封印城バビロン決戦~蘇生目論む禍津

作者:遠藤にんし


「まずは、リザレクト・ジェネシス追撃戦、お疲れ様」
 お陰で多くのデウスエクスを倒すことが出来たと告げてから、高田・冴(シャドウエルフのヘリオライダー・en0048)は話を続ける。
「特に城ヶ島でのドラゴンとの戦いは激しかった。3体は撃破出来たが……固定型魔空回廊が完成し、竜十字島から多くのドラゴンが出現しているんだ」
 その危険性は語るまでもないことだと冴は顔を曇らせる。
 ――人口密集地である東京圏にドラゴンの拠点がある、ということの危険性がどれほどのものか。想像したケルベロスたちも表情を曇らせる中、冴は言う。
「城ヶ島の奪還作戦について検討していたところ、恐ろしい予知があったんだ」
 言いつつ、冴は地図を広げる。
「そもそも、どうしてドラゴンは城ヶ島に執着していたのか。それは、」
 冴が指したのは、日本を支える三つのプレート。
「龍脈、フォッサ・マグナがあるからなんだ」
 北アメリカプレート、ユーラシアプレート、フィリピン海プレートの境目である日本。
 城ヶ島からプレートの裂け目に沿うように北へと冴が指を動かしていくと、そこには『封印城バビロン』があるのだ。
「ドラゴンたちの目的は、封印城バビロンと城ヶ島を結ぶフォッサ・マグナを暴走させることだ」
 それによって関東圏を壊滅させグラビティ・チェインを獲得。
 得たグラビティ・チェインを用いて惑星スパイラスに閉じ込められたドラゴン勢力を救出しようという目論見のようだ。
「この目論見を阻止するために必要なのは、『城ヶ島』か『封印城バビロン』のどちらかを破壊しなければいけない」
 とはいえ、城ヶ島には固定型魔空回廊があり、竜十字島の全戦力を投入できる状況。
 城ヶ島を破壊するとなると竜十字島との決戦を覚悟しなくてはならないため、現状は封印城バビロンを破壊することが必要となるだろう。
「――だから、みんなにはその作戦の第一段階として、封印城バビロンの探索をお願いしたいんだ」
 敵の作戦を止めるのであれば、要塞竜母タラスクの心臓部を撃破するほかない。
「ただ、普通の方法で心臓部へ到達することは出来ない」
 心臓部へ到達するためには、無尽蔵の竜牙流星雨を止め、ドラゴン戦車の供給元である戦車工廠を破壊、更にサルベージした戦力を操る死神を撃破しなくてはならないのだ。
 冴がここにいるケルベロスたちのお願いしたいのは、ダンジョン探索中のケルベロスが遭遇した死神『マガツキマイラ』を撃破することだ。
「マガツキマイラはケルベロスの探索で減少した戦力を回復させ、要塞竜母タラスクが撃破された場合にすぐさまサルベージをしようと備えている」
 撃破した要塞竜母タラスクがサルベージされてしまうような、最悪の状況は避けたいところだ。
 サルベージを防げるために、マガツキマイラの撃破は必須となるのだ。
「マガツキマイラはダンジョンのどこかに潜んで、サルベージ儀式の準備をしている」
 肝心の場所については、現状では掴めていない。
 三手に分かれてダンジョンを探索し、マガツキマイラを見つけ出して撃破する。
 それが今回、ケルベロスたちに求められることだ。
「目的は要塞竜母タラスクのサルベージを阻止すること。儀式の阻止さえ出来るのであれば……最悪、マガツキマイラを撃破しなくても問題はない」
 まずは、3チームでダンジョンを探索する必要がある。
 可能性の高い場所は9ヶ所。
「資料は別にまとめてあるから、必ず確認しておいてほしい」
 どの順で、どこを探索していくかといったことも考える必要があるだろう。
 他のチームとは完全な別行動となるため、マガツキマイラと遭遇した際の準備も怠ってはならないだろう。
「万が一失敗したら、タラスクを倒した直後にサルベージされて、もう一度戦う羽目になる……絶対に失敗することは出来ないんだ」
 そう告げる冴の瞳には、真剣な色が宿っていた。


参加者
レーグル・ノルベルト(ダーヴィド・e00079)
罪咎・憂女(刻む者・e03355)
クローネ・ラヴクラフト(月風の魔法使い・e26671)
ヒビスクム・ロザシネンシス(地中の赤花・e27366)
岩櫃・風太郎(閃光螺旋の紅き鞘たる猿忍・e29164)
美津羽・光流(水妖・e29827)
朧・遊鬼(火車・e36891)
長久・千翠(泥中より空を望む者・e50574)

■リプレイ


 レーグル・ノルベルト(ダーヴィド・e00079)らケルベロスたちは、封印城バビロンへと足を踏み入れた。
「現在地は……うん、アンダー・ザ・バビロンで間違いないよ」
 探索の経験がある仲間の情報をまとめた地図を広げるクローネ・ラヴクラフト(月風の魔法使い・e26671)は現在地を確認してから周囲を見渡す。
 仲間へかける言葉が潜められているのは、敵に見つかり余計な戦闘をしないようにするため。
 ケルベロスたちもそれを把握しているから声を出さずにうなずき合い、慎重にダンジョンを進んでいく。
 隠密気流を用いるヒビスクム・ロザシネンシス(地中の赤花・e27366)がドアを開け、用心深く周囲に視線を巡らせる。敵の気配がないので背後のケルベロスたちにうなずいて見せてから、ヒビスクムは左側のドアへ頬を張り付けるようにして聞き耳を立てる。
 このドアの先の部屋には魔法陣がある――マガツキマイラは、ここにいるかもしれないのだ。
 ドアは開かれた。岩櫃・風太郎(閃光螺旋の紅き鞘たる猿忍・e29164)は虹色の如意棒を手に、魔法陣の部屋へ足を踏み入れる。
「ぱっと見は見当たらないでござるな」
 部屋にマガツキマイラの姿も、敵の姿も見当たらない。
「念のため調べておかないとな」
 ナノナノのルーナを伴う朧・遊鬼(火車・e36891)は言い、部屋の奥にある暖炉へと歩み寄る。
「手がかりだけでも見つかると良いが」
 長久・千翠(泥中より空を望む者・e50574)は部屋に置かれた長椅子を持ち上げる。白いタイルの床に至るまで入念に、ケルベロスたちは調査を進めていく。
 美津羽・光流(水妖・e29827)は魔法陣の上に立ち、仕掛けられたスイッチを重点的にチェック。
 錨を象る銀のペンダントを首元で揺らし、冷たい床に光流は触れる。中央にスイッチがあるのは変わらず、そこから流れ出る魔力にも違和感はなかった。
『ここには何もないようだな』
 ヘリオンに搭乗した時より戦闘へ意識を向ける罪咎・憂女(刻む者・e03355)は呟く。
 どうやらここではマガツキマイラの儀式は行われないようだ――スイッチを踏んで魔力の流れを途絶させ、一同は先へ進むことに決めた。
 アンダー・ザ・バビロンの一階は複数の小部屋が連なっている。用心深くドアを開けるレーグルの後ろ、遊鬼は独りごちる。
「混戦になる心配はないな」
 小部屋で区切られているお陰で、交戦中にまた別の敵が現れるような心配はないと言える。
 しかし敵と遭遇した場合、撤退することは難しくなる……戦いはなるべく避け、戦うならば必勝が求められるということ。
 覚悟を胸に、ケルベロスたちは階段を下る。


 絨毯張りの階段を下りれば、再び硬質な床に足が触れる。
「早く見つけて、不穏な企みをなんとかしないとね」
 クローネが視線を巡らせると、動きに合わせてケセラン・パサランがふわり揺れる。
 そんなクローネを守るように前に立つ風太郎は、不意に前方から敵の気配を覚えた。
「邪魔でござる、イヤーッ!」
 廊下を塞ぐように立つラセン・トガノオロチの威容――魔竜らめがけて風太郎は装填した紅蓮の炎と共に敵陣へ。
 残霊といえど巨体から放たれる螺旋尾剣は苛烈に思えたが、ヒビスクムはガブリンと共に前に出、その斬撃を受け止める。
「さあ、気合れていくぜっ」
 ガブリンがブレスを吐くのに合わせてヒビスクムは回し蹴りを叩き込むと、吹き荒れる暴風に赤い短髪が揺れ。
「こういうのは慣れないんだがな」
 千翠は呟いてから呼気を整え、眼前の敵へと呪いを授ける。
「歪め。蝕め」
 呪いが敵の動きを止めた瞬間、憂女は滑空し惨殺ナイフ『憂』の切っ先を敵の首へ当て。
『…………疾ッ!』
 一瞬のうちにその命を刈り取った。
『さて、成すべきことをしなければな』
 戦いを終えた後もヒビスクムは警戒を怠らない。角を曲がると、徘徊する残霊の姿が見て取れた。
 こちらへ背を向けてはいるが、ケルベロス達の進行方向――玉座へ向かってゆるゆると歩いている。
「避けるのは難しいようだな」
 残霊どもに気付かれずに脇をすり抜けるというのは困難だと判断して遊鬼は呟く。
 敵が移動するまで待機するという手もあるが、こうしている間にも近くで残霊は湧き、徘徊している。
「ここで時間は掛けない方が良さそうやな」
 光流の言葉にうなずくと遊鬼は即座にブラックスライムを伸ばし、油断しきった敵の背中へと奇襲を仕掛ける。
 ブラックスライムに貫かれた背にレーグルは呪詛を滲ませる。反撃は護剣をくわえたオルトロスのお師匠が受け止め、ルーナはナノナノばりあでお師匠を助ける。
 そのようにしてオルトロスとナノナノが連携を取る中、クローネはケルベロスチェインから加護を引き出した。
 地下の薄暗い中に満ちる加護の輝きの中、光流の指先は自身の胸元で波を描き。
「訪れて打て」
 すると、仄暗く冷たい海水が辺りに満ち。
「此は現世と常世を分かつ汀なり」
 それは波濤となって残霊を飲み干し、水そのものも失せていく。

 連戦を終えると、周囲の残霊のざわめきが強くなったようにケルベロスたちには感じられた。
 戦いの気配に彼らは荒ぶっているのかもしれない……警戒は決して怠らず、一行は玉座へと足を急がせた。

 ――玉座に据えられた宝玉は鈍い輝きを湛えている。
 部屋は広く、しかし玉座以外には柱が立つのみ。
 マガツキマイラの姿は見当たらないが、それでも手がかりを探るために玉座を集中的に調査することにした。
 豪奢な土台に妖しい光の宝玉。赤く彩られた座面にまで探索の手を伸ばしたが、マガツキマイラの気配はここにはないようだ。
 一階、そして地下一階にマガツキマイラはいない。
『残るはノトスの湯のみだな』
 憂女の呟きに、ケルベロスたちは表情を引き締めてうなずく。
 更に地下へ下ろうとすれば毒と熱を秘める残霊が咆哮し、深い憎悪に満ちた表情で襲い掛かる。
 ケルベロスたちはそれらを撃破してから、地下二階へと足を踏み入れた。


 足を踏み入れた瞬間に全身を覆う熱気に、千翠は思わず息を詰まらせる。
「酷い熱波だ」
 そんな千翠の言葉をかき消すかのような重い地響きと共に、赫熱竜ノトスの残霊が姿を見せる。
「強者ケルベロスよ……この怒り、失せることはありません……!」
 重々しい声と共に、噴出する熱気が増すのを覚えて憂女は赤い眼差しを厳しく細めて飛翔、戦姫の黒衣を翻して藍色の刃で突き刺すのに続いて、レーグルは虹華鱗夜で一撃を叩きつける。
 一体一体を確実に撃破しようとする彼らの動きに無駄はなく、着実に敵を追い詰めていく。
 ――しかし、同時にケルベロスたちの体力も奪われつつあることは事実。
「ガブリン!」
 度重なる攻撃にガブリンの赤い姿が辺りの灼熱に溶けるかのように消滅する。ダンジョンを出れば戻ってきてくれるということは分かっていてもヒビスクムは消えたガブリンの名を呼んで、それから敵へと向き直る。
「なめてんじゃねーぞ!」
 突撃したい気持ちを押さえ込み、ヒビスクムはグラビティ・チェインをハイビスカスの花へ変え。
「情熱の赤花よ! 萌え上がれ!」
 紅蓮の中に咲き誇る真紅に月の瞳を和らげつつ、クローネは歌声を癒しとして広げる。
「命育み、協う、温かな腕。母なる大地の象徴たる、慈愛の女神よ」
 優しい星のメロディが響き渡る中、風太郎は虹色に輝く無量光大螺旋を如意棒に纏わせた。
「刮目せよ! 煌めけ、我が閃光螺旋! ニルヴァーナッ! アミダ・スパイラルッ! イヤーッ!」
 ドリルを思わせる動きと共に吶喊する風太郎の切り開いた道へ、光流は飛び込む。
「儀式はきっちり阻止せな」
 おかわりなんてさせへん、と呟く光流へ殺到する残霊どもだが、しかし既にそこに光流の姿はない。
 気付いた時には背後へ回っていた光流の動きに対応することが出来ず、蹴りに伴う流星群が叩きつけられた。
「余裕があればルーナを攻撃に回せるんだがな……」
 ばりあを張って回って大忙しのルーナに視線をやって、遊鬼は呟く。
 連戦であり乱戦であるこの状況において前衛陣の消耗は激しく、庇い続けたお師匠は疲労にか舌を出して喘ぐ。
 前衛ではない遊鬼もまた重なる負荷に体力を削られているのを感じながら、青の鬼火を揺らめかせては燃え上がらせ、攻撃の手を向ける。
「この戦いが終わったら、俺が前に出よう」
 だから、この戦いだけは耐え抜いてほしい――千翠は前線の仲間へそのように思いを伝え、敵へと呪詛秘める刃を突き立てる。
 滲む怨念は泥のように蝕むもの。形すら歪められ、ついには姿を消す残霊。
 今のところは致命傷を負ったものがいないことを確かめ合うと、ケルベロス達は体力の乏しい者を後方へ、余力がある者を前列へと隊列を整える。
『ここで退がるというのか』
 憂女の問いは念のためという調子で、その問いに皆はそろってかぶりを振る。
『……そうであろうな』
 まだすべての調査は完了しておらず、ケルベロスたちは危険な状態ではあるものの全員が戦線に立っている……ならば進むのみと、八名はノトスの湯へと向かう。

 地下二階へ満ちる熱気とはまた異なる風合いの熱気が、そこには満ちていた。
「温かいな」
 煮えたぎるほどではなく熱い湯が大理石の浴槽を満たす。千翠は湯に手を浸し、光流に至っては湯に浸かっているが、湯そのものに異端の気配はない。
 軽く柔らかな水音を耳にしながらも部屋を探るが、広くはない部屋には浴槽があるのみ。
 お師匠がお風呂に落っこちないように抱き上げるクローネは水面の揺らぎにまで熱心に目を凝らしてみるものの、湯は湯、特異なものは見当たらなかった。
 ここにもマガツキマイラの気配を見つけることは出来ない……どうやら、マガツキマイラはアンダー・ザ・バビロンにはいないらしい。
「別の場所にいるようでござるな」
 風太郎も入念に探ってみるものの、やはりここに手がかりはない。
「バビロン城に向かった奴らで倒してくれているだろう」
 遊鬼は言って、ルーナと共にノトスの湯を出る。
 タラスクを倒しに行ったケルベロスたち、バビロン城にてマガツキマイラと交戦するであろうケルベロスたち。
 彼らの努力が無駄になることはないだろうという信頼を胸に、八名はノトスの湯を去ることにした。
 果たすことは全て果たした――否、もう一つだけ残っていた。
「無事に帰還しないとな」
 階段を上がったケルベロスたちを待ち構えていたかのように、残霊の群体が猛々しい表情を浮かべてこちらを向いている。
 体力の面で心配のある現状では負担の強い戦いだとは承知したうえで、ケルベロスたちは脱出するための連戦に身を投じる。

 マガツキマイラとの戦闘を懸念する必要がないから、攻撃に偏重しての戦いは進む。
 隊列を整えてなお全員が消耗していることは事実。庇いも確実ではなく、ケルベロスたちは危機感を覚えながら攻撃の応酬を繰り返す。
「出口が見つかりましたね。これで探索は終了です」
 ――ようやく出口にたどり着いて、憂女は口調を和らげる。
 深い傷を負った者の姿もある。ただのダンジョンと侮ってかかるには危険すぎる探索は、これで終わりを告げるだろう。
 ケルベロスたちは帰還する……この作戦が成功していることを願って、出口へと大きく踏み出した。

作者:遠藤にんし 重傷:レーグル・ノルベルト(ダーヴィド・e00079) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年1月30日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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