ミッション破壊作戦～冷たい機械が支配する地へ

■リプレイ

●ダモクレスの支配する土地へ
　広島県福山市、かつては工業地帯があった場所の上空をへリオンは移動していた。
　いや、今も本来ならばあるはずなのだ。ダモクレスさえいなければ。
「できれば、この風景を空から見るのは最後にしたいもんだな」
　眼鏡越しに変わり果てた工業地帯をながめ、アルベルト・ディートリヒ（昼行灯と呼ばれて・e65950）は呟いた。
　回廊は一度で破壊できるとは限らない。戦いが進むにつれ少ない回数で破壊できた場所は減っている。
　アルベルトがここに挑むのもはじめてではなかった。
「そうだな。いつまでも、命をないがしろにするダモクレスを好きにさせておくわけにはいかないぜ」
　アルベルトと一緒に目的地の下調べを行っていた木霊・ウタ（地獄が歌うは希望・e02879）が頷く。
「下調べは大事だが、これから戦闘だ。あまり根を詰めるなよ、２人とも。言わなくてもわかっているだろうが」
　声をかけたのはマーク・ナイン（取り残された戦闘マシン・e21176）だった。
　彼は機械そのものに見える姿をしていたが、発する声は普通の男性のものだ。今のところは。
「もちろん、わかってるさ。でも、確実に撤退するのも作戦のうちだからな」
　アルベルトは言った。
　話している間にも、作戦地域は近づいてきている。
「約束……覚えてる？」
　機理原・真理（フォートレスガール・e08508）は、そばにいる愛しい少女へ問いかける。
「もちろん……真理との約束を忘れるわけがない」
　マルレーネ・ユングフラオ（純真無表情・e26685）はまっすぐに真理を見て答えた。
　頷きあうと、ひと房だけ色の違う真理の髪が揺れた。
「がんばろうね。約束を、果たすために」
　互いにそう告げて、少女たちは輝く小剣に思いを込める。
　そして、へリオンはバリアの上空までたどり着いた。
　赤い髪をした幼い少女が、無表情に立ち上がる。
「いこう、みんな。とりもどすために」
　伏見・勇名（鯨鯢の滓・e00099）のぽつぽつとした声が仲間たちの耳に届く。
　ケルベロスたちは１人、また１人と魔空回廊へ向けて飛び出していった。

●叫べ！
　本来あるべき工場とは違う風景を見下ろすと、どこか禍々しく見えるような気がする。
　だが、別に見たかった風景ではない。
「こないだは失敗したが、俺達は諦めが悪いんでね。今度こそ、人間様から横取りしてきた資材も技術も返してもらうぞ」
　アルベルトは先日も見た風景を見据えて告げた。
「文字通り福山市復興の礎にしてやるから、光栄に思えデカブツのポンコツ共が」
　思いを込めて、グラディウスを振り上げる。
「ピジョンからパクった産業革命斬、再び！」
　以前の戦いで、仲間が使っていた技を見よう見まねで叩き込むと、最初の爆発がまずバリアに広がった。
　２番目に降下したのは勇名だった。
「んうー。ここは、ひとのすむとこ。ダモクレス工場つくる、すきかってするのは、ひとがかなしい、いくない」
　想いを言葉にするのは、あまり得意じゃない。
　それでも、訥々と、彼女は己の中の想いを形にしていく。
「……だから、かえしてもらう。このもやもや……ぼくの、こころで、どかーん、する。そうきめた」
　無表情に呟くたびに、想いは高まっていく……。
「だからいこう、グラディウス……！」
　そして２度目の爆発が響く。
　空中で、真理は後ろに手を伸ばした。
　その指先が、彼女に続いて跳んだマルレーネの指先に触れる。
「まだ居るのですね、貴方達」
　真理がこの地にフォートレスガーディアンの姿を発見したのは、どれくらい前のことだっただろうか。
「特に製鉄とか、工場って動き続けてないとダメになっちゃうですよ。そろそろ返して貰わないと、ここに住む人達が困っちゃうのです」
　想いを高めながら、真理は腕に力を入れて、マルレーネと触れている指先を伸ばす。
「それに、私はマリーと約束したのです。ここの夜景を一緒に見に来ようって！」
　２人の指が絡まった。そのまま彼女の体を引き寄せる。
「私の好きな綺麗な風景を、大好きな人に見て貰いたいって、そう願ってるのです」
　マルレーネは風の音よりも近い場所で真理の言葉を聞いていた。
　聞きながら、彼女自身も想いを高めていく。
「真理と工業地帯の夜景を見に来ようと約束していたのに、こんなにしてっ！　必ずここを解放して夜景を返してもらう！」
　つないでいるのとは逆の手で、それぞれ輝く小剣を握った。
　バリアはもうすぐ近くまで来ている。
「ここに住んでいた人達と、私達の約束の為にも、早くここを返すですよ！」
「魔空回廊を破壊した暁には、お前たちを復興の資材として使ってやる。よく覚えておけ！」
　２人が連続してグラディウスを振り下ろし、ほぼ同時に２度の爆炎と雷光が周囲に飛び散った。
　次いでマークが煙の中に飛び込んでいく。
「なんでそこに居座ってるんだお前は。なにを勝手に居座って横取りしようとしてるんだ、人類の工業地帯を！」
　重厚な機械の体が、重力に従って降下していく。
　ロボットのような姿で、戦闘の際はまるで機械のように動く彼だが、その内には強い意志が宿っている。置き去りにされたあの日から。
「どけ。いや、もうどかんでいい、ただひたすらに武力行使あるのみだ！」
　戦時の状態へ意識を切り替えながら、全力でグラディウスを振り下ろす。
「SYSTEM COMBAT MODE！」
　バリアに触れた小剣からまた爆炎が広がった。
　ウタは学生服を風にはためかせて降下していく。
「この工場地帯で製造された沢山の製品は、誰かの役にたっていた。働いていた人達の汗と努力があるんだ」
　グラディウスを手に、彼はまっすぐにバリアへと突き進む。
「それをてめぇらに好き放題にさせて堪るか！　この地球を、命を、機械化させるかよ！　命の輝きを消させやしねぇぜ」
　想いの丈を、青年は高らかに謳いあげる。
「命の灯を消そうとする存在への怒りと！　命を守り覚悟と！　それらが響き合って紡ぐ未来へのハーモニーを！　耳かっぽじって聞きやがれ！」
　幾重にも重なる爆音の輪唱に、ウタはさらに一音を付け加えた。
「ぶっ潰れろ！」
　いずれ劣らぬ大きな爆発がミッション地域を覆うように広がっていく。
　だが、ケルベロスたちが着地したとき、まだバリアはそこにあった。
　勢力が大きいこともあってかダモクレスの魔空回廊は堅固な場所が多い。
　彼らの叫びは痛烈なダメージを与えていたが、それでも届かなかったのだ。
　拳を強く握り、あるいは奥歯を噛み締めて、ケルベロスたちはすぐに撤退へ移った。

●響く足音
　事前に調べていたルートを参考に撤退していくケルベロスたちは、重たい足音を聞く。
　フォートレスガーディアンが接近してきているのだ。
　敵の進路はケルベロスたちの退路をふさぐ形になっているようだ。
「後退しながら戦おう。中枢から離れれば援護も期待できる」
「YES．TO THE UTMOST」
　マルレーネの提案にマークが機械的な口調で応じた。
　とはいえ、ヘリオライダーも言っていた通り敵を倒さなければ撤退は難しいだろうが。
　話しながらもケルベロスたちはすぐに戦いの準備を整えていた。
　前衛のケルベロスたちとサーヴァントがダモクレスに接近していく。
　そこに拡散するレーザーが襲いかかった。
「やらせませんよ！」
　ライドキャリバーのプライド・ワンに乗って素早く加速した真理が、勇名をかばった。
　光に貫かれ、焼かれながらも彼女は表情を変えなかった。
　そのまま、真理はアームドフォートを撃ち返す。
「―――容赦は、しないですよ」
　神州技研整の砲から放たれた砲弾を敵はかわそうとしたが、間に合わなかった。
　巨大な敵の腕に砲弾が命中し、損傷させる。赤い仄かな輝きが宿ってダモクレスを侵食しはじめた。
「真理、無理はするな」
　マルレーネは恋人に声をかけながら、攻性植物に黄金の果実を産み出させる。
　真理からの答えはなかったけれど、小さく頷いたのは見えた。『心配しないでください』という声が聞こえた気がする。
　黄金の果実が光を放って、なおも敵に接近していく真理や、他の前衛の仲間たちを守っていた。
　重巡級ダモクレスは巨体でありながらケルベロスたちを上回る機動力を見せていた。
　だが翻弄されている暇はない。
　アルベルトは敵と距離を取って、煙幕越しにしっかりと狙いをつけていた。
　破城竜槌を砲撃形態へと変形させる。
「でかいくせに、あまりうろうろするな。じっとしていてもらおう」
　爆煙を貫いて飛んだ竜砲弾が、ダモクレスへと命中して足を止める。
　アームをアルベルトに向けようとするが、遠距離にいる彼には届かない。代わりに近くにいたマークへ振り回すが、それはプライド・ワンがかばった。
　だが、敵が動きを取り戻したわけではない。
　かばわれたマークがブースターをふかして飛翔する。空中戦は苦手なのかぎこちない動きではあったが、重力を操ってダモクレスの巨体へ勢いよく着地する。
「うごくなー、ずどーん」
　さらに足元へ勇名が小型ミサイルを撃つ。
　まるで花火にも見えるカラフルな火花が飛び散って、さらに敵の動きを止めていた。
　攻撃は当たりやすくなっても敵の激しい攻撃は止まらない。レーザーで皆を薙ぎ払い、太いアームを叩きつけてくる。
　ウタは傷ついた仲間を回復し続けていた。
　また一度、振り下ろされたアームが真理を打つ。その彼女に向けて、青年は凱歌を歌う。
「あんたにも聴こえるだろ？　地球の歌が。メロディが」
　空と、大地と、風と、海と。
　蒼き地球に息づき歓ぶ生命の歌。
「……助かります」
　聞いた真理は無表情のままだったが、動きは間違いなくよくなっていた。
　強敵を前にしても希望を忘れず、ウタは仲間たちを支え続ける。
　真理が装甲をズタズタに裂き、アルベルトが氷河期の冷気で凍らせた。
　マルレーネが敵をチェーンソーで切り裂いて、さらに敵の動きを鈍らせる。
「OPEN FIRE」
　当たりやすくなったことを確かめ、マークが両手のガトリングガンを連射しはじめた。
　続く戦いの中、真理とプライド・ワンはよく守っていたが、他の者も無傷ではない。
　勇名はまた飛んできたレーザーに貫かれて、焼き切れた色黒の肌から血を流した。
「……じゃま、しないで。……グラディウス、ちゃんともちかえる、それが約束」
　グラディウスは身体に固定しているが、倒されればどうなるかわからない。
「だから、たおされないように、する。それが、じゃすてぃすー」
　オーラに包まれた拳を握り、降魔の力を宿してフォートレスガーディアンの硬いボディに叩き込み、装甲を歪ませる。
　心のない機械にも、命はあるらしい。奪い取った力で傷ついた自分の身体を勇名は癒した。
　さらにウタが星の乙女を描き出し、真珠星のごとき癒しの光で皆を癒してくれた。
　その間にも強大な敵の体力は削れていく。
　砲身が赤く加熱するほどの勢いで放つマークのガトリングガンが敵の胴体を歪めていた。
　敵は幾度かジェネレータの出力を上げて回復を試みていたが、真理が撃ち込んでいたナノマシンが阻害しており、十分な効果を発揮しない。
　とはいえ、敵もただではやられない。
　傷だらけになりながらも衰えない膂力で、アームをマークへと振り下ろす。
　真理はとっさにプライド・ワンを加速させて、飛び込んだ。
「守ってみせるですよ！」
　腕をつかみながらホイールを回転させて、マークを回避させる。
　だが、彼を離脱させたものの、真理自身は逃れられない。代わりに攻撃を受けた真理がライドキャリバーから落ちて転がる。
　プライド・ワンはそのままマークを乗せて離脱していくが、彼女自身はもう動けなかった。
　恋人が自分の名を呼ぶ声が聞こえた気がしたが、それが現実かどうかはっきりしない。それでも、真理は彼女へ声をかけようとした。
「マリー……後は任せました」
　声はきっと届いていなかっただろう。けれど、想いは必ず届いている。
　かすむ視界を、マルレーネが捕食形態に変化させた攻性植物が横切った。
　１人倒されはしたものの、敵はもう限界だった。
　真理の名を呼びながらマルレーネが放った攻性植物が敵を捕食する。
「そこを動くなよ」
　続いてアルベルトの幻想結晶刃が敵を痛烈に貫き、勇名の拳がダモクレスの内部まで穿つ。
　ウタもオウガメタルを変化させて攻撃に回った。地獄の鬼が、要塞をも砕く白銀の一撃を繰り出して装甲を破る。
　マークはその穴のあたりめがけて、特殊改造アームドフォートを構えた。
「ADM TARGET LOCK」
　砲口から飛び出したミサイルがフォートレスガーディアンへと飛んでいく。
　回避しようとするその動きを追尾して、ミサイルは装甲の裂け目に命中する。
　爆発は内部まで到達し、重巡級ダモクレスの巨体を爆発四散させた。
「ENEMY DESTROY」
　爆煙はまだ周囲を覆っている煙と混ざりあい、消滅した。

●撤退
　戦闘しながら移動していたおかげで、だいぶ中枢からは離れているはずだ。
　とはいえ、まだまだ安全圏ではない。
　真理やプライド・ワン以外のメンバーも傷ついていたが、手当てをしている暇はなかった。
「んうー。つかれた、ねむい……」
「まだだ！　眠ったら死ぬぞ！」
　消耗している勇名をウタが叱咤して走らせる。
　倒れた真理の身体をアルベルトが抱えあげた。
「真理！」
「大丈夫、気絶してるだけだ。傷の浅い俺が運ぶから、彼女のグラディウスを頼む」
　駆け寄ってきたマルレーネにアルベルトはグラディウスを渡した。
「うん……大丈夫だよな？」
「脱出して、少し休めば治るさ」
　あまり感情の現れない変わらないマルレーネの瞳が、心配でかすかに揺れていた。
　爆煙の中を走る。
　援護してくれる者たちともほどなく出会い、彼らはミッション地域を脱した。
「全員無事なのか！？　機理原はどうだ？」
　マークの問いかけに、仲間たちが口々に答える。勇名の眠そうな声も聞こえた。
「私も大丈夫ですよ……すみませんね、迷惑かけちゃいまして」
「迷惑をかけられた覚えはない。アンタが守ってくれたおかげで、攻撃に集中できたんだからな」
　言葉を交わす真理は、重傷ではないようだ。少し休めば回復するだろう。
　ただ、彼女にはそれよりも気落ちする理由がある様子だった。
　冷静な様子ではあるものの、目を伏せている真理に、マルレーネが近づく。
「夜景……今回は見られなかったけど。いつか必ず、ここの夜景を見に来ようね」
　さしのべられた白い手を真理は握り返す。
「……そうですね。約束しますよ、マリー」
　手をつないで立ちあがり、真理は言った。
　強力な魔空回廊だが、今回を含めてもう何度か降下攻撃が行われている。
　２人の約束が実る日は、きっと近いはずだ。
　この土地に住んでいた人々のためにも、その日が早く来ることを、ケルベロスたちは願った。

作者：青葉桂都	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2019年1月31日 難度：普通 参加：6人 結果：成功！
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