封印城バビロン決戦~殲滅空域

作者:坂本ピエロギ

「リザレクト・ジェネシス追撃戦の勝利、おめでとうございます。皆さんのおかげで戦場に残った有力なデウスエクスを数多く撃破することができました」
 ムッカ・フェローチェ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0293)はケルベロスたちをそう労った。
「先の追撃戦において、城ケ島にドラゴンの固定型魔空回廊が築かれてしまったことは既にご存知と思います。実は今回、島の奪還作戦計画の策定にあたり、数名のヘリオライダーが恐るべき予知を得たのです」
 予知された情報を総合した結果、ドラゴンが城ヶ島という場所に固執した理由が判明したのだ。それは日本を走る『龍脈』にあるとムッカは言う。
「日本列島は、北アメリカプレート、ユーラシアプレート、フィリピン海プレートの境目に位置します。そして城ヶ島からプレートに沿って進んだ先にあるのは……」
 そう言ってムッカは地図上にある神奈川県の城ヶ島を指し示して、指先を北へとなぞって行く。その先にあるのは――封印城バビロンだ。

「ドラゴンは、バビロンと城ヶ島を結ぶフォッサ・マグナを暴走させて関東圏を壊滅させ、獲得した大量のグラビティ・チェインを用いて、惑星スパイラスに閉じ込められたドラゴン勢力の救出を行おうとしているようです」
 東京圏に敵の橋頭保が築かれたこの状況においてドラゴンの計画が実を結んでしまえば、人類側にとって極めて破滅的な状況が発生する事は論を待たない。何としても彼らの企みを阻止せねばならないとムッカは言った。
 彼らの企みを阻止するには、城ケ島の回廊か封印城バビロンのどちらかを破壊する必要がある。ただし城ケ島の回廊は竜十字島の全戦力を投入できるため、こちらを選択した場合は事実上ドラゴン勢力との最終決戦に近い規模の戦いが予想される。
「現時点におけるケルベロス側の最終決戦勝率は1割4分。残念ながら、現時点で城ヶ島に戦いを挑んでも勝ち目は殆どありません。従って、今回は封印城バビロンに狙いを絞った、バビロン破壊作戦を遂行することになります」
 作戦の第一段階はバビロンの探索だ。だが、ここに来て、ひとつの問題が持ち上がったとムッカは言う。ケルベロスの動きを察知したドラゴン勢力が、バビロンに援軍を派遣したというのだ。

「敵の名前は『竜影海流群』。竜十字島近海の防衛ラインを構成するエルダードラゴンで、その移動速度と一糸乱れぬ連携はドラゴン勢力でも侮れない力を持っています」
 彼らは現在、封印城バビロンを目指して一直線に空中を進軍しており、このままバビロンに到達してしまえば、攻略作戦の達成は極めて困難になってしまうだろう。
「竜影海流群は上空を飛んでいるため、地上からの攻撃は届きません。そこで本作戦では、こちらが用意した即席の飛行城塞に向かい、そこで皆さんに迎撃を行って貰います」
 現場の空域では世界各国から集めた飛行船や気球を多数用意して、これらをロープや鎖で繋げることで足場とし、空飛ぶドラゴンたちと空中戦を繰り広げることになる。ロープや鎖で繋がれた戦場を縦横無尽に走り回ることは、ケルベロスの身体能力があれば簡単だ。
「敵のドラゴンは1体1体が強力な個体です。必ずチームを組んだ上で相互に連携しながら戦う必要があるでしょう」
 敵の攻撃によって危機に陥った場合は、その場から飛び降りればすぐに離脱できる。落下によるダメージは物理ダメージのためケルベロスが怪我を負うことは無いが、戦場への復帰は不可能なので注意が必要だ。
「飛行船や気球はドラゴンの攻撃に耐えることは出来ず戦闘の余波で破壊されていきます。おそらく、戦場でまともに戦えるのは15分が限度でしょう。その間に、出来るだけ多くのドラゴンを撃破し、増援を阻止して下さい」
 ムッカは説明を締めくくると、ケルベロスたちに告げた。
「非常に危険な任務ですが、これは皆さんにしか頼めません。封印城バビロンの確実な制圧のため、どうか力を貸して下さい……よろしくお願いします」


参加者
巫・縁(魂の亡失者・e01047)
ロベリア・エカルラート(花言葉は悪意・e01329)
ルージュ・ディケイ(朽紅のルージュ・e04993)
アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)
君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)
クラリス・レミントン(夜守の花時計・e35454)
尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)
オニキス・ヴェルミリオン(疾鬼怒濤・e50949)

■リプレイ

●一
 気球と飛行船で築かれた飛空要塞が、次々に大空へと舞い上がり始めた。
 瞬く間に遠ざかっていく地表の景色を気球から見下ろして、尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)は無邪気に歓声をあげる。
「すげえ、気球だっ、飛行船だっ」
「ふむ。このよウな戦場で戦ウことになルとも思っていなかっタな」
 君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)はそう言って気球のロープを手繰り、バルーンの上へ昇っていった。地に足がつかない戦いは苦手だが、やることは普段と変わらない。
 ビハインドのキリノ、そして広喜と共に現場へ辿り着くと、既に到着した仲間たちが準備を整え始めていた。
「あっ、きたきた。よろしくね君乃君!」
 メディックを務めるロベリア・エカルラート(花言葉は悪意・e01329)が人懐こい笑みを浮かべて手を振った。後ろでそっとロベリアに倣うのはビハインドのイリスだ。
「絶対に勝とうね、縁」
「ああ。残らず撃ち落としてやろう」
 バルーンの中心を少しずれた位置で狙撃のポジションにつくのは、ルージュ・ディケイ(朽紅のルージュ・e04993)と巫・縁(魂の亡失者・e01047)。共にロベリアと同じ旅団の友人同士だ。
 バビロン攻略に向かった仲間たちの背中を守り、龍脈をドラゴンの手から守るためにも、この戦いは絶対に負けられない。
「皆、気をつけて。……来たわ」
 タイムウォッチをセットしたアウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)が仲間に注意を促したのは、その時だった。
 アウレリアが愛銃『Thanatos』の銃口を向けた先、地平線の彼方からゴマ粒のような敵の群れが見えた。数は目視で二十程度だろうか。小さかった敵の影はみるみる大きくなって、ケルベロスの戦列めがけて殺到してくる。
 角を生やしたトビウオのようなドラゴンたち――『竜影海流群』だ。
「へへ……すっげぇ」
 あの群れの1体1体が、計り知れない戦闘力を持つ化け物に違いない。広喜は強大な竜の威圧感に武者震いを覚えつつ、ケルベロスチェインで守護魔法陣を描き始めた。
「くく、滾るではないか。この戦い、負ける気がせぬ!」
 みんなの心を代弁するように、オニキス・ヴェルミリオン(疾鬼怒濤・e50949)が不敵に笑う。彼女が構える轟竜砲の砲口は、すでに敵をぴったり捉えて離さない。
「すべては同胞のために……って思いは向こうも一緒みたいね」
 クラリス・レミントン(夜守の花時計・e35454)は黒兎の使い魔シドを肩に乗せると、彼女の細い体を包む羽衣から白銀のオウガ粒子を散らしていく。
 封印城バビロンへの攻略に向かった仲間たちの背後を守るため。グラビティ・チェインを奪おうとするドラゴンの野望を挫くため。
 ケルベロスたちは心をひとつに、迫りくる敵に立ち向かう。
「皆よろしくなっ。派手にぶち壊そうぜ!」
 広喜の描く魔法陣が前衛を包み込むと同時、戦端は開かれた。

●二
 1体のドラゴンがけたたましい咆哮を大空に轟かせ、猛然と突進してきた。
 グラビティを込めた咆哮が空気を凍てつかせ、縁たちのいる後衛を気球もろとも衝撃波で切り裂いていく。
 地球の大空を我が物顔で舞う暴君。その力にオニキスは惜しまぬ賞賛を送る。
「良いぞ。この体躯、威圧感! 強敵とみた!」
「流石と言うべきかしらね。けれど、これより先へは進ませないわ」
 ビハインドのアルベルトと共に縁とルージュを庇いながら、アウレリアが言った。
 上空で旋回したドラゴンが、角を突きつけるようにしてクラリスめがけ突撃してくる。
 横合いから雹の礫を飛ばすアルベルト。それを加速で振り切って叩き込む竜の体当たりをキリノが盾となって受ける。
「少しの間ではあるけれど、私達と踊って頂きましょうか。死出の舞踏を……」
 アウレリアの目が標的を捉えた。クラリスのオウガ粒子を浴びて研ぎ澄まされた狙いが、空飛ぶドラゴンを追尾する。
「さあ、踊りなさい。弾丸の叫喚と共に……」
 大空へとばら撒かれる弾丸がビリヤード玉のようにぶつかり合い、檻となってドラゴンを包み込んだ。
 アウレリアの『バラ・グリザンド』の檻は、獲物を決して離さない。誇りを傷つけられたドラゴンは、咆哮を轟かせて怒り狂った。
(「これでひとまず、後ろが狙われル心配はなイ……」)
 しかし、と眸は唇を噛んだ。
 ドラゴンの攻撃力は思った以上に高い。後衛を立て直して前衛の回復に集中しなければ、守りに優れるディフェンダーでも長くはもたないだろう。
「エラルカート。回復を急ごウ」
「うん、任せちゃって!」
 眸は『Avid/White-field』で白銀色に輝くコアエネルギーを展開。ロベリアは舞踏で花弁のオーラを生み出して後衛を回復していった。
 対するドラゴンも、勢いが衰えた様子は全く見られない。邪魔な飛行船を手当たり次第に破壊しながらケルベロスの隊列めがけて突っ込んできた。
「ルージュ! 来るぞ!」
「OK、任せて!」
 ドラゴンがぐんぐんと距離を詰めてくる。
 縁とオニキスの連射する竜砲弾を浴びてなお、その勢いは止まらない。
 アウレリアに狙いを定め、竜の口から凍てつく咆哮が放たれようとした、その時――。
「くらえええぇぇぇ!!」
 ルージュの蹴りが流星となって、ドラゴンの背中へと叩き込まれた。
 攻撃に失敗したドラゴンは小さな呻きをあげ、再度の攻撃態勢に移る。だが、その動きが鈍り始めていることをルージュは見逃さなかった。
「やったね、効いてるよ!」
「防御は高くないみたいだね。いい感じかも!」
「急げルージュ、ロベリア! 気球が落ち始めた!」
 ロープを駆け上がり、飛行船へと飛び移るケルベロス。
 逃がさんとばかり、気球を突き破ってドラゴンが追い付いてくる。アウレリアと広喜から虹色の蹴りを浴びたことで、完全に二人を標的に定めたようだ。
「……!」
 咆哮の盾となって消滅するアルベルト。彼の生前、そそっかしいから足元に気をつけろと口を酸っぱくした記憶がふと蘇り、アウレリアは哀しく微笑んだ。
「待ってて、いま治すからね!」
 眸のスターサンクチュアリを浴びて傷を癒すアウレリアを、ロベリアは気力溜めで更なる回復を施していく。
 しかし――。
(「ヒールが……追い付かない」)
 恐れていた事態が起こり始めたことにロベリアは歯噛みした。敵のダメージのみならず、アンチヒールがもたらす阻害効果が、前衛の二人をじわじわと蝕み始めている。
 『侵シ詠』のジャミングに誘われたドラゴンが角を振りかざし、金切り声を上げて迫る。広喜めがけたミサイルさながらの体当たりは、しかしキリノに庇われて失敗した。
「……ありがとよ、キリノ」
 ダメージに耐えられず消滅するキリノに、感謝を手向ける広喜。そんな彼を見下ろして、ドラゴンは猛々しい鯨波をあげる。
(『次は貴様だ』)
 そう言うかのように。
「ルージュ、アマツ、行くぞ! 1秒でも早く、あのドラゴンを落とす!」
「わかった! これ以上、好き勝手させられないもんね!」
 縁と彼のオルトロス、そしてルージュが仕掛けた。
 ドラゴンの戦意はなおも旺盛だ。ここで守りに回れば、それだけ敵に攻撃の機会を与え、味方は傷口を広げてしまう。
 咆哮をあげて突っ込んでくる飛竜を、縁は手袋を外して睨みつけた。
「その鼻面、吹き飛ばしてやる!」
 縁の打ち鳴らす指が、大空に響く。
 と同時、サイコフォースの爆発がドラゴンの顔面に直撃した。煙にまかれて速度を落とした隙を逃さず、アマツの神器が竜の皮を剥ぎ、ルージュの射出したパイルバンカーが貫いた肉を氷で侵していく。
「小さいからって、弱いと思わないことだよ。シド、行って!」
「ここを通りたくば、吾らを倒すことだ。出来るものならな!」
 クラリスのファミリアが、兎とは思えない跳躍力でドラゴンの脇腹に取りついた。
 グラビティの力でジグザグに切り開かれていく傷めがけて、オニキスが蹴りとばした星のオーラが直撃。血飛沫で空を真っ赤に染めながら、ドラゴンが銀の咆哮を迸らせる。
『グ……ガ……!!』
「もう一息のようね」
 傷口を庇うように覚束ない姿勢で飛ぶドラゴンの背中を見て、アウレリアは敵が致命傷を負ったことに気づいた。晒され続ける攻撃に耐えながら、ついに掴んだ勝機だった。
『同胞たちよ……! 我らに勝利を!!』
 ドラゴンもまた、最期の時が訪れたことを悟ったようだ。魂を振り絞る叫びを轟かせて、アウレリアめがけて真っすぐに突っ込んできた。
「皆、とどめは任せるわ」
「アルベルトとキリノの分も、存分に叩き込んでくれよっ!」
 アウレリアと広喜は、眸とロベリアのそれと共に、気力溜めで傷を塞ぎ始めた。
 ここで戦いを終えるつもりはない。彼らの目は、既に次の敵を見据えているのだ。
「いこう皆。あいつを落とすよ!」
 クラリスの声に頷いた猟犬たちが、一斉にドラゴンの喉笛へと食らいついた。
「ここまでだ。砕け散れ!」
 縁の発射する轟砲弾の炸裂が。
「華零度。お願い!」
 クラリスのバスターライフルが放つ、虹色の螺旋を描く凍結光線が。
「終わりだよ。潰れちゃえ!」
「この一撃、耐えられるか!」
 ルージュの惨殺ナイフと、オニキスのチェーンソー剣に込められた呪詛の刃が。
 ドラゴンの翼をむしり取り、頭を砕き、そして心臓にグラビティの一撃を撃ち込んだ。
『ガ……アアアアァァァァァァッ!!』
 原型を失ったドラゴンは断末魔の絶叫をあげて、コギトエルゴスムの結晶となって青空に散っていった。
 作戦目標、達成。
 アウレリアのタイマーが7分経過を告げると同時、新たな敵が襲ってきた。

●三
『ケルベロス!! よくも……!!』
 新手のドラゴンは殺気に膨れ上がり、最初の敵よりも大きく見えた。
 復讐に燃える竜が、口端から赤い炎を漏らしてアウレリアへと突っ込んでくる。
「くっ……!」
 砲弾と見まがう突進がアウレリアの体を吹き飛ばす。重くなった足を叱咤して立ち上がる彼女を眸は気力溜めで回復しながら、素早く周囲の戦況を俯瞰した。
 ドラゴンたちを阻む空のバリケードは半分近くが破壊され墜落している。いまだ防衛網は突破されておらず、戦況はこちらがやや優勢か。しかし眸の目につく限り、ケルベロス側もまた目の前の敵への応戦で精いっぱいのようだ。
(「他班との連携は……望めそウになイな」)
 必要な数は倒した。だが、ここで降りるという選択肢は眸にも仲間たちにもない。
 1体でも多くのドラゴンを、可能な限り撃ち落とす――それが8人の共有する、この戦いの目的なのだから。
「行こウか」
「ああ。まだやれる」
 命を捨てたように襲いかかってくるドラゴンの姿に、縁は思う。先ほど自分たちが討った敵も、あのドラゴンにとっては同胞であり仲間だったのだろうと。
 しかし。
「闘う理由があるのはこちらも同じだ。負ける訳にはいかん」
 情を振り捨て、縁は斬機神刀『牙龍天誓』を振りかぶった。
 命中率から見て、敵のポジションは先程と同じようだ。ならば、やることは同じ。
「奔れ、龍の怒りよ! 敵を討て! 龍咬地雲!」
 降りぬいて放たれた衝撃波が空気を切り裂き、ドラゴンの体で弾ける。ぐらつく竜めがけルージュが叩き込むパイルバンカーの刺突も、敵の勢いを殺すには至らない。
 火を噴いて墜落していく飛行船。ロープを伝って退避しながら、クラリスは舞夢の旋律を口ずさみ、蝶の竜巻をドラゴンへと浴びせかけた。
「ゆめゆめ、わするることなかれ」
 ドラゴンの試みた回避は、しかしオニキスの轟竜砲とイリスのポルターガイストが操る雲に視界を遮られ、クラリスが生み出した極彩色の翅の煌きに翼を切り裂かれた。
「さあ、一緒に壊れようぜ」
 ロベリアの気力溜めで傷を癒した広喜がジャミングの青い光を照射すると同時、ひときわ大きなドラゴンの咆哮が前衛へと襲い掛かる。
「ここまでね……残り5分、みんな頑張って」
 クイックドロウで竜の歯を砕いたアウレリアは凍結の衝撃波から広喜を庇うと、最後の力で気球の足場を蹴って、
「後は……お願い……」
 そう言い残して雲の谷間へと落ちて行った。
 対するドラゴンはなおも怒りが収まらないのか、鋭い角の先を広喜に狙い定めた。対する広喜もまた、気力溜めで傷を癒して立ち向かう。
「どうした? 来いよ、俺はまだ壊れてねえぜ」
 胸を張り、肩を揺すって広喜は笑った。
 体のパーツが軋んで上げる、悲痛な叫びを覆い隠すように。
「凄い、余裕だね尾方君! 頼もしいよ!」
 ロベリアもまた、眸と共に気力溜めを広喜に浴びせながら、明るい態度を崩さない。
(「けど……」)
 本当はわかっている。
 広喜の体が、もう5分も保たないことは。
 けど、それでも――。
(「ここで泣いたって勝てるわけじゃない。みんなと最後まで戦って、勝つ!」)
「さあドラゴン、こっからが勝負だぜ!」
 体当たりの傷口を抑え、広喜はふらつく足で立ち上がった。
 突撃してくるドラゴンの牙をサイコフォースのスナッピングで吹き飛ばす縁。ルージュの惨殺ナイフとクラリスの黒兎がジグザグの痕跡を描き、鱗の隙間を切り裂いていく。
 オニキスの蹴飛ばす星のオーラに脇腹を吹き飛ばされたドラゴンが血反吐と共に螺旋熱波をまき散らす。その一撃を浴びた広喜は、
「……へへっ。みんな、先に……」
 巨体をぐらりと傾がせて、地上へと落ちて行った。
 そして――眸のアラームが最後の1分を告げる。
『犬共よ! 虫ケラらしく這いつくばれ!!』
 傷だらけの巨体を翻し、ドラゴンがケルベロスの頭上から降下してきた。
 縁の轟竜砲に翼を砕かれ、クラリスのフロストレーザーを浴びて氷に身を裂かれながら、一直線にオニキスへと迫る。
「吾を最期の敵と見定めたか。良かろう!」
 残る時間は1分もない。回復役の眸とロベリアも攻撃に転じた。
 眸の放つエメラルド色の炎弾を浴びたドラゴンが絶叫する。炎に巻かれ失速したところへロベリアがルージュを担いでダブルジャンプで跳躍。
「これで――」
「吹き飛べ!!」
 パイルバンカーとドラゴニックハンマーのコンビネーションを同時に叩き込む二人。
 鈍い音を立てて、竜の頭が割れる。
『ドラゴン種族……! ばん……ざ――』
「終いだ。見事であったぞ!」
 傷だらけで笑うオニキスが、トルク音を乗せて呪怨斬月を一閃。
 両断されたドラゴンの体は力なく回転しながら宙を踊り、結晶と化して砕け散った。

●四
「そろそろ限界みたい。みんな、飛び降りるよ!」
 ドラゴンの撃破と時を同じくして、気球は次第に高度を落とし始めた。
 クラリスの言葉に頷き、次々と降下していくケルベロスたち。眸は最後にもう一度、戦場となった大空を振り仰ぐ。
 そこには何者にも侵されない、抜けるような地球の青空が広がっていた。
(「広喜。ノーチェ。この戦い、ワタシたちの勝ちだ」)
 勝利の吉報を伝えるため、眸は地上へと身を躍らせた。

作者:坂本ピエロギ 重傷:アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921) 尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年1月30日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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