封印城バビロン決戦~空戦城塞ヘブンズフォール

作者:木乃

●フライト・ディフェンス
「リザレクト・ジェネシス追撃戦、お疲れ様でございます。皆様のおかげで、ケルベロス・ウォーで討ち漏らした有力デウスエクスの多くを撃破することに成功しましたわ。特に城ヶ島のドラゴンとは熾烈な戦いの末、3竜を撃破……地球側の勝利と言えましょう」
 オリヴィア・シャゼル(貞淑なヘリオライダー・en0098)は、ケルベロスの健闘に労いの言葉をかけるが、反してケルベロスの表情は硬い。
 その理由をオリヴィアも既に把握していた。
「ドラゴン達も決死の迎撃で固定型魔空回廊を完成させ、竜十字島のドラゴン達が城ヶ島から出現していることは存じています。人口密集地である東京近辺に、ドラゴンの拠点があることがいかに危険か……言うに及びませんわね」
 そのため城ヶ島奪還作戦についてヘリオライダー達も検討し始めていた。
 ――だが、その途中で恐るべき予知を察知したのだ。

「ドラゴン勢力が城ヶ島に固執していた理由……それは、日本列島に走る龍脈『フォッサ・マグナ』にありました。まずこちらの地図をご覧頂きましょう」
 モニターに表示されたのは、日本と列島周辺にある海洋プレートを結んだ画像だ。
 プレートは北米、ユーラシア、フィリピン海から日本列島まで伸びている。
「日本列島は、この3つの海洋プレートの境目にありますわ。そして城ヶ島からプレートの裂け目に沿って北上すると……『封印城バビロン』がありますの。つまり、ドラゴン勢力は『すでにフォッサ・マグナに干渉出来る状態』なのですわ」
 ――ドラゴンの狙いはこうだ。
 まず、封印城バビロンと城ヶ島を結ぶフォッサ・マグナを暴走させ、関東一帯を壊滅させる。
 壊滅時に発生した膨大なグラビティ・チェインを獲得し、『ある計画』を決行しようというのだ。
「その目的も解っているのか?」
 ケルベロスの問いにオリヴィアは大きく頷く。
「……惑星スパイラスに閉じ込めた、強力なドラゴンの救出ですわよ」
 強力無比である故に、尖兵を送り込むしか出来なかった強大なドラゴンが地球に現れる――それは日本が世界から消失することを意味する。

「目論見を阻止するには、要石たる『城ヶ島』か『封印城バビロン』のいずれかを破壊する必要があります。……ですが、城ヶ島には固定型魔空回廊があるため、竜十字島の全戦力との戦いは必至でしょう。全世界決戦体制は、そう何度も出来ませんわ」
 ――故に。僅かでも成功の目があるほうを優先すべきと。
 オリヴィアはもう一方の要石攻略を提案する。
「『封印城バビロンの破壊』が唯一の手段となりましてよ。作戦の第一段階として、封印城バビロンに着手いたしましょう」

 ドラゴンもケルベロスの動きを警戒し、行動を開始している。
「バビロンの援軍に差し向けられたのは『竜影海流群』というエルダードラゴンの一種です。竜十字島近海に防衛ラインを構成し、その移動速度と一糸乱れぬ統率は集団戦において、ドラゴン種でも屈指の能力を誇っているようですわよ」
 封印城バビロンにも防衛ラインを敷かれれば、攻略自体が困難になってしまう。
 しかし。
「『竜影海流群』は空路を経由……そのままでは対処そのものが厳しいですわ。……ですが、以前に同様の状況がありましたわね? ――月影島、冥龍ハーデスの迎撃戦です」
 ――記憶にある者、記録を見た者の表情がハッとする。
「今回は世界中からありったけの飛行船や気球を集め、空中に城塞を築き、迎撃態勢を整えましたわ。皆様には飛行船や気球を足場として、飛来するドラゴンを迎え撃ち、撃退して頂きます」

 一直線に封印城バビロンへ向かう『竜影海流群』だが、ルート上に気球と飛行船を配置し『全てのケルベロスが対応できる、空中での戦闘領域』を形成。
 オリヴィアは今回の特殊戦場について説明を始める。
「気球と飛行船はロープや鎖で繋げられ、飛行するドラゴンとの空中戦を可能にしましたわ。ケルベロスの身体能力であれば、ロープや鎖で繋いだ戦場を、縦横無尽に移動しながら戦う事も可能でしょう」
 ただし、相手は究極の戦闘種族ドラゴンだ。
 1体1体が強力であり、単独で挑むのは無謀中の無謀。
「必ずチームで行動し、互いに協力しながら戦う必要がありましてよ。絶対に『一人でドラゴンに立ち向かう』という無茶はしないでくださいませ」
 いつもより語気を強めるオリヴィアの忠告に、ケルベロス達も緊張の色が滲む。
「もし戦場から離脱……例えば『高空から落下』したり『足場が落とされた』場合ですわね。地上へ墜落してしまうため、戦場への復帰は叶いませんが……落下によるダメージは物理的なもの。全身に激痛が走りますが、それ以上の負傷はありません」
 ――つまり、ドラゴンの攻撃により窮地に陥った場合。
 自ら飛び降りることで、それ以上の負傷を回避できる――頭の片隅に置いておくくらいが良いだろう。
「敵の進路を予知して迎撃態勢を整えましたが、戦場を構成する飛行船や気球は地球製のもの……ドラゴンの攻撃に耐えられず『戦闘の余波で破壊される』でしょう」
 ――算出された戦闘継続時間は、15分。
 その間に、できるだけ多くの『竜影海流群』を撃破し、封印城バビロンへの接近を阻止しなければならない。
「先ほど申し上げたとおり、1体でも強力なデウスエクスですわ。戦力を分散して迎撃するため『他チームとの連携はほぼ不可能』といえます、苦しい戦いとなりましょうが……避けられない一戦です」
 全ては日本、地球全土に住まう人々のために。人類の命運はケルベロスに託された。


参加者
テレサ・コール(黒白の双輪・e04242)
皇・絶華(影月・e04491)
火倶利・ひなみく(スウィート・e10573)
七宝・瑪璃瑠(ラビットバースライオンエンド・e15685)
獅子鳥・狼猿(猟兵王かばおくん・e16404)
鏡・胡蝶(夢幻泡影・e17699)
ベルベット・フロー(フローリア孤児院永世名誉院長・e29652)
彩葉・戀(蒼き彗星・e41638)

■リプレイ

●天の城塞
 長城のごとく連なる飛空船、気球が蒼天を埋め尽くす。
 圧巻の一言に尽きるその長城の上に、小さな人影が点在していた。
 高度、およそ数十キロメートル。
 ――常人ならば酸素の薄さと、冷えきった大気の過酷な環境だけで、生命の危機を感じるだろう。

「たしかに、このような状況では我らしか対応できないな……傷一つつけられない以上、ここまでケルベロスが来る他あるまい」
 地上から視線をあげ、皇・絶華(影月・e04491)は双眼鏡越しに眺める。
 ゲームでイメージトレーニングを積んだというテレサ・コール(黒白の双輪・e04242)は、空中戦に備えて準備運動中。
「ひゃあぁぁぁ……おおおお落ちたら、死ぬほど痛いってレベルじゃないんだよぉ!?」
 戦闘不能者は足場から落とす――提案した火倶利・ひなみく(スウィート・e10573)だが、予想以上の高度に目を白黒。
 事前に聞いていたとはいえ、想定を遙かに越えている……。
 狼狽する彼女の手を、七宝・瑪璃瑠(ラビットバースライオンエンド・e15685)が握りしめる。
「パラシュートもあるし、ボク達も覚悟はできてる。ドラゴンにはもっともっと痛い目に遭わせるんだよ!」
「瑪璃瑠ちゃん……! そ、そうだね、日本を真っ二つにされたら、なんて呼べば良いか解らないし!」

 二人のやりとりに獅子鳥・狼猿(猟兵王かばおくん・e16404)もニッコリ――からの、盛大なクシャミ。
「ズズッ、そういえばこんな高度での戦いは初めてだな」
「滅多に来ない場所ではあるわね……風邪、引かないようにね?」
 鼻を啜る狼猿を気遣う鏡・胡蝶(夢幻泡影・e17699)が、インカムの通話状況を確認する傍ら。
 全身を機械鎧で覆うベルベット・フロー(フローリア孤児院永世名誉院長・e29652)と彩葉・戀(蒼き彗星・e41638)は静かに気炎をあげていた。
(「バビロンで戦う皆の為にも、ここを通すわけにはいかない」)
(「目的が達成されてしまえば……どれだけ犠牲が出るか、計り知れぬ」)
 日本列島両断――あまりに現実味がないが、実現すれば想像を絶する被害が及ぶ。
 数多の犠牲者を贄とする強大なドラゴン……出現すれば、日本は世界から消失する。
「――……来たか」
 絶華が霊剣に手を伸ばす。
 肉眼では鳥の群れに映る『それ』は、空を切る大音響を轟かせて接近する――!

●竜影海流群
 超音速で飛行するエルダードラゴンの群れも、空飛ぶ城塞を察知したらしい。
 一斉に散開した軍勢のうち、一体がテレサ達の元へ急加速する!
「テレーゼ、ロープは燃やさないように」
 ライドキャリバーに護衛へ回るよう言いつけ、テレサ自身は腕時計のアラームを起動。
 すかさずくるりと身構え。
「集団行動を心がけましょう。足場もいつ壊れるか解りません」
「ある種、相手のフィールドだ。必要以上の突出は禁物だな」
 絶華はテレサに頷き返し、飛来する竜種に向けて先行する。
(「以前戦った時より我々は強くなっている……いまは自分を信じるのみ」)
 眼力に意識を集中させ――狙い、定める。
 竜翼に跳び蹴りを浴びせた絶華に続き、テレサも鋭く流星蹴りをぶちかます。
 ――風圧で気球が大きく揺れ、ベルベット達は飛ばされぬよう体勢を低くする。
『番犬風情ガ、小癪ナ真似ヲ!』
 空を泳ぐドラゴンは半月を描いて瑪瑠瑠達に矛先を向ける。
「ヒヤリとさせおって、命中率が不安な者はおるか!?」
「オレッちはだいぶ厳しいな……」
「タカラバコちゃんも不安みたいなんだよ~!」
 狼猿とひなみくのミミック・タカラバコへの支援要請に、戀は鋼鬼と名付けたオウガメタルに指を這わす。
 あふれる光の素粒子は空域に広がり、ベルベット達の意識領域を拡張させていく。

 吐き出される高圧水流に装甲を剥がされながら、ベルベットはルミエールマッシャーを砲撃モードに。
「対空砲火ってやつ、お見舞いしたげるよっ」
「存分に、感じてちょうだい」
 ベルベットの砲撃、さらに胡蝶が追尾弾で的確に傷をつけていく。
「こいよ魚野郎、一匹残らずさばいてやる! ――タカラバコちゃん、ごーっ!」
 号令に合わせてタカラバコが黄金の財をばらまき、鎖を滑走するテレーゼが横っ面に突撃をかける。
 その隙にひなみくは念鎖を伸ばした。
 広大な魔方陣から浮かぶ護光は狼猿らを包む。
「なんて速さだ……だが、宙返り出来ないカバはただのバカ! 跳べないバカはただのカバだ!!」
 高速移動する敵影を目で追う狼猿だが、縦横無尽に飛び回る相手に追いつくだけで必死。
 しかし、まだ序の口。
 敵前に飛びこんでは力づくで軌道を逸らすと同時に、一撃を叩きこむ。
「ケルベロスだけじゃない、皆の協力あってこその空中城塞……ここが君たちのヘルズゲートなんだよ!」
 揺れる足場を跳ねまわり、瑪璃瑠はまさに蒼天を舞う兎となる。
 大気に眠る霊的存在を瑪璃瑠が呼び覚まし、狼猿の裂傷を塞いでいく。
 ――遠くで気球が破裂する。
『羽虫ゴトキガッ!!』
 竜種は咆吼をあげ――ロープを伝うテレーゼを突き上げる。
 勢いのまま打ち上げられ、車体は放物線をえがき……足場のない中空へ。
 すり抜け際に喰らいついたタカラバコも、バレルロールする勢いで振り落とされた。
 ……二体は加速度的に落下していく。
(「く、あそこまで飛ばされては救助に手間取るか」)
 空を蹴り、着地した絶華は落下する機影を一瞥する。
 落ちれば一環の終わり――否が応でも、痛感させられた。

 放射される水圧に気球が撃ち抜かれ、破裂音がこだまする。
「救出など、させてなるものか……!」
 高度は維持できずとも滑空できれば――。
 一縷の望みをかけて戀とひなみくが翼を広げる。
 体勢を切り替えることは出来たが、落下速度の軽減は実感できない。
「それなら、こうすれば……戀ちゃんっ!」
 切れ落ちるロープにひなみくが懸命に手を伸ばした。
 落下負荷で荷重が加わった状態だが、怪力無双が功を奏し、自らを引き揚げる形でこらえる。
 翼を持たぬ者はまとまってダブルジャンプし、隣の足場へ飛び移る。
「二人とも大丈夫!?」
「も、問題ないのじゃ、すぐ戻るからのう!」
 インカム越しに二人の無事を確かめ、瑪璃瑠は魔具に精神を集中。
「『――廻れ、廻れ、夢現よ廻れ!』」
 夢か現か、緋色の瞳が軌跡をえがく。金の眼が綺羅星を揺らす。
 廻れや廻れ。舞われよ舞われ――瑪璃瑠の周りを揺蕩う光が負傷者を照らした。

「フゥゥ……カバのタフネス、甘く見ちゃあ仕舞いさ!」
 抉られた傷の痛みを緩和しても、疲弊感は拭えない。
 だが! それでもッ! 俺のボルテージは――最・高・潮!!
「テンション……上がってきたぜええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」
 迸る狼猿のグラビティが天を衝く。
 乗り上げようとする二人を撃墜しようと、放たれたウォーターブレスめがけ猛進。
 身を切る一撃に体力と熱を奪われながらも、体を張って踏ん張る。
「集団戦が得意なだけあって、知恵回りはいいみたい」
「だが、単騎なら勝機はある」
 矢を番える胡蝶に合わせ、絶華も注意を引こうと気弾を飛ばす。
 青魚に似た体躯にいくつも裂傷が浮かび、血の雨が気球を染めていく。
「止ーまーれーってのぉー!!」
 飛翔するドラゴンを捕まえようと、ベルベットは攻性植物を伸ばし、砲撃を見舞う。
 戀達がよじ登ったのを確かめ、テレサはジャイロフラフープを浮遊させる。
「超重力電磁パルス砲、起動」
 立体パネルを展開したテレサの前に、二人の女性機人の残霊が降り立つ。
「距離算出、射角設定。誤差修正――――」
 フープ中央に強力な電磁波が発生し、周囲の磁場が乱れていく。
「これが私どもの、とっておきでございます」
 肌を震わす強力な電磁パルスは、射出と同時に円錐状の騎兵槍と化し……放たれた!
 急加速するドラゴンめがけ、雷槍は音速の壁ごと片翼を穿つ。
 大きな隙が生じ――胡蝶が足下の影に触れる。
「……這い上がり、舐め回す」
 伸びる影は細く、長くしなった。
 柔らかな肢体に巻きつく影は獲物を見据え、蛇のように鋭い牙を剥く。
「その感触は、心地よくてよ? ――昇天するほど、ね」
 持ち直しを計るドラゴンに胡蝶の影が飛びつき、命脈に毒牙を突き立てる。
 脱力したドラゴンは撃ち落とした気球と同様、浮力を失いながら墜落――風の中へ消えていった。

「ふぅ、はぁ……例えば素敵な王子様を見つけたら、」
 祈るようにひなみくは手に手を重ね、絶華達を白雪の手が撫ぜる。
「女の子の視界は光り輝く――」
 指が触れ、瞬きした瞬間、めまぐるしく回る視界がスッとひらけていく。
 戀の星天剣が光を放ち……それを目ざとく見つけたドラゴンが急旋回する。
「次が来よったぞっ」
「今度こそ、とっ捕まえてやるかんね!」
 ベルベットが攻撃の口火を切り、テレサが揺れるロープ上を駆けてフライングキック。
 竜種は足場を潰すべく、肉を切らせて骨を断つ――絶華の一撃を受けながら大角で一撃を加える。
「落とされるわよ、跳んで!」
 胡蝶が咄嗟に呼びかけ、一斉に隣の飛行船へ走る……だが。
「ぐ、しまっ……!」
 疲労の色濃く滲んでいた狼猿は踏み出すタイミングが僅かに遅れ、
「獅子鳥さん!?」
「……すまない、先に離脱する」
 体力の限界を悟り『救援は不要』と、狼猿は戦場から離れていく。
 残る護衛役のひなみくも最後まで続行できるか。
(「皆も疲れが出てきてる、ここからはもっと厳しくなる…………でも」)
 グラビティでは、蓄積する疲労の全ては取り除けない。
 瑪璃瑠は唇を固く結び、螺旋をえがくドラゴンを見据える。

●鬨の声をあげよ
 時が経つほど気球は落ちていった。
 空を埋め尽くした飛翔体は、目に見えて数が減り、同時に竜影海流群も大気中に消えていく。
 息つく間も与えず、ドラゴンは緩急をつけて戀達の勢いを乱そうとした。
「ハァ、はっ……バビロンで戦ってる皆のためにも……!」
 ふわふわ髪を振り乱し、ひなみくはオーラを盾に身を挺す。
 凍えて歯の根が合わなくなろうと、此処で食い止める一心で堪えた。
『大人シク地ヲ這イズレバ良イモノヲ!』
「領空侵犯って言葉、知らない? あなた達もドラゴニアへ帰りなさい」
 毅然とした態度で反駁する胡蝶は鎖を放ち、テレサの電磁パルス砲が空を裂く。
 翼を撃たれながら、竜種は鋭角な軌道で突貫――戀に切っ先が迫ろうとしていた。
「なんじゃと!?」
 不意をつく軌道に対応が遅れる。
 ……七転び八起き。見せろ、乙女のド根性!
「――……絶対に、止めるんだからぁっ!」
 寒さに震える体に活を入れ、ひなみくが駆け抜ける。
 激突の間際に割り込んだ少女の脇腹が貫かれ、血飛沫がとぶ――転がされたひなみくは端で止まり、
「っ……ごめん、下で待ってて!!」
 これ以上は危険と判断し、ベルベットがその身を重力に放つ。
 残り6人。防衛役はもういない。
『仲間ヲ落トストハ、狂ッタカ』
「遺言それでいい? 二度と口がきけないようにするから、今のうちに残しといて」
 ベルベットが啖呵を切った直後だった。
 ――電子音が鳴り響く。
「アラーム、一度目でございます」
 テレサが冷静に伝えた……12分経過のサインだ。

「彼奴だけでも仕留めるぞ」
「一気に畳みかけるんだよ!」
 戀が前衛、瑪璃瑠は後衛の治療に回りラストスパートをかける。
 身動きを抑えようと砲弾をばらまくテレサ。影を伸ばし、矢を放つ胡蝶が猛攻を仕掛けていく。
 ドラゴンも『黙って墜とされるつもりはない』と水流を噴き、下層へ追い込む。
(「獅子鳥さん、火倶利さんが保たせてくれたんだもの。ギリギリまで戦い抜くわよ」)
 自らに言い聞かせて胡蝶は一撃を躱し、絶華が入れ替わりに跳ぶ。
「我が家はこういう戦い方もできる……刮目せよ」
 背後に小柄なシャドウエルフの残霊が現れ、絶華自身も姿を変えていく。
 ――月なき夜空を思わす礼装は、さながら黒衣の魔法少女。
 スカイブルーの装束を纏う残霊は魔弾を一斉掃射。
 砲撃の隙間を縫って、絶華が稲妻のごとく肉薄する。
「我が礼装を御覧じろ」
 乱れ舞う剣閃、三日月を幾重にも映す刃が竜種を滅多斬る――そして、二度目のアラームが鳴る。
(「空はお前達だけのものじゃない! アタシだって」)
「アタシだって、空を……飛べる!」
 ベルベットが天高く舞い上がった。
 その胸に怒り滾らせ、闘志が燃え盛る!
 中破したフォトンクロスは歪な電子音を響かせ、獄炎が全身に奔る。
「グレンメイデン、渾身の一撃」
 Awakening Discharge――地獄の炎が翼となる。
 この日のために用意した。この時のために生み出した新技。
 ――紅蓮に燃える天降石がドラゴンの額を捉える。
「羽ばたけ、ブレイブ・フェニックスッ!!」
 爆炎はドラゴンを飲み込み、肉の焦げつく臭いが一帯に漂う。
 反動で着地するベルベットに対し、ドラゴンはそのまま墜落していく。

 残り数十秒。気づけば気球はほとんど残っていない。
「……二体か」
 絶華が呟く。
 数体の突破を許してしまったが、過半数は天の城塞を前に潰えた。
「――あー、聞こえるか」
 狼猿の声に瑪璃瑠が耳をこらす。
「よかった! なんとか終わったんだよ!」
「悪いな、残りを任せちまって……オレッち『達』は無事だ。サーヴァントもな」
「達、って……じゃあ!」
 ひなみくも無事に落下傘を広げて降下してきたと聞き、胡蝶もほっと胸を撫で下ろす。
「では、妾たちも降りるかの……気球もそろそろ限界じゃし」
 むず痒い気配から逃れるようにして、瑪璃瑠達は疲れた身体で縁に立つ。
 ――眼下に広がる青は、この星の色。
 天に映る紺碧の色。

作者:木乃 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年1月30日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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