イチバン価値あるJKだから

作者:遠藤にんし


「ねーねー! カラオケ行こうよ!」
「行きたーい! ドリンクバーのソフトクリーム食べたい! あとフライドポテト!」
「大盛で食べちゃおっか! やばい、太るかも!」
 放課後――言い合いながら廊下を歩くクラスメイトを一瞥して、美月は顔を背ける。
「ばっかみたい」
 そんな美月の声が聞こえたのか、廊下のクラスメイトたちは気まずそうにそそくさと退散。
 それでも、美月の独り言は止まらない。
「メイクも下手くそでブクブク太って……JKが一番オンナの価値が高い時なのに、自分磨きしない意味がほんとに分かんない」
 呟いて席を立つ美月は、確かに美しい。
 姿勢も美しければプロポーションもよく、髪の毛の先も爪の先も、隙が無いほど整えられている。
 それに比べて、彼女たちは……ソフトクリームやポテトのカロリー計算もせず、脂質や糖質の制限もせず、指先だってささくれがあって。
「素晴らしい向上心ですぅ!」
 そんな美月の背後から聞こえたのは、そんな声。
「自分勝手な向上心はさすがですぅ」
 美月の細い背中へと、鍵が差し込まれ。
「駄目な人たちをやっつけてあげてくださいぃ!」
 美しきドリームイーターを生み出して、『サクセス』のドリームイーターは言うのだった。

「とある高校で、ドリームイーターが出現したようだ」
 高田・冴(シャドウエルフのヘリオライダー・en0048)はそのように、ドリームイーター『サクセス』の出現について告げる。
 高校生が持つ強い夢を奪って強力なドリームイーターを生み出そうとしている『サクセス』が今回狙ったのは、美月という女子生徒。
「彼女は美にかける強い向上心があるんだが、その向上心の方向が少し歪んでいてね。そこを狙われたようだ」
 夢の源泉である向上心を弱めさえすれば、ドリームイーターを弱体化することが可能だろう。
「友達と遊ばず、恋人も作らず、ただ自分が綺麗になるために努力をしている……そんな彼女の今の努力が間違っている、というようなことを言ってあげれば、弱体化は出来るはずだよ」
 放課後の学校ということもあって校内に人は多くない。簡単な人払いさえあれば、人を巻き込まずに済むことだろう。
「階段の踊り場にいるようだから、そこに急いで向かってあげれば他の犠牲も出ないはずだよ」
 ケルベロスとの戦いが始まれば、一般人に手を出すこともない。
「人の夢を利用するやり方は良くないね。こんなドリームイーター、倒してしまおう」


参加者
神無月・佐祐理(機械鎧の半身・e35450)
阿賀野・櫻(アングルードブロッサム・e56568)
ジュスティシア・ファーレル(エルフの砲撃騎士・e63719)
アルベルト・ディートリヒ(昼行灯と呼ばれて・e65950)

■リプレイ


 階段の踊り場に倒れる少女、美月。
 彼女のすぐそばには、美月と同じように美しいドリームイーターが立っている。
 ――ケルベロスたちはプラチナチケットを使って学校内に入り込み、ドリームイーターの前に立つ。
「あら。何か用? 私は暇じゃないんだけど」
 桜色の唇からはそんな高慢な言葉。
 アルベルト・ディートリヒ(昼行灯と呼ばれて・e65950)はそんなドリームイーターの首元に刀を突きつけ、告げる。
「じゃあ、女性としての価値が一番高い今、お前の時を止めてやろうか? 心臓を一突きにして、苦しませず綺麗な死に顔を残してやるよ」
「……っ!」
 死にたい、と思っているわけではないのか、ドリームイーターの顔が歪む。それでもアルベルトの言葉は止まらない。
「ただしお前の美貌を忘れない友人や男など皆無だし、その性格じゃ親兄弟すら怪しいな」
 俺達も仕事で来ているから覚えていられる自信は全然ない――彼女の持つ自尊心を打ち砕くように、アルベルトは言う。
「ケルベロスは何故か、美男美女が掃いて捨てる程いるんでね。ほれ、この女性陣を見りゃわかるだろ」
 アルベルトが視線を後ろへやれば、今回の事件へ当たる三名の女性ケルベロスの姿がそこにある。
 整った顔立ち、という点では美月も勝るとも劣らないが……人間性まで見るとなると、勝負は明白である。
「夭逝して美貌を長く語り継がれてる女優はいるが、お前は違う。悲しい程何も残らん」
 たとえ見た目が悪くても、頭が良くなくても、これなら楽しんだ者勝ちだな、とアルベルト。
「それでもよければ心臓を一突きにしてやる。何、この先生きてても女の価値が下がるだけだから辛いだろ」
「……」
 女子高生が一番オンナの価値が高い時。
 美月の言葉へそう返すアルベルトだったが、ドリームイーターは喜んで首を差し出すようなことはなく、そんな美月の様子にアルベルトは刃を下ろす。
 眼差しには呆れすらなく、哀れみだけがあった。
 ……ドリームイーターのフォローをするように、神無月・佐祐理(機械鎧の半身・e35450)は声を掛ける。
「向上心そのものは立派ですし、むしろ尊敬に値します」
「確かに貴女の容姿は美しい」
 ジュスティシア・ファーレル(エルフの砲撃騎士・e63719)もそう声をかけ、その上で尋ねる。
「だけど褒めてくれる友達や恋人はなく腫れ物扱いで、他人の目を楽しませる事すら出来ない。しかもこの先の長い人生、一体どうやって生きていくつもり?」
 女子高生のうちが一番、ということは、彼女は今後、自分の容姿が年齢によって劣化していくということは理解している。
 ジュスティシアはそう判断して、その上で逃れ得ない劣化にどう対処するつもりなのかと問いかけた。
「そんなの……知らない。なんとかなる」
 しかし、返事はそれだけ。
 美に執着しながらも他のことをおろそかにしているようでは、彼女が馬鹿にしている子たちの方が外見以外の面でよほど充実した人生を送ることが出来るだろう。
「私も貴女から見ればオバサンだし、仕事が楽しくて美容にかまける暇もないのに、綺麗ってよく言われますね」
 ジュスティシアの持つ美しさは生来のもの、造形だけのものではないのかもしれない――本当は多少は外見に気を遣ってはいるが、それは内緒にしておこう。
「かわいそうに……」
 アルベルトと違ってジュスティシアが彼女に優しげな態度を取るのは、哀れみと蔑みを抱いているから。
 それに、と思い出して言うジュスティシアは頬を染め、ドリームイーターに耳元で囁きかける。
「……私の亡き恋人も『お前が世界で一番美しい』と言いながら優しく愛してくれました」
 純粋な見た目だけで言えば、美月の方が上だと感じる人もいるかもしれない。
 しかし女としての価値は自分の方が上なのだと、ジュスティシアは告げる。
 女としての価値がない美月の美は無駄で虚しいばかりのもの。美しさを活かしたいのであれば美容以外のことや他人を尊重した方がいい、と伝えるジュスティシア。
「『認めてくれる』人が誰もいないって、それって物凄く寂しすぎませんか?」
 佐祐理は尋ね、私事ですが、と前置きしたうえで自身の手足をドリームイーターに見せる。
「爆発事故に巻き込まれ長期入院しましたが、その時間はもうどんなことをしても取り戻せません……この脚や腕のように!」
 佐祐理の体が元に戻ることは、決してない。
 美月の美貌もまた、明日にはどうなっているのか分からないのだと佐祐理は熱弁する。
「刹那的に生きていい、とは間違っても言いませんけど、明日の約束は誰にも出来ませんよ! 今、仲間や恋人を作りうるチャンスを失ってまで、かける未来はあるとは思えません!」
 そして阿賀野・櫻(アングルードブロッサム・e56568)は、根本的な問題――彼女の目的について問う。
「貴女は何の為に綺麗になりたいの?」
 櫻には、彼女はただ他人を見下しているだけにしか見えない。
 それが綺麗になるために必要だと、櫻には思えないのだ。
「本当の自分磨きっていうのは、大きな目的の為の道筋として行うもの。手段と目的を履き違えたら、それはただ自分に酔っているだけの自己満足に過ぎないわよ」
 何のための美なのか、美を得て何を為すのか。
 他者への尊重がないのであればその美は無駄なものになってしまうと櫻は告げ、ドリームイーターを見つめるのだった。


「確かに、美しいだけっていうのは無駄なのかもしれないわね」
 ドリームイーターが呟くと、その身に宿っていた重圧のようなものが薄れるのをケルベロスたちは感じた。
「だとしても――私は!」
 ドリームイーターとして誕生した以上、ケルベロスとは敵対するほかない。
 知識を喰らい尽くそうとするドリームイーターと真正面から向き合うジュスティシアは癒しの力を広げて己の耐性を高め、それによって身動きを封じようとするドリームイーターの意図を打ち砕く。
「続いてください」
「任せろ」
 ジュスティシアの言葉に短く返し、アルベルトは破壊槌を思わせる形のドラゴニックハンマーを砲撃のための姿へと変容させる。
 轟音と共にドリームイーターに着弾、その地点を中心にして爆風が吹き荒れる――アルベルトの柔らかな銀髪と共に、招き猫のストラップの風になびいて揺れていた。
 アルベルトによって引き起こされた猛風の中でも佐祐理が立っていられるのは、機械化されている右足があるため。
(「美しくありたい、というのは解ります。解りますけど……一体目指す方向は何なのかしら?」)
 風の中でもドリームイーターを見つめつつ、佐祐理は思う。
 恋人を作るでもなく、異性を手玉に取るでもない美月。
 友人にチヤホヤもそれ以前に友人はいないようで、ならば憧れのブランドの洋服を着こなしたり、可愛い・似合っているという言葉を求めているのか……。
「……正直、解らなくなって参りました……」
 頭上にハテナマークが浮かびそうなほど思い悩んでいるうちに、風も止む。
「ともかく、向かいます!」
 右腕の機構が展開させ、ドリームイーターへと突き付ける佐祐理。
 レプリカントとしての本領発揮とばかりに佐祐理が一撃をお見舞いする中、櫻はワイルドと化した心から混沌の水を引き出し、仲間たちへ降り注がせることで癒しを作る。
(「今流行りの『意識高い系』ってやつなのかしら」)
 櫻もまた、ドリームイーターを作り出した美月について思いを馳せる。
 高校生といえば多感な時期。自分を特別だと思いたいあまりこのような考えに至ったのかもしれないが――何であれ、櫻にはドリームイーターの目論見を座視することは出来ない。
(「私みたいに心を引き裂かれる子は、もう見たくないもの……」)
 思う櫻の手首で、真紅のブレスレットが揺れていた。


 庇いに徹するジュスティシアが知識を喰らわれ、身動きが取れなくなる。
「大丈夫かしら?」
 それに気づいた櫻は即座に魂うつしによって体力と、奪われたものをジュスティシアへ返す。
「……ありがとうございます、助かりました」
 櫻へ言ってからジュスティシアは、改めてドリームイーターへと視線を向ける。
 庇い続けてジュスティシアはダメージを受け続け、癒しきれない疲労が自身を蝕んでいることは感じていた。
 対するドリームイーターは体力にこそ若干の余裕は残しているが、癒しの手立てを持たないからこそ負荷は多い。短期的に見ればケルベロスたちが不利と言えるが、長期的に見れば逆転は可能だろう。
(「そのためには――」)
 倒れるわけにはいかないと心に決めて、ジュスティシアはヴァルターGSS04携行式ランチャーを構える。
 高精度のランチャーから主砲を一斉発射、ドリームイーターの体に加えられた痺れが、今度こそその動きを止めさせることに成功した。
「今の内だな」
 呟くアルベルトの手にはクラブスピア。
 動けずにいるドリームイーターは恰好の的。青の眸を細めて狙いを定めると、アルベルトはドリームイーターへ告げる。
「そこを動くなよ」
 言うまでもなく動けずにいるドリームイーターへ、風神のごとき刺突が襲い掛かる。
 突き立てられた一撃にドリームイーターはか細く悲鳴を上げるが、やはり動くことは出来ない――反撃の力を籠めて、ケルベロスたちは攻手へと打って出た。
 振り払うことの出来ない負荷に苛まれるドリームイーターのお陰で、立て直しも十分に。立場が逆転するにはそう時間はかからず、立て続けの攻撃にドリームイーターの体力は残り僅かとなっている。
「Das Adlerauge!!」
 それを見て取った佐祐理が短く叫べば、佐祐理の右目からはレーザーが放出。
 命中精度こそ低いものの、戒められたドリームイーター相手ならばこの程度でも十分。
 高出力のレーザーに灼き尽くされ、ドリームイーターは消滅した。


 戦場のヒールも終わるころ、美月は目を覚ました。
「目は覚めましたか?」
「はい……あの、」
 問いかける佐祐理に対し、どこか居心地悪そうに、すまなそうな表情を浮かべる美月。
 ドリームイーターに対して掛けた言葉は、どうやら彼女の心にも届いているようだ……そう感じ取って、佐祐理は美月へと声をかける。
「スキがなさすぎる、は、スキだらけ、にもなりかねませんよ」
 美しくなるというのは手段。
 それを目的にしすぎては『ステキ』からは程遠くなってしまう……そう伝える佐祐理。
「色々厳しい事も言っちゃったけど、本当に自分を高める意志が有るなら、他人に対してじゃなくて自分に厳しくなりなさい」
 貴女ならきっとなれるはずだからと櫻は励まし、反省してしょげた様子の美月へとジュスティシアも優しい言葉をかける。
「外見を磨く事自体は良い事なんですよ。それプラスαがあれば、もっともっと素敵になれます」
 中身が変わっているのなら、彼女はきっと素敵な女性になれるはず。
 そう信じて彼女たちは美月へ言葉を送り、帰る彼女の後姿を見送った。
「一件落着だな。俺達も帰るとしよう」
 アルベルトの言葉に、三名はうなずいて。
 日の暮れて青くなった町へと、ケルベロスたちは足を向けるのだった。

作者:遠藤にんし 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年1月19日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
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