冬の甘味道

作者:崎田航輝

 寒さ深まる季節に、和の風薫る。
 木造の建物が軒を連ねるその道には、今日も多くの人が訪れていた。
 鼻先を擽る仄かな匂いに、やってきた人々が早々と笑顔を浮かべるのも無理からぬ事であろうか。そこは道の始めから点々と、甘味処が立ち並んでいるのだ。
 ぜんざいにあんみつ、抹茶パフェにどら焼き。土産物店も含めて、楽しめるのは和の色濃いスイーツの数々。
 風情ある一本道に沢山の店がある事から、甘味道の愛称で親しまれる場でもあった。
 と、そんな和やかな通りに空から降るのは謎の胞子。
 道の脇には景色を彩るように水仙が植えられている。そんな中に取り付いた胞子は──花々を蠢かせ、巨花へと変貌させていた。
 人々が気づいた頃には、既にそれは道に這い出ている。悲鳴が上がる中、異形と化した花は獲物へと喰らいかかっていった。

「皆さんは和スイーツ、お好きですか?」
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)は皆へそんな言葉を口にしていた。
 なんでも、甘味が楽しめる街の通りに攻性植物の出現が予知されたのだという。
「現場は大阪市内です。爆殖核爆砕戦の影響で大阪城周辺の攻性植物達が動き出している……その流れが続いているのだと思われます」
 放置しておけば人々が危険だ。甘味処と景観を守るためにも、ぜひお力を貸してくださいとイマジネイターは言った。
 攻性植物が出現するのは店が立ち並ぶ、長い一本道の途中だ。
「人通りもありますが……今回は警察や消防が避難活動を行ってくれます。皆さんが到着して戦闘を始める頃には、丁度人々の避難も終わる状態になるでしょう」
 こちらは急行して討伐に専念すればいい、と言った。
「お店などにも被害を出さずに倒すことが出来るはずですから……勝利した暁には、和スイーツを楽しんでいってもいいのではないでしょうか」
 種類豊富で、そのどれもが美味なのが和スイーツ。土産物のお店もあるし、きっと憩いの時間が過ごせることでしょうと言った。
「その為にも、ぜひ、敵を撃破してきてくださいね」


参加者
クィル・リカ(星願・e00189)
エリオット・シャルトリュー(イカロス・e01740)
エリヤ・シャルトリュー(影は微睡む・e01913)
ヴィ・セルリアンブルー(青嵐の甲冑騎士・e02187)
シア・ベクルクス(花虎の尾・e10131)
ノチユ・エテルニタ(夜に啼けども・e22615)
天喰・雨生(雨渡り・e36450)

■リプレイ

●開戦
 瓦屋根に木造の軒先。
 辿り着いたそこは、和の風景が連なる趣ある景色だった。
「甘味処の立ち並ぶ情景というのは、見ていてわくわくしますね。雰囲気が素敵で……」
 翼を畳んで降り立ったクィル・リカ(星願・e00189)は、蒼の瞳を穏和に細める。思わず見回してしまうくらい、魅力的な街道だった。
 花も多く咲いていて、シア・ベクルクス(花虎の尾・e10131)の声音も少しだけ華やいでいる。
「とってもいい香り……。和の空間に水仙の花は合いますね」
「もうそんな花の季節なんだね。せっかく咲いたのに──ちょっと気の毒かな?」
 ヴィ・セルリアンブルー(青嵐の甲冑騎士・e02187)は呟きつつ正面へ向いていた。
 そこに這いずる影がある。
 巨大な花弁を広げる、摂理から外れた異形達。
「景色をきれいに飾るお花が、こわいお花になったね」
 エリヤ・シャルトリュー(影は微睡む・e01913)はふわりと眠たげな視線を上げる。
 それは斃すべき敵──攻性植物。
 ロストーク・ヴィスナー(庇翼・e02023)もおっとりとした表情の中に、携えた槍斧と同じだけの鋭さを宿していた。
「爆殖核爆砕戦の影響も、長いね。冬くらい花粉を飛ばすのやめたらいいのに……」
「まあ、こうなった以上は戦うだけだ。避難している人達の為にもしっかり片づけよう」
 エリオット・シャルトリュー(イカロス・e01740)が足元に獄炎を波打たせれば、ロストークとエリヤは同時に頷き、戦いの姿勢を取る。
 それを合図にエリオットは地を鳴らし、焔の怪鳥を解き放っていた。
 棚引く白銅と黒の炎。それに戦慄いて巨花は射線から避ける──が、エリオットは惑わない。視線を交わしたロストークが横へ飛んでいたからだ。
「逃げられると思わないことだよ」
 首元から飛んだ小竜のプラーミァが体当たりし、花を止める。
 ロストーク自身はそこへ『Шепот звезд』。怪鳥と挟み込む位置から氷霧を耀かせていた。
 焔と冷気で花弁の一端が凍った灰燼になると──次に正面から迫るのは影の色。
 エリヤの影縛の邪眼:《Minois=apis》。
 瞳の魔術回路を励起させたことで、陽だまりの凪のようなぽわりとした眠気も払いながら……自身の影を異形蝶として射出。二人の呼吸に合わせて衝撃を連ねていた。
 別の二体が動こうとすれば、シアが『千華』。鮮やかに花々を狂い咲かせている。
 それはまるで全ての季節が一堂に会したかのような色彩の海。
 香りも色も、美しさに過ぎるほどの光景は、まるで酩酊させるかのように敵の動きを止めていく。
「先へは行かせませんわ」
「ああ。お前達は──冬も越せないよ。今ここで、焼かれるから」
 仄暗い炎がその根元へ焼べられた。
 ノチユ・エテルニタ(夜に啼けども・e22615)の『焚悼』。燻る熱気が祈りのように植物の体を蝕み、自由を許さない。
 この間にクィルは剣で星座を描き、星の欠片伴う煌めきの祝福を仲間へ与えてゆく。
 その合間にヴィが炎の流線閃かせ、一体の根を断ち切った。
「このまま行ってくれ!」
「了解。仕留めさせてもらうよ」
 からりと高下駄で前へいでて、頭巾をゆらり。華奢な腕をすっと伸ばす影一人。
 天喰・雨生(雨渡り・e36450)。
 体に魔力を巡らすと、半身に刻まれた梵字の魔術回路が仄かに熱を孕んで、赤黒い輝きを帯びていた。
 行使するのは天喰らう雨喚びの血族に伝わる呪の一つ──第陸帖廿捌之節・絶華。
 攻性植物の周囲の気体から生成されるのは、水塊だ。
 ぴちゃり、ぴちゃり。
 花の全身を水分が包み、形作られるのはさながら水の牢獄。
 空気の通り道を塞がれた異花は、海中に墜ちたかのようにゆらゆら藻掻く。だが体が動けど、水檻もそれに乗じて形を変えるばかり。
 ──悪いけど、逃れるのは無理だよ。
 雨生が忠告を声にするまでもなく。巨花はしおれるように動きを止め、朽ちていった。

●花討つ
 恐怖か畏れか、同胞を失った巨花は不気味に揺れ動いて止まない。
 その姿は花であったころの面影も、薄かった。
「水仙、咲いている様は凛としながらもどこか儚くて、綺麗なんだけど」
 雨生は呟いて紫紺の瞳を向ける。
 見つめるのは道端の水仙。異形となったそれに目を戻せば──。
「……本当に、儚さとは対極の姿になっちゃったね」
「花言葉は知らないが。少なくとも、街並みを彩るには大きくなりすぎたな」
 ノチユの呟きに、雨生も頷いて一歩歩む。
「そうだね。花に罪はないけれど、静かにしていてもらおうか」
「うん。美味しい甘味の為……いや、人々を守る為に。ちゃっちゃと片付けてしまおう!」
 ヴィは気合十分に、獄炎を放ち一体の生命力を奪っていた。
 敵が惑う内に雨生も刃を形成し一閃。油断もなければ怯みもなく、ただ淀みない手際で花弁の一枚を寸断してみせる。
 その一体は反撃を狙ってきた、が、標的であるエリオットは軽く一歩下がるだけ。敵の音波弾を撃ち落としたのは──廻転して飛来したロストークの、槍斧だった。
「僕が飛んでこなかったら当たってたかもよ?」
「飛んでくるだろ、ローシャなら」
 降り立つロストークの瞳に、エリオットは軽く言ってのけるばかり。
「ローシャくん、にいさん」
 そして背からエリヤが呼べば──二人は左右へ射線を開ける。放たれるのは、エリヤの足元から生まれる影の炎だった。
 水晶の如き煌めきも伴うそれは、花の全身を穿つ。同時に二人は空へ踊っていた。
「リョーシャ」
「重ねるんだろ」
 言われずとも、というようにエリオットはロストークの真上へ浮上。ロストークが急降下して蹴りを打ち込んだ直後に、繋げるように斧を振り下ろす。上方から連なった衝撃の応酬に、耐えきれずその一体は四散した。
 先に降りたロストークは、エリオットを手を組み交わすようにして地上に迎える。
 その頃にはもう、敵は僅か一体だ。
 攻性植物はそれでも突撃してくる。が、ヴィがしかと防御してみせると、クィルが『雪華・雪白』──指先に白光を宿した。
 それを吹くと、注がれるのは冴えた冷気。浄化するようにヴィに触れ、傷を癒やす。
「傷はこれで問題ないはずです」
「ありがとう。行くよ──雪斗!」
 ヴィは香坂・雪斗と共に『White out』。雪結晶伴う吹雪の剣を見舞い、敵を後退させる。
 シアは氷片を渦にして収束させ、氷の花を作っていた。それを撃って花弁を踊らせることで、敵を刻んで動きを縫い止める。
「これ以上は、永らえさせません」
「そうだね。美しかった筈の花弁も、今じゃ見る影もないんだからさ」
 ノチユは髪に星屑の残光煌めかせ、斧の一振りで花弁を斬り飛ばす。
 あくまで蠢く攻性植物へ、雨生は剣撃を刻んでから、更に連撃。
 至近から歪な体を水で閉じ込め、自由を奪っていた。
「これで終わりだよ」
 水塊が弾けて散る。絶命した異形の花は斃れ、消滅していった。

●甘味道
 戦闘痕を癒やせば、人々も平和も戻った。
 だから番犬達も皆歩んでいく──甘味道へ。

 クィルとジエロ・アクアリオは隣り合って、和風の街並みを眺めてゆく。
 いつも通りに手を繋いで、いつも通りの温もりで。風が冷たい程、互いがあたたかい。
「何だか甘い香りがしてきたね」
「ええ。お饅頭屋さん、あるでしょうか」
 漂う芳香にクィルは自然と頬が緩んでしまう。そんな隣の姿に、ジエロもどんな出会いがあるのかと楽しみだった。
 ぴたりと二人同時に視線を留めたのは、そこにお店を見つけたから。
「わ、見てください。色んなお饅頭がありますよ」
「おや、本当だ」
 覗き込んで、顔を寄せ合ってしまうくらいに品揃えは彩り豊富だ。
「いくつか買い求めて、帰ってから味わおうか」
「いいですね」
 お家に帰ってから一緒にお茶を──そう考えると、クィルは表情を明るくして、張り切って探し始める。
「まずは以前買ったかりんとう饅頭がかりかりで美味しかったので、それを」
 一つ一つに目移りしていくクィル。
 その姿をジエロも心弾む気持ちで見ていると……クィル自身ももっとわくわくしたように。
「あとはー……柚子お饅頭も気になります。うさぎのお饅頭も!」
 たくさん過ぎるかな、と途中でちらりと隣を覗えば、ジエロもちらと目を合わせて。
「ふふ、全部買っちゃう?」
 いっぱいあれば、その分一緒に楽しめるからと。
 寧ろ栗饅頭などを手にとって「あ、これもいいなあ」なんて上乗せしてみたりして。
 その方がお楽しみが増えると、クィルも判っている。だからそれも止めずにそのままだ。
「お茶とお饅頭、楽しみですね」
「そうだね。楽しみだ」
 共にする喜びも、分け合う喜びも一緒に。
 それを期待して歩み出せば、再び互いの手が温もりに触れる。それが嬉しくて、けれどこの後の温かさもまた待ち遠しかった。

 三人と一匹は和やかに道を歩む。
 とりわけエリオットは、零れる笑みに嬉しさが滲んでいた。
「……ふふ、いつもの面子だな」
「そうだね。最初は、どこに行こうか?」
 ロストークもおっとりと笑顔を見せて見回す。
 エリヤは夜咲きの花が蕾に戻ったように、眠気を含んだ声だった。
「一緒になにか食べたいなぁ。あったかいものがいいよね。ぜんざいとか……」
「ぜんざい、いいね。丁度お店もあるし寄ろうか?」
 ロストークが目を向けると、そこには甘味処の看板。
 ぜんざいの文字もあったから、二人も髪花を縦にふわりと揺らして……一緒に入店した。
 早速注文すると、温かな湯気の昇る器がやってくる。
 エリヤは少し手で包んで温かみを感じつつ……それから一口。優しく広がる甘味と香りで、ほわほわの表情に少しばかり幸せの色を帯びさせる。
「あったまるね。おいしい……」
「本当だ。とても美味だね」
 ロストークも改めて見つめてしまうほど。と、その中にある白色を見て気づいた。
「あ、お餅に耳がついてる。うさぎかな?」
「ほんとだ。お餅がうさぎさん」
 エリヤも少し首を傾けてじっと見る。どれどれ、と続くのはエリオットだ。
「や、可愛いうさぎの餅だねぇ。これ、エリヤの飼っている子に似てないかい」
「うん。白いし丸いし、僕の飼っているうさぎみたいだね」
 微笑み合う双子を見て、ロストークは言葉に同意するよりもただ和んでしまう。
 だけでなく、甘党の二人は一口また一口と、食を進める度に似た表情で美味を堪能しているから、何となくこちらまで笑みが零れてしまうのだ。
 だから温かな気持ちになってロストークは素直に口を開く。
「この冬、一緒に過ごすことが多くてうれしいよ」
「僕も……。前のチョコのお茶会もたのしかったよね」
 ぽわ、と顔を向けて思い出すのもまた甘味の幸せの時間だ。
 エリオットも同じ気持ちで頷いていた。
「あの時も今回も、三人でのんびりするのは楽しいものだねぇ」
 ましてや仕事をやり切った後は猶更で。丁度良い疲労感に染み込む甘味が、また満足感を生んでいる。
 そんな中で、プラーミァはロストークの襟巻状態。甘いものは香りだけで充分とでもいうように、仄かに温かな熱を揺らがせているばかりだった。
 ロストークはそんな温度をちょっと感じつつ、自身はまだまだ食べ物が入るというように。立ち上がってお会計すると二人と共に歩み出す。
「次は、どこに寄ろうか?」
「餡蜜でも食べに行くか。それと、前にみたいにお土産買っていけば、後でも楽しめるんじゃないか?」
「また一緒にお茶会とか、できるね」
 エリオットが提案すれば、エリヤもほわっと頷いて。
 一緒に歩むと、冬風も爽やかに感じられる。そうして一行は今暫く、甘味道を進んでいく。

「さあ、沢山運動した後は甘いものを頂きましょう~!」
 シアはふわんと花色笑顔で、甘味処へ向かうところだった。
 運動した後ならば罪悪感も少ないからと、頭に食べたいものを浮かべてみたりしつつ──先ずはお店には入らず、傍にいた巫山・幽子に話しかけている。
「幽子さん、お疲れ様でした~」
「ベクルクスさん、戦いではご指示をありがとうございました……」
 頭を下げる幽子を、シアは甘味屋へ誘う。
「宜しければ幽子さんも如何?」
「ご一緒してよければ……」
 というわけで二人で入店する事となった。
 頼んだのは抹茶パフェ。綺麗な緑色が香り高くて……何層にもなるクリームがたっぷりと入っている。
「早速、頂きましょう?」
「はい……」
 ぱくっ、と同時にスプーンを口へ。まろやかさと程よい苦味がマッチして、幾らでも食べられる一品だ。
 お茶も飲んでほんわか温まると、幽子は改めて礼を言った。
「楽しかったです……」
「ふふ、私もです!」
 シアは優しく笑んで応えると──その後わらび餅専門店へ。きなこの美味しそうな物をしっかりと買ってお土産にした。
「とても満喫できましたね~」
 運動もして甘味を楽しんで。煌めくような満足げな笑顔で、シアは道を後にしていった。

 雨生はどら焼きをぱくつきながら、高下駄を鳴らして甘味を物色中。
 羊羹や大福などを目にしつつ、さて何を食べようと散歩しながら見て回っていた。
 大食らいであるだけ、どら焼き一つではまだまだ満腹にはならない。
「動いた分お腹も空いたからね──」
 と、そこで幽子と行き会った。
 辞儀する彼女に、雨生は甘味屋を指す。
「何か食べていく?」
「ご同席してよければ……」
「じゃあ、善哉でも」
 外にいたら冷えてきたし丁度いいだろうと思ってのこと。
 二人で注文して啜ると、豊かな甘味と小豆の味わいが冷えた体に癒しを運んだ。
 その味に感心しつつも、クリーム蜜豆も気になっていた雨生。折角だからと言うことで、それもまた二人で注文して食べる。
 こちらは黒蜜の惜しみない甘味に、フルーツとクリームの相性が抜群だ。
「ん、これも美味だね」
 というわけで、堪能した雨生は──幽子と別れてからも、気になっていた大福などを購入。甘味道の名に違わず、端から端まで楽しんでいったのだった。

 ノチユは軽く道を眺めてきた所で、幽子を見つけた。
 ぺこりと会釈する彼女にお疲れ様、と声を掛けて周りに目をやる。
「もう見て回った? 何か食べたいなら奢るけど」
「宜しいのですか……?」
「僕は食べるのこれからだから。ついでだよ」
 ノチユは何度目か、言いつつ歩を再開する。
 すると幽子が横に並ぶので、二人は隣り合って歩む形になった。
「冬でも色んなの売ってるんだね。……何食べる?」
 言いつつ一先ずどら焼きを買ってあげると、幽子はもふっと食べつつ隣の店に視線を注ぐ。
「干菓子、美味しそうです……」
「見た目の綺麗なやつ?」
 それは落雁の一つ。味も良いようで、ノチユのあげたそれを幽子は一口で食べていた。
 その後も店を巡る。一本道だが賑やかで、幽子の方向音痴を経験則で知ったノチユは、一応はぐれないように注意しつつ──次は甘味処へ。
 とりあえず抹茶ロールケーキや餡蜜を頼み、後は適宜注文するかと決める。
 ロールケーキは大きかったけれど、幽子はもふりもふりと口に運んでいた。
「ほんと、甘いのすきなんだね」
「甘いものは素敵なので……」
 言いつつ食べる幽子は静やかだが、その顔はどこか幸せそうだ。
 それを見てノチユは少し口元を緩める。
「……?」
「なんでもないよ」
 幽子の目線が来れば、自身は視線を流したりしつつ。
「ああそうだ。幽子さん、猫とかすき? 猫の形のカステラがあるんだってさ」
「猫さん……好きです……」
 少しだけ目を輝かす幽子に、なら後で行こうと決めて。食事が終われば席を立ち、再び歩み始めていくのだった。

 平和の戻った道で、ヴィは改めて雪斗とハイタッチしていた。
「おつかれさま!」
「うん。ヴィくん、お疲れ様!」
 ぱしっと小気味良い音を響かすと、交わすのはおおらかな笑みとほんわかした笑顔。
 互いを労えば早速、ヴィは道に歩み出す。
「じゃあ出かけよう。甘味処からでいいよね?」
「そうやねぇ。ぜんざい、食べたいから」
 今から楽しみに瞳を細める雪斗。
 そんな二人は並んで少し歩き、店にお邪魔していった。
 店は木と漆の綺麗な内装。そこで向き合うように座り、頼んだのはやはりぜんざいだ。
 心身を包んでくれるような優しい甘みに、雪斗はほうと吐息した。
「冬やから、やっぱりあったかいぜんざいは必須やよね」
「うん、寒い時のぜんざいは美味しいよねぇ」
 ヴィも少し啜って、その香り高い風味と温かさに表情を緩めてしまう。
 堪能しつつ、二人は同時に練り切りも頼んでいた。美しい梅の形をしたもので、目でも楽しむことが出来る。
「前もこうして二人で和菓子食べたよねぇ。懐かしい!」
「そうだねぇ、梅見の時もこういう練り切り食べたっけ」
 雪斗の言葉にヴィも頷いて、過ぎる日を思い出していた。
 窓から見える優美な街並みを、雪斗は見つめる。
「あの時は一緒に梅を眺めたけど、こうして古き良き街並を眺めながら食べるお菓子も最高やね!」
 何よりヴィと一緒だとより美味しく感じるから、と。
 それはヴィも同じ。雪斗と一緒だと、元々好きな甘いものが更に美味しく感じるから不思議なほどだ。
「あ、そうや! お土産も買って行こう?」
「勿論!」
 二人はその足で別のお店へ。苺大福は外せないし、みたらしは雪斗が好きなものだからとヴィが手にとって。
「帰ったら一緒に食べよう」
「ふふ、お仕事頑張ったご褒美やね!」
 二人は再度笑みを交わして歩んでいった。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年1月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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