●
「皆さん、リザレクト・ジェネシス追撃戦、お疲れさまでした」
集まったケルベロス達を前に、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は深々と一礼する。
「おかげで、戦場で討ち漏らした多くのデウスエクスを撃破する事に成功しました」
東京湾を舞台とし、多数のデウスエクスとの戦いとなった『リザレクト・ジェネシス』。
それに参戦し、戦争終了後も東京湾周辺に残存していた多数のデウスエクス達への追撃戦は、大きな戦果を挙げることとなった。
多数のダモクレス、死神、エインヘリアルを撃破した一方で、第四王女レリとその配下とは交渉の場を持つことにも成功した。
城ヶ島の奪還こそかなわなかったものの、首領格である魔竜の1体を含めたドラゴンの撃破も成功。
追撃戦の戦果としては、十分なものと言えるだろう。
だが、それを語るセリカの表情は、厳しいものとなっている。
「ですが……城ヶ島に関して、新たな動きがあります」
城ヶ島を巡るドラゴンとの戦いでは、相手の撃破には成功したものの、ドラゴン達の命を賭した迎撃によって固定型魔空回廊が完成し、竜十字島から多数のドラゴンが城ヶ島に出現することとなった。
「人口密集地である東京圏に、ドラゴンの拠点がある危険性は言うに及びません。その為、城ヶ島の奪還作戦について検討を始めていたのですが……その結果、 複数のヘリオライダーにより、恐ろしい予知がもたらされたのです」
そう説明しながら、セリカは日本周辺のプレートを描いた地図を取り出すと、地図上の一点を指さす。
「ドラゴン勢力が、命を捨てでも城ヶ島に執着していた理由。それは、日本列島に走る龍脈、フォッサ・マグナだったのです」
その場所は、北アメリカプレート、ユーラシアプレート、フィリピン海プレート、3つのプレートの境目となっている場所。
そして、城ヶ島からプレートの裂け目に沿って北に進むと――『封印城バビロン』がある。
石川県沖に存在する、増殖型機動城塞『封印城バビロン』には、魔竜王の復活の為に使われるはずだった龍脈の力が眠っている。
「ドラゴン勢力の目的は、封印城バビロンと城ヶ島を結ぶフォッサ・マグナを暴走させることにあると思われます」
フォッサ・マグナを暴走させ、関東圏を壊滅させると共に大量のグラビティ・チェインを獲得。
そうして得たグラビティ・チェインで『惑星スパイラスに閉じ込められた』仲間の救出を行う。
――それが、ドラゴン勢力の目的なのだろう。
「この企みを阻止するには、作戦の起点のどちらかを破壊する必要があります」
作戦の起点――つまりは『城ヶ島』か『封印城バビロン』の破壊。
だが、固定型魔空回廊がある城ヶ島は、竜十字島の全戦力を投入する事が可能である為、破壊するとなれば竜十字島決戦を覚悟する必要がある。
つまり、『封印城バビロンの破壊』が、現状取れる唯一の手段となる。
「ですので、作戦の第一段階として、封印城バビロンの探索を行うことになりました」
●
「城ケ島に固定型魔空回廊を設置したドラゴン勢力は、多くの魔竜を城ケ島に展開すると同時に、封印城バビロンでも活動を開始しています」
必然、バビロンの探索を行うとなれば、ドラゴンとぶつかり合うこととなる。
探索を行い、相手の戦力を削り――そうしてできた隙に、決戦兵力での突入作戦を行うのが最終的な目的となる。
今回はその作戦の第一段階。探索と防衛力の弱体化が目的となるのだが……。
「ケルベロスのバビロン攻略を察知したドラゴン勢力は、救援として『竜影海流群』を差し向けてきました」
『竜影海流群』は、竜十字島近海の防衛ラインを構成していたエルダードラゴンで、その移動速度と一糸乱れぬ集団戦においては、ドラゴン勢力でも屈指の能力を誇っている。
この援軍が大挙して封印城バビロンに到達してしまえば、バビロン攻略はより困難になるだろう。
そこまで説明すると、セリカは一度息をついて表情を改める。
「皆さんにお願いするのは、この『竜影海流群』の撃退となります」
無論、高速で飛行する『竜影海流群』を地上から迎撃することは難しく、飛行できるケルベロスだけでは無数のドラゴンを相手取るには手が足りない。
故に、
「世界中からありったけの飛行船や気球を集めて、空中に城塞を築きました。この飛行船と気球を足場として、飛来するドラゴンを迎撃、撃退してください」
少しいたずらっぽく笑って、セリカは『戦場』のイラストをケルベロス達に示す。
気球や飛行船をロープや鎖でつないで作った、即席の空中要塞。
ケルベロスの身体能力があれば、そうして作られた戦場であっても十分な足場としてドラゴンと戦うことができるだろう。
「皆さんの配置される場所に来る『竜影海流群』は、バランスの取れた能力を持った個体となっています」
ヒレで空を飛ぶ角の生えた巨大な魚、というべき姿をしたドラゴン『竜影海流群』。
同じ名を冠するドラゴンでも、個体によってその能力は大きく異なる。
攻撃手段は、噛みつき、ヒレでの切断、角からの放電。
頑健、敏捷、理力、どの分野でも突出した得手は無く、不得手も無い。
突けるような弱点が無い相手なだけに、どのようにしてケルベロス達の長所を活かせるかが勝敗を分けることになるだろう。
その上で――戦力以外での問題点が、二つ。
一つは、『戦場』から離脱した場合、飛行手段がない者は復帰することができないこと。
通常通りに戦う場合は落下する心配は無いが、『負傷者を離脱させてから戻ってくる』などの行動はできないと思っていいだろう。
一方で、落下によるダメージは、ケルベロスにはとても痛い以上のダメージにはならないので、危機に陥った場合は自発的に離脱するのも一つの手だろう。
二つ目の問題点は、戦場の耐久性だ。
戦場を構成する飛行船や気球は、ドラゴンの攻撃に耐えることができないため、戦闘が続くにつれて破壊されていく。
そのため、この戦場でまともに戦えるのは十五分程度となる。
「時間内に一体――可能であれば、それ以上のドラゴンを撃破できれば、それだけバビロンの探索が有利になります。気を付けて……その上で、できる限りの戦果を、お願いします!」
参加者 | |
---|---|
リーズレット・ヴィッセンシャフト(逆さ三日月の死神・e02234) |
ギメリア・カミマミタ(バーチャル動画投稿初心者・e04671) |
アベル・ウォークライ(ブラックドラゴン・e04735) |
八崎・伶(放浪酒人・e06365) |
クレーエ・スクラーヴェ(白く穢れる宵闇の・e11631) |
東雲・菜々乃(のんびり猫さん・e18447) |
鍔鳴・奏(あさきゆめみし・e25076) |
四方堂・幽梨(義狂剣鬼・e25168) |
「うーん……足場が不安だな。来る場所間違えたかねぇ……」
わずかに浮き沈みする足場に、四方堂・幽梨(義狂剣鬼・e25168)は小さくため息をつく。
雲間に浮かぶ、無数の気球や飛行船をつなぎ合わせて作った即席の戦場。
試しに二度三度踏み込んでみれば、思ったよりもずっと確かな感触が返ってくるけれど、普段とは違う環境にはどこか不安が付きまとう。
落ちても命にかかわることは無いと、わかってはいるけれど……、
「落ちたら凄い痛そうだ……」
その衝撃を想像してリーズレット・ヴィッセンシャフト(逆さ三日月の死神・e02234)は表情をこわばらせる。
とはいえ、落ちても死なないということは、落ちれば命の危険から逃れられるということでもある。
「戦闘不能になりそうな時は、落下で速やかに離脱するぜ」
「難しい方がいたら死なないように落とすのです」
どこか楽しそうな八崎・伶(放浪酒人・e06365)に、死なないように落とすというのもなんだか変な感じがするけれど、と首を傾げつつ東雲・菜々乃(のんびり猫さん・e18447)も頷いて。
「来たよ」
彼方を見つめるクレーエ・スクラーヴェ(白く穢れる宵闇の・e11631)の目に、飛来する無数の影が映る。
角を持ち空を泳ぐ、巨大な無数の魚影群。
それは、封印城バビロンへ向かうドラゴン勢力の援軍――。
「『竜影海流群』」
迫る群影を見据えて、ギメリア・カミマミタ(バーチャル動画投稿初心者・e04671)が呟きを漏らす。
究極の戦闘種族、個体最強のデウスエクスとまで称される存在『ドラゴン』。
(「昔の俺ならば震えていたかも知れないな」)
知らず、力を込めていた右手を開くと、ギメリアは大きく息を吐いて呼吸を整える。
今も、全く怖くないと言えば嘘になるが――それ以上に、人々と猫達を護るという熱い想いの方が上回っている。
「さて、思い切って暴れようかね」
大きさを増す竜の群れに、軽い笑みを浮かべて伶が得物を構え。
伶と肩を並べ、アベル・ウォークライ(ブラックドラゴン・e04735)はしばし目を閉じる。
この戦場を作り出したのは、世界中から集められた人々の力。
戦場には多数の仲間たちがいる。
背後にはバビロンの探索に向かっている仲間もいる。
この戦いは、自分達だけのものではない。
「この空に世界中の希望が集まった。必ず勝利を!」
「必ず目的を達成し、帰って動画を編集するぞ!」
得物を掲げるアベルにギメリアも応え、
「それじゃリズ。一緒にドラゴン退治と行こうか!」
「奏君、今回も宜しくな!」
鍔鳴・奏(あさきゆめみし・e25076)とリーズレットは笑みを交わし、
「この空中戦も負けられないのです!」
ウイングキャットの『プリン』を一撫ですると、菜々乃は仲間達をかばえるように一歩前に出る。
自分のため、仲間のため、大事な人のため、世界のため。
何のためかは違っても、一点だけは皆同じ。
――負けるわけにはいかない。
●
感覚を鋭くする幽梨と奏のメタリックバースト、耐性を高めるクレーエのスターサンクチュアリ。
銀の光と星の光が二重三重にケルベロス達を包み込み、その身に加護を纏わせる。
その光に、敵がそこにいると気付いたのか、群れの先頭から一体がケルベロス達に迫りくる。
「さあ――」
見る間に距離を詰め、咢を開き、襲い掛かる竜の姿。
それを視界にとらえたまま、リーズレットは不敵な笑みを浮かべて手にした鎌を振りかぶる。
「1体でも多く撃破するぞ!」
言葉とともに投げつけた大鎌が、竜のヒレとぶつかり合う。
響き渡る鋼の音色。
速度を落とすことなく突進する竜の巨体。
足場ごと両断しようとする竜の斬撃を、手元に戻ってきた大鎌で受け流しつつリーズレットが飛びのけば、入れ替わりに踏み込む菜々乃の大器晩成撃が竜の暴威を迎え撃つ。
自分や未来や他もろもろ、信じる心を込めたその一撃は――、
「わっ!?」
しかし、押し返すには至らない。
跳ね返される衝撃に菜々乃の体は後ろへと飛ばされ、伶が撃ち込むフォーチュンスターも、身をくねらせた竜を捉えることができずに空を切る。
だが、
「それで――」
「――十分だ!」
轟竜砲とフォートレスキャノン。
攻撃を受け止め、回避して速度の落ちた竜にギメリアとアベルの砲撃が突き刺さる。
再度飛び込むリーズレットのグラインドファイアが竜の牙とぶつかり合い、続けて奏が作り出すのは惨劇の鏡像。
その幻影を切り裂いて、迫る竜のヒレを伶は大きく後ろへと飛んで回避する。
着地点には足場は無く、ただ大空が広がるだけだけど――、
「頑張れ、焔」
伶のボクスドラゴン『焔』が首を伸ばして服の裾に噛みついて。
そのまま『焔』を支点に大きく回転すると、伶は竜の頭上へと飛び上がりホーミングアローを撃ちおろす。
(「しかし、空の上で戦うってのは気持ちがいいモンだ」)
こういう時じゃなければ、と残念に思うものの……普段来ることのない場所で暴れられるのは、なかなかに楽しい。
着地し、飛びのき、反撃の放電をかわして――伶の口元には自然と笑みが浮かぶ。
そのまま止まることなく、ケルベロス達を焼き払おうとする雷光に、
「頑張って、モラ!」
奏のボクスドラゴン『モラ』が吐き出すブレスが、菜々乃のフォーチュンスターが撃ち込まれ。
勢いを弱めた電撃を、クレーエのスターサンクチュアリの守りの光に包まれながら間合いを詰めた、アベルのドレインスラッシュが竜を切る。
攻め、守り、反撃を防いで切り返す。
繰り広げられる攻防の中で味方が受けたダメージを回復し、クレーエは小さく息をつく。
かつて、未熟だったころに幾度となく対峙した戦艦竜。
同じドラゴン種族と対峙するたび、氷を背負ったその姿が、一瞬、胸中をよぎるけれど、
「……」
揺らいだ感情を吐息と共に吐き出して、努めて冷静にクレーエは相手を見据える。
楽観できるものではないけれど、決して勝てない相手でもない。
だが、鎧袖一触に切り捨てれるほど弱くもない。
理想の結果、次善の結果。目指す結果は無数にある。
その中で――、
「まずは確実に一体!」
「出来るだけ早く倒していこうか!」
スターゲイザーを打ち込むギメリアと、シャドウリッパーを振るう幽梨。
挟み込むように撃ち込まれる攻撃が竜の守りをすり抜けて、その身を打ち据える。
まずは一体。倒せたら次。
先を見過ぎず、足を止めず、確実に。
「あぁ、まずは一体確実に葬っていこうか」
そう、クレーエが声をかけた直後――がくん、と足場が揺れる。
「これは――」
「始まったみてェだな」
周囲に視線を走らせるクレーエに、竜から目をそらすことなく間合いを取った伶が応える。
この戦場は、飛行船や気球で空中に作られた即席の戦場。
その足場が戦闘の余波で破壊されれば……即座に墜落するものでもないけれど、長くとどまれば戦闘の継続はできなくなるだろう。
「ここからは時間との勝負、一瞬たりとも無駄にはできないな」
大鎌を回転させると構えを取り、既に平衡を失い始めた戦場をアベルは駆ける。
首を狙うヒレを身を沈めながら手にした鎌で受け流し、体を起こしながら振るう一閃が竜の鱗を切り裂き、苦悶の声を響かせる。
ケルベロス達も無傷ではない。
だが、それ以上に竜の体力は限界に近い。
「このまま、いけるかな?」
クレーエが呟く直後、事態が動く。
一撃を加えて距離を取ろうとするアベルに、竜の牙が襲い掛かる。
「焔!」
「ヒメにゃん!」
『焔』やギメリアのウイングキャット『ヒメにゃん』が攻撃を打ち込むも――せめて一人は道連れに、そういわんばかりの執念を込めた竜は止まらずに、
「……くぅ……」
――その牙は、割って入った菜々乃を捉える。
ケルベロスの中ではただ一人のディフェンダーとして、幾度となく攻撃を受け止めてきた菜々乃の体力は、既に限界が近い。
肩に深々と食い込む牙に、膝から力が抜けかける――けれど、
「……まだなのです!」
心を燃やして立ち上がり、
「今、回復するよ!」
「包めよ、長月」
クレーエのサキュバスミストと、伶の長月。
傷を癒す霧と月光が菜々乃を包みこんで活力を補って、
「いい加減――」
「――往生しな!」
牙を押し返され、動きを止めた竜の顎を、ギメリアのイガルカストライクと幽梨の大器晩成撃――氷の力を帯びた二連撃が打ち上げて。
続けて距離を詰める奏の背に、触れるものがある。
「奏君。ちょっと肩、借りるな!」
「ん」
慣れた声、慣れた感触。
肩を足場に飛び上がるリーズレットに短く応えると、奏は深く息を吐く。
見つめる先は、竜よりもはるか高くに飛び上がったリーズレット。
「定められた命だからこそ、その領域へ届こうと手を伸ばす――この息は神の域なり」
差し出す手から伸びる透明な鎖は、竜を絡めとり、その先のリーズレットの手へと結びつく。
「よ、と。捉えた」
「オッケー! 奏君っ!」
鎖を手繰れば、引き寄せられたリーズレットは反動と共に勢いよく竜へと迫り――同時に、奏もまた彼女へと迫る。
「せーの!」
「堕ちろー!!」
流星の煌めきと共に舞い降りるリーズレットと、炎を宿して飛び上がる奏。
勢いのままに二人はすれ違い、同時に打ち込む二重の連撃が――竜の体を両断する。
●
「――よ、と」
勝利の余韻を感じる暇もないままに、墜落していく足場から無事な足場へと飛び移ると伶は軽く息をつく。
周囲を見れば、残る足場は七割程度。
無論、戦闘が進めば脱落する速度は加速していくだろうから、単純に後二回やれるものでもないが……、
「大丈夫か?」
「なのです!」
アベルの問いに、菜々乃は拳を握って頷く。
「もし戦闘不能になったら、飛び降りて撤退しますね」
「……」
それはそれで不安な心持にはなるものの……一番負傷の大きい菜々乃がやれるというなら、次に挑まない理由もない。
そして――相手が自分達を放っておく理由もまた、ない。
「次が来なさったよ」
「……少しでも有利にしないとね」
幽梨の声に奏が視線を巡らせば、また一体の竜が自分達に向けて飛んできている。
モラと一緒に奏に抱きあげられた体勢からそれを見ると、リーズレットは一度ぎゅっと奏に抱き着いて、
「よし……! 最後まで気を抜かずに行くぞ!」
やる気や元気を補給して、元気よく奏の腕から飛び降りる。
この戦いが終わるのは、ケルベロスかドラゴンが全滅するか、戦場が無くなるとき。
「それじゃ、いこうか」
「猫達よ、俺に平和を護る力を与えてくれ!」
クレーエが、ギメリアが、そしてケルベロス達が得物を構え、次の戦いへと身構える。
●
残る足場は七割程度。
だがそれは、七割が無傷という意味ではない。
無傷の足場もあれば、損傷しながらも墜落までは至っていない足場も、墜落寸前の足場もある。
ヒールで回復しようにも、広範囲で戦闘を繰り広げている最中では気休め程度の効果も見込めない。
傾き、高さを変え、刻一刻と姿を変えていく戦場を、ケルベロス達は駆ける。
(「合わせてくれ!」)
(「――!」)
一瞬のアイコンタクトから放たれる、ギメリアと『ヒメにゃん』のコンビネーション。
戦いの余波か、無数の足場の破片が降り注ぐ中。
そんなものは何の障害にもならぬとばかりに突き進む竜の勢いを、轟竜砲とキャットリングの十字砲火が怯ませて。
周囲を薙ぎ払う雷光を貫くアベルの砲撃は、竜の咢に噛み取られるも――砲弾に続けて飛び込んだリーズレットと奏のグラインドファイアが竜に十字の印を刻み付ける。
連戦の疲労は確実に蓄積している。
だが同時に、高まった戦意が力を与えている。
咆哮をあげながら二人に向けて竜が振るうヒレを、割り込んだ菜々乃の弓が受け止める。
衝撃を殺すために後ろに飛びつつも、空中で身をひねって綺麗に足場に着地して、
「空中アクションは怖いですけどここは猫の身軽さを見せる時なのです」
傾き崩れる不安定な足場の上でも猫の動きは健在と、得物を構えてウインク一つ。
受けたダメージをクレーエがスターサンクチュアリで癒す中、伶が放つフォーチュンスターに竜の意識が向いた隙をつき、一息に距離を詰めた幽梨が振るう刃が竜を切り裂く。
後一歩、後一手。
自分のため、仲間のため、大事な人のため、世界のため。
背負った重みは、それだけの力になる。
無論、それで限界を超えて戦い続けることはできず――。
幾度目かの放電を受け止めて、『モラ』と『プリン』が消滅し。
続くヒレの切り裂きを受けて、菜々乃自身も膝をつく。
「……すみません、後はお願いするのです」
申し訳なさそうに、振り返りながらも戦場から飛び降りて……これで、ディフェンダーは尽きた。
一方で、竜の動きも鈍り、体力は尽き欠けていることが見て取れて。
さらには、手近な足場はすでになく、今の足場も一分もせずに高度を落として消えるだろう。
――故に、ここが勝負所。
「これで決めるよ!」
リーズレットが投擲する大鎌の刃が竜の体を切り裂いて。
続く伶のコアブラスターは電撃に相殺されるも、一瞬遅らせて奏が放つ惨劇の鏡像が竜の精神を切りつける。
ここで竜を倒せればケルベロス達の勝利で、ここを凌げば竜の勝ち。
だからこそ、今は攻撃に全力を尽くすとき。
「頭が高い……跪け!!」
それまでの回復役から離れ、クレーエが体内に宿る《悪夢》の残滓から呼び出す悪魔の化身。
その声が叩きつける圧倒的なプレッシャーが、竜の動きを抑え込み、
「――んん?」
刀を構える幽梨の視線の先で、プレッシャーを振り切った竜が、ゆらり、と空を泳いで距離を取る。
それは、攻撃でもなく、回避でもない――ポジション移動。
「つまり……舐めた、と」
その動きに、幽梨の視線が鋭さを増す。
足場がもう持たないならば、わざわざ戦う必要もない。
そして――戦いの中で近接攻撃しか使っていない幽梨は、飛行状態になれば警戒する必要がなくなる。
そういわんばかりの竜の視線に、笑みで応えて、
「近付いて斬るだけじゃないんだよねぇ、これが!」
斬滅奥義・飛燕散華。
得物を振り抜くと同時に、剣に纏う闘気が手裏剣のように放たれる。
幽梨が真っ向からの斬り合いを好むために使うことは少ないが、遠距離攻撃がないわけではないのだ。
「――!?」
花弁が散るような軌跡を残して疾る闘気に貫かれ、予想外の攻撃に竜は大きく体勢を崩し、
「世界中の生きとし生ける愛すべき猫達よ、俺に平和を護る力を与えてくれ! 聖天使猫龍撃・改!」
その隙を逃すことなく打ち込まれる、絶対零度の炎を纏ったギメリアのパイルバンカーが竜を貫き。
続けて、アベルが巨大変異した両手の竜爪を振るえば、軌跡が生み出す超重力衝撃波が竜の体を引き裂いて、
「空の果てに散れ!」
――戦いに、終わりを告げた。
作者:椎名遥 |
重傷:東雲・菜々乃(のんびり猫さん・e18447) 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2019年1月30日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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