封印城バビロン決戦～空中要塞迎撃戦！

■リプレイ

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　空には雲一つなく、時折おだやかな風が吹いている。
「空の上の戦場なんて、ちょっと新鮮。……落ちたらとても痛そうだけれど」
　飛行機の上から七星・さくら（日溜まりのキルシェ・e04235）は下見下ろし、少しだけ眉を寄せた。
　今まで様々な場所でケルベロス達は戦ってきたが、今回は飛行機や気球を繋いで足場にした上空が戦場である。
　うっかりすれば落ちてしまう。もちろん、かなりの上空での戦いの為、落ちれば戦線復帰はできないし、痛い。
「うん、大丈夫、わたし達なら大丈夫だよっ！　ドラゴン、怖くないっ！　だから、いこっかっ！！」
　ちょぴり不安な気持ちをシル・ウィンディア（蒼風の精霊術士・e00695）が笑顔で払しょくする。大切な友達であるさくらがいるし、旅団でお世話になっている渡羽・数汰（勇者候補生・e15313）もいる。
　大丈夫、ここには心強い仲間達がいる。
「ここで倒せばだいぶ楽になる、のかな？」
　パトリック・グッドフェロー（胡蝶の夢・e01239）にベリザリオ・ヴァルターハイム（愛執の炎・e15705）は頷いた。
　ここで倒さねば、大量の援軍が決戦に向かったケルベロス達を苦しめる事になるのだ。
　それぞれが決意を胸に空を見れば――見えた。
　バビロンを救援する為に差し向けたられた、竜影海流群。
　それは小さな黒い点のように見えた。それがだんだんとこちらへ近づくにつれ数が増え、形も大きくなり、はっきりとその姿が見えてくる。
「一兎追うものはなんとやら、だな。確実に1体は倒しておかねばなるまいよ」
「墜ちる前に、出来うる限り墜としてやりましょ」
　ルイーゼ・トマス（迷い鬼・e58503）と言葉を交わすアリシスフェイル・ヴェルフェイユ（彩壇メテオール・e03755）は、風に流れる髪をはらりと払う。
　この足場は戦う度に傷つき、やがては砕けて堕ちてしまう。
「最悪、1体。出来れば2体以上仕留めたいが――まずは最初の奴を確実にだな」
　龍造寺・隆也（邪神の器・e34017）はこちらに迫るそれを鋭く見据え。
「味方には希望を、敵には絶望を与えよう」
　さあ、バビロンへ絶望を。
　こうしてケルベロス達の有限なる作戦が開始される。

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　グルオオオオォォォォォ！！！
　竜影海流群の中からすいと迫った一体が息を吸い――炎を吐き出した。
「ティターニア！」
　パトリックに呼応するかのようにボクスドラゴン・ティターニアが滑り込み、仲間に迫る灼熱をルイーゼとベリザリオが遮った。
「ありがとう！」
　シルの礼に3人は頷き応え、同じく守りを受けた隆也は鉄の床を強く蹴る。
　が、づんっ！
「流星の煌めき、受けてみてっ！！」
　黄金のオーラを纏った重い拳にシルの空靴の煌めきが後を追い、さくらとパトリックの守りが前衛に振りそそぐ。
　防いだ熱の痛みがすうと引き、ボクスドラゴンの攻撃に続くようにアリシスフェイルが唱えるのは世界と黄泉を謳う虚無とを繋ぐ扉の召喚。
「『鉄から鉛に至り、シの戯れに敗北せよ。囲み喚くは爛れた骸、奈落に招く這い出る諸手、呪いの歌が汝を捉える――黄泉路の輪唱』」
　扉より這い出る手に引きずられる様子に手ごたえを感じるが、あの反応では多分、守りに特化はしてないのだろう。
　できるだけ早く敵のポジションを探らねば。
「いくぜ！」
　数汰の攻撃が胴をに紅線を引き、守りを展開させるベリザリオはつと、紫の瞳を足元へ落とす。
　先程の炎で足元――飛行機が少し煤けている。
　戦いはまだ始まったばかりだ。これからこの足場は徐々に不安なものとなるだろう。
「なかなかあつい炎だったぞ」
　癒えてもまだちりちりとした感覚が残っている。足止めにルイーゼが動くと、ドラゴンは大きく尾を動かし――、
「来るよ！」
　アリシスフェイルの声に仲間達は身構えたが、速すぎる！
　ぶおんっ！
「っ！」
「シルちゃん！」
　避けきれず直撃を受けた体は踏みとどまれず、吹っ飛んだ。高空へと滑り落ちそうになる手を親友が掴む。
「ありがとう、さくらさん」
　勢いよく引き寄せられ、その反動でシルは跳ぶ。隆也の旋刃脚を払うドラゴンへとオーラの弾丸を放つと、さくらの守りを受けた数汰の一撃がざくりと裂いた。
　ばっとドラゴンの血が周囲に散る。
　パトリックとティターニアの攻撃に被さる様に鋭く軽やかな羽搏きが捉え、
　がんっ！
　ギャアアァァアアア！！
　アリシスフェイルの攻撃でよろめくが、踏みとどまった。そこに口から零れる紫炎と共に竜の蹴爪が叩き込まれると白髪が揺れ、ルイーゼが躍り出る。
「アリシスフェイルせんぱい」
「クラッシャーだと思うわ、あの様子だと」
　すと左手を伸ばし指さす様子にうむと頷いたルイーゼはドラゴンの懐に飛び込み、星型のオーラを敵に蹴り込むとドラゴンの鋭い爪が動くのが見えた。
「なかまをきずつけはさせんよ」
　爪が仲間を襲うより早く動き、庇う。腕を伝う血がぽたぽたと落ち、爪は飛行機もえぐりひっかいた。
　深くえぐったそこを数汰はちらと見る。
　まだこの足場はもつだろう。だが、あとどれほどもつか。
「数汰くん！」
　さくらの声に瞳を戻せば、仲間達が戦う中に隙が見える。
「この空も、海も、お前達デウスエクスに渡しはしない！」
　足場を繋ぐ鎖に足をかけ、数汰は跳んだ。

●
「『私が爪弾く苦痛に悶えろ』」
　ど、がんっ！！
　紫炎が零れ、ベリザリオが放つのは内に燃え盛る怨嗟の炎。真正面から受けたドラゴンの体は飛行機にぶちあたり、機体がめこりと大きく歪む。
　髪に留めたデバイスにそっと左手で触れ、ドラゴンの攻撃を掻い潜るルイーゼは足場を蹴った。
「ここもげんかいだぞ」
　この場での戦闘継続は可能であるが、ダメージを受けすぎており不安定すぎる。
　ギャオオオオオオォォォォォ……！
　ばあんっ！
　拳を叩き込みながら聞こえるつんざく音にちらりと見れば、離れた場所で戦う仲間達の足場の一つが大破しているではないか。
　同じ空の下、別の場所で戦っているあの子は大丈夫だろうか。
　ふとシルは不安に駆られるが、きっと大丈夫。
「わたし達の相手は、まだ後ろにいるから、こんなところで倒れてられないよっ！」
　攻撃で受けた傷をぐいと拭い、戦いは続いた。

「しかし、この作戦を考えた奴は真面じゃないな。――素晴らしい発想だ」
　攻撃で足元が崩れ、眼下に見える地を目にぽつりと隆也は口にする。
「返して貰うぞ」
　重い一撃をドラゴンに返し、仲間達の攻撃が続くと、さくらの癒しが流れる血を止めた。
「これはおっかないなぁ」
「まだまだいけるもの」
　飛べる事もあって、高所への恐怖はあまり無いパトリックは呟くとドラゴンへと斬りかかり、足場を移動するアリシスフェイルも世界と黄泉を謳う虚無とを繋ぐ扉をよぶ。
　オオ……グオオオオオオ！！
「おおりゃあ！」
　数汰の一撃は不意を突いた様だ。ふらりとよろめく隙にベリザリオの力任せの一撃が叩き込まれ、
　ずぶんっ！
「させぬぞ！」
　攻撃が空を切ってもルイーゼは諦めなかった。振り上がる攻撃を受け止め、隆也とシルの攻撃が直撃すると、さくらの癒しの中をカカリアの花を揺らしたパトリックが駆け、アリシスフェイルのレーザーが羽を射貫く。
　力強く踏み込むと、ぎしりと響く。
　鈍い音と共に数汰は攻撃し、ベリザリオもまた。
　ケルベロス達は確実にドラゴンへダメージを与え続けている。
「動いたぞ」
　黄金を纏い威風堂々と戦う隆也はその動きに気が付いた。
　戦い続けるドラゴンの動きが鈍くなってきている。それは、ケルベロス達が与え続けたダメージも大きいし、動きを鈍らせるためにとった戦い方も大きかった。
　ダメージにふらつくドラゴンは大きくばさりと羽ばたかせ――まさか。
「逃げるつもり？」
「させないよっ！」
　感付いたさくらにの声にシルは大切なあの子を呼び出した。
　勝負に出るなら今しかない。
「『わたし達の絆の力、今こそ見せてあげるっ！　……さぁ、勝負だっ！』」
　それは精霊の少女と龍の少女のコンビネーションアタック。
　オオオオオオォォォォォ……！！
　逃げようとしていたドラゴンにその一撃はひとたまりもなかった。
「『……どこにもいっちゃ、だめよ。ずーっと、ここにいて？　ね？』」
　どずんと重い音を立て、落ちるドラゴンはここで倒す。さくらの指から鮮やかな紅い糸が伸び、
「オレ達も行くぜ、ティターニア」
「逃さないわ」
　パトリックとアリシスフェイルの攻撃がドラゴンの体力を一気に削った。
　ギャアアアアアアアアアアァァァァァ……！
　予知がくれたこの勝機を逃がさない。
　構えを解かず数汰が見れば、ドラゴンは攻撃を受けた反動で吹っ飛びそのまま落ちていく。
　まずは1体。だが、ゆっくりと傷を癒す余裕などはない。
「奴等を一体たりともバビロンには向かわせん」
　拳を握り隆也が上空を見れば、戦闘に加わらず様子を見ていたドラゴンが数え切れぬほどいるのだから。
「次が来るわ」
　こちらへ目を付けた新たなドラゴンが炎を共に襲い掛かって来る。
　激しく続く2体目との攻防が続く中、さくらは仲間達の傷を癒し続けた。
　――と。
「新手よ！」
　それに気付いた桜の声にアリシスフェイルは瞳を上げた。
　まだ2体目を倒し終えていないというのに、3体目がこちらへ接近してくるではないか。
　急接近したドラゴンの攻撃とっさに前に出たベリザリオの肩口がばっと裂け、
「が、っ……っ！！」
「大丈夫？！」
　ごぼりと口から血が流し、立ちはだかり直撃を受けたルイーゼはついに膝を折る。得物を手にシルは見るが、回復も間に合わないだろう。赤い瞳の光は強いものの、紅に濡れるケルベロスを見逃す訳がない。
　グルオオァァァァ！！
「大丈夫、あとでちゃんと回収するから！」
　こくりと頷く意思を目に、仲間達はその体を放り投げた。
　血に濡れる床にがりりと深い爪跡を残し、ドラゴンはばさりと羽ばたいた。
（「……大丈夫、絶対に帰るから」）
　落ちゆく仲間を見送り、さくらは左手薬指の指輪に触れる。大切な人達から貰ったふたつの首飾りにも触れ、
「頑張ろうな」
　ティターニアも攻撃で力尽きている。狙い定め攻撃するパトリックに頷き、さくらは瞳を前へと向けた。
　戦える時間はおよそ15分。残された時間は少ないだろう。
　周囲は攻撃でぼろぼろになり、いくつも足場を変えている。
「そろそろ決められそう？」
　死角に回り、ざぐりと胴を裂く。吹き出す血を避けアリシスフェイルは仲間達へと声をかけた。
　これ以上、時間はかけられない。
　ケルベロス達はふらつくドラゴンへと一気に攻撃を畳みかける。
「『刹那は久遠となり、零は那由他となる。悠久の因果は狂い汝の刻は奪われる……狂え、時の歯車』」
　限界まで圧縮したグラビティを目標に注ぎ込まれ、
「コイツで、終わりだぁ！」
「堕ちろ……！」
　大きくジャンプし、竜の頭上へ渾身の一撃を叩き込むと、獄化した声と共に叩き込まれるベリザリオのグラビティが決定打となり。
　オオ……オ、ォォォ……ォォ……。
　避けようのない攻撃を受け、遂に2体目のドラゴンも落ちていく。
　ぼろぼろとなった機体の足場を更に渡り。
「穿ち、貫く。――墜ちろ」
　金色のオーラは圧縮され、迫る3体目に隆也の魔弾は放たれ――。

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　ドドドドドドドドド……！
　つんざく爆音に周囲を見れば、足場となっていたものが次々と爆破し落ちている。
　ヘリオライダーだって言っていた。『戦場を構成する飛行船や気球はドラゴンの攻撃に耐える事は出来ない。戦闘の余波で破壊されていく』と。
　その時が来たのだ。
　避難しようにもギリギリまで粘り戦っており、もはや残された手段は――、
　ドゴオオオォォォォォオオオン！！！
　爆炎と爆発する飛行機をバックにケルベロス達の体は宙へと放り出される。
「増援阻止としては充分だよな？」
「だいぶ楽になった、のかな」
　数汰と言葉を交わすパトリックはふと視線を落とせば、地面はまだ遠い。背中の羽根を羽ばたかせ、エアブレーキにはなるだろうか。
　降下する勢いに緑がかった薄灰の髪の髪がなびき、アリシスフェイルは戦線を離脱したルイーゼの事を考える。
　探索班の成果を祈っていたが、どのような結果となろうとも、共に戦った8人は全力を尽くした。チームとしては十分すぎる成果だろう。
　そろそろ地面が眼下に迫ってきた。
　ベリザリオと隆也は少しでもダメージを軽減できるよう体制を取り、
「とても痛くても泣かないわ！」
　腹を括ったさくらの声を聞きながら、シルはそっと左手の薬指に触れる。
　大丈夫、痛いだけだから。すごく。
　薬指のプロミスリングに触れ、愛しい人のあの顔を思い浮かべて自分達が着地する地をきっと見据えた。

　こうしてケルベロス達の迎撃戦は幕を閉じる。
　この奮闘による結果を知るのは、しばらくしてからである。

作者：カンナミユ	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2019年1月30日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 8／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
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