封印城バビロン決戦～塞竜の心臓を穿つ

■リプレイ

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　封印城バビロン。
　窓が明滅し、爆発音と煙が漏れるのを、リリー・リーゼンフェルト（耀星爛舞・e11348）が睨んで。
「時間ね……突入して一気に中枢へ。このデカブツを止めてやるわ」
　番犬たちは大扉を潜る。中の残霊や竜の眷属たちは、先行三作戦で壊滅しているが、走りゆく面々に油断はない。
「とても難しい作戦ですが、何とかしないと犠牲は大きなものになります……共に頑張りましょう」
　そう言う十夜・泉（地球人のミュージックファイター・e00031）に、不知火・梓（酔虎・e00528） は咥えた爪楊枝を持ち上げて。
「ああ。撤退は考えねぇ。俺らが退いたら……日本が割られちまうらしいからな」
　フィルトリア・フィルトレーゼ（傷だらけの復讐者・e03002）は、静かな決意を以って瓦礫だらけの階段を跳び登る。
「それが起きれば一般の方々にどれ程の被害がでるか……そんな事は絶対にさせません！　急ぎましょう！」
　小竜ラグナルが瓦礫を突き崩した道を進みながら、神崎・晟（熱烈峻厳・e02896）は口を結ぶ。
（「日本分断……か。また大仰なことを。しかしこの状況を作った責任の一端は私にもある。なんとしても阻止しなければならん……」）
　崩れかかった大橋を駆け抜け遠く戦音が床を揺らす中、軋峰・双吉（黒液双翼・e21069）はけらけらと笑いながら扉を蹴破った。
「そろそろだなぁ。心臓部に突入って漫画に出てくる悪魔っぽいバイ菌にでもなった気分だぜ」
「あそこだ……！　日本分断など、させるものか！　その奸計は、俺達がここで止める！」
　扉を潜った北條・計都（凶兆の鋼鴉・e28570）が、壁に走った傷のような亀裂を指す。愛車こがらす丸で、裂け目を一気に跳び越える。
　番犬たちは紅く明滅する通路を駆け抜け、数百メートルはあろうかという巨大な広間へ到達した。
『ケルベロス……』
　最奥で静かに唸る炉心を前に、その声は降り注ぐ。
『我に、死をもたらしに参りましたか』
　幸・鳳琴（黄龍拳・e00039）が大きく身構えて、空へ吼える。
「仲間たちが、身を挺してこの道を切り拓いてくれました……！　さあ、タラスク！　いざ勝負だっ！」
　武装を解き放つ番犬たち。要塞竜母の沈黙は一瞬の間、広間を満たす。
『……死をもたらす番犬の力と、我が機動増殖進化に、決着をつける時が来たのですね』
　そして床から紫電が迸る。盛り上がった大地は要塞砲を生やし、床板を砕くように巨大な頭が現れ、巨大な竜の輪郭を描いて。
『では……終わりにしましょう。長くも短い……この闘いを！』
　迷宮の機能を次々と落とし、全力を集中させた要塞竜母タラスクが、遂にその身を露わにする。
　封印城バビロン最後の闘いが、始まった……。

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　それは、要塞そのものが意志を以って動き始めたかの如く。
「今こそ我らが力を発揮するときじゃ！　わらわも全力で支援するぞ！」
　背を叩く白銀の閃光とその加護を背負いながら、近接班は駆ける。遊撃班より前衛に加わったニケ・センと共に、泉と梓が飛び出して。
「これは壊しがいがある……そう、語るべきでしょうか。ミッツメ……参ります」
　いち早く跳躍した泉の手刀が、要塞砲を刺し貫く。その貫手は金属をひしゃげ、内部の弾丸さえ断ち割って。
　それに続かんと刃を抜いた梓に、中衛から執事服の少年が跳び寄った。
「ちょっとだけ、手助けするよ」
「助かる。飛ばしていくぜ！」
　螺旋の加護を身に受けながら、梓は楊枝を吐き、その刃で要塞砲を両断する。
　同時に、タラスクはその全身の砲台から火花を吹かせた。
「……！　狙いは私たち前衛だ！　守れ、ラグナル！」
「こがらす丸！　協力して、不知火さんと十夜さんを！」
　乱射される砲弾の嵐。身を裂く破片弾と火焔に裂かれながら、前衛はその巨体に体を叩きつけるように攻撃を開始した。
　更に。
「まずは挨拶……針鼠になるといいよ……！」
「これでも喰らうっすよ！」
　支援射撃が着弾し、遊撃班もその装甲を穿って距離を取る……が。
『三十匹にも満たぬ蟻が蜥蜴に勝てるとでも？』
　轟音と共に巨大な尾が持ち上がる。拳で装甲を砕いていた鳳琴が、ハッと振り返って。
「まるで動じない。これがタラスクの底力……！　気を付けて！　尾が来ます！」
　瞬間、晟は翼を広げ、計都はこがらす丸より跳躍した。
「全く、序盤から忙しいな。任せろ……！」
「遊撃班を狙ってるな！　俺が守り抜く！」
　体ごと尾に叩きつけ、その威力を殺しつつも、二人の体は弾き飛ばされる。轟音と共に床は砕け、遊撃班の姿が土煙の中へ消えて。
「この威力、魔竜に引けを取らないわ！　何発持つかわからない……支援班、回復を！」
「敵もこの作戦に命を懸けているんです……！　ですが、私達も負けるわけにはいきません！」
　リリーとフィルトリアの視線が交錯し、二人はその拳を振り上げた。戦友の影と断罪の炎を背負った拳が、二閃となってその装甲を穿つ。
『無駄なことです』
　支援班の癒しが飛び交う中、タラスクは身を震わせ、損傷を受けた装甲をパージする。
　その行動に、双助が眉を寄せて。
「あぁ？　もう回復か？　二、三分じゃ、大して喰らっちゃいねえだろうに……舐めてやがんのか？」
「いや……油断はねえし、確かに強ぇ。だがどーにも血が煮え切らねえ……何か、待ってやがるぜ。コイツは」
　破槌と刃を振り上げて、砕けた装甲の奥にある竜鱗を裂きながら、梓が呟きを返す。それに合わせて、竜の皮膚に深々と鎌を突き立てるのは、泉。
「つまり……タラスクの戦術は、待ち。増援到着まで耐えてから、こちらを包囲殲滅する。そういう作戦ですね」
　その時、頭上で無数の要塞砲が火を噴いた。
「支援班に……！」
　その一発に、晟がしがみ付いた。爆炎は胸倉を引き裂き、焦げた臭いが飛び散る。食い止めきれなかった砲撃が支援班を火焔に呑む中、晟は血を吐いて。
「この圧倒的な火力を保持しながら……なお堅実策か。冷酷かつ苛烈。有能な指揮官だ」
　そう言う彼の手を空中で掴むのは、計都。愛車の背に晟を引き込み、焦げだらけになりながらも火焔の中を走る。
「敵が慎重になっているならば、今こそ攻撃の機会です！　今のうちに、叩ける限りを叩きましょう！　それが俺たちの前衛の役割です！」
　そこに迫るは、巨大な尾。咄嗟に主人を護ったこがらす丸とラグナルが光と消え、前衛の仲間たちが一瞬で弾き飛ばされていく……その中、二人は宙へ跳んでいた。
「正しいな。ならば護りこそ、攻撃への足掛かり。支えは任せろ！　存分に行け！」
「ああ！　刮目しろ、タラスク！　俺達の精一杯をッ！」
　晟が打ち込む砲戟龍の力が計都の装甲を強化し、血泥を払って計都は蹴り込む。放たれた凶鳥の一撃は、彗星の如くタラスクの胸倉を撃ち抜いた。
『小癪な……』
　闘い始めて、五分。
　堅実策を取りつつも、竜の火力は圧倒的。
　果たして……。

●
『我が仔ら、我が同胞、我が盟友……いずれ来たる全軍を以て、あなた達を踏み潰す』
　要塞竜母タラスクは、破損個所と番犬たちを払い飛ばす。
「二連続でパージって……慎重にもほどがあるでしょ！　打ち込んだ呪縛が消えるわ！」
　滑落しながら、リリーはその拳から気弾を放つ。そんな小さな一矢が、意味を持つとはまるで思えない。だが。
　折れそうになる皆の心を、計都が最前線で励まし続けている。
「力の差がどれだけあろうとも……仲間との絆なら、俺たちは誰にも負けはしない！　お前の増援は来ない！　仲間を……信じるんだッ！」
　力を分けた愛車も失い、残るは気力だけとなっても、その脚は戦場を駆ける。
（「今、次が来れば……俺は……！」）
　まだ支援班の回復は、計都の身まで届いていない。だが彼の刃が巨竜の脇腹を裂いた時、無数の要塞砲が中衛へと頭を向けた。
　逡巡を払い、計都は跳ぶ。遊撃班にいた、黒髪の青年の前に。
「……ッ！」
「俺が受ける！　闘いを、続けるんだ！」
　血に塗れた彼の装甲を、弾頭が砕き抉る。
　計都は雄叫びを上げてそれを押さえ込み……爆発に、吹き飛ばされた。
　その瞳に、タラスクへ打ち掛かっていく青年の背を映しながら……。

　支援班の癒しが次々と飛び交う。瞬く間に追いつかなくなる中で。
　激しい戦闘の最中、転げ落ちるように身を翻して、泉は血を拭った。
「敵が動きます……引きつけるのは、私たちの役割ですよ。ねえ？」
「回復が間に合ってねえ……次をこっちに引きつければ、攻め手は残らんぜ」
　梓は息を切らしながら、竜に突き刺さった刀を抜くべく、力を籠めている。
「ええ。ですから……後をよろしく頼みます」
　微笑んだ泉を、梓はハッと振り返って。
「おめぇ、まさか……待てっ！」
「皆さん、不知火さんを護ってください！　私に援護は無用！　攻撃に備えて！」
　刀を引き抜いて続こうとする梓を、双吉が押し倒すように抱え込む。
「落ち着きな！　俺たちが徳を積むのは、もっと後だ！　眼鏡投影。シアター、セットッ！」
　揉み合う二人が遠ざかる中、泉は隣を走る影に気付く。ニケ・セン。遊撃班から前衛に加わった、唯一の男に。
「……付き合うよ」
「心強いです。よろしく」
　笑みを交わし、二人は渾身の一撃をタラスクの身に叩き込んだ。その二撃は装甲を貫き、鮮血が跳ね飛ぶ。
　瞬間、竜は咆哮と共に、巨大な尾を振り落とした。
　攻撃を引きつけた泉とニケはその一撃の下へ沈み、守りに入った前衛は傷つきながらも爆風を掻い潜る。
　時計は、十分目を刻もうとしていた。

　タラスクは、身を傾かせて天を仰ぐ。
『皆、何をしているのです。誰も来ないというのですか……！』
　滲むは、焦り。このまま慎重策を取れば、やがて追い込まれるのは……。
「他の場所で仲間が闘っているのは、貴女だけではない。あなたを打ち倒し、その働きに応えます！」
　気を吐いて奮い立つのは、傷塗れのフィルトリア。
『なるほど……』
　だが相手もまた、並の竜ではない。損傷個所をパージしながら、竜母は吠える。
『いいでしょう。ならば闘う同胞たちの想いは、私が一人で成就させてみせる……！』
　爆発にも似た衝撃と共に、竜は隠されていた腕を解き放った。無数の要塞砲を纏った重腕が、爆音と共に床を貫く。
「形態を変えた……！　本気で来る！」
　晟が叫ぶ中、その爪は火花を散らして床を抉り進んでいく。その狙いは、遊撃班だ。
「近接班！　今こそ全力で護りに入れ！　敵はここから、身を捨てて攻める肚だ！」
　爪は中衛で果敢な抵抗を続けるオラトリオ……大弓・言葉に迫る。指示を飛ばしながら晟は駆け抜け、その身と翼で言葉に覆いかぶさった。
「！」
「皆……護り通せ！」
　その叫びを最後に、晟は巨大な爪に引き裂かれ、瓦礫へと呑まれて消えた。
「ぶーちゃん、憐くん……晟くんっ！」
　言葉の叫びだけが、悲痛に響く中で……。

　時計は十二分。
　護りを捨てた竜は、腕を振り回して全てを蹴散らす。
　その背で、血と闘いに酔う二人が、刃を振り上げていた。
　ゲハゲハと笑いながら、血に塗れた腕を引き抜くのは、双吉。
「すげえ光景だぜ！　なんて威力だ、全く！　もう、被害は前衛のみに収まらねえや」
　眼下では、地面が火花を散らしてぶち抜かれている。
　苛立たし気に刀を引き抜き、梓は大きく息をつく。
「チッ……なんだか長く残っちまった」
「貧乏くじだったな。次に徳を積むのは、どうやら俺のようだ」
　機甲音を立てながら、要塞砲が遠方を向き始める。舌打ちして刀を振るう梓を尻目に、双吉は口元ににやけ笑いを浮かべて宙へ跳んだ。
「ウチの支援班を狙うつもりなんだろ？　そうはさせるかよ。こういうのはしんどいけど、だからこそ『徳』ってモンだぜ！」
　その黒翼を大きく広げ、双吉は火線の前へと立ちはだかった。何発もの弾頭がその身を弾き飛ばし、その翼が貫かれて、双吉は爆炎の中へ呑まれて行く。
　だが彼の最後の咆哮は確かに支援班に向かう弾頭の威力を削ぎ、その射線を曲げる。
　血塗れのその体がどこへ堕ちたのか、気付ける者はいなかった。

　癒しが飛ぶ。砲撃が、打撃が、刃が舞う。今、誰が立っているのか。もう定かでない。
　旋風の如く竜を蹴りつけながら、鳳琴がその背から転げ落ちた。
　受け身を取った、その場所で。
「……不知火さん、無事だったんですね！」
「不本意ながらな」
　駆け寄る鳳金が癒しの力を展開するのを、彼は留めて。
「駄目だ。そいつは自分に使いな。この一撃を耐えられるのは、そっちだ。ようやく、俺に見せ場が回ってきたようだぜ」
　鼻で笑って見上げれば、巨大な尾がこちらを狙って持ち上がっていく。息を呑む鳳琴の脇に鞘を投げ捨てて、梓は振り下ろされる尾に向けて跳躍する。
　鳳琴は叫んだ。己に癒しと守護を纏わせながら。
「……私たちは、絶対に諦めません！　約束します！」
「斬り結ぶ、太刀の下こそ、地獄なれ。踏み込みゆかば、後は極楽……ってなぁ」
　渾身の一閃が振り下ろされる尾を切り裂く中、全てを圧し潰す質量が彼を巻き込んで前衛を吹き飛ばす。
「ああぁぁぁっ！」
　鳳金が吹き飛び、近くにいたリリーが瓦礫に打ち据えられる。受け身を取ったその目が捉えたのは、続けざまに腕を持ち上げる巨竜の影。
「まだ来るわ……！　みんな、身を護って！」
『あなた達はよく頑張りました。これでとどめです……！』
　だがその爪の前には、全身の傷を炎で埋め合わせた、血塗れの乙女が立っている。
「ええ……私はこれで、終わりかもしれません」
　フィルトリアは全身を燃え立たせ、拳に火を移して突撃する。
「でも私が倒れても、残して見せます！　あなたの心臓を抉る、誰かを！　必ず！」
　傷だらけの竜と乙女の咆哮が、重なった。
　甲高く大地を裂く轟音が、火花を噴き上げて彼女に迫る。
　炎の拳でその腕を貫きながら、フィルトリアの身は血煙に舞った……。

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　……前線は、崩壊した。
　だが瓦礫に埋もれた中、一つの影が立ち上がる。
「こちら……リリー！　近接班！　誰か、残ってる人は！」
　瓦礫を崩す音が、その呼びかけに反応した。
「どんな……攻撃が来ようと。何度でも……立ち上がって……みせる」
　己を叱咤しつつ、鳳琴はおどろに乱れた髪をかきあげる。
　鉄鋼爪への完全耐性に守られ、残ったのは二人だけ。
　彼女たちが見たのは、砲声が轟く中、爆炎に包まれながら駆け抜ける遊撃班。
「最後の、突撃ね……」
「ええ……もう、護りは必要ありません」
　片脚を引きずりながら、二人は刃と拳を構える。
「……行くわ！　まだ、やれる！」
　そして、二人は駆ける。巨竜への最後の突撃へ。
「これが、封印城バビロンの最後ッ！　私たちは……勝つんだ！」
　血飛沫が波の如く迸り、タラスクは絶叫と共に身を持ち上げる。
　その胸倉に、支援班の総砲撃が激突して。
『馬鹿、な……』
　要塞竜母は火を噴き上げながら、崩れ落ちていく。
　次々と撃ち抜かれ、爆発する心臓部を背に……。

作者：白石小梅	重傷：十夜・泉（地球人のミュージックファイター・e00031） 不知火・梓（酔虎・e00528）  死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2019年1月30日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 8／感動した 0／素敵だった 1／キャラが大事にされていた 0
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