封印城バビロン決戦~鉄の要塞の冷たい番人

作者:質種剰


「リザレクト・ジェネシス追撃戦、お疲れさまでした~」
 小檻・かけら(麺ヘリオライダー・en0031)は、先の戦いについて労ってから、説明を始めた。
「皆さんのおかげで、戦場で討ち漏らした多くのデウスエクスを撃破する事に成功したでありますよ」
 特に城ヶ島のドラゴンとの戦いは熾烈を極め、3竜の撃破こそ成功したものの、ドラゴン達の命を賭した迎撃によって固定型魔空回廊が完成、竜十字島から多数のドラゴンが城ヶ島に向かっているという。
「人口密集地である東京圏に、ドラゴンの拠点がある危険性は言うに及ばず、城ヶ島の奪還作戦について検討を始めておりましたが……複数のヘリオライダーによって恐ろしい予知が判明したのです」
 ドラゴン勢力が、命を捨てでも城ヶ島に執着していた理由。
「それは、日本列島に走る龍脈、フォッサ・マグナだったのであります……!」
 この地図をご覧くださいませ——日本地図を広げるかけら。
「日本列島は、北アメリカプレート、ユーラシアプレート、フィリピン海プレートの3つの境目を有しているであります」
 そして、城ヶ島からプレートの裂け目に沿って北に進むと、そこにあるのは……『封印城バビロン』なのである。
「ドラゴン勢力は、封印城バビロンと城ヶ島を結ぶフォッサ・マグナを暴走させ、関東圏を壊滅させると共に、大量のグラビティ・チェインを獲得、そのグラビティ・チェインで『惑星スパイラスに閉じ込められた』ドラゴンの勢力の救出を行おうとしてるのであります」
 この企みを阻止するには、作戦の起点である『城ヶ島』か『封印城バビロン』のどちらかを破壊する必要がある。
「とは言うものの、城ヶ島には固定型魔空回廊がありまして、竜十字島の全戦力を投入する事も可能な為、竜十字島決戦を覚悟する必要があります」
 即ち、『封印城バビロンの破壊』が唯一の手段となる。
「その中でも、皆さんには、要塞竜母タラスクの心臓部に突入していただきます。よろしくお願いいたします」
 かけらはぺこりと頭を下げた。
「さて、敵の作戦を止めるには、要塞竜母タラスクの心臓部を撃破するしかありません」
 しかし、通常の方法では、心臓部に到達する事は不可能だ。
「その不可能を可能にするには、無尽蔵の『竜牙流星雨』を止めてドラゴン戦車を供給する戦車工廠を破壊し、サルベージした戦力を操る死神を撃破しなければなりません」
 この3つの攻略目標へは、他の精鋭ケルベロスが向かうので、当班は、攻略が始まって心臓部への突入が可能となった時点で、攻撃を開始する事になる。
「タラスクの心臓部には、『機動増殖阻止作戦』第4層から侵入することができます」
 心臓部へ到達すると、要塞竜母タラスクは活動を停止し、心臓部を護る30m級の大型ドラゴンを出現させ、迎撃してくるそうな。
 この心臓部のドラゴンを撃破すれば、要塞竜母タラスクは崩壊し、東京圏を壊滅させようというドラゴンの暴挙も阻止できる。
「心臓部を守るタラスクは、全長30mにも及ぶ、本物の機械要塞そっくりのドラゴンです。城の天辺からは黒い竜の頭部が、背部の城壁からは長い竜の尻尾が生えてるであります」
 30mタラスクは、その遠目には華奢に見える顔に似合わぬ大口を開けて、『要塞級甲竜砲』を口内から撃ってくる。
 炎に包まれた砲弾は頑健性に優れた魔法で、広範囲の敵を一網打尽に焼き尽くすという。
 また、太く長い尻尾『タラスクテイル』を豪快に振り回して近距離の敵を複数体一気に薙ぎ払い、凄まじい破壊力によって文字通り足元を掬ってくるらしい。
「更には、ダメージを受けた機構を敢えて切り離す『損傷設備パージ』で、自らの体力を回復させるであります」
 これらの情報から、通常はどんな戦法をとるかヘリオンの中で話し合うのだが、今回は勝手が違う。
「何分、30mタラスクは巨大でありますから、こちらとしても前衛、中衛、後衛それぞれの距離感が変わって参ります。そこで、互いにフォローしやすいように、この度は班ごとにポジションと戦法を分担する事になりました」
 リーシャ・レヴィアタン(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0068)が送迎する班は、『遊撃班』。ヒットアンドアウェイで耐え凌ぎ、機を見てトドメを狙う役だ。
 望月・小夜(キャリア系のヘリオライダー・en0133)が送迎する班は、『近接班』。タラスクへ肉迫して攻撃に耐えつつとにかく近接戦を行う。
「わたくしの石英へお乗りいただく皆さんは、『支援班』であります」
 タラスクへ遠距離攻撃を放つ傍ら、他班の体力回復も担う後衛である。
 そこまで説明を終えると、かけらは彼女なりに皆を激励した。
「東京圏の浮沈は、要塞竜母タラスクの撃破に掛かってるであります。多くのケルベロスの方々が封印城バビロンの防御力を削るべく探索してくださり、加えてドラゴンによる援軍の阻止、心臓部を防衛する戦力の迎撃へも乗り出しています。皆さんの努力を無駄にしない為にも、必ず作戦を成功させてくださいね」


参加者
シェミア・アトック(悪夢の刈り手・e00237)
アリス・ティアラハート(ケルベロスの国のアリス・e00426)
氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)
ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)
アデレード・ヴェルンシュタイン(愛と正義の告死天使・e24828)
天城・彼方(ほけんのせんせい・e30555)
草津・翠華(碧眼の継承者・e36712)
宮闇・狩奈(無能を装う凡人・e67722)

■リプレイ


 機動増殖要塞、封印城バビロン。
 要塞竜母タラスク討伐を目指すケルベロス達計24人は、件の心臓部に繋がる第4層へ向かった。
 城内だと忘れそうなほど広大な広間へ入れば、その中心で、炉心の如き輝きを湛えた心臓部が、静かに唸りを上げていた。
「ケルベロス……我に、死をもたらしに参りましたか」
 タラスク本体の声が、広間全体に響き渡る。
「では……終わりにしましょう。長くも短い……この闘いを!」
 心臓部を守るべく現れた30mタラスクが、紅い瞳を光らせて咆哮を上げた。
 同時に、近接班の面々がそれぞれ武器を携えて30mタラスクへと挑みかかっていく。
「巨悪滅殺の千載一遇のチャンス! 人々の安寧を取り戻すためこの戦いは負けられぬのぅ」
 遠目でもその威容が充分感じられる強敵を見据えて、アデレード・ヴェルンシュタイン(愛と正義の告死天使・e24828)は気合を入れた。
 右眼の蒼い地獄やツーサイドアップの白い髪、紋章のように繊細な光の翼が印象的なヴァルキュリアの少女。
 胸の大きなリボンがアクセントになったセーラーワンピースもよく似合う、戦うヒロインを気取った中二病の告死天使である。
「ここにおるのはチキュウを守る精鋭にして我が正義の同胞達! それが力を合わせれば如何なる巨悪といえど倒せぬ通り無し!」
 アデレードは、近接班と遊撃班の陣形が整ったのを見計らって、タラスクに聞こえよと大音声を張り上げる。
「今こそ我らが力を発揮するときじゃ! わらわも全力で支援するぞ!」
 そしてまずはレプリカント疑惑色濃い地球人含めた近接班へ向かって、オウガメタルから白銀に煌めく粒子を放出。
 30mタラスクへより多くのグラビティを命中させられるようにと、彼らの超感覚を覚醒した。
「ここでドラゴンの目論見は殲滅する!」
 次いで、ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)がカアス・シャアガを砲撃形態へと変形させる。
 白いアームドフォートや耐寒装備で統一した装いが、生来のクールな雰囲気を際立たせている鎧装騎兵の女性。
 また、ダモクレス時代の同胞達との因縁も浅からず、数多くの敵を持つレプリカントでもあるティーシャ。
「こっちが倒れるまでにできる限り当ててみせる! いけーっ!」
 30mタラスクの強さを決して侮らず、緒戦は足止め付与を何より優先すべく、竜砲弾をぶっ放した。
 続いて。
「はぁ、起こる事の規模が大き過ぎじゃない、これ……」
 氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)は、心臓部を守るタラスクの巨体を目の当たりにして、深い溜め息をつかずにはいられない。
 長く豊かに伸びた黒髪とつぶらな灰色の瞳が大人しそうな、清楚さとクールさを併せ持った少女。
 高校を卒業した後は大学へ進学、そのパソコン好きな趣味を活かしてか、情報工学を勉強しているそうな。
「この間大きなダモクレスと戦ったばっかりだけど、ドラゴンは大きさ以上のものがあるわね……」
 かぐらはアンドロケートスやアトラースと同じかそれ以上の威圧感をタラスクから感じつつ、ドラゴニックハンマーを振り抜いて轟竜砲をぶちかました。
 一方。
「心臓なのにこの大きさか……」
 30mタラスクの護っている心臓部を遠くに仰ぎ見て、シェミア・アトック(悪夢の刈り手・e00237)。
 白い髪と意思の強そうな紫の瞳が上品かつ控えめな雰囲気だ。
 本人もそれを意識してか普段は大人しく振る舞うも、その実言いたい事ははっきり言う性格で、戦闘中ともなれば秘めていた本性が顔を覗かせるとか。
「まずは挨拶……針鼠になるといいよ……!」
 早速シェミアは広げた翼をタラスクへ向けると、グラビティ・チェイン製の黒い羽根を無数に連射。
 タラスクを覆う城壁へ次々と突き刺し、奴をその場に縫い止めんと奮闘した。
「ドラゴンさん達の日本切断計画なんて……」
 アリス・ティアラハート(ケルベロスの国のアリス・e00426)は、東京圏を壊滅させんとするドラゴン勢力の非道な決断に、しばらく言葉を失っていた。
 見た目に違わず純真で優しい心根と芯の強さを持ったお姫様系オラトリオ。
「そんな計画阻止する為にも、必ずタラスクさんを倒さなきゃです……!」
 懸命に自らを奮い立たせて、クロスハート・リボンブレスを掲げるアリス。
 失われた愛しい想いを切なく歌い上げてはケルベロスの世界を愛する心へ訴えかけ、黒目黒髪のミュージックファイターら近接班8人の集中力を高めた。
 30mタラスクは防衛機構としての役割を果たすべく、要塞級甲竜砲を景気良く乱射、近接班の布陣を火の海に変えた。
「タラスクのせいで休日潰れた腹いせとは言え、勢いで参加するんじゃなかった……」
 30mタラスクの攻撃——の威力の高さを目の当たりにして、しみじみと後悔せずにいられないのは草津・翠華(碧眼の継承者・e36712)。
「だって……冷静に考えて難易度高すぎない?」
 助手として働く闇医者からは怖いもの知らずな言動を窘められる事もある廃墟マニアの女性。
 ケルベロス活動は完全な給金目当てだそうだが、今回に限ってはタラスクへ休日を潰されたという個人的な恨みがあるそうな。
 嫌いな言葉は正義と愛という、ある意味潔い生き方ながら危険な雰囲気の拭えない鎧装騎兵である。
「今から私だけ引き返しては……ダメよね……ハハハ……ハ」
 翠華は乾いた笑いを洩らしながらも、小型治療無人機の群れを統率。
 悪人面の零式忍者ら近接班の火傷の手当てを任せると同時に、彼らの警護を徹底させた。
「いよいよタラスクとの決戦……うぅ、大丈夫ですよね。私、場違いじゃないですよね」
 天城・彼方(ほけんのせんせい・e30555)は、エオスポロスイッチをいつでも押せるように構えているものの、その手はガタガタと震えていた。
 焦げ茶の髪に咲いた馬酔木の花が可愛い、オラトリオの女性。
 身の丈に合わぬトラブルへ首を突っ込む向こう見ずな性格と子どもっぽい容姿がコンプレックスらしい。
「……いいえ、場違いでもなんでも、ここに至る為にたくさんの人が戦って、道を拓いてくれたんです」
 現に今この時も、多くのチームが竜影海流群をこちらへ来させまいと食い止めてくれている。
「それを無駄にしない為にも、頑張らないと」
 彼方は懸命に自らへ言い聞かせて、戦いへの恐怖心を乗り越えんとスイッチを押す。
 蒼いドラゴニアンらの背後から色とりどりの爆発が起こり、爆風を背にした彼らの士気を高めるのみならず、彼方自身へも微かな勇気を与えてくれた。
「ここへ来るまでに皆さん、できる限りの相談と擦り合わせをしてくれました……」
 抑揚のない声でぽつりぽつりと仲間を励ますのは、宮闇・狩奈(無能を装う凡人・e67722)。
 無造作に伸ばした焦げ茶の長髪と感情の見えない茶色い眼、線の細い面から華奢な印象を受けるウェアライダーの青年。
 人から話しかけられない限りは喋らない寡黙な性格だが、別段人と話す事が嫌いなわけではないそうな。
「あとはお互い、やるべきことを頑張りましょう」
 狩奈はグラビティ・ダイスを振って、そこから光輝く粒子を放出。
 黒髪の降魔拳士含めた遊撃班へ光の霧を浴びせかけて、彼らの精神を研ぎ澄ませた。


「この戦いに勝って正義をなすぞえー」
 近接班が着実にタラスクへグラビティを命中させているのを見て、使うヒールグラビティを吟味するのはアデレード。
 次はケルベロスチェインを遊撃班へ向かって投げつけるや、それを念動力で展開し、彼らを護る魔法陣を描いた。
「目標確認、殲滅する!」
 ティーシャはバスターライフルMark9の照準をしかと定めて、長距離射撃を見舞う。
 凍てつく光の帯がタラスクの背に吸い込まれるかの如く疾って、奴の体温を一気に奪った。
「さて、まだまだいってみましょうー!」
 なんとなく安全祈願守をぎゅぅっと握り締めて、精神を集中させるのはかぐら。
 ズドンッ!
 その集中力が限界を超えた時、30mタラスクを覆う機械要塞の一部が爆発、砲塔数本へ致命的な損傷を齎した。
「逆鱗に触れし者に相応しき獄を見せつけよ……!」
 シェミアは額の前に翳した両の掌から『ドラゴンの幻影』を放つ。
 炎の竜が宙空を滑るように舞ってタラスクへ突撃、要塞を少しでも焼き捨てるべく燃え盛った。
「お願い……白い薔薇さん達……女王様に染められる前に、みんなを癒して…………」
 髪に白い薔薇『ロイヤル・プリンセス』を咲かせて、同種の薔薇が咲き乱れる『女王の庭園』を召喚するのはアリス。
 女王の命により紅く染められる前の白い薔薇の庭園が、アリスの慈愛の祈りと相まってお腹の出たおっさん達の異常耐性を高めた。
「闘気錬成」
 翠華は闘気を練った盾を錬成。
 浮遊する半透明の丸盾を近接班へと差し向け、金髪パラディオンの怪我を治療した。
「私は大丈夫です。ペインキラーもあります。この戦闘が終わるまでくらい、耐えてみせますから……」
 防具で抑えている火傷の痛みに負けじと、フェアリーブーツで戦場を美しく舞い踊るのは彼方。
 花びらのオーラを広範囲に振り撒いて、遊撃班を癒した。
「私の分まで頑張ってください」
 狩奈は生命力を喰らう地獄の炎へ己が体力を吸わせることで、癒しの炎を生み出す。
 地獄の炎とは思えぬぐらい穏やかで温かいその炎を、ダメージが蓄積している橙の髪のオラトリオへ向かって投げつけた。
 戦闘開始から8分。
「我が仔ら、我が同胞、我が盟友……」
 既に一度は装甲もとい要塞の一部をパージして体力を回復させていたタラスクだが。
 ガシャン!
「いずれ来たる全軍を以て、あなた達を踏み潰す」
 その1分後にはまたも損傷した要塞の一部を脱ぎ捨てた為に、
「二連続でパージって……慎重にもほどがあるでしょ! 打ち込んだ呪縛が消えるわ!」
 近接班の金髪パラディオンを愕然とさせ、
「連続詠唱?!」
「どれだけ慎重なのよ!!」
 遊撃班の面々をも驚かせた。


 そして2分が過ぎた。
 30mタラスクは、4度のパージを行うと共に、今まで隠していた手足を露出させた。
 恐らく、今までは時間を稼いで増援を待っていたがいつまで経っても現れない為に、自ら本気を出して侵入者を殲滅しようと攻勢に転じたのだろう。
「我が正義の同胞達よ! まだまだ諦めてはならぬぞえ!」
 と、ジャンクアームが印象的な青年含めた7人へ向かってメタリックバーストを浴びせながら、発破をかけるのはアデレード。
 30mタラスクの圧倒的な攻撃力を前に、痩身のシャドウエルフの青年がやられてしまった中、アデレードの鼓舞は彼らに回復した以上の力を与えたことだろう。
「切り裂け!! デウスエクリプス!!」
 某眼鏡信者のジャイロフラフープを自身のアームドフォートに換装するのはティーシャ。
 そのままタラスク目掛けてぶん投げ、パージによって露わになった奴の表皮を深々と斬り裂いた。
「みなさん……がんばって……私達も……力の限り援護いたします……!」
 アリスも近接班へ届けと声を張り上げながら、【Eat Me!】リングを構える。
 札から浮遊する光の盾を具現化し、近接班の栗色の髪の少女を防護させた。
 戦闘開始から14分。
 すっかり機械要塞を脱ぎ捨てて本気を出したタラスクは、支援班へ向かって炎の砲弾をばら撒いてきた。
「熱つつつ……あ、ここは私が鎮火するから任せてね」
 翠華はヒールドローンを器用に操って、7人の大火傷の治療に努める。残念ながら狩奈は気を失っていた。
「後少しです!! 皆さん、頑張りましょう!!」
 彼方も近接班の降魔拳士の黒髪少女へショック打撃と魔術切開を施し、彼女の体力を大幅に回復させた。
 戦闘開始から16分が経った。
 一丸となって戦う3班だが、本気を出した30mタラスクの強さは、まるで手がつけられないように思えた。
 鋭い鉄鋼爪で遊撃班が薙ぎ払われ、ついに刀剣士の少年が意識を失う。
 もう自分達の最大火力に賭けるより他ない。オラトリオの女性が釘を生やしたエクスカリバールでタラスクの頭へフルスイングを見舞う。
 青髪の妖剣士も遅れをとるまいと、想いを乗せた蒼く輝く光刃を振り抜く。
 赤茶の瞳の螺旋忍者は、唸りをあげるチェーンソー剣でタラスクへ斬りかかる。
 爆破スイッチを押してタラスクの身体に貼りついた『見えない爆弾』を起爆させるのは、ジャンクアームの青年だ。
 線が細い茶髪の少年も最後の力を振り絞って跳躍、流星の尾を引く飛び蹴りをかました。
 だが、それでもタラスクは倒れない。
 近接班は、黒髪の降魔拳士の少女と金髪のパラディオンの少女を残して、ほぼ壊滅状態。
 とてもではないがこれ以上の戦線維持は無理か、もう駄目かもしれない、殺傷ダメージの蓄積も大きく、次に一撃を喰らったら倒れるのが目に見えている。
 諦めの空気が戦場を支配した、その時。
「タラスクだってもう限界の筈よ!」
 思わずドラゴニックハンマーを振りかぶって、かぐらが叫ぶ。
 砲撃形態になって開いた竜の口から竜砲弾を撃ち出し、30mタラスクへ決して少なくないダメージを与えた。
「うん……ここは、任せて」
 と、蒼き炎獄の裁首を全力投擲するのはシェミア。
「何者にも邪魔はさせない……要塞諸共朽ち果てろ……!」
 鎌の刃は高速で回転しながらタラスクの首筋を容赦なく斬り刻み、シェミアの手元へと戻ってくる。
「馬鹿な……」
 細長い口を顔いっぱいにして断末魔の叫びをあげる30mタラスク。
 ズシーー……ン!
 パージによって切り捨てた要塞の上に倒れ臥し、もう二度と起き上がる事はなかった。
「やった……!」
 興奮して頬を染めたかぐらがはしゃぐ。
「もう、援軍の心配はないでしょうか?」
 彼方はきょろきょろと辺りを見回して首を傾げた。
「じゃない? 援軍が1体もこっちへ来なかったから、気を取られずに集中できたわ」
 翠華も幾分ホッとした様子でそんな事を言った。
 実際、3班の力だけでタラスクを撃破したというには余りに損耗が大きく、いかにタラスクが強敵だったかよく判る。
 それでも勝てたのは、他作戦全ての成功と援軍の竜影海流群を阻止した多くの仲間達のお陰である。
 これぞ、ケルベロス全員の力で掴み取った完全勝利といえよう。
「後は心臓部の破壊だけか」
 冷静にバスターライフルMark9を構えて、明滅する炉心へ近づくのはティーシャ。
「心臓が喧しい……時ごと止まれ……!」
 シェミアは『物質の時間を凍結する弾丸』を素早く精製し、心臓部目掛けて射撃した。
「行きます……!」
「そうれっ!」
 アリスも時空凍結弾を心臓部へ撃ち込み、翠華がファナティックレインボウで更なる追い討ちをかける。
 すると、炉心の眩いばかりの光源がふっと消えて、3班のいる大広間そのものがガタガタと揺れ始めた。
 要塞竜母タラスクの崩壊まで、後数分。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年1月30日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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