封印城バビロン決戦~空を舞う剣

作者:ヒサ

 ケルベロス達の奮闘の甲斐あり、『リザレクト・ジェネシス追撃戦』では多くのデウスエクスを倒すことが叶った。
「ただ、敵の方も必死だったようね。城ヶ島のドラゴン達は、命がけで固定型魔空回廊を完成させて、竜十字島とを繋げた」
 これによりドラゴン勢力はより危険視されることとなった。対策を検討するうち、ドラゴン達の狙いが、日本列島に走る龍脈、フォッサ・マグナにあると判明したのだという。
「日本列島の下に、プレートの裂け目があるでしょう」
 地図を広げた篠前・仁那(白霞紅玉ヘリオライダー・en0053)は紙面へとプレートの境目を描き込んだ。
 城ヶ島から北上する境界の先には『封印城バビロン』がある。この二点を結ぶフォッサ・マグナが暴走することがあれば、関東圏は壊滅し、大量のグラビティ・チェインが発生することとなる。
「ドラゴン達はこれで得たグラビティ・チェインで、スパイラスに閉じ込められたドラゴン達を助け出そうとしているようなの」
 これを阻止するためには、件の二箇所のどちらかを破壊せねばならない。敵戦力を思えば現実的なのはバビロンの破壊の方だ。そのためにケルベロス達の力を借りたいのだと、ヘリオライダーは言った。

 ドラゴン達は、ケルベロス達からバビロンを守るため、『竜影海流群』を差し向けたという。彼らは竜十字島近海の防衛を担っていた者達で、その移動速度と集団戦の能力は脅威だとのこと。
「彼らをバビロンへ到達させるわけには行かないわ。……あなた達には彼らを、空で迎撃して貰いたいの」
 飛行船や気球を山と集め、鎖やロープで各々を繋ぎ『城塞』を築いた。ケルベロス達ならばこれを足場にドラゴン達を迎撃出来るだろう。容易い敵では無いが、一チームあたり一体以上を撃破出来れば、敵軍に打撃を与えられると見られている。
「余裕があるようなら、より多く……を目指して貰えれば、今後が楽になるでしょうけれど、無理はしないで貰えると助かるわ」
 何しろ『城塞』はドラゴンの攻撃の前には脆い。十五分も戦闘が続けば、まともに機能しなくなってしまうだろう。
 加え、ドラゴン達を突破させないため、ケルベロス達には広く展開して貰う必要がある。他チームと援護し合って、というのが難しい状況にある中、上手く立ち回って貰わねばならない。
 今回の戦いにおいて『下』は逃げ道となる。墜とされてしまえば再び上空へ戻ることはまず無理だろうが、避け難い危険に迫られた場合には敢えて、というのも一つの手ではある──落下の衝撃は生半可なものでは無いだろうが、ケルベロス達であれば、それだけで済ませられる、とも言える。

 仁那は眉をひそめつつも必要なことを伝え終え、ケルベロス達を見詰めた。
「足場が壊れる前に敵を倒し増援を阻止して、バビロン攻略を目指すひと達を援護して来て欲しい。……それで、無事に戻って来てね」
 目を伏せた彼女の、小さく上げた口の端には信頼を。お願いよ、と唇は後を託した。


参加者
フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)
シヴィル・カジャス(太陽の騎士・e00374)
シルク・アディエスト(巡る命・e00636)
大粟・還(クッキーの人・e02487)
ロベリア・アゲラータム(向日葵畑の騎士・e02995)
神宮時・あお(綴れぬ森の少女・e04014)
ヒメ・シェナンドアー(白刃・e12330)
ラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869)

■リプレイ


「なかなか壮観ですねえ」
「叶ウ限リニ削イデ参リマセウ」
 敵の群れを遠く眺めラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869)がごちた。同じく口の端を上げフラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)が笑んだ。補助にと術を繰る二人は楽しむに似て声を炎を踊らせる。
 敵達もケルベロス達の存在に気付いたようで、空を駆けながらも彼らが隊列を変えるのをシルク・アディエスト(巡る命・e00636)は見た。此処が、自在に舞う彼らの領域であることは承知の上。されどと彼女は火器を手に武装を起動する。
「ご注意を」
「この星の人々のため──」
 本作戦の協力者達、護るべき地とそこに生きる人々、それら全てのためにとシヴィル・カジャス(太陽の騎士・e00374)は宙に渡る鎖を掴んでいた手を矢筒へと伸べた。
「そうね。向こうの事情も解らないではないけれど、だからこそ」
 進路上に在る『城塞』を攻略すべく散開する敵群を窺う。此方、自分達の隊へ注意を向けて来ている竜はそれなりに居る。が、相手取るべき、特に警戒すべき個体は僅かと見て良さそうだと判断し、ヒメ・シェナンドアー(白刃・e12330)は守護を展開する。
 大粟・還(クッキーの人・e02487)が放った銀彩がケルベロス達へ加護を重ねる。迫る小隊の先頭に位置する竜へとひとまず狙いを定めた銃撃が凍て駆ける。追って神宮時・あお(綴れぬ森の少女・e04014)が詩を紡ぎ、ロベリア・アゲラータム(向日葵畑の騎士・e02995)は凍弾を撃ち出した。集中した攻撃に圧された竜が敵意を吼える。堪えていないわけでは無さそうだとケルベロス達は判断し得た。
 かの個体がもしも防御を重視し戦うならば、素早い撃破は狙い難いと彼らは考えた。加え、此方の被害を拡大する相手を優先して潰せれば、とも。結果としては悪くない巡りと言えた。傷を拵えたその竜は此方を薙ぎ払うべく尾を振るう。狙われた自陣前衛のためにと動く癒し手達をしかし立て続けに遠方から放たれたブレスが襲う。
「っ……!」
 還は咄嗟に術を展開し凌ぎ得た。凝る水の色を護りと纏ったあおは、ゆえにさして揺らがずに淡く息を吐く。
 とはいえ捨て置くわけにも行かぬと盾役達は彼女らへ治癒を。その瞬間の痛みよりも後引く毒の侵食こそが厄介と極光が彼女らを包み、のちに備えての空舞う護りが寄り添った。その間に癒し手達は予定通りに前衛達を助け、射手は獲物の動きを鈍らせるべく轟砲を放つ。
 標的一体を叩くだけならば、ケルベロス達には決して難しいことでは無いと視えた。だが連携し動く敵群を相手に油断は禁物。役割を分担して彼らは慎重に護りを固めながらも竜達の脅威たるべく果敢に攻めて行く。


 狙う敵は先陣を切る攻撃手。ケルベロス達は急ぎ決着をと望む。機翼の噴射で姿勢を制御したシルクの砲撃は妖力の加護を受けて冴える。ラーヴァの銀矢が宙を駆け竜の鱗を剥ぎ肉を削ぐ。かの身を苛む棘をこそ研いで、負荷に傾ぐ竜身を見て、獄炎は笑う。
 己を阻む厄介者と唸られることすら、否、それをこそ彼は楽しむ。群れてようやく、な竜達など何を恐れる必要があろうかと。
(「『彼』の方がよほど怖い」)
 空を薙ぐ鰭の直撃を受けようとも。致命打とはならぬよう防御を試みて、それでも重いその衝撃に軋る鎧に、癒し手が銀蝶の癒しを紡ぎ響かせた。
(「前衛の方々はまだ大丈夫そうですが──」)
「るーさん、皆さんに継続してヒールを」
 追い込まれていないからと油断してはどこから崩されるか判らない。全員無事であるようにと願い彼女は用心を重ねウイングキャットへ指示を飛ばす。不測の事態、なんて、起きた時には手遅れかもしれないのだから。
「汝ノ爪ヲ折ルハ吾ガ呪イ。──爆ゼヨ」
 縛されたが如き標的を睨めつけるは金の色。眼差しは爛々と殺意を奏で、空に痛みが炸裂する。捕らえるならばかの翼のみならず。フラッタリーの獄炎は、滅び紡ぐ手は、獲物の何もかもを封じその先の未来へと繋ぐために熱を上げ裁きを織る。攻めを重視し動く相手をゆえにこそ攻め寄せ難く仕向けるのは、仲間達が憂うことなく立ち向かえるように。
(「これならば逃しはすまい」)
 敵の様子を見、シヴィルは構えた銃に魔を込め光と放つ。穿つに加えて助けとなるべく標的の勢いを阻まんと。
「あとは、誰か──」
 抉る刃にて加速を。彼女が依頼を口にし終えるより先に、竜の一体が迫った。射撃の狙いを定めるためにもと安定した場所を選んで動いていた彼女へ竜鰭が迫る。
「くっ……!」
「これを!」
 足場ごと叩かれて身を傾がせた彼女へとロベリアがロープを投げた。空気が抜け始めた気球を巻き込んでヒメの治癒が飛ぶ。
「伊達にドラゴンではないか」
 仲間へ礼を告げロープを手繰り宙を跳び、向日葵戴く騎士は敵勢を見上げてごちた。ケルベロス達さえ居なければ、竜達にとって『城塞』など脆弱な風船の群れでしか無いのだ。
(「空を泳ぐだけのこともある」)
 不安定なこの戦場を、ケルベロス達は十分に警戒していた。だからこそ手早く対処に動き、攻防の都度崩れ変容する地形にもついて行く。盾役達が動く道を確保し流れを誘導する者や、竜の体すら一時の足場にして宙を駆ける者も。鉄靴の音を連れ舞ったロベリアは鎚を振るい敵の目を惹き、皆が動き易く在れるよう最前線を駆け続ける。
「頼みます」
「任せろ!」
 助け合っての戦いならば、ケルベロス達とて遅れは取らない。声を飛ばし、不足があれば気を配ることに長けた者のフォローを頼みに、各々が頼り頼られ敵群と渡り合う。
 とはいえ敵達が攻めに特化している状況は易しいものでは無い。ケルベロス達は無茶は控え治癒を分担して、それでも負傷を補いきれずにフラッタリーが刀を振るった。孕む呪は形を変え賦活の力となる。
 更には砕けた加護を結び直し、攻め行く仲間を支える。そう、呪詛の蔓延を避け繕いきれぬ傷をそれでも塞ぎ整えるべく為される治癒とその繰り手達の奮闘の傍ら、攻め手達は苦痛に耐え狩るべきものを屠るため、緩めること無く手を尽くす。
 己を害す脅威たる攻撃手を狙い、敵が身を翻す。銃持つシヴィルの前にロベリアが身を晒した。護るべきを護り、薙ぎ払われ宙に身を投げた鉄鋼の騎士にはもう手を伸べる力も無く。
(「仕留めてください」)
 だが、間近まで惹きつけた敵へと灰瞳の視線を投げ仲間達を促して墜ちて行った。見届けた癒し手が歯噛みする。声無き声に応じて敵の至近距離に陽銃が火を噴いた。
(「止め、ます……ここで」)
 次いで獄炎纏う銀矢が雨と注ぎ、風詩が呪いを織り上げる。仲間の傷は己が苦しみ、肉が痛む代わりの如く疼き嘆く胸前に手を握り、あおの唇は音無く形無くしかし確かな縛鎖を象った。
 そうしてかの竜が墜ちる。崩れ消え行く遺骸を見届ける暇などケルベロス達には無い。
「……まだ行けますね?」
 時間も場も余裕は未だある、このまま終わらせはしない──ラーヴァの声に伴い踊る炎が皆を鼓舞するよう燃え盛る。


 敵前衛を破ったことで動き易くなった中、ケルベロス達は次に、妨害を主と動いていた敵中衛へと狙いを定めた。足場の崩れた箇所を避け、あるいはもののついでに修復して、不自由の中をされど自在に跳び駆ける。その様は羽根背負う妖精のようにも、あるいは此岸の理など超越した鬼のようにも。
 だが務めを抱える竜達にとっては眼前の全てがただただ障害でしか無いだろう。排するべく風を斬る尾撃に応じてシルクが足元の鋼縄を蹴る。敵の攻撃から逃れ盾役の負担を減じ砲撃を返す彼女に続き、刀を抜いたヒメが宙を駆け敵を斬り穿つ。隙あらばと攻める──たとえ当初の目標を果たしたとて、それ以上を望むとなれば急ぐべき状況であることには変わりない。
「──もうすぐです、気を付けてください」
 ほどなくタイマーが鳴り響き、音源たるスマートフォンを操作した還が声をあげた。残る猶予は約三分、その間に二体目を仕留めたい。攻めに注力出来れば不可能では無かろうと、幾名かが顧みることを己に禁じた。為すべきを成すために、痛みから目を逸らし苦鳴にも耳を塞ぎ潰えず駆け抜け得るほどの覚悟を。
「其ノ魂ヲ煉獄ヘ繋ガン、疾ク永遠ニ──!」
 炎縄手繰る獄卒が額に熱焦がし叫ぶ。これより先はそれこそ、緩まぬ責め苦にとて抗うことを求められる地獄。耐え抜くためにと銀蝶が、翠風が駆けれどもそれとてほどなく途絶えよう。時刻む棍は獲物を捉え、神殺しの砲身は傷刻む爆風を生む。荒れる空を制すのは裁きの光羽、矢と変じ幾重にも注いで標的を貫いて行く。
「必ず遂げてみせよう」
 決意は力に。彼女らが前だけを見ていられるようにと炎抱く鎧騎士は戦況を確かめ地形を確かめ援護にと動く。此度斬撃を重ねるのは枷を更にと望んで。足ることはあれども過ぎることは決して無い、機はいつ失うか判らない。加勢にと爪振るった翼猫はしかしほどなく果てた、それでも顧みるのは後と決めた。未だ保つ者が在るのなら最後までと癒し手は血風の中で弓を引く。
 果たすべきものの為に叶う限りの全力をぶつけ合う。僅かな隙とて竜は逃さず害意は荒れ狂う。ケルベロス達は身を蝕む呪詛を飲み下し荷重に喘ぐ四肢を叱咤する。
 死に瀕しなお抗う敵の連撃は、ヒメ一人で防ぎきれるものでも無く。身を打たれる激痛と共に訪れた限界に、シヴィルの体が力を失った。
 それでも終わりは既に間近。ラーヴァが散らした銀光は、危ういところながら足場に留まり得ていた前衛達を癒すと共に、千切れた鎖を接いで道を繋ぐ。
「逃がさないわ」
 高空の強風に翻る純白の衣に血を咲かせながらも軽やかに刀姫が走る。閃く斬撃に重なるのは石槌の轟音と灼炎の衝撃。続き、獲物を捕らえ絡め取り死へと堕とす弾丸となったのは噴射の尾を引き宙へと舞ったシルク自身。竜の間近に砲撃が爆ぜて、彼女は骸と共に地へと引かれ行く。
 度重なる竜群の攻撃ゆえに足場も最早保ちはせず。達成感ゆえもあろう、各々重力への抵抗を諦め身を任せることを選んだ。浮遊感に襲われる中、翼を持つ者達は周囲の者達を気遣い手を伸べる。見上げた上空には『城塞』の残骸と数を減らした竜の影。
 これならば、とケルベロス達は安堵を吐く。あとはバビロンへ向かった者達が成し遂げてくれるだろうと信じられた。

作者:ヒサ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年1月30日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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