ。黒い服と赤い長髪でそん顔は美しく、複数の刀ば持ち、己に酔ったがごたる大仰な態度で人に接するようじゃな。殺して配下にするためケルベロスば襲っとるなんて情報もあったじゃが、詳しい動機は分からんじゃ。はっきりしとるのは、今まさに奴が峰岸を襲おうとしとること。それだけじゃ」
 勲は迫る危機を意識してか、いつもより心持ち早口で、しかし慌てず要点を抑え、『刹那』の攻撃手段を説明する。
 1つめは、赤黒い光をまとった刀で斬りつけ、邪気を流し込む攻撃。前衛にのみ届く単体攻撃だが、高い威力を持ち、毒の追加ダメージを与えてくる。
 2つめは、一振りの刀を横薙ぎに払い、魂を捕捉する衝撃波を放つ攻撃。遠くまで届き多くの対象を巻き込み、攻撃対象を混乱させる力がある。
 3つめは、刀が吸ってきた血の穢れを開放し、自己強化と回復を行う技。大きな回復力を持ち、刹那本人の攻撃力を高める追加効果を持つ。
 最後は、刀を二刀流で持った時のみ繰り出される、高威力の斬撃。手にした二本の刀を暴走させ、高確率で一段階上のダメージを与えてくる。
「持続する毒のダメージと広範囲の混乱を誘う攻撃に、自己強化つきの回復に、二刀流限定の高威力攻撃。一通り揃った構成の技を、破壊力を高める戦術で正面からぶつけてきよる」
 高い威力の攻撃で一刀両断されることのないよう、くれぐれも心して準備を整えてほしい、と勲はケルベロスたちに念を押す。
「じゃが、どんなに強い相手でも、皆が一致団結して力を合わせれば、勝機も見えてくるはずじゃ。峰岸のこと、くれぐれもよろしく頼むじゃ……押忍っ!」
「はいっ! 私も雅也さんにはお仕事で何度もお世話になってるんです、絶対無事に、一緒に帰ってきますねっ!」
 天野・陽菜(ケルベロス兼女優のたまご・en0073)も気合の入った様子で勲にうなずき、集まったケルベロスたちと共に駆け出すのだった。


参加者
ヴィヴィアン・ローゼット(びびあん・e02608)
峰岸・雅也(ご近所ヒーロー・e13147)
立花・吹雪(ふぶきん・e13677)
五嶋・奈津美(なつみん・e14707)
月詠・宝(サキュバスのウィッチドクター・e16953)
ヒスイ・ペスカトール(邪をうつ・e17676)
カッツェ・スフィル(しにがみどらごん・e19121)
碓氷・影乃(かげのん・e19174)

■リプレイ

●日は昇り
「……ッ! 冗談じゃねぇ……『ちょっと』で、軽く死んでたまるか!」
 峰岸・雅也(ご近所ヒーロー・e13147)は『妖刀【刹那】』の鞘を払い、目の前の死神に対峙する。
「侮ったように聞こえたなら済まないね。狩りがいのありそうな獲物を前にして、つい楽しい気分になっただけさ……俺の刀も、ほら、楽しそうだろう?」
 死神『刹那』は腰から一本の刀を引き抜き、見せびらかすように構えてみせた。その刃はうっすらと濁った赤い光に包まれ、確かに、彼の歪んだ喜びを表しているようにも見える。
「そういえば、お前の刀に少し似ているかな。良い刀は惹かれ合い、斬り合うものさ……!」
「……!」
 心底嬉しそうに斬りかかってきた刹那の一撃を、雅也はとっさに刃の軌跡を合わせて受け流しつつも、体勢を崩しかけた……その時!
「雅也!」
「……宝!」
 ケルベロスチェインを構え、刹那と雅也の間に割って入ったのは、月詠・宝(サキュバスのウィッチドクター・e16953)だ。
「見りゃ分かるが、一応確認する……無事だな?」
「ああ、もちろんだ!」
 共に傍にと決めた無二の親友は、雅也のいつも通り快活な返事を確かめ、刹那に向き直る。
「ある意味てめぇが元凶か……お蔭様で俺までケルベロスの一因だ。ま、有難うとだけは言っといてやる」
 宝がケルベロスとなったきっかけは、雅也との出会いに深く関わっている。その雅也をケルベロスに導いたなにがしかの要因が刹那にあるとしたら、それは間接的に宝をも導いたことにもなる……宝はことさらに迷惑げな表情を作ってみせ、薄い笑みを浮かべて闖入者を興味深げに眺める刹那に対峙した。
「雅也ちゃん、助けに来たよ!」
「雅也に手を出すなら、わたし達が相手になるわ!」
 次いで、ヴィヴィアン・ローゼット(びびあん・e02608)と五嶋・奈津美(なつみん・e14707)の声が重なる。異口同音の叫びに込められた思いは、ヴィヴィアンも奈津美も同じ……雅也の旅団『日進月歩』に集う仲間として、団長であり、家族同然の大切な仲間である雅也に手出しはさせない。抜き身の不吉な刀にも一切ひるまず、二人は刹那をしかと睨みつけた。
「剣士同士一対一がお望みかもしれないが、コイツは病みあがりなんでな。悪ィけど助太刀させてもらうぜ?」
 続いて駆けつけたのは、ヒスイ・ペスカトール(邪をうつ・e17676)。いつもどおりクールに飄々と、だが秘めた闘志をゴーグルの奥底にたたえた彼の思いもまた一つ。ウチの団長にちょっかい出した落とし前はしっかりつけてもらおう、というところか。
「かなりの力量の持ち主のようですが……皆さんと一緒なら、負ける気がしません。私達の力を見せつけてやりましょう!」
「…………」
(「雅也君が……公園で一人の時を……狙うなんて。公園で二人きり! その手があったか! ……じゃなくて、なんてうらやま……では無く! なんて卑怯なんだ……ぼ、僕だって、僕だってー……!」)
 凛とした声に静かな気合いをにじませたのは、立花・吹雪(ふぶきん・e13677)。すっと音もなく、だが誰よりも愛する人を思う気持ちいっぱいに姿を表したのは、碓氷・影乃(かげのん・e19174)。影乃は心の内である意味ぬけがけな死神への恨みをひっそりと爆発させつつ唯一無二の恋人を、吹雪は多くの言葉を飾ることはなくとも普段から心より尊敬している団長を、絶対に守り抜いてみせると誓う。タイプは違えど物静かな女二人、刹那に臆する様子はまったくない。
「うん、ここの皆がいれば、絶対に大丈夫。ふぶきん、かげのん、なつみん……いくよ!」
 『日進月歩』女子の絆ここにあり、とばかりに、カッツェ・スフィル(しにがみどらごん・e19121)は吹雪、影乃、奈津美に視線を送り、青い瞳に不敵な光をたたえる。心の内では『偶には助けてあげないと雅也が拗ねちゃうからねー』などと冗談めかしつつ、負ける気は皆無だ。
「雅君のピンチなら駆けつけるのがお姉さんのお仕事です!」
「俺が盾になる。皆はあいつを倒すことに集中を」
「雅也さんに何してくれてるんですかー、許しませんっ!」
 さらに、華乃子とマティアスも他ならぬ雅也のため、天野・陽菜(ケルベロス兼女優のたまご・en0073)と共にサポートに駆けつける。
 ヴィヴィアンの『アネリー』、奈津美の『バロン』、宝の『白いの』と合わせて、実にケルベロス11人、サーヴァント3人、雅也本人も含めて総勢14人。
 この場に集った大勢の気持ちは一つ、刹那を退け雅也を助けること……見るからに固い絆でまとまったケルベロスたちを興味深げに見渡し、死神は楽しげに刀を構えた。
「これはまた、大所帯で向かってきたものだ……これだけ周りに慕われる人徳の持ち主を斬るのは、さぞかし楽しいことだろう。さて、お遊びはここまでだ……峰岸雅也。貴様らの実力、見せてもらおう」
 愉悦に満ちた刹那の声は、本格的な戦いの始まりを表していた。

●皆で進み
「他の誰でもない、雅也ちゃんと、あたしたちの力……見せてあげるっ」
 先陣を切ってかき鳴らされたのは、ヴィヴィアンのバイオレンスギターだった。勇壮なロックサウンドにアレンジされた『紅瞳覚醒』に込められたのは、雅也をはじめとする皆を『ヒーロー』に見立てた、熱い想い。戦いの場を熱く染め上げるアルペジオを効かせたサウンドに乗せ、守りを固める力は前に立つ6人を頼もしくガードする。
「ええ、絶対に負けません」
 続いて吹雪が、大勢の仲間たちが刹那を取り囲むさまから見出した陣の力で、同じく前衛たちに魔を破る力を付与する。
「ヴィヴィアン、吹雪、サンキュ! いくぜ……てめえと同じ銘の刀、喰らってみやがれ!」
 援護を貰って勇気百倍、雅也は妖刀【刹那】を高々と掲げ、美しい軌跡の斬撃で刹那に斬りつける。
「ほう、似ているとは思ったが、俺と同じ名を持つとは……奇遇なものだな」
 黒い外套の袖を切り裂かれながらも、刹那は興味深げに妖刀【刹那】の刀身を見つめ、ちらりと己の持つ刀を見比べた。
「もしかして、元々はお前のだったりするのか?」
「さあな。今までに何本もの刀を新調してきたから、あるいはそのうちの一振りということもあるかも知れんが、生憎記憶に無い。どちらにしても、その太刀筋……楽しい戦いになりそうだ」
 破壊力を増した練度の高い一撃にひるむ様子もなく、刹那は楽しげに己の刀を構え、大仰な仕草で攻撃体勢に移る。
「ヘッ、そうか……ま、だとしても返す気はないけど、感謝してるぜ? ここまで俺を育てたのは、ある意味お前だ」
「……ならば、その育ち具合を確かめさせて貰うとしよう。受けてみよ、流れる血をも斬るこの一撃を!」
 死神は両の手に一振りずつの刀を掲げ、交差させた二刀を一気呵成に振り抜き、雅也めがけて必殺の一撃を放った……その時!
「……まあまあかな。ただの死神にしちゃ、だけどね」
 割って入ったのは、カッツェ。
 まともに受けたらただでは済まない斬撃を、カッツェは黒猫の名を持つ鎌で何とか威力を殺しつつ、代わりに受け止めた。守りの戦術で補ってなお痛い強烈なダメージを、あえて涼しい顔で突っ張って見せながら、カッツェは分身の影をまとい、この先も守り抜くための体勢を整える。
「……ナノ!」
 事前に宝からしっかり作戦を言い含められていた『白いの』は、今こそ仕事だとばかりに、傷が残るカッツェにハートのバリアを飛ばす。カッツェの傷がある程度回復したのを見て取り、奈津美は前衛全体に向けて星座の聖域による守護で、先々の厄介な状態異常に備える……十二分に回復役を確保したメンバーで、過剰な回復を避け無駄なく動く咄嗟の判断ができたのは、奈津美自身がいかに動くか綿密に考えてきた証だ。
「息の合った連携、なかなかのものだ……ならば俺も、今手薄なところを狙わせて貰うか。我が刀の巻き起こす風よ、魂を惑わせ……!」
 ケルベロスたちの一連の攻撃を凌いだ刹那は、背中から新たな刀を手に取り、鈍く光る刃を振りかざして、広い衝撃波を解き放つ。その向かう先は、まだ強化が行き渡ってない、影乃やサーヴァントらの居並ぶ後方だ。
「手分けして、被害を分散させるぞ」
「作戦了解、防衛回路を発動」
「はーい、こっちはお姉さんに任せてね」
 宝は慌てず騒がず冷静に、耐久力の乏しい者もいる後衛への被害を抑えるべく、守り手たちに声をかけて散開する。マティアスも華乃子も多くの言葉は必要とせず、分散してそれぞれの対象をかばった。
 守備陣の着実な仕事は、催眠で後衛が一気に崩れる事態を防ぎ、被害を最小限に抑えたと言って良いだろう。
「コイツはアンタのお眼鏡にゃ適わないだろうがな……オレはオレの仕事をさせてもらうぜ」
 ヒスイは愛銃『ミタマシロ』を刹那にまっすぐ突きつけ、弾頭を依り代にした半透明の御業を勢いよく射ち出した。回復や守りは、安心して仲間に任せられる。事前に練ってきた通り、妨害や牽制に徹することに集中できるのも、雅也とその周りに集う仲間たちの団結力あってこそ……ヒスイの美学を載せた御業の弾は、刹那の体の真芯にしっかりと食い込んだ。
(『百歩進めど音は無く、千歩進めど影も無し……』)
 ヒスイの作ったチャンスに続いたのは、影乃だ。
 色も音も影さえも見せず、影乃は刹那の側面にそっと回り込み、鋭い斬撃で刹那の脇腹に細い傷を与える。
「生意気な……穢れを喰らい力を増した俺を、そう簡単に落とせると思わないことだ」
 眼力で比較的与しやすいと判断していた相手から立て続けに攻撃を貰ってプライドが傷ついたのか、刹那の表情はほんの少し余裕が崩れたようにも見える。戦場に満ちる闘気から濁ったオーラを集中的にその身に集め、死神は傷の回復と攻撃力の強化を図る。
「そんなあからさまに放っといたら危なそうなの、カッツェが見逃すと思う?」
 それはまるで、するりと足元を走り抜ける黒猫のように。カッツェは目にも留まらぬ素早さで刹那に近づき、強化を解く力を持ったドラゴニアンの爪を思うさま叩きつけた。爪痕は刹那の黒い衣装にくっきりと傷を残し、死神の身体を取り巻いていた濁ったオーラは霧のようにかき消える。
「カッツェちゃん、ナイスなんだよ!」
 強化を削いだなら、さらに戦況の天秤をこちらに引き寄せる手段は、相手を弱体化させること。
 ヴィヴィアンはギターの弦から片手を離し、その手に握った如意棒で、刹那の刀の一振りをねじるように一撃を加えた。
「サーヴァントリオ、お願い!」
 畳み掛けるなら、今が絶好の機……タイミングを逃さず、奈津美はバロンに目配せして、高らかに声を張る。
「「「…………!!!」」」
 号令を受け、バロンが、アネリーが、白いのが、一斉に刹那の前に躍り出た。
 アネリーが吹き出す炎は、太陽と月を組み合わせたような形を取り、戦場を照らす。
 バロンが尻尾から放ったキャットリングは、白い光の矢となって、空間を切り裂く。
 白いのが放つ魅惑のハートは、大きく弧を描く光線となって、死神の身体を包む。
「……! こしゃくな……!」
 雅也を始めとしたケルベロスを狩ることに意識が向いていた刹那の中には、どこかサーヴァントを侮る隙があったのかも知れない。主人たちのため、主人が慕う雅也のため。持てる力を惜しみなく出した3体の攻撃は、威力にばらつきこそあったものの、全てが刹那に突き刺さった。
 アネリーもバロンも白いのも、最高の仕事に胸を張るように、その表情はどこか誇らしげだ。
「見たか……これが俺の、俺たちの全力だッ!」
 雅也はさらなる一撃を入れつつ刹那に向き直り、妖刀【刹那】の切っ先を真っ直ぐ刹那に向け、高らかに宣言する。
「元々を辿りゃあ、俺たちの縁は、コイツのお蔭で繋がったようなもんだ。集まってくれた仲間と、お前には感謝してるぜ……!」
 刀の『刹那』と、死神の『刹那』。
 二つの『刹那』が繋いだ縁は、14の光となって、戦いの趨勢を決定づけようとしていた。

●月は巡り歩みは続く
「楽しい……楽しいなあ、まったく! 勝ちを信じて疑わない、そのおめでたい顔に……消えない傷を刻んでやろう!」
 追い詰められたことが、むしろ楽しくてしょうがない……刹那の金色の瞳は爛々と輝き、一本だけ引き抜いた刀をしかと両手で握りしめ、雅也めがけて全力で振り下ろす。毒々しい光をまとった刃は、凶悪な勢いで雅也に迫る……!
「……そう簡単に斬れる腐れ縁だとでも思ったか?」
「……!」
 親友一番のピンチは、一番の腐れ縁がケツを持つ、とでも言うかのように。
 宝は雅也の立っていた場に割り込み、今日最も重い一撃を肩代わりした。
「宝! 悪ぃ、大丈夫か」
「大丈夫も何も、そのために来たんだ。たまにはカッコつけさせろ」
 強引で荒っぽい癒しを自らに施しながら、宝は軽く片頬を上げ、うそぶいてみせる。そのクールな表情は、刀で斬れるやわな縁なら最初からここにはいない、とでも言うかのようだ。
「逃しません!」
 宝に不意を突かれた刹那にできた一瞬の隙を、吹雪は逃さなかった。今までに仲間が蓄積させた弱体をさらにえぐり込むように、空の霊力を帯びた吹雪の斬撃は、刹那の体幹を容赦なく切り裂く。
「……くッ」
 吹雪の刀は鋭く死神に突き刺さり、刹那の喉から押し殺した悲鳴が上がる。
「カッツェ!」
「おっけー、なつみん!」
 刹那が着実に追い詰められている今、やるべきこと……奈津美はカッツェに目配せして、打ち合わせてきた最大の山場を開始する、その合図を出した。

「一番手、『日』組、行くわよ!」
「カッツェのイメージは日じゃ無いんだけどなぁ……まぁ、一番槍だしいいか!」
 奈津美とカッツェは『日』、すなわち太陽そのもののような火球を、グラビティを合わせて共に生み出す。
「我らの日輪の前に!」
「ひれ伏せ!」
 炎は文字通り『燃え盛る日輪』のように膨れ上がり、刹那の正面からその身体を炎に包み上げた!
「仲間が切り開いた道、乗り遅れずに『進んで』行くぞ!」
 続いて『進』んだのは、雅也、宝、影乃、ヴィヴィアンの4人。
「あたしたちは振り返らない!  “その先”にみんなで辿り着くために……一緒に進もう!」
 ヴィヴィアンは口上も高らかに、熱いパワーコードの旋律を奏で、激しく唸るギターの音波で、雅也と彼を支える『ヒーロー』への助奏を全力で弾きまくる。
「貫かせてもらうぜ、俺の信念!」
「万難を排せ……」
 共に背を預け合い、怯まず、恐れず、未来を切り開くために。雅也と宝は『勇往邁進』で、何も恐れずに刹那めがけて突き進んだ。
「僕だって……僕だって……!」
 誰より愛する雅也が拓いた道を辿り、影乃は妖精弓『七式凍殺武装【雪女】』をぶれることなく真っ直ぐに構え、尖った槍のような矢を力いっぱい放つ。
「今度は『月』組、技の冴えを見せてやらァ」
「さぁ! 煌めく月のような技の冴えをお見せしましょうか!」
 『月』を担うのは、ヒスイに吹雪。
「この一撃は、外しません!」
 怜悧な光をたたえた吹雪の『氷霊弓』が、膨大な凍気を纏わせた矢を穿つ。
「追加はまだまだ御座います、ってな」
 吹雪が与えた傷を冴え冴えと照らすヒスイの『式撃ち「月桂呪」』は、光を放つ弾丸となって撃ち出される。吹雪とヒスイのそれぞれに放つ光は互いに交わり、まるで金環食のダイヤモンドリングのようにまばゆく、刹那の身を貫いていった。
「4番手『歩』、行くぞ……!」
「お姉さんが原稿よりも本気出すのは、一緒に『歩む』みんなのためだけよ!」
 マティアスと華乃子は、雅也と共にある皆の『歩』みを象徴するかのように、迷いなく刹那の正面に足を進める。
「……解析完了。再現プログラム構築……完了、出力する」
 マティアスは『Befehl "Black History”』を発動させ、刹那の中にあるはずの思い出したくない『歩み』を具現化し、現実の痛みとして再現するプログラムを走らせた。
「マティ君特製のプログラム、痛い? お姉さんの愛も痛いわよ!」
 そして華乃子は愛(物理)で、精神の痛みに肉体の痛みをブレンドし、エゲツない形状のメリケンサックを全力で振り抜いた。
「クッ……貴様、ら……!」
 この場にいる『日進月歩』のケルベロスたちが全員で、『日』『進』『月』『歩』の攻撃をたたみかける、ワイルドグラビティのラッシュ。
 たまり場となった壁に皆でその文字を綴った日、いやその前からの『日進月歩』の全てをぶつけるかのような怒涛の攻撃に、誰が耐えられるだろうか。
 刹那は全身に受けた団員たちの思い全てに押しつぶされるように、その足元をゆらめかせた。
「雅也!」
 それぞれの呼び方で異口同音に叫んだ団員たちの思いは、一つ。
「わかってるッ!」
 雅也はニィと笑ってそれを受け止め、この戦いに決着を付けるべく、【刹那】を大上段に振りかぶった。
「因縁も、売られた喧嘩も、どんなデウスエクスも……俺たちが力を合わせたら、斬れないものは無えっ!」
「……っ!」
 雅也の刀は、刹那を正面から真っ二つに、真っ直ぐに、一欠片の迷いもなく切り裂いた。
「…………」
 斬り伏せられて消えた刹那に雅也は軽く黙祷を捧げ、小さく一言『ありがとう』と付け加える。
 それは、縁を繋いだ敵への、またこの場に集まった全ての仲間への、偽らざる彼の思いだった。

作者:桜井薫 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年3月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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