封印城バビロン決戦~連環の気球戦

作者:雪見進


「リザレクト・ジェネシス追撃戦、お疲れさまでした」
 先日の戦いで活躍したケルベロスたちに労いの言葉と共に、テーブルにクッキーを並べるのはチヒロ・スプリンフィールド(ヴァルキュリアのヘリオライダー・en0177)。多数のケルベロスたちのおかげで、討ち漏らした多くのデウスエクスを撃破する事が出来たのだ。
 特に城ヶ島のドラゴンとの戦いは熾烈を極めていた。3竜の撃破には成功したが、ドラゴン達の命を賭した迎撃により、固定型魔空回廊が完成してしまい、竜十字島から多数のドラゴンが城ヶ島に出現してしまった。
「人口密集地である東京圏に、ドラゴンの拠点がある危険性は言うに及びません」
 魔空回廊が完成したという事は、そこからドラゴン勢力が出現出来るという事だ。その為、城ヶ島の奪還作戦について検討を始めていたのだが、チヒロを含めた複数のヘリオライダーにより、恐ろしい予知がもたらされた。
「ドラゴン勢力が、城ヶ島に執着していた理由。それは、日本列島に走る龍脈、フォッサ・マグナだったのです」
 声を震わせながら、地図を掲示する。日本列島は、北アメリカプレート、ユーラシアプレート、フィリピン海プレートの3つの境目となっている。そして、城ヶ島からプレートの裂け目に沿って北に進むと、そこにあるのは『封印城バビロン』。
 つまり、ドラゴン勢力は、封印城バビロンと城ヶ島を結ぶフォッサ・マグナを暴走させ、関東圏を壊滅させると共に、大量のグラビティ・チェインを獲得し、そのグラビティ・チェインで『惑星スパイラスに閉じ込められた』ドラゴンの勢力の救出を行おうとしているようなのだ!
「この企みを阻止するには、作戦の起点である『城ヶ島』か『封印城バビロン』のどちらかを破壊する必要があります」
 どちらも容易でないことは一目瞭然だ。特に、城ヶ島には、固定型魔空回廊があり、竜十字島の全戦力を投入する事が可能である為、竜十字島決戦を覚悟する必要がありる。現状では、決戦に勝利する確率はかなり低い。
「つまり、『封印城バビロンの破壊』が唯一の手段となります」
 ケルベロスたちは、作戦の第一段階として、封印城バビロンの探索を行う事となった……。

「私たちの動きを察知したドラゴン勢力は『竜影海流群』をバビロン救援の為に差し向けました」
 そんな封印上バビロンの探索を阻止しようと、ドラゴン勢力は救援を差し向けてきた。その援軍は『竜影海流群』。竜十字島近海の防衛ラインを構成していたエルダードラゴンの一種で、その移動速度と一糸乱れぬ集団戦において、ドラゴン勢力でも屈指の能力を誇っているらしい。
「この援軍が封印城バビロンに到達すれば、攻略している余裕が無くなってしまうかもしれません。それを阻止する為に、凄い準備をしました」
 ケルベロスの中には空を飛べる者もいるば全てではない。少ない戦力で立ち向かえる相手ではないので、世界中から多数の飛行船や気球を用意した。
「これで空中の要塞を作ったのです……」
 多数の気球や飛行船で作った、空中の足場。それをイメージ図を出して説明するチヒロ。しかし、その表情はどこか暗い。
 当たり前だろう。そこから足を踏み外せば、空を飛べないケルベロスは地面に真っ逆さまだ。いくらケルベロスが強靭であり、それに死の危険が無いとはいえ、恐怖も痛みもある。それを強いようとしている自分が、どんな表情をしていいか分からない様子だ。
「それで、『竜影海流群』なのですが……」
 そんな気持ちを全部胸に込め、説明を続けるチヒロだった……。

「『竜影海流群』の移動経路は予測出来ているので、その場所に気球と飛行船を展開しています」
 別の図で、封印城バビロンと竜影海流群の進行経路を表示する。気球と飛行船はロープや鎖で繋がっている。それを見て、歴史的戦争を思い出した人もいた様子だが、そこは対策済みらしい。
「ですが、何らなの理由で戦場を離脱してしまった場合には、その限りではありません」
 しかし、落とされる可能性が無い訳ではない。その場合には、戦場に戻るのはかなり難しいだろう。
「ですが、最悪の場合は『逃げる』事も考えて下さい」
 ただ、逆に考えるならば、命の危険がある場合には下に逃げるという選択肢がある……と、チヒロは説明をする。
 相手はドラゴン。戦いはまだまだ続くのだ。たとえ、日本列島が分断されていたとしても、命があれば反撃の機会もある。

 説明を終えたところで。一度息を大きく吸い込む。
「この作戦一つ一つが未来へと繋がっていると信じています。ですから、皆さん……無事に帰って来て下さいね」
 ドラゴンとの戦いで、忘れてはならない一つの結果がある。それを思い出して欲しいという想いを込め、後を皆に託すチヒロだった。


参加者
ノーフィア・アステローペ(黒曜牙竜・e00720)
愛柳・ミライ(宇宙救済係・e02784)
矢野・優弥(闇を焼き尽くす昼行燈・e03116)
ガロンド・エクシャメル(災禍喚ぶ呪いの黄金・e09925)
マイヤ・マルヴァレフ(オラトリオのブレイズキャリバー・e18289)
霧城・ちさ(夢見るお嬢様・e18388)
葵原・風流(蒼翠の五祝刀・e28315)
セレネー・ルナエクリプス(機械仕掛けのオオガラス・e41784)

■リプレイ


「大空、か……」
 静かに周囲を眺めるのはガロンド・エクシャメル(災禍喚ぶ呪いの黄金・e09925)。
「本当なら、さぞ景色もいいんだろうが……」
 ここは地上から遠く離れた上空。本来なら素晴らしい光景が広がっているのだろうが、その場所に広がるのは大量の飛行船と気球が連環され作られた戦場。
「この気球や飛行船は世界中から届いた想いなんだ」
 そんな気球や飛行船を見回しながら、呟くマイヤ・マルヴァレフ(オラトリオのブレイズキャリバー・e18289)。彼女の言う通り、この大量の気球や飛行船は世界中から集められたもの。それを使い戦場を形成している。まさしく、世界中の想いの上に立っているのだ。
「空中戦、とくに空中に足場を作っての、なんてあんまりない機会だし、思いっきり行かせてもらおうか!」
 そんな作られた戦場を楽しそうに歩くのはノーフィア・アステローペ(黒曜牙竜・e00720)。想いと共に作られた戦場だからこそ、地面を踏みしめ、戦い支障が無い事を確認している。
 そんな気球や飛行船の隙間から見えるのは、遠い地面。
「高い所は慣れません……」
 そんな戦場に、言葉を漏らすのは霧城・ちさ(夢見るお嬢様・e18388)。しかし、胸に勇気を秘め、しっかりと戦う覚悟は出来ている。

 そこから遠くに見えるのは竜影海流群と呼ばれるドラゴンの群れ。それを迎え撃つ為にこの戦場が作られた。
「いやはや、つまんねー奴も見えるものだね」
 そんな上空の景色を眺めるケルベロスたちの視界に入ってきた竜の群れを『つまんねー奴』と一蹴するのはガロンドらしい言葉。
 しかし、『つまんねー奴』と言えるような相手ではないのは百も承知。
「来たわね、海トカゲ。空は貴方たちだけのものじゃないって、教えてあげる」
 黒き地獄の炎を揺らしながら覚悟を決めるセレネー・ルナエクリプス(機械仕掛けのオオガラス・e41784)。彼女にとっては、ドラゴンを『海トカゲ』なのだろう。
「ここである程度は防がないとな」
 矢野・優弥(闇を焼き尽くす昼行燈・e03116)の言葉。この戦場はその為に作られた。本来なら、上空を悠然と飛ぶドラゴンを見過ごす事しか出来なかったはずだ。それをヘリオライダーの予知と世界中から集まった気球と飛行船が可能としたのだ。

 そんな竜影海流群の目的は封印城バビロンへの援軍。バビロン城へは別のケルベロスたちが突入している。
「痛いのは体よりも心なのだと、この半年で改めて識ったから。……彼らもそうなのでしょう。だからこそ、ここは通しません!」
 愛柳・ミライ(宇宙救済係・e02784)が静かに呟く。お互いに譲れない戦いなのは知っている。だから彼女も覚悟を決め、この場に立っているのだ。
「封印城バビロンに竜影海流群か。援軍を寄越すなんて、相手も相当追い込まれているのか……」
「ドラゴンは本当に厄介な切り札を持っていたんですね」
「それほどの切り札を切るとは、こっちを確実に叩きたいのか……」
 凄まじい数のドラゴンの群れである竜影海流群という切り札を切ったドラゴン勢力。
 静かに言葉を交わす優弥と葵原・風流(蒼翠の五祝刀・e28315)。実際、この戦いが大きな分岐点になるのは間違い無いだろう。負ければ日本列島分断の危機。文字通り、地図が大きく変わる結果があるかもしれない。それは絶対に阻止したい。
 切り札は、何枚隠し持つかが戦争の勝利を分ける……とも言う。ドラゴン勢力が、あと何枚の切り札を持っているか分からない。
 しかし、その切り札を潰してこそ、ケルベロスたちの勝利が見えてくる。

 遠くに見える竜の群れを背に、準備を整えるケルベロスたち。
「エクレアはその翼で皆を癒してほしいですの」
「ラーシュ、わたし達も全力で応えようね」
「ポンちゃん、みんなを庇うんだよ、いいね?」
「行くよペレ、前は任せろ!」
 各々、相方に声をかける。そのやり方も様々。作戦を再確認する者、軽くお互いの拳をぶつける者、ただ頭に手をやる者、コミュニケーション方法も様々。
 そんな風に見るとこのパーティーは大世帯。
 ケルベロス八人に加え、ミミックのアドウィクス、ボクスドラゴンのペレ、ラーシャとポンちゃん、ウイングキャットのエクレア、ビハインドのミズキ。数の多さが戦力の大きさと直結する訳ではないが、頼もしさは感じる。
「封印城へは行かせない」
 そんな仲間たちの様子を見ながら呟くセレネー。
 ここを突破されれば、封印城バビロンを探索している他の仲間が危険に晒される。
 ケルベロスの存在を確認すると、咆哮を響かせる竜影海流群。そのうち一体が顎門を開き、攻撃の構えを見せる。
 その動きに対して、動くケルベロスたち。
「双剣抜刀。機甲翼展開。排気異常無し。戦闘準備、不備無し」
 二本の鉄塊剣を抜刀し、地獄化した翼から熱を放出し、戦闘準備を整えるセレネー。
 静かに竜を眺めながら、スキットルに入れてあるウィスキーを一口飲み、気合いを入れる優弥。
「黒曜牙竜のノーフィアより竜影海流群の……」
 海流群は竜の群れの名称だから、名乗りの言葉に一瞬悩むノーフィア。
「ともあれ、剣と月の祝福を!」
 上空での戦いの始まりだ!


「連環を円環にしたいんだ。鎖なんでいらない、代わりにこの手でこの願いで輪を描こう♪」
 本当なら、どんな相手であっても仲良くしたい。そんな想いが彼女の根底にある。そんな願いを共にするポンちゃんが、ミライの歌声に合わせ、属性インストールを行い、サポートをする。
 そんな願いを込めたミライの歌声の返答は、咆哮と共に放たれた呪詛の息吹。
「皆さまをお守りしますわ」
 呪詛の息吹を迎え撃つのはちさ。妖精の靴で宙を蹴り、飛翔したかと思うとドラゴンのブレスを……蹴り落とした。
「この決戦は、負けられませんわね」
 無論、無傷ではないがその姿から強い覚悟が感じられる。
 そんなちさに、癒しの光で照らすウイングキャットのエクレア。背中の翼を羽ばたかせ、清浄の風でちさを包み、その傷を癒す。
「ラーシュ!」
 マイヤの視線に頷き答えるラーシュ。牽制にボクスブレスを吐く。
「ここから先は行かせないからね!」
 気合いの入る爆風を背中に、ラーシュの攻撃にタイミングを合わせて、マイヤとセレネーが視線を重ねる。
「好きなようにさせないんだから!」
 二人の羽が周囲に光を収束させ、それが物質の時間を凍結させる弾丸となる。
「貴方たちはここで沈む。それ以外の結末は認めないわ!」
 二人の力を込めた時空凍結弾がドラゴンへと命中する。
「……」
 セレネーとマイヤの次元凍結弾の一撃を受け、激しい殺意を向ける竜影海流群の一体。
 封印城バビロン援軍のついでに気球を焼く……程度の気分だったのだろうが、気が変わったように本気を見せる。
「死ね……」
 殺意を口に出し、顎門を開く竜。口内の毒を濃縮させ、ドラゴンブレスの構え。
 それを迎え撃つのはガロンド。真正面で黄金の輝きを背に轟竜砲を構える。
「邪魔だ……」
 目の前に現れたガロンドにブレスの向きを変えるドラゴン。毒の息吹の前に黄金は腐食し、砕け散るガロンド……。
「それは、幻影だ」
 ……かに見えたが、それはミミックのアドウィクスが作り出した幻影。ブレスの側面に回り込んだガロンドが放つ轟竜砲弾が、ドラゴンの横っ面を撃ち抜く。
「……」
 顔面に砲撃を受け、かえって無言になるドラゴン。対してガロンドもアドウィクスの支援で回り込んだものの、ブレスの余波だけでそれなりにダメージを負っている。
「行くよ、ペレ!」
 ガロンドが仲間を庇い、惹きつけたブレスの一撃が軽くない事が分かったノーフィアはペレと共に接近。
「……名前を聞きたいな!」
 ドラゴンの注意を引く為に、軽口を叩くが攻撃は軽くない。ペレのタックルの威力を乗せて、放つ杭(パイル)に『雪さえも退く凍気』を込め、ドラゴンを貫く。
「……貴様に名乗る名など無い……」
 ノーフィアのパイルバンカーの一撃はさすがに効いた様子。しかし、眼光のより溢れる殺意は増すばかり。
「攻撃に転じます!」
 仲間たちへ、支援をある程度終えたところで、攻撃へと転じる風流。
 愛用する五刀のうち、天秤星軌剣『獄炎沌水』と冪根喰霊刀『累除餓』を左右に構え、竜の懐に潜り込む。
「見切らせません!」
 白い光の軌跡を描く斬撃を繰り出しながら、込める力は流星の力。
 大きく跳躍し、竜の頭上を取る風流。そのまま流星と重力を込めた震脚と共に、斬撃を放つ。
「我を加護せし御業に命ず、眼前に立つ者を焼け」
 朗々と指示を出す優弥。符を展開させると同時に、印を切ると、半透明の『御業』が炎を放ち、竜の鱗を焼き捨てる。
「……邪魔な連中よ」
 竜影海流群の一体とはいえ『竜』の名を冠しているだけある。個体差もあるのかもしれないが、容易な相手ではないようだ。
「竜影海流群、ここで断ち切る!」
 セレネーの凛とした声が響き、気合いを入れ直すケルベロスたちであった。


 戦いが終盤に差し掛かる頃、新たな厄災を運ぶ竜が、戦場に近づく。
「後方より新たな竜が現れましたわっ!」
 ちせの声が響く。一体でもこれだけ苦戦している状況なのに、新たな敵戦力の追加。
「……彼らも、そうなのでしょう」
 負けられないのは、ドラゴンも同じ。ミライも彼らの覚悟を感じていた。
「実に無粋だが……仕方あるまい」
 状況を悪化させる新たな脅威を前に、あえてのんびりと声を出すガロンド。その言葉と共に、アドウィスクの口から、エクトプラズムが吐き出される。それが蜃気楼となり眼前で何かの形を取り、そして消える。
「まあ、やってみますか」
 アドウィスクのエクトプラズマに何を見たのだろうか。優弥はもう一口、ウィスキーを口に運ぶ。
「もう一体はわたしが好きにさせないんだから!」
 オラトリオの翼を羽ばたかせ、もう一体を引きつけに動くマイヤ。ゲシュタルトグレイブを構え、接敵しグレイブに稲妻を纏わせる。
「……」
 無言で睨む竜にブレスを放つラーシュ。そこに重ね、高速の突きでドラゴンの神経回路を狙う。
「……」
 再び無言でマイヤたちを睨み、狙いを定めた事は間違いない。しかし、マイヤたちで抑えられる時間は長くない。
「残り二分です」
 ちさのタイマーが作動し時間を知らせる。
「それじゃあ、総攻撃やってみましょうか」
 優弥の声が響く。作戦通り、総攻撃に移るケルベロスたち。
「ここは通せません!」
 竜影海流群を先に行かす訳にはいかない。ミライは歌を響かせながら、オラトリオの力を一点に集中させる。
「貴方たちは、ここで沈める!」
「この先には行かせないんだから!」
 ミライの動きに合わせ、セレネーとマイヤもオラトリオの力を収束させ、形成されるのは時間を凍結させる弾丸。
 三人が放つ時空凍結弾が正三角形を描き、ドラゴンへと収束する。
「……がっ!」
 三人の力が集まり、時空に干渉するオラトリオの力が、竜影海流群の時間を一瞬だが奪う。
「ここだ!」
 ドラゴニックハンマーを大きく一度旋回させ、超重の力を込めるガロンド。
「砕けろ!」
 ドラゴニックパワーと共に放出された凍結の一撃がドラゴンの腹部を打ち据える。
「頑張ります!」
 その反対側から回り込むちさ。エクレアと共に、星の力を込めたフェアリーブーツと共に蹴り込む。
「古に伝わりる八柱の龍王よ」
 朗々と詠唱を開始する優弥。
「我が真名と我が魂の契約において命ず」
 詠唱と共に召喚される八柱の龍王たち。
「荒ぶる水と氷の力を持て、我が眼前に立ちふさがりし者どもを討て!」
 召喚された八柱の龍王が引き起こす氷の嵐がドラゴンを飲み込む。
「グガガァ!」
 氷の荒から逃げようとするドラゴンの背後から追撃するビハインドのミズキ。
「追撃します!」
 ケルベロスたちの総攻撃に耐え続けるドラゴンに、さらに攻撃を重ねる風流。
「星々の海を渡る箒星……」
 天秤星軌剣『獄炎沌水』を上段に構える風流。静かな言葉と共に振り下ろされた斬撃が白い軌跡を描き、竜へと放たれる。
「その氷塵の軌跡はあなたを凍て付かせます」
 各所が凍結している竜影海流群だが、それでも動きを止めようとはしない。
 ならば、手を止める訳にはいかない。続けて攻撃するのはマイヤ。
「上を向いて、きっと願いは叶うから」
 願いの言葉と共に、ゲシュタルトグレイブに流星の光を輝かせる。踊るように距離を詰める彼女の足跡が弾けるように光を連らせ、振るうグレイブが描く軌跡から光を溢れさせ、放たれた斬撃が竜の魂を蝕んでいく。
「ガハァ!」
 ケルベロスたちの総攻撃に、身体を揺らし耐えるドラゴン。
 連携で出来たその隙に飛び込む二つの影。左からはノーフィア、右からはセレネー。
「カラスの芸は……。
 地獄化した機甲翼から、激しく吹き出す地獄の炎。吹き出す炎を推進力とし、突撃するセレネー。
「闇に舞うだけじゃないっ!」
 その膨大な推進力で崩れそうになるバランスを自身の体術とエアシューズで姿勢制御し、強大なドラゴンの懐へ突貫する。
 一瞬でもバランスを崩せば、瓦解しそうなほどの加速のまま、地獄の炎を纏った鉄塊剣を両手で振り竜の右側面を削いでいく。
「ァァッァ!」
 悲鳴すら声にならほどのエネルギーが左右から同時に与えられていた。
「我黒曜の牙を継ぎし者なり。然れば我は求め命じたり。顕現せよ、汝鋼の鱗持ちし竜」
 左からはノーフィイアが右腕に鋼竜の魂を降ろす。その右腕は、肘から先が竜の頭部となり、顎門を開く。
「我が一肢と成りて立塞がる愚者へと突き立てろ、その鋼牙」
 右側面が連撃なのに対し、左側面はノーフィアの猛烈な一撃。変化した腕で竜影海流群の魂ごと噛み砕く。
「……ァァ」
 ノーフィアとセレネーの攻撃が交差した直後……竜影海流群の一体は塵一つ残さず消滅した。


 しかし、戦いはまだ終わらない。眼前のドラゴンが殺意を溢れさせ、ブレスを吐きケルベロスを……そして気球と飛行船を破壊していく。
「うわっと、危ない!」
 崩壊していく戦場に、落ちそうになるノーフィア。
 他の班では、複数の竜影海流群を倒した班もいたようだが足場が限界だ。これ以上の継続戦闘は不能だ。
「……」
 眼前の竜へダメージを積み重ねたものの、倒すまではいかない。
 このまま気球の戦場に留まっては、余計な手間が増えるだけだろう。
「先にいく」
 気球の隙間から飛び降りるガロンド。竜影海流群の一体は撃破し、役目は果たした。
 眼前の一体は健在なれど、時間を稼ぐ事も出来た。きっと、バビロン封印城の捜索も成功しているだろう。
「……」
 眼前の竜へ視線を送るも、ラーシュを抱えマイヤも飛び降りる。
 風を切り、誇らしく飛び降りる姿が何より、ケルベロスたちの勝利を物語っていた……。

作者:雪見進 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年1月30日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。