封印城バビロン決戦~空狂遊戯

作者:黒塚婁

●竜影海流群と空中城塞
 リザレクト・ジェネシス追撃戦、ご苦労だった――雁金・辰砂(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0077)はケルベロス達を一瞥すると、まず労った。
「討ち漏らしたデウスエクスは大体撃破できたと聞いている……城ヶ島の件は、ドラゴンどもの最後の一念こそあったが、かの三竜を討ち滅ぼせたのは大きい」
 ただ、固定型魔空回廊が完成し、竜十字島から多数のドラゴンが城ヶ島に出現しているのは事実――その危険性について敢えて指摘する必要はあるまい。
 ゆえに城ヶ島奪還作戦の検討を始めていたのだが……その中で、恐ろしい予知があった。
「ドラゴンどもが城ヶ島に執着している理由……それこそが、日本列島に走る龍脈、フォッサ・マグナ。それを暴走させ――関東圏を壊滅させる、というものだ」
 日本列島は北アメリカプレート、ユーラシアプレート、フィリピン海プレート、三つの境目であり、城ヶ島からプレートの裂け目に沿って北に進んだ先に――『封印城バビロン』が存在する。
 奴らは封印城バビロンと城ヶ島を結ぶフォッサ・マグナを暴走させ、関東圏を壊滅させると共に――大量のグラビティ・チェインを獲得し、そのグラビティ・チェインで『惑星スパイラスに閉じ込められた』ドラゴンの勢力の救出を行おうとしている。
 これを阻止するには、『城ヶ島』か『封印城バビロン』どちらかの破壊が必要だ。しかし城ヶ島には固定型魔空回廊があり、ドラゴンは防衛のため竜十字島の全戦力を投入できる。
「ならば残るは『封印城バビロンの破壊』のみ――だが、無論のこと、奴らもケルベロスの動きを察知し動いている」

 ――ドラゴン勢力は『竜影海流群』なる部隊をバビロンの救援へと向けたらしい。
 竜影海流群は竜十字島近海の防衛ラインを構成していたエルダードラゴンの一種で、移動速度と一矢乱れぬ集団戦を得意とする。
 ドラゴンの中でも屈指の存在とされるそれが、大挙して到達すれば、バビロン攻略は困難となろう。
「よって、それらの足止めを行い援軍を遅らせ――更に言えば可能な限り数を減らし、無力化を狙うのが、貴様らの役割だ」
 辰砂はふと目を細めた。
「そのために――世界中に存在する全ての飛行船や気球を集め、城塞を築いた。即席の空中城塞……これを足場に、飛来するドラゴンを迎え撃ってもらう」
 この空中城塞は気球と飛行船をロープや鎖で繋げて結んで作られたものだが、ケルベロスであれば、自在に戦闘できるであろう。
 竜影海流群は決まった航路を――真っ直ぐにバビロンを目指しているため、この城塞に必ず行き当たる。
 なお、この戦場において相手が連携して仕掛けて来ることはないが、敵のドラゴンは一体でも強敵であると辰砂は警告する。
「それから……落下しても貴様らは死にはしない。どれほどの苦痛となるかは保証しないが――ただし、完全に落下した場合、戦場に戻ることは不可能だ」
 逆に、戦場から離脱するなら落下してしまえばいいということだ。窮地に陥った際の対策として、胸に留めておくと良いだろうと彼は言う。
 そこまで辰砂が語ると、誰かが問うた――足場は、ドラゴンの攻撃に何処まで耐えられるのか、と。
 彼は瞑目し、告げる――この戦場でまともに戦えるのは『十五分』だ、と。
「だが、その十五分で一体倒せれば戦果としては充分だ。無論、複数討ち取ることを目標とするのも良い。貴様らの力を遺憾なく振るってこい」
 そう告げて彼は説明を終えるのだった。


参加者
霧島・奏多(鍛銀屋・e00122)
ネロ・ダハーカ(マグメルの柩・e00662)
吉柳・泰明(青嵐・e01433)
鳥羽・雅貴(ノラ・e01795)
ラティクス・クレスト(槍牙・e02204)
市松・重臣(爺児・e03058)
八久弦・紫々彦(雪映しの雅客・e40443)
四十川・藤尾(厭な女・e61672)

■リプレイ

●迎え撃つもの
「一難去ってまた一難……ってか文字通り怒涛の攻勢だな」
 言葉の響きとは相反するように鳥羽・雅貴(ノラ・e01795)はさらりと笑う。
 そんな彼の髪を乱すように、正面より風が吹き抜けていく。応じ、布がはためく音があちらこちらでけたたましく響く。
 本来であれば遮るもののない、空の中――浮かび上がる無数の気球と飛行船。
 あの向こうにケルベロスが、更に向こうにケルベロスが、こちらと同じく控えていると思うと、なんと広大な城塞を築いたものか。
「何とも浪漫溢れる一夜城じゃが、迎える客がこれとは参るのう」
 腕組み、市松・重臣(爺児・e03058)は嘆息する。その隣まで、八雲がぴんと張られた鎖の上を、器用に跳ねて渡ってくる。
 それを目を細めて見やり、吉柳・泰明(青嵐・e01433)は頷く。
「ああ全く――あの客の為に在ると思うと複雑でならぬ、見事な城だ」
 客がいるからこそ作られ、そして、耐えきれずに落ちることが約束された城――遠くに鳥影のような、魚影のようなものがどんどんと近づいてくる。
「しかしお越し頂いたからには全力でもてなさねばな」
 緊張に凝る瞬間も、駘蕩を崩さぬ重臣の言葉に、泰明は浅く頷き。
 飛行船の上、彼らはその時を待っていた。
 じっと平時の表情の儘、霧島・奏多(鍛銀屋・e00122)は静かに前髪を風に遊ばせ。
 低い姿勢で周囲を見やる八久弦・紫々彦(雪映しの雅客・e40443)は、接触までの時間を数えた。
 先程よりうんと強い風が吹く。生き物のもつ熱が、吹きつける。
「待ちかねたよ、さあ」
 遊ぼう、とネロ・ダハーカ(マグメルの柩・e00662)はヴェールの下、蠱惑な笑みを口元に湛えた。
 四十川・藤尾(厭な女・e61672)はそっと熱の籠もった吐息を逃がす。待ちかねたひとを、迎えるように。
 見せる色はそれぞれだが、此処に集うものたちの望みに差異はほぼ無い。
「さぁて厳しい戦いの始まりだ。楽しませてくれよ!」
 ラティクス・クレスト(槍牙・e02204)が上げた歓迎の声の通り。
 限界までの、死闘を。

●襲撃するもの
 竜影海流群――それを構成するドラゴンの一体一体は魚に似ていた。
 目は無く、一角獣が如き角をもつ。口は細かな歯を付けており、噛み砕くには不向きな造りだ。
 そして身体の半分近くに至る大きく広げた鰭――それらの形状からして、全身を用い、刃を振るうが如く回遊するであろうと、動きを想像するのは容易いが。
 ひゅっ、風が鳴いた。
 警告するように八雲が唸る。
 ――目では追えぬ。泰明は咄嗟に感覚で刃を合わせた。
 強く弾く感覚を押さえ込めば、掠めた軌跡を表すように、火花が縦に散った。腕に浅く創が残る。
 同じく雷槍《インドラ》で距離を計るように構えていたラティクスは、口笛をひとつ。
「速ぇな」
 嬉々とした笑みで讃えた。
 ――動きが単純であるならば。彼らの先読みを超える速さと鋭さを奴らは持っているということだ。
 だからどうした、というようにアイスブルーの瞳を細めた奏多の掌から、オウガ粒子が放たれた。戦場に広がった鉛色の光を切り裂いて、ふたつの轟竜砲が轟き渡る。
 泰明とラティクスの高射を追って、突如荒ぶ黒き猛吹雪――否、大鴉の群れ。
「嵐となれ、刃となれ」
 雅貴が差し向けたそれは竜を覆い隠すように群がって、身に宿した冷気で切り裂きながら何処か飛び去る。
 だが――竜は身を侵食する冷気に構わず、鰭か翼か、扇状に広がったそれを上下に振るわせ、更なる上空へと舞い上がる。
 竜砲弾の傷痕は浅く。小さな尾びれを削れたか。
 彼らの攻撃から逃れきるとは――紫々彦は口の端を僅かに歪めた。
「凍てる程に冴え返る」
 五感を研ぎ澄ます冬の空気を身に纏い、態勢を整える。
 足場、時間。様々な制限に縛られた戦いを煩わしく思いながら――ゆえに、それをどう攻略するか。思考への愉悦を自覚している。
 良いね、零したのはネロ。
「竜と見ればこの血が疼いて堪らないのさ……お互い譲れぬものが在るのなら、死闘にてぶつかるしか無かろうよ、――なあ?」
 華やかな笑みを浮かべ放った一矢は、吸い込まれるように竜の角を横から貫き――鼻先を浅く傷つけながら、彼方へ消える。
 躱すため、真っ直ぐに泳いだそれが、掛かった鎖を引きちぎる。
 ぐらり、僅かに傾いた足場に藤尾は動じぬ。彼女の足元を彩る黒絹のブーツは、簡易ながら彼女をしっかりとその場に縫い止めている。
 彼らの戦場は此処だけだが――竜影海流群による攻撃の余波は絶えず地続きに伝わってくる。
 空を仰ぐ。竜の起こした暴風で、頬を髪が乱暴に撫でている。
(「――渡るは狂気染みた暴力、無慈悲な死、破壊と流血の軍勢。切なる望みと飢餓に喘ぎながら、刻一刻……よりどりみどり。血眼でわたくし達に迫ってくる」)
 藤尾はただ嬌笑と呼ぶに相応しい貌で、それを呼ぶ。
「あなた」
 吐息は熱を帯びていた。それ以上に、強い交錯した力が爆ぜる。また多くの縄を犠牲にしながら、それが高度を落とした。
 瞳は残忍な輝きを帯びる――しかし、何よりも美しい赫き。
「この戦場に咲く花は、おっかないのう」
 ぽそと呟いた言葉は風に消えたか、どうか。不要となった縄を伝い、八雲の放った炎が走る。派手な飾りを纏った竜へ、重臣は唐突に拳を振るう。
「少しお話しようか――!」
 それはあたかもただ闇雲に空を撃ったようであって――それは確りと、竜の腹を衝撃に振るわせた。
「夢の舞台の残骸は貴様の墓標としてくれよう……覚悟せい、招かれざる客よ」
 好好爺じみた愛想の良い重臣の表情は、一瞬消え。
 容易く破れると思うな――告げる赤き眼光が、鋭く竜を睨めつけたのだった。

 奏多の手元で最初のアラームが鳴る。
 ドラゴンは速度を落としながらもケルベロス達の猛攻を巧く凌いでいた。個としての特徴に欠ける外観ながら、そのシンプルな強さ。
 こんな奴らが列挙して押し寄せているのか、雅貴が口元を笑みに歪める。
「この荒波を通せば事態は最悪――とくりゃ、流石の俺も意地見せるしかねーや」
 彼は影の弾丸を精製しつつ地を蹴り、空中に舞う。
 誘われたように無防備な彼へと突進してきた竜の進路は、まさしく鎖一本の細い足場を一足に駆り、泰明が塞ぐ。
「荒波は此処で防ぎ切る――無法者は門前払いとしてくれよう」
 親しき友に応え、刃を掲げ、
「精神一到――」
 確乎不動の信念のせ、真直ぐに光芒描く一刀。
 それは端から見ればただ両手を添えた上段からの一閃であるが、籠もった星辰の霊力はあらゆる害悪を打ち破る力を持つ。
 自らを遥かに上回る屈強なドラゴンであろうと、同じく。ざくりと切り裂かれた鰭は、即時雅貴が放った毒で、どす黒く染まった。
 重臣が畳み掛ける――魔法光線が戦場を横断するように奔る。片側の鰭が、完全に穿たれる。
 然し、渾身の力をふるった竜の突進は泰明の腹と足場を裂いていた。
 致命的な衝撃は跳んで躱すも、代償として宙に投げ出された彼の手に、ロープが絡む。
 更なる破壊を防ぐべく、藤尾の火車が火を噴く。鮮やかな弾幕が花と咲き、逃さないと同時、彼方へ逃れるように導く。
 顔色は変えず、淡淡と――奏多は銀の弾丸を、彼へと放ち、負った傷を『無かったこと』に変じて癒やした。
 片翼を潰されたドラゴンが、傾ぐ。
「案外あっさり崩れたな……いや、むしろよく此処まで耐えきったというべきか?」
 明らかな好機に不敵な笑みを浮かべたラティクスは、淡く輝いていた。
「貫け《雷光》!叢雲流牙槍術、壱式・麒麟!」
 纏う闘気を雷光に変え放つ、神速の刺突。
 視神経が一時的に飛躍しているラティクスでなくとも、それの捉えがたい速度は既に失われている。だからこそ、その弱点へと確実に彼は槍を叩き込んだ。
 腹から血の帯を真横に伸ばし、弾かれる。
「随分と無様じゃないか。ほら、最期に奮ってみせておくれよ」
 その先にはネロが、抱きとめてやろうとばかり両腕を広げていた。
 懐には虚無球体が浮かび、獲物を呑み込まんと待っている。
 均衡を崩しているそれは、なすすべも無く片翼を突っ込んだ。待っていれば、そのまま全てを失うかもしれないが。
「時間が惜しいんでな」
 冷徹な声音が降る。上の足場へと移動していた紫々彦が、手首を返し、黒脊を繰る。僅かな動作で乗せた遠心力の勢いも手伝い、何処までも伸びる棍は――ドラゴンの口から尾までを貫いた。

●継
 刻限の折り返しを待たず、誰一人欠けず、討ち取った――彼らがそれに喜ぶ暇はなかった。
 欠けた陣形を補うように滑り込んできた次の一体は、ケルベロス達と居並ぶように飛行船の上に浮遊し留まった。
 未だ戦場に残る彼らの上、朽ちた城の残骸が、はらはらと落ちてくる。
「でかいの落ちてったな……」
「下の高度も落ちつつある」
 雅貴が報告すれば、別の方角を確認した紫々彦が淡淡と重ねる。
「時間は充分にあるが……状況は変わっていく。気をつけろ」
 奏多は冷静に忠告を放ちて、再びオウガメタルを呼び起こす。
「俺の前では――誰も、斃れさせない」
 そして低く紡ぐ、決意の言葉。
 常に熱も感情も宿らぬ彼の声音は、それでも本人にしか解らぬ熱量を持っている。
 信は疑う必要も無し、彼を背に、ドラゴニックハンマーを砲撃形態へと変形しつつ、重臣は不敵に笑う。
「戦は勿論、落ちる時も皆一緒――戦い抜いた時としようぞ」

 角が飛行船を切り裂きながら、ケルベロス達へと迫る。重臣庇い、小さな身体で毅然と立ち向かう八雲が、押さえきれずに吹き飛ばされた。
 代わり、踏み込んだラティクスが星型のオーラを蹴り出す。尾びれを半分削ったが、加速したドラゴンは風を巻き上げ、彼らの接近を押しとどめた。
 手持ちの銀が、次々と消費されていく――奏多は細く息を吐く。相手の次の手を冷静に見極め、術式を選ぶ。
 血水晶の柄を軽々扱い、袖をそっと押さえながら超合金の大槌を構え直し、藤尾が狙い撃つ。周囲で舞い散る瓦礫や屑に、その輝く瞳が惑わされることも無い。
 見据えるのはただひとつ。暴れ泳ぐ竜のみ。
 自身に向かい、額の角で穿ち挑んでくるそれへ、喜悦を隠さず迎え撃つ。
 ――わたくしはオウガ。
「根から強者に挑むことが誰よりも誰よりも好き」
 囁いて、解き放つ。
 真っ直ぐ正面で衝突し――弾けた鱗を周囲に礫と飛散させながら、竜は煙を貫いて彼女へと迫る。
 そこへ、雷の闘気纏ったラティクスが槍を叩き込む。
 額も頬も汗と汚れと血が混ざって斑模様だが、彼は高らかに笑いながら、戈を繰る。
 皆の消耗を注意深く見守りながら、重臣はバスターライフルを抱えた。
 凍結光線が竜と彼を結ぶ――中間地点に存在する脆くなった足場を蹴り捨てて、泰明は裂帛の叫びで態勢を整える。
 傷の回復は充分だが、四肢を縛るような倦怠感は消えぬ。
 それでも、泰明は青眼に構え竜を見据えた。
「この先で戦う仲間達の為にも、許された時間を耐え抜いてみせよう」
 同じ時刻、別の場所で、死闘を繰り広げる皆のために。
 何体でもとことんやってやる、雅貴はロッドを鴉に戻してささめく。
 この星を踏み躙る厄介者は、叩き落として冥府の底まで沈めてやる――。
「空も海も、この先に広がる地も、テメーらにゃ渡さねーよ」
 傷と呪いを深める黒き一矢が、その腹を穿ち、竜は歪な形に戦慄いた。畳み掛ける、気咬弾は紫々彦が真下から仕掛けた。
 鮮血が滝のように零れ、痛みにか、竜の長い身体が縦にしなる。
 否――反動をつけて、溜めた凍える息を吐き出した。
 凍結し、きらきらと輝く大気の中、ふふ、と笑みを零したネロが駆ける。繊手に握るはAlbdruck。
 傷つく事など怖くはない――ただ命の遣り取りのはざまに浸っていたい。
 くるりと踊るように踵を返して、竜の正面へと、突き出す。
 精度は充分。角を砕き、頭部を貫き――それでも食らいつこうと前に進む竜へ、先の仕返しとばかり八雲が炎を叩き込んだ。
 灼けながら、地上へ落ちていく骸を皆で見送る――一瞬の静寂。
「現在十一分経過、四分残っているな」
 すかさず薬剤の雨を降らせて、奏多が告げた。
 充分に戦ったと判断し、これから逃れるならば、此処から飛び降りればいい。
「……どうする?」
 皆に紫々彦が問うた――とはいえ、その表情は答えを識って既に笑みを浮かべている。同時、彼らの頭上に巨大な影が落ちる。
 誰よりも先に、ラティクスが吼えた。
「勿論、続行だ!」

●限
 黒煙あげて、飛行船が墜ちていく。気球の姿も随分と減った。
 いよいよ戦場そのものが徐々に落ちていくような感覚が、確認せずとも残り時間の少なさを知らしめる。
 凍り付いたように冷え、武器を握る指先が軋む。
 ラティクスは全身に禍々しい呪紋を浮かび上がらせながら、まだまだ、と意気込む。
 ここまで来れば最早守りは不要と、泰明は次々に武器を持ち替え、積極的に仕掛けた――とはいえ、いよいよ限界を迎えそうな八雲ごと、重臣が支えに加わる。
 それでも誰一人脱落することなく残っている事実が、彼らの士気を高めていた。
 奏多が促すままに、藤尾が仕掛け、雅貴が小さな傷から確実に蝕み、ネロと紫々彦は苛烈に空に逃げる竜を追った。
 そして――。
 ドラゴンの退いた先で起こった唐突な爆風が、刻限を告げる。
 奏多が手の内に握ったスイッチを押したのだ。
「……残り一分。存分に抗え」
 それは、敵にか、仲間に向けたものか。
 豪と返してきた竜の一閃に、させじと重臣が破竹で迎え撃つ。
 鈍る足を叱咤して、ラティクスが奔る。強化された視神経で捉えた一瞬、接触の証に火花のような血潮が返った。
 鱗を零しながら浮上しようと頭をもたげたドラゴンへ、
「逃がさねーての」
 大鴉の群を雅貴が操る。それでも足元が沈み、浮遊するそれと距離が離れていく。
 黒集りに向け、紫々彦がオーラを放った。凛と冴えた一閃が、鰓を穿つ。
 退路を断つように、けたたましく藤尾の火車が歌う。
 腹に無数の穴を開けながらも、うねり逃げるドラゴンの背に、黒い影が落ちてきた。
 その頚元を押さえるように飛び移ったのは泰明。そのまま至近よりオーラを叩き込むと竜は苦痛と重みでぐんと高度を落とした。
 そこへ、寄るは柩の魔女。
「盲た如く恋情燈す彼女に憧憬を、背を向け耳を塞いで趨る貴方に傷痕を、」
 恋した男を手に入れるために。
 崩れゆく足場を蹴って詰め寄る――ネロの足取りは、舞を刻むように。
「――ねえ、この一期一会を君ごとネロにおくれよ」
 毒に塗れた唇で愛を囁き、錆びた刃を振り下ろす。所作は艶やかに、嫋やかに。
 珠と連なる朱が空に踊って――彼女は唇に笑みを浮かべた。

 そして朽ちた城塞の残骸と、竜の頚と、共に墜ちていく。
 成し遂げた仲間達の、それぞれ満ちた表情を見つめながら。

作者:黒塚婁 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年1月30日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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