封印城バビロン決戦~航空城塞要撃戦

作者:月見月

「リザレクト・ジェネシス追撃戦、お疲れさまでした。皆さんのおかげで、戦争で討ち漏らした、多くのデウスエクスを撃破する事に成功しました」
 集まったケルベロス達へ、開口一番セリカがそう労いの言葉を掛ける。死神勢力を一掃し、城ヶ島のドラゴン3体も撃破に成功した。だが一方で、彼女の表情は険しいままだ。
「……ですが、ドラゴン達の命を賭した迎撃によって、固定型魔空回廊が完成。竜十字島から多数のドラゴンが城ヶ島に出現しています」
 人口密集地である東京圏にドラゴンが放たれれば、文字通りの狩場と化し、想像を絶する被害がまき散らされる。当然、奪還作戦の検討も始めていたのだが、追い打ちをかけるような報告が複数のヘリオライダーよりもたらされた。
「ドラゴン勢力が、命を捨てでも城ヶ島に執着していた理由……それは日本列島に走る龍脈、フォッサ・マグナです」
 こちらをご覧ください。そう言って彼女が広げたのは一枚の地図。それも地盤なども記載された本格的なもの。それを見ると、日本列島は丁度北アメリカプレート、太平洋プレート、フィリピン海プレートの接する境目に位置している。
「ドラゴンに占拠された城ヶ島から、プレートの裂け目に沿って北に進むと、そこにあるのは……」
 つつつっ、とセリカの指先が動く。その先には赤い点が記されていた。その場所を、ケルベロス達はよく知っている。
「封印城……バビロン」
 ドラゴン勢力は封印城バビロンと城ヶ島を結ぶフォッサ・マグナを暴走させ、関東圏の壊滅を目論んでいる。だが、それはあくまでも目的の前段階でしかない。
「彼らはそうして得た膨大な量のグラビティ・チェインを使い、『惑星スパイラスに閉じ込められた』ドラゴンの勢力の救出を行おうとしているようです」
 この企みを阻止するには、作戦の起点である『城ヶ島』か『封印城バビロン』、そのどちらかを破壊するしかない。だが城ヶ島には固定型魔空回廊があり、竜十字島の全戦力を投入する事が可能である為、この選択肢はそのままドラゴン勢力との決戦を意味する。
 つまり、『封印城バビロンの破壊』が唯一の手段となる。
「まずはその為の足掛かりとして、封印城バビロンの探索をお願いいたします」
 ただし、ドラゴン勢力もケルベロスによるバビロン攻略を察知、これを妨害すべく『竜影海流群』を救援に派遣した。『竜影海流群』は、竜十字島近海の防衛ラインを構成していたエルダードラゴンの一種で、その移動速度と一糸乱れぬ集団戦においてドラゴン勢力でも屈指の能力を誇っている。
 これらがバビロンへと到着すれば、封印城の攻略は非常に困難になってしまうだろう。
「これを阻止する為、世界中からありったけの飛行船や気球をかき集め、それらによって空中に城塞を構築しました。皆さんにはこれらを足場とし、飛来するドラゴンの迎撃をお願いいたします」
 『竜影海流群』は、一直線に封印城バビロンを目指しており、気球と飛行船による『戦場』はその進路上に構築されている。これらを無数のロープや鎖でつなぎ合わせる事により、空を飛ぶドラゴンと渡り合うことが可能となっている。
「勿論、ドラゴンはそれぞれが非常に強力です。互いに連携し合うことが重要となっています」
 竜影海流群のドラゴンは、頭部の角と牙による突撃、翼による滑空斬撃、霙交じりの凍てつく吐息で攻撃を仕掛けてくる。特殊な攻撃は余りないものの、それは小手先に頼る必要のない実力の裏返しでもあった。
「また、今回は戦場を離脱した場合……つまりは空中城塞から落下した場合、当然のことながら戦場への復帰は不可能となります」
 ただし、高所からの落下ダメージであれば、非常に痛いもののケルベロスの生命にかかわるようなダメージにはならない。もし戦闘中窮地に陥った場合には、最悪落下による戦場離脱も視野に入れてもよいだろう。
「敵の進路を予知して迎撃態勢を整える事は出来ましたが、戦場を構成する飛行船や気球はドラゴンの攻撃に耐えるだけの耐久性はありません。戦闘の余波で破壊されることを考えれば、空中城塞でまともに戦える時間は……最大限見積もっても15分程度」
 その間に、出来る限り多くの『竜影海流群』を撃破しなければならない。最低でも1チーム1体倒せれば、増援阻止としては十分な成果となる。余力があれば、更なる戦果を狙っても良いだろう。
「敵を突破させないため、戦力は戦場全体に分際しています。その関係で他のチームとの連携は難しいですが、可能な範囲で助け合って、作戦を成功させてください」
 かくして、セリカはそう話を締めくくると、ケルベロス達を送り出すのであった。


参加者
エレ・ニーレンベルギア(追憶のソール・e01027)
赤星・緋色(中学生ご当地ヒーロー・e03584)
ユーカリプタス・グランディス(神宮寺家毒舌戦闘侍女・e06876)
天乃原・周(不眠の魔法使い・e35675)
九部・玲(鳥獣戯画・e50413)
遠野・篠葉(ヒトを呪わば穴二つ・e56796)
フレデリ・アルフォンス(ウィッチドクターで甲冑騎士・e69627)

■リプレイ

●天空城塞要撃戦
 寒風吹きすさぶ1月末。年が明けてもなお寒波の和らがぬ季節に合って、ケルベロス達の立つ場所は一層寒々しさを感じさせていた。
「空中ステージね! 華麗に空を舞う呪いをお見舞いしちゃうわよ!」
「ドラゴンはなんやかんや面倒だしね! 空中戦は初めてだけど頑張ろ!」
 周囲を見渡しながらころころと笑う遠野・篠葉(ヒトを呪わば穴二つ・e56796)の横では、赤星・緋色(中学生ご当地ヒーロー・e03584)が紅髪を風にたなびかせながら気合を入れている。
 空中ーーそう、彼女らが立っている場所は地上ではない。無数の飛行船と気球を繋ぎあわせ、遥か上空に形成された空中城塞なのである。
「全く、ドラゴンはやることなすこと無茶苦茶過ぎるだろー!? 幾らなんでも規模が大きすぎだ!」
「確かに、日本切断とか冗談じゃない。ドラゴン共の目論見を防ぐためにも、増援は必ず阻止しなければな」
 片や呆れと驚き交じりに叫びを上げ、片や真剣な眼差しで遥か彼方を睨む。フレデリ・アルフォンス(ウィッチドクターで甲冑騎士・e69627)とエヴァンジェリン・ローゼンヴェルグ(真白なる福音・e07785)、両者ともに青を基調とした騎士甲冑姿なれど、その反応は対照的だ。だが、此度の事態を憂慮している事には変わらない。
「仲間の為に、という心意気が素晴らしいですけれど……その動機が地球をどうこうしようじゃなければ、もっと良かったんですけれどね」
 エレ・ニーレンベルギア(追憶のソール・e01027)はそっと肩に留まった羽猫を撫でつつ嘆息する。番犬側がその阻止を狙う以上、ドラゴン側とて当然援軍を投入する。その戦力こそ、これより彼らが迎撃する『竜影海流群』だ。
「時間は限られていますが、だからこそ変に焦らず冷静に行きましょう。焦っても何も上手く行きませんからね」
 そう己に言い聞かせるように呟くユーカリプタス・グランディス(神宮寺家毒舌戦闘侍女・e06876)の足元では、ゴミ箱姿の箱怪が気遣わしげに主を見上げている。胸裏に浮かぶのは赤毛の少女。封印城に向かった弟子の安全を確保するためにも、一体でも多くの敵を屠らねばならない。
「あれは……っ! みんな、どうやら来たみたいだよ!」
 相棒たる神霊と共に周辺警戒を行っていた天乃原・周(不眠の魔法使い・e35675)が、仲間達へ警告を発する。それと同時に天空城塞のあちこちからも同様の報告が上がり始めた。
 まず始めに見えたのは蒼空に浮かぶぽつぽつとした黒い点。それはやがてシミのように広がり、瞬く間にその輪郭を浮かび上がらせた。あれらこそが『竜影海流群』に他ならない。
「やはりドラゴンは侮れぬ存在……すべてを防げぬまでも、一体でも多く落させてもらうでござるよ」
 愛用の絵筆を握り直し、九部・玲(鳥獣戯画・e50413)は急速に迫りくるドラゴンを見据えた。相手もこちらを視認しているはずだが、速度を落とすそぶりさえない。互いの距離が瞬く間に詰まる中、番犬達は腕時計のタイマーボタンに指を掛け……そして。
 ーーオオオォォォォッ!
 互いの距離がゼロとなった瞬間、それを押した。天空城塞における戦闘限界時間は、最大十五分。僅かな時間も無駄にすまいと、ケルベロス達は不安定な足場を蹴ってドラゴンの群れへと飛び込むのであった。

●天駆ける竜、鎖上を駆ける番犬
「さぁ、いこうか……竜十字島近海の防衛を担う実力、いかほどのものか見せて貰おう」
 殺到してくる竜へ、臆することなく先陣を切ったのはエヴァンジェリン。自らを奮い立たせる言葉を吐息と共に蒼空へと漏らしながら、鎖上を危なげなく駆ける。
 ーーシャアァッ!
 それに呼応し、竜影海流群の一体が彼女へと角を向けた。星辰剣の切っ先がまるで流星の如く雷光を伴って繰り出され、迫る穿角と交錯する。突きの一撃が相手の体側より鱗を数十枚纏めて剥ぎ取るも、勢いを殺し切ることは叶わない。
 角先によって肩口を切り裂かれるも、敢えて勢いに逆らわず身を捩って被害を最小限に留めた。
「っ、やはり一筋縄ではいかないか……!」
「ではまず、その勢いを止めましょうか。ラズリはリカバーをお願いね」
 体勢を崩すエヴァンジェリンへ、羽猫の羽ばたきが優しく身体を包み込む。そうして彼女が下の足場へ移るや、空いた射線へと入れ替わる様にエレの放った砲撃が飛び出してゆく。砲弾は竜の角に貫かれるも、砕けた破片が散弾の如く鱗に食い込み、僅かではあるが動きを押しとどめた。
「足が止まりましたね……さあ、ここからです。削れる機会を見逃す手はありません」
 ぼふりと、蒼空に色とりどりの爆煙が花開く。ユーカリプタスの仕込んだ爆薬、それらは鎖や気球に取り付けられ、四方八方から三次元的に煙を噴き上げる。煙幕は相手の視界を奪うと同時に、仲間の攻撃を察知させない役目も果たす。
「頭上注意、飛べるからって油断してたらこうなるよっ!」
 びゅうびゅうと吹きすさぶ風が煙を吹き散らすよりも先に、それらを引き裂いて現れるのは緋色。彼女は素早く足場を駆け上がり竜の上方を取るや、落下速度を利用した蹴撃を叩き込む。びしりと背中の鱗が砕け散るのを確認すると、相手の体を足場として跳躍、煙に紛れて離脱していった。
「成程、そういうのもありなのね。私も何か復帰技を習得しておけばよかったわ……でも、こっちが落ちる前にドラゴンをバーストさせればいいのよね?」
 感心したように耳を動かしつつも、相手が体勢を立て直すよりも先に篠葉は手にした宝玉に魔力を籠めて練り上げる。
「私の可愛い呪いの力、見せてあげる! 呪い給え、祟り給え……えい!」
 周囲の煙が急速に収束するや、それらは無数の亡霊の形を取った。亡霊たちは竜の全身へと取り付くや、元が煙であるにも関わらず雁字搦めに全身を締め上げ動きを封じる。
 ーーグ、オオオォッ!
 しかし相手も戦闘種族たるドラゴン、為すが儘などあり得ない。竜は体を振って亡霊を振り払うと、一度離脱し急速に旋回。番犬達目掛けて滑空するや、胸鰭を刃として周囲を薙ぎ払ってゆく。
「駄目だ、止め切れないっ!」
「皆のもの、無事な足場を探すでござるっ! 下が崩れるでござるよ!」
 周の神霊やユーカリプタスの箱怪、防御役を務める玲が攻撃を受け止めるも、完全に押し留める事は出来なかった。鎖が十本単位で切り裂かれ、繋がりを断たれた気球や飛行船が風に流されてゆく。その光景に歯噛みする玲が、銀の粒子を周囲へ振りまきながら天を指し示す。
「大戦に続いて、追撃そして竜退治でござるか。忙しないことでござるが、己の役目はしかと果たさせて頂く!」
 バチリという破裂音が空に響く。彼女の指先より迸った電流はばらけた鎖の金輪を伝い気球まで到達するや、垂れ下がった鎖より落雷の如く放たれる。流石に落下まではしないものの、竜はじたばたと煙を噴き上げて悶え苦しむ。
「効いてはいるが……まだピンピンしているな。直撃だって当てているのに、どんな耐久力をしてるんだか」
「元より予想できたことです。まずは一体、確実に討ち取るためにも嘆いてばかりはいられません」
「だな。援護はこっちが引き受ける、代わりに攻撃は頼んだぞ!」
 ぶわりと、フレデリの全身から銀の粒子が吹き荒れた。それは彼を慕う流体金属体による全力の支援。銀の輝きは先程玲が振りまいた粒子と混ざり合い、周囲の薄い大気の代わりに仲間達を包み込んでゆく。それらによって感覚を研ぎ澄ませた周が、相手の姿をしっかりと視界内へと捉える。
「普通に当てただけじゃ、有効打にはなりきれない……なら」
 全身を走る淡い輝きにより氷河の精霊が召喚され、敵めがけて空を駆ける。ただ単純に命中させても効果が薄いのであれば、守りの薄い場所を狙えば良い。精霊たちは竜の鱗が剥ぎ取られた個所へ取り付くや、瞬時に内部から凍らせてゆく。
 ーーオオオオオォォッ!
 だが竜も海空を問わず動くモノ。寒さには慣れている。竜は傷口の霜を振り払いながら、氷風の吐息を辺りへとまき散らす。それは番犬はもとより、周囲の鎖を凍結させ、自壊させていった。
 刻々と削られゆく戦闘限界時間。竜影海流群との戦いは、激化の一途を辿りゆくのであった。

●空の果てより落つる者
 ーーピピピッ、ピピピッ。
(今のは、三度目……もう九分というべきか、まだ六分あるとみるべきか)
 掻き消えてしまいそうな微かな電子音が、フレデリの耳朶を打つ。だが、時間の確認に意識を割く余裕はあまり残されていなかった。
 ーーオオオオオォオオッ!
 血に濡れた竜が猛烈な勢いで突撃してくるのに対し、フレデリは紅に染め上げられた魔力を手繰り寄せ、叩きつける。ぼろりと鱗が剥がれ落ちるも、構わず突撃を敢行。フレデリも全身を使って攻撃をいなすが、逆に足場が耐え切れずに引きちぎれた。
「っ……これを用意していなければそのまま落下していたな」
 間一髪、彼の体を落下から辛くも逃れさせていたのは、手から伸びる鉤付きのロープであった。
「大丈夫? って言っても、私も含め誰もボロボロだけどね」
 近くにいた篠葉が手を貸しながら苦笑する。彼女もフレデリも、共に全身が血跡と傷に塗れていた。
 戦闘開始から半ばが過ぎ、番犬たちは元より天空城塞も痛々しい姿を晒しつつあった。さらに当然ながら、城塞の損傷に比例して足場も減少してきている。一方で、竜も着実に追い詰められていることが救いであったが、決して楽観視は出来ない。
「最低でも一体……可能であれば、もう一体は倒したいけれど」
 周の眼前で宙を舞う竜は、傍目から見ても満身創痍だ。だが、手負いの獣は恐ろしいというように、その動きには些かの陰りもない。
「それを狙うなら、あのドラゴンをステージから叩き落さないといけないわね? 相手だってそろそろバーストしそうだし、狙えないわけじゃないわ」
「ですね……こちらで動きを止めますので、その隙に。出でよ、ベールフェゴル! その怠惰を分け与え給え!」
 篠葉に応じ、周は魔力を編み上げ、虚空に魔方陣を描き出す。そこより生み出されるのは、怠惰を司る魔神の幻影。効果時間は僅か数十秒、負担も重く周が苦痛に顔を浮かべるもその威力は絶大だ。虚空へと静止する竜へ、篠葉も第二撃を叩き込む。
「動きさえ止まれば攻撃し放題だし、張り切ってバリバリ呪っちゃうぞ☆」
 魔神の効果が切れる前に、グラビティを中和する光玉が命中する。強制的な停滞に加え、グラビティを無効化された結果、ぐらりと竜の体が傾ぐ。
「今が好機……我が魂を刃と為し、万物悉く薙ぎ払え!」
 ここで勝負を決める。そう判断したエヴァンジェリンは魔力を収束、圧縮させ一振りの光刃を形成する。それを大上段に構え、残り少なくなった足場を蹴って相手の元へ肉薄する……が。
 ーーコォォォォオオッ!
「っ、いけない! カウンター狙いよ、避けて!」
 攻撃後も相手の動きに注視していた篠葉が咄嗟に叫ぶ。身動きが出来ぬなら、それでも取れる手を。竜の口腔内には凍てつく風が内包され、今にも解放されようとしている。だが、既に攻撃体勢を取っていたエヴァンジェリンに回避する時間はない。すわ直撃かと、誰もが思った瞬間。
「そうは……させぬでござる!」
 持ち前の素早い身のこなしで両者の間に割り込むや、玲が氷嵐をその身一つで受け止めた。壁役を担い尤も消耗の激しかった彼女の体が崩れ落ちるが、引き換えに仲間へと攻撃の機会を繋げる。
「感謝を……これで、仕舞いだッ!」
 最早阻むものは無し、感謝と共に必殺の一撃を振り下ろす。ばっさりと半身を切られた魚竜はもはや致命の域。飛行能力を失い、落下し始める、が。
 ーーオオォッ!
 仮にも竜影海流群が一体、最後は一人でも道連れにとアギトを開きエヴァンジェリンに食いつかんとする。だがその全身へ、墨で描かれた無数の獣たちが纏わりついて引きずり下ろす。
「いざいざご賢覧あれ! 我が渾身の一筆にて描き上げるは黒塗りの獣たち! そやつが落下旅の道ずれでござる!」
 裏の掻き合い、読み合いは忍びの領分。ぎりぎりで意識を残していた玲は竜を今度こそ絶命させると同時に、戦闘続行は困難として海上へ落下してゆくのであった。
「これで目標の一体……残り時間は?」
「あと三分、足場も持ってそこまでだ!」
 ユーカリプタスの問いに、フレデリが叫ぶ。三分間、それで倒せる敵を。番犬たちが見通しの良くなった戦場に素早く視線を走らせ、標的を探し……。
「手負い……交戦よりも救援を優先した個体? 皆さん、あれなら倒せるかもしれません!」
 ユーカリプタスが叫びを上げる。その指し示す先には満身創痍の竜が一体、天空城塞を突破せんと足掻いている。理由はどうあれ、これをみすみす逃す理由はない。
「星々の癒し光よ。ここに! 支援はこれにて最後です、ここを逃せばもう攻撃の機会はありません。全力でいきます!」
 斬撃で描いた蠍座によって仲間達へ最後の支援を送りながら、ユーカリプタスも胸部より光線を解き放つ。それは小柄な身体を生かして接近していた箱怪の噛みつきと共に、竜の足を止める事に成功した。すかさず、エレと緋色の両名が鎖を伝い接近を試みる。
 ーーグ、オオォ……。
 苛立たしげに竜は体を翻すと、刃の如き鰭を構え滑空を仕掛けてくる。ダメージの具合では両者ともに同じ、直撃すればそのまま終わりに直結するだろう。
「貴方達は連携を得意としてるようだけれど……それはこちらだって同じです」
 だが、すぱりと断たれたのは鎖のみ。羽猫の放ったリングが僅かに軌道を逸らしたのだ。エレはすれ違いざまに回し蹴りを繰り出すや、交錯時の摩擦熱を利用して炎を生み出す。焼けつく痛みがほんの一瞬、竜の集中を乱し……それが命運を分けた。
「ひっさーつ! フェノメノンスタビライザー、コエドシティぃいいいっ!」
 大鎌とナイフ、妖精靴に闘気。身に纏う全ての武器へ川越市より抽出したグラビティチェインを纏わせた緋色が、全力の一撃を真っ向から叩き込んだのである。それは緋色の傷を癒してゆくと同時に、残り少なかった竜の体力を纏めて毟り取っていった。
「滑り込みで二体目討伐完了だよ! と、ととと、こっちももう限界かな?」
 糸が切れた様に地面へと落下してゆく竜と同時に、ぼろぼろと周囲の足場が崩れてゆく。緋色を始めとした番犬たちも、辛うじて無事な気球や飛行船へと慌てて飛び移る。
 気が付くと、辺りに竜影海流群の姿は無かった。何体かは抜けた可能性もあるが、それでも討伐した数の方が多いのは番犬の戦いぶりからして確実だろう。天空城塞はほろぼろであるし、番犬側も瀕死寸前の者や戦闘不能者も出してはいる。
 だが、この要撃戦の勝者が誰であるか。それは最後まで天空に在り続けたケルベロス達の姿が如実に示すのであった。

作者:月見月 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年1月30日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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