封印城バビロン決戦~天空の最終防衛ライン

作者:雷紋寺音弥

●日本列島崩壊危機!?
「リザレクト・ジェネシス追撃戦に参加してくれた者は、お疲れ様だったな。お前達のおかげで、戦場で討ち漏らした多くのデウスエクスを撃破する事に成功した」
 だが、このまま手放しで喜ぶわけにはいかないと、クロート・エステス(ドワーフのヘリオライダー・en0211)は念を押すようにしてケルベロス達に告げる。先の戦いで多くのデウスエクスを撃破できたものの、それで全てが終わったわけではない。
 城ヶ島での、ドラゴン勢力との戦い。熾烈を極める激戦の末、3竜の撃破にこそ成功したが、しかしドラゴン達の命を賭した迎撃によって、固定型魔空回廊が完成してしまったのは記憶に新しい。その魔空回廊を通して、竜十字島から多数のドラゴンが城ヶ島に出現しているのが現状だ。
「人口密集地である東京圏に、ドラゴンの拠点がある危険性は言うに及ばないだろう。大至急、俺達の方でも奪還作戦を検討していたんだが……複数のヘリオライダーにより、それ以上に恐ろしい予知がもたらされた」
 ドラゴン勢力が、命を捨てでも城ヶ島に執着していた理由。それは、日本列島に走る龍脈、フォッサ・マグナであるとクロートは告げた。
「この地図を見てくれ。日本列島は、北アメリカプレート、ユーラシアプレート、そしてフィリピン海プレートの3つの境目となっている。城ヶ島から、そのプレートの裂け目に沿って北に進むと……そこにあるのは『封印城バビロン』だ」
 ドラゴン勢力は封印城バビロンと城ヶ島を結ぶフォッサ・マグナを暴走させ、関東圏を壊滅させることによって、大量のグラビティ・チェインの獲得を目論んでいる。そのグラビティ・チェインで『惑星スパイラスに閉じ込められた』ドラゴンの勢力の救出を行おうというのが、彼らの真の目的だろう。
「この企みを阻止するには、作戦の起点である『城ヶ島』か『封印城バビロン』のどちらかを破壊する必要がある。だが、固定型魔空回廊がある以上、城ヶ島に向かうことは竜十字島の全戦力を相手にすることに等しい」
 つまり、『封印城バビロンの破壊』が唯一の手段だ。もっとも、敵もそれは分かっているのか、そう簡単に破壊を許すはずもなく。
「ケルベロスによるバビロン攻略を察知したドラゴン勢力は、『竜影海流群』をバビロン救援に差し向けた。竜十字島近海の防衛ラインを構成していたエルダードラゴンの一種で、その移動速度と一糸乱れぬ集団戦において、ドラゴン勢力でも屈指の能力を誇っている軍団だ」
 この援軍が大挙して封印城バビロンに到達すれば、バビロン攻略は極めて困難になる。これを阻止する為、世界中から可能な限りの飛行船や気球を集め、空中に城塞を築いて迎撃態勢を整えた。この飛行船と気球を足場として、飛来するドラゴンを迎え撃ち、撃退するのが今回の任務であると、クロートは集まったケルベロス達に説明した。
「『竜影海流群』を迎撃するために用意した気球や飛行船は、ロープや鎖で繋げられている。それを足場にすれば、空を飛ぶドラゴンとの空中戦も可能だろう。お前達の身体能力を以てすれば、ロープや鎖で繋がれた戦場を、縦横無尽に走り回りながら戦うこともできるだろうからな」
 無論、ドラゴンは1体でも強敵なので、互いに連携しながら戦う必要がある。加えて、気球や飛行船はドラゴンの攻撃に耐えることができないため、まともに戦える時間は15分程度。その間に、最低でも1体以上のドラゴンを、1つのチーム毎に撃破しなければならない。
「敵を突破させない為には、戦場全体に戦力を分散して配置する必要がある。可能な範囲で助け合ってもらいたいとは思うが……原則として、他チームからの支援は受けられないと思っておいてくれ」
 敵はドラゴンらしく、遠距離からは強烈なブレス攻撃を仕掛けて来る他、強靭な尾の一撃も強力だ。飛行に特化しているため鋭い爪こそ持たないが、額に生えた巨大な角による攻撃は、その代わりとして十分な威力を秘めている。
「1チームが1体以上のドラゴンを撃破できれば、増援阻止としては充分な成果になる。可能ならば、複数体のドラゴンの撃破を狙っても良いだろうが……くれぐれも、無理は禁物だぞ」
 最悪、ドラゴンの攻撃により危機に陥った場合は、落下による離脱も視野に入れても良いかもしれない。高空から地面に叩き落される為、そのままでは戦場に復帰することも難しいが、グラビティ以外でダメージを受けないケルベロスであれば、少なくとも高空からの落下だけで死ぬことはない。
「……ただし、一つだけ忠告しておこう。……落下の衝撃は、恐らく死ぬほど痛いぞ……」
 それでも絶対に死なないのがケルベロスの凄いところだが、安易に選択したくないのも、また事実。
 最初から負けた時のことばかり考えていては、勝てる戦いも勝てなくなる。まずは、少しでも敵の戦力を減らせるよう、可能な限り頑張って欲しい。
 そう言って、クロートは改めて、ケルベロス達に依頼した。


参加者
ジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)
ムギ・マキシマム(赤鬼・e01182)
モモ・ライジング(神薙桃竜・e01721)
スノーエル・トリフォリウム(四つの白翼・e02161)
リィン・シェンファ(蒼き焔纏いし防人・e03506)
夜陣・碧人(影灯篭・e05022)
影渡・リナ(シャドウフェンサー・e22244)
エリオット・アガートラム(若枝の騎士・e22850)

■リプレイ

●天空の決戦
 蒼穹の空にずらりと並んだ、数多の気球や飛行船。互いに綱で繋ぎ合い、蜘蛛の巣の如き足場を形成しているそれらこそ、ドラゴン勢力の増援を阻止するための最後の砦。
「……来たわね。それにしても、凄い数」
 遠間に見える黒い影。空を埋め尽くさんばかりの海流群に、影渡・リナ(シャドウフェンサー・e22244)は緊張した面持ちで拳を握り。
「空が半分、敵も半分と言ったところか? ……否、後続が来ることを考えれば、より数は多いか」
 リィン・シェンファ(蒼き焔纏いし防人・e03506)もまた、冷静に敵と味方の戦力差を見極めつつ、それでも退くという選択は頭から捨てていた。
「日本列島を真っ二つ!? ドラゴンの考えることって相変わらずスケールが大きいけど……」
「ケルベロスの皆でここまで来たのよ。これ以上、あなた達の勝手にさせるのは私達が許さない!」
 スノーエル・トリフォリウム(四つの白翼・e02161)が顔を上げ、モモ・ライジング(神薙桃竜・e01721)が銃を構える。時間にして数秒の間だったが、それでも竜達は、既に目と鼻の先にまで迫っていた。
「人と竜の共存は、未だ遠く、か……」
 激しい敵意を向ける竜の群れを前にして、夜陣・碧人(影灯篭・e05022)は軽く溜息を吐く。もっとも、それで譲歩してくれる相手であれば苦労はしない。
「彼らも死に怯えているんだろうな。……すまんな」
 肩に乗せたボクスドラゴンのフレアを軽くなで、碧人は軽く眼鏡の位置を直して敵を見据えた。
 定命化の痛みと苦しみは、果たしてどれ程のものなのだろう。自分の始祖たる先人達は、それを受け入れ、この地球で生きることを決意したが……戦い、食らい、進化し続けることを至高とするドラゴン達にとっては、平穏こそが何よりの束縛であり牢獄と呼べるものなのかもしれない。
 だが、ここで考えていても仕方がない。今はただ、目の前の敵を倒すのみ。雑念を振り払うようにして、ムギ・マキシマム(赤鬼・e01182)は軽く拳を掌に叩き付け。
「さて、それじゃあ、筋肉は空さえも舞う事をドラゴン共に教えてやろうかね」
「ええ……参りましょう。仲間を、そして名も知らぬ誰かを守るために……!」
 エリオット・アガートラム(若枝の騎士・e22850)の掛け声と共に、ケルベロス達はロープを足場に散って行く。
「ふっ……。この戦い、負ける気が……しないな!」
 ICチップより流れる相棒の歌声を聞きながら、ジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)もまた気球と気球を繋ぐ縄の上を駆け抜けた。
 狙うは、正面から迫る1体の竜。衝角の如き角に怯むこともなく、巨大な盾で身を固めつつも、豪快に懐へ飛び込んで行った。

●両雄相討つ
 日本列島を断裂させるべく、封印城バビロンへと集うドラゴン勢力。その増援を阻止するべく空中の砦にて迎え撃つケルベロス達であったが、いつもとは異なる足場の状況に、思わぬ苦戦を強いられていた。
「は、速い! でも、落ち着いてしっかり狙えば……」
 竜砲弾で敵を狙うリナだったが、揺れる足場のせいで、なかなか狙いが定まらない。
 ならば、ここは自分が足を止めよう。そう言って飛び出した碧人に続き、フレアとマシュ、二匹のボクスドラゴンが、同時にブレス攻撃をお見舞いし。
「あなたが立ち向かっているのが誰なのか、改めて見せつけちゃうんだよ? ……さぁここに、おいでっ!」
 竜の幻影を背後に呼び出し、スノーエルが高々と告げる。敵のドラゴンにとっても、竜の幻影を攻撃することは、同族を屠るのと同様の嫌悪感を与えられるだろうと。
 果たして、そんな彼女の読みは正しく、ドラゴンは少しばかり躊躇った様子で動きを止めた。その隙を狙い、仕掛けるジョルディ。彼のアームドフォートが火を噴けば、圧倒的な火力による弾幕で、敵の接近を許さない。
「行かせぬぞ……ここから先は、一匹足りとも!」
 敵の姿が煙の向こう側に見えなくなっても、ジョルディは砲撃を続けて行く。しかし、敵もまた強大なドラゴンである以上、どれだけ傷つこうと決して戦うことを止めはせず。
「……ゴァァァァッ!!」
 咆哮と共に放たれる紅蓮の火炎。横に薙ぎ払うような形で放たれたそれは、縄と鎖で結ばれた足場を、一瞬にして焼き尽くし消滅させて行く。
「……っ! いけない! 早く戻って!!」
 慌ててモモがオウガメタルを細く、長く伸ばして捕まえようとするが、時既に遅し。ジョルディを上に乗せた気球は縄が切れ、そのまま風に乗って戦場より遠くに流れ出した。
「足場の確保が難点ではありましたが……まさか、これ程までに戦況を左右されるとは……」
 本体から外れてしまった気球を、エリオットもまた歯噛みして眺める他にない。鎖や縄をヒールするにしても、その時間と手間を考慮した場合、仲間を危険に晒してまで行う価値のあるものでもなく。
「案ずるな! 横の道は失われても、縦の道は繋がっていようぞ!」
 気球や飛行船は、この戦場の上にも下にも存在する。そこを目掛けて飛び降りれば、まだ希望はあると叫び、ジョルディは飛んだ。
(「くっ……やはり、距離が開き過ぎたか。これでは砲撃の反動を利用しても、隣の気球に飛び移るには足りぬ……」)
 残念ながら、自分はここで一時離脱だ。しかし、それでも空の迷子になった挙句、敵の良い的にされて落とされるよりはマシだろう。
 必ず戻る。それだけ言って、ジョルディの姿は眼下へと消えた。無事を確かめるべく、何人かの者が下を覗き込もうとしたものの、それを許す程ドラゴンは甘い相手ではなく。
「油断をするな! 次が来るぞ!」
 リィンの言葉に、ハッと我に返る仲間達。そう、今は余計なことを気にしている場合ではない。限られた時間の中、どれだけドラゴンを倒せるかという戦いにおいては、1分1秒の時間でも惜しいのだから。
「この剣舞は炎の舞、貴様を地獄へと誘う死出の舞! 塵も遺さず消え失せろ!」
 縄を足場に飛び回り、リィンは踊るような動きで敵を翻弄しつつ、炎の刃で斬り付ける。それに続けて他の者達も一斉に攻撃を仕掛けるが、やはり攻撃手を1人欠いた状況では、今までと比べても火力が劣る。
「ここまでで8分……。もう、折り返しね」
 時計を見やり、モモが言った。このまま行けば押し切れるが、しかし無駄に時間を欠いてしまえば、それだけ敵の群れを見逃すことにも繋がってしまう。
 焦りは隙を生むと知っていたが、それでも焦らずにはいられなかった。そんなケルベロス達の動揺を察してか、ドラゴンは一瞬、高く舞い上がると、高空より真っ直ぐに獲物を捉え、そのまま一気に急降下して来た。
「気をつけてください! 角で貫くつもりです!」
 あの速度で直撃を受ければ、無事では済まない。散開して避けるように叫ぶ碧人だったが、しかし迫り来る敵を前に、敢えて避けない者が、ただ一人。
「やりたい事がまだまだ沢山あるんでな。こんなところじゃまだ死ねねえ。だから……お前が死ね!」
 それだけ言って、ムギはドラゴンの前に身を晒し、その攻撃を真正面から受け止める。瞬間、激しい痛みが彼の身体を襲ったが、それでも彼は決してドラゴンから離れることはなく。
「悪いな、俺はこれでも諦めが悪いんだ。最後の最後まで付き合ってもらうぜい」
 心に宿した地獄の炎。それを呪詛により固めて刃とし、そのまま敵の翼を斬り付ける。鋼鉄をも溶かす灼熱の刃をまともに食らい、バランスを失ったドラゴンは、そのままムギ諸共に落下して行く。
「グォォォォッ!!」
 このまま死ぬのであれば、せめて道連れにしてやろう。残る翼を執拗に動かし、口を開いて至近距離からブレスを放とうとするドラゴンだったが、それでもムギは離れない。自らの身体に角が突き刺さったままの状態で、幾度も敵の身体を打ち据えて。
「我が筋肉はドラゴンさえも切り裂くと知れ! 空はお前達だけのもんじゃねえ! 舐めるなぁぁあああ!!!」
 落下しながらも食い下がり、そのまま吸い込まれるようにして、遥か下界へと消えて行った。
「や、やったの……!?」
「ええ、恐らくは……」
 下方から聞こえて来た竜の断末魔。それを聞いたエリオットが、リナの問いに軽く頷いて答える。
 だが、それでも休んでいる暇はなさそうだ。顔を上げて正面を見据えれば、新たなドラゴンがこちらに狙いを定め、翼を広げて向かって来ているところだった。

●大空の墓標
 ムギの決死の行動によって、辛うじて一匹目のドラゴンを退けたケルベロス達。
 だが、体勢も整わぬ内に二匹目も相手にするとなれば、苦戦の度合いは一匹目との戦いの比ではない。おまけに、ジョルディとムギという二人の攻撃手を欠いた状態では、圧倒的に火力不足だ。
「残り時間は……残念だけど、後3分が限界ね」
 それ以上は本当に無理だと、モモは揺れる飛行船の上から仲間達に告げた。
 見れば、足場もかなり破壊され、まともに使える場所は極僅か。フレアやマシュといったボクスドラゴン達は度重なる攻撃から味方を守り続けた結果、既にその姿を消していた。
 サーヴァントも入れれば、欠員は3名。そんな中、たった1人で仲間達の盾となり続けて来たリィンだったが、彼女もまた限界は近かった。
「来るぞ! 避けろ!」
 そう言って再び自らの身体を盾にするも、これ以上は本当に限界だ。強烈な尾の一撃に弾き飛ばされ、リィンは近くの気球に叩き付けられる。このままでは落下してしまうと、慌てて縄を掴んだものの、指先に力が入らない。
 自分も、どうやらここまでか。否、それは駄目だ。ここで自分が倒れたら、それは後方に控える仲間達を危険に晒すことに繋がってしまう。なによりも、ただでさえ足りない手数が更に不足し、このドラゴンを取り逃がすことになってしまう。
「悪いが、此処で膝をつく訳には……いかないんでなぁっ!」
 肉体は既に限界だったが、それでも彼女は自らの魂の力だけで、強引に意識を繋ぎ止めた。負傷は気合で吹き飛ばし、縄を握る手にも力が戻る。そして……そんな彼女の叫びに応えるかのように、飛翔する4発の弾丸が。
「あれは……」
「1&3! ターゲットロック! 貴様の墓標……その身に刻んで地獄へ墜ちろ! Funeral! Reverse ! Cross! ……Fire!!!」
 突然、目の前に浮かび上がって来た1つの気球。その上に立つ黒き騎士が放った銃弾が、竜の身体に十字の弾痕を刻む。
「ジョルディさん! それに……ムギさんも!?」
 気球の上に乗っていた者達の姿を見て、スノーエルが思わず叫んだ。そこにいたのは、落下したはずの仲間達。普通に考えれば、戻ってこれる可能性は奇跡に等しい。だが、それはあくまで、なにも考えなしに飛び降りた場合の話。
 下に広がる足場に目を付け、そこに狙いをつけて飛び降りる。かなり難しい技ではあるが、ケルベロスの身体能力を駆使すれば不可能ではない。
 そして、再び上に登るのであれば、綱渡りをするよりも足場を1つ拝借した方が手っ取り早い。大型の飛行船ではなく小型の気球であれば、少人数で上昇させるのも容易いことだ。
「さあ、ここで決めようぜ。残り時間も、少ないんだろう?」
 腹の傷を押さえながらも、ムギが力強く立ち上がる。その姿に鼓舞され、他の者達も頷いた。
「風舞う刃があなたを切り裂き……」
「……冬の鎖、地と水を従える精。鍛冶師は氷刀を振るう」
 リナの繰り出す風刃が、碧人の呼び出した妖精の氷刀が、それぞれに竜の身体を斬り裂いてゆく。その様は、さながら氷刃が乱舞するかの如く。刃の吹雪に捕らわれた竜は、もはや逃れる術もなく。
「天空に輝く明け星よ。赫々と燃える西方の焔よ。邪心と絶望に穢れし牙を打ち砕き、我らを導く光となれ!!」
 続けて、エリオットが聖剣を掲げ、闇を切り裂く光芒を叩き込む。それは、先の一撃でジョルディが与えた十字の弾痕に重なって、更なる傷を竜へと負わせ。
「こいつはオマケだ。とっときな!」
 敵の身体の中心目掛けてムギが大鎌を投げつけたところで、モモが左手を強く握り締め、自らの駆るオウガメタルにグラビティ・チェインを分け与えることで銃弾とした。
「オウガちゃん、頼んだよッ! ……喰らえッ!」
 目には目を、歯には歯を、そして竜には竜をぶつけるべし。放たれた銀の弾丸は、敵の体内にて銀の龍へと姿を変え、そのまま内から食い破る。
 一瞬、その身を膨れ上がらせたかと思うと、ドラゴンの背中から銀色の龍が飛び出して、再びモモの手に吸い込まれるようにして戻って行った。背中を貫かれたドラゴンは力尽き、そのまま物言わぬ残骸として、糸の切れた凧のように落下して行った。
「覚えておくが良い! 人の叡智は竜をも超える事を!」
 地上へ堕ちて行くドラゴンへ、ジョルディは最後に高々と告げる。
 不完全な命と肉体。それ故に、その弱さを補うため知恵を使う。それこそが、人の真髄であり、奇跡を起こすための力なのだと。

●蒼穹に誓う
 天空の砦の攻防戦は、ケルベロス達の勝利に終わった。
 時間にして15分。短いようで、しかし随分と長い時間にも感じられた。誰もが決して無傷とは言えない状態だったが、それでもドラゴンを2体も撃破したという事実は、戦果としては十分だった。
「限界ね。さあ、引き上げるわよ」
 腕時計を見てモモが告げたのを皮切りに、次々と降下して行くケルベロス達。そんな中、最後にジョルディは空を仰いで、独り静かに呟いた。
「今度は……戦闘以外で来たいものだな」
 この地球に本当の平和が訪れた時、誰もが青き空を拝めるように。それまでは、己の信念に従って戦い続けよう。そう、心の中に刻み込んで、彼もまた戦場となった天空の砦を後にした。

作者:雷紋寺音弥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年1月30日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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