●竜の企みを止める為に心と力を一つに
「みんな、リザレクト・ジェネシス追撃戦、お疲れ様。みんなのお陰で、戦場で撃破出来なかった、多くのデウスエクスを撃破する事に成功した。ありがとう」
激戦連戦を勝利し続けているケルベロス達に、大淀・雄大(太陽の花のヘリオライダー・en0056)は、少年の笑顔で心から礼を言う。
だが表情をすぐにヘリオライダーのものに戻すと雄大はケルベロス達……いや、地球が直面した新たな危機について話し始める。
「リザレクト・ジェネシス追撃戦では、特に城ヶ島のドラゴンとの戦いが熾烈を極め、『堕落の魔王』『ジエストル』『魔竜ヘルムート・レイロード』の3竜の撃破に成功した訳だけど、ドラゴン達の命を賭した迎撃により、固定型魔空回廊が完成、竜十字島から多数のドラゴンが城ヶ島に出現している」
誰かの息を呑む音が聞こえる。
「人口密集地である東京圏に、ドラゴンの拠点がある危険性は言うに及ばない。その為、城ヶ島の奪還作戦について検討を始めていたんだけど、複数のヘリオライダーから……って言うか俺も視ちゃったんだけど、恐ろしい予知がされた」
自分が……自分達が視た予知を雄大は静かに口にする。
「ドラゴン勢力が、命を捨てでも城ヶ島に執着していた理由。それは、日本列島に走る龍脈、フォッサ・マグナだったんだ。この地図を見てほしい」
雄大の言葉と共にモニターに映し出される、日本列島の地図。
「日本列島は、北アメリカプレート、ユーラシアプレート、フィリピン海プレートの3つの境目となっている。そして、城ヶ島からプレートの裂け目に沿って北に進むと、そこにあるのが……『封印城バビロン』なんだ」
石川県沖に現れた増殖型機動城塞『封印城バビロン』その外観もモニターに映される。
「ドラゴン勢力は、封印城バビロンと城ヶ島を結ぶフォッサ・マグナを暴走させ、関東圏を壊滅させると共に、大量のグラビティ・チェインを獲得、そのグラビティ・チェインで『惑星スパイラスに閉じ込められた』ドラゴン勢力の救出を行おうとしているみたいなんだ」
関東圏の壊滅、そしてドラゴン勢力の救出、どちらも見過ごすことの出来ない大きな危機である。
「この企みを阻止するには、作戦の起点である『城ヶ島』か『封印城バビロン』のどちらかを破壊する必要がある。城ヶ島には、固定型魔空回廊があり、竜十字島の全戦力を投入する事が可能だから、竜十字島決戦を覚悟する必要になる。つまりだ『封印城バビロンの破壊』が唯一の手段となる。これより、みんなには、作戦の第一段階として、封印城バビロンの探索を行ってもらう」
増殖型機動城塞の破壊の為の作戦……厳しいものになるだろうことは想像に難くないが、それしか方法が無いのならやるしかない。
ケルベロス達の視線を受け、雄大が続ける。
「ドラゴン達の作戦を止めるには、要塞竜母タラスクの心臓部を撃破するしか無い。だけど、通常の方法では、心臓部に到達する事は不可能。その要因は、3つ。『無尽蔵の竜牙竜星雨』『ドラゴン戦車を供給する戦車工廠』『サルベージした戦力を操る死神』が存在するからだ」
ドラゴン達の作戦の肝である『要塞竜母タラスク』
ドラゴン達としても万が一に備えていることが分かる。
「この3つの障害を排除しなければ、要塞竜母タラスクの心臓部を撃破することは叶わない。だが、どの障害も簡単には、排除できないものばかりだ。多くの戦力を割く必要がある」
強く言って雄大は、目の前に居るケルベロス達に担ってもらう作戦内容を口にする。
「皆には、無尽蔵の『竜牙竜星雨』を停止させる為、竜牙竜星雨を発生させている、寄生型ドラゴン『ハートドラゴン』の撃破を担当してもらう」
言って雄大は、モニターに3名のヘリオライダーの写真とヘリオンを映しだす。
その3名とは、宮元・絹(レプリカントのヘリオライダー・en0084)、山栄・桔梗(シャドウエルフのヘリオライダー・en0233)、そして……雄大自身だ。
「ハートドラゴンは、『竜牙竜星雨』の竜牙兵によって護られている。その為、ダンジョン突入後、竜牙兵の群れを薙ぎ払いつつハートドラゴンの元に向かい、撃破すると言う作戦を決行する。でだ、俺達は、敵の総数から、複数チームによる攻略が必要と判断した。具体的には、絹、桔梗、俺のヘリオンに乗るケルベロスによる、3チームの合同ヘリオンチームで作戦を行う」
3チーム3機のヘリオンに乗る、24人がかりでの作戦と言うことになる。
「俺達の方で協議して3チーム、それぞれ別の役割を担当してもらうことにした。具体的には、俺のヘリオンチームが先行して『ハートドラゴン』までの道を塞ぐ竜牙兵を全て引き受け、他の2チームを無傷でハートドラゴンまで進める為の道を切り拓く。その後、絹のチームがハートドラゴン周囲の竜牙兵の抑えを担当。桔梗のチームがハートドラゴンを撃破するって感じだ。3チーム共にそれぞれ役割は違うけど、何処が崩れてもハートドラゴンの撃破は成功しないからな」
モニターに作戦概要を映し、雄大は言う。
「俺のヘリオンに乗るメンバーは更に、ハートドラゴンが倒れるまで、増援の竜牙兵を撃破してもらうことになるから、おそらくトータル100匹以上の竜牙兵を相手にしてもらう事になる……。きついと思うけど、他のチームを信じて、頼む」
道を切り拓く為に一気に竜牙兵を撃破した後も、いつ倒れるか分からないハートドラゴンが沈黙するまで、竜牙兵と戦い続ける……。
時間としては3チームの中で一番戦闘を長く続けなければならない。
100匹以上と雄大は言ったが、それが150かもしれなければ、200かもしれない。
おそらく数を数えている余裕も無いだろう。
「今回の作戦には、封印城バビロンを破壊する為に多くのケルベロスの力が必要になる。みんな思いを一つにして、作戦に挑むんだ。東京圏の浮沈なんて絶対させる訳にはいかない。だから、俺達も3チームが一丸となって『ハートドラゴン』を撃破し、『竜牙竜星雨』を止めてみせよう! すぐにヘリオンを出す。気合いを入れて行こう。みんな、頼んだぜ!」
強く声をあげると雄大は、モニターをオフにした。
参加者 | |
---|---|
結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032) |
エステル・ティエスト(紅い太陽のガーネット・e01557) |
燈家・陽葉(光響射て・e02459) |
武田・克己(雷凰・e02613) |
琴宮・淡雪(淫蕩サキュバス・e02774) |
シルディ・ガード(平和への祈り・e05020) |
遠之城・鞠緒(死線上のアリア・e06166) |
蒼桐・景継(月下の放浪者・e36559) |
●封印城突入
暗雲立ち込める石川県沖。
ドラゴン勢力の拠点の一つ……増殖型機動城塞『封印城バビロン』は、ケルベロス達にすら寒気を感じさせるが如くそびえていた。
『バラバラバララララ……』
降下して来たヘリオン3機が、他の戦場に巻き込まれないよう少しずつ距離を取りつつ、空を飛行している。
そのうちの1機、向日葵色のヘリオンを操縦するヘリオライダーを窓に見ながら、琴宮・淡雪(淫蕩サキュバス・e02774)は、想い人を思い浮かべる。
あの少年の依頼を受ける時、いつも、自身と一緒に依頼をこなしてくれた人。
(「……はあ、あの方も何処かで、頑張っている筈ですわよねぇ」)
とんと御無沙汰だった……金色の髪の素直じゃない人。
クリスマスイブに偶然会って、すぐに赤くなったあの人。
それから、また……会えていない人。
(「あの方の本心をちゃんと聞けるまでは、ドラゴンなんかに負けていられませんわ」)
眼前の城に控えるドラゴン達に怯まない気持ちを淡雪は強く抱く。
「このダンジョンへの攻撃も今日で最後! ……に、できるようがんばろー!」
小さな体で星形の鉄球と自身とお揃いのリボンを付けたハンマー『まう』を掲げて、シルディ・ガード(平和への祈り・e05020)が、集った自分を含む24人のケルベロス達を鼓舞するように強く言う。
声を同じくあげる者、静かに頷く者……様々だが、ここに集ったケルベロス達の想いは一つだ。
この『封印城バビロン』を破壊する為にまず必要なことの一つ、竜牙竜星雨を降らせる『ハートドラゴン』の撃破……その為に3つのチームは一つにならなければならないのだから。
「それでは皆さん参りましょうか」
虹色に輝く夢想石から出来た舞踏靴の爪先をコンコンと地面に優しく打ちながら、遠之城・鞠緒(死線上のアリア・e06166)が転がるような優しい声に、ケルベロスとしての決意を込めて言えば、結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032)と武田・克己(雷凰・e02613)が前に一歩出、竜の居城の門扉に手をかける。
「この扉を開けたらハートドラゴンの元まで駆け抜けるのみです。……竜牙兵は全て俺達が蹴散らします」
レオナルドの獅子の瞳には覚悟の炎が灯っている。
「さて、竜牙兵共をぶちのめして、心臓を破壊するまで時間を稼ぎますか……傍から見たら負け戦だが、戦は負け戦こそ面白い……」
(「俺らを見くびるんじゃねぇぞ」)
最後の強い思いだけは心に秘め、克己がレオナルドと同時に扉を勢い良く開けた。
「一階から既に竜牙兵でいっぱいだね。無尽蔵に生み出すっていうのは伊達じゃないんだね」
和弓『金烏の弓』を左手に握り、燈家・陽葉(光響射て・e02459)が心を落ち着かせながら言う。
「皆さん、私達の役目は、16人を無傷でハートドラゴンの元に送り届けることです。駆け抜けましょう。前を塞ぐ敵を全て倒して……私達は、お前等などには負けはしない!」
初めの言葉は仲間達に丁寧に、後の言葉は仇名す敵に宣戦布告と怒りを込めて、エステル・ティエスト(紅い太陽のガーネット・e01557)が魔力を籠めた咆哮をあげる。
「……月下抜刀流、蒼桐景継! 推して参る!」
ライドキャリバー『隼刀』を駆った、蒼桐・景継(月下の放浪者・e36559)が剣閃を奔らせ、ケルベロス達の竜牙兵突破作戦が開始された。
●竜牙兵突破
「響け、大地の音色」
弓に矢を番えることなく陽葉が、弦を鳴らせば『鳴弦』となって、前方の竜牙兵の足元を崩し床石が隆起すれば、竜牙兵を刺し貫く。
「ドラゴン共の手駒如きが私の前を遮るなっ!」
ガーネットの瞳に苛烈なまでの嫌悪の彩を乗せてエステルは、新時代を築く力強き楽曲を奏で、押し迫る竜牙兵を押し戻し骨屑へと変える。
扉を開いた瞬間から始まった、進撃戦。
8人と3体のサーヴァントは、後ろに続くケルベロス達に一つの攻撃も流れないように注意を払い、守りを固めつつ、可能な限り攻撃グラビティで竜牙兵を屠っていった。
「むむ~、さすがに今日のこれが本攻撃だと気づかれたかな?」
竜牙兵の大鎌をハンマーで受け止め、そのまま大鎌ごと星の力を噴射し力を得て加速したハンマーで竜牙兵を粉々にしながら、シルディは思案する。
(「ダンジョン攻略中の皆に紛れて進めそうかなと思ってたけど、竜牙兵だけは全部こっちに流れてきたって感じだね。油断せずに……でも」)
「このまま、大胆に行っちゃおう!」
「了解です!」
シルディの言葉に答え、白き鬣を疾風の如く揺らしながら、レオナルドが先行して地獄の炎弾を放つ。
「俺達の役目は露払い。『封印城バビロン』のマップは、頭に入っています。そして、あなた達に使う時間もないんですよ!」
ガドリングガンを構え、レオナルドが叫ぶ。
次々と飛ぶケルベロス達の攻撃。
そして、決して歩みを止めない意志。
「どちらの流星がより華麗で、強くて、素敵か……踊り比べといきましょう!」
ドラゴンの力を秘めた星座のオーラを軽くステップでかわし、鞠緒は、星型のオーラをその細い足に纏い、竜牙兵の首を蹴り刎ねる。
ヴェクさんこと、ウイングキャットの『ヴェクサシオン』もその澄んだ蒼い羽根を羽ばたかせながら、攻撃を続けるケルベロス達に付与された悪しき力を祓っている。
「ハートドラゴンまでの道、作らせてもらうぜ!」
数の上では、圧倒的に不利。
そんな状況下にありながらも『直刀・覇龍』を横薙ぎにし、克己の心は高揚していた。
分の悪い賭けが好きで、分が悪い方に好んで賭ける……そんな性分。
24人で駆けていても攻撃を繰り出すのも、攻撃を受けるのも8人だけ。
それに対して、敵は……竜牙兵は、10以上の攻撃を至る所から次々に飛ばし、倒しても尽きることなくケルベロス達の進軍を妨げるのだ。
だからこそ、克己は滾る。
「風雅流千年。神名雷鳳。この名を継いだ者に、敗北は許されてないんだよ!」
吼える克己の口元には、笑みの形が作られていた。
「アップル、後ろを走る皆さんに敵の斜線を通しては駄目ですわよ」
オウガメタルの力を借り、魔眼で魅了し、御業の力を行使する。
淡雪とて微笑みを消さざるを得ないが、それでもテレビウムの『アップル』への指示も忘れることは出来ない。
(「快楽エネルギーをいっぱい使っている気がしますわ。これが終わったら、たっぷり快楽エネルギーを……様から頂きますわ。その為にも」)
「あなた達、邪魔ですわ!」
強い思いを込め、淡雪は更なる御業で竜牙兵を締め上げる。
「最後の階段だよ! みんな、一気に駆け上がろう!」
流星の軌跡を描く蹴りで竜牙兵を地に伏せ、陽葉が後方に向かって言う。
「俺達が道を斬り開く……進め!」
流水の如き動きで竜牙兵を薙ぎ払い、返す刀で景継が次の技を構える。
「月下抜刀流一ノ太刀……花鳥一閃!」
縮地と同時に逆手持ちによる抜き打ちをする月下抜刀流の最初の型……かつての思い人の名が冠された、暗殺術にも見られるその『居合』は、似て非なる真っ正面からの斬り込みとなって、竜牙兵を纏めて屑折らせる。
剣閃が、銃弾が、重い一撃が前を塞ぐ竜牙兵を倒していく。
だが、8人のケルベロス達にも竜牙兵の、剣が、大鎌が、音速を超える拳が、次々と傷を与える。
それでも、走ることも、攻撃の手を緩めることも出来はしない。
言うなれば、8人は目的の為に竜牙兵を引きつける餌であり、罠だからだ。
一本の道を作る為に、16人の道を作る為に、それぞれのグラビティが、竜牙兵という守りの壁をこじ開ける。
「破ァ!」
挫けぬ強い闘志を持ってエステルがオーラの弾丸を放った時、遂に道が拓けた。
「見えました! ハートドラゴンへと続く扉です! 後方迎撃に移ります」
手にした如意棒を攻撃の型から守りの型に構え直し、扉に背を向けるレオナルド。
「レオナルドさん、クラッシャーからディフェンダーに入れ替わります! フォロー入ります!」
エステルが声をあげれば、景継が竜牙兵との距離を詰め、陽葉と克己は一呼吸置いて武器を構え直す。
そして8人のケルベロスと重なる、16人のケルベロス。
「ここまでありがとうございました! 必ず、あの臓を倒し、竜牙流星雨を止めて見せます!」
傷ついた8人に緑の瞳を向け、ミリムが固く誓うと、仲間達と共にハートドラゴンに向かい走り出す。
すれ違う瞬間、リリエッタが淡雪と瞳を交わせば、それは、それぞれの役目を果たすと言う約束になった。
「此処まで露払いしてくれた皆さん、ドラゴンと対峙する皆さん。そして、私達も。必ず、皆で戻りましょう」
「こっちは大丈夫。お任せだよ! そっちお願いね!」
金色の髪を揺らし、レミリアが言えば、シルディが笑顔でハンマーを掲げる。
ハートドラゴン撃破作戦は、これからが本当の始まりだ。
●竜牙兵迎撃
「さて、硬さが頼りの俺を抜けるかな? 抜ける事が出来たらてめぇらの大事なもんは守れるぜ。まぁ、通さねぇがな!!」
言うと克己は、雷の霊力を『覇竜』に纏わせ、眼前の竜牙兵の喉元を串刺しにする。
「さっきまでは、無限に出てきた君達の相手をしてたけど、今度はボク達に付き合ってもらうんだよ!」
自分自身に強烈な暗示を掛け、自らの肉体を硬化する、シルディ。
(「みんながハートドラゴンを倒すまで、耐えなきゃなんだよね。みんななら絶対倒せるって信じてるから、耐えてみせるよ」)
強い思いで暗示の効力を上げたかのように、シルディは竜牙兵のシールドバッシュを受けても一歩も引くことはない。
「耐え忍ぶ獅子という逸話がありましたね。俺も、獅子として耐え忍んで見せましょう。ガオオオオオオッ!!」
獣の咆吼に畏れの気を籠め、レオナルドは竜牙兵の前にしか進めぬ思考に、恐怖を植え付ける。
「最近ね。デウスエクスを取逃がしたりとかで、ちょっとフラストレーション溜まり気味なんですよね。……だから、お前らで鬱憤晴らさせてもらう! くたばれ!」
仲間には絶対使わない言葉を吐きながら、襲いかかるように螺旋エネルギーを竜牙兵に撃ち込むエステル。
あくまで迎撃持久戦が目的とはいえ、耐えるべき目標時間が定かではない戦闘に於いて耐え続けるには、敵の頭数を減らすこと、押し返そうとする気概も必要になる。
いくら倒しても、実質竜牙兵が減ることは無いとはいえ、自分達が後退すれば他2チームが確実に不利になることは皆分かっていた。
だから、鞠緒は、竜牙兵の思考を混乱させることを選ぶ。
「輝く四季に、希望の歌を。風化雪月、奏でましょう!」
華やかで笑みが零れ、思わず口ずさみたくなる、心が豊かになるキュートでポップな歌声は、竜牙兵の星剣から生まれる、癒しの星座の力をケルベロス達に向けて放たせる。
「応援ありがとう♪ お礼に、 歌で天国へ送ってあげましょう♪」
竜牙兵にウインクをしながら、鞠緒は次に竜牙兵に送る曲をセレクトし始める。
「何体の首が取れるか……」
『隼刀』から降りた景継は、居合の構えを取りながら、竜牙兵を値踏みする。
既に、倒した竜牙兵の数は定かではない。
おそらく、80は超えているだろう。
だが、持久戦となっては先程までと同じ撃破スピードとは、ならないだろう。
だが、その分1体1体を確実に、こちらのダメージが少ない状態で倒せると言い換えてもいい……数に押し切られなければの話だが。
「答えの無いことを考えても無駄か……」
瞬時に刀を抜き放つと景継は、竜牙兵の体を逆袈裟に斬る。
「回復多めで行きますわよ」
「『雪と星の導き』みんなの集中力を研ぎ澄ませてほしいんだよ!」
淡雪の桃色の霧がシルディを包み、陽葉の神秘的なオウガ粒子がシルディを含む前線を守り抜く者たちに降り注ぐ。
「癒しの矢も用意してるよ。ハートドラゴンが倒れるまで、僕達がここを防衛して見せるよ」
落ち着きのある言葉に、決意を込めて陽葉は竜牙兵を睨み据える。
その時、自分達の背後から、ハートドラゴンと思しき不気味な声が遠く聞こえた。
「ったく、暴れるほうが楽でいいぜ。専守防衛ってのは、性に合わねぇ」
愚痴りつつ空をも断ずる斬撃を放ちながら、克己はそれでも振り向かず、ただ眼前の敵に集中するのだった。
●作戦終結
「抜けるもんなら抜いてみろ!! そんな攻撃じゃ俺の心臓は止まらねぇ!!」
竜牙兵の斬撃を受けてもなお、笑みを湛え言う克己だったが、その体は十分に傷ついていた。
「皆さんを送り出してから、8分が経過しました!」
オーラを癒しの力に変換し克己に放ちながら、レオナルドが自身の時計を確認し報告する。
そう、ハートドラゴンとの戦闘が始まってから既に8分経っていた。
戦闘音は未だに続いている。
そして、こちらの迎撃出来た竜牙兵は20体ほど。
多いとは言えないが、敵の増える中、後退は一切していない。
陣形を堅実に保てていると言っていいだろう。
だが、全く不安が無いわけではない。
エンチャントを重ね続けられるとはいえ、戦闘が長引けば長引くほど不利な状況に陥る可能性がある。
ハートドラゴンの生む竜牙兵を仲間達が抑えきれなかった時、何かの拍子に回復が追い付かなくなった時、戦闘は数が全てになることもある。
「月がお前を呼んでいる……落ちていけ!!」
竜牙兵の腕を掴み担ぐと、足を払い、宙へと飛び上がるりエステルは、やや歪んだ円の軌道で空中を舞い、竜牙兵を地面に叩きつける。
「はぁ、はぁ……糞が。数だけはいるな……全部殺す」
後ろに位置しながら攻撃に参加しているエステルですら、敵の手数の多さに負傷をしているのだ。
陽葉も淡雪もシルディもヒールグラビティを使い続けている。
それでも突破戦と状況が違う理由……ゴールが見えないのだ。
正確には分からないと言った方がいい。
耐え忍ぶと言う戦いのシビアな部分はこの点だった。
だが、奇蹟を請願する外典の禁歌を歌う鞠緒を庇いながらも景継は……いや、8人の内、誰一人として、負け戦などと思っていなかった。
もし仮に負け戦ならば、それはそれで、自分自身を犠牲にするべきと考えていた者も半数以上居たのだが……その変化は突然訪れた。
周囲の竜牙兵全てが一度に硬直したのだ。
そして骨の戦士達は、結晶化すると『パリン』とそれぞれ音を発て砕け、数多のコギトエルコズムとなって、その場に残った。
「ふう、終わりましたわね……流石にクタクタですわ」
「みんな、勝てたんだよね?」
淡雪が腕を下し、陽葉が誰ともなく尋ねる。
「そうだよ! ハートドラゴンを倒せたんだよ! みんなを迎えに行こう!」
シルディの言葉で8人は勝ち鬨を上げる仲間達の元へ駆けだした。
『封印城バビロン決戦』
上記作戦。
全ての作戦に於いて、作戦成功し、犠牲者、暴走者共に一人も出ず、ケルベロスが完全勝利を収めたのだった。
作者:陸野蛍 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2019年1月30日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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