封印城バビロン決戦~雲霞のごとく

作者:洗井落雲

●援軍阻止作戦
「集まってくれて感謝する。ブリーフィングを始める前に、まずはリザレクト・ジェネシス追撃戦の遂行、お疲れ様。皆のおかげで、多くのデウスエクスを撃破することができた」
 アーサー・カトール(ウェアライダーのヘリオライダー・en0240)はそう言って、ケルベロス達へと頭を下げてから、つづけた。
「さて、追撃戦における城ヶ島のドラゴンとの戦いの結果、3竜の撃破には成功したのだが、ドラゴン達は固定型魔空回廊を完成させてしまったんだ。向こうも文字通りに必死だったようだな」
 現在、城ヶ島へは、竜十字島より多数のドラゴンが出現しているようだ。人口密集地である東京圏にドラゴンの拠点がある……これはかなり危険な状態といってもいいだろう。
 その対策として、城ヶ島の奪還作戦についての検討を行っていたところ、複数のヘリオライダーにより、緊急事態ともいえる予知がもたらされた。
「ドラゴン勢力の目的は、日本列島を走る『フォッサ・マグナ』だった、ということなんだ」
 アーサーはそう言って、地図を広げた。
 日本列島は、北アメリカプレート、ユーラシアプレート、フィリピン海プレート、三つのプレートの境目となっている。そして、城ヶ島からプレートの裂け目に沿って、地図を北に進めば、『封印城バビロン』へと到達する。
「どうやらドラゴン勢力は、城ヶ島と封印城バビロンを結ぶフォッサ・マグナを暴走させ、関東圏を壊滅させるつもりらしい。その結果、ドラゴン勢力は大量のグラビティ・チェインを入手することになる。そして、その使い道は、『惑星スパイラスに閉じ込められたドラゴンの勢力の救出』であると予知されている」
 ドラゴン勢力が城ヶ島に固執していたのは、この企みのためであったようだ。
「これを阻止するためには、作戦の起点である『城ヶ島』か『封印城バビロン』のどちらかを破壊する必要があるだろう。だが、城ヶ島には固定型魔空回廊がある」
 そのため、城ヶ島の防衛のために、ドラゴン勢力は竜十字島の全戦力を投入することも可能である、ということだ。そうなれば、城ヶ島の攻略とは、竜十字島の攻略とほぼ同義であるということになる。
 よって、現時点でケルベロス達に残された手は一つ。『封印城バビロンの破壊』しかないのだ。
「だが、我々のバビロン攻略の動きを、ドラゴン達は察知したようだ。連中はバビロンへ、『竜影海流群』というエルダードラゴンの一種を向かわせている」
 『竜影海流群』は、竜十字島近海の防衛ラインを構成していたエルダードラゴンの一種であるという。その移動速度と一糸乱れぬ集団戦にて、ドラゴン勢力でも屈指の戦闘能力を持つとされている。
 もしこの援軍がバビロンへと到着してしまえば、バビロン攻略は困難となるだろう。加えて、竜影海流群は空中を移動しているため、通常の手段では迎撃もまた困難となる。
「そこで、これを阻止するため、世界中からありったけの飛行船や気球をかき集めた。これらをつなぎ、空中城塞として、迎撃態勢を整えたんだ」
 つまり、ケルベロス達が空中戦を行うための『足場』であり『戦場』を作った、というわけだ。ケルベロス達は、この戦場の上で竜影海流群を迎え撃つ形となる。
 戦場は、気球や飛行船を、ロープや鎖でつなげることで固定している。ケルベロスの身体能力があれば、ロープや鎖でつながれた気球や飛行船の上を、自由に動き回りながら戦うことも可能だ。
 なお、仮に戦場から落下した場合、高空から地面に叩き落される形になるため、再び戦場へと戻ってくることは不可能だろう。もちろん、ケルベロス達は物理ダメージは無効化できるため、落下すれば痛いことは痛いだろうが、致命傷などにはならない。
 また、ドラゴンも落下したケルベロス達を追ってくることはないので、緊急時には、戦場より落下することで離脱する、という手段をとるのも有りである。
「『戦場』は、あくまで普通の気球や飛行船だ。ドラゴンの攻撃に耐えられるものではないから、戦闘の余波で破壊されていくことが予想される。おそらく、もって『15分』……まともに戦えるのは、それくらいの時間になるだろうな」
 1チームが竜影海流群を1体撃破できれば、増援の阻止として充分な成果となるだろう。もちろん、1体以上の撃破を狙っても構わない。
 また、敵を突破させないため、戦場全体に戦力を分散して迎撃する必要がある。そのため、ほかのチームとの綿密な連携は難しい。だが、可能な限り、全体で助け合って戦ってほしい。
「相手のドラゴンは、かなりの強敵だ。無理はしないでくれ。君たちの無事と、作戦の成功を、祈っている」
 そういって、アーサーはケルベロス達を送り出した。


参加者
篁・悠(暁光の騎士・e00141)
キルロイ・エルクード(ブレードランナー・e01850)
霧島・絶奈(暗き獣・e04612)
板餅・えにか(萌え群れの頭目・e07179)
ハインツ・エクハルト(光を背負う者・e12606)
月岡・ユア(孤月抱影・e33389)
ステラ・フラグメント(天の光・e44779)

■リプレイ

●蒼穹にて
 高く青い空と、眼下に広がるミニチュアの世界。
 『戦場』は、踏みしめれば、柔らかな反発を返す。
 さながら、雲の上――そんな、どこか幻想的な、非日常感。
「お休みであれば、鼻歌交じりにスキップしたい感じですねー」
 『戦場』での移動の感覚をつかむためにステップしつつ、板餅・えにか(萌え群れの頭目・e07179)が言った。その名の通り、ここは戦うために作られたフィールドだ。これから行われるのは、メルヘンからは程遠い。
「まったくだ。これが休暇だったら、いい気分転換になったものを」
 キルロイ・エルクード(ブレードランナー・e01850)が苦笑した。
「ドラゴンどもには、この絶景というものが理解できんらしいな。無粋なもんだ」
「それを楽しめる位なら、フォッサ・マグナの暴走による関東圏の壊滅などと言う手段はとらないでしょう。痛手を受けるのは、人類だけではないのですから」
 霧島・絶奈(暗き獣・e04612)が言った。ドラゴン達の目論見が達成されれば、関東圏は壊滅する。人類はもちろん、そこに住む多くの生命とともに。
「この作戦、気は抜けないっすね」
 シルフィリアス・セレナーデ(紫の王・e00583)の言葉に、ケルベロス達は頷いた。この地に生きる命のためにも、ドラゴン達の目論見は阻止しなければならない。
 と――。
 遠い空が、霞がかったように見えた。それは徐々に大きくなる――こちらへと、近づいているのだ。
 それは、空飛ぶ群れである。それはまるでトビウオのような外見をしている。空を泳ぐ魚。だが、その巨体と、額に屹立する角、そして口に並ぶ凶悪な鋭い牙が、それらが狂暴な捕食者であることを示していた。
 エルダードラゴン。『竜影海流群』と呼ばれるものである。
「来たか……!」
 篁・悠(暁光の騎士・e00141)が敵を睨みつけて、言った。襟元のマフラーが、その戦意を表すように、激しく風になびいた。
「ははっ、殺り甲斐のある奴らが相手だとワクワクするなぁ♪」
 迫りくる竜たちの姿を見ながらも、月岡・ユア(孤月抱影・e33389)は愉し気に笑みを浮かべた。いかに強大な相手であろうとも、ユアにとっては、戦いという快楽を与えてくれる存在でしかない。
「今日も俺の歌姫様はご機嫌だね」
 ステラ・フラグメント(天の光・e44779)がそういって、微笑む。
「さあ、この怪盗も今日は盾となろう! ノッテ、僕たちが皆を守るんだ」
 ステラの言葉に、ウイングキャット、『ノッテ』は一鳴きして、こたえる。
「おっと、盾の扱いじゃあ負けないぜ?」
 ハインツ・エクハルト(光を背負う者・e12606)は、『Heiligtum:zwei(ハイリヒトゥーム・ツヴァイ)』を掲げながら、笑った。オルトロスの『チビ助』が、主の言葉を裏付けるように、一鳴き。奇しくも、朋を持つという共通点のある二人の守護者は、一瞬の目くばせの後に、この身をもって仲間を守り抜くという誓いを共にした。
 竜影が近づく。ケルベロス達の間に、緊張が走る。近づく。近づく。まもなく、突入する。
「さぁ、行くぜ……あのドラゴンたちは、ここで必ず、止める!」
「総ては、牙無き人の未来の為に!」
 ハインツと、悠の声に応じるように、ケルベロス達は一斉に身構えた。同時に、無数の竜影が戦場へと突撃し――ケルベロス達による、決死の防衛戦の幕が上がった。

●雲上の戦い
 巨大な竜影が、ケルベロス達に迫る。群れの中の一匹が、ケルベロス達の姿を認め、その顔を向けた。竜影は、がぱ、と大きく口を開くと、そこから爆発を起こしたかのような火炎のブレスをまき散らす。
 ケルベロス達が、一斉に跳躍した。足場の不安定さなど微塵も感じさせぬ、鋭い動き。追いすがるように迫る火炎を、ケルベロス達は武器をかざして耐え抜く。
「火の勢いが強い……! クラッシャー……いや、ジャマータイプか!?」
 シールドを掲げながら、ハインツが叫ぶ。無数の群れの中から、どのような能力を持った敵と遭遇するのか、それは実際に接敵してみなければわからい。ケルベロス達は敵の特性を瞬時に把握。足場へと着地したのちに、反撃に転ずる。
「ならば、まずはッ!」
 悠が叫び、『金色の衣』へと呼びかける。応じたオウガメタルがその装甲を展開し、
「超鋼よ! 暁に立つ勇者に、星光の輝きを!」
 放たれる金色のオウガ粒子が、ケルベロス達の体を包み込む。
「やるぜ、チビ助! 援護を頼む!」
 ハインツもまた、オウガメタルを展開し、オウガ粒子を散布。チビ助は、口にくわえた神器の刃で、果敢に竜影へと攻撃を加える。
「では、こちらも相応に対処をとるとしましょう」
 微笑を浮かべながら、絶奈はロッドを掲げた。途端、はじけるように放たれた雷が壁となって、ケルベロス達をガード。絶奈のテレビウムも凶器を手に、竜影へと飛び掛かった。
 二体のサーヴァントの攻撃は竜影へと突き刺さるも、竜影はあざ笑うように口を開いた。
「地球の犬どもが! 貴様らの攻撃など、痒みすらも感じぬ――」
「魔法少女ウィスタリア☆シルフィ参上っす!」
 輝く粒子と雷の壁を纏い、光に包まれた魔法少女が跳ぶ。『カラミティプリンセス』を振るい、
「その動き、止めさせてもらうっすよ!」
 放つ雷の弾丸が、竜影の翼に着弾した。
「わんわん、こちらは犬じゃなくて狼のおまわりさんよー。快適な空の旅の最中失礼します。ここで検問ですぜ海の旦那!」
 いつもの調子を崩さず、えにかが指を鳴らせば、突如として霧があたりを包み込む。その中に蠢く、怪しげにして不気味な炎。それより放たれるプレッシャーが、竜影の足を止めた。
「飛んで火にいるのは夏の虫……でも今は冬も真っただ中。焼いて浸してあごだし鍋としゃれ込ませていただきまさー!」
「おいおい、ダシが取れるのか? あいつで」
 軽口に乗りつつ、キルロイは竜砲弾を打ち放つ。口調こそ軽いものの、その眼差しは油断なく竜影を睨み、またその神経は、竜影の一挙手一投足を捉えることに余念はない。
「どうせなら、竜革と行こうぜ。ちょうど新しいカバンが欲しかったところだ」
「じゃあ、綺麗に三枚おろしにしてあげようか!」
 ユアが駆ける。不安定な足場をものともせぬ軽やかさ。
「さぁ、ぶっ飛ばすよ! ステラ!」
 相棒へと呼びかける――屈託のない笑顔で。
「了解、歌姫様。さぁ、ここよりは怪盗ステラのステージだ。此度は悪辣なドラゴンより、勝利を盗み出して見せましょう!」
 ノッテも主に負けじと、にゃあ、と声をあげて、翼をはためかせる。
 ユアが跳躍。さらに空中を蹴って高度をあげ、竜影のさらに上空へと飛びあがった。そのまま落下速度を乗せた流星の如き蹴りをお見舞いする。そんなユアを飾るように、ステラの放ったオウガ粒子が、ノッテの羽ばたきが起こした風に乗って舞い上がる。
 ケルベロス達の攻撃により進軍速度と高度を落とされた竜影が、その怒りをあらわにした。
「犬どもが! 図に乗るなよ!」
 吠えるや、その巨体と、鋭い刃の如き翼を活かした突撃による薙ぎ払いを仕掛ける。襲う斬撃がケルベロス達の体を傷つけ、その余波で戦場の足場が破壊されていく。
「うっわぁ、あっという間に足場が壊されてくっすよ!?」
 思わず、シルフィリアスが声をあげた。大規模な戦闘が繰り広げられていることもあり、広大に思えた戦場は、瞬く間に穴だらけになっていくように見えた。
「なるほど。確かにこのペースでは、悠長に構えてはいられないようですね」
 絶奈が言った。竜影も充分な強敵であるが、それ以上に足場の崩壊速度が痛い。
「ならば速やかに決めるのみだ! ハインツ君!」
「おう! 突っ込め、悠! トイ、トイ、トイ!!」
 ハインツは鬨の声をあげ、手にまとう黄金のオーラを、ツタ状に変化させた。オーラのツタは、その背を押すように悠に触れ、活力を流し込む。チビ助は悠の道を切り開くように、竜影を睨みつけた。発生した炎が、竜影の体を焼き、その動きを阻害する。
 悠はブローチに触れた。『Infinity Slash!』。コール音と共に、竜影と悠をつなぐように、7枚の薔薇の紋章が宙へと現れる。悠は『神雷剣・夢眩』を構え、駆けた。一枚、一枚と薔薇の紋章を突き進むたびに、その身に纏う輝きは増していく。やがて最後の一枚を突破した時には、眩い光の弾丸となりて、竜影へと突撃した。
「受けよ! 極煌ッ! 一閃ッッ!!」
 光弾が、竜影を貫く! 竜影が、その身体を硬直させた。
 仕留めたか――いや、まだ息がある。竜影は悠へと怒りと憎悪の視線を向けた。目のない竜影であったが、そうと分かる程の気配を発していた。竜影は吠え――ようとして、息を呑んだ。
 歌が、聞こえたのだ。
 心を掴む歌であった。心を蝕む歌であった。
 それは、ユアの紡ぐ呪歌である。
「とどめを横取りしたみたいだけど――」
 ユアは薄く笑った。
「でもほら、BGMも無く死ぬのは面白くないよねぇ? それじゃ、サヨナラ」
 竜影が息を吐いた。魂を吐き出すような、深い息だった。竜影の体はそのままボロボロと崩れ、溶けるように消滅していった。

●美しき蒼き世界
 ケルベロス達は、目標である一体目の竜影を撃破できた。ケルベロス達に課せられた任務の上では、これで無事成功となる。
 だが、竜影たちはまだ残っており、ケルベロス達もまだ余力を残している。ならば、後に続く戦いへと挑む仲間たちのためにも、今の戦いを継続することにためらいはない。
 ケルベロス達は新たなる目標を定め、果敢に攻撃を開始した。
「地球の犬どもめ、小賢しくも我等に歯向かう!」
 竜影が雷のブレスを吐き出す。痺れるような激痛が、ケルベロス達を打ち付けた。発生した衝撃が、また戦場を破壊していく。
「犬、犬と……僕はネコだ!」
 悠が迫る雷を振り払いながら、斬撃を加える。
「そー言う意味じゃないけどな」
 ハインツは苦笑しつつ、花弁のオーラにて仲間たちを援護する。チビ助もボロボロになりながらも、攻撃の手を止めない。
「まぁ、我々が『番犬』であることは事実ですが。ああ、魔術切開を行いますので、少しびっくりしますよ」
 絶奈が、ステラの傷を、強制手術により治療する。衝撃に目をパチパチさせつつ、ステラが、
「っとと、ありがとう。助かるぜ」
「いえいえ、これは私の役割ですので」
 礼を言うのへ、絶奈が言う。二度目に遭遇した個体は、攻撃に特化した能力を持っているようだ。連戦ということもあり、ケルベロス達の傷は深くなっていく。
「全力で行くっす! フリーレンシュトラール!」
 跳躍したシルフィリアスが掲げた『カラミティプリンセス』に魔力が集まり、その先端が輝きを放った。それを竜影に向けるや、集まったエネルギーは光線となって解き放たれて竜影を撃ち抜く。
「くぅっ。多分、そろそろ足場も限界っすね……!」
 空中で戦場を確認する。すでに足場はほとんどなく、すでにまともな戦闘を行うことも難しいだろう。そのため、防衛線を突破した竜影たちの姿もちらほら見える。
「でも……戦果としては充分っす!」
 シルフィリアスの言う通りだろう。防衛線を突破した竜影の数は、多いとはとても言えない。また、その動きにも精彩が欠けている様子が見受けられ、突破というよりも、敗残して這う這うの体で逃げ出していると言った所だろう。
「そうねー。でも、こいつは仕留めておきたいわ。私、釣った魚はちゃんと調理するタイプのウェアライダーなのよ」
 えにかが霧と、妖火を使って竜影を圧倒する。ユアはその隙をついて、虚無の球を放った。肉体を抉る魔術が、竜影を攻撃する。
「なら、逃げ出さないように、きちんと締めておくか」
 キルロイが言って、銃を構えた。一瞬の集中。しかし、それは極限まで研ぎ澄まされたもの。刹那、キルロイは引き金を引いた。撃ち放たれた弾丸は、竜影の翼の付け根を破壊し、吹き飛ばした。狙って、撃つ。シンプルながら、究極、故に必殺の魔弾へと昇華された、『聖女を穿つ魔弾(メイデンキラー)』の一撃。
「っと、あごだしにヒレって必要だったか?」
 肩をすくめる。
「それよりも、魚を締める時は暴れさせたらダメなんじゃない?」
 と、ユア。
「あれだけ活きがいいと、それも難しいって」
 ステラとノッテが、蒸気の壁と羽ばたきで仲間を援護しつつ、相槌を打つ。
 ケルベロス達の攻撃に、竜影は身をよじり、最後の力を使って大きく羽ばたいた。苦しげにうめき、
「ぐっ……この恨み、いずれ……!」
 呪詛を吐くと、防衛線の隙間を縫っての離脱を試みる。
「逃がさないっす!」
 シルフィリアスが叫び、ケルベロス達は最後の総攻撃を試みた。攻撃が次々と着弾するのを、竜影は必死に耐え、飛ぶ。逃げ切られるか――ケルベロス達がそう思った瞬間、えにかは跳んだ。
 空中を蹴って、さらに遠くへ。竜影を追う。
「検問を強行突破なんてしたら、おまわりさんに追いかけられちゃうわよー」
 手にしたドラゴニックハンマーを、叩きつけた。
「こんな風に、ね」
 その一撃がトドメとなって、竜影はこと切れた。力を失った竜影の体が、落下していく。
(「あ、しまった。足場がない」)
 胸中で、えにかがぼやいた。破壊されつくした戦場は、もはや数えるほどの足場しか残っておらず、そのどれもが、あと少し、届かない。
 このまま落下するのか。死ぬことはないけど、痛いんだろうなぁ。ぼんやりと、そんなことを考える。
 上も下も、空も地も、綺麗な青色をしていた。真っ青な、美しい世界の中に、えにかはいた。綺麗だなぁ、とえにかは思った。まったく本当に、休暇で来たい場所だった。
「――!」
 激しい風の音を切り裂いて、誰かの声が聞こえた。
「伸ばすんだ! 早く!」
 声の方に視線をやれば、それはステラの姿だった。体にロープを巻き付け、飛び降りてきたのだろうか。いや、それよりも。
 えにかは耳に手をやった。あった。『えにかさんの如意棒』。使い時は、きっと今だろう。如意棒を伸縮させて、差し出した。ステラがそれを掴む。同時に、ぐん、と体に重さがかかって、落下が止まった。
「――やった、捕まえた!」
 ハインツが、叫ぶ。その手にしっかりと、ロープを握りしめて。
「まったく、お前さん無茶をするな!」
 キルロイが、声を張り上げた。
「せっかくの勝利です。誰かが離脱するというのも、面白くありません」
 絶奈が言う。テレビウムも懸命に、ロープを引っ張っている。
「ステラ、もうちょっと頑張ってよ?」
 ユアがステラへと声をかける。ステラは笑って頷いた。
「さぁ、引き上げるぞ!」
 悠の号令に、
「了解っす! 頑張るっすよ!」
 シルフィリアスが頷く。
 ケルベロス達が、えにかとステラを引き上げる。
 残った足場の上にて。
 ケルベロス達は誰一人欠けることなく、勝利の時を迎えたのだった。

作者:洗井落雲 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年1月30日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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